複雑・ファジー小説

私の兄は悪と戦うヒーローです。
日時: 2017/05/24 00:12
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 私の兄は悪と戦うヒーローです。兄は私にそれを隠しているのかもしれませんが、バレバレです。バレています。
 できれば、お願いだから私をその戦いに巻き込まないでください。

 初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久し振りです。この間長年かいていた能力少女が終わってしまったので、小説家になろう様で書いているやつをこっちに引っ張ってこようと思います。
 基本ギャグを目指して書いているので軽い気持ちで読んでください!

※注意※
この物語はグロシーンがよく出てきます。そういうのが苦手な方は注意してお読みください。
ちなみに一番最初のグロシーン到来は>>05です。

読んでも読まなくてもさして物語に支障がないプロローグ >>01

混沌篇  >>02 >>03 >>04 >>05 >>06

吸血鬼篇 >>07 >>08 >>09>>10 >>11 >>12>>13

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Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.4 )
日時: 2017/04/07 13:58
名前: 鈴盛プリン

 とにかく私はロリ好きの煉璃さんの魔の手から逃れることに成功した。ありがとう、お兄ちゃん、この恩はたぶん忘れないよ。

 それにしてもあれだ、お兄ちゃんは普通に吐血していた。床に赤い液体が落ちている。少し鉄臭い。これは乾いて床にこべりつく前に拭く必要があるな。

 お兄ちゃんと煉璃さんはただいま言い争いというか、なんだかそろそろロリのどこがいいか論議を始めそうだけど、私は気にしないようにする。

 ことの原因が私だろうがなんだろうが、知らない振りをする。巻き込まれたくない、切実に。
 というか、お兄ちゃん吐血したのに普通に言い争いしているあたり凄いと思う。感心してしまう。あとで濡れたタオルを渡すとしよう。あと、うがいもさせなくては。


 そのあと私はお兄ちゃんが吐いた赤い液体の処理をした。今は二人の為のコーヒーと菓子を用意している。

 私の趣味はお菓子作りとネット巡回だ。それが私の生き甲斐であったりするから、それを邪魔する人はたとえお兄ちゃんであっても容赦はしない。
 実際にこの前お兄ちゃんにある動画サイトで生放送を聞いているとき、邪魔をされたので怒って飛び蹴りと回し蹴りをお見舞いしたことがある。

 そのあともちろん兄を放置し、ネット鑑賞にもどった。

 お兄ちゃんは好きだが、普通にあの人はうざい。

 何か嬉しいことがあったら誰かにそれを伝えないと気が済まないという性格だから、人がなんか集中してパソコンのキーボードを打っていたとしても、くっそ重いお菓子の生地を混ぜたりしていたりしてもお構いなしにあのさっきのテンションで話しかけてくる。あれは非常に迷惑だ。
 まあ、それが、いつも無駄にテンション高いのがあの人のいいところなんだが。長所は考えようには短所になる、そういうことだ。


 ぱっぱっと茶菓子の準備を済ませた私はまだロリについての論議を熱く語っている二人に話しかける。

「煉璃さん、お兄ちゃん、コーヒーとチーズケーキここに置いておくね、好きに食べていいですよ。そしてお兄ちゃんはうがいしてきて。さっきなんだかんだ吐血してたでしょ? だからうがいしてきて、というかして来い」

 それに二人は反応した。光の速さだった。

「おお! 凛和ありがとな、というかいつの間にこんなものを作っていたんだ!? そしてうがいはさっきしたから大丈夫だ!」

「凛和ちゃんありがと、じゃあお言葉に甘えて遠慮なく頂くね」

 煉璃さんは変なスイッチがあ入らなければ普通に優しいお姉さんだ。そう、変なスイッチが入らなければ。……もうあんなことをされないように、これからはもう少し気を付けなければ。

「あれ? 二人分しかない。凛和ちゃん食べないの?」

 私が持ってきた茶菓子の量に気づき、煉璃さんが私に問いかけてきた。それに私は申し訳なさそうに答える。

「ああ、はい。ちょっと睡眠不足でふらふらするので食べないで私は寝ます」

 昨日本気出してチーズケーキ作ってたツケが睡眠というものに回ってしまった。やはり学校の前日にそんなもの好奇心で始めるんじゃなかったな、迂闊だった。

 それに、私は普通に最低五時間は寝ないとダメな体質だと忘れていた。辛い。オールしてもピンピンしている体の持ち主になりたいと切実に思う。願望多すぎだと思うけど、そう思う。

「そっか、じゃあお休み。よく眠ってね」

 私がそう言っても怒らないで優しく私に話しかけてくれるあたり、彼女は本当にいい人だと思う。こういうところは本当に見習たい。

「はい、ありがとうございます。あ、あとコーヒーはいつものところに置いてあって、チーズケーキも冷蔵庫にまだ残りが入っていますので遠慮なさらずにお代わりしていってくださいね」

「おお! マジか! よっしゃ!」

 黙っていたお兄ちゃんが口を開いた。その手に持っている皿は空っぽだ。いや、早いよ食べ終わるの。どっかのガキか。

「いや、お兄ちゃん食べ終わるの早くない?」

「あ、ずるい。この野郎! 私がお前の妹心配して話してた隣で黙々とチーズケーキ食べてやがったな」

 煉璃さんが軽くキレた。いや、まあ、当り前っちゃあ当たり前だけど。
 でも、胸倉つかむのはさすがに短気すぎると思う。うん。

 しかし、お兄ちゃんはあくびれることなくさも同然のように真顔で答える。

「いや、だってうまかったんだよ」
「あー、そうですか、よかったですね」

 反省の色なしだ。煉璃さんの頭に血管が浮き始めている。こんなことは日常茶飯事だが、一応止めに入った。

「まあ、煉璃さん落ち着いて、落ち着いて。あと七切れほど残ってますので、最低一人あと三切れは食べれるようになってますので大丈夫ですから、ね?」
「……解った」

 解ってくれた。意外にもすんなり解ってくれた。少し嬉しい。

「では、私は寝ますので」

「うん、おやすみー」

「おお! いい夢見ろよ!!」

「はい、おやすみなさい」

 そう言って私は小さくお辞儀をし、自分の部屋に繋がる扉のドアノブに手を掛けた。

 私の家はメゾットタイプのマンションだが、一階にほぼすべて私達兄妹二人が生活するための部屋が揃ってしまっているため、二階は普段からあまり使われていない。というか、二階は御母さん達が使っている部屋なので、何があるのかわからないので私達兄妹が迂闊に立ち入れないというのもあり、二階には私の部屋は存在しない。
 私が住んでいるのはそんな家だった。

 私の部屋は日当りのいい部屋で、ベランダに繋がる窓がある。
 あとは猫が描かれているベットだったり謎に存在感があるデスクトップのパソコンがあるぐらいだ。多分私以外が見たらちょっとがらんとしている部屋に見えるかもしれない。そんな部屋だ。

 そして私は自分の部屋に入った後、制服から猫の顔が大体的に描かれているパーカーに着替えベットにダイブする形で入りこみ、眠りについた。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.5 )
日時: 2017/04/09 00:04
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 ――いつも見慣れた家の居間、けれど今は違う、壁が半壊し、窓ガラスが割れている。現在の時刻は午後八時。湿気った生ぬるいすきま風が私の肌を撫でている。気持ち悪い。

 家具はほぼすべてのものが倒れて、壊れている。倒れていないのは、壊れていないのは、居間の隅っこにあるクローゼットだけ。それのみ。
 それに加え──赤く染まる床、机、椅子、壁、見馴れているものが赤黒い液体で一色に染まっている。どこもかしこも赤黒い。

 いつも見慣れている人──親が、いつも優しく話し掛けてくれた声で叫んでいる。悲痛な声をあげている。
 体は真っ赤だ。赤黒い液体で。どうやら赤黒い液体は両親の体から出てきているらしい。

 両親の体は見れるものではなかった。
 母親は右手首と左膝から下がなく、父親は左肘と左太ももから下がなくなっていた。それに加えてなん十ヶ所も刺され、斬られた跡がある。もう服なんて元の色が判らない。全部真っ赤だ。

 そんな私は、部屋の隅にあるクローゼットの中に隠れて、親が無惨にもぐちゃぐちゃに殺されている様子を見ている。
 いつ見つかるか解らないけれど、もしかしたら見つからないでやり過ごせるかもしれないと両親が隠した。たとえ、その確率が一パーセントにも満たなくとも、少しでも生き延びる可能性があるのならと、私をクローゼットの中に隠したのだった。

 そんな隠された私は涙を流し、今にも叫びそうな口を真一文字に硬く結び、足で今にも気が遠くなり倒れてしまいそうな体を支え、カタカタと震える体を両手で押さえている。否、押さえようとしている。こんな状態だ。

 そして私は堪えろ、堪えろ、と私に命じている。
 私が行ってもなんにも役に立たない、というか、一秒で片付けられるだろう。
 だから堪えろ、倒れるな、叫ぶな、暴れるな、自我を保て、――辛い。逃げたい。もういっそのこと死んだほうがマシ。

 ──そんな考えていたのは、当時五歳の私だ。これは五歳の頃、私が体験したもの。そして、これは私が一番見たくない悪夢でもある。そう、夢。とてもとても気持ち悪い夢。昔の記憶から成る、現実から成る、悪夢なのだ。


 私は眠りから目を覚ます。とても胸糞悪い目覚めだ。寝なきゃよかった。
「嫌な夢見た。嫌な予感するな、なんかこれから起こるのかな。よくこの夢見たあと変なことや嫌なこと起こるからな」
 自分を安定させるために声を出してジョークを言う。全く笑えないが。逆に心をえぐっていくが。
 というか、これはジョークなんて呼べないだろう。ただの独り言だ。
 因みにこの夢を見たあと起こった変なことは、嫌なこととは、お兄ちゃんがヒーローやっていることをたまたま知って、そのついでにお兄ちゃんの性癖も知った。その時に少しお兄ちゃんに対してみる目が変わった。
 今は慣れてしまったが、知って間もない頃はお兄ちゃんをゴミを見る目で見ていた。


