複雑・ファジー小説

〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下
日時: 2019/07/09 00:28
名前: 銀竹
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=17224

 人々の安寧を願ったサーフェリアの前国王、サミル・レーシアス。
彼の興した旧王都――アーベリトは、わずか七年でその歴史に幕を閉じることとなった。

 後に『アーベリトの死神』と称される、召喚師ルーフェンの思いとは……?

………………

 はじめまして、あるいはこんにちは!銀竹と申します。

 本作は、銀竹による創作小説〜闇の系譜〜の二作目の後編です。
サーフェリア編がかなり長くなりそうだったので、スレを上・下と分けさせて頂く事にしました。
一部残酷な表現などありますので、苦手な方がいらっしゃいましたらご注意下さい。

 今回は、サーフェリア編・上の続編となっております。
サーフェリア編・上の知識がないと通じない部分も出てきてしまうと思いますが、伏線以外は極力分かりやすく補足して、進めていきたいと考えています(上記URLはサーフェリア編・上です)。

〜闇の系譜〜シリーズの順番としては
ミストリア編(上記URLの最後の番号五桁が16085)
サーフェリア編・上(17224)
サーフェリア編・下(19508)
アルファノル編(18825)
ツインテルグ編
となっております。
外伝はどのタイミングでも大丈夫です(16159)。
よろしくお願いいたします!

…………………………

ぜーんぶ一気に読みたい方→ >>1-300

〜目次〜

†登場人物(第三章〜終章)† >>1←随時更新中……。

†用語解説† >>2←随時更新中……。

†第三章†──人と獣の少女

第一話『籠鳥』 >>3-8 >>11-36
第二話『憧憬』 >>37-64
第三話『進展』 >>65-98

†第四章†──理に触れる者

第一話『禁忌』 >>99-150 >>153-165
第二話『成就』
第三話『詭策』

†第五章†──淋漓たる終焉

第一話『存念』
第二話『永訣』
第三話『約定』
第四話『苦悶』
第五話『崩壊』

†終章†『黎明』


……………………

基本的にイラストはTwitterにあげておりますので、もし見たい!って方がいらっしゃいましたらこちらにお願いします。→@icicles_fantasy

……………………


【完結作品】
・〜闇の系譜〜(ミストリア編)《複ファ》
ミストリアの次期召喚師、ファフリの物語。
国を追われ、ミストリアの在り方を目の当たりにした彼女は、何を思い、決断するのか。

・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上《複ファ》
サーフェリアの次期召喚師、ルーフェンを巡る物語。
運命に翻弄されながらも、召喚師としての生に抗い続けた彼の存在は、やがて、サーフェリアの歴史を大きく変えることとなる――。

【現在の執筆もの】
・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下《複ファ》
三街による統治体制を敷き、サーフェリアを背負うこととなったサミルとルーフェン。
新たな時代の流れの陰で、揺れ動くものとは――。

・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。

・人語を知らぬきみたちへ《複ファ》
さあ、人語を知らぬきみたちよ。
ただどうか、共に在ることを許してください。

【執筆予定のもの】
・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後の物語。
闇精霊の王、エイリーンと共に、突如姿を消したルーフェン。
召喚師への不信感が募っていく中、トワリスは、ルーフェンの後を追うことを決意するが……。
アルファノル興国に隠された真実、そして、召喚師エイリーンの思惑とは――?

・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
アルファノル編後の物語。
世界の流転を見守るツインテルグの召喚師、グレアフォール。
彼の娘である精霊族のビビは、ある日、サーフェリアから来たという不思議な青年、アーヴィスに出会うが……。


……お客様……

和花。さん
友桃さん


【お知らせ】
・ミストリア編が、2014年の冬の大会で次点頂きました!
・サーフェリア編・上が、2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
・2017年8月18日、一作目のミストリア編が無事完結しました!
執筆開始してから約三年半、応援して下さった方々、本当にありがとうございました!
・ミストリア編が2017年夏の大会で金賞を頂きました!
・サーフェリア編・上が、2017年冬の大会で次点頂きました!
いつも応援して下さってる方、ありがとうございます(*^▽^*)

