複雑・ファジー小説

〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下
日時: 2020/06/30 15:04
名前: 銀竹
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=17224

 人々の安寧を願ったサーフェリアの前国王、サミル・レーシアス。
彼の興した旧王都――アーベリトは、わずか七年でその歴史に幕を閉じることとなった。

 後に『アーベリトの死神』と称される、召喚師ルーフェンの思いとは……?

………………

 はじめまして、あるいはこんにちは!銀竹と申します。

 本作は、銀竹による創作小説〜闇の系譜〜の二作目の後編です。
サーフェリア編がかなり長くなりそうだったので、スレを上・下と分けさせて頂く事にしました。
一部残酷な表現などありますので、苦手な方がいらっしゃいましたらご注意下さい。

 今回は、サーフェリア編・上の続編となっております。
サーフェリア編・上の知識がないと通じない部分も出てきてしまうと思いますが、伏線以外は極力分かりやすく補足して、進めていきたいと考えています(上記URLはサーフェリア編・上です)。

〜闇の系譜〜シリーズの順番としては
ミストリア編(上記URLの最後の番号五桁が16085)
サーフェリア編・上(17224)
サーフェリア編・下(19508)
アルファノル編(18825)
ツインテルグ編
となっております。
外伝はどのタイミングでも大丈夫です(16159)。
よろしくお願いいたします!

…………………………

ぜーんぶ一気に読みたい方→ >>1-300

〜目次〜

†登場人物(第三章〜終章)† >>1←随時更新中……。

†用語解説† >>2←随時更新中……。

†第三章†──人と獣の少女

第一話『籠鳥』 >>3-8 >>11-36
第二話『憧憬』 >>37-64
第三話『進展』 >>65-98

†第四章†──理に触れる者

第一話『禁忌』 >>99-150 >>153-162
第二話『蹉跌』 >>163-189 >>192-205
第三話『結実』 >>206-234

†第五章†──淋漓たる終焉

第一話『前兆』 >>235-268 >>270-275
第二話『欺瞞』 >>276-330
第三話『永訣』
第四話『瓦解』

†終章†『黎明』


……………………

基本的にイラストはTwitterにあげておりますので、もし見たい!って方がいらっしゃいましたらこちらにお願いします。→@icicles_fantasy

……………………


【完結作品】
・〜闇の系譜〜(ミストリア編)《複ファ》
ミストリアの次期召喚師、ファフリの物語。
国を追われ、ミストリアの在り方を目の当たりにした彼女は、何を思い、決断するのか。

・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上《複ファ》
サーフェリアの次期召喚師、ルーフェンを巡る物語。
運命に翻弄されながらも、召喚師としての生に抗い続けた彼の存在は、やがて、サーフェリアの歴史を大きく変えることとなる――。

【現在の執筆もの】
・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下《複ファ》
三街による統治体制を敷き、サーフェリアを背負うこととなったサミルとルーフェン。
新たな時代の流れの陰で、揺れ動くものとは――。

・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。

・人語を知らぬきみたちへ《複ファ》
さあ、人語を知らぬきみたちよ。
ただどうか、共に在ることを許してください。

【執筆予定のもの】
・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後の物語。
闇精霊の王、エイリーンと共に、突如姿を消したルーフェン。
召喚師への不信感が募っていく中、トワリスは、ルーフェンの後を追うことを決意するが……。
アルファノル興国に隠された真実、そして、召喚師エイリーンの思惑とは――?

・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
アルファノル編後の物語。
世界の流転を見守るツインテルグの召喚師、グレアフォール。
彼の娘である精霊族のビビは、ある日、サーフェリアから来たという不思議な青年、アーヴィスに出会うが……。


……お客様……

和花。さん
友桃さん
マルキ・ド・サドさん


【お知らせ】
・ミストリア編が、2014年の冬の大会で次点頂きました!
・サーフェリア編・上が、2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
・2017年8月18日、ミストリア編が完結しました!
・ミストリア編が2017年夏の大会で金賞を頂きました!
・サーフェリア編・上が、2017年冬の大会で次点頂きました!
・2018年2月18日、サーフェリア編・上が完結しました!
・サーフェリア編・下が、2019年夏の大会で銀賞頂きました!
・外伝が、2019年冬の大会で銅賞頂きました!
いつも応援して下さってる方、ありがとうございます(*^▽^*)

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Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.276 )
日時: 2020/07/04 20:19
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