 さっきの夢はまだ続く。
 最終的なことをいうとそのあと私は見つかった。そして斬られた。
私を、両親を斬った人は女の人だった。女の人は見とれてしまうぐらい綺麗で、なぜかピンク色の腰まである長い髪をしていた。しかし、その髪はとても似合っていた。顔ははっきり覚えている。
 憎悪がするくらいに、なぜ自分はこんなに覚えているんだろうと自分自身に問うぐらいに。まあ、あんな無惨なことをされて覚えていなかったら、それはそれで問題なんだが。

 まあ、そんなことがあったのだ。
 そんなことに私は、私の家族は遭ってしまったのだ。そしてその家族の中で運よく生き残ってしまったのが私だ。私だけが不運にも生き残ってしまった。
 そのあと私はお兄ちゃんの、弥生 閏の家に引き取られる。その時の話はまた後日にするとしよう。
 一言だけ言っておくと、私は初めてこの家族を、弥生家を見たとき、ドン引きした。


 私はベットから降り、鏡の前に立ち、身なりを整える。

「……顔が青白い、水飲むか」

 そんなことを呟きながら私は居間につながる扉に足を向ける。居間に繋がる扉を開くと新たな来客が来ていた。

「あ! おはよう! 凛和ちゃん! お邪魔してるよ。あ、少し顔が青白いよ、大丈夫?」

「おはようです。いらっしゃいです。武藏(むさし)さん」

 武藏さんとは、武藏 都己(とおの)、名前がややこしい人で、やはりお兄ちゃんのヒーロー仲間だ。
 外見はチャラい。金髪で襟足まで延びている。しかしそれが似合っていて、右側に黒色のピン止めでバツ印を作って止めているところを見るとなぜだかかわいく思えてしまう。
 というか、武藏さんはかわいい、顔立ちはどちらかというと鼻筋も通っていて、目もキリッとしているイケメンさんなのだが、明るいムードメーカーな性格もあってか、そう思えてしまうのだった。

「あと、たぶん水分不足だと思うので大丈夫ですよ。水を飲めば治ると思うので」

「そっか、あ、あとチーズケーキ美味しかったよ! ごちそーさま!」

 彼は幸せそうに笑った。こういうのを見ると、お菓子を作ってよかったなと思えて嬉しくなる。

「うん、ご馳走さまでした。美味しかったよ。でもあれ、本当に美味しかったから全部食べちゃったけど、大丈夫?」

 煉璃さんが申し訳なさそうに心配をしてくる。
 煉璃さんたちが座っているソファーの近くに置いてあるガラステーブルを見ると私が作ったチーズケーキを置いといたトレイがきれいに上になにものってない状態でそこにあった。
 そのとなりに、『我らヒーローの作戦ノート』と書いてあるノートが置いてあった。いや、もうちょっと捻くれよ。というか、形に残すなそういうの。

「…………」

 私がことのショックに少し言葉に詰まると、お兄ちゃんが、あ、と言ってそのノートを引っ込めた。

「…………なんでもないぞ。何もなかったぞ」

 澄ました顔を兄は私に向けてくる。
 しかし、目で忘れろと訴えかけてきている。眼力半端ない。私はこれは下手にお兄ちゃんの逆鱗に触れたら大変なことになりそうな予感がしたので、

「…………。う、うん。あ、チーズケーキは全部食べてよかったので大丈夫ですよ。水、飲んできます」

 と煉璃さんにそう告げて台所にそそくさと逃げた。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.6 )
日時: 2017/04/09 10:17
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 やばいやばい。危うく大変なことになることろだった。
 あの人は本当にさっき言ったと通り、行動が読めないから私が昔トラウマを刻まれた時みたく、いきなり拳骨が飛んでくるかもしれない。怖すぎる。

 私はコップにいれた水を飲み、息を整える。そうしたらさっきより体がだるいのが無くなった気がした。よかった。

 でもあの夢は本当に心にくるな。できるのならもう思い出したくもない。しかし、覚えている。

「というか、この目で見て耳で聞いたものってなかなか忘れないんだよな……。なんだろう。体質なのかな? そうだとしたらいいんだか悪いんだかよくわからないものだな」

 まあ、この体質でよかったことは、ろくに勉強しなくても試験とかでいい点数を取れるっていうことだろうか? それぐらいだと思う。うん。あとは趣味で使えるぐらいだと思う。たぶん。
 まあ、それ以外にもあると思うけれど、どうしてもマイナスのものでしか浮かばないから、これ以上考えたくない。
 まあ、思い出したらその時にまた説明すればいいだろう。

 私は決意を決め、居間に戻った。


 居間に戻ると、三人は作戦会議ではなく、仲良く人生ゲームを始めようとしていた。
 どうやら作戦会議は私が寝ている間に終わらせていたらしい。
 人生ゲームのすべての準備が整っている。にしてもこの人たちは仲いいな。たまに子供かと突っ込みたくなることをやってくれることはあるれけど、本当によく一緒に遊んでいる。

 と、そこで私が居間に戻ってきたことに気づいたお兄ちゃんは私に話しかける。

「お! 凛和! これから人生ゲームやるんだが、一緒にどうだ?」

 すっごく嬉しそう。まるで今日の一番のお楽しみが来た子供のように。あれ? というか家に人生ゲームなんてあったっけ? …………。まさか。
「お兄ちゃん」

 私は念の為おそるおそる聞く。

「ん? なんだ妹よ」

「今日私が家に帰って来たとき、すっごく嬉しそうだったのってもしかして新しい人生ゲーム買ったから、煉璃さん達に今日一緒にやろうって言ってオッケーもらったから?」

「ん? そうだが?」

 即答だった。まじかよ、というか本当に小学生の子供かよ!! こんな人が兄とかすっごい悲しくなっていくんだけど!!
 というか、さっき私が頑張って聞こうとしてた努力は何だったんだよ。恥ずかしすぎんだろ。
 それごときでお兄ちゃんの弱み暴露しちゃったとか……。うわ、やっちまったよ。なんかすごい悔しい。もっと違う時に使えばよかった。

「それで」

 お兄ちゃんはワクワクしながら私に問いかける。

「ああ、うん、いいよ、やる」

 私は溜息交じりに頷いた。人生ゲームとかいつぶりだろうか。

「よっしゃー! では始めますよ! 僕、銀行やるんで! すべての金を僕が管理しますんで!!」

 喜々として武藏さんが銀行役に名乗り出る。ああ、子供だ。あれ? でも確か武蔵さんって十八ぐらいじゃ……。

「え?」

 そんな武藏さんのテンションを煉璃さんが一言で威圧を掛け、一気にそのテンションを盛り下げる。私も少しびくっとしてしまったぐらいの威圧だった。さすがすぎる。怖すぎる。

「ああ……。わ、解りました。葱楽さん、どうぞ……」

 見事に煉璃さんにビビった武藏さんはすっと、おもちゃのお札が入ったケースを煉璃さんに渡すのだった。

 と、その時だった。『ビーッビーッビッビッビー!!!!』と、なんとも言えない、聞いてただけで気分が悪くなりそうな音が私たちがいる空間に響いた。この音は、聞いたことがある。この音は──。

「っち、今からだというのに! すこしは空気読めよ。敵さんよ」

 お兄ちゃんがたぶん私に聞こえないように、私には聞こえてしまったが呟いた。
 そう、これはお兄ちゃんたちの敵がこの地に降りた合図だ。そして、問題行動を起こす直前という意味合いもあるらしい。
 以前、偶然居合わせて知ったことだ。

 お兄ちゃんたちは慌ただしく立ち上がる。そして、武藏さんが私の肩をガシッっと掴む。

「わっ」

 いきなりだったので私は少し驚いた。しかし、武藏さんはそれどころじゃないらしく、謝らずに真剣な顔をして、私の目をまっすぐ見てきた。
 普段の武藏さんの顔からは想像できない、油断したら惚れてしまいそうな顔と声だった。

「いい、凛和ちゃん、今から僕たちが家に戻るまで絶対に家から出ちゃだめだよ。絶対に。なにがなんでも。だから、僕たちが帰ってくるとき僕たちはきっと喉が渇いてるから、飲み物を淹れて待ってて。いい?」

 武藏さんは私がしっかりと聞き取れるように、聞き逃さないように一言一句、はっきりと言ってきた。

「え、あ、は……はい」

 私は突然の出来事に少し戸惑っていたので少し曖昧な返事をしてしまった。だから、こう付け足した。

「わかりました。私は珈琲などを淹れておとなしく待っているとします」

 できるだけ相手が安心できるように真面目な顔をして答えた。
 そのおかげもあってなのか、武藏さんはほっとした顔になり、微笑んで、

「それじゃあ、お願いね」

 と言って煉璃さん達が一足先に行った玄関に行き、合流して慌ただしく外に駆けて行った。


 さっきまで慌ただしかった部屋は私一人になり、とても静かな空間になった。電気の音しか聞こえない。

「ふう」

 私は少しさっきの状況で疲れたのでソファーに腰掛ける。
 さて、これから私は何をすべきか。お兄ちゃんたちは、大丈夫だよね?
 ああ、でも大丈夫か。煉璃さん達がいる。煉璃さんはヒーローの組織の中では戦闘と治療がメインの人だ。要するに、救護係。
 武藏さんは、機械と戦闘がメイン。要するに、発明係。さっきの音をならしていたものも武藏さんのお手製だ。どうやって作ったのかは謎だけれど。
 そして私のお兄ちゃんは戦闘メイン。戦闘係だ。この三人でヒーローをやっているらしい。
 これで、私達の日常を守っているらしい。ということは、結構強いのかな? どうなんだろう?

