複雑・ファジー小説

一二三妖【3-7 更新 9/24分】
日時: 2017/09/24 11:16
名前: 塩糖

――数えて百鬼、誰もかれもが悩みを、願いを、持ち生きる
ああならば世界はきっと、無常なりて



*****

 初めまして、塩糖(えんとう)と申す者なり
皆さんの小説を読んでいて自分もやってみたくなり投稿させていただきました。
今回のジャンルといたしましては「妖怪もの」となっております、戦闘などの要素もありますが何分素人ですので期待はせず、読者さんの暇つぶしの一作になれたら幸いです。
ちなみに感想を書き込まれると作者が狂喜乱舞します

誤字訂正報告いただけると感謝感激してすぐに直します

****
目次
・第零音目 【「」】 >>1(改)
・第一音目 【一から始まる妖道】 -1 >>2(改) -2 >>4(改) -3 >>6(改) -4>>7(改)
           -5 >>9(改) -6 >>11(改) -7 >>12(改) -8 >>13(改) -9 >>14(改)
・第二音目 【碌でもない奴ら珍道中】-1 >>15 -2 >>16 -3 >>17 -4 >>18 -5 >>19 -6 >>20 -7 >>21 -8 >>22 -9 >>23 -10 >>26 -11 >>29 -12 >>31 -13 >>32 -14 >>33 -15 >>34 -16 >>37 -17 >>39 -18 >>40 -19 >>41 -20 >>43  -21 >>44 -22 >>45 -23 >>46
・第三音目  【果てぬ意欲は水の中】-1 >>47 -2 >>48 -3 >>49 -4 >>50
 -5 >>51 -6 >>52 -7 >>53(9/24 9:40更新)

※二話まで一応届きましたので、ここからは2日に一回の更新とさせていただきます。
片側の一日は修正、改稿作業。そしてもう一作の短編執筆に当てさせていただきます。


****
キャラの簡単な紹介(随時更新-軽いネタバレ含みます)
・幸(ゆき)
 主人公の妹、皆とピクニックに出かけた際、草むらの中に動物がいると言って姿を消した。

・始(はじめ)
 一尾の妖怪、元は狐ということもあり、黄色い尻尾と耳がトレードマークだそう。狐火を扱うことができる、ちょろい。
変化と憑依も使えるが本来は実用には程遠い程度
尾獣堂の新米妖怪。ついに全快したのだが、今のところ彼の成果は間違いで人を燃やしたことと風呂沸かしぐらいである。

・???
 人間、結構その場の感情に身を任せ行動することあり。けれど普段は理性的思考をしていると考えているため少したちが悪い。
調子に乗ってとんでもないことになって焦ることしばしば、他の読者さんからは年齢と心の中の言葉がかみ合ってないと指摘された。
 羊羹が地味に好きだが、いかされることはないだろう。

・祢子(ねこ)
 ろくろ首、何かと男勝りな性質で一見勘違いされそうでもあるが本人はとてもやさしいため少し話せば大体みな慕う。紫陽花の意匠の着物がお気に入り。首がどこまで伸びるかは彼女しか知らない、ちなみに腕は伸びない。
彼女を怒らせるべからず、そして飯テロ(物理)をよくする。

・黒斗(くろと)
 あほう
町の治安維持の仕事をしているらしいが、締まらない
何かとマイペースではなすので、一部の人と話すときはよく急かされる。
唐揚げもいいよね

・碌郎
 ろくろ首、祢子の旦那で昔はそこそこの男だったらしいが今はてんでだめ、一度服を質に入れたせいで祢子の管理の元、安い気物しか着させてもらえない。
畑仕事から離れたためか、体力は強い人間並み。
彼は今、やりがいと断頭台に立たされた二つの気分を味わいながら鍬を振る。

・???
 君は誰かって?僕かも俺かも私かも、そんな想像を楽しんでほしい
そう書置きが残されている。

・アマメ
 なまはげ、きっと悪戯が大好きな人。祢子さんとの付き合いがあり、男勝り同士気が合うのだろうか。

****
・近況報告
 お腹壊してしばらく寝込んでました、すいません。
あとコメライの方で、もう一作はじめました。よろしければそちらもどうぞ


・企画
オリキャラ募集 無事4人の妖怪が集まりました!参加いただいた方々感謝が尽きません。


*****
お客さん一覧
・マルキ・ド・サドさん

・ダモクレイトスさん

・ヨモツカミさん

・銀竹さん

・月白鳥さん

・ももたさん

・透さん

お便り待ってます!

