複雑・ファジー小説

ヒノクニ
日時: 2020/07/24 21:27
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

 神は滅び征くもの。
 人は死に絶えるもの。


――……それは、どんな時も。

 
 どんな経路を行こうとも、結末は変わらない。



『ヒノクニ 歴史文学■■■■■■ 著者:■■■ 』





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序章>>01 登場人物/設定>>03
壱話 「繰り返し」>>02>>4>>5>>6>>7>>8
弐話 「毒も食わば皿まで食え」>>9>>10>>11>>12>>13>>14>>15>>16>>17>>18>>19>>20>>21


 

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Re: ヒノクニ ( No.19 )
日時: 2020/07/07 19:21
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「へへへっ。もうすぐでこんな田舎ともおさらばですね、筒治さん」
「……あ? そうだな。何にもないただあるだけのこんなつまらないところさっさとおさらばしたいものだよ」

 筒治は冷たい表情で誰もいない駅に立っていた。そして、隣にあった塵箱を軽く蹴った。
 部下は再び笑うと、

「ほんっとうに退屈でしたよこの地方は。唯一『召喚陣』を大きく設置できる土地ぐらいですよ、いいところは」
「ああ。召喚陣はこの中では護法が使える私でしか使えないからな。召喚陣を設置できるのは新月である今日……。それも大きく描ける豊満な土地であるとともに広く大きくであればあるほどその効果を発揮する……。くくく……、私がこの召喚陣を設置出来たらあの忌々しい神原めを追討できるぞ!」

 筒治は心底面白いように腹の底から大声を上げて笑った。
 そんな筒治につられるように、部下たちもみんな笑いだす。
 笑いながら、筒治は長い鉄製の管を持つと、ゆっくりと歩きだした。

「さあ、さっさと設置してこんなところさっさと出てくぞ。嗚呼、つまらない。この都市も、人間も……」
「悪かったな。何も無くてよ!」
「!?」

 そんな声が聞こえたのと同時に、後方から部下の悲鳴が聞こえたとともに、バキッと鈍い音が響き渡る。
 勢いよく振り返ると、そこには慶司と水薙、そして下着泥棒の部下たちがそこにいた。
 筒治の部下の3分の1を気絶させていた。

「な……! 水薙、お前はあの時爆風で吹き飛ばされたはず……!」
「運良く生きてたよ! ……んなことよりオメェを此処で止める。さっさと都市を返してもらおうか」
「もう遅いさ」

 にい、と筒治は笑う。その瞬間、残った部下たちは全員注射器を一斉に首へと差し込んだ。
 全員刺した瞬間に、苦しそうに足元をおぼつかせていたが――ぎょろりと両目を赤く染めてこちらに襲い掛かってくる。

「さあ、時間を稼げ。人口護法使いども。命は今日までだが――皇帝の犬を殺せたという箔がつくぞ。頑張れ」
「て、めぇ……っ」

 部下の命を何とも思っていないのか。
 それを察した慶司はこちらを一度も振り向かずに走り去っていく筒治の背中を思い切り睨んだ。





「繋!! これ!!」
「……! ああ、もう雪たちは来てるみたいだ」

わたしと繋はあれから急いで枳殻の駅へと辿り着いた。ちなみに侍女さんたちは危ないので先程の空き家にて待機してもらっている。
辿り着くや否や、倒れている人たちがいて――……身なりを見る限りでは下着泥棒たちでは無さそうだ。予想するに、盗賊連中だろう。
 意識を失っているのを確認して周りを見回す。

「けど、何処に行ったんだ……?」

 繋がそう呟いた。
 その瞬間、大きな破壊音が響き渡った。

「この音からすると……列車のある待合所じゃ……!」
「行こう」

 わたしと繋はお互い顔を見合わせると、その背後から人が3人ぐらい吹き飛ばされてきた。
 彼らは壁に激突して意識を失った。
 何これ?