「まあ、私が気にしたって何にもならないからな……。えっと、私はおとなしく珈琲を淹れる準備しようか」

 私はその言葉とともにソファーから立ち上がり、台所に向かった。


 兄たちが帰ってきたら――それが私にとって、本当の地獄の始まりの合図だとも知らずに。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.7 )
日時: 2017/04/10 22:40
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 ここは、魔界。この世には面白い人間界、のほほんとした天界、そして血気盛んな魔界がある。

「…………」

 そんな世界で俺は、自分の家の一室にある少し装飾が施された木でできている椅子にまたがって、後ろの背もたれのところを正面にし、背凭れの上の平坦なところに腕を放り投げるように置きながら黙り混んで考え事をしていた。
 その考え事の主軸にいたのは、ある男の存在だった。
 あの、魔界の連中にも負けず劣らないぐらいにムカつくほどうざくて、たまに目で追いかけてしまうぐらいに綺麗な光沢を放つ黒髪を持っているあのムカつく男。俺だって髪の毛黒いんだよ。かぶってんだよ。
 というか、この世に住んでいる奴なんかほとんど黒髪か。しかし思い出すだけでもムカつく。このやろう。

「なあ」

 俺は俺の後ろで静かに読書をしている、綺麗な女の形をした、薄いピンクと黒のレースが印象的なワンピースを着ていて、少し青色が混じった黒髪を持っている俺の使い魔に話しかける。

「なんでしょうか」

 静かに俺の後ろで読書をしていた使い魔が俺のほうを見る。それを確認した俺は、

「俺とあのジショーヒーローさんの黒髪どっちが綺麗?」

 という率直な疑問をぶつけてみた。が、

「…………は?」

 と、使い魔にお前何言っちゃってんの? と言いたげな顔で俺を見てくる。
 というか、は? という言葉の圧が半端なかった。辛すぎる。使い魔は言葉を続ける。

「それは言っては悪いでしょうが、あのジショーヒーローの方が髪の光沢がきれいだと思います。私でも羨ましいですもんあの髪。どの会社のトリートメント使っているか、聞きたいぐらいです」

 この使い魔本当に素直だなぁ……。主人を目の前にしても自分の思っていることをねじ曲げて主人を誉めるとかしないもんな。感心してしまう。

 俺はため息混じりに頷く。

「そうか」

「はい。でも」

「ん?」

 使い魔はなにか話を続けるみたいだ。

「それだけではないですよね。そんなことだけで、そこで小一時間も難しそうな顔をして考え事をしていたんじゃないでしょうに」

 あ、こいつ、解ってやがる。

 そう、俺はこんなことを最初っから悩んでいたわけではない。
 あのヒーロー達のことを考えていたらそのことが頭の中に浮かんできたしまっただけだ。最初に考えていたことはもっと別の事。

「ああ。なあ」

「なんでしょうか」

 俺は元々考えていたことのもうひとつの主軸にあたるものを使い魔に告げる。それはたった一言で足りた。

「お腹空いた」

 これだけだ。

「なるほど」

 使い魔はふふっと微笑んだ。俺が何を考えていたのか解ったようだ。さすが俺の使い魔。長年俺と一緒にいるだけあってよくわかっている。

「では、行くのですか。人間界に」

 とても楽しそうに彼女は、脇にさっきまで読んでいた本を置き、立ち上がる。

「ああ、行く」

「どんな子を狙うのです? 男? 女? 幼女? 童女? ロリ? ショタ? 中学生? 高校生? 大学生? 妊婦? 社会人? それとも老人?」

 使い魔は喜々として、狩る人間の容姿を聞いてくる。
 それもそうだろう。狩り目的で人間界に行ったのは数十年も前の話だ。
 最近の人間界に行く目的は、主に買い物とか、高い所でわっはーいってやりたいときとか、あるものを見る時だとか、そんなものだ。狩り目的に行くなど、そうそう滅多にない事だった。

 それなのにあのヒーロー達に敵扱いされるのは少し納得いかないが。まあその時はストレス発散で相手になったりするんだが、盛大に相手になってやったりするのだが。ストレス発散で。
 そりゃあ吸血鬼だってストレス発散するさ。
 そう、俺は吸血鬼。年齢は二百十歳。使い魔のほうは百六十歳。
因みに俺と使い魔の年齢は人間でいうと二十一歳と十六歳ぐらいだ。まだまだ若い。若いんだぞ。

「ああ、もう決めてあるんだ、一応。あの野郎に少し嫌がらせをしよう! みたいな感じで決めてある」

「ほう、なるほど」

「あいつには、妹がいるんだよな」

 知っているが一応確認する俺。

「はい。というかいつも私にその子を監視するように言ってるじゃないですか。それで私は行きたくもない日本の高等学校に通学して、同じクラスメイトとして監視しているではありませんか……」

 使い魔が苦しい顔をする。何か学校であったのだろうか。

 でもこいつを作った俺が言うのも何なんだが、こいつが人間に変化するときは少し顔や髪型が変わって今の姿でも綺麗な女の子なのだが、それが人間の姿になると容姿端麗すぎる少女になるのだ。その事で何かあったら嫌だな。
 顔が変わるような仕組みは、一応敵が現れた時にでも人間の姿になっている時と戦っている時の姿が違えば極力面倒くさいことから逃れられるあろうという俺の考えから出た配慮だ。
 この配慮があったことが幸いして安心して監視任務を任せてられるのだが。

「ああ、そうだな。まあ、人間界での学校が辛くなったらいつでもやめていいからな」

「なに、やだ、キリト様が優しい。え、怖っ」

 使い魔がなんかたじろぎやがった。少し顔面蒼白になっている。
 因みにどうでもよさそうな事だが、俺は日本の漢字というもので書くときは雺斗と書く。

「おい、まて、俺そんなにお前に厳しくしている覚えはないんだが」

「だって、私を最近ずっとこき使ってばっかだから」

「それは、俺が高校生の格好じゃ、なんかおかしいからだよ!! 人間界で言ったら俺二十一歳だぞ!? ただの変な人になってしまうだろう!?」

「でも、たまに人間界でも三十路過ぎたおっさんでも学生服来てたりするじゃないですか」

「それは何かを間違えちゃった人か、仕事でやらなくちゃいけない人だから!! 俺そんなのやりたくないから! だいたいキイ! お前は人間界でいうと十六なんだよ! 花の高校一年生の年齢なの!」

「それは知ってますよ。制服だって私のほうが違和感がないのもわかっています! でもあれなんですよ。数学とかいう教科は暗号なんですよ。二次関数とかなにこれ状態なんですよ。わかります!? あれを強制的に解かねばならない私の気持ちが」

 キイはとてもそれはそれは壮絶な顔をしていた。

 本当に勉強というものが嫌いなんだな。というか、学校に行く前に学習の基礎となる部分は手あたり次第教えたはずなんだが……。
 あ、あれだ。こいつもととなる部分は悪魔だ。そうだそうだ。
 こいつは物理的に生き物の上に立つのは好きだけど、誰かに上に立たれるというのが生理的に無理なのだ。堪えるのだ。

「ああ、まあそれは学生になったら付き物の部類だからそこらへんは頑張れ」

「……あうあ」

 キイは涙目になる。
 因みにこれもどうでもいいが、こいつの名前を漢字で書くとなると紀異だ。


「……解りましたよ。頑張りますよ。で、今回は少しの嫌がらせということで、そのヒーローの妹である弥生凛和を狩りに行くということでいいですか」

「ああ、それであっている。あの娘は結構容姿とか、体つきとかもいいし、きっとうまいと思うからな。ああ、今からでもワクワクする。どう痛めつけてから食そうか。蹴って、殴って、踏んづけて、ぶん投げて……」

「いつも思うんですが」

 使い魔が俺がワクワクしているのを遮る。

「なんでいつもそう人間を痛めつけてから血を吸うんですか」

 俺は即答で微笑んで答える。

「ん? そりゃあ、生き物の悲痛な顔見るのって面白いじゃん」

「やはり私のご主人様ですね。狂っています」

「でも俺はどちらかというと平和主義者だから相当ストレスたまってるときにしかそんなことやんないけどね」

 付け足し感が半端ないが、それは俺の本心だ。
 いつもはだらだらと日光を避けて生活しているだけの穏健派の魔族だ。平和主義者だ。
 それにしても吸血鬼の日光に弱い体質は本当にどうにかしたい。本当に要らないと思う。辛いし。まあ、俺は吸血鬼の中でも最上位のところにいるから日光の元に出てすぐ焼け死ぬなんてことは無いけれど、やっぱり厄介なものなのだ。
 それが理由でヒーローの妹の監視をあいつに押し付けているのもある。

「なんか、付け足し感が半端ないですね」

 言われてしまった。このやろ。

「煩い。取り合えずそろそろあっちの世界は日が沈む時間だ。行くぞ」

 俺は話題を変え、外に向かって歩き出す。そんな俺のあとをあ、待ってくださいよとわざとかわいらしく言ってからパタパタとキイが駆けつけてきた。

 ああ、本当に楽しみだな。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.8 )
日時: 2017/04/15 08:24
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 私は今、コーヒーを淹れる準備を全部終わらせ、兄達の帰りを待っている。

 今は時間潰しに一昨日買ったクッキーが棚にあったため、それを綺麗に皿に並べている最中だ。
「早く帰ってこないかな。というかなんかさっきから変な悪寒が襲ってきて気持ち悪いんだけど。風邪でもひいたのかな。いや、でも咳もくしゃみも喉の痛みもないから風邪じゃないよな。なんだろう」
 一番の最悪なことで予想できることは、これから何かに巻き込まれることなんだが。
 いや、それはないだろう。今日はもう外出の予定はない。おとなしくしていれば時は勝手に過ぎてくれる。だから別に何もないだろう。