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Re: 一二三妖【3-2 更新 9/7分】 ( No.49 )
日時: 2017/09/12 00:25
名前: 塩糖

【果てぬ意欲は水の中】-3


「尾獣堂はなんといいますか、この妖界ではご意見番? 実際統治しているわけではありませんが、昔の偉業からこの妖界では中々の権威を持った組織なわけです。なので尾獣堂の者、と言われれば僕程度の妖怪でもそれなりに発言力が与えられるわけです」
「権威があるのに、統治はしない……なんか変な感じだな」

 いや、統治とは本来権力を持つものがすることであり、それが黒使(くろつかい)たちなのかと自身の中で納得する。そうしてまた始の言葉に耳を傾け、気になったことをちょくちょく繰り返したり、聞き返したりする。
人界で例えるとするなら、尾獣堂はなんであろうか。別にリーダーではない、しかし一度声を発すれば多くのものがついて行く。メディア、いやあれも情報という立ち位置であればかなり統治していると言えなくもない。それに発すれば皆ついて行くかと言えば、そうでもない。
クラスの人気者、すごい小規模な存在ではあるがそんなところだろうか。
次に疑問として浮かぶのは、尾獣堂がそこまでの権威を持った理由……成し遂げた偉業とやらである。
頭は動かせないが、少し傾けるような気持ちで尋ねる。

「じゃあ、その偉業ってのは何なんだ?」
「ふふ、聞いて驚いてください……尾獣堂先代、九尾の狐(きゅうびのきつね)様はなんと、妖界の創始者なのです!」
「そうし、え、ってことは……作ったってことか!?」

色々ととんでもないワードが出てきた、と仰天する。九尾の狐、なんて誰でも知ってるようなとんでも妖怪ではないか。尾獣堂と、新米が一尾ということから想像はできたのかもしれないが、実際に言われるのでは話が違う。
後、作ったというのはどういうことはどういうことか、と一は考える。
もしや、本当に一からこの世界を作り上げたのか……、と思った後すぐ、始が訂正するように付け足す。

「あ、結界を張ったという意味ですよ!? 流石に何から何までなんて、神の所業とも言えることは無理ですって」
「そ、そっちか……」
「そうです。とはいえ空間の一部を仕切り、尚且つ外の人に気付かれないというのもかなりのことだと思いますが」

その言葉からして、もともと日本のどこかにあった土地を使ってこの妖界を作り上げたというのだろうか。
しかし、そうなると本当に人間に気づかれないのかと少し心配になる。特に、空から……衛星写真などで簡単に気付かれてしまいそうなものだが。その辺にも対応できている辺り、その九尾の狐とやらは本当すごいようだ。

「ん? 先代ってことは……」
「そうですね、僕が尾獣堂に入るその数年前に亡くなられておりました。今代の師匠は、結界の管理をいきなり任されたそうで……結構苦労されている様です」
「ああそうな――あ、お帰りなさい祢子さん」
「戻ったよー、ってなにか話し中?」

玄関の扉が擦れる音が聞こえ、それを察知し言葉を打ち切る。視界の隅に映った藍色の着物で、それが誰かを判別し迎えの言葉を出す。
もうちょっと聞きたいところがあったのだが、思いの外速い祢子さんの帰宅により言ったん止める。流石に尾獣堂の人間、いや妖怪扱いされているのに尾獣堂の話を聞いているのは少しおかしなことだろう。
祢子さんは一旦皿や釜をしまい、そして履き物を脱いで畳に上がってきた。
とりあえず、話題を変えなければと何かないか頭の中で考える。と、そういえば号外がその辺りにあったと思いだす。

「あー、いえちょっと号外……例の事件の犯人について」
「ええそうです、まさか犯人が妖怪とは」

俺の誤魔化しに、始も乗る。すると彼女の興味は畳に落ちていた号外に移ったようで、それを拾い上げると畳に座る。
その際こちらに見えた号外の紙の裏面にはやはり、読めない文字で何やらいろいろと書かれていた。
祢子さんも既に見ていたのだろう、どちらかと言えば内容を確かめるようにそれらに目を通した。そうして、ふと何かが引っ掛かった様子でこちらに問いかけてくる。

「ああこれ? まったく、どんな奴なんだか……って、二人とも読めるの? 本文は漢字多いけど」
「えっと俺は、全然読めないので始に読んでもらって」
「はい、僕は結構詰め込まれてますのでかな文字とかなり簡単な漢字くらい」
「へー、流石尾獣堂……って一君は違うの?」
「あーそれは、僕の方が先輩で」

そういえば、妖怪の中では10歳もそこそこ幼いくくりに入るのであった。であれば読めることを少し不思議に思うのは当たり前である。彼女の疑問に、俺は正直に、始は俺のことをごまかしつつ答えた。
とりあえず納得してくれたようで、そのまま流そうと……しない。数泊置いて、今度は別の疑問がわいたようだ。