「クソガキ! 繋!」
「雪ちゃん!! ……と、下着泥棒の頭……え。何それ、まさか水」
「いろいろあんだよ」

 上を見上げると、屋根には雪ちゃんと……水薙さん!? ……が立っていた。
 おいおいおいおいおい。確かに水薙さんは行方不明で探してはいたけどまさかの下着泥棒なの? 嘘でしょ? いやでも服装が下着泥棒のだもん。絶対そうじゃん!
わたしの考えを察した雪ちゃんは苦々しい表情でそう言った。

Re: ヒノクニ ( No.20 )
日時: 2020/07/14 20:14
名前: 繝ォ繝薙& ◆J5W8IpLB6g (ID: YGRA.TgA)

「そ、そうか……。訳ありだったんだな……」
「その情報墓場まで持って行ってほしかった」

 雪ちゃんや水薙さんから大方の事情を聴いたわたしと繋は何とも言えない表情で呟いた。
 というか下着泥棒と盗賊が密接な関係になってるなんて思いもしなかったよ。
 上様に何て伝えればいいの?

「筒治の野郎、今にも死にそうな部下ほっといて、自分だけどっかに行っちまった。追いかけようとしたけど『強制的に護法を使えるようになった盗賊共』が邪魔して進めん」
「何人いやがんだ、盗賊共……」

 水薙さんと雪ちゃんが忌々しそうに言う。
 確かに、ざっと見ても盗賊共は50人はいるだろう。でも、このままこの半狂乱の狂人になった盗賊共に付き合っていたら筒治はきっとまた何かやらかす。
 そうなったらこの国に混乱がやってくるかもしれない。そうなる前に……。

「雪ちゃん!」
「あ?」
「ここはわたしが対処してあげるから3人で筒治を追いかけて! 水薙様はこの地方の地理に明るいし、繋の『護法』を使えばすぐに見つかるから。そしたら雪ちゃんであの野郎をねじ伏せて!」
「おめぇ1人でこの人数相手にできんのか?」

 ははっ。そう思うならさっさと行って筒治をぶっ飛ばして帰ってきて。
 わたしの本職は文官。
 普段は城で事務作業と管理に追われている1文官にすぎないから戦力においては期待しないでね。

「――……苦情対処には屈しない主義なので!」






――……護法。
 それは、生きる者全てが生まれつき備え持つ「生き抜き、護るための力」。
 かといって、それを扱える者は少ない。幼いころから修行し、研鑽を積んでようやく得られる力。
 しかし御伽噺に出てくるような火や雷、風、水などと言った自然や気象の力を引き起こすような大技が使えるわけではない。それが使えるのはこの国では上様と繋だけだ。
 そう言った強い力を扱えるもは神や仏とか――、まあ、天に近い者だけだ。

 とはいえ、護法を深く知り、扱える者は戦場や人生において大きな利益を得る。
 その力を殺すのも活かすのも自分自身なのだ。


「――……我が命ず。天には理を。海には晴嵐を。地には冷徹を。我が言葉に答え、全てを暴け――……」

 繋がそう呟くと、水が滴る音が地に響き渡る。これは、彼の護法の1つ。水の反響音を利用することで探し物を見つける手法である。
 走りながら水薙は、

「……俺達が調べた情報によると筒治はこの枳殻の豊穣な地で何かを召喚しようとしてる。でもただの召喚じゃないぞ? 確実にこの国に害を与えるものだ」
「……神様でも召喚しようってのか?」
「いいや。この国にもう神はいないさ。何百年も前に皇帝が滅ぼしつくしたからな」
「じゃあ、何を」
「雪、水薙さん。見つけたよ。筒治はここをまっすぐ行った先の場所だ」

 繋の言葉に、水薙は酷く驚き、目を大きく見開いた。

「その場所は……」
「何だよ水薙のおっさん。なんかあんのか?」

 慶司が彼の顔を横目で見ながらそう言った。
 一瞬、水薙は言うのを躊躇ったが、首を左右に大きく振ると、

「繋が行った場所は元『儀式場』。何千年も前に干ばつや飢餓から逃れるために生きたまま子供や若い女を神にささげる――、つまり生贄にする場所だった。今でこそあの場所は廃棄されてるが……不吉な場所として立ち入りを封鎖してるんだ」

