複雑・ファジー小説

君は地雷。【短編集】
日時: 2020/05/14 14:37
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To

 短編集をきちんと最後まで書ききったことがありません。計画性がない脳内クレイジーガールです。
 好きな時に好きなお話を書きます。そんな感じです。よろしくお願いします。


 


 目次みたいなもの

 ひとつめ >>006
 ふたつめ >>010
 みっつめ >>014
 よっつめ >>028
 いつつめ >>032
 むっつめ >>037
 ななつめ >>042

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Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.46 )
日時: 2020/05/18 22:32
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To

【 もうひとりの彼女 6 】


 その日、あたしは唐突に真っ暗闇に突き落とされた。



***


 普通の女の子のはずだった。家族に愛されて、友達もたくさんいて、ちょっと気になる男子がいる。そんな、どこにでもいる女の子だった。
 あの日はどうしてああなったのか、ちゃんと覚えていない。本当のことを言うと、思い出したくないだけなのかもしれない。テストが終わって放課後に図書室に本を返しに行ってたことは覚えている。そこで確か司書さんとつい話し込んでしまって、気が付いたら夕焼けが綺麗な時間になっていた。

 早く帰らなきゃ有紗が「遅い」って拗ねちゃう。電車の時間を調べながら校門に向かって歩いていた。その時に、それは、唐突に。
 ぐいっと後ろから。最初は男の人に腕を引っ張られた。振り返ったとき、私の目には数人の男たちの奇妙な笑みが映った。「誰ですか」と言葉を発する前に、男は私の腹に思いっきり蹴りを入れて、私を踏みつけた。げほげほと咳が止まらずに、この状況が何かすぐに理解することができなかった。意識がぼんやりとして、頭がぐわんぐわんと揺れるように痛かった。
 気が付いた時には私は体育倉庫の中で裸にされていた。いいように数人の男たちに体を弄ばれていて、怖くて声が出せなかった。逃げようとするとそいつらは私を殴ったり蹴ったり、それはもうおもちゃでも扱っているように。怖くて怖くて涙だけは滝のようにだばだばと流れ落ちた。声はどうしても出なかった。体中が悲鳴をあげている。逃げなきゃいけないという本能が、彼らの暴力によって薄れていく。すべて終わった時には、心はもうなかった。

 笑いながら男たちは去っていった。
 ごめんね、ちょっとした遊びなんだ。

 吐き気が止まらなくて、何度も地面を叩いて怒りをぶつけた。地面に擦れた手が切れて、赤い血液が滲んだ。気持ちの悪い液体の匂いが、また吐き気を呼び起こした。

 死にたい。死にたい。
 あいつらが面白半分で、ゲーム感覚でやったことが、どれだけあたしを苦しめたのか、そんなのあたしにかわからない。あたしだけが、この苦しみを知っている。
 高校生なんだから。まだ未来はあるでしょ。きっとこのことを誰かに吐露しても、言われることはそれだけだ。仕方ない。もう終わったことだから。どうしようもない。これからのことを考えなさい。


 あたしの気持ちがわかるのは、あたしだけだ。

 体育倉庫の扉が開いた時、あたしはあいつらの誰かが帰ってきたのかと思って怖くなった。
 彼があたしの名前を呼んだ時、あたしは酷い寒気に襲われた。


「宮川、さん?」


 クラスメイトの寛太くんの声だった。あたしが密かに思いを寄せていた男の子。ちょっと頼りなくて、頼み事は断れないイエスマンで、優しくて、いつもあたしに笑顔で挨拶してくれる男の子。
 見られたショックが、あたしの背筋を一気に凍らせた。

