複雑・ファジー小説

神と人間との境界線
日時: 2017/05/13 15:55
名前: ネオ (ID: vyKJVQf5)

  「社長」

 この私ともあろうお方に対して「社長」等と、実に無礼な呼び名で声を掛けてくるのは秘書である好美紗枝(よしみさえ)以外にはいない。私はいつもの如く無視を決め込む。

 「社長、コーヒー煎れておきました。それと、いつまでも自分が神だと思い込むのはやめた方がいいですよ?」

 「思い込む?この私が?何を意味の分からない事を・・・。私は紛れもなく誰がどう見ても神ではないか。それを思い込む等と、実に失礼極まりないね、君は」

 「はいはい。とりあえず、私はやるべき仕事が沢山残っていますのでこれで失礼いたします」

 そう言って、彼女は社長室をあとにした。全く、教育がなっていないな。それに頼みごともあったというのに、仕方が無い。自分で買いに行くしか無いようだ。

 「勝臣様(かつおみさま)、お疲れ様でございます」

 「別に私は疲れてなど居ないよ。疲れるという事は要領の悪さを意味する。この私を侮辱するかね?下田君」

 「い、いえ、これは失礼致しました」

 「あぁ、君、買ってきて欲しい物があるのだが」

 「も、申し訳ありません・・・。これから直ぐに取引先に出向かなくてはならないもので・・・」

 「む、そうか・・・。ならば仕方が無い」

 まったく、ついていないな・・・。どうしてこの私が自らの足でコンビニなどという低俗な場所へ赴かなくてはならないのだ。この神たる私が。

 

 「いらっしゃいませ〜」

 一体全体なんなんだこの挨拶は。この神たる私がわざわざ入店してさしあげたというのにもかかわらず、三つ指をつくわけでも、ましてや私の元へ赴くわけでもない。やはり無礼極まりないな、このコンビニという場所は。

 「やぁ、君、探し物があるのだが?」

 「はい、なんでございましょうか?」

 「接着剤、一番強力な物を頼む。どうも机の脚が痛んでいて軋むのだよ」

 「さようでございましたか。でしたら、こちらの瞬間接着剤がよろしいかと存じ上げます」

 「では、それを三つほど頼めるかな?」

 「はい!ありがとうございます」

 口調だけは身の程をわきまえているようだ。これで態度も良ければ百点なのだがね。

 「それでは合計で八百九十円でございます」

 ・・・!?

 ま、まさか・・・、この私ともあろうお方から金を取るというのか!?一体全体どうなっているんだ、この店は!?

 「あ、あのぉ〜、お客様?」

 「なんだね?」

 「お支払いは・・・」

 「この私ともあろう方から、金を取ると、君はそういうのかね?」

 「警察呼びますよ?」

 こ、この愚か者目が!!しかし、警察を呼ばれるような事態に陥れば、この私ともあろうお方が長を勤める会社の看板に掠り傷をつける事になる。警察ごとき、金でいくらでも買収できるがそれを目撃されては・・・。仕方ない、ここは金を払う事によって穏便に済ませるのが吉。ふふ、さすが私、天才的判断力だ。

 「では、これで足りるかな?」
 
 「はい。では一万円をお預かりいたします。こちら九千百十円のお返しに・・・」

 「釣りは結構。私ともあろうお方が万札以外を手にするなど、愚の骨頂なのでね。その金はチップとして受け取りたまえ」

 「し、しかしそういうわけには・・・」

 「この私が、申しているのだ。株式会社テオエネルギーの代表取締役社長であるこの私が、だ」

 「も、申し訳ございません!で、ではありがたく・・・」
 
 「あぁ。分かればそれでいいのだよ」

  はぁ、買い物一つでもここまで面倒なのか。よくもまぁ庶民はこんな生活を続けていられるものだ。私だったら当の昔に我慢の限界が到来し精神が崩壊していた事間違いなしだな。

