複雑・ファジー小説

私の兄は悪と戦うヒーローです。
日時: 2017/04/21 07:22
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 私の兄は悪と戦うヒーローです。兄は私にそれを隠しているのかもしれませんが、バレバレです。バレています。
 できれば、お願いだから私をその戦いに巻き込まないでください。

 初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久し振りです。この間長年かいていた能力少女が終わってしまったので、小説家になろう様で書いているやつをこっちに引っ張ってこようと思います。
 基本ギャグを目指して書いているので軽い気持ちで読んでください!

※注意※
この物語はグロシーンがよく出てきます。そういうのが苦手な方は注意してお読みください。
ちなみに一番最初のグロシーン到来は>>05です。

読んでも読まなくてもさして物語に支障がないプロローグ >>01

混沌篇  >>02 >>03 >>04 >>05 >>06

吸血鬼篇 >>07 >>08 >>09>>10

Page:1



Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.1 )
日時: 2017/04/05 02:35
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 私の兄は世界を救うヒーローだ。

 あの、漫画やアニメなんかで見る感じのやつ。無敵かどうかは知らないけれど、悪と戦うヒーローだ。で、私はその妹だ。ただの、人間だ。

 ちなみに兄の行いは、正体は気付いているけれど、気付いていない事にしている。気付いていないフリをしている。
 なぜって、それは巻き込まれたくないから。戦いに。いや、もう巻き込まれているのかもしれないけれど、巻き込んでいるのかもしれないけれど、知らないフリをしている。
 一応、それが、たぶん一番私の身を守るための安全な策だと思うから。

 まあ、こんな齢十六の高校一年生がそう言ったって、思ったって、間違っていることは沢山あるのだろうけれど、誰にもこんなこと言えはしないし、言わないし、私が間違いに気づかない限り、答えが解らない限り、この事は変わったりしない。捻れたりしない。
 まぁ、これがこの物語の、ヒーローの妹の、ただの妹の、人間の基盤となる点だ。

 と言っても深く考えなくてもこの物語は続いていくんだろうけれど、永遠に語り継がれていくのだろうけれど、そのうちなくなる。消滅する。何事にも永遠はない。
 言っていることは矛盾しているのだが、矛盾は生きていくうえで付き物だ。憑き物だ。ん? よくわからないな。まあ、そんな感じだ。……どんな感じだ?
 まあ、何事にも深追いはしてはいけないし、取り返しもつかないし、ここら辺でこの考え事は止めにしておこう。

 少しごちゃごちゃしてしまった。これから語り手なのに大丈夫かな私。
 まぁ、覚えてもらいたいのはこの物語に、これからの行いに矛盾はよく起きる。だから、混乱しないようにしてもらいたい。
 お願いだよ?

 では、私もこれから何が起こるかわからない物語に、予測不可能な物語に、一緒に旅立つとしましょうか。
 よろしくお願い致します。


 あ、それから勝手にこの物語のヒーローだと思ってるお兄ちゃんへ、お願いだから私を戦いに巻き込まないでください。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.2 )
日時: 2017/04/05 02:37
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

「ただいま」

 私はかったるい学校から家の前まで帰還した。
 そして微妙に細工が施されて妙に重くなった玄関の扉を開け、家に入り、靴を脱ぐ。

 私はこれから何をしようかと考えながら居間に入ると同時に、ある聞きなれた男の声が耳に入ってきた。

「おお! 帰ったか我が妹、凛和(りんか)よ!!」

 その男は仁王立ちで、なんかすごい楽しいことがあったようで、とても幸せそうなオーラを漂わせていた。暑苦しい。芸能人に確かこんな人いた気がする。誰だっけ?

 そんな暑苦しい人物に私はすました顔で言葉を返す。

「ただいま、お兄ちゃん。今日はいつもよりやけにテンションが高いじゃん、どうしたの? なにか良いことでもあったの?」

 私の名は、弥生(やよい) 凛和という。因みにそのテンションの高い人物、つまり私の兄の名は弥生 閏(じゅん)だ。

 私の場合、兄を呼ぶときにふさわしい漢字とか言い方は、お兄ちゃんではなく、お義兄ちゃんだ。

 でも最初会った時そう呼んだら怒られた。イントネーションはそんなに変わらないはずなのに、なぜか気づかれて拳骨付きで怒られた。結構な痛さだったよな。容赦なかった。そしてその瞬間、私にトラウマが刻まれたのでお兄ちゃんと呼んでいる。

 兄の外見は、よく見ると平行四辺形の黒い目、襟足まであるちょっとくせの入った黒い髪の毛で、その髪の毛には少しムカつく程度に光沢がある。

 この前、それについて聞いてみたら『よくわかんないな。あ、そういえば凛和! このまえ話していた家で俺の体に宿している竜はどうやったら姿を現わすかなんだが! わかったぞ!!』と綺麗にというか無理やり話題を捻じ曲げられた。そらされた。
 だからいつか必ず聞いてやろうと思っている。

 でもお兄ちゃんは顔だけは、顔だけは綺麗な顔立ちで、体もシックスパックぐらいはある細マッチョさんだ。でも、彼は残念なのだ。頭が、というか頭の中が。

「ふっ! よく聞いてくれたな、凛和よ!」

 あ、やばい、これは長くなるパターンだ。お兄ちゃんは踊るようにオーバーリアクションで話を始めた。

「そんなに俺のことが気になるとはやはり義理でも我が妹! お兄ちゃんのことがそんなに好きなのか! 解るのか! これはなんと嬉しいことなんだ!! 凛和と暮らし始めて十一年! これほどの時を得ればやはり運命共同体になるのだな!
 言葉を交わさずとも! 俺の思っていることをわかってしまう! わかられてしまう!
 やはり凛和と兄妹として十一年間喧嘩したり、悪戯したりし返したり、一緒に風呂入ったり、借りパクしたり返したり、食べ物を半分こしたりいろいろしたから解るのだな!
 そうなのだな! だがしかーし!!
 俺は……俺は!! 凛和の思っていることは何でもはわからないぞ!! はっ! ではこれは運命共同体ではないではないか!! 一方的に解られている! と言うことは、これは、好かれている!!? 俺は凛和に好かれているのか!! これは兄としてなんと嬉しいこと!!
 と言うか、俺と凛和は戸籍上は兄妹だが、血は繋がっていない。ということは俺と凛和の戸籍という名の鎖を解き放ってしまえば、次は兄妹という名の家族ではなく夫婦という名の家族になってしまうということなのか!! なれるということなのか!? どうする! 凛和!! やるか!」

 うわ、私に話し振ってきやがったマジかよ、そして長いよ、うざったいよ、火傷したくないよ。

 そして私はドライアイス並みに冷たい言葉の矢をお兄ちゃんに投げる。

「いや、知らないしそんなこともしないし、お兄ちゃんのことは好きだけどそんなことはしないし、そんなドロドロなことしようとも思ってないし、それに勘違いしているようだけれど、お兄ちゃんは思っていることや感じていることほとんどすべてが身体中からだだ漏れしてるから解るだけだからね」

「なんだと!? だとすると俺がお前に知られていないと思っていることも、もしかしたら知られているかもしれないということか!?」

 お兄ちゃんはいきなり体を私のほうにズイッと近づけてくる。

「うわっ」

 お兄ちゃんはさっき言ったように、確かに感情は読みやすい。体から溢れ出ている。漏れ出している。しかし、体の動きはそうではない。全くと言っていいほどわからない。理解不能だ。

 だからいきなりこう今のように、身体を近づけたりするので困る。そして驚く。いくらやられてもこのお兄ちゃんの反応は慣れない。
 
 私は両手をお兄ちゃんに手のひらを見せる形で顔の前にやる。ストップという意味合いだ。

「お兄ちゃん、近い……」
「どうなんだ」

 しかし彼は、お構いなしで体を近づけてくる。どれだけ知りたいんだよ。
 そして私は両手を耳の横に掲げた。降参という意味合いだ。

「わかったよ。言えばいいんでしょ。わかったわかった、そこまで言うなら教えてあげる。……お兄ちゃんの部屋に入ってすぐ右のクローゼットを開けて右上の二階にある隠し部屋につながる通路の左側の隙間」

