複雑・ファジー小説
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- 【3/3更新】Destiny Game 運命遊戯
- 日時: 2018/03/03 09:03
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: Yv1mgiz3)
昔々、あるゲームがあったよ
異能学園、学園長リェイルが
弄んだのは少年少女
悲鳴上げながら死んでいったよ
昔々、地獄のゲームがあったよ
生きたいと願っても死に、裏切りに心は傷ついて
始まったのはDestiny Game
殺し殺される悪夢のゲーム
そのまたの名を、運命遊戯、と——。
「さあ、ゲームを始めましょう」
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
複雑ファジーでは初めまして、流沢藍蓮と申します。
今作は、皆様からキャラ募集をかけて書き始めます、異能バトルものデスゲームとなります。
無論、死ネタは出ますし、多少の残酷表現が出てもおかしくはありません。
それでも構わない方はどうぞ、少年少女の繰り広げる運命遊戯を、ご覧あれ——。
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
〜ゲームの記録〜
プロローグ ゲームの始まり >>2(※7000文字あります)
《第一ラウンド 小手調べの殺戮ゲーム》 >>3-16
1 手を取り合えば? >>3-5
2 生き残るのに理由は要らない >>7-11
3 残る二人は誰が逝く >>12-16
小休止 英気を養って >>17
《第二ラウンド 裏切り者にご用心》 >>18-23
1 マザーグースの詩は歌う >>18-23
《第三ラウンド Destiny Game 運命遊戯》 >>24-
1 姿の無い策略 >>24-
エピローグ 血塗られた「資格」 >>
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
Thanks!
オリキャラを下さった方々
・アンクルデス様より「シロ」
・硯箱様より「トーン」
・ブナハブラ様より「ゼロ」
・モンブラン博士様より「バロン」
・彩都様より「ハーフ・アンド・セカンド」
◆
執筆中のコメントはお控えくださると嬉しいです。目次を作る関係上支障が出てしまいますので。
感想等は流沢藍蓮の所有する雑談スレでお願いいたします。
2017/10/16 執筆開始
- DG 運命遊戯 2-1-5 歌われるは裏切りの讃美歌 ( No.22 )
- 日時: 2018/01/04 12:29
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
5 歌われるは裏切りの讃美歌
◆
時は昨晩に遡る。
真夜中の校庭で、エーテナは首をかしげていた。
その前に立つのは一つの人影。
エーテナは問いかける。
「何? 急に呼び出して」
その人影は、彼女とそれなりに親しい間柄のようだった。エーテナは純粋にその人影に呼び出されたことを疑問に思っていた。
その人影は、口を開く。
「*************。************」
その人影が握りしめていたのはカッター。人影は小さく震えながらも、狂ったような瞳でエーテナを見た。その目に宿るは恐怖と狂気。ないまぜになった暗い感情がエーテナを射抜く。
その返答とその人物を見て、エーテナは嘆息した。
「ああ、『裏切り者』はあんただったの」
「違う」
人影は否定して言葉をつなげる。
「**、『****』***************。*********、************。***」
狂った瞳が、誤った決断を下させる。
「***、******。**************。**************。**?」
「……違わないわね。確かにあたしはそう言ったわ。でもね、それは真実でもないのよ」
あたしは言ったでしょ? と悲しげに揺れた、紫の瞳。
「******、って。確かにあたしの言葉は相反していたのかもしれないけれど、あたしは*****とまでは言っていないのに。何を曲解したんだか。
……それでもあんたはあたしを殺すのよね? 一度こうなってしまった以上、次に告発されるのはあんただもの。あたしはあんたの言葉を信じないわ。この状況で、あんたが『裏切り者』でない証拠なんてどこにもないんだから」
「***********。****、****」
消え入るようなその言葉に、エーテナは聖母のように微笑んだ。
「ええ、わかるわ。そしてあんたはあたしを殺す。あたしはあんたの能力に対抗するすべを持たないから、あんたはいとも容易くあたしを殺すことが出来る」
人影が一歩、近づいた。あと一歩でその能力の間合いに入る。
人影は最後に、小さく別れの言葉を告げた。
「****、****。***********、*******……」
その言葉に、エーテナは悲しく笑って答えた。
「****、****。***************……」
誰も望んでいなかった結末。どうしてだろう、運命はどこまでも残酷で。
人影が最後の一歩を歩んだ。
——そして。
そしてエーテナの命は、そこで絶たれた。
◆
「『裏切り者』はあんただな」
ほとんどの人が一人の人物を指した。指された人物は沈鬱な顔でうつむいていたが、その顔にはわずかな疑念があった。
その人物の隣に立って、しきりに違うとピースが訴える。
「違う、違うよ! ソーマくんが『裏切り者』なんて、そんなの嘘だよ!」
疑いが確定したのはソーマだった。
現場に落ちていた大量のカッター。刃物を操る人間なんて、この学園の中には一人しかいないから。
その人物とは、ウィルド・ソーマ。
ソードマスター。ピースに忠誠を誓った白銀の騎士。誰よりも正義に燃えて公正を愛し、皆の範となるべき高潔の人。中世の世界から飛び出してきたような騎士。守ると誓った存在は絶対に守る、忠義の騎士。
ウィルド・ソーマ。
彼が、『裏切り者』。