 「ん・・・?ところで・・・」

 さっき買った接着剤はどこへいったのだ?まぁ良い。次は秘書にでも行かせるとするか。いやはや、我ながら、実に無駄な時間をすごしてしまったな。

 社長室にて。

 「ふむ、それにしても、実に退屈なものだな。そうは思わないかね?好美君」

 「私の生活は実に充実しております。社長は自分自身で行動するという事をしないからそのように感じられるだけでは?少しくらい自分で何かをしてみると、案外刺激的な日常になるかもしれませんよ?」

 「私は、先ほどわざわざ自らの足でコンビニなどという低俗な場所へ赴いたのだが、やはり少々面倒なだけであったよ。これを繰り返したところで、所詮たいした刺激にはならないと思うのだが、庶民である君たちは違うのかね?」

 「えぇ、私たちは庶民なので社長の考えは全く持って、一ミリも理解できかねます」

 「神と人との差・・・か。悲しきかな」

 おっと、私ともあろうお方が、このような低俗な庶民如きとここまで長く会話を続けてしまうとは、実に不甲斐ない。神がたやすく人と接するなんてことはそう簡単にあってはならないのだが、どうにも中々、退屈が過ぎると口が開いてしまっていけないねぇ。



 ―数日後―


 退屈・・・か。

 社長、すぐにその退屈、ぶち壊してさしあげましょう。

 きっと、喜んでくださると思います・・・。

 「準備、出来ましたか?」

 「あぁ、完璧だ」

 「なら、始めましょうか。社長を楽しませるための、ショータイムを・・・」

 ―翌日―


 「社長、社長宛に文が届いております」

 「差出人は誰かね?」
 
 「それが・・・」
  
 何を言い淀んでいるのだ、彼女は。差出人の名前くらいすぐに言ってほしいものだ。そんな事如きに割く時間というのは実に勿体無い。

 「どうした?差出人は、誰だね?」

 「爆弾魔、と記されております」

 ・・・・・・・・・は?ばくだんま?ばく、だんま?ばくだ、んま?ば、くだんま?いや、待て・・・、爆弾魔だっ!!

 「そ、それを貸しなさい、好美君・・・」

 「はい」

 ていうか、何故この女はこんなにも淡々と落ち着いていられるのだ!明らかにおかしいではないか、こんな手紙!!

 「えー、どれどれ・・・?」


 ― 株式会社テオエネルギー・代表取締役社長、神田勝臣(かんだかつおみ)様へ。

 この度は、この様な形でのご挨拶となってしまい誠に申し訳ありません。お先に、お詫び申し上げさせて頂きます。

 さて、本題ですが、私は「爆弾魔」と言います。読んで字の如く、爆弾を扱う悪魔の様な存在だと思って下さって結構でございます。
 
 実を言うと、会社のどこかに爆弾を幾つか仕掛けさせていただきました。もちろん、それが爆発すればそのフロアが丸ごと消し飛ぶほどの超強力な物で、社長が開発されましたテオエネルギーを動力源とさせて頂いております。

 社長なら、このエネルギー使った爆弾の威力、用意に想像出来ることと思います。

 そこで、社長には十二時間の猶予を差し上げます。それまでに犯人を特定するか、爆弾を解除すればアナタの勝ちです。もちろん、十二時間経過するまで爆弾は爆発しません。

 なお、警察に連絡が行き届いたのを確認出来た場合、爆弾を即座に起爆させていただきますので、あしからず。これは私と社長とのゲームです。他の方には、知らせぬように・・・。

 それと、私、「爆弾魔」はこの会社のどこかに居ます。では、頑張って探してください。

                                     長文失礼致しました。「爆弾魔」より。


 「社長、大丈夫ですか?」

 「あ、あぁ。大丈夫、なんでもない」

 「そうですか。して、手紙は?内容はなんだったんです?」
 
 「なに、ただのイタズラさ。気にする程の物じゃない。君は仕事に戻りたまえ。私は少しやるべき事が出来たのでね」

 「はい、分かりました」

 ふ、ふふふ・・・、爆弾魔、か。

 いい、度胸ではないか。この私ともあろうお方に喧嘩を売るなど・・・。

 後悔させてくれるわっ!

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