複雑・ファジー小説

〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下
日時: 2019/02/04 10:13
名前: 銀竹
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=17224

 人々の安寧を願ったサーフェリアの前国王、サミル・レーシアス。
彼の興した旧王都――アーベリトは、わずか七年でその歴史に幕を閉じることとなった。

 後に『アーベリトの死神』と称される、召喚師ルーフェンの思いとは……?

………………

 はじめまして、あるいはこんにちは!銀竹と申します。

 本作は、銀竹による創作小説〜闇の系譜〜の二作目の後編です。
サーフェリア編がかなり長くなりそうだったので、スレを上・下と分けさせて頂く事にしました。
一部残酷な表現などありますので、苦手な方がいらっしゃいましたらご注意下さい。

 今回は、サーフェリア編・上の続編となっております。
サーフェリア編・上の知識がないと通じない部分も出てきてしまうと思いますが、伏線以外は極力分かりやすく補足して、進めていきたいと考えています(上記URLはサーフェリア編・上です)。

〜闇の系譜〜シリーズの順番としては
ミストリア編(上記URLの最後の番号五桁が16085)
サーフェリア編・上(17224)
サーフェリア編・下(19508)
アルファノル編(18825)
ツインテルグ編
となっております。
外伝はどのタイミングでも大丈夫です(16159)。
よろしくお願いいたします!

…………………………

ぜーんぶ一気に読みたい方→ >>1-300

〜目次〜

†登場人物(第三章〜終章)† >>1←随時更新中……。

†用語解説† >>2←随時更新中……。

†第三章†──人と獣の少女

第一話『籠鳥』 >>3-8 >>11-36
第二話『憧憬』 >>37-64
第三話『進展』 >>65-98

†第四章†──理に触れる者

第一話『禁忌』 >>99-140
第二話『成就』
第三話『詭策』

†第五章†──淋漓たる終焉

第一話『存念』
第二話『永訣』
第三話『約定』
第四話『苦悶』
第五話『崩壊』

†終章†『黎明』


……………………

基本的にイラストはTwitterにあげておりますので、もし見たい!って方がいらっしゃいましたらこちらにお願いします。→@icicles_fantasy

……………………


【完結作品】
・〜闇の系譜〜(ミストリア編)《複ファ》
ミストリアの次期召喚師、ファフリの物語。
国を追われ、ミストリアの在り方を目の当たりにした彼女は、何を思い、決断するのか。

・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上《複ファ》
サーフェリアの次期召喚師、ルーフェンを巡る物語。
運命に翻弄されながらも、召喚師としての生に抗い続けた彼の存在は、やがて、サーフェリアの歴史を大きく変えることとなる――。

【現在の執筆もの】
・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下《複ファ》
三街による統治体制を敷き、サーフェリアを背負うこととなったサミルとルーフェン。
新たな時代の流れの陰で、揺れ動くものとは――。

・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。

・人語を知らぬきみたちへ《複ファ》
さあ、人語を知らぬきみたちよ。
ただどうか、共に在ることを許してください。

【執筆予定のもの】
・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後の物語。
闇精霊の王、エイリーンと共に、突如姿を消したルーフェン。
召喚師への不信感が募っていく中、トワリスは、ルーフェンの後を追うことを決意するが……。
アルファノル興国に隠された真実、そして、召喚師エイリーンの思惑とは――?

・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
アルファノル編後の物語。
世界の流転を見守るツインテルグの召喚師、グレアフォール。
彼の娘である精霊族のビビは、ある日、サーフェリアから来たという不思議な青年、アーヴィスに出会うが……。


……お客様……

和花。さん


【お知らせ】
・ミストリア編が、2014年の冬の大会で次点頂きました!
・サーフェリア編・上が、2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
・2017年8月18日、一作目のミストリア編が無事完結しました!
執筆開始してから約三年半、応援して下さった方々、本当にありがとうございました!
・ミストリア編が2017年夏の大会で金賞を頂きました!
・サーフェリア編・上が、2017年冬の大会で次点頂きました!
いつも応援して下さってる方、ありがとうございます(*^▽^*)

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Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.98 )
日時: 2019/02/01 19:57
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE



 奪ったスカーフを丁寧に畳むと、トワリスは、それを中年の魔導師の元に持っていった。

「……取りました、スカーフ」

「…………」

 トワリスから差し出されたスカーフを見つめて、男は、絶句している。
人間離れした動きを見せれば、驚かれるだろうとは予想していたが、全く何も言われないので、反応に困ってしまう。