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Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.155 )
日時: 2019/07/11 18:37
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


 アレクシアは、少し驚いたように目を丸くして、トワリスを見ている。
一方のジークハルトは、すっと目を細めると、冷静な口調で答えた。

「魔導師団の上層部からすれば、目を瞑ってはおけなかったということだ。自分達が何に手を出したのか、分かっているか? 前魔導師団長、ブラウィン・エイデンが禁忌魔術を犯そうとしたことは、魔導師団が必死になって隠蔽した過ちだ。それをお前たちは掘り返して、暴いた。訓練生にそんなことをされては、黙っていられないだろう」

「…………」

 うつむいて、トワリスは、ぐっと唇を噛んだ。
今回トワリスたちが挑んだのが、ラフェリオンの件でなければ、こんなに大事にはならなかっただろう。
規律違反をしたとか、そんなことは端から重要視されていなかったのだ。
魔導師団にとって都合の悪い真実に触れてしまったから、アレクシアは処罰されたのである。

 同時に、任務に赴く前、アレクシアが言っていた言葉が、ふと脳裏に蘇った。

──魔導師団の上層部が、臭いものに蓋をしたって考えるのが、普通じゃない?

 単なる憶測かと思っていたが、やはりアレクシアは、全てを知っていたのだ。
知っていたけれど、独力ではどうにもならないと分かっていたし、魔導師に昇格してからでは、自由に任務に出られることなんてないだろうから、卒業試験という機会を利用して、サイとトワリスを巻き込んだ。
反面、深く関わらせるべきではないとも思っていたから、なかなか事情を話そうとはしてくれなかったのかもしれない。
結果的に、真相の断片をトワリスたちは知ってしまったが、それでも、アレクシアが主犯は 自分だと明かしてくれたお陰で、サイとトワリスは、何も分からず丸め込まれただけだと思われている。
上層部が、トワリスたちの合格を黙認したことが、何よりの証拠だ。

 トワリスは、拳をぎゅっと握ると、ジークハルトを見上げた。

「……納得がいきません。都合の悪いことを暴いたから、アレクシアが悪者になるんですか? そんなのおかしいです。私も、詳しい事情は知りません。だけど、アレクシアはむしろ、魔導師団が助けてあげるべき立場だったんじゃないんですか? ハルゴン氏だって、そうです。彼はずっと、ブラウィン・エイデンに禁忌魔術を使うよう脅されて、苦しんでいた。手をさしのべるべき、被害者だったんです。それなのに魔導師団は、助けるどころか、事実を隠蔽したいばっかりに、ハルゴン氏を亡き者にした。……悪者は、どっちですか」

 言ってしまってから、トワリスは、自分の手が微かに震えていることに気づいた。
それが、怒りから来るものなのか、怯えから来るものなのかは、分からなかった。

 こんなことを宮廷魔導師であるジークハルトに言ったら、アレクシアだけじゃなく、トワリスも真実を知っているのだと、上層部に明かしてしまうようなものだ。
そうしたら、合格取り消しどころか、アレクシアと同じように、処罰を受けさせられるかもしれない。

 それでも、言ってやらねばと思った。
念願の魔導師になれて嬉しかったし、規律違反をしたことは本当なので、多少の罰を受けるのは仕方がないものと納得していた。
けれど、臭いものの蓋を開けられたからという理由で、理不尽な目に遭わせられるというなら、話は別である。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.156 )
日時: 2019/07/13 18:57
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE



 ジークハルトは、長い間黙って、トワリスのことをじっと見つめていた。
トワリスもまた、目をそらさずに、ジークハルトのことを見つめ返していたが、内心、何を言われるだろうかと気が気ではなかった。
入団試験を受けたときと同じ、強い光を宿した、漆黒の瞳。
ジークハルトの目には、相手を捕らえて離さない、強く鋭い意思が宿っている。