†第五章†──淋漓たる終焉
第二話『欺瞞』



「……失礼いたします。ジークハルト・バーンズです」

 入室の許可を得ると、ジークハルトは、団長室へと足を踏み入れた。
月明かりさえ射し込まぬ暗い部屋の中で、大きな燭台の明かりだけが、ゆらゆらと光っている。
現宮廷魔導師団長、ヴァレイ・ストンフリーは、ジークハルトを見やると、ここ数年で一気に痩せ衰えた頬を、わずかに緩めた。

「明日も早いというのに、夜更けに呼び立ててすまないな」

「……いいえ。離反者の件でしょう」

 平坦な声で返すと、ヴァレイは静かに頷いた。
示された長椅子に腰を下ろし、執務机を挟んで、二人は向かい合う。
ジークハルトは、小指の先程の小さな女神像を三つ、懐から取り出すと、ヴァレイの前に置いた。

「これは……」

「先日、無断退団で処分対象となった魔導師たちから押収したものです。やはり、新興騎士団とイシュカル教会には、何かしら繋がりがあると見て間違いないでしょう」

「…………」

 ヴァレイの眉間に、深く皺が寄る。
かつて、優れた結界術の使い手として名を挙げた彼の目は、今やすっかり落ち窪み、憔悴しきっている様子であった。

 イシュカル教会とは、創世の時代に大陸を四つに分断し、四種族を隔絶させることで平和をもたらしたとされる女神、イシュカルを信仰する反召喚師派の勢力である。
元は非暴力的な活動を基本とする穏健派で、暴動を起こすような急進派は、鎮圧に時間を要さぬほどの少数であった。
ルーフェンがまだ次期召喚師であった頃に、壊滅させたサンレードも、鎮圧された急進派の一派である。

 しかしながら近年、ルーフェンが、アーベリトへと移ってから、イシュカル教会は、シュベルテにおいて着々と力をつけ始めていた。
主に、リオット族の受け入れや、アーベリトへの王位譲渡に反対していた者たちが、召喚師一族や旧王家に対して不信感を募らせ、入信し始めたのである。
敵対する召喚師が、別の街に移ったことを好機とし、イシュカル教会が増長するところまでは、魔導師団側も予測できていた。
だが、予想外だったのは、旧王家に仕えている世俗騎士団までもが、イシュカル教会と繋がりを持っている可能性が、最近になって示唆されるようになったことであった。
しかも、召喚師一族の管轄である魔導師団の中にまで、教会側に寝返る者が現れ始めたのである。
シュベルテでは、非暴力を掲げている限りでは、宗教の自由を認めている。
しかし、騎士や魔導師など、言わば中立の立場で国を守るべき武装集団が、召喚師一族や旧王家に反駁(はんばく)し、反権力的な思想を唱え始めたとあれば、話は別である。
まだ水面下での“疑い”段階に過ぎないが、騎士団が反召喚師派に回り、魔導師団までもが分派を始めれば、シュベルテの軍事体制は崩壊するだろう。

 ジークハルトは、淡々と続けた。

「既に、下級魔導師の中にも、団からの離反と新興騎士団への蜂起を呼び掛ける者が出始めています。処分した魔導師たちは、表向き、イシュカル教徒を名乗ってはいませんでしたが、この女神像を所持していたことから、入信者であると判断して間違いないかと。今月で既に、七名が退団しています。我々の目の届かぬところで、大規模な動きが生じているのだとすれば、規律違反を罰しているだけでは、もう抑えきれないでしょう」

「…………」

 ヴァレイは、ぼんやりと女神像を見つめて、しばらく押し黙っていた。
だが、やがて、ため息をつくと、低い声で言った。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.277 )
日時: 2020/07/06 18:58
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


「……表沙汰となって混乱が生じる前に、対処できれば思っていたが、もう限界だな。陛下と召喚師様にも、ご報告をあげるしかあるまい。イシュカル教の追放令を出したところで、事態は一層波立つだけだ。教会が騎士団をも巻き込んで武力を持ったのだとすれば、今更叩く相手として、あまりにも大きすぎる。軍内勢力が二分し、内乱でも起きたら、シュベルテはもはや、今の姿を保てないだろう」

 ヴァレイは、目に苦笑の色を浮かべた。

「皆、すがるものを必要としているのだろうな。数年前までのシュベルテには、常に進取と発展の風が吹いていた。召喚師一族の庇護の下、王都として歩んできた、その誇りと自信。安定した王政と、磐石な軍制……そんなものに囲まれて、これからも、変わらぬ豊かな暮らしを送れると、そう信じて疑わなかった。……それが、今はどうだ。旧王家、カーライル一族は、まるで呪われているかのように次々と不審死を遂げ、王位継承者は、幼いシャルシス様を除いて、全員絶えた。結果的に、成り上がりに過ぎないレーシアス伯に王位が渡り、召喚師様までシュベルテを“棄てた”のだ。召喚師一族が持つような絶大な力は、手元にあれば心強いが、そうでなければ、ただの脅威だ。五百年続いてきた王都の歴史に終止符が打たれ、我々にはもう、何も残っていない。古の時代に平和をもたらした、目に見えぬ神などというものに、皆、すがりたくもなるのだろう。遷都などせずに、シルヴィア様を一時即位させ、シュベンテに王権と召喚師一族を残しておけば、また結果は違ったのやもしれぬが……」