 どうすれば良いのか迷っていると、不意に、今まで黙っていた黒髪の少年が、口を開いた。

「阿呆。力ずくで取りにいく奴があるか。魔導師なら、魔術で奪え。こうやってな」

 言いながら、少年が指先を動かすと、トワリスの手にあったスカーフが、吸い寄せられるように少年の元へと飛んでいく。
スカーフを手に納めてから、それをそのまま地面に落とすと、少年は椅子から立ち上がった。

「まあ、いい。動く方が得意だってんなら、それに合った魔術を覚えろ。お前が今使ったのは、魔術でも何でもない。ただの気合だ」

 呆れた口調で言いながら、少年は、魔法具が収納された棚の方に歩いていく。
そして、並んだ魔法具の中から、短剣を引っ張り出してくると、それをトワリスの前に投げた。

「茶番は終わりだ。それを使って、俺に勝ってみろ。そうしたら、入団を認めてやる」

 じろりとトワリスを睨んで、少年が言う。
鋭い目付きで言われて、トワリスは、思わず身を凍らせた。

 年齢的にも、この少年が、今ここにいる三人の魔導師の中で、一番の下っ端なのかと思っていたが、とんでもない。
他の二人の嫌味が可愛く見えるくらい、少年の態度は威圧的で、恐ろしかった。

 トワリスは、足元に転がっている短剣を握ると、そのずっしりとした重みと鋭利さに、身震いした。
模造刀などではない、正真正銘の真剣だ。
こんなものを使ったら、怪我を負うどころか、死んでしまうかもしれない。

 先程、この部屋の外で並んでいた時、次々と運び出されてきた怪我人たちの苦悶の表情を思い出して、トワリスは、顔を青くした。

「ま、待ってください。この剣、本当に使うんですか……? こんなの、使ったら……」

 少年は、鼻で笑った。

「ああ、ただじゃ済まないかもな。だが、お前が来ようとしているのは、そういう殺し合いの世界だ。武器を握る覚悟もないなら、今すぐに帰れ」

 言いながら、少年が手を出すと、そこに魔力が集結したのと同時に、どこからともなく、一本の青光りする短槍が現れる。
すると、中年の魔導師が、慌てた様子で声をあげた。

「お、おい、ジークハルト。流石にそれを使うのは、やめておけ」

 それ、というのは、少年──ジークハルトが握っている、短槍のことを指しているのだろう。
他の魔導師二人が、制止をかけるも、しかし、ジークハルトは聞かなかった。

「言っておくが、女だろうが、ガキだろうが、容赦はしない。魔導師団に、弱い奴はいらない」

 冷たい声で言い放って、切れ長の目を細める。
ジークハルトは、短槍を一転させ構えると、微かに口端をあげた。

「さっさと決めろ。俺とやるのか、やらないのか」

「…………」

 トワリスは、つかの間硬直して、押し黙っていた。
刃を振り上げられたときの恐怖と、斬られたときの痛みが、頭にちらついて離れない。
けれど、その躊躇いの先に、アーベリトの人々やルーフェンの顔が思い浮かぶと、不思議と、短剣を握る手に力がこもった。

(この人に、勝ったら……魔導師に、なれる)

 トワリスは、顔をあげると、ジークハルトを強く睨み付けたのだった。



To be continued....

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.99 )
日時: 2019/02/08 20:37
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE



†第四章†──理に触れる者
第一話『禁忌』


━━━━━━

リリアナ・マルシェ様


 お手紙の返事、遅れてごめんなさい。
半年ほど、任務で西方のカルガンに行っていて、先月、ようやくシュベルテの方に戻ってきました。

 そちらは、変わりありませんか。
カイルやロクベルおばさんも、元気ですか。
この前、カイルが七歳になったと聞いて、考えてみれば当然なんだけれど、すごく驚きました。
最後に会ったのは、四歳の時だったから、今のカイルに会っても、すぐには分からないかも。
私達が出会った年から、もう五年も経ったのかと思うと、とても感慨深いです。

 こちらも、相変わらず慌ただしい日々ではありますが、なんとか無事にやっています。
もうすぐ卒業試験があって、それに受かれたら、ようやく正規の魔導師になれます。
そうしたら、寮からも出られるので、一度アーベリトに行くつもりです。
長らく顔を出せなくてすみませんと、おばさんにもお伝えください。

 本格的に寒くなってきたので、リリアナも身体には気をつけて。
お店のお手伝い、頑張ってね。


トワリスより

━━━━━━


 羽ペンをインク壺に戻すと、トワリスは、書き終えた手紙を、窓から差し込む夕陽に透かした。
くしゃくしゃに丸めようとして、思い止まる。
もう一度文面を読み直し、ふうと息を吐くと、トワリスは、手紙を畳んで封筒にしまった。