 しかし、不意に目を閉じたかと思うと、ジークハルトは、僅かに纏う空気を和らげて、言った。

「……全くもって、その通りだな」

 思いがけず肯定的な答えが返ってきて、ぱちぱちと瞬く。
ジークハルトは、一つ息を吐くと、トワリスに向き直った。

「一応弁解しておくが、人形技師のミシェル・ハルゴンを葬った連中は、前団長ブラウィン・エイデンに加担する魔導師だったんだ。魔導師団が事件を隠蔽しようとしたことは事実だが、証拠隠滅のためにハルゴン氏を殺害しようとしたのは、魔導師団の総意だったわけじゃない。禁忌魔術をハルゴン氏に強制した挙げ句、自分達の悪行が暴かれそうになったからといって、関係者を片っ端から亡き者にしようとしたのは、言わばエイデン派の人間たちだ。そしてそいつらは、後々魔導師団の方で見つけ出し、ちゃんと裁いている。……アレクシアが、お前たちにどんな説明をしたのかは、知らんがな」

 ちらりとアレクシアの方を見てから、ジークハルトは続けた。

「ついでに言えば、魔導人形ラフェリオンの正体は、現状俺とお前たちしか知らない。上は、気の急いたアレクシアが、手柄欲しさに宮廷魔導師団宛の案件を盗み出し、サイとトワリス両名を巻き込んで、結果ラフェリオンの破壊に成功したと思っている。つまり、今いる魔導師団の幹部も、大半が“ラフェリオンとは、ハルゴン氏が禁忌魔術によって生み出した強力な魔導兵器”であり、それはお前たちが破壊したものと信じこんでいる。……そもそも、事件発覚以降、姿を眩ましていた魔導人形が、実は感情と思考を持っていて、自分の偽物の情報を流して逃げ回っていたなんて、そちらの方が真実味に欠けるしな。魔導師団にとって都合が悪かったのは、禁忌魔術によって生まれた人形がいる、ということよりも、その禁忌魔術に前魔導師団長が関わっていた、ということだ。ようやくその真実が過去のものになろうとしているのに、今更深追いして、本物のラフェリオンの正体を暴き追おうとする者もいないだろう」

 ジークハルトの静かな声色に、ささくれ立っていた心が、徐々に落ち着いていく。
身体の強張りが少しずつ解けていくと、トワリスは、ほっと胸を撫で下ろした。

「そう、なんですね……良かった」

 気が抜けたような返事が、思わず口をついて出る。
それでも、未だ浮かない顔つきのトワリスに、ジークハルトは尋ねた。

「……失望したか?」

 質問の意図が分からず、眉を寄せる。
ジークハルトは、険しい表情のまま、付け足した。

「ハルゴン氏を殺害したのがエイデン派の人間だったとはいえ、魔導師団が、被害者の保護よりも事件の隠蔽を優先したのは事実だ。ラフェリオンの件だけじゃない。魔導師団には、こういった黒い噂なんて、いくらでもある。口では国の平和を守るだなんだとほざいても、その実、自分の体裁を守るので精一杯な連中なんて、魔導師団には五万といる。馬鹿馬鹿しいだろう」

 トワリスは、目を見開いて、ジークハルトの顔を見つめた。
この言葉が、ジークハルトの本音なのかどうか、彼の動かない表情からは、何も伺えなかった。
本音のようにも思えたし、逆にトワリスの心を探られているような気もする。
けれどそれは、魔導師団への忠誠を確かめられている、というよりは、純粋にジークハルトが、トワリス個人へとしている問いかけのように思えた。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.157 )
日時: 2019/07/14 18:54
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE



 トワリスは、目を伏せると、ぽつりと本音を溢した。

「……馬鹿馬鹿しい、とは思います。貴族出だとか、平民出だとか、男だとか女だとか、普通じゃない生い立ちだとか、そんなどうでもいいことばかり気にする人に、沢山出会いました。自分の立場を守るためだけに、他者を踏みにじって、騙して、嘘の上塗りをして……そういうのって、本当に下らない。でも、現に私たちも、嘘をつきました。魔導師としての選択をするなら、禁忌魔術で作られたラフェリオンを壊すべきだったのに、そうしなかった。そして、偽物のラフェリオンを本物だったということにして、結果的に事件を解決したと、虚偽の報告をしました。……私は、その選択が間違っているとは思いませんが、それでも、嘘は嘘です」