「たーだいまー!」
 そんなことを考えていたら、お兄ちゃんが玄関のドアを勢いよく開けてそう叫んできた。
 このお兄ちゃんの勢いよくドアを開けるという行為でドアが何度か壊れたことがある。
 見かねた両親が、玄関のドアに少しでもその威力を軽減できるよう、それに微妙な細工を施した。
 お兄ちゃんをどうにかするという手段は何十回にもわたって実行されたが、何にも意味なかった。だから、ドアの方を改造した。
そのため、少し私の家の玄関のドアは重いのだ。なので、荷物を多く持って帰って来たときにあのドアを開けるのはちょっとだけ地獄だったりする。

「おかえりなさい」
 居間に入ってきた三人に私は微笑む。三人に外傷は見当たらなかった。少しほっと胸を撫でおろす。
 私はガラステーブルにコーヒーを淹れるカップを運ぼうと、さっき一式置いといたトレイを持って、お兄ちゃんたちが座ろうとしてるまだ人生ゲームが置いてあるガラステーブル向かった。

 と、その時お兄ちゃんはこんなことを二人に喜々として話し出した。
「にしても今日の奴はすごかったな」
 それに煉璃さんと武藏さんが相槌をいれてしまう。
「ええ、凄かったわね。逃がしちゃったのは少し痛かったけれど」
「なんていうか綺麗だったですよね! 僕、見惚れてしまいましたよ」
 見惚れてしまうということは、今回の敵は女の人だったということだろうか? というか妹の前で少し濁しているとはいえ、ヒーローのことの話をするな。

 というか、なんだろう。凄い嫌な予感がする。ここから先、聞いちゃいけない気がする。が、しかし私は次の兄の言葉を聞いてしまった。
「あのスタイルと、端正な顔立ち、それにピンクのロングヘアーだもんな。で、それが不思議なほど似合ってたよな」

 ──ガシャン!

 私は体が硬直し、手の力が抜けてしまった為、持っていたトレイを落としてしまった。
「っ痛」
 下を見ると、ガラスの破片が少し私の足に刺さっていた。
 おお、どうやったら入るんだろう。カップを落して割って取ろうとして、手を切るのは聞いたことあるけど、割ってそれと同時に破片が足に刺さるなんて聞いたことないよ。嫌なミラクルだな。

 しかし、その前にお兄ちゃんの言葉が衝撃的過ぎたというか、精神の根の部分に強すぎたのだろうか、身体が動かない。痛みもいうほど感じない。
「凛和ちゃん!? 大丈夫!?」
 緊迫したような声で煉璃さんが私に駆け寄る。
 私はそれに答えようとするが、声が出ない。体が動かせない。目が自分の足に刺さったカップの破片から離れてくれない。
「あ…………う…………」
 涙が出ないが、変な嗚咽が私の口から流れ出る。
「もしかして、もしかして昔のことを思い出したの!? 十一年前の事件のことを!」
 ピクリ、と身体が動く。反応する。無駄に察しがいいのだ、この人は。

 さっき、私はあんな悲惨なことを覚えていないのはおかしいと言ったが、そんなことを言ったのに、私はいろいろな人に嘘を付いていた。
 口に出したくないから、その時のことを大勢の人から聞かれたときに、その場しのぎに覚えていないと言ってしまっていた。
 矛盾が起こってしまったが、その時の私は、今もそうだが恐怖感に取憑かれて本当のことを言えなかった。

 だが、身体は素直だった。
 煉璃さんはその反応を見逃さなかった。否、見逃してくれなかった。
「なに!? 教えて、何があったの? あの日、あの時、何があったの!?」
 緊迫した声のまま、煉璃さんは私に問いかける。
「煉璃さん、そんなに問い詰めると言えるもんも言えないものになってしまいますよ」
 武藏さんは煉璃さんを落ち着かせようとする。その言葉で私が少し落ち着いてしまった。が、
「でも! ここで聞かなかったら、また忘れてしまうかもしれない!」
 煉璃さんは引き下がってくれなかった。どういうことだよ、一回思い出したものをまた忘れるって。あ、刺激が強すぎて脳が拒否反応を起こすということか。なるほど。

 私はまだ棒立ちのままだ。声も出ない。出そうと努力しているが、出るのはただの嗚咽だけだ。
「そうだぞ、都己! 今聞きださなくて、いつ聞き出す」
 お兄ちゃんも参戦してきた。マジかよ。
「でも、その前に割っちゃったカップを……」
「ねえ、何があったの?」
「どうなんだ! 思い出したんだろ! 教えてくれよ!」
 二人は武藏さんの声に耳を貸さなかった。いや、貸したけど無視った。
 その後も私から十一年前のことを聞き出そうと、ずっと問いかけてきた。武藏さんは二人を咎めようとしてくれたが、二人は見向きもしなかった。

 息が、呼吸ができない。二人の声だけが妙にこだまして聞こえる。足から流れ出る血液が昔の出来事を思い起こさせて来る。嫌だ、苦しい、怖い。
 そして、
「うっさい!」
 やっと出た私の声は、そんな怒りのこもったものだった。怒鳴り声だった。これは、怒ってもしょうがないと思う。が、
「なんで怒鳴るんだ!」
 お兄ちゃんはお怒りになった。うええ……。やっと上げられた目に映ったのは兄の怒り顔。
「俺たちは、お前が心配で聞いているんだぞ!? なのになんで怒るんだ!!」
 は? いきなり怒鳴っちゃった私は悪いと思うけど、この兄の対応はおかしい。
「…………」
 私は黙る。もういろんな感情が溢れてよくわかんない。

 兄は言葉を続けた。
「大体なんで黙ってる! 大丈夫とかなんでもいいから少しでも受け答えしろよ!」
 兄は怒鳴る、その当たり所の悪い怒りは私の足に入っていくように私の足からは血が滴り落ちていく。
 おお、これは怒っていいよな、いいよな。もう、どうにでもなれ。
「は!? 大丈夫!? お世辞でもそんなこと言える状態だと思ったの? お兄ちゃんは、私のさっきの反応を見て。ちゃんと顔の色見た? 口から漏れる嗚咽は聞こえなかった?」

「聞こえなかった。顔色なんて今日帰ってきてからずっと青いしよくわかんなかったぞ!? というかなんで怒鳴る?」
「おまえが怒鳴ってるからだよ!! お前が理不尽な怒りを私にぶつけてくるからだよ!!」
「おまえ!? 俺に向かってお前呼ばわりしたなおい!」
 あ、やばい。地雷踏んでしまった。
「閏! 落ち着いて」
 そんな言葉を煉璃さんが兄に掛けるがもう遅い。なんでここになるまでこの人もこの人で……なんかもう嫌だ。
「お前いったん外に出ろ、頭冷やせ!」
 グイッと、お兄ちゃんは私の腕を引っ張る。
「!?」
 そのまま私は外に連れ出された。
 お兄ちゃんはいいと俺がいうまで入ってくるな! という捨て台詞とともに家の中に入ってしまった。

 現在の所持品。携帯、腕時計、のみ。
 装備、紺色の猫が大体的に描かれた白色のパーカー、その下に着ている黒のブラウス、ワインレッドの短パン、黒のニーハイソックス、黒のスニーカーのみ。それに両足ガラスの破片がぶっ刺さっており、出血多量。
 軽装備すぎる。危なすぎる。春の夜にはこれは厳しい。春と言っても今は六月の梅雨なんだが、どちらにせよ少し肌寒い。

 にしてもこれはお兄ちゃんは酷すぎる。これは何も言えなかった私も悪いかもしれないけれど、あの人の方がもっと悪い気がする。あああああ! でも、元々の原因は私だし、むしゃくしゃするな。
「ちっ。このやろう」
 私は玄関のドアの近くの壁に寄りかかり、腕時計を見る。現在の時刻は十八時五十二分。
 どうしようか。靴は履いているから散歩でもいこうか。夜の散歩もたまには悪くない。
「うん。そうしよう」
 と、私が行こうとしたとき、玄関のドアが開いた。
「?」
 私は振り向く。そこには煉璃さんがいた。

「凛和ちゃん、あの、ごめんなさい」
 外に出てきた煉璃さんの一言目はそれだった。深々と頭も下げている。
「…………」
 私は、何も言えずにただただその光景を見ることしかできない。そんな行動に事の重大さに気づいたのか何だかわからないが、感傷的な顔で私を見てきた。
「ごめん、そうだよね、そんなにいきなりあんなこと聞かれても言えるものも言えなくなっちゃうし、パニクっちゃうよね。それなのに、私は都己の指摘にも耳を貸さずに自分のことだけで……本当に、ごめんなさい。よかったら、昔のことは、言えるような心境になってから教えて」
「いいですよ。それに、今回は私も悪いことをしたのでおあいこということで」
 私は笑う。にひひと笑った。
 涙なんて、出てこなかった。
 もう、怒ったって何もならないだろうし。面倒くさいことが起こるだけだ。
「それじゃ、怪我、少しだけど手当てしようか。足だして」
 そう言う煉璃さんの手には救急箱が握られている。どうやらこちらに来るときに持ってきたらしい。
 そのあと彼女はきれいに私の足を治療してくれた。包帯が巻かれ、そのあとにそれを被せる形でニーハイを履かせてくれた。
 本当にこの人は根は優しい人なのだ。
「よし、オッケー」
 彼女は立ち上がって延びをする。その顔はさっきより晴れていた。

 なんだかよかった。
「あの、ありがとうございました」
 私は礼を言った。少しお辞儀も含める。
「いいよ、今回は色々あったし、それに凄く見てて痛そうだったし。でもごめんね、いま都己が説得してくれているんだけど閏が…………」
「ああ。なるほど。では私は少し夜の散歩をしてきます」
「え、足大丈夫なの? 結構奥深くまでいってたけど。なんなら救急病院につれていきたいぐらいの怪我なんだけど」
 煉璃さんは困った顔をする。
 それもそのはず。さっき私の足に刺さった破片は厚さは二ミリ程度のものだったが、長さがすごかった。三センチぐらい。本当にぶっ刺さってた。
 抜いている最中に煉璃さんにこれは見ない方がいい! 見ない方がいい! とすごく言われた。しかしそれでも私は見たのだが。そして見事な大出血だった。
 いまは止まったが。