Re: ヒノクニ ( No.21 )
日時: 2020/07/24 21:24
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「ぐおぁぁああああああっ!!」
「ぎゃああああああああああああああああああっ!!」

 ……とは言ったものの、怖い! 怖すぎるんですよ!!
 護法を強制的に発動させる注射器を打ち込んだ盗賊の部下たちの顔色は真っ赤だったり真っ青だったり……、口から涎だらだら流れてたりとか首の方向人間のものとは思えないぐらいのものだったり……。
 正直人間とは思えない――いや、もう『人間には戻れない』んだ。繋は言った、「この粗悪品を使った人間は使用後死ぬ」と。

――……もうなりふり構っていないのだ。

 わたしに突撃してくる盗賊たちを殴り倒す。接近する種類の「物理系護法」はこうやって無理矢理殴って解決する。……のだが……。

「ひひっ。っひっひひ……」

 気味の悪い笑みを浮かべる盗賊たち。こいつらは遠隔や罠といった種類の護法を引き出している――見覚えのある紫色の煙を起こしている。

「げほっ」

 命のかかわる煙――! くそ、面倒くさい。視界もさえぎられるし、吸っちゃだめだ……!
 何とか棒があったら手当たり次第に殴れるのに……!
 でも言い訳している暇はない、わたしは近くにいる盗賊共を力いっぱい蹴り倒す。
 もう何だかんだで15人ぐらいはやったと思う。

「おい! 皇帝の遣い! 頭領がこの棒アンタのだって言ってたから持ってきたぞ! てか重い! 重すぎるぞこれ!!」
「本当!? こっちに投げて!! 余裕が無い!!」
「おうよ!!」

 下着泥棒たち5人掛かりで何とか棒がわたしに投げ渡される。
 ようやく返ってきた……!
 でも、感傷に浸っている暇はない。薙ぎ払う。

 わたしは一歩、力強く踏み出す。
 その衝撃で地面が割れる。そして、また踏み出す。

「さっさと潰れろ」

――残り、20名。
 この人数、この距離であるのなら問題なく殲滅する。恭順も平伏も一切認めない。
 わたしは横一線に棒を振る。
 次の瞬間には、盗賊共は全員地に伏していた。

「ふいー。終わったー……」

 緊張がほどけた感じだ……。怖かった、怖かった……。
 負けるかと思った、ありがとう何とか棒。お前は偉大だ。
 今この瞬間から大切にすると誓おう。
 ほっとしたのも束の間、何とか棒から布らしきものがするりと落ちてきた。

「…………んん?」

 反射的にその布を受け止める。
 これは、これは―――……。
 下着だ。下着だ?

「あっ! 悪い嬢ちゃん、さっきまで下着干してたんだよ! それ確かに重いけど、真っ直ぐで落ちないから重宝したんだぜ。手放すのが惜しかったぐらいだ!」
「まず人の私物で下着干してんじゃね――!! この腐れ外道共が―――っ!!」

 ふざけんなよ!? 何とか棒、こんな扱い受けたけど結構な代物なんだぜ!? 上様言ってたもん!! 
 ばれたらわたしが干されるわ! いや、首飛ぶわ!!
 やっぱ下着泥棒って碌なもんじゃないね。

Re: ヒノクニ ( No.22 )
日時: 2020/07/30 19:27
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「もう観念しろ。そして大人しく捕まれ。殺しはしない」
「ははは。もう手遅れですよ」

 少し、息を切らしながら慶司、繋、水薙は筒治の元へ辿り着く。
 水薙が筒治に降伏するように言い放つと。しかし、彼は見下す様に低い声で笑う。
 そして上を見上げた。
 そこには――……。