「ってえ、全然読めないの?ほら、この絵の辺りの題名とかはわかりやすいようにかな文字だけど」
「あ、あーいやちょっと……」

どうやら今度は10歳にしては識字率が低すぎるということで、祢子さんは生地の中でも読みやすいであろう部分を見せてくる。文字が読めない子供向けなのか、事件紹介のための絵が描かれている様だが、全くわからない。
絵自体は、巨大な鬼……腕が四本、顔が二つあることから両面宿儺と判別できる。その前には子供、いや恐らくは女児か。それが何やら禍々しい黒い靄のようなものを纏い、壺を割ったり棚を倒したりして暴れている姿が描かれていた。倉荒らしということを伝えているのだろうか。
その横には、恐らく絵を注釈しているであろう文字があるが、これもまたわからない。
祢子さんが言うことが本当ならば、かな文字。つまり本来は読めるはずだが、崩されすぎてて殆どわからない。正直に言えば漢字のほうがまだ認識できる。

 それを伝えると、少し祢子さんの表情が険しくなる。どうやらいくら妖怪では幼いとされる10歳でもかな文字が読めないというのはまずい様だ。その懸念を察して、始が助け船を出そうと何か言いだそうとする。
だが、その前に彼女は思いついてしまったようだ。とってもいい笑顔で一つ、提言してくる。

「じゃあ、いい先生がいるから紹介するわ」

なんとなくだが、嫌な予感がした。



*****
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Re: 一二三妖【3-3 更新 9/9分】 ( No.50 )
日時: 2017/09/17 12:34
名前: 塩糖

【果てぬ意欲は水の中】-4


「先生、ですか?」
「そう、町の子供たちを集めていろいろと教えてくれる……その中でも一番いい人知ってるから紹介しておくわね」

 先生、という単語は少し苦手である。そう一は自分の知っている人を思い出しては首を振った。尊敬している人物でもあるのだが、普段は大体うるさい存在でもある。日常生活の仕方や日々の悩みなどを親身になって聞いてくれる……むしろ、こちらが拒否して出も聞いてこようとするあの姿勢はいかがなものなのか。
と、少し考えすぎて返答が遅れてしまった、祢子さんや始かが不思議そうにのぞき込んできていた。

「――さん、一さん?」
「一君? どうかしたの?」
「あぁ、いやちょっと……その、どうしても受けなきゃまずいですかね」

普段ならともかく、妹の捜索をしたい今の状況で人の、妖怪の教えを受けているわけにはいかない。どうにかしてこの流れを回避したかったのだが、彼女はそれをまだ遊びたい盛りの子供の言葉だと受け取ってしまったようだ。

「流石にまだ10歳だから、遊んでいたいってのは分かるんだけどね~」
(10歳でもまだ遊ぶのか、妖怪ってのは結構ゆっくりなんだな。そうすると始の詰め込みが本当に早いって訳か)

先ほどの険しい顔からして、10歳の時には初等教育レベルだと予想したのだが、どうやら別にこの年齢では珍しくもない様だ。
ならば通う必要はないではないかと反論したかったのだが、それは祢子さんに止められた。何やら別の理由があるようで、表情を緩めず続ける。

「――けど、これから二人で暮らすんでしょ? 買い物とかしっかり勉強しないと大変だろうし」
「それは、そうですけど」
「な、なら僕が一さんに教えますから……」

そうなのだ、妹を探す間にもお腹は減るし、生活雑貨もそろえる必要があった。文字が読めなければ買い物もうまくいかない可能性が高い、最悪喋ってという形になるが、他にも情報を集めるときにも文字を読むことは大切だ。
このままでは、とたじろいでいると始が助け船を出してくれた。そうだ、同居人が教えてくれると言えば態々他の者の力を借りる必要など……、と反撃できるかもと期待する。

「始君もその歳にしてはってことだから、二人ともだけど」
「……はい」

駄目だった、祢子さんは強い。これを打破する理由なんて、精々妹探しをしなければならないと打ち明けるぐらいだ。無論そんなことはしないが。
件の妖怪を捕らえるなんて嘘の理由を立てても、子供が無茶するなとすぐに止められるだけである。どうにもできない状況が、俺を歯がゆい気分にさせた。
ぐずっている俺を説得するためか、彼女はその先生とやらの情報を渡してくる。
それにつられ、始もその人について尋ねる。

「いい先生だよ、どんな子だって見捨てず親身になって取り組んでくれるって評判さ」
「その、何の妖怪なんでしょうか?」
「ん、あぁ――」

確かに、一体何の妖怪か気になっていたことも確かだ。もし両面宿儺のような怪物級が来るというのなら、この動かない体を無理に起動させてでも全力疾走する所存である。
そんなこちらの気も知らないで、祢子さんは名前を告げる。