「いまは大丈夫です。煉璃さんの治療がすごくうまいおかげですね」
「でも……」
「それに」
 私は煉璃さんの言葉を遮る。
「ちょっと気分を落ちつさせたいので」
 この人は察しがいい。だからたぶんこれだけで意味が分かっただろう。煉璃さんは申し訳なさそうな顔をしてくる。
「…………わかった。でも何かあったら、連絡頂戴? それと、これ」
 私にあるものを握らせる。それは普通の人なら持ってはいないし、ましてや持っていてはいけないものだった。
「これは」
「護身用。銀で作ったナイフだよ。最近物騒だから、何かあって身の危険に遭いそうだったらそれを使って。魔物でも急所をつければ殺せる」

 煉璃さんに渡されたナイフの柄がキラリと月明かりに照らされ、怪しく光る。というか、さらっと煉璃さん魔物って言ったな。まあ、今回はもう面倒なのは嫌なので無視することにした。

「でも……」
 私は口を濁しながら煉璃さんを見る。そして、彼女は私に無駄な心配をさせないよう、とても安心できそうな声でありながら、とても力がこもった声で私に言葉を向けてくる。
「何かあって、あなたが死んでしまったらバカが何て言うか……、あいつは元々面倒くさいのにもっとそうなる。だから、護身用。持ってて」
「……わかりました」
 煉璃さんのあまりにも真剣な表情と声色に負け、私はおずおずと引き受ける。
 今日は本当にいろんな人のレアなものを見るな。
「では、行ってきますね」
「うん。いってらっしゃい」
 煉璃さんは笑顔で見送ってくれた。
この判断で、私を最悪な非日常に連れていくとも知らずに。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.9 )
日時: 2017/04/17 22:01
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

「ふぅ」
 私はそのあと近くの公園に行った。
 寒いからきーこきーことブランコを揺らして少し子供のように遊んでみたが、なんか空しくなって止めた。
 それからはベンチで身を丸くして時間をつぶしている。それにしても寒い。
「暇だな。うん。お金無いからコンビニでホットな紅茶を飲むこともできない。というか、あの割れた物の処理やってくれたんだろうな。あとでお礼を言わなくては」
 もう暇すぎてそんなとこを一人でぶつぶついっている始末だ。
 どうしよう。帰ろうか。帰っても家に入れるかどうか甚だ疑問だが、でもまあ、そろそろ帰ってみよう。

 いまの時刻は、腕時計を見ると九時四十六分。嫌な数字が続いてやがる。
 あ、まて。今日はなんか変な予感がしていたんだ。
 でも、それはあれだよね、この家に出されるという行為の事を示していたんだよね、そうだよね。
 あれ? でもおかしいな、変な悪寒がする。いや、これは寒いからであってそんな変な事が起こるっていう警告じゃないはず。
 そうだ。私はそう信じたい。
「よし、帰るか」
 なにかが起こる前に私は帰ろう。

 しかし、少し私の判断は遅かった。
「あ、いたいた。みーつけた」
 知らない男の人の声が聞こえてきた。
 私のことじゃないよな。うん。帰ろう。
「いや、君だよ。君! 君!!」
 君君? だれ? 知らない。よし、帰ろう。
 私は歩を進める。
「待てって、ジジョーヒーローの妹の弥生凛和!!」
 …………。あ、巻き込まれた。これは完全に兄に巻き込まれた。
 このやろう。どうしてくれるんだ私の人生。これは完全に死亡フラグというものが立った。よね。立ってしまったよね。

「と思いながら歩を早めるのやめろよ! 待たないと……」
「!?」
 なにか物凄い殺気を感じた私は声がしていた方を振り返った、振り返ってしまった。
 そこには鉄パイプを持った私と同じぐらいの背丈でとても綺麗な黒髪が太ももぐらいまで伸びた少女あくまが立っていた。
「殺すぞ」
 その男の声とともに、女の子は私を鉄パイプで躊躇なく殴ってくる。
 私は打たれ所が悪く、一発で気絶してしまった。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.10 )
日時: 2017/04/21 07:20
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

 頭が痛い。なんだか金槌でぶたれているような感覚がするほど痛い。

「…………」

 私の体の下が硬い、冷たい。コンクリートか石の上にでも寝ているのだろうか? あ、違うや、寝かされているのだろうか? どうなのだろうか?

 そういえば、殴られて気を失い、しかしそれでも気を取り戻したとき、漫画やアニメ、ドラマなどの大半はその殴られた時の記憶は無いという現象が起きる。が、しかし、しかし!! 
 ……私、全部覚えているってどういうことですか。もう絶対悲劇のヒロインとかそんな感じの器ではないのだな。でも本当鮮明に思い出せすぎてもう笑えるほどなんですが、爆笑してもいいですか。

 というか、最後私が女の子に金属バットで殴られる前に、あの黒髪の男の人殺すぞとか言ってたけれど、私死んでないんですが、普通に生きているんですが、どういうことなのかなこれ。
 というか、ここ寒い。え? 今、梅雨だよね。真冬並みとは言わないけれど、春に入ったか入ってないかよくわからない時期並みに寒いよ。なんなんだよここ。
 まあ、そんなこと思ったって、なにもならないか。

 えっと、足と後頭部の痛み以外、痛いと感じるところは無くて、手、足、胴体、どれも縛られている圧迫させられてるという感覚どちらもなし……か。

「…………」

 一応、目を開けてみたほうがいいのかな。たぶん、さっきいた公園ではないところにいるよね。

 さっき私がいた公園は全面が芝生に覆われており、コンクリートの部分など一箇所もない。
 あるのは黒い粒がたくさん集まっている砂場、長さ五メートルにも及ぶ巨大なジャングルジムと滑り台、そしてさっき私が乗っていたブランコ。こんなものだ。
 コンクリートは道路に行かなければない。殴られた衝動で私が道路に飛ばされたという線も存在するが、公園沿いを通っている道路のコンクリートはごつごつとしている。
 だけれど、今私が寝かされているところはどちらかというと手が滑らかに滑らせることができるほどすべすべしているので、その線は無いということになる。
 ということはどこかに連れられてしまったのだろう。あの二人によって。お兄ちゃんの敵によって。

 完全に巻き込まれちゃったのか、私は。
 って、あれ……まって。ここ、異世界というところじゃないよね。お兄ちゃん達って確か、魔界っていうところの奴らと戦っていたはず。ん? 嫌だよ? 地球から出さないでよ。

 私は重たい瞼をほんの少しだけ開けた。
 ほんの少しだけ開けた視界に映ったのは、だだっ広くてたぶん野球場が一個は軽々入るであろう空間だった。
 嘘だろ。え、私をさらったの結構ラスボス的な存在なのかな。え、まって、怖い怖い。
 私は目を閉じる。そして、寝た。


 たぶん二時間ぐらい寝て、私は起きた。そしてついついうっかりして起きたと同時に目をパッチリ開けてしまった。
「あ、起きた。キリト様、ヒーローの妹起きましたよ」
 そして、速攻起きたのが女の子に見つかってしまった。
 私は覚えている、私を金属バッドで殴った女の子だ。女の子と私の距離はたぶん五メートルもないだろう。
 まさかの事態。絶体絶命。どうしよう。怖い。

 お兄ちゃんがヒーローだからって私がお兄ちゃんの敵にかなうような力を持っているわけではない。
 お兄ちゃんは敵と戦うとき一回見ただけだが、幻術というか、火に包まれた竜をどっかから呼び出して戦っていたりした。が、私にはそんな力はない。私はただの一般人だ。人間だ。

「お、本当だ。おはよう、弥生凛和ちゃん」

 女の子に私が起きたのを教えてもらった男の人、名はキリトというらしい人が私に向かって微笑む。
 と、同時に私の体中に悪寒が走った。それに何かが這いずり回ったような感覚に襲われた。気持ち悪い。

「…………」

 私は声を出さずにただただキリトという人を寝ころんだ体制のまま、見る。

 ていうかこの人肌しっろ! 透き通るように白いんだけど。怖いぐらいだよ。
 本当に男は日に一回も当たったことがないのではないかと思うぐらい白かった。
 それに彼の髪は、たぶんお兄ちゃんよりも長く、襟足まである黒髪で、片目が前髪で隠れるほどの長さがあった。
 そして真っ赤のきりっとした目、不敵な笑みをこぼす口、どれもが白い肌に相まって、とても綺麗に見えた。思えてしまった。

 男の人の服装は、とにかく黒かった。黒のロングコート、黒のズボン、黒のミリタリーブーツ、因みに黒のロングコートの下も黒の服が見える。とにかく黒、黒、黒、黒。本当に黒ばっかりだ。黒い塊だ。
 というか、この人の八重歯長くない? とがりすぎじゃない? ん? え? いや、いや、そんなわけがないだろう。

 ──吸血鬼なわけないだろう?
 ──吸血鬼なんてこの世の中にいるはずない。

 「ああ、そうだそうだ」

 表面上は無表情な私を見て、少しつまんなく思ったのだろう。男の人が私に話題を振ってくる。

「まず自己紹介をしなくちゃな」

 一歩ずつ、私にゆっくりと近づきながら。

「俺の名前は、キリトっていうんだ」

 だだっ広い空間に彼の足音が不吉に響く。

「で、種族は」

 私は寝ころんだ体制から、すぐ動ける体制に変える。コツン、コツンと響いていた足音は、私の前で止まった。と、同時に男の顔が私の耳元に来た。

「吸血鬼っていうんだ」

「!!」

 その言葉を言われた瞬間、私は全力で後ろに飛び跳ねた。私は一応運動神経には自信がある。十メートルほど離れられた。

「あれまあ」

 吸血鬼はクスクスと嗤う。本当に面白そうだ。

「そんなに警戒しないでよ」

「私をそんな舐めるような感じで見るやつを、食料として見るやつを警戒しないほうがおかしい」

 私は私の周りの物すべてを警戒しながらそう反論する。
 さっきだって悪寒がしたのは私を、あの吸血鬼が私を、本当においしそうな食べ物のように見ていたからだ。
 ああ、踊り食いさせる魚とかはこんな思いなのかな。もう踊り食いを特集する食べ物の番組を見れなくなっちゃうよ。

「あらまあ、ばれちゃったか」

 彼は本当に楽しそうだった。

「おい、キイ」

「はい」

 女の子が抑揚のない声で返事をする。
 この子の名前はキイというらしい。あれ、なんか聞いたことがある名前だな。誰だっけ?