「…………」

 黙っているジークハルトに、ヴァレイは問うた。

「お前も、そうは思わないか」

 目を伏せると、ジークハルトは答えた。

「当然、違った結果にはなっていたでしょう。しかし、すがる対象が、神像か、召喚師一族かの違いだけです。その良し悪しを考えるのは、意味のないことと存じます」

 ヴァレイは、微かに口端を歪めた。

「召喚師一族を、このちっぽけな像と一緒にするとは。なんだ、お前も教会側か」

 揶揄するような口調で言って、ヴァレイは、机上の女神像に触れる。
ジークハルトは、ため息をついた。

「……いえ。ただ、何かにすがることで安心しきっているようでは、どの道、この国の支柱は腐り落ちるでしょう。命なき神像に祈って満足しているよりは、確かな力を有する召喚師一族にすがった方が、まだ延命処置としては有効かもしれません。その結果が、五百年。ただ、そのまま依存し続けたところで、最終的な末路は同じと言えましょう。召喚師一族もまた、人間です。頼るものもなく、一方的にすがられるばかりでは、いずれ限界が来る。それが、“今”だという話です」

 ヴァレイはつかの間、探るような目つきで、ジークハルトを見つめていた。
しかし、ややあって、指先で弄んでいた女神像を置くと、安堵したように表情を緩めた。

「お前は、昔から変わらないな。だが、その発言は、俺以外の前ではするなよ。場合によっては、侮辱の意味でとられるぞ」

「…………」

 黙っていると、ヴァレイは、呆れたように肩をすくめた。
ジークハルトの無愛想さには、もうすっかり慣れきっている様子である。

 ヴァレイは、冷静に物事を見通せる、稀有な魔導師の一人だ。
彼は決して、旧王家や召喚師一族に盲信して、国に仕えているわけではない。
魔導師としてどう在るべきなのかを、常に正しく、見据えていられる人物なのだ。

 そんな彼が、召喚師一族に傾倒したような発言をするなんて、らしくないと思っていたが、おそらくヴァレイは、ジークハルトの真意を確かめるために、心にもない文言を並べ立てただろう。
旧王家が呪われているだの、シルヴィアを一時即位させていれば事態は好転していただの、全てが間違いだとは言えないが、これらは、民の不安が産み出した極端な被害妄想に過ぎない。
しかし、『召喚師がシュベルテを棄てた』という言葉だけは、ヴァレイが預かり知らぬだけで、事実であるように思えた。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.278 )
日時: 2020/07/08 21:37
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE



 ジークハルトは、ヴァレイの知らぬルーフェンの横顔を、六年前に見たことがある。
歴史上の召喚師一族は、それこそ神にも等しいような存在として神聖視されてきたが、ジークハルトの見たルーフェンは、自分と然程変わらぬ、ただの少年であった。

 時折、同年代とは思えぬ、冷たい顔を見せることもあったが、その一方で、ルーフェンにとっては、ただの一臣下に過ぎないオーラントが片腕を失くした時には、実子のジークハルト以上に取り乱していた。
存外に子供っぽい奴だ、とも思ったし、同時に、不思議な奴だ、とも思った。
誰もが羨む、地位と力を持っていながら、そんなことは、彼にとってはどうでもいいことのようであった。
それどころか、召喚師であることを突きつけられた時のルーフェンは、まるで、自分を取り囲む鉄格子でも見ているかのような目をするのだ。

 移籍先が同盟下にあるアーベリトとはいえ、召喚師が去れば、シュベルテが混乱することなど、ルーフェンにも予想がついていたはずだ。
それでも尚、去ったということは、言葉通りルーフェンは、シュベルテを棄てたのだろう。
冷静な者であれば、ルーフェンは、遷都した故にアーベリトに移っただけで、それを棄てられたなどと悲観的にとらえるのは、偏った感情論だと考えるだろう。
だが、それすらも、ルーフェンに対して理想を見出だした、楽観的な感情論なのかもしれないと、ジークハルトは時折思うことがあった。
召喚師一族は、確かに絶対的な力を持っているが、だからといって、気高い国の守護者だと決めつけるのは、何かを崇めたい人々の願望だ。
民が思うほど、召喚師一族は高潔な存在ではないし、教会が思うほど、邪悪な存在でもない。
彼らは、ただの人間だ。
拠り所を失った者たちが、神にすがるようになったのと同じように、ルーフェンもまた、すがれる何かを求めて、アーベリトにたどり着いたのだろう。
ジークハルトには、そんな風に見えていた。

