複雑・ファジー小説

【本編始動】SoA 青空に咲く、黒と金
日時: 2019/04/24 00:28
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=996.png

〈青空に咲く、黒と金〉――黒銀の聖王&錯綜の幻花

 国を救いたい、国を守りたい。若き王の胸に宿るは、熱き思い。
 彼は愛する祖国を、武力で侵略されてしまったから。
 そんな彼の異名を、黒銀の聖王といった。

 長く生きられなくても、だからこそ、精一杯生きたい。若き族長の胸に宿るは、ささやかな願い。
 彼は二十歳まで生きられないという、宿命を背負っていたから。
 そんな彼の異名を、錯綜の幻花といった。

 絡み合う運命は、王と族長を出会わせる。そして二人で挑んだ数多くの難題。育んだ絆はいつしか、互いをかけがえのない存在へ、相棒へ、半身へと、変化させていく。
 出会いの果てには、必ず死が待っていると、知っていても――。
 これは、島国、神聖エルドキアに伝わる英雄譚。黒銀の聖王と錯綜の幻花の歩んだ、歴史に連なる足跡の物語。

「俺は、王だから。この国を、絶対に守りぬく」
「僕は幻の花。美しく咲いて、美しく散るのさ」
 青空に咲く、黒と金。青空に咲いた、聖王と幻花。
 描かれる美しき物語を、ご覧あれ。

*****

 以前に書いた作品をリメイクしたうえ、本編の前日譚に組み込みました。ファンタジーです。私、流沢藍蓮の主力シリーズの一作品です。
 本編が始まるのは前日譚が終わった後です。
 基本的に二日に一回更新、他の小説群と同時更新していきたいです。三本連立になってしまった……。
 物語本編は序盤、二人の主人公それぞれの物語に分かれます。side.Rは黒銀の聖王、side.Eは錯綜の幻花の物語です。二人が出会ってから初めて、真に本編が開始したと言えます。それまでは、一応「本編」と書いておりますが、藍蓮からすれば前日譚みたいなものです。
 では、前日譚から、開始!

*****

 Contents

前日譚 偽りの救世主(メサイア) >>2-12
 序章 「救世主」の使命 >>2-4
 二章 幻の花 >>5-7
 三章 破滅の果てに >>8-12

本編 青空に咲く、黒と金 >>13-
 第一章 崩れ落ちていく――side.R >>13-18
 第二章 罪色の花――side.E >>19-
 第三章 出会うべくして >>
 第四章 始まる物語 >>
 第五章

*****

 同じ字をたくさん使うと荒らし扱いになってエラーが出るらしい……。私、同じ字をたくさん使うのも視覚的な表現だと思うのですがね。
 >>10には同じ字をたくさん使って一種の視覚表現を行っていますが、たまにそっくりさんを混ぜています。それはエラーで撥ねられないためにあえて混ぜたものであり、誤字ではありませんのでご注意ください。
※URLは前日譚の表紙……の、つもりです。

 ※復帰記念に再会しました!
 ……当分は以前に書きためていた分を放出することになりそうです。

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Re: 【本編始動】SoA 青空に咲く、黒と金 ( No.26 )
日時: 2019/05/09 11:44
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.


