複雑・ファジー小説

一二三妖【2-9更新(本日2回目)】
日時: 2017/08/19 19:56
名前: 塩糖

――数えて百鬼、誰もかれもが悩みを、願いを、持ち生きる
ああならば世界はきっと、無常なりて



*****

 初めまして、塩糖(えんとう)と申す者なり
皆さんの小説を読んでいて自分もやってみたくなり投稿させていただきました。
今回のジャンルといたしましては「妖怪もの」となっております、戦闘などの要素もありますが何分素人ですので期待はせず、読者さんの暇つぶしの一作になれたら幸いです。
ちなみに感想を書き込まれると作者が狂喜乱舞します

誤字訂正報告いただけると感謝感激してすぐに直します

****
目次
・第零音目 【「」】 >>1
・第一音目 【一から始まる妖道】 -1 >>2 -2 >>4 -3 >>6 -4>>7
           -5 >>9 -6 >>11 -7 >>12 -8 >>13 -9 >>14
・第二音目 【碌でもない奴ら珍道中】-1 >>15 -2 >>16 -3 >>17 -4 >>18 -5 >>19 -6 >>20 -7 >>21 -8 >>22 -9 >>23(8/19 19:56更新)


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キャラの簡単な紹介(随時更新-軽いネタバレ含みます)
・幸(ゆき)
 主人公の妹、皆とピクニックに出かけた際、草むらの中に動物がいると言って姿を消した。
・始(はじめ)
 一尾の妖怪、元は狐ということもあり、黄色い尻尾と耳がトレードマークだそう。狐火を扱うことができる、ちょろい。
変化と憑依も使えるが本来は実用には程遠い程度
尾獣堂の新米妖怪、現在左足負傷中

・一(まこと)
 人間、結構その場の感情に身を任せ行動することあり。けれど普段は理性的思考をしていると考えているため少したちが悪い。
調子に乗ってとんでもないことになって焦ることしばしば

・祢子(ねこ)
 ろくろ首、何かと男勝りな性質で一見勘違いされそうでもあるが本人はとてもやさしいため少し話せば大体みな慕う。紫陽花の意匠の着物がお気に入り。首がどこまで伸びるかは彼女しか知らない、ちなみに腕は伸びない。
彼女を怒らせるべからず
・カラス
 あほう
町の治安維持の仕事をしているらしいが、締まらない

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・訂正報告
 始と一が心の中で語り合うシーンを少し修正しました。
- ←これを文頭につけて心の中のセリフとします

・企画
オリキャラ募集 無事4人の妖怪が集まりました!参加いただいた方々感謝が尽きません。

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Re: 一二三妖【オリキャラ企画開催】 ( No.19 )
日時: 2017/08/17 19:18
名前: 塩糖

【碌でもない奴ら珍道中】-5


「助かりました、このまま一生を迎えるのではないかと思うほどでした」

そういった畳のヘリを器用に踏まず立っているカラスはぺこりと首を下げた。最初はカラスの体を押して家の外に押し出そうとしたのだが、確かに抜けず、しょうがないので内側に引っ張り、家の中にひっぱりこむことにしたのだ。
するとその後カラスは無言でいったん玄関扉にぴょんぴょんと跳ねて近づいて、その後もう一度家の中に「おじゃまします」と言って入ってくるものであるのだからこちらの心境はもう大笑いといった所であった。

流石に本人の前で大笑いするのも気が引け、がんばって我慢している俺達、始などは口角に力を入れて笑いをこらえながら質問をする。

「そ、それでどういった御用けんで......フフ」
「ああそうでしたね、路地裏の方はあくまで尋ねる際に聞こえたので反応してしまいましたが、本当は昨日の事件について少々、ええと一さんはそちらの黒髪の御方であってますね?」
「んん、ああそうだけど昨日の事件って?」

カラスは首を一度上向けた後、翼を頭に乗せるようなしぐさをしながら俺の方を見てきた。名前の方を知っているというのが少し気になったが、事件というワードが更に気になるそちらについて尋ねる。

その際、ふとこちらが座布団に座っているというのにあちらに何も出さないのは無礼と思い部屋の隅に兼ねてあった藍色の座布団を一枚カラスに差し出してみた。
カラスをそれを「ありがとうございます」と言い、その座布団の真ん中にぴょんと跳ねてそのまま腰をおろ......足を仕舞うとでも言えばいいのだろうか。