「な!?」

 お兄ちゃんはよろよろと後ろに下がっていく。そしてフローリングとカーペットの僅かな段差に躓き、後ろ向きに転んで最終的にガラステーブルに頭をぶつけた。
 一応ガラスは割れながったので流血は無しだ。

 私はニヤニヤしながら言葉を続ける。腕を組みながら。ここで立場逆転だ。勝ったも同然だ。

「にしてもお兄ちゃん凄いせーへきしているねー。でもあれどこで買ったの? 全部初版だったけど。あ、まさかリサイクルショップ? 近くにあるもんね、結構品揃え凄いし。だけどあれ、葱楽(ねぎもと)さんに見せたらどんな反応するかな」

 葱楽さんとはお兄ちゃんの親友でよく家に来る、とても綺麗な女の人だ。あくまでも兄の親友だそうで、それ以上でもそれ以下でもないと両者に言われてしまった。

「それだけは! それだけはやめてくれ!」

 頭を打った激痛で蹲っていた兄ちゃんはカバっと起きて悲痛の叫びのような声をあげた。さっきの私の一言はとても影響力あるものだったらしい。いや、分かってるから言ったんだが。

 私は彼を上から目線で睨む。

「なんか私に言うことは」

「さっき答えなかったこと、真面目に答えますのでこの事は他の人間には言わないでください」

 土下座だった。お兄ちゃんは迷わず土下座をした。綺麗だった。妹としてすぐ土下座する兄を見て少し悲しくなった。いうかどれだけ言われたくないんだよ。

「いいよ」

「あざあああああああああああああああああああああああああああああっす!!」

 また土下座した。うん、なんで彼の土下座はこんなに綺麗なんだろう。なんかやりなれてる感が出てるのが否めない。


 まあ、これが私のお兄ちゃんだ。少し頭がおかしいけれど、義理でも私のお兄ちゃんだ。でも、私は他にもお兄ちゃんの秘密は知っている。それは――

「いやー。にしても良かった。凛和の知ってる俺の秘密が俺が悪と戦うヒー」
「チェストー!」
「あっ」

 葱楽さんが綺麗な背中まである焦げ茶色の髪を揺らしながら、見事なドロップキックを兄にきめ、見事な着地をきめた。

「ヤッホー! 凛和ちゃん! 久しぶりだね。元気ー?」
「え、あ、はい! 元気です」

 突然私に話しかけてきたのでビックリしてしまった。彼女にしてはまだ全然ましな登場のしかたなのに。

 因みに蹴られたお兄ちゃんは伸びている。少し血を吐いている気がするが私は動じない。気のせいだと思って見なかったことにしたためだ。

 まぁ、こんな感じでお兄ちゃんの正体は普通に解る。バカじゃない限りもうここで解っただろう。私のお兄ちゃんは悪と戦うヒーローだ。
 葱楽さんもその仲間。

 というかもうここが、私の住んでいる家がそのヒーローの秘密基地だ。作戦会議とかよく自分の部屋にいて聞こえてくる。

 だから、私がお兄ちゃん達の正体に気づいていないわけがないのだった。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.3 )
日時: 2017/04/06 09:08
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

「ならよかった」

 葱楽さんは安心したように笑う。

「あ、そうだ。葱楽さん何か飲みます?」

「え、いいよ、お構いなく。あと名前呼びでいいよ。煉璃(れんり)って」

 彼女は照れるように頭を掻く。前から薄々気づいていたのだが、彼女はたぶん私に名字でさん付けされるのは照れ臭いみたいだ。なんだかかわいい。

 美人で中身かわいいとか最強だ。うらやましい。

「あ、じゃあ、あの」

 私が頑張って名前呼びをしようとしたその時、なぜか葱楽さんはいい顔で私に近づいてきた。
 そして私を壁際まで連れていって壁を使って覆いかぶさるように、逃げ場がないようにされた。
 それをやりとげると、嬉しそうに顔を私の耳元に近づけた。
 葱楽さんの口元が私の耳すれすれだ。いや、何がしたい。

「なんですか?」

「いや、一度やってみたかっただけだよ。凛和ちゃん小さいからやっぱかわいいね、小動物見たい。ワンピース型の制服もとっても似合ってるよ」

 吐息が耳元に伝わる。くすぐったい。いや、なにがしたい。

 しかし一応私は礼儀というものを知っている。誉められたからには礼を言わねば。

「あ、どうも。ありがとうございます」

 私の学校の制服はワンピース型だ。裾上げ防止策らしい。因みにスカートの下部には微妙に柄が入っているので、スカートを切って短くするという方法も取れないという素晴らしい鬼畜な二段階構造になっている。
 まあ、物は選べてブラウス型もあるのだけれど、私はあえてこちら側を選んだ。着たり脱いだりするのが楽という理由で。

 そして私は認めたくないが、背が少し小さい。百四十センチだ。いつかまた成長期が来てくれると信じている。こい、私の成長期。あと、ついでにいうと葱楽さんは女子にしては大きいほうで百七十五センチだ。

 身長分けてほしい。切実に。

「でも、小さいのは余計です」

「えー。いいじゃん。茶色いポニテの髪も合わさって素晴らしいと思うよ。まだロリいけるよ。合法ロリという素晴らしいジャンルに入れるよ? なんなら私がゴスロリ買ってきてあげるよ」

 あ、やばい。葱楽さんのスイッチが入ってしまう。話題を変えなければ。
 なぜなら葱楽さんは極度の小さい子好きで、ロリコンで、勿論ショタも大歓迎らしい人だ。
 さっきお兄ちゃんがやめろと言っていたのはそれ関係の本だったからで、知られたらすべて盗んでいかれるのはもう軽く予想ができるほどの人なのだ。だからあの人はあんなにも嫌がったのである。

「あ、そうだ。話は戻りますけど、今何か飲み物飲むのなら昨日私が作ったレアチーズケーキがついてきますよ」

「飲みます! 食べます! いただきます!」

 素晴らしい三連コンボ。

「わかりました。えっと、煉璃さん。では、その体をどけていただけませんか」
「!! 私の名前どさくさに紛れて呼んでくれた! やった! かわいいかわいいかわいいかわいい!! もっと呼んでいいんだよ? それにこんなにいま近いんだから、吐息混じりで、上目遣いで、ギュッって私の体に手を廻したりして、なんなら耳を甘噛したっていいんだよ? あっ想像しただけでもこれはご飯何杯でもいける感じですごくいい……」

 彼女の方が吐息混じりなんだが。ハアハアうるさいんだが、というか息が耳にあたってくすぐったくて終わりそうなんだが。

 うわ、煉璃さんの顔が怖いよ。火照ってるよ。どんな妄想してんの。いや、どんな妄想しているのかは手に取るように解っちゃうんだけれど、というか誰か助けて。

「いや、やりませんよ、それより退いてくださいよ。ちょっと本当に嫌です。やりたくないです。耳を甘噛なんてやったら私が私じゃなくなるような気がします」

「え、そんなことないよ。大丈夫、すぐ終わるから、なんもないから」

 なんかどっかで聞いたことあるような台詞だ。

 私はとても嫌そうな顔をしながらぐぐぐと腕で煉璃さんの肩を遠退ける。効果は無いに等しいが。一応やる。抵抗する。

「いやいやいや、ありますから、お願いです。退いてください」

 と、そんなとき、ポンと、煉璃さんの肩に手が置かれた。

「おいおい、そんなことしたら我が妹凛和が、凛和じゃなくなるじゃないか」

 お兄ちゃんだった。

「あ、おはよ。起きるの意外と早かったね。もう少し寝てても良かったのに。あ、なんならもう少し寝る? 落としてあげようか」

 煉璃さんは正直だった。お兄ちゃんの方を向いて澄ました顔でそう言いやがった。

 いや、怖いよ。しかし、お兄ちゃんのおかげで煉璃さん監視下から一瞬省かれた私は、静かにちゃっかりと、拘束から逃れるのであった。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.4 )
日時: 2017/04/07 13:58
名前: 鈴盛プリン