 こんな手紙を出したら、リリアナには、どうしてこんなに畏まった文なのかと、また笑われるだろう。
しかし、話し言葉で文を書くと、どうにも違和感が拭えないのだ。
普段リリアナと話す時は、敬語なんて使わないし、何度も砕けた文章に直そうとしたのだが、結局固い文体になってしまうので、もう諦めた。
文章上でも不器用さが滲み出るなんて、なんだか悲しくなるが、自分らしいといえば、自分らしい。

 トワリスは、手紙に封蝋を施すと、それを持って、自室を出たのだった。

 魔導師団に入ってから、五度目の冬が巡ってきた。
その間もトワリスは、リリアナと手紙のやりとりをしていたが、アーベリトにある彼女たちの家に帰れたことは、ほとんどなかった。
文面には表れていないが、リリアナは、相当むくれているだろうと思う。
様子見のつもりで受けた入団試験に、思いがけず合格したと聞いたときも、リリアナは、例のごとく大泣きしたのだ。
「一発合格するなんて聞いていない」だとか、「折角一緒に暮らせると思ったのに、すぐ出ていくなんてひどい」だとか、散々駄々をこねていた。
勿論、最終的には、涙をぼろぼろ流しながら「おめでとう」と言って送り出してくれたが、彼女も自分も、まさか魔導師見習いが、こんなにも外出制限をかけられるものだとは思っていなかった。
だから、リリアナが「おばさんに教わって文字を覚えたから、文通しよう!」と手紙を送ってきてくれたときは、嬉しい反面、なんだか申し訳なくなってしまった。
ロクベルもリリアナもカイルも、まるで本当の家族のように温かくトワリスを迎えてくれたのに、結局、ほとんど一緒に暮らすことなく、名前とお金だけ借りるような形で、魔導師団に入団したのだ。
ろくに顔も出さず、手紙を頻繁に返すこともできず、魔導師見習いとして、勉強や任務に明け暮れる日々。
いわゆる孝行が何も出来ないまま、援助だけ受けてしまったのは、なんだか心苦しかった。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.100 )
日時: 2019/02/14 20:57
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


(結局私は、なんで受かったんだろう……)

 リリアナ宛の手紙を眺め、長廊下を進みながら、トワリスはふと、五年前の入団試験のことを思い出した。

 ジークハルトという、あの少年魔導師に挑まれた後、一体何が起きたのか。
トワリスは、気絶してしまっていたので、正直なところ記憶が曖昧であった。
気づいたら、他の男たちと同じように、鍛練場から運び出されていて、医師に軽く手当てを受けてから、何事もなかったかのようにロクベルと合流して、アーベリトに帰った。

 残っていたのは、短剣を手に向かっていった記憶と、痣まみれになった四肢だけ。
それ以外のことは、本当に覚えていない。
少なくとも、勝てた覚えは全くなかったので、自分は試験に落ちたんだろうと思っていた。
だからこそ、合格の通知が来たときは、腰が抜けるほど驚いた。
しかも、実技試験においては、首席合格と知らされたのである。

 勿論嬉しかったが、その反面、戸惑いも大きかった。
もっと勉強して、自分でも納得が出来るくらいの魔術を使えるようになってから、試験を受ける──。
この筋書きでの合格なら、純粋に喜べたであろうが、試験官に馬鹿にされた挙げ句、気絶させられた上での首席合格なんて、何かの間違いではないかと本気で疑ったものだ。
とはいえ、とにかく今度は筆記試験を行うから、再度魔導師団の本部に来られたしとの達しが来てしまったので、大慌てで家を出た。
筆記試験に関しては、下から数えた方が速いくらいの順位であったが、実技試験の結果に助けられたのもあってか、なんとか合格し、現在に至るのである。

 寮の長廊下には、講義を終えたであろう魔導師見習いたちが、分厚い教本を抱えて行き交っていた。
女も入団可能とはいえ、魔導師団に入っているのは、ほとんどが男である。
トワリスは、ちらちらと通りすがりに送られてくる男たちの視線を無視して、足早に廊下を歩いていった。

 女というだけで珍しがられるのに、実技を首席で合格した獣人混じり、なんていう肩書きがあるせいで、トワリスは、ちょっとした有名人であった。
魔導師団に入る者は、貴族出身で、気位の高い男が多い。
もちろん、世の平和のためにと、熱い心持ちで入団してくる者が多いが、地位や世間体のためだけに入団してくる者も、決して少なくはなかった。
蓋を開けてみれば、ここは平民出だというだけで馬鹿にされる閉鎖的な世界だ。
そんな場所で、トワリスのような特殊な素性の者が、快く受け入れられるはずもなかった。