 こんなに汚いあたしを、見られてしまった。
 彼は優しいから、きっとあたしのことを助けてくれる。だけどあたしの望みはそうじゃないんだ。あたしは、本当は、ただ。

 寛太くんに好きって告白できる、そんな普通の女の子でありたかっただけだから。
 もう戻れない。もう、数時間前の綺麗なあたしには戻れない。あたしは汚い。


 死にたいんだ、と寛太くんに言うと、彼は「そっか」と短く相槌を打った。
 「俺は生きてほしいな」彼は困ったように笑って、あたしの頭を優しく撫でた。
 どうしようもなかった。なりふり構っていられなかった。
 これは、あたしの小さな小さなプライド。

 汚いあたしはもう一生彼の隣にはいられないから。
 だけど、あたし以外の人間が彼と幸せになるのを見るのはつらい。

 寛太くんの記憶に残るように。寛太くんのことを思って死にたかった。
 あたしは夢の中にいる。寛太くんがあたしのことをずっと抱きしめてくれている、幸せな夢の中に。




Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.47 )
日時: 2020/05/20 21:31
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To

【 もうひとりの彼女 7 】


 入れ替わりに唯一気づいたのは、寛太くんだけだった。あとのクラスメイトは私が双子の妹だなんて疑いもせずに私を「宮川有栖」だと思っている。
 親友だと言ってた女も結局は私とお姉ちゃんの違いが判らない。
 お姉ちゃんみたいに明るく優しくいい子にしていれば、疑いもしない。
 顔さえ同じならどっちでもいいんだ。私でも、お姉ちゃんでも。

「宮川さん」

 放課後の教室で、彼と二人きりになる。私は気まずい空気が嫌で帰ろうと席を立ったけれど、彼はすかさず声をかけてきた。


「ちょっと、無視しないでよ」
「無視してない。てか触んないで、きもい」

 帰るなら施錠手伝ってよ、と彼は私に鍵を思いっきり投げつけてきた。
 イラっとして彼を睨みつけるけれど、彼は黙々と窓の施錠を始める。手伝え、という無言の圧に耐えきれなくなって、私も隣の窓を閉めた。葉っぱの紅葉が始まっていて、地面に落ちた黄色い葉っぱが絨毯のように広がっていた。そこに何人かの生徒がたむろっていて、そのうちの一人がこっちを見た。
 じい、と私の顔を見て、そして口元を緩めた。気持ちの悪い、笑みだった。

「どうしたの、」

 何見てんの、と彼が声をかけてきて、私はびっくりして窓から目を逸らす。

「な、なんでもない」

 カバンを持って教室の電気を消す。早く出よう、と私が言うと彼もカバンを持ってついてきた。
 私が「宮川有栖」じゃないと気づいた唯一の人間だった寛太くんは、結局気づいた後も特に何事もなかったかのように私に接してくる。ただ、登下校のたびに私を迎えに来て、送っていく。まるで、何か危ないものから私を守っているかのように。

「ていうかさ、そろそろやめない?」
「何を?」
「え、こうやって送っていってくれるの、気持ちは本当に有難いけど、そうじゃないじゃん」
「そうじゃないって、何が」
「だって、私はお姉ちゃんじゃないもん」

 お姉ちゃんを見殺しにしようとした男だ、彼は。許せるはずがない。
 だけど、お姉ちゃんが死のうとした事実は変わらない。彼が止めても結局お姉ちゃんが「死にたい」と苦しんでいたことには変わりがない。
 彼を責め続けた。だけど、時間が経つたびに胸が酷く痛くなっていく。



 何も気づけなかった。私は。お姉ちゃんを助けられなかったのは私もなのに。



 秋はもうすぐ終わる。風が少し冷たくて、衣替えした制服は最初は暑くて嫌だったけれど、最近は少しくしゃみがでるようになった。私が小さくくしゃみをすると、彼は自分の着ていた上着を私に貸してくれた。いいよ、と言ったけれど彼は何も言わずに隣を歩き続けた。
 玄関で靴を履き替えて外に出る。さっきの紅葉した落ち葉の場所にはもう誰もいなかった。あの気持ちの悪い笑みの男はもういなかった。一体誰だったのか、どうして私を見て笑ったのか、気になったけれど言葉にはしなかった。
 きっと、この男はまた気にして余計に心配しそうだから。