「……何だ、あれは……!」

 そこには文字通り化け物が立っていた。
見た目は人のような姿をしているが――人ではない。空に届きそうな人の大きさを超えた巨体、そして貧相で簡素な着物を身に纏い、何よりも特徴的なのは、頭部が無く、手足が腐っていることだ。
化け物の足元には陣のような跡が残っていた。
恐らく筒治が描いたのだろう――その証拠に彼の右手には木の棒が握られていた。

「――何を召喚しやがった」

 慶司は筒治を睨み付ける。
 そんな彼の形相にも臆することなく筒治は屈託のない笑みを浮かべた。

「水薙さんなら知ってるんじゃないんですか? この場所はね。廃棄されはしたが『力の名残』は残ってる。生贄にされた人々の痛み、苦しみ、恐怖、侮蔑、憎悪という悪意。私はそれを仕事で集めただけ。今は頭部は無いけど、あなたたちを此処で始末して死体をこいつに食わせればきっと蘇る――……」
「お前、まさか――……!」

 はっとした表情で水薙は叫ぶ。

「ええ、ええ。私は――いえ、私たちはこの地に神を降臨させる。あの忌々しい皇帝(独裁者)が滅ぼしつくした神を取り戻し、この国を本来あるべき姿に戻したいのです」

 そう言い放った瞬間、筒治の頭上から慶司の拳が振り下ろされた。
 砕ける音が周囲に響き渡る。
 筒治の右側頭部に拳が直撃し、体制を崩しかける。しかし、慶司が容赦するはずもなく、次は顔面に膝蹴りを入れた。

「ぐだぐだ話してんじゃねえよ。降伏しねえならここで潰すだけだ。おっさん、繋。そこに立ってるデカブツ諸共消してもいいんだな?」
「――……ああ」
「帰ったら言いたいことが沢山あるぞ、雪!」

 苦々しい表情で繋と水薙はいつも通りの慶司にそう言う。
 顔中、血塗れになったものの筒治の意識はまだ残っていた。
 先程の気味の悪い笑みから一変、余裕のない悪列な表情へとなっていく。

「何という野蛮……! これだから壊すことしか能の無い皇帝の犬めが……!! もういい小手調べに犠牲にするのは枳殻だけにしようと思ったが手前らも纏めて殺してやる……!」

 そう呟いた瞬間、化け物から黒い煙のようなものが放出された。よく考えなくても解る。これは毒だ。触れただけで生命を滅ぼす毒だ。

「いいぜぇ。相手してやる、俺はな、帝国に雇われた選ばれた盗賊なんだよ。あの部下共(出来損ない)とは違う。腐ってても護法は使えるんだよ。安心しろよ、苦しませてから息の根止めてやる」




――護法とは、護る力。
 その本質は単純なようで複雑。複雑なようで単純だ。
 扱える人間は少ないものの、その種類は分かれて2つ。
「自分を護る」か「法(他)を護るか」のどちらか2つである。






「あははっ」
(……コイツ……)

 慶司は筒治の右半身目掛けて蹴りを繰り出す。しかし、筋肉が硬直したかのようにその動きは止まる。
 もちろん慶司は攻撃を躊躇したわけではない。
 止まった隙を狙って筒治は隠し持っていた短刀で斬りかかるが慶司は後方へ仰け反り回避した。

「大丈夫か雪!」
「心配ねえ。それよりさっさとその化け物を……」

 繋は横目で慶司を見る。繋と水薙は化け物の吐き出す毒を結界で封じ込めていた。
 今は、化け物も動く気配はないが、本格的に動き始めたらどうなってしまうのか皆目見当もつかない。

「悪ぃな繋。今の今まで調達できた護法符もこれっぽちしかなくてよ」
「……いや」

 邪悪な特性を封じ込める護符――通称「護法符」があるとは思っても見なかった。 
時間稼ぎにしかならないだろうがこれなら護法も使えない水薙にも使えるし、囲んで閉じ込めておくことで毒の流出も防げるからだ。