「現場に落ちていた大量のカッター。ソーマ以外に誰がいるってンだよ、あァン?」
ジェルダの周囲から稲妻が飛ぶ。彼は仲間であるテンプレイアを失っていた。
これまでずっと黙っていた、エーテナの仲間だったハーフが呟いた。
「私、信じていたのに……」
皆の視線がソーマに集まる。チームメイトを殺された人たちの視線は特に強烈だ。
ピースはソーマにしがみつき、必死に彼に問うた。
「ソーマくん、違うよね? ソーマくんが『裏切り者』の訳ないよね?」
「違う。オレが、『裏切り者』なんだ」
「え…………っ」
ソーマははっきりと、宣言した。
その藍色の瞳に宿るのは、諦観。
彼は腰に差した騎士の剣に触れ、何を思ったかいきなりそれを投げ捨てて叫んだ。
「オレは! こんなこと、やりたくはなかったんだ!」
それは『裏切り者』になることを強要された彼の、魂の絶叫。
「誰も殺したくはなかった……。オレは自分から人を殺さない! オレは自己防衛とピースの為にしかこの剣を振るわない、筈だったのに……!」
彼は頭を抱えた。
「どうして? どうして学園長はオレを選んだんだ? どうして……どうして、よりにもよって『騎士』たるオレなんだ!」
「弁明の余地はないみたいだな」
静かな声でカーシスがそっと告げる。
涙にぬれた瞳で、ピースはソーマを見上げた。
「ソーマくん……」
「誰も信じてくれないだろうけれどな!」
彼は居並ぶ皆を、諦めた目で見遣った。
「オレが犯したのは最初の殺人だけだ。あとの二回はオレじゃない……!」
「てめぇのその言葉を信じる道理はねェよ。この期に及んで、見苦しいぜ」
ソーマの言葉をジェルダが切って捨てる。
「それでもてめぇはテンプレイアを二目と見られぬ姿で殺した! それがてめぇの犯した確実な罪なんだよ、ふざけんな!」
守ると彼は誓ったのに、守りきれずに失った。
その身に宿した憤怒は、瞋恚はどれ程のものか。
彼の周囲で紫電が弾け、バリバリバチバチと激しく火花を散らす。
「謝れよ! そして泣いて命乞いしろってンだよッ!」
その劇場を秘めた言葉に、ソーマは頭を下げて謝る。
「……済まない」
しかしその淡々とした態度に、ジェルダの怒りは増すばかりだった。
彼は吼えた。
「それで許してもらえるって本気で思ってンのか、あァン!?」
「落ち着きなって!」
闇。
その瞬間、質量をもつ圧倒的な闇がジェルダを包み、弾き飛ばした。闇は一瞬周囲に広がって皆の視界を奪ったが、すぐに晴れた。
髪が左右で白と灰色に分かれた目立たぬ少年が、溢れだす感情を押さえようとするかのように必死な表情をしていた。
彼の名はトーン。エーテナの仲間だった少年だ。
「……頭が冷えた?」
「……カッとなって、悪かったな」
トーンの言葉に、ジェルダは申し訳なさそう顔をして謝った。
「あなたの気持ちはわかるよ。……自分も、エーテナを失ったんだから。でも、今は抑えるべきだと思うんだ」
「だよなぁ。悪ィ」
決まり悪そうな顔をジェルダはしたが、その直後、稲妻のように鋭い瞳でソーマを睨んだ。
「でもよ、オレはあんたを許したわけじゃァねぇからな!」
そこまで行ってから彼はカーシスの方を向く。
「で、オレたちは『裏切り者』を始末したら助かるんだよな?」
「ルールで言えばそうなる」
さあ、とカーシスは険しい顔でソーマを睨んだ。
「あんたには死んでもらわなくてはならない。あんたが死ななければ全員殺されるんだ。断罪を受けよ」
その言葉を聞いてピースは叫んだ。
「嫌! 嫌だ、ソーマくん! 私、一人になる!」
彼女はひたすらに涙を流す。
誰も望んでいなかった結末。どうしてだろう、運命はどこまでも残酷で。
ソーマはそっと彼女を抱きしめて、小さくささやいた。
「ごめんな。オレはお前の騎士に、なりきることが出来なかった」
そしてピースは感じた。自分の唇に一瞬、柔らかくて温かいものが触れたのを。
彼が「守る」といった日から、知らず彼に抱いていた淡い淡い恋心を。
彼と別れることは身を引き裂かれることと同じ。
避けられぬ別離の予感。『裏切り者』が殺されなければ、全員死ぬ羽目になる。
ピースはぽつりと呟いた。
「私……片翼の鳩に、なるんだ」
ピース・ピジョンという平和の鳩は、一人きりでは完全にはなり得なかった。ソーマと組んだその時から、彼女は己の片方の翼を彼に任せるようになっていた。
その片方の翼たる彼が、ソーマが、死ぬ。殺される。断罪され、処刑される。
それは彼女が片方の翼を失うも同じこと。
鳩は片翼だけでは飛べない。両の翼が揃ってこそ、はじめて空を飛翔できるのに。
ソーマは死ぬ。だから。
——ピースはもう二度と、飛べなくなる——。
「第二ラウンドが始まった日、ソーマくん挙動不審だったよね?」
ピースはもはや遥か彼方となった、遠い日を思い出した。
「あの日ソーマくんが挙動不審だったのは、自分が『裏切り者』だってこと、わかっていたからなんだ……」
もう、何を思っても遅いけれど。
その言葉に、ソーマは無言でうなずいた。
そっか、とピースは呟く。
「でもソーマくんは本当は、人を殺したいなんて少しも思っていなかったんだよね……」
誰も望んでいなかった結末。どうしてだろう、運命はどこまでも残酷で。
急かすような目で皆が睨んだ。皆、断罪を望んでいる。
終わりの時が来た。ピースが片翼になる時が、来た。
この機会を逃したら、もう何を伝えようにも手遅れになるから。
彼の真実を聞き、別離を悟ってようやく気付いた想いを、彼に向ける 最後の言葉を。
淡い淡い、薄桃色した恋心を。
伝えるために、その口を開いた。
「ソーマくん」
一瞬振り向いた彼の顔は、この世のどんな宝石よりも、ずっとずっと綺麗だった。
ピースはその顔を忘れない。
この一瞬を忘れない。
「私……あなたのことが、好きでした」
あまりにもベタな言葉だけれど、それ以外に言うべき言葉が彼女には見当たらなかった。
ソーマはその言葉に、何よりも綺麗な澄みわたった顔で、返す。
「守りきれなくて、ごめんな」
言って、彼は前へと歩き出す。
死刑執行人たちの居並ぶ、処刑台へ。
生徒たちは互いにアイコンタクトしあって、ハーフがそっと進み出た。
「私はこんな役なんてやりたくなかったよ。でも、私ならばいちばん綺麗にあなたを殺せるの」