「ふう、さてそうですね昨日一さんは川を渡る際に巨大なドチに襲われたという話を他の方々にされたそうですね? その件でいくつかおかしな点がありお話をと」
「あああれですね、ええ僕と一さんは近くの石橋の付近で襲われてしまいまして」
「む、そういえばその際に......始さんでしたか、貴方が怪我をしてしまい一さんだけが先に人を呼ぶために来たということでしたね。しかしこちらが飛んで駆けつけてみても始さんは見当たらなかったはずですが......ご自分で帰還されたのですか?」
「あ、はいはいそうです何というかお手を煩わせるのも申し訳ないと思って......入れ違いになっちゃったみたいで申し訳ないです」

そんなことを始に脳内で提案されて、大座頭というかなり大柄で小豆色の上着を羽織った妖怪に話した覚えがある。おかげで町の入り口はそこそこの騒ぎになってくれて、その際に始が通過したということにしようといっていたのを思い出す。

始は罪悪感に苛まれているといった顔と声色で謝罪した、そこには嘘をついているということ、それで徒労させてしまったという二つについての罪の意識があるのだろう。
しかしそれは余り気にしていないという風に首を横にゆっくりと振りつつカラスは流して話をつづけた、

「いえいえ、問題はそれよりも石橋の方でして......ドチなどいなかったといううわさは聞きましたか?」
「そうなんですか? 僕は初耳ですね」
「あっ、ごめん朝方に聞いて話すの忘れてた」
「あなた達が当事者なのでお伝えすることなのですが、実のところドチは捕らえております。集団で掛かったのですが仲間たちも数人ほど怪我人を出すという結果でしたが」
「それは」

あの巨体をカラス達でとらえたのかとまず驚いたが、流石に別の姿や別の妖怪などがあるのかもしれないと思うと、逆にその数で掛かってもけが人を出すというドチの屈強さに驚く。
だが、何故ドチの情報は隠されているのだろうか。

「まず、知っているかもしれませんがドチとは長生きしたスッポンが妖となったもので、大きなものでも6尺(1.8m程度)程ですが件のドチはその倍は軽く超える......はっきり言って異常でした」
「確かに、それにドチにしては気性が荒すぎました。何もなければ子供が背中に乗っても大人しい妖怪だというのに、原因はわかったんですか?」
「まだ時間が足りず調べ切れてませんが、川から引き離し檻に閉じ込めてみた所、今だ荒いですが少しずつ大人しくなっているということで......恐らくは川の水が原因ではないかと推測が」

川の水、と言えば始が口に含んだ瞬間酷い形相で吐き戻したことが印象的だ。俺は特に何ともなかったが、やはり有害なものだったのだろうか、自分の体に異変は起きてないか無意識的に体をまさぐる。
始はこちらを少し心配そうに横目で見ている、カラスはそれを不可解であると言いたげに首をかしげつつも説明をする。

「私らでも検分したのですが、はっきり言ってあれは毒というほかない。煮沸すれば無害になるのが信じられないほどです......それにわずかですが妖力が向上するという結果もありました、恐らくドチはこれを大量に摂取したことであそこまで成長したのかと、気性の激しさは毒によって脳がやられたのではと」
「それは......なんとも惨い話です」
「けど、ならなんでドチの存在を隠すんだ?」
「これは先ほども申しましたが、路地裏に潜む輩の中には力を誇示したいと願望を抱く者もおります、それがたとえ毒であろうと......そうなれば今荒れているこの町が更に、と大座頭さんが提言されましてね、我々といたしましても無暗に騒ぎを起こすよりは、と」

襲ってくるのが信じられないというドチを狂わせる程の毒でさえも食らうと、そこまで力を渇望する者が路地裏にはいるというのか、そうなると単身でそこを調べるのがいかに危険だったのかを理解する。こんな情報をくれたカラスに感謝して、なにかこちらが役に立てるものはないかと思案するが、人間の知識ではせいぜいどこかで工場ができて有害な物質が垂れ流されている、なんてふざけた予想しか出てこないので置いておくこととする。

「そちらはこれから捜査していくので......ああそうだ、これももう知ってるかもしれませんが、現在町では人間の女の子と思わしき者が目撃され、更には事件も併せて起きているようです。くれぐれも近づかないように」