 次いで、ジークハルトの目を真っ直ぐに見ると、トワリスは続けた。

「納得がいかないことも、悔しいこともあります。だけど、何かを守れる人間になるためには、魔導師団の一員であることが、一番の近道になると思うんです。だから、失望してはいません。……というより、まだしたくありません」

「…………」

 ジークハルトは、再び口を閉ざして、トワリスのことをじっと見据えていた。
しかし、不意に踵を返すと、扉の取っ手に手をかけて、振り向き様に言った。

「そこまで考えられるなら、まだ堪えておけ。気に食わないことがあるのは、よく分かる。だが、今のお前の立場でところ構わず噛みついたって、叩き潰されるのが落ちだ。……魔導師団は、俺が変える」

 それだけ言うと、ジークハルトは、扉を開けて部屋の外へと出ていってしまう。
トワリスは、しばらくの間、ぽかんと扉の方を見つめていた。

 胸の中にあった苛立ちがしぼんで、代わりに、僅かな羞恥心が込み上げてきた。
自分の発言は、間違いではないと思う。
だが、実力のない今の自分が、それをところ構わず訴えたって、ジークハルトの言う通り、一蹴されて終わりだろう。
冷静になれば分かることなのに、頭に血が昇ると、つい考えるより先に行動してしまうのが、自分の悪い癖だ。
そのことを、まだ会って間もないジークハルトに見抜かれたのが、なんだか恥ずかしかった。

 アレクシアが、どこか呆れたように口を開いた。

「あの自信は、一体どこから来るのかしらね? あの人だって、まだ二十歳よ?」

 寝台の上で、気だるそうに髪をいじるアレクシアに、視線をやる。
トワリスは、アレクシアの方を向くと、不思議そうに尋ねた。

「……アレクシア、バーンズさんとお知り合いだったんだね。アレクシアも、入団試験の時に会ったの?」

 何気ない問いに、アレクシアが眉をあげる。
少し黙りこんだあと、やれやれと首を振って見せると、アレクシアは、大袈裟な身振り手振りをつけて答えた。

「その程度じゃないわ。もっと深ーい関係よ」

「えっ……」

 トワリスの頬が、微かに赤くなる。
気まずそうに視線を背けると、トワリスはもごもごと口ごもった。

「ア、アレクシアって、しょっちゅうそんなことしてるの……?」

 批判的な色を混ぜて、躊躇いがちに尋ねる。
アレクシアは、面白がっている様子で、くすくすと笑った。

「そんなことって?」

「いや、だから……。ゼンウィック常駐の、あのメレオンっていう魔導師の男の人とも、なんか、その……ただの友達って訳じゃなさそうだったし……」

「ただの友達じゃなかったら、どうだっていうのよ?」

 聞いているのはこちらなのに、アレクシアは、質問ばかりで返してくる。
トワリスは、逡巡の末、一層顔を赤らめると、目線を床に落としたまま、呟いた。

「そ、そういうのは……あんまり、良くないと思う……」

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.158 )
日時: 2019/07/16 18:50
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