 とにかく私はロリ好きの煉璃さんの魔の手から逃れることに成功した。ありがとう、お兄ちゃん、この恩はたぶん忘れないよ。

 それにしてもあれだ、お兄ちゃんは普通に吐血していた。床に赤い液体が落ちている。少し鉄臭い。これは乾いて床にこべりつく前に拭く必要があるな。

 お兄ちゃんと煉璃さんはただいま言い争いというか、なんだかそろそろロリのどこがいいか論議を始めそうだけど、私は気にしないようにする。

 ことの原因が私だろうがなんだろうが、知らない振りをする。巻き込まれたくない、切実に。
 というか、お兄ちゃん吐血したのに普通に言い争いしているあたり凄いと思う。感心してしまう。あとで濡れたタオルを渡すとしよう。あと、うがいもさせなくては。


 そのあと私はお兄ちゃんが吐いた赤い液体の処理をした。今は二人の為のコーヒーと菓子を用意している。

 私の趣味はお菓子作りとネット巡回だ。それが私の生き甲斐であったりするから、それを邪魔する人はたとえお兄ちゃんであっても容赦はしない。
 実際にこの前お兄ちゃんにある動画サイトで生放送を聞いているとき、邪魔をされたので怒って飛び蹴りと回し蹴りをお見舞いしたことがある。

 そのあともちろん兄を放置し、ネット鑑賞にもどった。

 お兄ちゃんは好きだが、普通にあの人はうざい。

 何か嬉しいことがあったら誰かにそれを伝えないと気が済まないという性格だから、人がなんか集中してパソコンのキーボードを打っていたとしても、くっそ重いお菓子の生地を混ぜたりしていたりしてもお構いなしにあのさっきのテンションで話しかけてくる。あれは非常に迷惑だ。
 まあ、それが、いつも無駄にテンション高いのがあの人のいいところなんだが。長所は考えようには短所になる、そういうことだ。


 ぱっぱっと茶菓子の準備を済ませた私はまだロリについての論議を熱く語っている二人に話しかける。

「煉璃さん、お兄ちゃん、コーヒーとチーズケーキここに置いておくね、好きに食べていいですよ。そしてお兄ちゃんはうがいしてきて。さっきなんだかんだ吐血してたでしょ? だからうがいしてきて、というかして来い」

 それに二人は反応した。光の速さだった。

「おお! 凛和ありがとな、というかいつの間にこんなものを作っていたんだ!? そしてうがいはさっきしたから大丈夫だ!」

「凛和ちゃんありがと、じゃあお言葉に甘えて遠慮なく頂くね」

 煉璃さんは変なスイッチがあ入らなければ普通に優しいお姉さんだ。そう、変なスイッチが入らなければ。……もうあんなことをされないように、これからはもう少し気を付けなければ。

「あれ? 二人分しかない。凛和ちゃん食べないの?」

 私が持ってきた茶菓子の量に気づき、煉璃さんが私に問いかけてきた。それに私は申し訳なさそうに答える。

「ああ、はい。ちょっと睡眠不足でふらふらするので食べないで私は寝ます」

 昨日本気出してチーズケーキ作ってたツケが睡眠というものに回ってしまった。やはり学校の前日にそんなもの好奇心で始めるんじゃなかったな、迂闊だった。

 それに、私は普通に最低五時間は寝ないとダメな体質だと忘れていた。辛い。オールしてもピンピンしている体の持ち主になりたいと切実に思う。願望多すぎだと思うけど、そう思う。

「そっか、じゃあお休み。よく眠ってね」

 私がそう言っても怒らないで優しく私に話しかけてくれるあたり、彼女は本当にいい人だと思う。こういうところは本当に見習たい。

「はい、ありがとうございます。あ、あとコーヒーはいつものところに置いてあって、チーズケーキも冷蔵庫にまだ残りが入っていますので遠慮なさらずにお代わりしていってくださいね」

「おお! マジか! よっしゃ!」

 黙っていたお兄ちゃんが口を開いた。その手に持っている皿は空っぽだ。いや、早いよ食べ終わるの。どっかのガキか。

「いや、お兄ちゃん食べ終わるの早くない?」

「あ、ずるい。この野郎! 私がお前の妹心配して話してた隣で黙々とチーズケーキ食べてやがったな」

 煉璃さんが軽くキレた。いや、まあ、当り前っちゃあ当たり前だけど。
 でも、胸倉つかむのはさすがに短気すぎると思う。うん。

 しかし、お兄ちゃんはあくびれることなくさも同然のように真顔で答える。

「いや、だってうまかったんだよ」
「あー、そうですか、よかったですね」

 反省の色なしだ。煉璃さんの頭に血管が浮き始めている。こんなことは日常茶飯事だが、一応止めに入った。

「まあ、煉璃さん落ち着いて、落ち着いて。あと七切れほど残ってますので、最低一人あと三切れは食べれるようになってますので大丈夫ですから、ね?」
「……解った」

 解ってくれた。意外にもすんなり解ってくれた。少し嬉しい。

「では、私は寝ますので」

「うん、おやすみー」

「おお! いい夢見ろよ!!」

「はい、おやすみなさい」

 そう言って私は小さくお辞儀をし、自分の部屋に繋がる扉のドアノブに手を掛けた。

 私の家はメゾットタイプのマンションだが、一階にほぼすべて私達兄妹二人が生活するための部屋が揃ってしまっているため、二階は普段からあまり使われていない。というか、二階は御母さん達が使っている部屋なので、何があるのかわからないので私達兄妹が迂闊に立ち入れないというのもあり、二階には私の部屋は存在しない。
 私が住んでいるのはそんな家だった。

 私の部屋は日当りのいい部屋で、ベランダに繋がる窓がある。
 あとは猫が描かれているベットだったり謎に存在感があるデスクトップのパソコンがあるぐらいだ。多分私以外が見たらちょっとがらんとしている部屋に見えるかもしれない。そんな部屋だ。

 そして私は自分の部屋に入った後、制服から猫の顔が大体的に描かれているパーカーに着替えベットにダイブする形で入りこみ、眠りについた。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.5 )
日時: 2017/04/09 00:04
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 ――いつも見慣れた家の居間、けれど今は違う、壁が半壊し、窓ガラスが割れている。現在の時刻は午後八時。湿気った生ぬるいすきま風が私の肌を撫でている。気持ち悪い。

 家具はほぼすべてのものが倒れて、壊れている。倒れていないのは、壊れていないのは、居間の隅っこにあるクローゼットだけ。それのみ。
 それに加え──赤く染まる床、机、椅子、壁、見馴れているものが赤黒い液体で一色に染まっている。どこもかしこも赤黒い。

 いつも見慣れている人──親が、いつも優しく話し掛けてくれた声で叫んでいる。悲痛な声をあげている。
 体は真っ赤だ。赤黒い液体で。どうやら赤黒い液体は両親の体から出てきているらしい。

 両親の体は見れるものではなかった。
 母親は右手首と左膝から下がなく、父親は左肘と左太ももから下がなくなっていた。それに加えてなん十ヶ所も刺され、斬られた跡がある。もう服なんて元の色が判らない。全部真っ赤だ。

 そんな私は、部屋の隅にあるクローゼットの中に隠れて、親が無惨にもぐちゃぐちゃに殺されている様子を見ている。
 いつ見つかるか解らないけれど、もしかしたら見つからないでやり過ごせるかもしれないと両親が隠した。たとえ、その確率が一パーセントにも満たなくとも、少しでも生き延びる可能性があるのならと、私をクローゼットの中に隠したのだった。

 そんな隠された私は涙を流し、今にも叫びそうな口を真一文字に硬く結び、足で今にも気が遠くなり倒れてしまいそうな体を支え、カタカタと震える体を両手で押さえている。否、押さえようとしている。こんな状態だ。

 そして私は堪えろ、堪えろ、と私に命じている。
 私が行ってもなんにも役に立たない、というか、一秒で片付けられるだろう。
 だから堪えろ、倒れるな、叫ぶな、暴れるな、自我を保て、――辛い。逃げたい。もういっそのこと死んだほうがマシ。

 ──そんな考えていたのは、当時五歳の私だ。これは五歳の頃、私が体験したもの。そして、これは私が一番見たくない悪夢でもある。そう、夢。とてもとても気持ち悪い夢。昔の記憶から成る、現実から成る、悪夢なのだ。