彼女の能力は『折る』能力。それを使えば首だって。
彼女はそっと彼に近づいて、言った。
「さようなら」
ポキリ。あまりにも呆気ない音が一つ。
騎士の瞳から光が消えた。
あの美しい顔はそのままで。
こうして『裏切り者』は死に、第二ラウンドは終了する。
翼を失った片翼の鳩の、静かな嗚咽の声が延々と響いた。
〈ウィルド・ソーマ、脱落〉
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
- Re: 【2/25更新】Destiny Game 運命遊戯 ( No.23 )
- 日時: 2018/02/25 11:03
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)
長らく留守にしておりましたが、書くのをやめたわけではございません。
一か月以上ぶりにお久しぶりです、流沢藍蓮でございます。
今回は6300文字という大ボリュームなのでお許しを……。
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
6 鳴らすはラウンド終了の鐘
「規定人数に達したので、これで第二ラウンドを終了します」
学園長リェイルの無機質な言葉が、校内放送に乗って流れた。
「これより一日限定の小休止を与えます。この間、殺しをしてはいけません。この期間中に殺しを行った者は私が責任を持って処分しますのでそのつもりで。それ以外ならば何をやっても構いません。第三ラウンドは明日から開始します。詳細はその際に伝えますので、今の時点では明かしません。それでは、良い休日を」
「……何が『良い休日を』だ、ふざけんじゃねぇ」
その放送を聞いて、ジェルダは毒づいた。
守ってやると誓ったのに、彼は一人の仲間を完全に殺された。完膚なきまでに殺された。
それ以外にも、人が死んだ。
「良い休日? ハッ、地獄に落とされたのは誰のせいだと思ってやがるんだよ、あァン?」
そもそも「ゲーム」さえなければ、こんなことにはならなかったのに。
刺激を愛するジェルダ・ウォン、雷門寺秋羅。しかしそんな彼にさえ、今回の件は少し堪えた。
生徒たちはこうやって、心をすり減らしていくのだろうか。
「会議だ、会議をするぞ」
ジェルダは黙りこくった仲間たちにそう呼びかけた。
「もうこれ以上、誰も殺させねぇ。だから考えよう、どうやったらオレたち全員が確実に生き残れるか。そして他の生徒たちをどうやって倒すか、あるいは他の生徒たちの能力からどうやって我が身を守るか、考えようぜ? ……次こそは、守り切ってやるんだからなァ!」
振り返れば、ぎこちない笑顔で笑ったハーフ、もちろんですにゃー、と元気いっぱいに答えたシロ、善は急げですわ、と微笑んだアキュアリア。ジェルダの、頼もしく愛おしい仲間たち。
——大丈夫、やれる。
彼ら彼女らを見て、ジェルダはそう確信した。
「ならば全員部屋に来い! そうだ、善は急げだ!」
この先に逆境があっても、前向きに進むしかないのだ。
◆
大切なものを失って、片翼となった平和の鳩。
部屋に戻ればまだそこには、誇り高き騎士の残り香がした。
ピースの両の瞳から、透明な雫が溢れ出る。
「ソーマ、くん……」
一人きりの部屋。空いた空間。それはもう、ソーマがどこにもいないのだということを示すかの様で。
つい昨日まで、そこにいたのに。つい昨日まで、そこで笑っていたのに。
今や彼はもういない。喪失感がピースを押し包んだ。
「どうして……どうして、ソーマくん、だったの……?」
『裏切り者』が単独行動をしている誰かだったら、周囲は傷つかずに済んだのになと彼女は思った。
だが思い出してみろ、学園長リェイルはそんな女じゃない。そんなに優しい女じゃない。誰かが傷付くのを見て喜びを、愉悦を感じる人間だ。そんなに優しい人選など、するわけがないのだと。
ようやく伝えられた気持ち、自分でも知らなかった本当の気持ち。
ソーマのことが「好きだ」という、ピースの素直で純粋な気持ち。
伝えたのに、全ては今や手遅れで。
「……何もしたくない」
つぶやいた彼女の瞳は、虚ろだった。そこには果てなき虚無が広がっていた。
ピースは、平和の鳩は、臆病な白い少女は。
ソーマという相棒を失って、信互という恋人を失って、
その喪失感と心に広がった虚無に、気付いて。
壊れた。
「あアあああアアアああぁァぁぁァァァぁぁぁァァぁぁァぁあああ————ッ!!」
言葉にならぬ悲鳴が、慟哭が。
彼女の部屋の中、悲痛に響き渡った。
◆
「…………っ」
「ヴィシブル!? おい大丈夫か、しっかりしろ!」
一方、策略家たちの別室では。
これまでのことを普通に歓談していたら、何の前触れも無く、ヴィシブルがドウと倒れた。カーシスの顔が青ざめる。
「どうしたんだ、一体? 立てるか、動けるか?」
「……どうやら無理が祟ったみたいだねぇ……」
苦しそうな顔でヴィシブルは笑う。彼は何度も何度も咳き込み、息をしようと必死でもがいていた。
これまでも何度かヴィシブルは倒れたが、今回のそれは尋常ではなかった。今にも死にそうな、と形容するのが相応しいほど、ヴィシブルの容態は悪いように見えた。
しかしカーシスはナイフの扱いこそ知っていても、病人の世話の仕方など知らない。彼が知っているのはあくまでも自分のこと。自分に対する応急処置と、自分なりに覚えた護身術。彼の育った環境では、他者に気を遣う余裕なんてなかったから。
隣で聞こえる荒い呼吸。ヴィシブルは偽りの微笑みを浮かべるのさえできなくなって、その目は固く閉じられ、苦しそうな顔をしていた。
「どうすりゃいいんだ……」
途方に暮れたカーシス。とりあえずヴィシブルを抱きかかえてベッドに運ぶと、その手を握ってやった。
「死ぬなよ、ヴィシブル。僕たちは『ゲーム』のプレイヤーだ。『ゲーム』の枠の外で死ぬなんてことになったらお笑い草だ。『資格』が欲しいのだろう? ならば、生きろよ。僕がいる、僕が傍にいて守ってやるから、生きろよ。僕は君の病気に対して何も打つ手を持たないけれど、君が死んだら困るんだから。……それと、無理するな。君のそういった態度が、君を思う人間を傷つけることになるんだぞ?」