「なまはげ、だけどってなにしてるの」
「一さん!? 痛みがなくとも体は傷ついてるんですから大人しく……!」
「離してくれ始……!」

なまはげ、なんて言われたらすぐにわかる。東北とかにいて、泣く子はいねぇ―が―なんて言っては民家に押し入り子供を泣かせようとしてる鬼ではないか。
勿論、本当は地域のおじさんなどが変装してる地域行事のはずであるが、それでさえ怖いのに本物はどれほど怖いか。
そもそもなまはげとは妖怪なのか、という疑問もわくがとにかく、そんな者に教えなど受けたくないのだと無理やり起きようとする。
だがそれを察知した始に肩を押さえつけられ、一切の実動きは取れない。

「嫌だよ、間違えたら包丁とか飛んでくるんだろ!?」
「なんなのそれ、どんな印象もってるのよ君……」
「だからって動こうとしないでください、今動いたら治るのも遅くなりますよ!」
「――それでも!」

 そうやって馬鹿みたいに騒いで数分経つ。息を切らしながらもようやく落ち着きを見せた俺に祢子さんは笑いながら、なまはげについて教えてくれた。
彼女曰く、なまはげとは子供を教えるのがとても得意な妖怪なんだそうだ。そしてなまはげは、子供に関する妖術を使えるそうだ。

「特に、迷子探しとかが得意で……、私が彼女に教えなくてもそのうち聞きつけてくると思うけど」

なるほど、確かになまはげは子供探ししてからが本番であるからこそ、肝心の子供の場所がわからないようでは話にならないのか。
そして悲しいことに、ここで拒否しても辿る道筋は変わらないようだ。こうなれば腹をくくる他ないというのか。流石に、丸一日拘束なんてことはしてこないだろうし、直ぐにある程度を覚えてなるべく早く抜けよう。
そう思って重い首を縦に振る。始もそれに対し、小声で「すぐに覚えて卒業しましょう」と言ってきた。

「――よし、じゃあ多分明後日の頃には来ると思うから頑張ってね」
「は、はい」

そうとは知らぬ祢子さん、彼女は満足そうに笑顔になると立ち上がる。そして釜に手をかける。
その動作におびえる俺達、当然の如く釜には何号分かもわからぬ麦入り生米が投入されていっている。
またあの地獄が、と青ざめる。動いていないというのに何故か腹は減ったが、それでもまたあの量は無理である。

(いや……これはまさか)

だが奇妙だ、なんというか……以前よりも更に投入されている量が増えている気がする。否、確実に増えていた。

「あの、もしかして更に増えてます……なーんて?」
「ああそうね、大体5割り増しくらいには。怪我治すためにはどんどん食べないとね!」
「――あ、一さん逃げないでください!!」

なまはげなぞいくら呼んでもよいから、とにかくそれだけは勘弁してくれ。そう願うも虚しく昼は更なる地獄が待ち受けていたのであった。




*****
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一二三妖【3-5 更新 9/17分】 ( No.51 )
日時: 2017/09/19 19:10
名前: 塩糖
参照: http://お腹壊して寝込んでました

【果てぬ意欲は水の中】-5


 ピリッと、体に走るしびれのような感覚で目を覚ます。まだぼやける視界とは別に、耳は雀の会話をとらえる。
とはいえ、俺は別に動物の言葉がわかるわけではないので、ただチュンチュンと少しなごむ声というだけであるのだが、
はて、自分はいつの間にやら眠ってしまっていたのだろうか。自身の記憶は、祢子さんによって築き上げられたご飯タワーを半分ぐらいまで食した所で途切れている。

「あ、起きましたか」

そう言って視界の横側にひょこり、始が顔を出してきた。立ち上がっているその姿に、支障はなさそうだ。怪我の方は治ったのだろうか。

「昨日はやはり体の治癒に体力を消耗していたようで、途中で寝ちゃったんですよ? ああそれと、足のほうは無事治りましたので」

こちらの疑問に答えてくれる彼に、とりあえず足の怪我がよくなってよかったと笑った。
それにしても、食事の途中に眠ってしまうとは子供の様で少し恥ずかしい。いや、正真正銘子供なんだけども、と自分でツッコミを入れる。

「とにかく僕が食事の準備ができるようになったので、今日くる祢子さんにはお礼を言って帰っていただきましょう……うぅ、まだお腹いっぱいです」

ああそうか、自分が眠っても始は起きていたのであろうから晩もよそってもらったのか。そう考えると早々にリタイアできたのは中々に幸運ではないか。心なしか少し膨らんだ腹をなでる彼に、少し同情を覚えた。