「お前は下がっていろ」

 嗤う吸血鬼。

「了解しました」

 おとなしく下がっていく悪魔。
 女の子が下がったのを確認すると私をまた舐めるように見てきた。

「…………」

 来る。
 私の首筋に冷や汗が走る。
 そして吸血鬼は歌うように、私に向かってこう言ってきた。

「さって、久々の惨殺タイムだ。せいぜい楽しませてくれよ、ジショーヒーローの妹の弥生凛和ちゃん」

 絶対嫌だ。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.11 )
日時: 2017/04/29 20:41
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

「嫌だ。私はあなたを楽しませない。本当に楽しいと思うまでに私は逃げる」

 私は唾を吐くようにそう反論した。

 私が今いる部屋は、視覚で確認できる出口は一つしかない。しかもそのたった一つの出口は、さっき歌うように楽しませてと言っていた吸血鬼の数十メートル後ろに存在した。
 しかも、さっき吸血鬼に下がっていろと言われたキイという女の子がその出口の隣の壁に寄りかかっている状態なのだ。私はその状況を見て尻込みしてしまう。
 どうやら躊躇なく金属バットで殴られたのは、結構私にとっていたかったらしく、トラウマが刻まれてしまったらしく、あの女の子は私の中で無意識に危険人物認定されているらしい。そんなわけで、あの子はなんか関わりたくないようなできる限り戦いたくないという気持ちが強い。いや、吸血鬼もそうなんだが。
 なんというか、一言でいうと、怖い。ただただ私はあの二人のことが怖かった。

 私はそんな心境を吸血鬼たちに悟られないように睨む。自分はお前らにはやられないぞ。と言いっているように。

「うーん、つまんないなあ。もっと! 助けを乞うように弱々しく目をうるわせるようにしながら俺を見てよ。そんなに強がらないでよ。楽しくない」 

「うるさい。さっきも言ったけれど、私は、あなたを楽しませる気は一ミリもない」

 私は睨む目を強める。

「そんなに俺を睨んでいたらかわいい顔に皺ができるよ」

「こんなちょっとの時間だけで皺ができたら逆にすごいよ」

「ねえ」

 吸血鬼は私に何か思ったようでなんとも言えない表情で私を見る。

「なに」

 私は睨みながら、警戒しながら言葉を促す。そして彼は、やるせなく私に言った。

「もうちょっと怯えて。なんかこっちが悲しくなってきたから」

「…………」

 ごめん、なんて言っていいのかわからないや。
 私はその吸血鬼の言葉にただただ呆気にとられた。
 いやだって、怯えたら負けだと思うじゃん! 思うつぼだと思うじゃん! だったら笑うか、睨むか、相手の嫌がることをするにきまってるじゃん!
 え? なのに、え? 今吸血鬼なんて言った? 『もうちょっと怯えて。こっちが悲しくなってきたから』は? え? それを私に言ってきて何になるの? え? 

 というか、私はどうすればいいのだろうか。
 これは相手が精神的に弱まってきた、ということで受け取っていいのだろうか。わからない。いろんな意味で私は困ってしまった。真顔で。

 とりあえず、こんなことを考えてもなにも私にとっていいことは起こらないと思ったので、私はここから脱出することを考え始めることにした。
 何もない、あるとしたら巨大な何本もある柱のみの部屋は出入り口が視覚的に認識できるものが一つだけ。たった一つ。
 その隣には、私を金属バットで躊躇なく殴った女の子が私たちの様子を傍観者のように窺っている。さっきの様子を見てでの印象ではたぶん、あのキイという子は吸血鬼の言うことなら何でも聞きそうだ。
 最悪の場合、あそこに行くことができても、吸血鬼に命令されれば一瞬であの女の子によって殺される。

 どうしよう。今私がいるところは出口の扉から約百メートルある。私の五十メートル走のタイムは六秒四八だった。だとするとあそこまで約十三秒。難しいかもしれない。
 でも、やってみなくては始まらない。

「あ!!」

 私はいきなり大声を出す。

「!? なんだ!?」

 吸血鬼は突然の私の大声で驚く。

「コンナトコロニ、ユーフォーガー!!」

 自分で言っといてあまりにもばかばかしかったので、片言になってしまった。しかし、奇跡が起きた。

「!? なんだと!? UFO!? どこだ! どこにある!」

 え、マジかよ。ちょろいよ。この吸血鬼意外と純粋さんなのか!? というか、人外でもUFOを知っているところに驚きだよ。
 まあ、そんなことを考えている暇なんてない。私は吸血鬼の横を風の如くすり抜け、出口に向かって走る。全速力で、走った。

 それと同時に壁に寄りかかって傍観に浸っていたキイが吸血鬼にツッコミを入れる。

「!? キリト様、馬鹿なんですか、なんなのですか!? この部屋、窓なんてありませんが」

「え! あ、やっちまった」

 それで吸血鬼が騙されたことに気づく。この吸血鬼、馬鹿だ。
 私は出口まであと約十メートルのところまで来ていた。あと、少し。あと、少し。
 そのあと、何かの破裂音が私の耳に届いた。


 この作戦は、結果を言うと失敗に終わった。
 なぜか、最初に言っておくが、キイは、主である吸血鬼からなんの命令もなかったため、ツッコミを入れただけでそのあとは傍観に戻っていった。
 ならば、誰にこのままいけば成功だったものを妨害されたか。

 そんなのわかりきっていることだ。そう、吸血鬼。
 あと五メートル、たったそれだけの距離だったのに、その距離になっていきなり目の前に吸血鬼の姿が現れたのだ。そして私は、蹴られた。腰のあたりを。
 たぶん吸血鬼は私に向かって廻し蹴りを繰り出してきたのだろう。そのあとは、まあ、普通に私は横に吹っ飛んだ。たぶん数百メートルぐらい。で、壁に体がめり込んだ。
 それと同時に体の中からとても嫌な音が聞こえたのは言うまでもない。

「っぐ……はっ……」

 吐血こそしなかったものの、私は肺の中の空気を全部吐き出す。
 ガラガラという音が耳元から聞こえた。そのあとにゆっくりと私は一部の壁とともに床に落ちていく。

 私が床に落ちて数秒した後、頭上で嘲るような声が聞こえる。

「ああ、ごめん、勢いよく蹴りすぎたわー。大丈夫?」

 体が痛い。これは骨が何個か逝ったな。私は息を整える。

「…………。さっきの──」

「おお、喋れるんだ。凄いね。ん? どうしたの」

 吸血鬼が私の言葉に反応する。私の質問を促してきた。

「さっきの……ぐっっはっ。あれ、瞬間移動ってやつ?」

 吸血鬼が『にたあ』と、変な言葉がつきそうな、なんとも言えない笑みを私に向けてくる。実に気分が悪い。

「そうだぞ。あれはな、世にいう瞬間移動ってやつだ。よく分かったな」

 その言葉を嘲るように紡ぐ吸血鬼の声は、認めたくないが、聞いていてとても落ち着くような声だった。
 私は仰向けになっている体を起き上がらせようと、腕に力を入れる。それと同時に体からミシミシと音がした。ああ、これ絶対安静とか言われる類の怪我してるわ。めんどくさい。

「だって、いきなり目の前に現れたんだから、それしかないと思うじゃん」

 私はやっとのことで、上半身を上げた。が、

「──そうか、なら、物分かりの良い凛和ちゃんにサービスだよ」

 手で、首元を掴まれ、勢いよく床にたたきつけられた。

「ぐがっ」

 痛すぎて何が体の中で起こっているのかわからない。だが、一つだけわかること。
 ──流血がない。
 自分でもわかんない。私の身体ってこんなに丈夫なものだったっけ?
 だが、たぶん、内出血は死ぬほどある。だけれど、赤い液体が私の体から一滴も出てない。垂れていないのだ。

「まだ、死んでないよね?」

 次は勢いよく持ち上げられる。

「うん、息ある、死んでない。はは、辛そうな顔! いいね。かわいいと思うよ」

 ──それが一番人間らしい。

 そう吸血鬼が嬉しさを隠そうともしないで、狂気性を全面に押し出しながらに言った。
 この吸血鬼は狂っていると思う。心の底からそう思った。

 あ、そういえば、私がこんな状況に陥っていることを兄たちは知っているのだろうか? 知らないかもしれないな。だとしたら、私の助かる確率って一パーセント未満じゃないのかな?
 私の体重は四十キロ。それを軽々片手だけで持ち上げているのだから、腕力は相当だと思う。さすが吸血鬼。アニメとかで夜の王とかラスボス的な感じで出てくるだけある。

 でも、もし知っていても、私が家から出てきた理由があれだからな。お兄ちゃんが怒り心頭で助けに来てくれないかもしれない。
 ああ、その場合は死んでからお兄ちゃんを呪い殺しに行こう。
 でも、もし、知ってすぐに迎えに来てくれるのなら、いま、向かってきているのなら、私は、それまでの時間稼ぎをしよう。
 それに掛けてみよう。何秒でも、何分でもいい、時間を稼ごう。