 ヴァレイは、椅子の背もたれに身を預けると、口を開いた。

「ジークハルト、お前、宮廷魔導師になって、もう一年経つか。いくつになった」

「……二十一です」

「そうか……若いな」

 ぽつりと呟いて、ヴァレイは嘆息する。
ジークハルトが眉を寄せると、ヴァレイは、その表情を見て、小さく笑った。

「そう睨むな、悪かった。別に馬鹿にしたわけじゃない」

 次いで、笑みを消すと、ヴァレイは真剣な顔つきになった。

「……お前、宮廷魔導師団を背負う覚悟はあるか」

 ジークハルトの目が、微かに見開かれる。
返事を待たずに、ヴァレイは言い募った。

「宮廷魔導師は、言わば国の懐刀だ。君の父上のように、遠征経験を見込まれる場合もあるが、基本的には、旧王家のすぐ側で奉ずることになる。個々の能力も勿論重要だが、何よりも大切なのは、濁らぬ慧眼だ。団を背負うならば、シュベルテという限られた場所においても、常に正しく世の全体像を見ることができねばならない。……お前に、それが出来るか」

「…………」

 ジークハルトは、ヴァレイの顔を見つめたまま、しばらく沈黙していた。
その目を見つめ返しながら、ヴァレイは、静かな声で続けた。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.279 )
日時: 2020/07/10 20:37
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE



「……私には、出来なかったよ。結果が今のシュベルテだ。お前は知らぬだろうが、六年前、前王エルディオ様が崩御なされた時から、既に騎士団では、シャルシス殿下の即位を望む声が上がっていた。表向きの理由は、正統な血筋を持つ者が王位継承にはふさわしい、というものであったが、それだけではないだろう。幼子を王座に座らせることで、その後ろ楯となり、政に介入することが、彼らの真の目的だったに違いない。バジレット様も、当然そのことには気づいておられただろうし、公は、シュベルテがそういった政権争いの渦中に置かれることを、何よりも恐れていたからこそ、遷都の道をお選びになったのだ。私も当時は、どのような方法をとったところで苦肉の策でしかないと、事態を見守っていた。遷都が決まったとき、民たちの不満や騎士団の怒りが、旧王家や召喚師一族に向くことも予想はできていたが、見えていたのはそこまでであった。結果が出てからでは何とでも言えるが、あの時から、騎士団の動向に目を光らせておくべきだったのだろうな。水面下で、大義の一致した騎士団と教会が民を巻き込み、その勢力を伸ばすとは、予想できていなかった。今に至るまで、私は一体何をしていたのだろうと、悔やまれるよ」

 ヴァレイは、瞳に苦々しい色を浮かべた。

「騎士団長、レオン・イージウスは狡猾な男だ。野望が打ち砕かれた以上、旧王家に媚びる必要はなくなったし、教会とも結託したというなら尚更、遷都を押し進めた召喚師様のことも恨んでおろう。彼らが今後、どう動くかは分からないが、勢力拡大を成功させた後に、やることといえば一つだ。……何かが起こる前に、イージウス卿は討つべきなのかもしれん」

 ジークハルトは、顔をしかめた。

「しかし……教会を支持する民が多いのも、また事実です。イージウス卿を止めるべきだというご意見には同意ですが、相手が民意を盾にすれば──」

「──分かっている。民意に反すれば、悪になるのはこちらだ。だからお前に、宮廷魔導師団を背負う気はあるか、と問うているのだよ。反召喚師派の掃討に躍起になって、魔導師団自体が暴挙に出ては本末転倒だ。……反逆者を名乗るなら、私一人で十分だろう」

「…………」

 ジークハルトは、再び口を閉じて、ヴァレイのことをじっと見つめていた。
彼は、魔導師団を去るつもりなのかもしれない。
魔導師団との関係を断ってから、単身で反逆の罪を負ってでも、レオン・イージウスを止めようと考えている。
無謀な策だが、誰かがやらねば、それ以外に方法がないとも思えた。
ヴァレイに、自棄になっている様子は見られない。
徐々に崩壊を始めたシュベルテの未来を見通して、その考えに至るしかなかったのだろう。