「都市の事情(俺の事)でお前ら巻き込んで済まなかったな……。醜態も晒した。挙句の果てに首謀者を慶司1人に押し付けて……」
「大丈夫だ、水薙さん」

 申し訳なさそうに呟く水薙に繋はあっけらかんとして笑うと、再び慶司の顔を見た。

「雪は強いから平気さ」





(面倒だな……。直接的な攻撃力はねぇが、物理攻撃……いや、俺の動きを強制的に止められる。だったら)

 慶司は着ていた黒い半纏で体を隠すように被るとそのまま筒治の方へ向かう。
 筒治は考えなしに突き進んできたと思ったのか、馬鹿にするような笑みで再び短刀を構えなおす。
 そして間合いに入った慶司をそのまま刺し殺す気でいるのだろう。

「残念っでしたぁ! 俺の護法はテメェの面(つら)が見られなくても姿かたちさえ見えりゃあ動きを止められるんだよ!!」
「ああ、知ってる」
「は?」

 予想外もしない冷静な慶司に思わず筒治は眉根を寄せる。
 次の瞬間、彼の視界が黒い半纏一色になる。すぐに半纏を振り払い、迎撃しようとするが、間に合うことなく筒治の身体の全体に痛みと衝撃が走る。
 恐らく、慶司に渾身の拳を食らったのだろう。力なく筒治は倒れ込む。

「お前……、一体……!?」
「テメェ、戦闘に特化してねえんだろ。お前の護法は自分を護る「自己防衛型」の護法。それで視界に入った1名の動きをとことん止める「停止」の護法。繋と水薙のおっさんに何も影響が無いのがいい証拠だ……。だがその力は視界を遮られると力を発揮しない」
「んだよ……。全部わかってたのかよ……、卑怯者め。――いや、そりゃあ勝てねえよな。「ヒノクニの最強さん」よ」

 力なく笑う筒治に慶司は心底どうでもよさそうにため息をつく。

「俺はんな大層な称号なんざ柄じゃねえや」

 ふと、何気なく慶司の瞳を見た筒治は一瞬、驚いたように目を見開いた。そして納得したかのように小さくため息をついた。

(炎の様な真っ赤な瞳に、清涼な空色の瞳……。なるほど、真眼(しんがん)か。しかも2つ……。赤は滅死の力を、青は真実を見抜く――か)

Re: ヒノクニ ( No.23 )
日時: 2020/08/05 19:40
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「おい……。あのバケモンお前が召喚したんだろ。早く止めろ。あの毒気だ。全員死ぬぞ」
「……ちっ。糞気に入らねぇが仕方ねぇ。あいつは意思が無い。俺がそう仕組んだ。死にたくはねぇからな……止めてや……」

 そう呟く筒治。横目で繋や水薙が抑えている化け物を見つつ止めようと試みる。
 しかし、しばらく経っても何も起こらない。
 それに気が付いた筒治は驚いたように大きく目を見開いた。

「なっ……! 何でだ!?」

 口から零れ落ちる血液も気にせず上半身を起こす。

「何で……何で動きが止まらない!? アイツは俺の所有物で……!」

 酷く取り乱したかのように筒治は頭をガリガリと掻く。
 その様子に慶司は訝し気に見つめた。
 慶司は真実を見抜く真眼――蒼の目で化け物を一瞥する。

「気配がさっきと違う。手前、所有権を誰かに奪われやがったな。あのバケモンはもうお前のものじゃない」
「くそっ、くそっくそっ!! 燠だ(おき)だ!! 燠の野郎!! 小細工しやがったな!?」
「……燠……!?」

 筒治に聞きたいことは山ほどあったが、その瞬間大きな声が慶司の耳に入る。

「雪! 抑えるだけじゃだめだ、こいつ自爆する気だ。ここら一体消し飛ぶぞ!?」
「――わかってる!」

 自分達だけなら逃げられる。けど、問題は「自爆した後の余波」だ。
 完全に目覚めていなかった化け物の毒気も相当危険だったら、この自爆による毒は下手したら民衆にも被害を及ぼしかねない。
 それに、すぐ爆発するかもしれない。何もかも不明、後手後手だ。