 過去に何かしらお姉ちゃんとあったのだろう、とは予想できた。だけど、それを深く追求することはできなかった。というか、したくなかった。
 彼の隣を歩く。歩幅を合わせてくれているのか、少しゆっくり目に歩いてくれているのがわかる。途中でコンビニによってホットレモンを買ってくれた。ありがとう、と言うと彼は悲しそうな顔で「ごめんね」と答えた。
 

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.48 )
日時: 2020/05/22 21:29
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To


【 もうひとりの彼女 8 】




「ねえ、忘れたの?」




 教室移動の途中に肩を叩かれた。ぞくっと寒気がして、私は後ろを振り返る。
 一人の少年が奇妙な笑みで立っていた。
 どこかで見たことのある顔だった。そうだ、あのときの私をみて笑った男。


「何が、ですか」

 後ろに一歩下がって、私は手に持っていた教科書をぐっと胸元に押し付けた。

「あんなことされても、僕のことを何一つ覚えてくれていないんだね」
「だから、何のこと」
「僕たちはあんなに愛し合ったのに。もっと愛し合わなきゃ君の心には残らないのかな」

 男は私の首元に手をはべらせて、またにやりと口元を緩めた。
 鳥肌が全身にたって、私はその手を思いっきり撥ね退けた。びっくりした衝動で、私はその場から逃げた。階段を勢いよく駆け上がる。気持ちが悪くて、それ以外は考えられなかった。
 あとから、彼が言っていた言葉はすべて「お姉ちゃん」のことだと理解して、またぞわっとした寒気に襲われる。


 愛し合った、ってどういうこと。


 第二理科室に入ると、もうそこには寛太くんがいて、私を見て心配そうに「どうしたの?」と声をかけてきた。「なにも」と返すけれど、上手く笑えなかった。
 寛太くんが私の頭をぽんぽんと撫でて「大丈夫だよ」と笑った。

「何が大丈夫なの?」
「なんだろうね」

 根拠のない言葉は嫌いだった。だけど、この男の言葉には強い信念が感じられた。
 絶対に「大丈夫」にする、とまるでそのためなら世界でも変えてしまえるかのような、そんな強い感情が、彼の強い眼差しから感じ取れた。

「誰かに何か言われた?」

 何も言われてないよ。私は席に座って、小さく息をついた。
 目を閉じる。ふいにさっきの男の笑みが脳裏に浮かぶ。こびりついて離れない。
 愛し合った、という言葉は一体何だったのだろう。
 考えても無駄なのに、私の心はそれでぐちゃぐちゃになって、授業もまともに聞いてられなかった。

 放課後になって、寛太くんが一緒に帰ろうと私の席に近づいてきた。

「あ、寛太くんさ、今日委員会あるの覚えてる?」
「え。そうだっけ、あ。……ごめん、ちょっとだけ待っててくれない?」


 クラスメイトの言葉に寛太くんの表情が歪んだ。頼み込む彼を無視して「私は帰る」と言い張って外に出た。寛太くんは困った顔をしていたけれど、何でそんな顔をするのか私にはよくわからなかった。
 私には寛太くんの行動の意味がわからないから。

 校門に向かって歩いている途中に、声がした気がした。
 名前を呼ばれたのだろうか、私はふいに後ろに振り返る。
 私の瞳に映った男は、やっぱり笑っていて、やっぱり気持ちの悪い吐き気のするような、

 そんな笑みだった。


*****


 「どうしたら思い出してくれるの?」
 「君は僕のことを好きになってくれるはずだった」
 「あれだけ愛し合ったじゃないか」
 「君だって合意だったでしょう。抵抗もしてこなかったじゃないか」
 「僕と一緒にぐちゃぐちゃになってよ」
 「ねえ、お願いだから僕のものになって」