 リリアナ宛の手紙に目を落としていると、廊下の角を曲がったところで、不意に、男が一人飛び出してきた。
どん、と肩にぶつかられて、思わずよろける。
手紙を落としたトワリスに、男は、謝ろうとしたようであったが、相手がトワリスだと分かると、嫌そうに鼻を鳴らした。
そして、明らかに狙って手紙を踏みつけると、ちらりと笑った。

「悪いな、足が滑った」

「…………」

 踏みつけられて、皺が出来てしまった手紙を拾いあげる。
そのまま横を通りすぎようとする男を睨みながら、ぐっと怒りを抑えようとしたトワリスだったが、しかし、手紙の端が破れていることに気づくと、男の脚を蹴るように払った。

「うわっ」

 咄嗟に反応できなかった男が、思い切りつんのめって、床に転ぶ。
顔面を打ち付けた男が、痛みに呻いているのを見下ろして、トワリスは言った。

「すみません、足が滑りました」

 絶句した男が、呆気にとられたような顔で、こちらを見上げてくる。
やり返してくるかと思ったが、訓練時間外に諍(いさか)いを起こすなんて、上に露見したら処罰ものだ。
それを分かっていて、往来の長廊下で騒ぎを起こすほどの度胸は、男にはなかったのだろう。
トワリスは、周囲に目撃者がいないか確認すると、黙りこんだ男を尻目に、その場を後にした。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.101 )
日時: 2019/02/19 20:06
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


 仕掛けてきたのが相手の方だとはいえ、こんな風にやり返していると、自分でも、性格が荒んでしまったなと思うことがある。
この程度の嫌がらせは、それこそ、アーベリトの孤児院にいた頃からあったし、差別的な目で見られることにも、とっくの昔に慣れていた。
だから、いちいち真に受けず、流すのが賢明だとは分かってはいるのだが、最近は、精神をすり減らしてまで我慢するのが、なんだか馬鹿馬鹿しく感じるようになっていた。

 魔導師団に入ってから、五年も経ったというのに、トワリスには、いわゆる友人というものが出来ていなかった。
もちろん、話しかけられれば返事をするし、必要があれば、こちらから声をかけたりもする。
だが、非番の日に一緒に出掛けたり、下らない世間話を交わすような相手は、一人もいなかった。
今も昔も、文通しているリリアナが、唯一と言っていい友人である。

 原因は、獣人混じりを敬遠している連中にもあるだろうし、口下手で取っつきづらい自分にもあると思う。
それこそ入団したばかりの頃は、孤児院では失敗したのだから、今度こそ周囲に馴染まなければと、努力してきたつもりであった。
それが今や、嫌がらせを受けては、仕返しをするような日々を送る羽目になっている。
何故こうなったのだろうと、考える度に悲しくなるが、結局のところ、付き合おうとも思えない人間にまで気を遣うから、こんなにも疲れるのだろう、という結論に至った。

 思えば、無理に周囲に馴染む必要はないし、性根の腐った人間から嫌われたところで、痛くも痒くもない。
ある程度の人付き合いは大切かもしれないが、少なくとも、書いた手紙をわざわざ踏みつけるような人間とは、一生仲良くなることはないだろう。
そう思い始めたら、理不尽な目に遭っても我慢するなんて、無駄なことのように思えたのだ。

 気の許せる相手がいるに越したことはないが、別に、一人で生活していけないわけではない。
折角ルーフェンやサミルと出会って、振り上げられた手に無条件で怯えるような己とは、決別したのだ。
たとえ友人などできなくても、心を押し殺すのはやめて、自分らしく魔導師としての道を歩むべきである。
トワリスが魔導師団に入ったのは、決して、誰かと仲良くなるためではない。
強くなって、アーベリトを守れるようになるためなのだから──。

──なんて、そんなトワリスの決心が崩れ去ったのは、書き直したリリアナへの手紙を投函して、すぐのことだった。
その日、発表された卒業試験の内容が、三人一組で任務を遂行することだったのである。

(三人、一組って……)

 トワリスは、本日何度目とも知れぬため息を吐き出した。

 卒業試験は難関だと聞いていたから、一体どんな内容なのだろうと気になっていたが、まさか、誰かと組むことを強要されるとは思っていなかった。
これまでも、複数人で訓練を受けたり、任務をこなしたりすることはあったが、問われていたのは個人の能力だったので、それほど他人を意識する必要はなかった。
しかし、“三人一組”と言われた以上、どうしたって協力し合わなければならない。
つまり、いかに能力が高くても、協調性のない者は落とす、と言われているのだ。