 宣言を発し、ラディフェイルは奪われた旧王都で待つ。
 自分の味方になってくれる、優れた人材を。
 しかし事態はそう簡単には進まない。
「何が王だ、何が指導者だ、誰が害虫だ! 今だ今だ、今の内に、この王を名乗る不届き者を排除せよ!」
 彼の宣言に殺気だったアルドフェック民が、彼にその剣を向けた。やれやれとラディフェイルは溜め息をつく。
「やはりそう簡単にはいかないか……」
「当たり前だ! 死ね!」
 向かってきた剣を、
「……誰に刃を向けている?」
 薙ぎ払ったのはハインの剣。
 助かった、と特に感慨も込めずに行って自分の剣を抜き放つラディフェイルに、当然だろうとハインは返した。
「オレは闇の剣士ハイン、新たな王を守るもの。言っておくがその実力は、そんなに弱いものじゃないぜ?」
 そんなハインに、ラディフェイルは命じた。
「俺はいいからあんたはエルレシアを守ってくれ。自分の身くらいは自分で守れるが、エルレシアは剣も魔法も使えないんだ」
「了解です、陛下?」
 ラディフェイルの命令に、面白がるようにハインは答えた。彼がエルレシアを守るように彼女の前に立つと、エルレシアはハインのマントにしがみついた。怯えたように、エメラルドみたいな緑の瞳が動く。そんな彼女の頭を、ハインは優しくぽんぽんと撫でた。
 さて、とラディフェイルはアルドフェック民たちに言った。
「俺に刃を向けるのならば、俺も相応に戦うが?」
 その言葉を皮切りに、旧王都に残っていたアルドフェック民たちが一斉に彼らに襲いかかってきた。
 この場で民の信頼が試される。もしもこのとき誰も助けに入らなかったのならば、ラディフェイルは王として失格だったということになる。
 向かってきたアルドフェック民。切り結び、斬り飛ばし、ラディフェイルは応戦する。彼はエルドキアで一番とさえ言われたほどの剣の使い手、そう簡単には倒されないが……。
「加勢致しますぞ!」
 知らぬその声を聞いた時、ラディフェイルはとても嬉しかった。
「協力、感謝する。しかして、貴殿は?」
 ラディフェイルの隣で戦う初老の男性は、剣で相手を斬り飛ばしながらも答えた。
「私はヴィアン・カーディス! 先王の宰相をしていた者です! 参上遅れましたこと、大変申し訳ない所存にございます!」
「……あの、鋼の宰相が」
 ラディフェイルは驚いたように眉をあげた。
 彼は直接会ったことはなかったが、彼らの父が王をやっていた時代、「鋼の宰相」と呼ばれる宰相が国にいた。彼は実に見事に国を導いていたが、戦争が始まった直後に謎の失踪を遂げ、そのため先王エヴェルは道を踏み外したと言われる。その宰相の名は、ヴィアン・カーディス。
 消えていた理由はわからない。しかし生真面目な彼が国をないがしろにするくらいなんだから、余程のことがあったのだろうと人々は囁く。そんな、常に国の中枢にいた彼に、第三王子という、王位から離れたラディフェイルが、簡単に会えるはずもなく。だからラディフェイルの記憶にある限り、これが初対面のはずなのだが……。
「覚えておりますぞ。幼い頃の陛下は、大層腕白であらせられた」
 戦いながらもそんなことを口にする彼に、ラディフェイルは驚きの目を向けた。
「……以前に、会ったことが、あったのか?」
 ええ、ありますとも、と鋼の宰相ヴィアン・カーディスは頷いた。
「陛下が三歳くらいのときに、一度だけ。水面に映る月を取ろうとして池に落ちて、大層な風邪を引かれましたなぁ。その時は私が池に飛び込んで助けたのですよ」
「……覚えていないな」
 そうやって会話をしている内に。
 気がつけば向かってくる相手はいなくなっていた。
 当然だ、エルドキア一の剣の使い手に、武術も優れた鋼の宰相、そして闇神の変じたハインが相手とあっては、有象無象で倒せるわけもなく。どうやらアルドフェック民たちは王都から撤退したらしい。
「この程度か、脆い」
 呟いたラディフェイル。するとどこからか歓声が湧いた。
「新王様、万歳!」
「ラディフェイル陛下、万歳!」
 見ると町のあちこちからエルドキアの民たちが出てきて、万歳を言いあっているのだった。それを見て、呆れたようにラディフェイルは苦笑した。
「なんだなんだ、高みの見物か? 結局直接助けに来てくれたのは宰相だけだったじゃないか。皆、腑抜けになったものだ」
 恐ろしい圧政は、残された民から抵抗する気力すら奪ってしまったのかもしれないけれど。
 男や若者を奪われて。反乱を起こしてもすぐに潰され見せしめに残酷に殺されて。だから民たちは抵抗することを恐れるようになったのかもしれない。そんな民たちに、その目に歓喜を浮かべながらも、まだ少し怯えた顔をする民たちに、なだめるようにラディフェイルは言った。
「大丈夫だ、王がいる」
 そして彼は、改めて民たちに問い掛けた。
「ここに王は成り、王都は奪還された。さて、そこで問うが」
 その紫水晶の瞳が、きらりと光る。

「『エルドキア解放戦線』に参加してくれる、心ある者は――いないか?」

 アルドフェック民が、圧政を敷いていた民がいなくなった今度こそ。
 王都に残されたエルドキアの民たちは、我も我もと声をあげたのだった。
 ここに、王は、成った。

  ◇

Re: 【本編始動】SoA 青空に咲く、黒と金 ( No.27 )
日時: 2019/05/11 22:43
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.