「あれ、なんか肌がスースーする……」
「ああそれは、流石に三日も洗わないのはちょっとまずいと……」
「あー、濡れタオルか何かで拭いてくれたのか。ありがとな」

確かに、そろそろ風呂に入りたかったのだが疲れてその機会を逃していた。今日こそはきちんと風呂を沸かしてつかりたいものだ、と体を起こす。
そう、起こせた。まだ体の一部にしびれが残るが、いつの間にやら全身筋肉痛という状態から抜け出せていたようだ。これはありがたい。
気を利かせた彼の行動に対し、お礼を言った……のだが、自分の中で何かが引っ掛かり、頭の中をぐるぐると回す。
――待て、晩は祢子さんがご飯を作った。もし、もしもだが洗わないのはまずいと気が付いたのが始ではなく、彼女であったら……。そこまで考え付いて、

「無論、祢子さんの好意は断らせていただきましたのでご安心を」
「そうか、流石に恥ずかしいもんな……ん?」

始がそれを否定してくれた。よかったと、ほっと胸をなでおろす。しかし、何かがまた引っかかる。
そもそも体を拭くという行為、これを全身に、ということは服を脱が無ければできない。つまりは、始がやるとしてもそれはあったわけで……。


「あ、別に大事なところは見てませんので。大丈夫ですよ一さん?」

そう励ます彼に、何と返していいかもわからず黙る。別に男に見られて恥ずかしい、という気持ちはあまりない。
だが、こちらの意識がない時に友人が、となると若干話は変わる。なんというか、彼のことは信用しているのだが、悪戯されてないだろうかと不安な気分になるのだ。まあ、そんなことをわざわざ聞くほどの信頼関係の低さでもないので、直ぐにその考えは消え去るのだが。
なんだか、微妙な気持ちの朝になってしまったが、それでもお腹はすくのであるから、とりあえず米を炊こうと立ち上がる。曲げられた右足に体重をかけ、ゆっくりと伸ばそうとする。

「あ、それは僕がやりますよ。まだそちらは全快、とまでいかないでしょうし……」
「じゃあ俺は、そうだな……確かまだ大根の漬物が残ってたはずだからそれを出しておくよ」

行動を制され、中腰の体制まま一言二言喋り、二人してまた動き出す。始は釜の方へ、俺は漬物が入っていた小さい壺の方へと向かう。
米を炊くことは始に取られてしまったので、おとなしくこちらは添え物の準備をさせてもらうことにした。ちらりと他に何かないかと伺うが、食料は、主食を除いてはもうほとんどないようだ。
朝食のあとは、始にいろいろと教えてもらいながらのショッピングといこう。貨幣価値はいまいちわからないが、始曰くひと月暮らせる程度には渡されているそうだ。

「そうだ、今日は一さんも動けるようになりましたし、快癒祝いということで白米のみで炊いちゃいましょうか」
「ああそれはいいな、麦とかも美味しいけどやっぱり白米だ」

いいことを思いついたという彼の提案、それにこちらは素直に乗る。麦入りご飯は別に不味くないのだが、人界で食べるようなものとは違い、麦の割合が高めで、少し食感も悪い。
なにより、昨日いやというほど味わったのでしばらくは麦はごめんだというのもあった。快癒祝いという口実ではあるが、恐らく始も同じ考えだろう。耳を嬉しそうにピクピクと動かすところを見て、そう思った。
始は満腹気味なせいか、2人分にしては少ない生米を釜に入れ、研ぐためのザルに釜ごと入れる。俺が持った時は少々重かったのだが、彼は特に力を入れることもなくヒョイと持ち上げた。

「では行ってきます」
「気を付けてな、特に近所の人たちにつかまらない様に……」
「はは、大丈夫ですよー。ああでももし祢子さんと会ったら、もう動けると言っておきますね」

からかい気味に彼の後ろ姿に声をかける。振り返った彼は、笑顔でこちらに手を振り、扉を開けて出ていった。
しばし、家の中が静かになる。とりあえず作業の続きと、包丁とまな板を取り出した。これも少々自分には重い。
さて、たくあんはどのくらいの厚さで切ろうか、と考えていると扉をたたく音が聞こえた。来客……時間的に祢子さんだろう。
始とすれ違ってしまったのだろうか、一旦手に持っていたものを置き、扉の方へ向かう。まだ体は少し、動かしづらいが扉を横に引くなんて何のこともない。