どこまでも真摯に、真面目に、カーシスはそう言った。
『策略家』が本音を話すのはヴィシブルの前でだけ。彼はヴィシブル以外を信用しないが、ヴィシブルもそれは同じだろう。
ヴィシブルはカーシスの言葉に、無理して笑って答えた。
「死なないよ、カーシス。僕は、こんなところで……」
生きたいと、強く願った。ヴィシブルは「あの家族」の唯一の生き残りだ。だからヴィシブルは誓った。自分が、途中で死んでしまった家族の分を生きると。双子の兄の見られなかった「その先」を、代わりに見ると。病魔に冒されながらも、人一倍、強く強く。願い、願って、誓った。
白く儚く弱々しい姿。されどその瞳に輝くのは、どんな風にも吹き消されることのない紛れも無い炎。
時に冷たく、時に限りなく残酷に、白く燃える命の炎。
「僕は、死なない。絶対に」
宣言するようにつぶやけば、少し身体が楽になったのを彼は感じた。
病は気から、とはよく言うものだ。ラウンド終了の知らせを聞いて、気が抜けてしまったのだろうとヴィシブルは思った。
ためしに彼がその身を透明にしてみれば、カーシスがおふざけはやめろと憤慨する。
透明化を解いた彼。カーシスの青の瞳と目が合った。
(生きて、いけるよ)
その瞬間、生まれた根拠なき確信。それでも。
この相棒がいる限り、この絆が在る限り。
生きていけると、二人は互いに確信したのだった。
ヴィシブルの身体から力が抜けた。
「ヴィシブル……?」
「僕、疲れたから……少し、休むよ」
病と闘いながらも、少年はそっと目を閉じた。
カーシスがその額に手をやってみれば、高い熱が感じられた。
◆
エーテナが死んで、二人きり。
ウェインとトーン。内気すぎる二人だけが残った。
先ほどから二人の間に会話はない。当然だ、エーテナがいてこそ成り立ったチームだ。
ウェインは狂ったように何かをつぶやき続け、トーンは終始無言のまま。
チームの崩壊も、目の前に迫っていた。
「エーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナエーテナ……」
同じ名前を何度も、何度もつぶやいているウェイン。
と、突如その言葉が止まった。狂った瞳がトーンをぎょろりと見た。
「……何」
警戒心を込めて、そうトーンは問うた。念のため、と彼は大きく距離を取る。
ウェインはその様を、悲しげに見つめていた。
「ボク、知ってる」
明かされたのは。
「エーテナを殺したのは、ソーマじゃないの」
衝撃的な、
「ソーマは冤罪を掛けられたの。こと、エーテナの死に関しては」
あまりにも衝撃的な、
「エーテナを殺したのはね、トーン」
全てを覆すような、
「——ボクなんだ」
——事実。
「…………え?」
固まった空気。
驚愕に動けなくなったトーンを尻目に、ウェインは叫ぶようにして語りだす。それは、懺悔。それは、後悔。しかしどうしようもない人間不信に塗りつぶされた、臆病な少女の臆病すぎる告白。彼女には、弱い彼女には。そんなに大きな秘密、抱えて生きるなんてできなかった。
語られた、真実。溢れ出る言葉はさながら、大地を掛け下る土石流の如く。
「エーテナはボクに言ったんだ人を簡単に信じちゃいけないってあの状況の中でボクはエーテナさえも信じられなくなったんだだってその言葉は裏を返せばエーテナ自身も信じるなってことになるなのにエーテナは言うあたしを信じなさいと矛盾しているおかしいよだからボクはエーテナを信じられなくなって彼女が裏切り者だと判じたんだそしてボクは彼女を深夜の校庭に呼び出して殺したボクは重力を使うその力で重力で押し潰してぺしゃんこにしてそしてボクの犯行とは悟られないようにあらかじめ木工室から取ってきたカッターをばら撒いてカモフラージュにして現場を逃走しただからソーマはエーテナを殺していないエーテナを殺したのはボクなんだボクがエーテナを殺したんだエーテナは裏切り者じゃなかったのにボクが人間不信によって殺したんだエーテナは仲間に殺されたんだエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナはボクが殺したエーテナは……」
「もういいっ!」
飛んできた闇、質量を持った闇。
ウェインはトーンの能力に大きく弾き飛ばされた。
全てを知ったトーンは今、彼女に対して恐怖を感じていた。
人間不信。このゲームの中にあってならば、その気持ちはトーンにだってわからないことも無いけれど。
それでも、だからといって。ウェインのしたことは異常過ぎた。
自分が絶対に信用できると思った人を、そこを疑ってかかって殺した。そしてその罪を何の関係も無い第三者にかぶせた。確かにソーマが裏切り者だったが、それはおそらくまぐれであろう。それで違った人間が疑われて『裏切り者』として処分されても、ウェインは何も思わないのだろう。恐るべき自己保身。恐るべき自己中心。彼女は自分が生き残るためならば、『人間不信』でいとも容易く他者を裏切るタイプの人間だ。それにエーテナは気付けず、ただ臆病で利用しやすい少女だと思い、そして彼女に殺された。彼女の人間不信に殺された。
そんな人間とこれまで行動を共にしていたなんて——。
だからトーンは、宣言する。
「ごめん、ウェイン。自分はもう、あなたと一緒のチームにはいられない」
生き残るために。この悪夢をクリアするために。
「あなたは自分が何をしたのか、わかっているよね?」
一歩一歩、遠ざかりながら。ただしウェインを警戒し、後ずさるようにしながら。
「さようなら。あなたの傍にはもう、誰も来ない。誰もあなたによりつかない。それがあなたの選んだ道なんだ、それが『人間不信』の選んだ道なんだ、違う?」
そうやって誰もを遠ざけて、ウェインは一人きりになる。
「さようなら」
最後通牒のように、トーンは言った。
そして彼は駆けだした。仲間殺しの化け物から、『人間不信』のウェインから、ひたすらに逃げるように。
ウェインは追ってこなかった。
残されたのは、狂った少女、独りきり。
◆
事の真実は、こうして明かされた。
巻き戻って見てみようか?