そう言うと、カラスは座布団から立ち、、ぴょんぴょんと跳ねて玄関の方へと向かう。そして閉まっている木の扉前に立つと、じっと固まる。
両翼を上手く使い、扉に添えてはみるが動かない。また彼はゆっくりと振り返って

「開けてもらってもよろしいですか?」などと言うので、締まらないカラスであると心の中でつぶやいた。


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Re: 一二三妖【オリキャラ企画開催】 ( No.20 )
日時: 2017/08/18 23:42
名前: 塩糖

【碌でもない奴ら珍道中】-6



 カラスの助言により無茶な情報収集は諦めると初めに伝えた俺は、今日のところは家事をするだけと変更するとした。
なにせ寝るところと炊事する場所は一応片付けたが、他の場所はいまだ手つかずだ。
箒で砂埃を外に出したり、灰だらけであるし今は熱いので使わない囲炉裏、押し入れなどもすべて掃除する必要がある。

「それぐらいなら僕も――痛っ」
「だからこんぐらい平気だって、掃除はよくやらされてたからな」

やはり足が動かせず家事をまかせっきりというのが居心地悪いのか、怪我した足を庇いつつも立ち上がろうとする始を制して掃除を進めている。
掃除は毎日のようにやっていたし、この程度は問題ない。
むしろ部屋の中で何もせずにじっとしている方が我慢できないのだ、と畳の隙間に挟まった埃をどう処理するか悩みながら結論付ける。流石に力が足りないから畳を持ちあげるのは無理そうだ。
ここは後に回すとして、押し入れをふくために雑巾とゆすぐ為の水も汲んでこないと、と独り言を漏らす。

「......あの」
「ん、なんだ?」
「炊事の時も思ったんですけど一さんは普段から家事をされていたんですか?こっちのやり方はともかく、他の作業は何処か手馴れている気がして、師匠からは一さんぐらいの子供はあまり家事をやらぬと聞いたので」

なんだ、そんなことかと軽く笑って以前の生活を思い出す。
確かに、他の同年代と比べればやることが多かったかもしれない。
周りは反発する奴もいたけど、置いてもらっているのだからむしろありがたかった、幸はおしゃれ好きだったから洗濯の仕方にもこだわってたなと懐かしむ。

「まぁ、俺たちはちょっと特殊な育ちでさ......自立できるようにっていろんなこと教えてもらってたんだよ掃除炊事洗濯、こっちと比べたらだいぶ楽だったけど」
「ああ、家電とかいうやつですね? なんでも一押しで火が付いたり水が出たりと」
「そうそう、そういやこっちは電気とかはないんだもんな」
「そうですねー、わざわざそんなことしなくても妖術使えばっていう妖も結構いますし、あまりそこらへんは必要とされていないようで」

当たり前かもなとふと思う、始の妖術だってかまどの火を起こすには充分、それに慣れればここの生活は不便ということもあまりない、黒船来航のようなイベントでも起こらない限りはそう変わることはない生活形態だろう。

夜は明かりなんて少ないだろうし......

「始、少し井戸に水くみに行ってくるよ。もしかしたらまた祢子さんたちにつかまって時間がかかるかも」
「そうですか、お気をつけてくださいね」

そう心配する彼に大丈夫だよと笑いかけて、桶を片手に外へ出る。
時刻はまだ昼過ぎ、あと1.2時間でもすればおやつの時間だろうかとも思うが詳しい時は不明である。
なんせ時刻は町の高台でなる鐘の音で判別する必要があるのでまだ慣れてない俺には全く時刻は分からないのだ。

始が間違ってもついてきてないことを確認し、俺は井戸とは逆の方向へと歩きだした。




 夜は暗いだろう、路地裏には凶悪な妖怪が潜んでいるかもしれない。
だからこそ、妹を1秒たりとも一人にしておきたくない。
妹はこの町のどこに隠れているのだろうか、あるいは既に捕まっているのかも......ああ駄目だ一人になると思考はどんどんマイナスに傾く。
始にばれてしまった場合も考えてあまり長く時間はかけられない、せめて自分が簡単に行ける範囲だけでも探し尽くしておかないと心配で眠れなくなりそうだ。

建物と建物の間に道があるたび顔を覗き込んで恐る恐る入ってみては、そこにいた妖に奇妙な目で見られたりあるいは建物の持ち主から話かけられたりと、危ない橋を何度もわたるが妹の手がかりなど微塵も見つからない。当然か、この程度で見つけられるようならばとっくに他の妖が発見しているだろう。