「雪ちゃーん!! 繋!! 水薙さん!!」

 空を切る音がしたとともに、成葉は何とか棒に乗ってやってきた。
 成葉の何とか棒はとても重いことと、伸縮機能があり、その勢いで移動手段にも利用することができるのだ。
 勢いよく着地した成葉は力ずくで全員を何とか棒に乗せる。

「早くここから逃げるよ! 時間が無い!」
「わかってる! けどここで逃げたら他の奴に毒が……!」
「心配するのはそっちじゃない!」

 慶司の言葉を成葉は一刀両断する。
 するとみんなギョッとした顔で成葉を見る。
 その表情は酷く青ざめていて――……。

「上様が!!」







「って、あれ何――っ!? でかい、でかすぎるんですけど。何何何!? きょ、巨神兵!?」

 時刻はわたしが辿り着く1分前ぐらいの事。
 盗賊の部下たちを制圧してから雪ちゃんたちが言った方角を見るといつの間にかデカい化け物がいたもんだから思わず取り乱しました。
 何かあそこらへん空気が黒くない? 行きたくないんですけど……。

「おい嬢ちゃん! 何か黒いの変な音出てるぞ!」
「黒いの?」

 下着泥棒の1人が私に黒いの――つまり通信機を渡してきた。おそらく、雪ちゃんが置いていったものだろう。
 何事かと受け取ると……。

『おお。繋がったか。我だよ!』
「上様!? どうして急に。というか今話してる暇が無いというか……!」
『話してみよ。何、お前たちなら問題はないだろうが――我には聞いておく必要がある』

 まあ手短にならいいか……。
 チラリと横目で雪ちゃんがいると思われし場所に化け物の姿を見る。

「ええっとですね。筒治――……、いや、盗賊の首領がでかくて黒い毒気を吐く化け物を召喚したみたいで、今わたしも盗賊一味を制圧したので雪ちゃんたちのいる……化け物の場所に行こうとしてて」
『何? 召喚? 黒い化け物? 場所はどこだ?』
「え? 枳殻の駅から少し距離のある今はもう廃棄された――あの、儀式場」
『――……繋に指揮を譲ろうと思ったが気が変わった。何たる愚行何たる侮辱。あの場所はいずれ改築しようと考えていたがそれをこうも利用されるとは――……。許しがたい屈辱である』
「う、うえさま」

 怒っている……。これは何が何でも怒っている……。
 いや、でも、でも……。
 わたしがどうしようかと考え込んでいると、上様がただ一言。

『成葉』
「はいっ」
『至急、その場所にいる繋と慶司を回収しその場から離れよ』
「でも化け物は……?」
『我が。滅する。だから――何とか棒で総員、退避せよ』
「しょ……承知しました……」






「というわけでして」
「あー……。だろうなぁ。おそらくあの化け物は少なくとも神様の紛い物。親父の逆鱗に触れる案件だろうしなあ……」

 何とか棒で回収されつつ、繋はそう呟いた。
 正直、重量が過ぎそうだけど――水薙さんはもちろん、意識を失った筒治も乗せて、再び駅へと舞い戻った。
 駅に着地すると、その瞬間、儀式場――つまりあの化け物の頭上から炎を纏った物体が急激に落ちてくる。
――まあ、隕石ですね。

 瞬きする間もなく、先ほどの場所は爆発音と衝撃で包まれる。
 黒い煙と広い煙が同時に立ち込め――、しばらく炎が立ち込めていたが少しずつ消えていく。見えたものは上様が護法で引き寄せた隕石の塊が。

『――ふむ……。少々手荒だったがもう二度とあの場所を利用する輩は現れないだろうよ。さて、あの場所は改築しつつ――そうだな。枳殻の豊かな農業を活かしつつ新たな交易場所にでもするか』

 わたし、いや、その場にいる全員は口を開くことは無かった。

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