「はーい、おはようございますねこさ――」
「……」

 ――開けて、直ぐに閉めた。扉の前から一歩退いて、今見たものを理解しようとする。
体長は、大人男性程度。その体は藁で覆われていてラインは見えなかったが、とてもがっしりしていたように思える。顔は……鬼だ。
真っ赤で怒り煮えたぎっているような顔で、おでこの辺りに上へと延びる角があったような気がする。

 ドンドンと、戸を叩く音がする。
ここまできてようやく、もしやこの扉の向こうに立っているのは件の「なまはげ」なのではないかと気が付く。そうなれば、彼……彼女かどうかわからないが、祢子さんに呼ばれてきたはずだ。
ならば、ここで締め出すのは失礼にあたる。そう思い、なまはげを待たせてはいけないと慌てるが……やはり怖く、今度はゆっくりと扉を横にを引く。
すると、扉の向こうには変わらずなまはげが立っていた。扉を開けたというにも無言で、眉一つ変えていない。思わず声が震えてしまう。

「あ、あの……何か御用でしょうか」
「……ぇがあ」
「え?」

声は少々こもっていたが、男性のような声だった。小声で何かを呟くも聞き取れず、慌てて聞き返す。
次の瞬間、彼は腕を大きく上に広げ、顔を俺の目の前にまで持ってくる。ただでさえ怖い顔が、影もありより怖くなる。

「――悪い子はいねぇがぁぁぁ!!」
「うわあぁぁぁ!!」

静かな朝に、二つの声が響いた。


*****
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一二三妖【3-5 更新 9/17分】 ( No.52 )
日時: 2017/09/24 09:36
名前: 塩糖

【果てぬ意欲は水の中】-6



 火達磨、うん一言で表せばそうなるし、実際にそうとしか言いようがない。なんともまあ、藁というのはよく燃えるものらしい。

「あああぁぁぁ!!」
「ま、まずいです。ど、どなたかお水を!」
「屋根に防火水槽があるからそっちから汲んできて!」

地べたを転がるなまはげと、それを見て慌てる始、首を伸ばして的確に指示をする祢子さん。
一連の流れに、俺はただ立ち尽くす。が、彼女の指示を把握できると慌てて扉の隅にあった桶を始に手渡した。
それを受け取ると彼は軽くしゃがみ、飛び跳ねる。そうして家の屋根にしがみつき、上り切れなかった下半身を上手く乗せた。

「いきますっ」
「ああぁつっ――冷たっ!? ……ぁぁぁあああ!!」
「もっと!」

しばらくすると屋根の方から水が、道端で転がっているなまはげに向かって降り注いだ。しかし、一回程度では彼の身を包む火は消えない。
数回、それが繰り返されることでようやく火は落ち着くのであった。
後には、纏っていた藁がすっかり黒く焦げ、煤にまみれたなまはげがずぶ濡れになり地面にうずくまっているだけであった。
どうして、こうなったんだろうか。



 少し前、あのなまはげ、大声を出してこちらを脅してきたのだが、すぐに彼は非礼を詫びて握手を求めてきた。
その代わり様に少し驚いたが、彼なりの、なまはげジョークというやつなのだろう。そう判断してこちらも苦笑いを浮かべつつも応じようとした。

「させない、一二三妖――妖術、狐火!」

 俺から見て左、そちらから拳大ほどもない火の玉が飛んできた。それはごく自然なこと、まだ家からそんなに離れてなかった始は、俺の悲鳴を聞きつけ迅速にやってきたのだ。
それも、彼唯一の攻撃手段を使うほどの重大事件だと考えてだ。彼からすれば、なまはげが俺に襲い掛かっているようにしか見えなかったのだ。
結果、とても小さく熱量も少ないらしい狐火でも、藁を纏い警戒もしていなかった彼を火達磨にすることになった。

「大丈夫ですか一さん!? この妖怪は……」
「――何の騒ぎだい!」
「ね、祢子さん。えっと始、この人?はなまはげで、今俺を驚かそうと」
「あああぁぁぁぁ!消して、消してぇぇ!!」

そのまま俺を庇い、手で制す始。なまはげを警戒し、俺に事情聴いてくる。
 そして、元々始の近くにいたらしい祢子さんが遅れてやってくる。とりあえず燃え盛り悲鳴を上げるなまはげの、その名を始に告げると顔を青くした。
そうして、今に至った。別に皆悪いわけではない。全員が全員、するべきことを……いや、よく考えたらなまはげが脅かしたのが全部悪い。
つまり彼が悪戯心を持たなければ、幸せな交流になるはずであったというのに。子供を泣かせる行事に出てくるだけはある。