 瞬間、吹き出したアレクシアが、からからと高い声で笑い出す。
たじろいだトワリスを、ひとしきり笑って馬鹿にすると、アレクシアは言った。

「馬鹿ね、冗談に決まってるじゃない。本当に貴女って、いちいち真に受けるから面白いわ」

 むっとしたトワリスが、アレクシアを睨み付ける。
未だ笑いを噛み殺しているアレクシアに、トワリスは反論した。

「真に受けてるわけじゃないよ! ただ、アレクシアは色々だらしないから……!」

 そのまま説教を続けようとして、口を閉じる。
トワリスはそっぽを向くと、冷めた口調で返した。

「……なんか、思ったより元気そうだね。心配して損したよ」

 アレクシアが、ふっと鼻を鳴らす。

「何よ、心配して来たわけ? 随分お優しいことね。あれだけ私に敵意剥き出しだったくせに」

 トワリスは、口を尖らせた。

「……それとこれとは、話が別だろ。アレクシアがかばってくれたから、私とサイさんは正規の魔導師になれたわけだし……その、一応、お礼を言っておこうと思って……」

 罰が悪そうに答えたトワリスに対し、アレクシアが、目を丸くする。
彼女は、毒気を抜かれた様子で、何度か目を瞬かせた。

「……はあ? お礼? 貴女、一体どこまでお人好しなのよ。私がサイとトワリスを巻き込んだのは事実なんだから、変な罪悪感を感じてるんじゃないわよ。分かってる? 私、貴女たちのことを勝手に視て、それを脅しの材料に使ったのよ」

 トワリスは、真剣な表情になると、アレクシアを一瞥した。

「それだけ、ラフェリオンに会いたかったってことだろ。奪われたヴァルド族の目が、どうなったのか、どうしても確かめたかったから……」

 どこか申し訳なさそうに言って、トワリスが俯く。
これ以上、アレクシアの過去に関わる話を、するべきじゃないと気遣っているのだろう。
しかし、無理に話題をそらすのも不自然だから、必死に当たり障りのない言葉を探しているようだ。

 分かりやすいトワリスの反応に、アレクシアは、大きくため息をついた。

「辛気くさい顔して、鬱陶しいわね。……あのね、本当は、ヴァルド族なんて存在しないのよ」

「えっ」

 思いがけない言葉に、トワリスが瞠目する。
アレクシアは、寝台から腰をあげると、ぐっと背筋を伸ばした。

「西の一部に伝わる伝承にね、ヴァルド族と呼ばれる、透視と予知の能力を持った一族が出てくるの。彼らが実在していたのかどうかは、分からないわ。私は、その名前を語った、偽物ってこと」

 随分と簡単に明かされた真実に、トワリスが頭を捻る。
怪訝そうに眉を寄せると、トワリスは、アレクシアに詰め寄った。

「ど、どういうこと……? じゃあ、ラフェリオンに話してたことは、全部嘘だったの? アレクシアの目には、特殊な力なんてないってこと?」

 アレクシアは、隣部屋であるトワリスの自室と、この部屋とを隔てる木壁を指差すと、小さく首を振った。

「嘘はついてないわ。私には、壁を隔てた向こうの景色でも、山一つ向こうの景色でも、普通は見えないはずのものが視える。だから、貴女が昨晩、どんな寝相だったかも知ってるわ」

「……私、真面目な話をしてるんだけど」

 半目で睨んで、ふざけるなと訴える。
トワリスの鋭い視線に、アレクシアは、ふふっと笑って、肩をすくめた。

「真面目に話すほどでもない、下らない能力ってことよ」

 次いで、トワリスの横を通りすぎると、アレクシアは背を向けて、淡々と言い募った。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.159 )
日時: 2019/07/18 20:24
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


「見えないはずの景色が見えたからって、何になるっていうの? 別に、見たいと思った景色が、自在に見えるわけじゃないの。意図せず、急に頭に流れ込んでくるのよ。だからって、声が聞こえるわけじゃないから、映った相手が何を話しているかなんて分からない。直接干渉できるわけでもない。ラフェリオンの術式だって、そう。近づかなきゃ見えないような小さなものは、私にだって見えない。こんな能力、何の役に立つっていうのよ。役に立たない力なんて、異端扱いされる理由にしかならないわ。……せめて予知能力でもあれば、伝承に伝わるヴァルド族みたいに、神聖視されたんでしょうけれどね」