 そういえば、煉璃さんから貰ったナイフが、銀のナイフが、ん? 銀のナイフ? 確か、アニメとかって銀のナイフは吸血鬼にとっては致命傷を与えられる道具とかじゃなかったっけ? もし、それが本当ならば、いけるかもしれない。うん。

 私は、この嬉しさを内側にしまっておくことができなかった。

「……何を笑っているんだい?」

 それは、吸血鬼には予想していなかったことだったのだろう、心の底から驚いたような顔と声をしている。

 私は、吸血鬼など相手にせず、ここにいないあの、無駄に熱い人に向けて、微笑みながら言った。

「お兄ちゃん、来なかったらぶっ飛ばす」

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.12 )
日時: 2017/05/11 20:26
名前: 鈴盛プリン(ろろ)

「お兄ちゃんか、まだ、諦めないんだな」
 吸血鬼は少し馬鹿にするように、呆れるように私を見てきた。私はそれに反抗するように、強がって睨む。睨むしか対抗の仕方が分からないから。

「はっ、笑うなら笑えばいい。罵るのなら罵ればいい。しかし私は諦めない」

「兄貴を信じる……てか。そうか、じゃあ、俺は楽しむことにするよ。そしていいことを教えてあげよう。俺は人間が悲痛な顔を浮かべているのを見るのが大好きなんだ」

「うん、なんとなく察しがついていたけれどやっぱりそれは狂っていると思うよ。そんなに楽しそうに言っているのも狂ってるし、言っている内容も狂っている。救いようがないね」

 私は失笑する。そうしたら吸血鬼が嬉しそうにした。

「おお、お前真顔や睨みよりもそっちのほうがなんかいいな。そそるな」

「!? お前まさかのM!?」

 え、怖い。なんかこっちのほうが怖い。狂気性を感じる。Mって私の中で最強説あるからね。

 私はゴミを見るような目で相手を見る。お兄ちゃんの時よりもこっちのほうが引いた。

「は? ふざけるな、俺はMじゃない。それと俺を汚いものを見るような目で見るな」

 Mではないのか。なるほど。ということは、たまたまそんな発言になってしまったということか。紛らわしいな。うん。
 そんなことを思っていると、あるところから吸血鬼を中傷する声が飛んできた。

「キリト様、さっきの発言は普通にMに間違われてもしょうがないですよ。正直私も引きました」

「キイ、お前は黙ってろ。お前の言葉は正直で容赦がないから結構傷つく」

 吸血鬼が涙目になる。私の言葉よりも身内の言葉に弱いということか。なんだか面白い。


 とりあえず私は、吸血鬼から少しだけでも離れられる方法を探す。
 吸血鬼は今、私の真上にいる。私の顔の前に奴の顔があるといった状況だ。吸血鬼だから血を吸うのだろうか? 私の血を? そんなの飲んで何になる。とりあえず一回離れよう。
 …………。時間稼ぎだけでいいんだよね。“人間の常識を外さない”やり方で、時間を稼ぐ。お兄ちゃん達が来ることを信じて。
 私は吸血鬼を観察する。今の吸血鬼はキイという少女の中傷のおかげでまだ涙目で少しイライラしているような雰囲気を醸し出している。今なら、いけるか。少し距離を稼げればいい。
 それだけでも時間は稼げると思うんだ。


「…………」

 今か。吸血鬼はさっきの味方の中傷で少し気が散っている。たぶん、今仕掛けないと私は距離を稼ぐ機会を失う。
 私は近くにあった吸血鬼の服、詳しくいうと黒のコートの裾の部分を右手で勢いよく掴み、それを勢いに任せて強く引っ張った。

「うおっ」

 吸血鬼はそういって姿勢を崩してくれる。なんか少し嬉しかった。
 歓喜して時間を使っている暇はない。私は素早く隠し持っていた煉璃さんから貰った銀のナイフを空いている方の左手で取り出し、ちょうど近くに来た吸血鬼の左肩あたりに刺す。

「ぐっ」

 吸血鬼は一瞬苦しそうな顔をした。どうやら痛いということはわかるらしい。そういうものは人間と同じなのだろうか。

 私は刺したナイフを抜き、吸血鬼の落ちてくる体を避け、立ち上がる反動を利用して数十メートル距離をとった。自分の身体を見るとナイフを抜いた瞬間に血が噴き出してきていたが、幸いにも赤い模様は私の身体には現れていなかった。
 私はナイフを振るい、それに付いた血を落す。

 吸血鬼は倒れはしなかったものの、膝を地に落としている。私がナイフを刺した肩からは血が滝のようにではなかったが、大河のようには流れていた。
 どうやら現実リアルの世界でも銀のナイフは吸血鬼には痛いものらしい。普通のナイフだったらどうなったのだろうか、という考えが脳裏に浮かんだが、それは今は関係ないものなので脳の隅っこに放り投げる。

「はは、凄いなお前。そんなものを隠し持っていたのか。誇っていいぞ。俺にさらわれて俺に傷を負わせたのお前が初めてだ」

 吸血鬼は私を睨む。私は今、吸血鬼を見てはいけない気がしたので、少し目を伏せている。

「そうなんだ。でもなんか、あなたに言われてもうれしくはないね」

「あらあら、謙虚な子だねえ。まあ、君のお兄ちゃんにはいつも傷を負わされているんだけど。ていうか、凛和ちゃん何で刺したのこれ。全然治らないんだけど。あ、よく見たら銀のナイフ持ってるじゃん。このやろ、俺の最大の弱点」

「私のお兄ちゃんは強いからね。というか、え? 最大の弱点は日光じゃないの?」

 私は咄嗟にそう突っ込んでしまった。
 銀のナイフよりも、日光の下に行った方が一瞬で灰にできるイメージがあったからだ。これもただ、イメージに過ぎないし、神話やアニメなどの表現に過ぎないのだが。

「!? なぜ知ってる!?」

 だけれど吸血鬼がどきりとしたようなとても焦ってきた声を出してきたので、

「マジかよ」

 私は呆れてしまった。どうやら私のいる現実の世界の吸血鬼は漫画やアニメでよく知られてる設定と同じのようだ。マジかよ、腕力とかそういうの除いて考えると一般人でも倒せるんじゃない? でもまあ、それは腕力を抜いた場合だ。現実はそんなに甘くないし、そう簡単に倒せない。力が圧倒的に違う。一瞬でこちら側が殺られるだろう。


 でも、狙い通り吸血鬼から距離を取ることができた。しかし、油断は禁物。さっきあいつは瞬間移動という、非現実的な技を使いやがってきた。ということは、距離を取ったってそれは一瞬の安息にしかならないということ。

 面倒くさい。早く終わらせたい。そういうことが脳裏によぎった瞬間だった。

「うーん。なあんか、お前を痛めつけるの飽きたわ」

 そう、吸血鬼が立ち上がりながら笑ってきた。私は咄嗟の判断でナイフを元々隠してあったところに戻す。私が今はいている短パンには腰の後ろあたりなぜかペンなどが入れられるようにポケットがついている。そこに入れてあったのだ、あのナイフは。
 私はナイフを入れ終わった後に首を傾げる。

「どういうこと」

「つまりこういうことだ」

 その言葉が私の耳に付くとともに、吸血鬼の顔が私の首筋に来ていた。そしれ逃げられないように右腕をつかまれ、腰にも手をまわされてしまっていた。

「な!?」

 私は逃げようとするが、力が強すぎて肩を振ることさえ許されなかった。

「俺はな、腹が減っているんだ」

 私の首筋に吸血鬼が舌をあててくる。キモイ。え、誰か助けて。

「お兄ちゃん、助けて……」

 私の口からこぼれたのはそれだった。

「あれまあ、まだ信じてるんだ。助けを望んでいるんだ。お兄ちゃんがくるって。お兄ちゃんが自分を助けてくれるって。でももう、ゲームオーバーだよ」

 そして吸血鬼が私の首に向かって歯を突き立てようとする。

「うええ……キモイ」

「!? キモッ!? 怖がるとかじゃなくてそっち!?」

 なんか過剰に反応してきた。なんなんだよこの吸血鬼。喜怒哀楽があまりよくわからないよ。

「キモイよ。本当にキモイ。性的に無理」

「うわあ。辛い。性的に無理って初めていわれた。あのロリコンジショ―ヒーロー女子にもまだそんなこと言われてないのに」

 ロリコンジショ―ヒーロー女子って、煉璃さんのことか?  いや、お兄ちゃんと面識があるのなら煉璃さんと面識合ってもいいんだけど、性癖までバレてるってなにしたんだよ煉璃さん。

「…………」

「あれ? なんか凛和ちゃん呆れたような顔してる。ああ、あの煉璃って子と知り合いなのか。で、その子の性癖を俺が知ってるから、何やらかしたんだよって思ってるのか」

 ギクッと私は反応してしまう。いや、なんでわかるんだよ。

「あ、図星? やったあ。それじゃあ、いただきます」

 吸血鬼は、とってもうれしそうな顔をして、そのまま自分の牙を私の首に突き立てた。

Re: 私の兄は悪と戦うヒーローです。 ( No.13 )
日時: 2017/05/24 00:11
名前: 鈴盛りプリン(ろろ)

「!? は!? 痛っ!」

 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! すっごく痛い! というか、熱い。
なんなのこれは、本当に辛い。
 これは、嫌だ。私は空いている方の手で何とかナイフを取り出す。そして、吸血鬼の左腕の方に近い部分を刺した。

「な!?」

 牙と私を拘束していた手が一瞬離れる。その瞬間を私は見逃すというへまをしなかった。
素早く廻し蹴りをお見舞いして距離を取る。それと同時に少し目眩がした。どうやら少し貧血を起こしているらしい。