(……まあ確かに、性格に難ありっていうんじゃ、やっていけないしね……)

 つい先程まで、一人でもやっていける、なんて開き直っていた自分が、恥ずかしい。
我ながら、卒業試験の内容としてふさわしい、と納得してしまったので、文句など一つも出てこなかった。

 強さも大事だが、最も重要なのは、国を守護する魔導師として正しき心を持っていることだと、そう言われているのかもしれない。
入団してから、厳しい訓練や任務に耐えかねて、魔導師団を去った者は大勢いる。
そんな中、卒業試験まで残った者には、きっと素質がある。
だからこそ、次に問われるのは内面なのだ。

 とはいえ、こんなに卒業試験の内容に動揺しているのは、トワリスくらいのようであった。
考えてみれば、当然である。
訓練生として、五年も苦楽を共にしていれば、友人の一人や二人、できて当たり前である。
となれば、わざわざ誘わなくても、誰と組もうかなんてすぐに決まりそうなものだ。
むしろ、卒業試験の内容が貼り出された掲示板の前で、騒がしく話し込む同期たちの表情を見る限り、仲間と協力できる方が心強いと、安堵している者も多くいるようであった。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.102 )
日時: 2019/02/19 19:13
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


 トワリスは、長廊下に立つ掲示板を横切り、共用の食堂へと向かうと、並ぶ大皿から自分の皿へ適当に料理を盛って、一人席についた。
訓練終わりの昼時の食堂は、混雑していて、空いている席を見つけるのも一苦労だ。

 冬だというのに、人の熱気で蒸し暑くなった室内。
長い木造の食卓を囲んで、寮住まいの男たちは、それぞれ談笑しながら食事を口に運んでいる。
寮で出される料理は、質より量であったが、疲れていると、不思議と美味しく感じるもので、皆、忙しなく口を動かしていた。

 トワリスは、端のほうの席でスープを飲みながら、賑やかな男連中をさりげなく見ていた。
なんとなく、いつも一緒にいる面子は固定されていたが、トワリスの同期である見習い魔導師は、約百名ほど在籍している。
それだけいれば、中にはトワリスと同じように、好んで、もしくは仕方なく一人で食事をしている者もいる。
卒業試験で誰かと組むならば、そういった独り者を誘うのが良いだろう。
トワリスと組みたがらない人間も多いだろうが、今は、そんなことは言っていられない。
組んでみて、仲良くなれればそれで問題ないし、なれなくても、仕事と割りきって行動を共にするしかない。

 そんなことを考えながら、ちらちらと同期の魔導師たちを観察していると、不意に、誰かがトワリスの向かいに座った。
他に空席がなく、やむを得ずその席を選んだのかと思ったが、相手はどうやら、トワリスが目当てのようであった。

「ここ、いいかしら?」

「えっ、は、はい……」

 思いがけず声をかけられて、慌てて視線を前に戻す。
トワリスの前に座った女は、満足げに微笑すると、どうも、と一言告げた。

 甘やかに香る豊かな蒼髪に、整った眉と、色づいた唇。
透き通った青い瞳は、妖艶な色を放っていて、女のトワリスですら、見つめられると思わずどきりとしてしまう。
彼女は、アレクシア・フィオールという、同期の中で、トワリスともう一人だけの女魔導師であった。

 魔導師というよりは、どこぞの娼婦か芸妓だと言われた方が頷けるような、美しい見た目だが、これでトワリスより一つ年下──まだ十六歳だと言うのだから、驚きである。

 年も近いし、女同士ということもあって、入団当初は、アレクシアに声をかけてみようかと思っていたこともあった。
しかし、なんだかんだで、こうして話すのは初めてである。
というのも彼女は、トワリスとはまた違った意味で、有名人だったのだ。

 派手な容姿も由来してか、アレクシアには、悪い噂が多かった。
例えば、魔導師団の上層部に色目を使って贔屓してもらっているとか、ある魔導師を脅して退団させたとか、そういった噂だ。
もちろん、そんなものは根も葉もないことだし、鵜呑みにして信じているわけではない。
ただ、実際にアレクシアは、人を小馬鹿にするような態度をとったり、謀(たばか)ったりすることが多い女だったので、噂もあながち、全くの嘘ではないのかもしれない、なんて考えていた。

 本人も、誰かとつるみたがる質には見えなかったし、正直なところ、トワリスとアレクシアは、性格が合うようにも思えない。
だから、特に近づこうとしないまま、五年もの月日が経ったのだ。
それなのに、そのアレクシアが今更話しかけてくるなんて、意外であった。

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