 気が付くと私は体育倉庫の中で手首を縛られた状態で放り捨てられていた。
 目の前には一人の男。見たことがある。あの日、私に廊下で声をかけてきた男だった。
 彼は譫言のように気持ちの悪い言葉を何度も繰り返し呟く。
 私が目を覚ましたのに気づいたのか、またにやっと笑って「おはよう」と言った。
 手首のロープは頑丈に縛られていて外れる気配がなかった。私は怯えながらも彼に話しかける。

「あんたは何がしたいの」
「……何って、そんなの決まってるじゃないかあ」

 彼の手が私の頬を撫でる。じめっとした汗が私の頬に塗りたくられる。

「僕は今から君ともう一度愛し合うんだよ」

 ゆっくりと彼のねばついた手が私の体に落ちていく。
 声は、出なかった。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.49 )
日時: 2020/05/26 00:47
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To

【 もうひとりの彼女 9 】



「なに、やってんの」


 がしゃんと体育倉庫のドアが開いて、そこに彼は立っていた。
 走ってきたのか息が切れていて、首筋には汗が伝っている。

「え、ああ、なにも、なにもしてないよ。違うんだ、俺は、全部こいつが誘ってきたんだから。違う、俺は違う」

 私の縛られた手足を見て、彼は怒りで肩を震わせていた。
 私を犯そうとした男は彼の逆鱗に触れたのだろう。胸倉をつかまれて壁に押し付けられていた。目を泳がせた男はどもりながらすべての行為について否定した。
 俺が悪いわけじゃない。全部、この女が悪いんだ。
 でも、寛太くんの怒りはそんな言葉じゃおさまらなかった。
 寛太くんの拳が振り落とされる。「やめて」と叫ぶと同時に、鼻すれすれの位置で止まった。

「どうして」
「……だって、私は無事だもん。寛太くんが助けてくれたから、ほら、無事じゃん」

 男はもうすでに失神していた。
 胸倉から手を放して、寛太くんは私のもとに駆け寄る。

「ごめん。俺は」
「無事だって言ってるじゃん。寛太くん、ほら、見てよ」

 私は精いっぱい手を広げて笑って見せた。寛太くんの悲しい顔は見ていられなかった。

「私は綺麗な体のまま、寛太くんのおかげで、ほら」

 痣だらけの手やロープで絞められた皮膚の赤い部分も、寛太くんにとってはきっと許せないことなのかもしれない。だって、寛太くんはきっと


 お姉ちゃんを守れなかったことをずっと後悔してたから。


「私は、死なないよ」

 あと何時間、あと何分、あと何秒、何かが違ってたら寛太くんはこんな馬鹿みたいな男たちからお姉ちゃんを守れていたのかもしれない。お姉ちゃんがこんな奴らのせいで死のうとしたりしなかったのかもしれない。だけど、こんなの「たられば」だ。どれだけ願おうとも過去が変わるわけでもない。私がお姉ちゃんの姿で毎日お姉ちゃんの振りをして学校に通っていても、私が宮川有栖になれるわけじゃない。
 寛太くんが守りたかった「宮川有栖」にはなれない。

「俺は、また守れなかった」
「そんなことないよ」
「俺はまた」

 ずっと私のそばにいてくれた。寛太くんはきっとまたあんなふうになるのが怖かったんだろう。
 寛太くんは止められないから。きっと私がこのことでお姉ちゃんと同じように死のうとしても、寛太くんは止められない。

「姉さんがむかし、同じように事件に会って、酷いことをされて……でも、誰にも言えなかった。警察に言うのも恥ずかしくて、ただずっと後悔してた。姉さんはあの時のことが忘れられないのか、だんだんおかしくなっていっちゃって、精神的に病んじゃって、いま病院にいるんだ」
「寛太くんは、そのお姉さんと私のお姉ちゃんが同じようになると思ったんだね」
「死にたい、って姉さんもよく言ってた」
「うん」
「でも、周りはみんな「死んだらだめだ」「生きなさい」って言うんだ。それで姉さんがどんどん狂っていっちゃった。何が正解なのかはわからない。姉さんが生きてくれてることは嬉しいけど、それがずっと重荷になってると思うと俺は……」