 私は眠りから目を覚ます。とても胸糞悪い目覚めだ。寝なきゃよかった。
「嫌な夢見た。嫌な予感するな、なんかこれから起こるのかな。よくこの夢見たあと変なことや嫌なこと起こるからな」
 自分を安定させるために声を出してジョークを言う。全く笑えないが。逆に心をえぐっていくが。
 というか、これはジョークなんて呼べないだろう。ただの独り言だ。
 因みにこの夢を見たあと起こった変なことは、嫌なこととは、お兄ちゃんがヒーローやっていることをたまたま知って、そのついでにお兄ちゃんの性癖も知った。その時に少しお兄ちゃんに対してみる目が変わった。
 今は慣れてしまったが、知って間もない頃はお兄ちゃんをゴミを見る目で見ていた。


 さっきの夢はまだ続く。
 最終的なことをいうとそのあと私は見つかった。そして斬られた。
私を、両親を斬った人は女の人だった。女の人は見とれてしまうぐらい綺麗で、なぜかピンク色の腰まである長い髪をしていた。しかし、その髪はとても似合っていた。顔ははっきり覚えている。
 憎悪がするくらいに、なぜ自分はこんなに覚えているんだろうと自分自身に問うぐらいに。まあ、あんな無惨なことをされて覚えていなかったら、それはそれで問題なんだが。

 まあ、そんなことがあったのだ。
 そんなことに私は、私の家族は遭ってしまったのだ。そしてその家族の中で運よく生き残ってしまったのが私だ。私だけが不運にも生き残ってしまった。
 そのあと私はお兄ちゃんの、弥生 閏の家に引き取られる。その時の話はまた後日にするとしよう。
 一言だけ言っておくと、私は初めてこの家族を、弥生家を見たとき、ドン引きした。


 私はベットから降り、鏡の前に立ち、身なりを整える。

「……顔が青白い、水飲むか」

 そんなことを呟きながら私は居間につながる扉に足を向ける。居間に繋がる扉を開くと新たな来客が来ていた。

「あ! おはよう! 凛和ちゃん! お邪魔してるよ。あ、少し顔が青白いよ、大丈夫?」

「おはようです。いらっしゃいです。武藏(むさし)さん」

 武藏さんとは、武藏 都己(とおの)、名前がややこしい人で、やはりお兄ちゃんのヒーロー仲間だ。
 外見はチャラい。金髪で襟足まで延びている。しかしそれが似合っていて、右側に黒色のピン止めでバツ印を作って止めているところを見るとなぜだかかわいく思えてしまう。
 というか、武藏さんはかわいい、顔立ちはどちらかというと鼻筋も通っていて、目もキリッとしているイケメンさんなのだが、明るいムードメーカーな性格もあってか、そう思えてしまうのだった。

「あと、たぶん水分不足だと思うので大丈夫ですよ。水を飲めば治ると思うので」

「そっか、あ、あとチーズケーキ美味しかったよ! ごちそーさま!」

 彼は幸せそうに笑った。こういうのを見ると、お菓子を作ってよかったなと思えて嬉しくなる。

「うん、ご馳走さまでした。美味しかったよ。でもあれ、本当に美味しかったから全部食べちゃったけど、大丈夫?」

 煉璃さんが申し訳なさそうに心配をしてくる。
 煉璃さんたちが座っているソファーの近くに置いてあるガラステーブルを見ると私が作ったチーズケーキを置いといたトレイがきれいに上になにものってない状態でそこにあった。
 そのとなりに、『我らヒーローの作戦ノート』と書いてあるノートが置いてあった。いや、もうちょっと捻くれよ。というか、形に残すなそういうの。

「…………」

 私がことのショックに少し言葉に詰まると、お兄ちゃんが、あ、と言ってそのノートを引っ込めた。

「…………なんでもないぞ。何もなかったぞ」

 澄ました顔を兄は私に向けてくる。
 しかし、目で忘れろと訴えかけてきている。眼力半端ない。私はこれは下手にお兄ちゃんの逆鱗に触れたら大変なことになりそうな予感がしたので、

「…………。う、うん。あ、チーズケーキは全部食べてよかったので大丈夫ですよ。水、飲んできます」

 と煉璃さんにそう告げて台所にそそくさと逃げた。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.6 )
日時: 2017/04/09 10:17
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 やばいやばい。危うく大変なことになることろだった。
 あの人は本当にさっき言ったと通り、行動が読めないから私が昔トラウマを刻まれた時みたく、いきなり拳骨が飛んでくるかもしれない。怖すぎる。

 私はコップにいれた水を飲み、息を整える。そうしたらさっきより体がだるいのが無くなった気がした。よかった。

 でもあの夢は本当に心にくるな。できるのならもう思い出したくもない。しかし、覚えている。

「というか、この目で見て耳で聞いたものってなかなか忘れないんだよな……。なんだろう。体質なのかな? そうだとしたらいいんだか悪いんだかよくわからないものだな」

 まあ、この体質でよかったことは、ろくに勉強しなくても試験とかでいい点数を取れるっていうことだろうか? それぐらいだと思う。うん。あとは趣味で使えるぐらいだと思う。たぶん。
 まあ、それ以外にもあると思うけれど、どうしてもマイナスのものでしか浮かばないから、これ以上考えたくない。
 まあ、思い出したらその時にまた説明すればいいだろう。

 私は決意を決め、居間に戻った。


 居間に戻ると、三人は作戦会議ではなく、仲良く人生ゲームを始めようとしていた。
 どうやら作戦会議は私が寝ている間に終わらせていたらしい。
 人生ゲームのすべての準備が整っている。にしてもこの人たちは仲いいな。たまに子供かと突っ込みたくなることをやってくれることはあるれけど、本当によく一緒に遊んでいる。

 と、そこで私が居間に戻ってきたことに気づいたお兄ちゃんは私に話しかける。

「お! 凛和! これから人生ゲームやるんだが、一緒にどうだ?」

 すっごく嬉しそう。まるで今日の一番のお楽しみが来た子供のように。あれ? というか家に人生ゲームなんてあったっけ? …………。まさか。
「お兄ちゃん」

 私は念の為おそるおそる聞く。

「ん? なんだ妹よ」

「今日私が家に帰って来たとき、すっごく嬉しそうだったのってもしかして新しい人生ゲーム買ったから、煉璃さん達に今日一緒にやろうって言ってオッケーもらったから?」

「ん? そうだが?」

 即答だった。まじかよ、というか本当に小学生の子供かよ!! こんな人が兄とかすっごい悲しくなっていくんだけど!!
 というか、さっき私が頑張って聞こうとしてた努力は何だったんだよ。恥ずかしすぎんだろ。
 それごときでお兄ちゃんの弱み暴露しちゃったとか……。うわ、やっちまったよ。なんかすごい悔しい。もっと違う時に使えばよかった。

「それで」

 お兄ちゃんはワクワクしながら私に問いかける。

「ああ、うん、いいよ、やる」

 私は溜息交じりに頷いた。人生ゲームとかいつぶりだろうか。

「よっしゃー! では始めますよ! 僕、銀行やるんで! すべての金を僕が管理しますんで!!」

 喜々として武藏さんが銀行役に名乗り出る。ああ、子供だ。あれ? でも確か武蔵さんって十八ぐらいじゃ……。

「え?」

 そんな武藏さんのテンションを煉璃さんが一言で威圧を掛け、一気にそのテンションを盛り下げる。私も少しびくっとしてしまったぐらいの威圧だった。さすがすぎる。怖すぎる。

「ああ……。わ、解りました。葱楽さん、どうぞ……」

 見事に煉璃さんにビビった武藏さんはすっと、おもちゃのお札が入ったケースを煉璃さんに渡すのだった。

 と、その時だった。『ビーッビーッビッビッビー!!!!』と、なんとも言えない、聞いてただけで気分が悪くなりそうな音が私たちがいる空間に響いた。この音は、聞いたことがある。この音は──。

「っち、今からだというのに! すこしは空気読めよ。敵さんよ」

 お兄ちゃんがたぶん私に聞こえないように、私には聞こえてしまったが呟いた。
 そう、これはお兄ちゃんたちの敵がこの地に降りた合図だ。そして、問題行動を起こす直前という意味合いもあるらしい。
 以前、偶然居合わせて知ったことだ。

 お兄ちゃんたちは慌ただしく立ち上がる。そして、武藏さんが私の肩をガシッっと掴む。

「わっ」

 いきなりだったので私は少し驚いた。しかし、武藏さんはそれどころじゃないらしく、謝らずに真剣な顔をして、私の目をまっすぐ見てきた。
 普段の武藏さんの顔からは想像できない、油断したら惚れてしまいそうな顔と声だった。