「はー、酷い目にあった……」
「まったく、なんで尾獣堂の人を脅かすのアマメ……」

呆れながらアマメと呼ばれたなまはげ、彼に手拭いを渡す祢子さん。やはり知り合いなようだが……ふと疑問がわく。
昨日は祢子さんは「彼女」となまはげを表していた気がするが、ここにいるアマメは完全に男の声だ。ろくろ夫妻のように、なまはげも二人いるのだろうか。

「いやー、なんかすっごい怖がってくれるから気合入っちゃって」
「その、すみませんでした」
「始君が謝ることじゃないわ、アマメが態々こんなことをしたのが悪いんだから。一君もびっくりさせちゃってごめんね」
「いや、それはいいんですけど……この方が昨日の? 女性だと聞いてたんですが」

火で焦げた後ろ髪を手で溶かしながら、アマメは笑い声を出す。やはり悪戯が好きな人物の様だ。だが、笑いながらも表情が一切変わらないのがとても怖い。
始は頭を下げて謝ろうとするが、祢子さんがそれを止める。
俺は、二人の人間関係、上位にあるのは祢子さんとその様子から受け取った。

「? そう、だけどなにか……ってあー……アマメ」
「ああそっか、これつけてたっけ」

 そう言って、アマメは自身の頭に手を伸ばして……顎の関節部分に指を差し込み、「顔」を外した。
あれほど険しかったその表情は、どうやら作り物のお面だったらしい。こちらが一切気が付かないほどに、それは精巧にできていた。それを外して、貰った手拭いで拭き始めるなまはげは、確かに女性だ。
寝癖、というか髪の毛が濡れたまま梳かさずに寝てしまったような、かなり盛り上がったり向いている方向がばらばらだったり、とにかく荒れている髪の毛。
面の層を越し煤で汚された顔は、こちらを見て笑っている。

「と、言うわけで……なまはげのアマメ、今日からよろしく!」

不思議なことに、面を外した彼女の声はいまだ力強いものの、確かに女性の者に変化していた。握手を求めてきた彼女の笑顔を見ると、先ほどの恐怖が幻だったのように消える。
安心して、俺はその手を取る……が、その前にアマメは慌てて手をひっこめた。
なんだ、と首を傾げた後、ようやく彼女の手がびしょ濡れ且つ、煤で汚れていたということを思い出して納得した。

「ああごめんごめん、握手はまた後で」
「そうだね、一先ず洗わないと……流石に防火水槽の水をこれ以上使うわけにはいかないし」
「な、ならばうちのお風呂をお使いください。燃やしてしまったのも僕ですし」
「そう? ならお言葉に甘えて……」

とりあえず、彼女のためにお風呂を沸かすこととなった。この家にも木で出来たお風呂場がある。早く沸かしてしまおうと始と祢子さんがあわただしく動き出した。
それを手伝おうにも、二人の作業が早すぎてついていけない。まだ不調である人間では、好調になった妖怪二人には到底追いつけるわけはなかった。
なので、手もち無沙汰になってしまっ俺は超食の準備を再開させた。
残念なことに、米は始が駆けつける際に行方不明。漬物だけのわびしい朝食である。
それを、アマメさんに差し入れるような形で出す。そして自分でもつまむ。

「どうぞ」
「あぁこれはどうも。やー、中々漬かってて美味しいね」
(ごはん、食べたいけど……)

今米を食べる、準備をしようとすれば直ぐに祢子さんに目をつけられる。既にアマメさんよりも、祢子さんの逆兵糧攻めが恐ろしかった。


*****
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次話 >>53

Re: 一二三妖【3-6 更新 9/19分】 ( No.53 )
日時: 2017/09/24 09:32
名前: 塩糖

【果てぬ意欲は水の中】-7


そうこうしているうちに、お風呂が沸いた。とても短い時間に思えたが、実際は水を手に入れるために始が奮闘したおかげである。
 肩で息をする始の横に座り、切った漬物を差し出す。やはり汗をかいたからか、塩味を求めていたようだ、喜んで口に入れている。

「ふー、やっぱり久々に体を思いっきり動かすと疲れますね」
「そっか、そういえばそうか……」

 そうだった、ドチとの戦闘の後は俺に憑依したりこそしたものの、そもそも外に出ることさえ今日は久しぶりだった。
 少しストレス発散はできたのか、その表情は疲れてこそいるが晴れやかでいる。
 風呂場のほうで、水音がする。アマメさんが体を洗っている最中だ。祢子さんはアマメさんの着替えを取りに行っため、二人のみだ。
 この隙に、少し浮かんだ疑問を解消してしまおう。

「あ、そういえば始って妖怪とかにある程度詳しいのか? ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょう」
「その、なまはげってどんな妖怪なんだ?」