真夜中の校庭で、エーテナは首をかしげていた。
その前に立つのは一つの人影。
エーテナは問いかける。
「何? 急に呼び出して」
その人影は、彼女とそれなりに親しい間柄のようだった。エーテナは純粋にその人影に呼び出されたことを疑問に思っていた。
その人影は、口を開く。
「*************。************」
(「人を簡単に信じちゃいけない。エーテナがそう教えたんだ」)
その人影が握りしめていたのはカッター。人影は小さく震えながらも、狂ったような瞳でエーテナを見た。その目に宿るは恐怖と狂気。ないまぜになった暗い感情がエーテナを射抜く。
その返答とその人物を見て、エーテナは嘆息した。
「ああ、『裏切り者』はあんただったの」
「違う」
人影は否定して言葉をつなげる。
「**、『****』***************。*********、************。***」
(「でも、『裏切り者』はエーテナかもしれないじゃない。誰が敵で誰が味方か、ボクにはまるでわからない。だから」)
狂った瞳が、誤った決断を下させる。
「***、******。**************。**************。**?」
(「怖いよ、みんなみんな。だからボクはあなたを殺すんだ。疑うべきは一番身近な人からだ。違う?」)
「……違わないわね。確かにあたしはそう言ったわ。でもね、それは真実でもないのよ」
あたしは言ったでしょ? と悲しげに揺れた、紫の瞳。
「******(信じなさい)、って。確かにあたしの言葉は相反していたのかもしれないけれど、あたしは*****(味方を疑え)とまでは言っていないのに。何を曲解したんだか。
……それでもあんたはあたしを殺すのよね? 一度こうなってしまった以上、次に告発されるのはあんただもの。あたしはあんたの言葉を信じないわ。この状況で、あんたが『裏切り者』でない証拠なんてどこにもないんだから」
「***********。****、****」
(「殺したくはなかったんだ。分かって、エーテナ」)
消え入るようなその言葉に、エーテナは聖母のように微笑んだ。
「ええ、わかるわ。そしてあんたはあたしを殺す。あたしはあんたの能力に対抗するすべを持たないから、あんたはいとも容易くあたしを殺すことが出来る」
人影が一歩、近づいた。あと一歩でその能力の間合いに入る。
人影は最後に、小さく別れの言葉を告げた。
「****、****。***********、*******……」
(「さよなら、エーテナ。ボクの道を示してくれた、ボクだけの師匠……」)
その言葉に、エーテナは悲しく笑って答えた。
「****、****。***************……」
(「さよなら、ウェイン。あたしの可愛い可愛い小さな弟子……」)
誰も望んでいなかった結末。どうしてだろう、運命はどこまでも残酷で。
人影が最後の一歩を歩んだ。
——そして。
そしてエーテナの命は、そこで絶たれた。
◆
《第二ラウンド、終了》
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
- DG 運命遊戯 3-1-1 現実が怖くて ( No.24 )
- 日時: 2018/02/28 17:28
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)
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《第三ラウンド Destiny Game 運命遊戯》
〈一章 姿の無い策略〉
1 現実が怖くて
「これから第三ラウンドを始めます」
翌日。校内放送で響き渡った無機質な声。学園長は皆を体育館に集めるのをやめたらしい。
その声とともに、新しい殺し合いの日々は始まった。
「第三ラウンドのルール説明をします。とはいえ、第三ラウンドは第一ラウンドとほとんど変わりません。なので変わった点のみを説明いたします」
新しいラウンド開始の声を、ピースは虚ろな心でぼんやりとしながら聞いていた。
「昨日のうちに、私はこっそりこの学園の中に幾つかの『アイテム』を配置しました。『アイテム』は一つ一つ違い、それは見つけるまでのお楽しみです。
ルールは簡単。今から一週間以内に、残り人数が四人になるまで殺し合いをしてもらいます。その際に『アイテム』を活用するもよし、しないもよし……。好きに殺し合いをしていただくのです。『アイテム』が使えないなと思った場合はそれを使わないという手もありますし、使いたいならばどうぞご自由に使ってくれても構いません。その『アイテム』をめぐって争いが起きても私は関知いたしません。『アイテム』の存在によって、少しルールが複雑化しただけ。簡単でしょう?」
『アイテム』を使ったからって勝てるとは限りませんから過信はせずに、と校内放送は告げる。
「以上が、今回の変更点となります。後は第一ラウンドと変わりません。それでは皆さん
——楽しい殺し合いをッ!」
こうして悪夢はまだ続く。
◆
エーテナの仲間はウェインとトーンだけではない。忘れてはならない少女がいる。
そう、いただろう? ソーマの命を最終的に奪った、気弱な少女が。
——ハーフが。
彼女は怯えていた。彼女は陰でウェインの話を聞いていた。
そして彼女は知ったのだ。ウェインの犯した、究極の裏切りを。
それを知って彼女は怖くなった。恐ろしくなった。
だから、逃げだした。
どこへ? それはわからないが、ずっと遠くへ。
この学校の敷地の奥へと、彼女は逃げて逃げて逃げだした。
彼女は生きていたかったから。少しでも自分の生存率を上げるためには誰にも会わない方が良いと彼女は考え、それを実行した。
——逃げるという形で。
人はそれを臆病と言うだろう、弱虫と嘲笑うだろうが果たして、それは本当に賢明な行動ではなかったのだろうか? この、誰が敵か味方すらもわからない環境では、それは一種の解決策であるとも言えるだろう。そのまま誰にも会わずに期間を凌げれば、彼女は絶対に生き残ることができる。衣食住の問題はあるかもしれないが、それさえ置いておけば理屈は合う。
この悪夢のゲームにおいて、真っ先に警戒すべきは同じ生徒なのだから。
その行動が裏目に出るか否かは、神のみぞ知る。
◆
「はあっ、はあっ、はあっ……」
どこを目指すとも知れず、ハーフは走る。気持ちを折る、心を折る。怠惰な気持ちを、諦めたいという後ろ向きな思いを、折る。彼女の力は『折る』力だ。応用すれば、それは精神面にだって作用する。
最初は自信のなかったハーフだけれど、今は亡きエーテナが教えてくれたから。
「あんたはもっとできる」と。ハーフの力はこんなものではないと。
彼女はその言葉に励まされて、自信を持った。しかしそれでも、狂ったウェインに対する恐怖の前ではせっかくの自信も形なし、砂の塔の如く崩れ落ちていった。
それだけウェインは異常だった。そんな恐ろしい雰囲気を身にまとっていたのだった。
しかしそんな彼女でも体力は無尽蔵ではない。やがて彼女は疲れ切って、校舎の外にある小さな林の中に倒れ込んだ。
荒い息をしながらも彼女はつぶやく。
「ここ、なら……誰も、追ってこないよ、ね……?」
その林は、学校全体から見たらかなり端の方にあった。普通ならば、そんな所に人はこない。
だからハーフは安心して緊張を解き、一気に体の力を抜いた。
時。
「……何でこんなところに人が居るんだよ?」
声。それは、非常に聞き覚えのある、声。
じゃらん、音をたてた鎖。林の陰から覗いたきんきらきんの頭。
ビリビリバチバチと、音を立てて爆ぜる紫電。
——ジェルダ・ウォン!