 ジークハルトは、何かを決意したように、目の光を強めた。

「……もし、本当にそれしか道がないなら、私が団を抜けましょう。ストンフリー団長、貴方は魔導師団に必要です」

 ヴァレイは、首を横に振った。

「いいや、今後の魔導師団に必要なのは、私のような老耄(ろうもう)した人間ではなく、お前のような若い魔導師だ」

「ですが──」

 反論しようとしたジークハルトの言葉を、ヴァレイは手で制した。
それから、息を吐き出すと、ヴァレイは、もう一度首を振った。

「……もう、この話は終わりにしよう。突然、責任を押し付けるような言い方をして、すまなかったな。私もまだ、具体的な策があるわけではないのだ。まあ、今は気負わず、少し考えておいてくれ」

 穏やかな口調で言ったヴァレイに、ジークハルトは、無言で抗議をした。
今のヴァレイの言葉は、おそらく嘘だ。
彼の心は、既に定まっているように思えた。

 睨むような鋭い視線を投げてくるジークハルトに、ヴァレイは、眉を下げた。

「やはり、今こんな話をするべきではなかったな。明日から、花祭りだ。良くも悪くも、賑やかになるぞ。不遜な輩まで騒ぎ出さぬよう、我々は気を引き締めねばなるまい」

 言いながら、立ち上がると、ヴァレイは部屋の窓を押し開けた。
真夜中の涼やかな秋風が、窓からそよそよと吹き込んでくる。
その風に乗って届く、祭典前の空気に酔った喧騒に、ジークハルトは、しばらく耳を傾けていたのだった。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.280 )
日時: 2020/07/12 21:08
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE



 普段は荘厳な空気が漂うシュベルテの街並みも、花祭りが開催される三日間は、華やかな雰囲気に包まれる。
石造の家々には、随所に花飾りが提げられ、大通りでは、色鮮やかな祭衣装に身を包んだ道化師たちが、楽器を吹き鳴らしながら踊っている。
所狭しと建ち並ぶ露店では、振る舞い酒が配られ、あちらこちらから、人々の盛んな呼び込みや笑い声が響いていた。

 花祭りとは、その年一年の収穫を感謝し、そして翌年の豊作を願う、サーフェリアの祭りのことである。
元は農村で行われる祭事であったが、無病息災や商売の成功を祈るなど、そういった意味も込められて、シュベルテでは毎年、大々的に祭典が開かれるのだ。

 城外の広大な庭園においても、招待された貴族たちが集まり、城下に劣らぬ賑わいを見せていた。
庭園の奥に設置された御立ち台には、シュベルテの現領主バジレットと、今年七歳を迎えた孫、シャルシスが着席しており、その下座には、前召喚師であるシルヴィアを始め、騎士団長や魔導師団長、宮廷仕えの重役や賓客たちが、それぞれの身分に従って、宴卓を取り囲んでいる。
運ばれてくる馳走に舌鼓を打ち、庭園中央に置かれた他街からの贈り物を眺めながら、貴族たちは、談笑を楽しむのであった。

 やがて、日が傾き、夕刻の鐘が鳴り響くと、祝宴の場は、打って変わった静けさに包まれた。
席を立ったバジレットが、開式の終わりを告げると共に、シュベルテの永き繁栄を願って、祝詞(のりと)を読み上げるのである。
本来であれば、召喚師も同席する祈りの儀であったが、病に臥せりがちなバジレットの意向で、昨今は、他街の有権者たちは招かず、祝宴の規模を縮小させている。
故に、遷都してからの花祭りでは、領主バジレットと召喚師代理のシルヴィアで、祈りを捧げることとなっていた。

 人々が、バジレットに注目する中で、警備に回る魔導師たちだけは、庭園全体に意識を巡らせていた。
浮かれた雰囲気に飲まれれば、それだけ隙も生まれやすくなる。
要人警護に当たる以上、いかなる状況下でも、凪いだ湖面の如く、感覚を研ぎ澄ませなければならないのだ。

 不意に、風が吹いて、庭園を彩る花壇の花弁が、ふわりと舞い上がった。
御立ち台のすぐそばに立っていたジークハルトは、その時、微かに目を細めた。
自分でも、何を感じ取ったのかは分からない。
ただ、得体の知れない何かが、湖面に小さく波紋を起こした気がした。

 祝詞を誦(しょう)するバジレットと、耳を傾ける人々。
吹き上がる風、舞う花弁、揺れる草木。
異変は見当たらないが、突如として沸いた言い知れぬ予感に、ぞわりと鳥肌が立った。

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