「はあ、はあ……」

 私は息を整える。首を少しだけ触ると、手が赤くなった。ベトベトというか、ぬちゃあという気持ち悪い感覚が手の中に広がる。

「あれ、逃げられちゃった。というか、ナイフ刺さったままだよ、俺の腕に。ということは余裕はもうなくなっているということだね。あともう少しだ」

 吸血鬼は自分で私がさしたナイフを抜く。そして、自分の服の下に仕舞った。

 何をするつもりだろうか?
 というか、私は武器を奪われてしまったということになる。これは不利になってしまった。これからどうやって時間を稼ごうか。

「というか」

 吸血鬼が口を開く。私は眉をひそめた。

「何?」

「十一年前のこと、君は覚えているんだね」

 十一年前? それは、どういうことだろうか。十一年前など、一番忘れていい事が詰まっている時なのだが。

「どういうこと?」

「しらばっくれないでよ。君の両親が殺されたことだよ? 覚えているんだよな、お前は。あの、えーと、そう、ひどく似合った長いピンク色の髪をした人が君の両親を殺したんだよね」

「…………」

 吸血鬼は自信満々にそう言った。少し偉そうに、そう言ったのだった。

 なぜ、知っている? いや、当てずっぽうかもしれない。はったりなのかもしれない。
 しかし、私は──初めてこの吸血鬼に対して本当の意味で恐怖心を感じてしまった。

 それと同時に、吸血鬼に主導権を握られてしまったことは言うまでもないこと。彼はとても楽しそうに笑っている。

「黙らないでよ。というか、凄い目で俺を見るね。鬼を見る目だ」

 鬼を見る目? 間違ってはいないかもしれない。たぶん私は今、言葉に表せないほどひどい顔をしているだろう。私は声を低くする。

「なぜ、知っている」

「おお、怖い」

 彼はわざとらしく身震いをする。これがお兄ちゃんだったのならば私はすぐさま飛び蹴りと廻し蹴りをくらわしていただろう。それぐらい、ムカつくやり方だった。

「うーん。いいよ、教えてあげよう。俺はね、ちょっと吸血鬼でも特別な種族でなんだよ。人間でも、化け物でもなんでもいい。ただ、血を吸うだけで、その血を吸った者の記憶が全部見れるんだよ。どう? 凄い?」

 ちょんちょんという効果音がつきそうな歩の進め方をして、私に近づいてくる。しかし、私は後ろに下がろうとしなかった。吸血鬼に対する好奇心というものが生まれてしまった為だ。
 それに感づかせないために私は鼻で笑う。これが今の精いっぱいの対抗だった。

「記憶が? そんな馬鹿な」

「本当だよ。あ、そういえば昨日チーズケーキ作ったの? 凄い美味しそうだったけど。あと趣味はネットと、菓子作りか。インドア派なんだね。もうちょっと外でな? ほら、ガキらしく鬼ごっことか」

「こんな歳で鬼ごっこなんてする機会なんてそうそう無いわ! 小学生とかじゃないんだよ!! 私は!」

 鬼ごっこなんて今は変なテンションにならないとやらない。中学の頃はよくやってたけど。

 というか、この吸血鬼、本当苦手な部類なんだけど。生理的になんか受け付けない部類にいる気がする。

「でも、もしもあんたに私の記憶が全部見れているのなら、手加減はいらない、ということでいい?」

「おお、強気だね。でも、君は少し不思議なんだよね」

「なにが?」

「見れない部分がある。でも、それでも凛和ちゃんの弱みはわかった。十一年前のことが一番の君の弱み。一番根強く記憶の中に存在していたから。そうだよね」

 見れない部分か。どこが。…………わからない。でも、あれはやめておくか。
 そして、十一年前、

「一番根強く存在してるとか。はは、情けない」

 私は溜息交じりに無意識にそう呟いてしまった。

「というか君はさ」

「ん?」

「なんでこんなに記憶が存在してるの?」

 吸血鬼が本当に不思議そう首を少し傾げる。
 どういうことだろう? 記憶なんて沢山存在して当たり前だろう。記憶がなければ人間は生きていけない。
 私は首を傾げる。

「それはどういうこと?」

「だから、脳って自分にとってあまり有益な情報ではないもの、関係ないものは少しずつ排除していくんだよ。なのに君はそういうことはない」

 吸血鬼が、とんとん、と自分の頭を指で触る。

「だから?」

「完全記憶能力って知ってる? ほら、人間ではサヴァン症候群? を患わっている人とかによくあらわれるのが多いってい言われているやつ。君にはそんなもんは無いと思うけど、記憶が忘れられないってことは無い?」

「…………」

 私は一瞬、精神科というか、セラピーとかにいる感覚になった。

 というか、心当たりがありすぎて辛い。どうしようか。

「それがどうした」

 私は虚勢を張る。こいつには弱い部分を見せたくないと本能が告げていたからだ。

「いや、別に。ただ」

「なに?」

「君のことが気に入った」

 そう言って私のほうに急に吸血鬼が駆けてくる。
 まあ、まだ瞬間移動を使われないだけましだけれど。

「あっそう」

 しかし、やはり早い。そして、私はそれを避ける。いや、避けようとした。

「!? 痛った」

 動けないぐらいに足に痛みが走り、何事かと思った。一瞬だけ、私は自分の足を見る。すると、足は血まみれだった。

「ああ、さっきの傷が開いたのか。なるほど」

 私は口で言って無理やり自分を納得させる。
 にしてもどうしよう。あと二秒で吸血鬼が来る。足は鉛のようになって動かない。でも、人間の常識を……人間? 人間の常識って? 常識って何? 鎖? どういうこと?

「あああああああああああああああああああ! もう面倒くさい!」

「!?」

 突然の私の大声に吸血鬼が驚く。そのお陰で少しスピードが遅くなった。しかし、そんなものあまり関係なんてない。速いものは速いのだ。

 吸血鬼は不死身。そんなの知ってる、私は多少傷を負っても気にしない。どうせいつかは治るんだから。
 ──ならば、もういい。人間の常識を外してもいい。時間を稼ぐんだ。

「一回死ね!」

 私はあるものが私の手の内に出てくるように願う。そして、私はその出てきたあるものをしっかりと掴み、吸血鬼の首を掻き切った。

 吸血鬼の首からは鮮やかな鮮血が流れていく。私はその血を何とか足の痛みを耐えながら避け、私たちの様子を見ているキイにも、吸血鬼にも背を向けないようにしながら距離を取った。

 私がしたことは簡単だ。私には昔から超能力というものがあるらしく、想像したものが、出るように願ったものが願った空間に出るという何とも素晴らしい能力を持っている。
 まあ、それは私が両手で持てるサイズのものしか出せないのだが。ほかにもあと一個、違う系統の違う異能を持っているのだけれど、それはまた今度ということで。今はそれは必要ない。
 にしても私の想像した物が願った空間に出るというものは、武器を出すにはちょうどいいものだ。因みに今はちょっとした対吸血鬼用の小刀を出した。そしてそれで迷いなしに吸血鬼の首を掻き切ったのだ。
 今思うと何怖いことを迷いなくやっちゃってるのという話だけれど、その時必死だったんだろう。

「っち。足が痛いな。立つものやっとだよ。どうしてくれんだよ」

 私は悪態をつく。もちろん周りは警戒している。
 というかお兄ちゃんまだ来ないのかな。早く来てほしい。そろそろ出血多量で倒れそうだ。手も青いし、これは結構やばいと思う。

 数秒すると、吸血鬼は首もちゃんと胴体にくっついて、再生して、起き上がった。

「ははは、はははは、ははははははははは、あはははははははははははははははははははははははは!!」

「…………」

 どうしよう。首をはねられて、頭のおかしい吸血鬼がもっと頭のおかしいものになってしまった。

 私は無言で吸血鬼を見る。

「おお、おお、おお、おお! さっきのはなんだよ。というか、そんな武器、君の記憶見たとき一回も出てこなかったけれど、見なかったけれど、どうしたのかな?」

 どうやらお怒りのようだ。血管が首から浮き出てるのがわかる。
 というか、これ何回かやったことあるんだけど。記憶にしっかりと刻まれてるんだけど。
 ああ、なるほど。これが見えなかった記憶か。

「ん? これ? 私のとっておきの武器だよ。こうやって」

 私はさっき出した小刀を掌に持てる位置に出るように願う。

「おお、出た。出すんだよ」

 私は空間から出たそれを強くつかむ。
 因みにさっき使った小刀は左手に持っており、今出した小刀は右手に持っているという状態だ。

「異能、というやつか。は、そんなものを出す記憶は見なかったが。ああ、そうか、俺が見れなかったのはその類のものだったということか。ふん、面白い」

 ははは、とまたおかしくなったように吸血鬼は笑う。
 私は平然を装っているが、結構内面では慌てているので、それを見ることしかできない。
 というか、血を失いすぎて頭が働かなかった。だって、たぶん頭が働いていたら異能のことなんてこんな奴にばらさなかった。

 少し高らかに笑った後、いきなり吸血鬼は瞬間移動を使って私の腕をつかみ、この空間を支えられていると考えられる柱のひとつに向かって投げた。
 私はもう反抗する気力が残っていなかった。さっきあんな偉そうなことをことをさんざん思っていながら情けないことに吸血鬼のされるがままになってしまった。

「あれ? 反抗なしか。ああ、君がいたところ血がたくさんたまってるね。もしかして体のどっかけがしてる? あ、してるね。足が。なんか赤い液体が垂れてるね。そして少し黒いスニーカーも赤くなってる。うーん、俺の食料がなくなっていくのはいただけないな。よし」

 私のところに来た吸血鬼は私の腕をつかむ。

「君へのお仕置きはこうだ。死ぬまで体中の血を絞り出してやる」

 その言葉を聞いた後、私は完全に目を閉じた。

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