ハーフは戦慄し、固まった。
なぜ、なぜ、あの彼がこんなところに。ハーフの思考はひたすらに空回りしていく。パニックになって頭が真っ白になっていく。
誰にも殺されないように、生き残れるように、生き続けられるように、それだけを思って逃げ出してきたのに。
よりにもよって、出会ったのはジェルダ・ウォン。既に殺人経験を持つ、学園の問題児。否、ハーフも殺人経験を持つがそれは不可抗力であってジェルダは違う。確かに売られた喧嘩ではあったけれど、彼は明確な殺意でもって人を殺したのだから。
彼はハーフを見て、不思議そうにつぶやいた。
「ま、見回りついでに得したってことでいいか。コイツを殺せばオレたちがさらに一人分、生き残れることになる。幸いコイツ弱そうだし、わざわざ遠出した甲斐があったなァ?」
その言葉は、ハーフを殺すという計画。
彼は実にあっさりと、まるで世間話でもするかの様に彼女の前で、彼女を殺す話をした。
ジェルダの実力は彼女も知っている。だから彼女は思った。
終わったな、と。
いや、実際ハーフがここまで疲れていなければまだ、反撃のしようはあったのだ。
ソーマの時と同じだ、首を折ればそれで一発即殺だ。能力を使う際のタイムラグも無いし、実に綺麗に人を殺せる。不意打ちだってできるだろう。それはエーテナが生前、彼女に気づかせてくれた彼女の本当の力。
しかし疲労していては能力を使えない。彼女は逃げれば勝てると考えてそれに賭けた。だが現実問題、彼女の目の前には彼女を殺す人物がいる。つまり。
ハーフは。ハーフ・アンド・セカンドは。
自分の命を賭けた賭けに、負けたのだ——。
「どうせ無理だと思うけれど」
半ば諦めた口調でハーフはジェルダに言う。
「見逃して欲しいな……」
「無理な相談だって、わかっているだろう?」
ジェルダの返答はにべも無い。
「まぁ確かに、その選択も間違っちゃあいなかったがな? このオレと出会ったのが運のツキだ。諦めて大人しく死んでくれ」
その言葉を聞いて。
どうせそうだとわかりきっている言葉を聞いて。
なのに割り切ることのできない自分を、ハーフは感じた。
死を前にして。絶望の中、彼女はぽつりと言葉を漏らした。
「そんな……私だって、老衰で死にたいよ……家族を作って、息子娘を作って、優しい夫と毎日を過ごしてマイホームに暮らして、息子娘から息子娘が生まれて、孫になって、御婆ちゃんとか言われたかったよ……なのに……何で……私はこんなに不運なんだろう……?」
「神様を恨めよ。最後、名前だけ聞いてやる。あんたの本名は?」
ジェルダは彼女の悲しみさえも無視する。
しかし名を聞いたのは彼なりの優しさだ。彼女が死んでも、彼女のことを覚えてやれるように。彼女の本名を知って、彼女の家族に彼女の訃報を伝えられるように。それは確かにささやかだけれど、それは確かな気遣いだった。
その言葉に隠された意図を知ったから。
ハーフは、名乗った。
「私は……衣更着 卯月。きさらぎ、うづき。それが、私の名前だよ、ジェルダ……」
「衣更着卯月、オレは雷門寺秋羅だ」
名前を明かしてくれた礼として、自分も名前を明かしながらも。
ジェルダは手を掲げた。掲げた手に、稲妻が集まる。
「痛くないぜ? 一瞬だ。一瞬で心臓を止めてやる。だから恐れるな、怖がるなよ?」
手がゆっくりと下ろされていき、やがて——。
「さよならだ、卯月。安らかに——眠れ」
その手が完全に下ろされた時、的確に心臓を狙って飛んできた稲妻が。
ハーフの、衣更着卯月の、命を一瞬にして奪った。
〈ハーフ・アンド・セカンド、脱落〉
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- DG 運命遊戯 3-1-2 錯綜する真偽 ( No.25 )
- 日時: 2018/03/01 15:25
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)
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2 錯綜する真偽
「ヴィシブル、やれるぜ? 僕ならば絶対にやれる」
ヴィシブルの額に乗った冷たいタオルを取り換えながらも、カーシスはそんなことを言った。
ヴィシブルはあれから高い熱を出していた。小休止一日程度で治るようなものでもない。
「厄介な奴、いただろう。青薔薇だ、不可能の青薔薇だ。僕はそいつを潰しにいこうと思う。まぁ無論、正攻法なんか使わない。僕が使うのは搦め手だ」
その人物は不意打ちすればカーシスでも殺せるかもしれない。しかしそれではつまらないのだ、それではカーシスは満たされないのだ。
さしあたっては。
「悪い、ヴィシブル。君の体調については良くわかっているつもりだ。だが、最初は僕が担当するが、君にもそれを見届けてほしいんだ。僕は自分の計画に自信があるが、万が一ということもあるだろう。それにあまり君を一人にしたくないものでね」
カーシスの言葉に、ヴィシブルは頷いた。
「わかった。僕、何とかして治すから……」
熱に潤んだ瞳が、カーシスを見上げた。
カーシスは相棒に優しく笑いかける。
「大丈夫だ、計画はほとんど僕が担当するから、お前は無理するなよ。で、計画についてだが……」
——第三ラウンド開始直後。
早くも彼らは動きだす。
◆
アーリンを失って、リィアナは虚ろになっていた。
目を閉じれば浮かんでくるのは、いつも明るく笑っていた道化。反射能力者アーリン・フィディオライト、本名、山中智也。リィアナこと古門院幽奈の幼馴染。
あの日、ソーマに殺されたのだと彼女は信じていたけれど。
ソーマの最期の言葉がひどく、気にかかる。
『オレが犯したのは最初の殺人だけだ。後の二回はオレじゃない』
見苦しいぜとジェルダにけなされた、言葉。
だが、もしもそれが真実だとするならば。
アーリンを殺したのは一体誰だろう?