 なまはげとは、なんなのか。包丁みたいなものを振り回して、子供を泣かせに来る。そもそも何故あのような恰好をし、民家に押し入ってまで子供たちを泣かせる必要があるのかとすら思う。
 考えがそれたので戻すが、始がなまはげについて尋ねなかったということはやはり、なまはげもこの妖界にきちんと存在する妖怪。
 どんな妖術を使うのか、どんな成り立ち……生態、あまりよい言葉が見つからないが聞いておきたい。
 しばし顎に手を当てて悩む、どうやら説明しずらいらしい。

「なんといいますか、元は神の使いなんですよ」
「神?」
「えぇ、妖怪とはまた違う存在でして。僕も聞いただけなんですけど、大分昔存在していたもので、それはそれは凄い力を持っていたそうです。とはいえ、もういないんらしいですが。
……あぁそれでなまはげなんですけど、子供の成長を確かめに来る妖怪なんですよ」
「神……っあぁ、そこは一緒なんだな」

 新しい単語が出てきてしばし気を取られたが、とにかく子供のための妖怪というのは変わりないらしい。

「えぇ、師匠は幼い頃よく脅かされていたそうなんですが……」
「――そうそう、昔はみんな驚いてくれたから子供が生まれたって聞いたらよく脅かしに行ったよ」
「昔は、ってことは今は?」
「それが、あまり今の子には怖くないみたいで、一回向かって確かめたらだいたいそれっきりかなぁ」

 なるほど、なまはげも世代間の差というものに苦しめられているようだ。だからこそ、俺の怯えが彼女のなまはげ魂に火をつけたということか。
 
「いや、本当に良い驚きっぷりだったよ。なまはげ冥利に尽きるよあれは!」
「本当ですよ、一さんに何があったのかと肝を冷やしました……」
「いや、流石に突然あんなのがきたら驚くって……え?」

 いつのまにか、隣あって座っていた俺たちの後ろにアマメさんが立っていた。慌てて彼女に向きなおる。
 まだ湯から上がってそう時間がたってないのか、彼女の肌はしっとりと濡れている。
 服はしっかりきているが、それも少し濡れているような……そもそもまだ祢子さんが帰ってきていないはず。

「わ、濡れた服着ちゃったんですか。囲炉裏に火をつけますからそちらで乾かしてください」
「あ、はは……長風呂は苦手なもんでつい上がってきちっゃた。服も乾きやすい素材だし、着てればそのうち乾くよ」
「そういう問題じゃないと思います……」

 豪快、というべきか。いやこの場合は粗雑だろうか。せっかくあったまった体をわざわざ濡れた服で冷やすのは、少々引いてしまう。
 アマメさんは始に願われ、狐火でつけられた囲炉裏に当たりに行く。

「ふぅ……、ああ本当にお風呂ありがとう。流石は尾獣堂、子供二人暮らしの家の中にあんな立派なお風呂があるとは」
「それはよかったです」
(確かに、家の広さもあれだが風呂もなかなかしっかりしてたな。まだ掃除しかした覚えないけど)

 せっかくの快癒祝いの白米が遠のいてしまったのだから、今晩はしっかり湯を沸かして入ろうと心に決める。
 それでふと、彼女のほうからミカンのようないい香りがするものだから、それを直ぐにかき消す始の獣臭さに顔をしかめた。

「始、お前入って来いよ」
「えっ、あ、はい? 別にいいんですが……そんなに臭いですか? 一応私も手拭いで拭いたんですが」
「うん、ちょっと。多分さっき汗かいたからそれも関係あると思う」

 申し訳なさそうにそう言えば、彼は頭の耳をぺたんと畳んで悲しさを示す。彼はその後、直ぐにタンスから着替えを取り出し、風呂場へと駆け足で向かっていった。
 部屋の中には俺とアマメさんだけになる。彼女は背中をこちに向けて囲炉裏に当たっており、別段向かい合っているわけではない。
 が、無言は避けるべきであろうと思い何か話題を探す。

「あの、アマメさん。勉強について何でですが、今回はどこまでやるーとか、そう言う目標ってありますか?」
「ん、あー……とりあえず尾獣堂の子をいつまでも縛るわけにはいかないからね。祢子に言われたぐらいまでかな」

 ああよかった、彼女はどうやら本来よりも少なめにして解放してくれる気らしい。流石は教師、子供のことを思いやれる妖怪だ。
 安心する俺を尻目に、彼女は近くに置いてあった新聞を手に取る。相変わらず、それは全くもって読むことはできない。

「これが全部読めるくらいまでかなぁ」
「無理だと思います」

 スパルタだなぁ、流石は子供を泣かせる妖怪。とにかく無理なことは無理と言えるヒューマンでありたい、そう願いつつもハードルの更なる低下を望んだ。




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