「王が、立ったか。思ったよりも呆気ない治世だったな」
 アルドフェック王宮。面白がるように、皇帝ニコラス・アルドフェックは呟いた。そんな彼の前に控えるのは、まだ若い一人の男。灰緑色の髪に青灰色の瞳を持った辺境伯は、その日、皇帝から直々に呼び出されていた。
「フレイグ・アヌミス」
「はっ」
 名を呼ばれた若い男は、身を正す。
 そんな彼に、ニコラスは命じる。
「貴殿には『対エルドキア軍』を率いて、エルドキアの反乱を鎮め、こちらの支配を取り戻してもらおう。我はそなたを信じている。望むならば帝国の軍も貸すが?」
 皇帝の命に、フレイグは慎重に答える。
「かしこまりました。されど、軍を貸していただけるという申し出はありがたいのですが、私の軍だけで挑むのは駄目でしょうか」
 ニコラスは面白そうな顔をした。
「ほう、よかろう。ならば貴殿の軍隊だけで、エルドキアを支配してみせよ。我は期待しているぞ」
「はっ!」
 フレイグは床に頭をこすりつけた。
 彼が皇帝の申し出を断ったのには理由(わけ)がある。立派な辺境伯、統治の上手い辺境伯として周囲から称えられる彼は、信頼関係を何よりも大切にしていた。だから出会ったばかりの見知らぬ部下よりは、自分と深い信頼関係を結んでいる自分の部下たちを連れていった方が良い、そう考えたのだ。その間でしか通じない特殊な信号がある、特殊な合図がある。だからこそ。
 フレイグ・アヌミスは帝国の犬だ。しかし彼には彼の意思がある、彼には彼なりの意思があり、彼はそれにのっとって生きている。彼は愚かな人間ではない。だから、だからこそ、皇帝ニコラスは彼を対エルドキア軍隊長に任じたのだ。
 物語は、動き出す。時間は、待ってはくれない。
 神聖エルドキアに、新たな風が吹き込もうとしていた。

「行くぞ、皆」
 皇帝からの命令の内容を告げ、フレイグ・アヌミスは旅立ちの用意をする。そんな彼の隣には、赤い髪に桃色の瞳を持った、はつらつとした娘がいて目を輝かせていた。そんな彼女らを皆から一歩離れたところで、漆黒の髪に吊り目がちの赤い瞳を持った、冷めた少年が眺めている。
 赤髪の娘は嬉しそうな顔をしてフレイグの腕にしがみついた。
「やった、やったぁ! あのエルドキアだよ、あのエルドキアに行けるんだよっ!」
 あのな、と、そんな彼女を鬱陶しそうにフレイグは払いのけた。
「観光じゃないんだぞ、戦争に行くんだぞ、フレイア。その意味を取り違えてくれるな」
 わかってるよ、とフレイアと呼ばれた娘は答えた。
「たっくさん焼くんだよね、焼き尽くすんだよね。あたし、役に立てるかなぁ?」
 言って、彼女は右手を握りしめて、開いた。すると生まれる炎の輝き。
 フレイグ・アヌミスの妹フレイアは、優秀な炎使いなのだ。
 そんな彼女を若干不安げな目で見つつも、フレイグは先ほどから一言も言葉を発しない漆黒の少年に声を掛けた。
「リレイズ」
「…………」
 しかし少年は答えない、どころかそっぽを向いて腕を組んでいる。フレイグはそれでも言葉をつなげる。
「お前に活躍してくれ、なんて言わない。でも置いていくわけにはいかないからな、ついてきてほしいんだ、リレイズ」
「……僕は『リレイズ』なんかじゃ、ない」
 ようやく発されたのは拒絶の言葉。フレイグは疲れたように息をついた。
「まだ、心をひらいてはくれないのか」
「僕は傷付き過ぎたんだ。呼ぶなら呼べよ、僕の偽りの名を呼べよ。そう――“得体の知れない(アンノウン)”と」
 言って、少年は瞑目した。
 フレイグは大きくため息をつく。
「全く……こんなメンバーが私のメインの仲間なんて、気苦労が絶えない」
 フレイグは頭を抱えた。
 それでも、と彼はフレイアに、リレイズに、慈愛のこもった目を向ける。
「懐いてくれなくとも拒絶されても、私は皆を愛しているよ……」
 その思いが、届かない人がいると知っても。
「私たちは、家族だから」
 その言葉に、一瞬リレイズの肩がぴくりと動いた。しかし、それだけだった。彼は相変わらず皆を拒絶し続ける。
 こうしてこちらも、動き出す。

  ◇

Re: 【本編始動】SoA 青空に咲く、黒と金 ( No.28 )
日時: 2019/05/13 09:27
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.