リィアナは復讐したかったのに、ソーマはもうこの世にいないから。
だから、彼女は求めた。自分の復讐心を満足させる相手を。
そう考えたら、ソーマの最期の言葉は彼女に、まだ復讐が可能だとささやきかけているようにも思えるのだ。
無論、単なる無効能力者たるリィアナが誰かを殺せるはずも無い。反射ならばまだ可能だが、無効は防御特化の能力だ。
——しかし、彼女は今なら誰かを殺せる。
リィアナは手にした物体の重さを確かめるように、「それ」を軽くゆすり上げた。
それは、小型の機関銃だった。何故そんなものを彼女が持っているのか? それはその機関銃が各地に散らばった『アイテム』の一つだからだ。
虚ろな彷徨の末、彼女は偶然それを手にした。
そして彼女は思ったのだった。
——今なら、やれる。
今なら、銃を手にした今なら、自分はきっと復讐できる、と。
そんなことを確信した彼女の前、声をかける者があった。
「リィアナ・ファーンディスペリか? 丁度いい。ある情報を手にしたのだが、君にその情報をあげよう」
小柄な体躯に銀髪、緑の瞳に黒のタキシード。
最近は目立ってはいなかったが、彼は皆の前で堂々と一人の人間を殺している。
破壊者、イグニス・シュヴァルツを殺した張本人。
リィアナは彼の名を呟いた。
「バロン……」
「そう、それが私の名前だ」
バロンはそう言って頷いた。
リィアナは首をかしげる。
「ある情報って何? あなたは私に何をくれようというの?」
「簡単な話だ。君は復讐したいのだろう? その相手についての情報だ」
「アーリンを殺した人……?」
目を見開いた彼女に、バロンは続ける。
「単刀直入に言おう。アーリンを殺した人物はゼロだ」
ゼロ。爆破能力者。しかしリィアナは思い出す。アーリンの死に様は首にナイフをひと刺しだった。爆破されたのならば一目でわかるだろう。
彼女の疑問を先取りするように、バロンは語りだす。
「単純に爆破してしまったら誰が彼を殺したのか一目でわかる。だからゼロは不意打ちを使った。不意打ちで、後ろから襲いかかって彼を殺した。私は偶然その様を目撃したが、大して重要なことだとは思えなかった。だからこれまでずっと黙っていたのだが……君にここで出逢ったのも縁だと思ってね、話すことにしたのだよ」
——不意打ち。アーリンは不意を打たれて殺された。
それには彼の『反射』なんて無意味だ。極論言えば、不意打ちにはどんな能力だって無意味だ。
ゼロが、アーリンを殺した。リィアナにとって重要なのはその情報だけだ。
テンプレイアが殺されたときにゼロは『俺はやっていない』なんて言っていたが、結局彼は人殺しになったのだ。
——人殺しには、復讐を。
リィアナは凄絶な笑みを浮かべて、バロンに言った。
「ありがとう、銀色の男爵さま」
手にした機関銃を、揺らしながら。
「これでアーリンも、報われるわ」
「……それは良かった」
ありがとう、ありがとう。そう何度もリィアナは繰り返して。
そしてバロンに背を向けて、いなくなった。
復讐に飢えた狂気の彼女は今、己の牙にかける者を探し求め始めた。
何の疑いも無く彼女はバロンの言葉を信じたが、果たしてそれは真実だったのだろうか?
とはいえ、物語は再び動き始める。それがどんな方向に向かっていくのか、わかる者は誰もいない。
『策略家』ならば、もしかして何かを知っているのかもしれないけれど、ね。
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- DG 運命遊戯 3-1-3 青薔薇には青薔薇を ( No.26 )
- 日時: 2018/03/03 09:03
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)
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3 青薔薇には青薔薇を
ゼロがアーリンを殺した。ゼロがアーリンを殺した。ゼロがアーリンを殺した。
——ゼロがアーリンを殺した。
知った事実が彼女を狂わせ、復讐という道に走らせる。
手にした小機関銃。初心者でも扱えるような作りになっているらしく、ご丁寧に操作マニュアルまでついていた。
リィアナは狂った瞳で笑う。
(アーリン、待っていて。私があなたの仇を取るから……)
けれども、死んだ彼は果たしてそんなこと、望んでいるのだろうか?
彼女に対して、復讐なんてどうでもいいから生き延びてほしいと願うのではないのか?
とはいえ死人に口なしだ。今更アーリンがどうこう言えるわけも無い。
だって彼は、脱落したのだから——。
「アーリン、アーリン、アーリン……」
人間は、脆い。
極限状態で相棒を失う、それだけでこうも壊れ得るのだ。
狂った青薔薇は壊れた人形のように、ただただ得物を探し求める——。
◆
「貴方がアーリンを殺したから、私は貴方を殺すわ」
いきなり現れた黒と青の少女に、ゼロは何事かと問いかけるような眼を向けた。
場所は、中庭。
戸惑う彼にも構わずに、リィアナは彼に手にした小機関銃の銃口を向ける。
ゼロは誤解を解こうと必死になった。
「いや待て、落ち着け。俺じゃない。俺はアーリンを殺してなどいない。……誰がそんなことを?」
リィアナはその答えに眉をひそめた。
「この期に及んでまだ言うの? いいわ、教えてあげる。
私にその情報をくれたのはバロンよ。しっかり目撃したんですって。貴方は自分が殺したとばれないように、あえて力を使わないで不意打ちで綺麗に殺したって、ね」
違う、とゼロは反射的に呟いた。彼はその日の夜、自分の部屋にいたのだ。……一人行動の彼だ、誰もそのアリバイを証明できる人間なんていないけれど。
ゼロは冷静に彼女に返した。
「冤罪だ、俺はやっていない」
「往生際が悪いのね?」
リィアナは銃の引き金に指を掛けた。
「せっかく犯行動機なんかを聞こうと思っていたのに、気が変わったわ。貴方があくまでも犯行を認めないのならばそれはそれで構わない。だって未来は変わらないわ。貴方は私に殺される、それだけよ」
一見冷静に見えるリィアナ。しかし彼女に話は通じない。
会話の中からそれを知ったゼロは、諦めたように呟いた。
「……わかったよ、ああ」
そのバロンという男が、同士討ちを狙ってガセ情報を流したのだと、ゼロは心の底で確信した。
——バロン。
その名前、覚えておこう。