「いい、凛和ちゃん、今から僕たちが家に戻るまで絶対に家から出ちゃだめだよ。絶対に。なにがなんでも。だから、僕たちが帰ってくるとき僕たちはきっと喉が渇いてるから、飲み物を淹れて待ってて。いい?」

 武藏さんは私がしっかりと聞き取れるように、聞き逃さないように一言一句、はっきりと言ってきた。

「え、あ、は……はい」

 私は突然の出来事に少し戸惑っていたので少し曖昧な返事をしてしまった。だから、こう付け足した。

「わかりました。私は珈琲などを淹れておとなしく待っているとします」

 できるだけ相手が安心できるように真面目な顔をして答えた。
 そのおかげもあってなのか、武藏さんはほっとした顔になり、微笑んで、

「それじゃあ、お願いね」

 と言って煉璃さん達が一足先に行った玄関に行き、合流して慌ただしく外に駆けて行った。


 さっきまで慌ただしかった部屋は私一人になり、とても静かな空間になった。電気の音しか聞こえない。

「ふう」

 私は少しさっきの状況で疲れたのでソファーに腰掛ける。
 さて、これから私は何をすべきか。お兄ちゃんたちは、大丈夫だよね?
 ああ、でも大丈夫か。煉璃さん達がいる。煉璃さんはヒーローの組織の中では戦闘と治療がメインの人だ。要するに、救護係。
 武藏さんは、機械と戦闘がメイン。要するに、発明係。さっきの音をならしていたものも武藏さんのお手製だ。どうやって作ったのかは謎だけれど。
 そして私のお兄ちゃんは戦闘メイン。戦闘係だ。この三人でヒーローをやっているらしい。
 これで、私達の日常を守っているらしい。ということは、結構強いのかな? どうなんだろう?

「まあ、私が気にしたって何にもならないからな……。えっと、私はおとなしく珈琲を淹れる準備しようか」

 私はその言葉とともにソファーから立ち上がり、台所に向かった。


 兄たちが帰ってきたら――それが私にとって、本当の地獄の始まりの合図だとも知らずに。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.7 )
日時: 2017/04/10 22:40
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 ここは、魔界。この世には面白い人間界、のほほんとした天界、そして血気盛んな魔界がある。

「…………」

 そんな世界で俺は、自分の家の一室にある少し装飾が施された木でできている椅子にまたがって、後ろの背もたれのところを正面にし、背凭れの上の平坦なところに腕を放り投げるように置きながら黙り混んで考え事をしていた。
 その考え事の主軸にいたのは、ある男の存在だった。
 あの、魔界の連中にも負けず劣らないぐらいにムカつくほどうざくて、たまに目で追いかけてしまうぐらいに綺麗な光沢を放つ黒髪を持っているあのムカつく男。俺だって髪の毛黒いんだよ。かぶってんだよ。
 というか、この世に住んでいる奴なんかほとんど黒髪か。しかし思い出すだけでもムカつく。このやろう。

「なあ」

 俺は俺の後ろで静かに読書をしている、綺麗な女の形をした、薄いピンクと黒のレースが印象的なワンピースを着ていて、少し青色が混じった黒髪を持っている俺の使い魔に話しかける。

「なんでしょうか」

 静かに俺の後ろで読書をしていた使い魔が俺のほうを見る。それを確認した俺は、

「俺とあのジショーヒーローさんの黒髪どっちが綺麗?」

 という率直な疑問をぶつけてみた。が、

「…………は?」

 と、使い魔にお前何言っちゃってんの? と言いたげな顔で俺を見てくる。
 というか、は? という言葉の圧が半端なかった。辛すぎる。使い魔は言葉を続ける。

「それは言っては悪いでしょうが、あのジショーヒーローの方が髪の光沢がきれいだと思います。私でも羨ましいですもんあの髪。どの会社のトリートメント使っているか、聞きたいぐらいです」

 この使い魔本当に素直だなぁ……。主人を目の前にしても自分の思っていることをねじ曲げて主人を誉めるとかしないもんな。感心してしまう。

 俺はため息混じりに頷く。

「そうか」

「はい。でも」

「ん?」

 使い魔はなにか話を続けるみたいだ。

「それだけではないですよね。そんなことだけで、そこで小一時間も難しそうな顔をして考え事をしていたんじゃないでしょうに」

 あ、こいつ、解ってやがる。

 そう、俺はこんなことを最初っから悩んでいたわけではない。
 あのヒーロー達のことを考えていたらそのことが頭の中に浮かんできたしまっただけだ。最初に考えていたことはもっと別の事。

「ああ。なあ」

「なんでしょうか」

 俺は元々考えていたことのもうひとつの主軸にあたるものを使い魔に告げる。それはたった一言で足りた。

「お腹空いた」

 これだけだ。

「なるほど」

 使い魔はふふっと微笑んだ。俺が何を考えていたのか解ったようだ。さすが俺の使い魔。長年俺と一緒にいるだけあってよくわかっている。

「では、行くのですか。人間界に」

 とても楽しそうに彼女は、脇にさっきまで読んでいた本を置き、立ち上がる。

「ああ、行く」

「どんな子を狙うのです? 男? 女? 幼女? 童女? ロリ? ショタ? 中学生? 高校生? 大学生? 妊婦? 社会人? それとも老人?」

 使い魔は喜々として、狩る人間の容姿を聞いてくる。
 それもそうだろう。狩り目的で人間界に行ったのは数十年も前の話だ。
 最近の人間界に行く目的は、主に買い物とか、高い所でわっはーいってやりたいときとか、あるものを見る時だとか、そんなものだ。狩り目的に行くなど、そうそう滅多にない事だった。

 それなのにあのヒーロー達に敵扱いされるのは少し納得いかないが。まあその時はストレス発散で相手になったりするんだが、盛大に相手になってやったりするのだが。ストレス発散で。
 そりゃあ吸血鬼だってストレス発散するさ。
 そう、俺は吸血鬼。年齢は二百十歳。使い魔のほうは百六十歳。
因みに俺と使い魔の年齢は人間でいうと二十一歳と十六歳ぐらいだ。まだまだ若い。若いんだぞ。

「ああ、もう決めてあるんだ、一応。あの野郎に少し嫌がらせをしよう! みたいな感じで決めてある」

「ほう、なるほど」

「あいつには、妹がいるんだよな」

 知っているが一応確認する俺。

「はい。というかいつも私にその子を監視するように言ってるじゃないですか。それで私は行きたくもない日本の高等学校に通学して、同じクラスメイトとして監視しているではありませんか……」

 使い魔が苦しい顔をする。何か学校であったのだろうか。

 でもこいつを作った俺が言うのも何なんだが、こいつが人間に変化するときは少し顔や髪型が変わって今の姿でも綺麗な女の子なのだが、それが人間の姿になると容姿端麗すぎる少女になるのだ。その事で何かあったら嫌だな。
 顔が変わるような仕組みは、一応敵が現れた時にでも人間の姿になっている時と戦っている時の姿が違えば極力面倒くさいことから逃れられるあろうという俺の考えから出た配慮だ。
 この配慮があったことが幸いして安心して監視任務を任せてられるのだが。

「ああ、そうだな。まあ、人間界での学校が辛くなったらいつでもやめていいからな」

「なに、やだ、キリト様が優しい。え、怖っ」

 使い魔がなんかたじろぎやがった。少し顔面蒼白になっている。
 因みにどうでもよさそうな事だが、俺は日本の漢字というもので書くときは雺斗と書く。

「おい、まて、俺そんなにお前に厳しくしている覚えはないんだが」

「だって、私を最近ずっとこき使ってばっかだから」

「それは、俺が高校生の格好じゃ、なんかおかしいからだよ!! 人間界で言ったら俺二十一歳だぞ!? ただの変な人になってしまうだろう!?」

「でも、たまに人間界でも三十路過ぎたおっさんでも学生服来てたりするじゃないですか」

「それは何かを間違えちゃった人か、仕事でやらなくちゃいけない人だから!! 俺そんなのやりたくないから! だいたいキイ! お前は人間界でいうと十六なんだよ! 花の高校一年生の年齢なの!」