 ラディフェイルが王として立ってから、半月。彼のもとにはたくさんの人々が集まり、ここに『エルドキア解放戦線』は成った。彼は副官をヴィアン・カーディスに定め、少しずつ自分の部隊の体制を整えていった。
 そんなある日のこと。
 偶然訪れた山、珍しい薬草があると聞いて、今後のために薬草を採りに行った森の中で、
 ラディフェイルは、見たのだ。
 全身から血を流して倒れる、金色の少年の姿を。
 その姿はボロボロで、洩れる息は今にも途絶えそうなほど弱々しかった。ラディフェイルはその少年を抱えあげた。彼の身体に少年の血が付いたが、そんなことを気にしてはいられない。彼はとっさに、この少年を助けなければ、と思ったのだった。この際薬草採りなんて後回し、助けられる命を助けることの方を優先するべきだろう。
 抱えあげて、ラディフェイルは気づいた。
「こいつ……アシェラル、か?」
 その背中に妙に浮き上がった二つの塊は、切り落とされた翼の残骸か。
 ラディフェイルは思い出す。最近あったらしい異種族狩り、アルドフェックによる本格的な侵略を。
 近いうちアルドフェックから「対エルドキア軍」なる部隊が来るという話をラディフェイルは小耳に挟んだが、だからこそ彼は思う。この異種族狩りは、これから始まる大きな戦いの、前哨戦なのだろうか、と。
 ラディフェイルは腕に抱えた少年を見た。まだ幼さの残る顔、そして不思議なくらいに軽い体重。
――こんな、少年が。
 こんな少年が、こんな目に遭うなんて、と、彼はアルドフェックに対する憤りを感じた。
「……とりあえず、拠点に運んでいくか」
 ラディフェイルは、少年の傷に障らないように慎重に彼を運んでいく。
 彼は知らない。少年は、ただの不運な少年ではないことを。少年はある意味、自ら望んでこの場にいるのだということを。そして少年の背負った大きな罪のことも、彼が大きな立場にいるのだということも、何も知らない。
 ただ、助けたかったから。
 ラディフェイルの動機はそれだけだった。
 こうして二人の運命は、絡みだす。

  ◇

 ラディフェイルは、少年の傍にいた。少年の傍に寄り添って、少年が目覚めるのを待っていた。
 あの後。事情を説明したラディフェイルは、「折角助けたんだ、目覚めるまで傍にいる」と皆に言い、周りの者もそれを承諾した。全身ボロボロだったアシェラルの少年は手当てを受け、今は清潔なベッドに寝かされて安らかに寝息を立てている。切り取られた翼を治すことはできなかったが、体調は少しずつ回復しつつあるようだ。
 ラディフェイルが少年を助けてから一週間後。そんな少年はついに、目を覚ました。
 目を覚ました少年は、今にも泣きそうな顔をしていた。
 その顔を見ると、自分の中に不思議な感情が湧きあがってくるのをラディフェイルは感じた。
 初対面のはずなのに。
 まるでこの少年が、出会うことを運命づけられた、宿命の半身であるかのような――。
 少年の唇が、動いて言葉を紡ぎ出す。
「……ただいま」
「お帰り」
 初対面のはずなのに。少年のその言葉に、自然と返したラディフェイル。
 うるむ瞳で自分を見つめる少年に、ラディフェイルは不器用に笑いかけた。するとその笑みにつられるようにしてエクセリオは笑った。笑って、笑って、笑った。嬉しそうに。心からの歓喜をその顔に滲ませて。
 その顔はとても晴れやかだった。
 傷だらけの少年は、掠れた声で、名乗る。
「僕は翼持つ民アシェラルの族長、エクセリオ・アシェラリム」
 ラディフェイルは、知らない。少年が「族長」を自称できるようになるまで、どれほどの悩み苦しみがあったかなんて、知らない。
 そんな少年に、ラディフェイルは堂々と、誇り高く名乗ったのだった。
「俺は神聖エルドキアが王、ラディフェイル・エルドキアス」
 少年は、知らない。ラディフェイルの「王」という名乗りに、どれほどの思いと祈りが込められているのかなんて、知らない。
 ラディフェイルは少年に手を差し出した。少年はその手を握った。
 握った手から、感じたお互いの体温、温かさ。
 そして、安心感。
 出会うべき相手に、ようやく出会えたのだということから生まれる、安心感。

「初めまして、若き族長」
「初めまして、若き王様」

 笑い合えば。穏やかな空気が二人の間に広がった。

 エクセリオの意識は、現実へと戻された。


【第三章 出会うべくして 完】

Re: 【本編始動】SoA 青空に咲く、黒と金 ( No.29 )
日時: 2019/05/15 17:33
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.