無駄に自分を危険に晒す行為で、本当に始に知られたら二度と一人行動はさせてもらえないかもしれないなんて思いながらも町中を桶片手にぶらぶら歩く。
そんな隣を通り過ぎていく異形なもの達の視線が嫌に気になる、肌が緑色であったり目が一つであったり尻尾が生えてたり、そんな彼らはすれ違うだけでもやはり少し怖い。朝の時とは違って話してもいないのでどんな目で見られてるかすらわからず、それが恐怖心を煽っているのだろうか。

「おい、そこの坊主」

そろそろ戻った方がいいか、口惜しいながらも何もできない自分の非力さを呪い、来た道を戻ろうとする。そんな時、ふと誰かが俺を呼んだ気がして自然とそちらを向く。
こちらの顔は路地裏の方向を向いており、路地裏からはこちらに笑いかけてきている男の顔が一つ、首が伸びて通りに出ていた。
男の顔は少し白く、その笑顔はどうしてもこちらに悪感情を抱かせる。


こんな厄介事のにおいがぷんぷんする者は放っておけば良いのだが、幸の手がかり一つすら掴めなかったせいなのか、
俺は、見るからに怪しいそれにどうしてか近づいてしまいその顔の主に話しかけてしまったのだ。



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Re: 一二三妖【オリキャラ企画開催】 ( No.21 )
日時: 2017/08/19 17:24
名前: 塩糖

【碌でもない奴ら珍道中】-7


 たった数分で学べたことが一つある、胡散臭い奴に関わると碌なことにならないことだ。

「だからな坊主、今ならこの新鮮とれたて、生でそのままだっていけるぴちぴちの川魚が5尾で50文!こんなうまい話のがす手はないって」
「いや、ならもっと通りに出てやればいいだろ......明らか怪しい」

別に柄が悪い妖怪が待ち構えて居たわけではない、茶系統の着物の上から薄く半袖、紺色の上着を羽織った妖怪は俺が近づくと、物陰に隠していた水が入った桶を取り出し、その中で泳ぐ魚を安く売ってあげようなんて取引を持ち掛けてきた。

俺は最初から感じていた怪しさ、そしてそもそもまだこの世界の貨幣価値がピンと来ていないこと、今朝祢子さんから聞いていた「川魚の安売りには手を出すな」という忠言、以上をもって買う気は0である。

だがしかし、一体どこに商機を感じているというのか諦めないのがこの男。帰ろうとする俺の袖をつかんで離さず、やたら安さを売りに川魚を押しつけようとしてくる。

これはもうあれだろう、確実に「汚染された川魚」であるのだろう。さもなければ、わざわざこんな隠れた場所で、金をあまり持っていないであろう子供相手にこんな必死になる理由が分からない。

「そうかわかった、お小遣いが足りないんだな?ならしょうがない、こっちも赤字覚悟で.....10尾で95文!」
「金が足りないって思ってるのになんで倍近くになってんだ、あと1尾分得にされても一尾も食べられないから意味ないし」
「なーにいってんだ、ほらほらまだ生きてるだろこの魚、これを塩焼きにすればきっとご飯3倍は進む、それとも魚嫌いか?」
「しいて言えば汚染された魚は嫌いだ、そんなに安全だなんていうなら試しに一尾食べてみろよ、生でいけるんだろ?」

軽く挑発してみれば男は言葉を詰まらせ、困ったように目がきょろきょろと動いている。この男は分かりやすすぎる、少なくとも商売人はむかないだろう。生産者のレベルならまだいけるかもしれんが小売りとしては駄目である。

「さ、流石に商品に手を出すわけにはな......?」
「なら、5尾食べたら50文払うよ。そっちは損しないだろ」
「うっ......」

当然、無理だとわかっていての提案である。焼いた後ならまだしも、始が口に含んだだけで吐き出した水の中で生きた魚たちを生で5尾、自殺行為だ。そう言うと、袖をつかむ力が弱まった。
どうやら諦めたか、少しばかりの優越感を味わいつつ通りに出ようと振り返る、