「それは知ってますよ。制服だって私のほうが違和感がないのもわかっています! でもあれなんですよ。数学とかいう教科は暗号なんですよ。二次関数とかなにこれ状態なんですよ。わかります!? あれを強制的に解かねばならない私の気持ちが」

 キイはとてもそれはそれは壮絶な顔をしていた。

 本当に勉強というものが嫌いなんだな。というか、学校に行く前に学習の基礎となる部分は手あたり次第教えたはずなんだが……。
 あ、あれだ。こいつもととなる部分は悪魔だ。そうだそうだ。
 こいつは物理的に生き物の上に立つのは好きだけど、誰かに上に立たれるというのが生理的に無理なのだ。堪えるのだ。

「ああ、まあそれは学生になったら付き物の部類だからそこらへんは頑張れ」

「……あうあ」

 キイは涙目になる。
 因みにこれもどうでもいいが、こいつの名前を漢字で書くとなると紀異だ。


「……解りましたよ。頑張りますよ。で、今回は少しの嫌がらせということで、そのヒーローの妹である弥生凛和を狩りに行くということでいいですか」

「ああ、それであっている。あの娘は結構容姿とか、体つきとかもいいし、きっとうまいと思うからな。ああ、今からでもワクワクする。どう痛めつけてから食そうか。蹴って、殴って、踏んづけて、ぶん投げて……」

「いつも思うんですが」

 使い魔が俺がワクワクしているのを遮る。

「なんでいつもそう人間を痛めつけてから血を吸うんですか」

 俺は即答で微笑んで答える。

「ん? そりゃあ、生き物の悲痛な顔見るのって面白いじゃん」

「やはり私のご主人様ですね。狂っています」

「でも俺はどちらかというと平和主義者だから相当ストレスたまってるときにしかそんなことやんないけどね」

 付け足し感が半端ないが、それは俺の本心だ。
 いつもはだらだらと日光を避けて生活しているだけの穏健派の魔族だ。平和主義者だ。
 それにしても吸血鬼の日光に弱い体質は本当にどうにかしたい。本当に要らないと思う。辛いし。まあ、俺は吸血鬼の中でも最上位のところにいるから日光の元に出てすぐ焼け死ぬなんてことは無いけれど、やっぱり厄介なものなのだ。
 それが理由でヒーローの妹の監視をあいつに押し付けているのもある。

「なんか、付け足し感が半端ないですね」

 言われてしまった。このやろ。

「煩い。取り合えずそろそろあっちの世界は日が沈む時間だ。行くぞ」

 俺は話題を変え、外に向かって歩き出す。そんな俺のあとをあ、待ってくださいよとわざとかわいらしく言ってからパタパタとキイが駆けつけてきた。

 ああ、本当に楽しみだな。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.8 )
日時: 2017/04/15 08:24
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 私は今、コーヒーを淹れる準備を全部終わらせ、兄達の帰りを待っている。

 今は時間潰しに一昨日買ったクッキーが棚にあったため、それを綺麗に皿に並べている最中だ。
「早く帰ってこないかな。というかなんかさっきから変な悪寒が襲ってきて気持ち悪いんだけど。風邪でもひいたのかな。いや、でも咳もくしゃみも喉の痛みもないから風邪じゃないよな。なんだろう」
 一番の最悪なことで予想できることは、これから何かに巻き込まれることなんだが。
 いや、それはないだろう。今日はもう外出の予定はない。おとなしくしていれば時は勝手に過ぎてくれる。だから別に何もないだろう。

「たーだいまー!」
 そんなことを考えていたら、お兄ちゃんが玄関のドアを勢いよく開けてそう叫んできた。
 このお兄ちゃんの勢いよくドアを開けるという行為でドアが何度か壊れたことがある。
 見かねた両親が、玄関のドアに少しでもその威力を軽減できるよう、それに微妙な細工を施した。
 お兄ちゃんをどうにかするという手段は何十回にもわたって実行されたが、何にも意味なかった。だから、ドアの方を改造した。
そのため、少し私の家の玄関のドアは重いのだ。なので、荷物を多く持って帰って来たときにあのドアを開けるのはちょっとだけ地獄だったりする。

「おかえりなさい」
 居間に入ってきた三人に私は微笑む。三人に外傷は見当たらなかった。少しほっと胸を撫でおろす。
 私はガラステーブルにコーヒーを淹れるカップを運ぼうと、さっき一式置いといたトレイを持って、お兄ちゃんたちが座ろうとしてるまだ人生ゲームが置いてあるガラステーブル向かった。

 と、その時お兄ちゃんはこんなことを二人に喜々として話し出した。
「にしても今日の奴はすごかったな」
 それに煉璃さんと武藏さんが相槌をいれてしまう。
「ええ、凄かったわね。逃がしちゃったのは少し痛かったけれど」
「なんていうか綺麗だったですよね! 僕、見惚れてしまいましたよ」
 見惚れてしまうということは、今回の敵は女の人だったということだろうか? というか妹の前で少し濁しているとはいえ、ヒーローのことの話をするな。

 というか、なんだろう。凄い嫌な予感がする。ここから先、聞いちゃいけない気がする。が、しかし私は次の兄の言葉を聞いてしまった。
「あのスタイルと、端正な顔立ち、それにピンクのロングヘアーだもんな。で、それが不思議なほど似合ってたよな」

 ──ガシャン!

 私は体が硬直し、手の力が抜けてしまった為、持っていたトレイを落としてしまった。
「っ痛」
 下を見ると、ガラスの破片が少し私の足に刺さっていた。
 おお、どうやったら入るんだろう。カップを落して割って取ろうとして、手を切るのは聞いたことあるけど、割ってそれと同時に破片が足に刺さるなんて聞いたことないよ。嫌なミラクルだな。

 しかし、その前にお兄ちゃんの言葉が衝撃的過ぎたというか、精神の根の部分に強すぎたのだろうか、身体が動かない。痛みもいうほど感じない。
「凛和ちゃん!? 大丈夫!?」
 緊迫したような声で煉璃さんが私に駆け寄る。
 私はそれに答えようとするが、声が出ない。体が動かせない。目が自分の足に刺さったカップの破片から離れてくれない。
「あ…………う…………」
 涙が出ないが、変な嗚咽が私の口から流れ出る。
「もしかして、もしかして昔のことを思い出したの!? 十一年前の事件のことを!」
 ピクリ、と身体が動く。反応する。無駄に察しがいいのだ、この人は。

 さっき、私はあんな悲惨なことを覚えていないのはおかしいと言ったが、そんなことを言ったのに、私はいろいろな人に嘘を付いていた。
 口に出したくないから、その時のことを大勢の人から聞かれたときに、その場しのぎに覚えていないと言ってしまっていた。
 矛盾が起こってしまったが、その時の私は、今もそうだが恐怖感に取憑かれて本当のことを言えなかった。

 だが、身体は素直だった。
 煉璃さんはその反応を見逃さなかった。否、見逃してくれなかった。
「なに!? 教えて、何があったの? あの日、あの時、何があったの!?」
 緊迫した声のまま、煉璃さんは私に問いかける。
「煉璃さん、そんなに問い詰めると言えるもんも言えないものになってしまいますよ」
 武藏さんは煉璃さんを落ち着かせようとする。その言葉で私が少し落ち着いてしまった。が、
「でも! ここで聞かなかったら、また忘れてしまうかもしれない!」
 煉璃さんは引き下がってくれなかった。どういうことだよ、一回思い出したものをまた忘れるって。あ、刺激が強すぎて脳が拒否反応を起こすということか。なるほど。

 私はまだ棒立ちのままだ。声も出ない。出そうと努力しているが、出るのはただの嗚咽だけだ。
「そうだぞ、都己! 今聞きださなくて、いつ聞き出す」
 お兄ちゃんも参戦してきた。マジかよ。
「でも、その前に割っちゃったカップを……」
「ねえ、何があったの?」
「どうなんだ! 思い出したんだろ! 教えてくれよ!」
 二人は武藏さんの声に耳を貸さなかった。いや、貸したけど無視った。
 その後も私から十一年前のことを聞き出そうと、ずっと問いかけてきた。武藏さんは二人を咎めようとしてくれたが、二人は見向きもしなかった。