 エクセリオの回復は遅い。そしてラディフェイルも王であるがために暇ではない。いつでもエクセリオについていられるわけではない。それでも二人は運命に引かれるように、長い時間を二人で過ごした。
 そしてやがて、時が来る。
 エクセリオが助けられてから、三週間は経っただろうか。
 ある日彼は自らラディフェイルの天幕を訪れて、こう言った。
「……少し話があるんだけれど、聞いてくれるかな?」
 その頃になればもう大方傷は治って、彼は自力で歩けるほどには回復していた。
 失われた翼は、元に戻ることはないけれど。

「お暇をしに来たんだ」
 そう、少年は言って頭を下げた。
「最初に言ったろ? 僕はアシェラルの族長なんだって」
 僕を探している人がいるから、さ、と彼は言う。
「傷が治ったのなら、帰らなくちゃ。みんなみんな、心配してる」
 そうか、とラディフェイルは頷いた。
 少年は族長だ。ただの、迫害された異種族だけってわけじゃない。彼には彼の帰る場所があり、それを邪魔することはできない。
 出会いに不思議な運命を感じた二人。それでも、別れる時は呆気ない。
「今までお世話になりました」
 笑って、
 少年が天幕を出ようとした刹那、
 爆音。
「エクセリオッ!」
 叫び、ラディフェイルは咄嗟に少年を抱き抱えて爆風から守る。人々の悲鳴、焦げ臭いにおい。
 ラディフェイルは自分の背中がべたつく液体で濡れているのを感じたが軽傷と判断、抱きかかえた少年を見る。
「無事か? 待ってろ、今何があったか確認しに行く」
「大丈夫。ん、僕も行くよ。僕の力、きっときっと役に立てる」
 走りだしたラディフェイルを少年は追いかける。
 ラディフェイルはヴィアン・カーディスがいるはずの天幕へ向かった。しかしそこはもぬけの殻で、襲撃の跡だけがあった。
 ラディフェイルは舌打ちをする。
「襲撃か? アルドフェックの手の者か? くそっ!
ヴィアン、ヴィアン! 鋼の宰相! いるのならば返事を寄越せ、今すぐにだッ!」
鬼気迫る形相で叫んだラディフェイル。そこには王者の風格があった。
「ここに、陛下」
 答える声。天幕の横の布が大きく開き、そこから初老の男性が現れた。
 流石は鋼の宰相、何かあったときに備えて隠れ場所を用意していたらしい。
 ラディフェイルは問う。
「ヴィアン、一体何があった?」
「襲撃ですね。アルドフェックの者かと。内通者がいた様子です」
「……内通者とは、エルドキアも落ちぶれたものだなッ!」
 忌々しげに、舌打ちを一つ。
 そうしている間に、ヴィアンの天幕の周辺にラディフェイルの部下たちが集まってくる。中には負傷した者もいるが、死者はいないようだ。
 ほっと息をついたのも、束の間。
「良くない知らせがあるぜ」
 ハインがぼそりと呟いた。
「エルレシアが、見当たらない」
 今回の襲撃はエルレシアが目標だったのかもしれんな、と。
 それの示すことは――。

Re: 【本編始動】SoA 青空に咲く、黒と金 ( No.30 )
日時: 2019/05/17 08:01
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.