「よ――よしみてろぉ!?こんなに新鮮な魚を食べられないのに金を払うなんてもの好きな坊主だ!」
「え?」

少し上ずった声に驚きもう一度男の方を見れば、なんと男は引きつった顔をしながら魚を片手でつまみ、口に近づけようとしているではないか。
まさか本当に食べるのか、こちらは冗談のつもりであったし、例え危ない食べ物を売りつけようとしてきた者だとしても流石にそんなことをされては困る。慌てて止める様に言うも、男は聞く気がないのか引っ込みがつかないのか、魚を桶に放すことをせずゆっくりと近づけてる。

「よせって、本当にやばいんだろそれ!?」
「......この俺の胃袋を、なめるなよぉ?」
「足震えてるって、揶揄ったのは悪かったから!」
「なら買えぇ!?」
「それはやだ」
「じゃあ食うぞ!?」

魚が少しずつ奴の顔に近づくたび、そいつの体は震えはじめるし声の震えを増す。何がここまで彼を動かしているというのだ、いくら金が欲しいといっても50文ごとき、感覚的には千円にも満たない金額のはずだ。
それとも、こんな子供に挑発されたのがそんなに悔しかったというのか、恐らくは後者なのかもしれない。

目の前で自殺を見過ごすわけにはいかない、魚の尻尾をつかんでいる男の左腕を両手でつかんで、思いっきり引っ張る。
一瞬だけ引っ張ることができそうだったが、直ぐに魚を顔に近づける力は強くなる。
流石は妖怪、そして大人の男。こちらの引っ張りなんて無きに等しいようでますます川魚は彼の口元へと運ばれていく。

魚をつかんで奪い取るか、そうしようとするも頭を右手で押さえつけられて止められる。すさまじい力の差だ。

とうとうそのマスの一種かもしれないモノが彼の眼前にまでやってくると、男は目を閉じて口を開く。人間ともあまり変わりないその顎を開き、魚に食らいつこうとする。

もう駄目かと思われたその時、自分の後ろから誰かが地を蹴る音を耳にする。
気が付いた時、男の顔ははるか遠くへと飛び首はその分だけ伸びていた、殴られて。
その行為をした人物は、紫陽花の模様が特徴的な藍色の浴衣をはためかせ拳を振りぬいた姿勢のまま、大きな声を上げた。

「――何やってんだこの大馬鹿旦那が!!」

ろくろ首の祢子、俺はこの人にだけは逆らわないことをひそかに誓った。



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Re: 一二三妖【2-7更新】 ( No.22 )
日時: 2017/08/19 19:56
名前: 塩糖

【碌でもない奴ら珍道中】-8


 どこからともなく現れたろくろ首の祢子さんは、そのまま路地裏の奥にまで吹っ飛んでいった彼の顔の方までずんずんと歩んでいき、男の顎下の部分へと手を伸ばしてそのまま持ちあげる。
今気が付いたが、男も首が伸びている辺りこいつもろくろ首なのか。旦那、などと呼ばれていたことから彼が祢子さんの亭主であることはうかがえるが力関係は見ての通りらしい。

一方今にも絞殺されそうな雰囲気に恐れをなし魚を食そうとした時よりも震え目の焦点すら合っていない男は祢子を見ていたく驚いている様だ。
首が伸び切り地面に倒れている体の方、そちらの左人指し指はプルプルと空を指している。恐らくは首が人間としての正常な位置にあれば目の前にいる祢子さんを指しているのだろう。

「ね、祢子ぉ? なんでお前がここに」
「アンタが怪しい商売してるって近所のお骨さんから教えられて吹っ飛んできたのさ、まったく恥ずかしいったらありゃしない!」
「げ、言わないでいったのにあの人」
「それで今のはなんだい碌郎(ろくろう)、朝私は川魚は危険だからしばらくおかずに出せないねなんて会話をしたばっかでこれかい!?」
「え、えっとその」

碌郎、そう呼ばれたろくろ首はその怒気に押されて必死に言葉を選ぼうとしているのかいまいち要領を得た回答をしない。その度に背後からでも分かるほど彼女の怒りが増しており、再びそれが爆発するのはそう遠くないと予感する。
だがそれすらも無駄だと判断したのか、祢子さんは右手で夫を締めあげながら自分の首をすっと伸ばしたかと思えば、勢いよくこちらの顔を覗き込んできた。
それに驚いたということもあるが、何せ距離が少し動かせば顔がぶつかってしまいそうなほど近づいていて来たので恥ずかしいと感じこちらはつい足を一歩、さげて少しのけぞる態勢をとる。