 息が、呼吸ができない。二人の声だけが妙にこだまして聞こえる。足から流れ出る血液が昔の出来事を思い起こさせて来る。嫌だ、苦しい、怖い。
 そして、
「うっさい!」
 やっと出た私の声は、そんな怒りのこもったものだった。怒鳴り声だった。これは、怒ってもしょうがないと思う。が、
「なんで怒鳴るんだ!」
 お兄ちゃんはお怒りになった。うええ……。やっと上げられた目に映ったのは兄の怒り顔。
「俺たちは、お前が心配で聞いているんだぞ!? なのになんで怒るんだ!!」
 は? いきなり怒鳴っちゃった私は悪いと思うけど、この兄の対応はおかしい。
「…………」
 私は黙る。もういろんな感情が溢れてよくわかんない。

 兄は言葉を続けた。
「大体なんで黙ってる! 大丈夫とかなんでもいいから少しでも受け答えしろよ!」
 兄は怒鳴る、その当たり所の悪い怒りは私の足に入っていくように私の足からは血が滴り落ちていく。
 おお、これは怒っていいよな、いいよな。もう、どうにでもなれ。
「は!? 大丈夫!? お世辞でもそんなこと言える状態だと思ったの? お兄ちゃんは、私のさっきの反応を見て。ちゃんと顔の色見た? 口から漏れる嗚咽は聞こえなかった?」

「聞こえなかった。顔色なんて今日帰ってきてからずっと青いしよくわかんなかったぞ!? というかなんで怒鳴る?」
「おまえが怒鳴ってるからだよ!! お前が理不尽な怒りを私にぶつけてくるからだよ!!」
「おまえ!? 俺に向かってお前呼ばわりしたなおい!」
 あ、やばい。地雷踏んでしまった。
「閏! 落ち着いて」
 そんな言葉を煉璃さんが兄に掛けるがもう遅い。なんでここになるまでこの人もこの人で……なんかもう嫌だ。
「お前いったん外に出ろ、頭冷やせ!」
 グイッと、お兄ちゃんは私の腕を引っ張る。
「!?」
 そのまま私は外に連れ出された。
 お兄ちゃんはいいと俺がいうまで入ってくるな! という捨て台詞とともに家の中に入ってしまった。

 現在の所持品。携帯、腕時計、のみ。
 装備、紺色の猫が大体的に描かれた白色のパーカー、その下に着ている黒のブラウス、ワインレッドの短パン、黒のニーハイソックス、黒のスニーカーのみ。それに両足ガラスの破片がぶっ刺さっており、出血多量。
 軽装備すぎる。危なすぎる。春の夜にはこれは厳しい。春と言っても今は六月の梅雨なんだが、どちらにせよ少し肌寒い。

 にしてもこれはお兄ちゃんは酷すぎる。これは何も言えなかった私も悪いかもしれないけれど、あの人の方がもっと悪い気がする。あああああ! でも、元々の原因は私だし、むしゃくしゃするな。
「ちっ。このやろう」
 私は玄関のドアの近くの壁に寄りかかり、腕時計を見る。現在の時刻は十八時五十二分。
 どうしようか。靴は履いているから散歩でもいこうか。夜の散歩もたまには悪くない。
「うん。そうしよう」
 と、私が行こうとしたとき、玄関のドアが開いた。
「?」
 私は振り向く。そこには煉璃さんがいた。

「凛和ちゃん、あの、ごめんなさい」
 外に出てきた煉璃さんの一言目はそれだった。深々と頭も下げている。
「…………」
 私は、何も言えずにただただその光景を見ることしかできない。そんな行動に事の重大さに気づいたのか何だかわからないが、感傷的な顔で私を見てきた。
「ごめん、そうだよね、そんなにいきなりあんなこと聞かれても言えるものも言えなくなっちゃうし、パニクっちゃうよね。それなのに、私は都己の指摘にも耳を貸さずに自分のことだけで……本当に、ごめんなさい。よかったら、昔のことは、言えるような心境になってから教えて」
「いいですよ。それに、今回は私も悪いことをしたのでおあいこということで」
 私は笑う。にひひと笑った。
 涙なんて、出てこなかった。
 もう、怒ったって何もならないだろうし。面倒くさいことが起こるだけだ。
「それじゃ、怪我、少しだけど手当てしようか。足だして」
 そう言う煉璃さんの手には救急箱が握られている。どうやらこちらに来るときに持ってきたらしい。
 そのあと彼女はきれいに私の足を治療してくれた。包帯が巻かれ、そのあとにそれを被せる形でニーハイを履かせてくれた。
 本当にこの人は根は優しい人なのだ。
「よし、オッケー」
 彼女は立ち上がって延びをする。その顔はさっきより晴れていた。

 なんだかよかった。
「あの、ありがとうございました」
 私は礼を言った。少しお辞儀も含める。
「いいよ、今回は色々あったし、それに凄く見てて痛そうだったし。でもごめんね、いま都己が説得してくれているんだけど閏が…………」
「ああ。なるほど。では私は少し夜の散歩をしてきます」
「え、足大丈夫なの? 結構奥深くまでいってたけど。なんなら救急病院につれていきたいぐらいの怪我なんだけど」
 煉璃さんは困った顔をする。
 それもそのはず。さっき私の足に刺さった破片は厚さは二ミリ程度のものだったが、長さがすごかった。三センチぐらい。本当にぶっ刺さってた。
 抜いている最中に煉璃さんにこれは見ない方がいい! 見ない方がいい! とすごく言われた。しかしそれでも私は見たのだが。そして見事な大出血だった。
 いまは止まったが。

「いまは大丈夫です。煉璃さんの治療がすごくうまいおかげですね」
「でも……」
「それに」
 私は煉璃さんの言葉を遮る。
「ちょっと気分を落ちつさせたいので」
 この人は察しがいい。だからたぶんこれだけで意味が分かっただろう。煉璃さんは申し訳なさそうな顔をしてくる。
「…………わかった。でも何かあったら、連絡頂戴? それと、これ」
 私にあるものを握らせる。それは普通の人なら持ってはいないし、ましてや持っていてはいけないものだった。
「これは」
「護身用。銀で作ったナイフだよ。最近物騒だから、何かあって身の危険に遭いそうだったらそれを使って。魔物でも急所をつければ殺せる」

 煉璃さんに渡されたナイフの柄がキラリと月明かりに照らされ、怪しく光る。というか、さらっと煉璃さん魔物って言ったな。まあ、今回はもう面倒なのは嫌なので無視することにした。

「でも……」
 私は口を濁しながら煉璃さんを見る。そして、彼女は私に無駄な心配をさせないよう、とても安心できそうな声でありながら、とても力がこもった声で私に言葉を向けてくる。
「何かあって、あなたが死んでしまったらバカが何て言うか……、あいつは元々面倒くさいのにもっとそうなる。だから、護身用。持ってて」
「……わかりました」
 煉璃さんのあまりにも真剣な表情と声色に負け、私はおずおずと引き受ける。
 今日は本当にいろんな人のレアなものを見るな。
「では、行ってきますね」
「うん。いってらっしゃい」
 煉璃さんは笑顔で見送ってくれた。
この判断で、私を最悪な非日常に連れていくとも知らずに。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.9 )
日時: 2017/04/17 22:01
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

「ふぅ」
 私はそのあと近くの公園に行った。
 寒いからきーこきーことブランコを揺らして少し子供のように遊んでみたが、なんか空しくなって止めた。
 それからはベンチで身を丸くして時間をつぶしている。それにしても寒い。
「暇だな。うん。お金無いからコンビニでホットな紅茶を飲むこともできない。というか、あの割れた物の処理やってくれたんだろうな。あとでお礼を言わなくては」
 もう暇すぎてそんなとこを一人でぶつぶついっている始末だ。
 どうしよう。帰ろうか。帰っても家に入れるかどうか甚だ疑問だが、でもまあ、そろそろ帰ってみよう。

 いまの時刻は、腕時計を見ると九時四十六分。嫌な数字が続いてやがる。
 あ、まて。今日はなんか変な予感がしていたんだ。
 でも、それはあれだよね、この家に出されるという行為の事を示していたんだよね、そうだよね。
 あれ? でもおかしいな、変な悪寒がする。いや、これは寒いからであってそんな変な事が起こるっていう警告じゃないはず。
 そうだ。私はそう信じたい。
「よし、帰るか」
 なにかが起こる前に私は帰ろう。