 翌日、書状が送られてきた。書状の末尾には「帝政アルドフェック辺境領主 フレイグ・アヌミス」と書かれている。その人物が書状の送り主なのだろう。書状の裏には地図まであった。
 書状にはこう書いてある。。
『エルレシア・エルドキアスは預かった。返して欲しかったのならば王自らが我らを訪ねていただきたく。尚、王以外の者が現れた場合、もしくは王に随伴者がいた場合、エルレシア・エルドキアスの安全は保証しない』
 要は。
「……陛下の命でもってエルレシア様を救えと? そこに行ったら十中八九、陛下の命はないでしょうに」
 難しい顔でヴィアンは言う。
 しかしラディフェイルにはエルレシアを奪われてはならない理由があった。
 闇神の奇跡で仮の命を得たラディフェイルは、“この戦争が終わったら”死んでしまうさだめ。彼は王になれるのかも知れないが、世界が平和になった暁には、彼は死んでしまう。彼はあくまでも一時的な王にしかなれないのだ。
 エルドキア王族の生き残りを考える。ラディフェイルの最愛の兄セーヴェスは民衆に殺され、次兄クレヴィスも失踪して行方不明。父親エヴェルは何者か(恐らくセーヴェス)に殺されて、ラディフェイルは早死にする。
 そうなると残されるのはエルレシアだけだ。エルレシアだけしか、残った王族はいないのだ。
 自ら位を捨てて自己保身に入ったクレヴィスなど、戻ってきても誰も王として認めてはくれまい。
 エルレシアしかいないのだ、彼女しかいないのだ。この国を最後まで率いることのできる人物は。
 そのエルレシアが、奪われた。それは大問題である。
 難しい顔をするラディフェイルに、
「……いいアイデアがあるんだけれど」
 掛けられた声が、ひとつ。
 金色の少年が笑っていた。自分の周囲に幻影を纏わりつかせながら。
 ラディフェイルは首をかしげる。
「お前、帰るんじゃなかったのか」
 ううんと少年は首を振った。
「こんな事件の真っ最中に帰るのなんて後味が悪いよ。命を助けてくれた人なんだ、お礼くらいはしないとね」
「……ありがたい。で、そのアイデアとは?」
 少年は笑う。無邪気に、嬉しそうな顔で。
 彼は言うのだ。
「あのさぁ、その話だけど、偽者を向かわせても、偽者ってばれなければ何の問題もないんだよねぇ?」
「……ああ、そうだが。しかしそう簡単に偽者など」
「できる」
 言って、エクセリオはその手をさっと横に振った。
 次の瞬間、
 現れた幻影。
 最初は実体がなかったそれは、見る見るうちに実体を帯びて。
 気が付いたらそこには、二人のラディフェイルが立っていた。
 そう、まさにラディフェイルが二人いるとしか思えない。どれか幻影か最初から知っていなければまるで見わけがつかないレベルで、その幻影は正確にラディフェイルの姿を映し取っていた。
 ラディフェイルは驚きの声を上げる。
「お前は……幻影魔導士だったのか!」
「自称『幻想使』ってね」
 得意げな顔でエクセリオは笑う。
「僕は『実体のある幻影』使い。この幻影は触れても消えないし、しっかりと触った感触があるんだよ。すごいでしょ?」
 これなら騙せるかな、と彼は首をかしげる。
「もちろん、喋らせることもできるよ。もっとも、僕はまだ出会ったばかりであなたのことをよく知らない。指示がないと騙し切れるのか謎だけれど」
 ラディフェイルは驚きの目でエクセリオを見た。
 ヴィアンもまた、その目に驚きを浮かべていた。
 エクセリオは笑った。
「アシェラルの族長は、一族の中で最も魔法の才に優れた者しかなれない。僕がたった14歳で族長やってるのも伊達じゃないんだよ?」
 けれど。
 その笑みには喜びばかりではなく、どこか後悔のような暗い感情も垣間見えた。
 ラディフェイルは知らない。エクセリオの今のその座が、「救世主」と呼ばれた少年を蹴落として得られたものであることを。
 「族長」と名乗るたび、少年の中に迸る胸を抉られるような激しい痛みを、ラディフェイルは知らない。
 深く訊ねはしない。過去に何があったにせよ、それはエクセリオの問題だから。
 代わりにラディフェイルは頷いた。
「その能力は大変便利だな。それの使用を前提として、エルレシア奪還作戦を練ろう」
 辺境領主フレイグ・アヌミスの実力は未知数だ。
今後のためを思うのならば、可能な限り本人が出向かない方がいいだろう。
そのための囮(デコイ)だ、そのための幻影だ。
ラディフェイルの頭が高速で回り始める。
このままでは終わらない、終わらせない。
「エクセリオ、感謝するッ!」
 仲間に無事を知らせるのが最優先のはずなのに、時間を割いて協力してくれた若き族長。
 その思いを無駄にしないためにも、ラディフェイルは動き始める。

  ◇

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