「ねえ僕?この駄目な男が何やってたかちょっと教えて......一くん?」
「ど、どうも」

眉を少し申し訳なさそうに下げてこちらにいくつか質問としようとしていた彼女は、しばしこちらの顔を見て固まる。どうやら今の今まで俺は俺として認識されていなかったようだ。
知り合いだと分かったことで夫を責める力が恥ずかしさから少し弱くなるかと思ったが、むしろ知り合いだからこそなのか更に首を絞める力が強くなっている気がする。
人の首はあそこまで指が食い込むものなのかと感心すらしてしまう、その間も着実に碌郎の顔は青くなっていくが流石に殺しはしないだろう。

とりあえず俺は近くにある魚が入った桶を指さして答えることにする、気のせいかこちらも指が若干震えている。

「そこ......その中にいる川魚を5尾50文で売るって言われて、こた割っても結構食い下がってきて、つい試しに食べてみたら買うよっていっちゃって」
「そ、そうそうそこの坊主が俺をからかって――」
「子供の軽口に付き合って自殺未遂したってことかい、よほど黄泉の川を渡りたい様だね」
「まてそれいじょうはほんと......に.....やば」
「あ、落ちた」

意識を失ったのか、瞼が落ちカクンと首の力も抜け顔が下を向き、それを見て祢子さんは軽く一言そう言って手を放した。
もしかしたら旦那を絞め落とすことなど毎日の繰り返しているのではないかと疑うのが自然なほどの動作に思わずさらに一歩あとずさりする。

そのまま祢子さんは首の長さを元に戻し、気絶した旦那さんを気にせずこちらに照れ笑いをしながら近づいてきた。ふと彼女は俺の腕にかかっていた空の桶に目をやる。

「いやぁ、悪かったね。うちの亭主がアホで......その桶、魚でも買いに来てたのかい」
「あー、えっとそんなところです」
「そう、なら家に買い溜めしためざしでよけりゃあげるよ。迷惑かけたお詫びにね」
「いやそんな悪いですって」
「いいよいいよ、どうせこの馬鹿の分だ......はぁ」

そうため息をついて、仰向けに倒れている碌郎を見てもう一度ため息をついた後、軽く笑うがその笑みは自嘲しているようにも感じる。少ししゃがんで碌郎さんに肩を貸して立ち上がらせる。
どうやら意識がないまま連れて行く様だ。こちらもそろそろ戻ろうとしてたので、お言葉に甘えてめざしを貰いに横を歩こうとする。

しかし、よく考えれば首が伸びたままなのでこのままでは顔面を引きずるという結果になることに気が付き、慌てて碌郎の顔を持ちあげてそれだけは避ける。
持ちあげてみると、どうやら首は自然に縮むようでするすると体に引っ張られる。それが自然な長さに戻ったことを見て祢子さんは「ありがとう」と言って歩き始めた。
俺はついて行こうとして、今度は川魚が入った桶のことを思い出し、放置するのも危険かと判断してそれも持って行くことを決めた後、少し駆け足で祢子さんの後をついて行った。



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Re: 一二三妖【2-8更新】 ( No.23 )
日時: 2017/08/19 19:55
名前: 塩糖

【碌でもない奴ら珍道中】-9


 旦那さんは右側に、俺は祢子さんの左側について三人並んで通りを歩く。とはいえ碌郎......碌郎さんは気絶したままなので祢子さんが担いでいるだけでその足は地面に引きずられている。
足袋と草履をはいているとはいえ、中々痛そうではあるが妖怪の皮膚の強度は人並みではないのかもしれない。

通りすぎゆく妖怪は面白そうにその様子を見て、偶に「今日もやったのかい」とか「相変わらず仲がいいね」なんてからかう口ぶりで声をかけてくる。それに対して、祢子さんは気恥ずかしそうにしながらも笑顔で返していた。
やはり先ほどのように碌郎さんが何かをやらかしては彼女が締めるということが頻繁に起きている様だ。それについて、特に聞きはしなかったが祢子さんは「実は毎日なんだ」と軽くこちらにも笑って、自分から話だした。
身長差で少し見上げる形になるが、表情はそれを抜きにしても少しくらい。