 寛太くんは言った。
 有栖も同じようになると思った。
 止めたら狂ってしまうと、狂って精神が壊れてしまうと思った。

 どうすればいいのか、なにが正解なのか分からなかった。
 止めなきゃいけなかった。もっと早く駆けつけて助けなければいけなかった。

 私はごめんと繰り返し土下座しながら謝り続ける寛太くんを見て、可哀想に思った。
 私だって、そんな状況になったら正解なんてわからないから。

「寛太くんは、お姉ちゃんに死んでほしかったの?」
「……幸せになってほしかった」

 私の質問に答えたのか、少しずれた返答をした寛太くんは泣きながら私の手を取った。

「保健室に行こう。早く手当しなきゃ」

 弱い人だな、と思った。そして不運な人だな、とも。
 優しさは心を蝕んでいく。綺麗な心は、黒に染まりやすいから。
 私は、弱くて可哀想な寛太くんが、そんなに嫌いじゃなかった。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.50 )
日時: 2020/05/31 00:15
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To


【 零れ落ちた好き 】
 
 君がいない。君だけがいない。澄んだ空気を飲み込むと、途端に気持ちが悪くて吐きそうなった。空の青さを恨んだのはきっと今日が初めてだ。               
 私は今日も君の家に行く。もう君はいないのに。君のお母さんが玄関で私を見て悲しそうな顔で笑うんだ。ごめんね、って。謝らないでくださいよって、上手く言えなくて、でも泣いちゃだめだと思った。私はへらっと笑うので精いっぱいだ。

 君の部屋のドアを叩く。ノック三回。君が必ずしろよ、と言ったから。
 もう君はいないのに、つい癖でしてしまう。いつものように「入れよ」と投げやりな返事は帰ってこなくて、ドアノブをぎゅと握って私は俯いた。一分くらいじいと突っ立ったあと、思い切ってドアを開けた。

 変わらない。昨日の君の部屋と何一つ変わらない。
 漫画が散らかって、ラジオは相変わらずつけっぱ。カーテンはいつだって閉まり切ったまま。
 私がいつも朝にカーテンくらい開けなさいって言ったのに、聞いてくれたことなんてなかった。

「……ほら、いい天気だよ」

 窓を開けると、カーテンがふわりと靡いた。ふわっと春の匂いが鼻孔をくすぐる。泣きたくなる泣きような匂いだった。
 君の部屋を片付けようと、私は地面に散らかった漫画を手に取る。君が面白いと勧めてくれた漫画だった。君の言葉一つ思い出すたびに、ぎゅうっと心臓を握りつぶされるような気がする。
 早く読んで、君と一緒に語り合いたかった。面白かったよ、って。
 パラパラとページを少しめくってみる。君が好きそうな、バトルもののお話。私は少女漫画しか読まないって言ってるのに、こういうのばっか勧めてくる。でも、そんな君が好きだった。

「もう、一緒に読めないよ」

 ぽたぽたと漫画に雫が落ちた。
 私はいつの間にか手に持っていた漫画を落として、手で顔を覆っていた。
 ひくっとしゃくりをあげる。君の匂いがするこの部屋が、君との思い出の詰まったこの部屋が、
 ただ、苦しくて、愛おしくて、悲しい。

「行かないで、」

 君にはもう聞こえない。私がどれだけ君が好きで、君と一緒にいたくても。もうそれは叶わないから。
 
「ちゃんと、恋人になりたかったのに」

 君が願ったから。好きじゃなくてもいいからって。側にいてほしいってってそんなふざけた告白をしてきたときに、私はどうしてちゃんと受け入れてあげなかったんだろう。私も好きだよって、そんな簡単なことをどうして伝えてあげられなかったのかな。

 こんなにも好きで、こんなにも愛しているのに。

 

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