 しかし、少し私の判断は遅かった。
「あ、いたいた。みーつけた」
 知らない男の人の声が聞こえてきた。
 私のことじゃないよな。うん。帰ろう。
「いや、君だよ。君! 君!!」
 君君? だれ? 知らない。よし、帰ろう。
 私は歩を進める。
「待てって、ジジョーヒーローの妹の弥生凛和!!」
 …………。あ、巻き込まれた。これは完全に兄に巻き込まれた。
 このやろう。どうしてくれるんだ私の人生。これは完全に死亡フラグというものが立った。よね。立ってしまったよね。

「と思いながら歩を早めるのやめろよ! 待たないと……」
「!?」
 なにか物凄い殺気を感じた私は声がしていた方を振り返った、振り返ってしまった。
 そこには鉄パイプを持った私と同じぐらいの背丈でとても綺麗な黒髪が太ももぐらいまで伸びた少女あくまが立っていた。
「殺すぞ」
 その男の声とともに、女の子は私を鉄パイプで躊躇なく殴ってくる。
 私は打たれ所が悪く、一発で気絶してしまった。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.10 )
日時: 2017/04/21 07:20
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 頭が痛い。なんだか金槌でぶたれているような感覚がするほど痛い。

「…………」

 私の体の下が硬い、冷たい。コンクリートか石の上にでも寝ているのだろうか? あ、違うや、寝かされているのだろうか? どうなのだろうか?

 そういえば、殴られて気を失い、しかしそれでも気を取り戻したとき、漫画やアニメ、ドラマなどの大半はその殴られた時の記憶は無いという現象が起きる。が、しかし、しかし!! 
 ……私、全部覚えているってどういうことですか。もう絶対悲劇のヒロインとかそんな感じの器ではないのだな。でも本当鮮明に思い出せすぎてもう笑えるほどなんですが、爆笑してもいいですか。

 というか、最後私が女の子に金属バットで殴られる前に、あの黒髪の男の人殺すぞとか言ってたけれど、私死んでないんですが、普通に生きているんですが、どういうことなのかなこれ。
 というか、ここ寒い。え? 今、梅雨だよね。真冬並みとは言わないけれど、春に入ったか入ってないかよくわからない時期並みに寒いよ。なんなんだよここ。
 まあ、そんなこと思ったって、なにもならないか。

 えっと、足と後頭部の痛み以外、痛いと感じるところは無くて、手、足、胴体、どれも縛られている圧迫させられてるという感覚どちらもなし……か。

「…………」

 一応、目を開けてみたほうがいいのかな。たぶん、さっきいた公園ではないところにいるよね。

 さっき私がいた公園は全面が芝生に覆われており、コンクリートの部分など一箇所もない。
 あるのは黒い粒がたくさん集まっている砂場、長さ五メートルにも及ぶ巨大なジャングルジムと滑り台、そしてさっき私が乗っていたブランコ。こんなものだ。
 コンクリートは道路に行かなければない。殴られた衝動で私が道路に飛ばされたという線も存在するが、公園沿いを通っている道路のコンクリートはごつごつとしている。
 だけれど、今私が寝かされているところはどちらかというと手が滑らかに滑らせることができるほどすべすべしているので、その線は無いということになる。
 ということはどこかに連れられてしまったのだろう。あの二人によって。お兄ちゃんの敵によって。

 完全に巻き込まれちゃったのか、私は。
 って、あれ……まって。ここ、異世界というところじゃないよね。お兄ちゃん達って確か、魔界っていうところの奴らと戦っていたはず。ん? 嫌だよ? 地球から出さないでよ。

 私は重たい瞼をほんの少しだけ開けた。
 ほんの少しだけ開けた視界に映ったのは、だだっ広くてたぶん野球場が一個は軽々入るであろう空間だった。
 嘘だろ。え、私をさらったの結構ラスボス的な存在なのかな。え、まって、怖い怖い。
 私は目を閉じる。そして、寝た。


 たぶん二時間ぐらい寝て、私は起きた。そしてついついうっかりして起きたと同時に目をパッチリ開けてしまった。
「あ、起きた。キリト様、ヒーローの妹起きましたよ」
 そして、速攻起きたのが女の子に見つかってしまった。
 私は覚えている、私を金属バッドで殴った女の子だ。女の子と私の距離はたぶん五メートルもないだろう。
 まさかの事態。絶体絶命。どうしよう。怖い。

 お兄ちゃんがヒーローだからって私がお兄ちゃんの敵にかなうような力を持っているわけではない。
 お兄ちゃんは敵と戦うとき一回見ただけだが、幻術というか、火に包まれた竜をどっかから呼び出して戦っていたりした。が、私にはそんな力はない。私はただの一般人だ。人間だ。

「お、本当だ。おはよう、弥生凛和ちゃん」

 女の子に私が起きたのを教えてもらった男の人、名はキリトというらしい人が私に向かって微笑む。
 と、同時に私の体中に悪寒が走った。それに何かが這いずり回ったような感覚に襲われた。気持ち悪い。

「…………」

 私は声を出さずにただただキリトという人を寝ころんだ体制のまま、見る。

 ていうかこの人肌しっろ! 透き通るように白いんだけど。怖いぐらいだよ。
 本当に男は日に一回も当たったことがないのではないかと思うぐらい白かった。
 それに彼の髪は、たぶんお兄ちゃんよりも長く、襟足まである黒髪で、片目が前髪で隠れるほどの長さがあった。
 そして真っ赤のきりっとした目、不敵な笑みをこぼす口、どれもが白い肌に相まって、とても綺麗に見えた。思えてしまった。

 男の人の服装は、とにかく黒かった。黒のロングコート、黒のズボン、黒のミリタリーブーツ、因みに黒のロングコートの下も黒の服が見える。とにかく黒、黒、黒、黒。本当に黒ばっかりだ。黒い塊だ。
 というか、この人の八重歯長くない? とがりすぎじゃない? ん? え? いや、いや、そんなわけがないだろう。

 ──吸血鬼なわけないだろう?
 ──吸血鬼なんてこの世の中にいるはずない。

 「ああ、そうだそうだ」

 表面上は無表情な私を見て、少しつまんなく思ったのだろう。男の人が私に話題を振ってくる。

「まず自己紹介をしなくちゃな」

 一歩ずつ、私にゆっくりと近づきながら。

「俺の名前は、キリトっていうんだ」

 だだっ広い空間に彼の足音が不吉に響く。

「で、種族は」

 私は寝ころんだ体制から、すぐ動ける体制に変える。コツン、コツンと響いていた足音は、私の前で止まった。と、同時に男の顔が私の耳元に来た。

「吸血鬼っていうんだ」

「!!」

 その言葉を言われた瞬間、私は全力で後ろに飛び跳ねた。私は一応運動神経には自信がある。十メートルほど離れられた。

「あれまあ」

 吸血鬼はクスクスと嗤う。本当に面白そうだ。

「そんなに警戒しないでよ」

「私をそんな舐めるような感じで見るやつを、食料として見るやつを警戒しないほうがおかしい」

 私は私の周りの物すべてを警戒しながらそう反論する。
 さっきだって悪寒がしたのは私を、あの吸血鬼が私を、本当においしそうな食べ物のように見ていたからだ。
 ああ、踊り食いさせる魚とかはこんな思いなのかな。もう踊り食いを特集する食べ物の番組を見れなくなっちゃうよ。

「あらまあ、ばれちゃったか」

 彼は本当に楽しそうだった。

「おい、キイ」

「はい」

 女の子が抑揚のない声で返事をする。
 この子の名前はキイというらしい。あれ、なんか聞いたことがある名前だな。誰だっけ?

「お前は下がっていろ」

 嗤う吸血鬼。

「了解しました」

 おとなしく下がっていく悪魔。
 女の子が下がったのを確認すると私をまた舐めるように見てきた。

「…………」

 来る。
 私の首筋に冷や汗が走る。
 そして吸血鬼は歌うように、私に向かってこう言ってきた。

「さって、久々の惨殺タイムだ。せいぜい楽しませてくれよ、ジショーヒーローの妹の弥生凛和ちゃん」

 絶対嫌だ。

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