「最近ね、碌郎の奴いきなり仕事しなくなったと思ったら急に変な仕事貰ってきてはそれで失敗して......今日だって真面目な仕事を見つけるって言ってたのにこんなザマ、一体どこでこんな仕事引き受けてくるんだか」
「そうなんですか......もとは何のお仕事を?」
「畑仕事さ、小さいけどいい味してたんだよほんと」

そう言って彼女は少しばかり首を上に向ける、昔のことを思い出しているのだろうか。それにしても畑仕事、先ほどの彼からは少々想像がつかない。なにせ彼の腕に触った時あまり土のにおいもしなかったし、腕が太く鍛えられているといった感触もなかったからだ。

どちらかと言えば、屋内で仕事をする人のようなという印象であった、こちらの考えを悟ったのか彼女は続ける。

「それが今じゃ、賭博狂さ」
「賭博、というと賽子とか花札とか」
「そうさ、元々娯楽に飢えてたみたいで......刺激的だったんだろうね、何が楽しいのかさっぱりさ。それで持ち金はたいたと思ったら怪しい仕事、借金しないだけましだとでも思えばいいのかね」
「な、ならやっぱり物なんていただけないです」
「安心しな、無いのは余分な金だけで生活するだけのお金はまだあるよ。それに罰として抜くのに、残ってたら焼いちゃいそうになるからね」

こっちの拒否を押し通しながら浮かべたそれ、今度こそその笑いの正体に気が付くことができた。彼女は空元気を出しているのだ。
やはり受け取る気にはなれない、そう思いながら転ばぬよう足元に目を向け、通りを進む。

「よし、あの祢子さんは......ってあれ?」

これは強く言うべきである、祢子さんは今大変な状況であるし、旦那さんに食べさせないなら祢子さんがその分食べて体力を回復させるべきである。そう言おうと決心してもう一度祢子さんの方を向くと、いるかと思ったその人はすでにいない。


慌ててどこに行ったかと辺りを見回すと、少し後ろの民家の前で祢子さんは足を止め、扉を開けようとしていた。
どうやら家についていたらしい、話に気がそれてどれほど歩いたかを忘れていた。
小走りで近寄るよろうとすると、さっさと彼女は碌郎さんを連れて家の中に入って行ってしまう。

お邪魔しますと言って玄関をくぐれば、履き物を脱ぐ場所で碌郎さんは横たわっていた。それを避けつつ祢子さんに声をかけようと家の中を見回すが既に奥に行ってしまったようで見えない。
かと言って上がるのは失礼だよなと思っていると、隣の碌郎さんが呻き声を上げて体を動かし始めた。
どうやら起きた様で辺りをきょろきょろ見回して、近くの俺を見て驚いている。

「うぉっ、ここ俺の家だよな? 何で坊主がいんだよ......」
「いや、祢子さんに招かれて」
「あぁ? 祢子ー、どういうことだーって奥いってるのか、あれそもそも何で俺気絶して......?」
「覚えてないの?俺にこれを売ろうとしてその後祢子さんに」

彼はどうやら記憶が不完全だったようなので、思いださせるため魚が入った地味に重い桶を持ちあげて見せる、すると数秒して記憶がよみがえってきたのか、みるみると彼の顔は青白くなっていく。彼の両手は、彼女に絞められたであろう首元を無意識なのか抑えている。やはり、感覚が残っていたりするのだろうか。

「汚い家で悪いわね~今お茶も――」
「やべっ逃げろ!」

家の奥から祢子さんが包みを片手に持って来たのを見た瞬間、碌郎さんは瞬時に体を起こして玄関から飛び出して行ってしまった。
余程怖かったのか、草履の片方が脱げ落ちている。

あまりの素早さにしばらく無言になる二人、だがただ立ち尽くしている俺とは違い祢子さんは無言のままスタスタと玄関へと近づき、呆気に取られている俺に包みを渡して草履をはく。

「――待ちなこの駄目亭主っ!!」
「あ、待って受け取れないで......行っちゃった」

彼の後を追い、こちらの言葉も聞かずに一目散に走り出していった彼女の表情は山姥と見間違うほど激しいものであったことは間違いない。
そう時間が立たずに男の悲鳴と女性の怒声が聞こえ、それが遠ざかっていく。
通りに出てみれば、もう二人の姿なんて豆粒ほど小さくなっていて......俺は追いかけることを諦め、戸を閉めた後帰宅する道をたどった。




*****
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次話 >>?

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