彼は無造作に手袋を外してポケットに仕舞うと、足元から手頃な石を一つ拾った。その動作に警戒したリィアナが、引き金にかけた指を引いた。
それと同時に、指から弾かれる石。
しかし石は外見こそ石であっても、中身は石でなくなっていた。
ビュンと音を立ててゼロの頭上を通り過ぎた弾丸の嵐。辛うじてゼロはそれを避けた。
同時に。
閃光。
あまりにも眩しく、辺り一帯を照らして。
偶然それを見た他の生徒の目を焼いて。
たまらずリィアナの手から放り出された機関銃が辺りに弾丸を雨と降らし、やがて弾切れになって止まった。
ゼロは咄嗟に木の陰に隠れたから、その身体に傷はない。
彼はそうなることを予期していたから、そもそもその方を見てさえいない。
弾丸と、閃光。一瞬の交錯の終わった後には。
目を押さえてうずくまるリィアナと。
木の陰に退避し、悠々と立っているゼロ。
その二人だけが残された。
——勝敗は、決した。
それがゼロの能力である。触れた無機物を指で弾いて爆弾に変える能力。威力も調節することができるし、先程の閃光弾はもちろん、音響弾、時限爆弾、空気爆破などたくさんの応用ができる優れもの。
そしてそれは物理的な暴力であるがために、能力無効化のリィアナ、『不可能』の青薔薇にも防げない。リィアナならば、彼が『爆弾』にした直後の物質に触れればもしかしたらそれをただの無機物にしてしまうこともできるのかもしれない。しかし『爆弾』から『爆破』までのタイムラグはゼロに等しい。運動音痴のリィアナにそんな真似が出来るはずがないし、そもそもそこまで近づくような大胆さも彼女にはない。
大胆なのは、彼女の相棒だったアーリンであった。リィアナでは、ないのだ。
何はともあれ。
目を押さえてうずくまり、何もできなくなったリィアナの隣、ザッと靴音を立ててゼロが立つ。
彼は不思議そうに彼女に問うた。
「……どうして、俺に挑んだ。相性の悪さはわかっていただろうに」
問いかけるゼロに。
リィアナはただ呻くことしかできなかった。
惨めで哀れな復讐鬼の姿を見下ろして、ゼロは悲しげに笑った。
そして彼は最後の準備をする。
この中庭にはたくさんの木がある。が、その足元はアスファルト。つまり——無機物。
ゼロはリィアナの足元のアスファルトを指で弾くと、その能力を封印するためにいつも身につけていた手袋をつけ直し、その場を立ち去った。
「あばよ、リィアナ、青薔薇。俺に挑んだことが間違いだったな」
彼がその場を去ってから数秒後、リィアナの足元のアスファルトが爆発した。
仕掛けられたのは時限爆弾。そうすればゼロまで巻き込まれないで済むから。
爆発した。爆風。その中央にいたリィアナに、それを無効化するすべはない。
彼女の細い手足がバラバラに吹き飛んだ。青薔薇の彼女に、紅い花が咲いた。
——青薔薇には青薔薇を。無効化には、無効化できぬ攻撃を。
無効能力者は一部の人間には脅威だが、それを破る手段はどこにでもある。
かくしてリィアナは命を落としたが、それが不運だったと一律に断じることはできまい。
——もしも天国なるものが実在するのならば、彼女は今頃、アーリンと再会できていることだろう。
◆
「見届けたよ、カーシス……」
苦しそうな呼吸音。
何も無いはずの空間で、そんな声がする。
誰もいなくなったのをその場で確認し、少年は透明化を解いた。
『不可視』のヴィシブル。身体弱き策略家。
カーシスは彼に「見届ける」という役割を課した。確かにそれ以外のことは皆、カーシスがやってくれたから。少しでも役に立ちたいとヴィシブルは思った。
見届けるのならば透明化できるヴィシブルが最適。だから彼はその役目を任された。
とりあえず、リィアナは死んだ。確実に、これ以上ないほど確実に、死んだ。カーシスの策にはまって殺された。
カーシスの計画はこうだ。
まずバロンにさりげなくガセの情報を流す。さりげなく、実にさりげなくだ。「風の噂で聞いたのだが」みたいな感じで、誰にすれ違っても同じように言うかのように。そして「ゼロがアーリンを殺した」というもっともらしき理由を適当にでっちあげる。
バロンは馬鹿ではないからその情報を鵜呑みにはしないだろう。しかし利用しようとはするはずだ。この「ゲーム」で生き残るには少しでも人数を減らす必要がある。そのためにはこのガセ情報は役に立つ。リィアナとゼロを同士討ちさせて人数を減らし、少しでも自分の生存確率を上げる。頭の回る人間ならばそうするだろう。事実、バロンはそうした。カーシスの考え通りに動いた。それもヴィシブルが見届けている。
そして「バロンの流した」ガセ情報に踊らされたリィアナはゼロに挑み、呆気なくその命を散らした。
——全て、カーシスの計算通り。
自らの手を汚さずして人を殺す。
それらを無事に見届けたヴィシブル。あとは帰るだけだ。
「流石、カーシス。大したお手並みだね……」
柔らかく微笑んで、ヴィシブルは帰るために歩きだした、
矢先。
「…………ッ!」
治りきらぬ体調不良がその小さな身体を襲った。たまらず彼は倒れ込む。
立ち上がることができなくなっていた。
「まずい……。こんなところで、倒れちゃ……!」
普段は冷静なのに、彼のことになると心配性になる相棒のことを思いながらも、ヴィシブルは必死で動こうともがく。
しかし力を失った身体は全然動かなくて、いたずらに手だけがアスファルトを引っ掻く。
帰らなくてはならないのに。
次第にブラックアウトしていく意識。力を使い過ぎたんだ、無理し過ぎたんだと彼は思った。
とはいえ、どうっしようもない。
(ごめんね、カーシス……)
白の少年は意識を失った。
◆
中庭の隅っこで、倒れている少年が一人。
意識はないようで、苦しそうな顔をしている。
それを見つけた白衣の少女は首をかしげた。
「病人ですにゃー?」
そのまま放っておくという手段もあっただろう。
現にこの「ゲーム」に則るならば、そうした方が良かった。
いっそのこと、無防備な彼を殺してしまっても、良かったのに。
「放っておくのもひどいですし、連れて帰るにゃー」
ちっぽけな正義感。心優しい彼女は、彼を放っておくことなどできなかった。
だからそっと彼を背負って、歩き出す。自分と仲間たちのいる場所へと。
「それにしても枯れ木のように軽いですにゃー。大丈夫かにゃー?」
暢気なことを言いながらも。
こうしてゲームはまだ続く。
〈リィアナ・ファーンディスペリ、脱落〉
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