「…………」

 アレクシアの声色が、微かに暗くなったような気がした。
トワリスは、続きを聞いて良いのか迷いながら、小さな声で尋ねた。

「……それで、ヴァルド族の名前を語ることにしたの?」

 アレクシアは、壁の一点を見つめたまま、返事をした。

「言い出したのは、私の姉よ。元々、私達姉妹には、大した力なんてなかったのに、伝承にあるヴァルド族の末裔だとでも言えば、周囲は皆、自分たちのことを崇拝するだろうって。姉は、透視だけでなく、予知能力もあるだなんて嘘をついて、周りを騙し続けたの。結果、一時的に注目は集めたけれど、悪目立ちして、魔導人形の材として目をつけられた。十四の時に、ブラウィン・エイデンに眼球を奪われて、そのまま死んだわ。……笑えるでしょう。自分でついた嘘のせいで、惨めに死んだのよ。善良で正直に生きたって、ろくな人生にはならないけれど、他人を騙して欲深く生きたって、結果は同じなのね」

 皮肉めいているような、冷たい口調であった。
アレクシアが話し終えると、薄暗い部屋の中に、静けさが戻ってくる。
ややあって、決心したように拳を握ると、トワリスは、はっきりとした声で言った。

「……私やっぱり、アレクシアに賛同してラフェリオンの破壊に行きましたって、報告してくる」

 こちらを見ようとしなかったアレクシアが、振り返る。
心底呆れ果てた様子で息を吐くと、アレクシアは、トワリスの顔を覗き込んだ。

「今の話の流れで、どうしてそうなるのよ? それで合格を取り消されたら、貴女どうするのつもりなの?」

 トワリスは、アレクシアの蒼い瞳を見つめ返すと、頑なな態度で答えた。

「そうなったらそうなったで、しょうがないよ。来年、もう一度試験を受ける。……だって、やっぱりアレクシア一人に責任を押し付けるなんて、駄目だよ。私、アレクシアが何か企んでるんだろうなって、分かって着いていったんだもの。同罪だよ」

 アレクシアが、大きく目を見開く。
やりづらそうに顔を片手で覆うと、アレクシアは、再度盛大なため息をついた。

「同罪って……あのねえ、私は貴女たちと違って、どうしても魔導師になりたいわけじゃないの。だから、卒業試験の受験資格を剥奪されたからって、大した痛手じゃないわけ。分かる? 第一、貴女が馬鹿正直に上に報告にいったとして、私が感謝をするとでも思ってるの?」

 トワリスは、ふるふると首を振った。

「思ってないよ。私が合格取り消されたって、留置所に送られたって、アレクシアはどうせ、『馬鹿じゃないの? これだから獣女は短絡思考ね』くらいにしか思わないんだろうけど、それでも、私が納得いかないんだよ」

「…………」

 もはや返す言葉も思い付かないのか、アレクシアは、何も言わなくなってしまった。
トワリスもまた、唇を引き結んで黙っていたが、やがて、いつかのように、アレクシアに額を指で弾かれると、顔を上げた。

「……意味のない責任なんか感じてないで、魔導師になりなさいって言ってるのよ。なって、 街中でふんぞり返ってやりなさい。獣混じりの女魔導師なんて、皆びびって声もかけてこないわよ」

 言葉の意味を探るように、トワリスはアレクシアの表情を伺った。
アレクシアは、心底呆れたような顔をしている。

「私以外にも、女が入団してるなんていうから、どんな気狂いかと思っていたけれど、話してみれば、ただの真面目一直線だものね。あれだけ私に散々言われたのに、のこのこ間抜け面でやってきて、『同罪だから』なんてほざくんだもの。貴女みたいな馬鹿丸出しは、正義の味方に向いてるわ」

 トワリスは、怪訝そうに眉をしかめた。

「……それって褒めてるの?」

「褒めてるわよ。貴女ほどお人好しで、ろくな死に方をしなさそうな人間は、そうそういないって言ってるんだから」

「褒めてないだろ」

 呼吸をするように貶してくるアレクシアに、もはや感心さえ覚える。
それから、先程指で弾かれた額を擦りながら、トワリスはぽつりと問うた。

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