複雑・ファジー小説

×××
日時: 2018/10/09 22:35
名前: 鈴原螢

 Twitter @jN2omY9lfpM1Smk
 鈴原螢。なんだこのだっさい名前。変えよう。ということで「雨飴」にします。よりださくなりましたね。

 世界の中心で愛を叫ぶなら、何への愛を叫びますか?

 今度こそは完結させるぞ〜

 書いては消して、書いては消してを繰り返しています。気に入らないものは消したいんですよね。

 ◇

 壮真 千暉 (そうま ちあき)

 水野 南 (みずの みなみ)

 曹我 仁ノ (そうが にの)

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Re: ××× ( No.2 )
日時: 2018/10/09 22:34
名前: 鈴原螢

 
 ─ねえ、知ってる?─



 ─真夜中の午前2時、張り出し窓の幽霊─




 「なあ、今日行ってみないか?」
 「やだ」

 私はそう宣言するように言ってあんパンを一口食べた。購買で適当に買ったやつだけど、108円という値段のわりには美味しい。
 雲ひとつ無い快晴。暑くもなく寒くもなく、丁度いいくらいに涼しい。そよ風が私のひとつにまとめた髪をさらさらと揺らす。この屋上は私と仁ノのお気に入りスポットだ。ほとんど私達以外に人がいないし、目立ちもしないのでお昼休みは毎日のように通っている。

 「即答だな、理由は?」
 「理由もなにも、そんなの嘘に決まってるじゃん」

 全く馬鹿馬鹿しい、と私は呆れて溜め息をひとつついた。自分の隣に座るこの幼なじみが、まさかそんな噂を真に受けるとは思わなかった。
 真夜中の午前2時、張り出し窓の幽霊。校内では有名な噂だ。いつからあるのか、誰が流したのか、それらについてはこれっぽっちも知らないが、内容だけはこの学校の生徒である以上、自然と耳に入ってくる。
 エメラルドグリーンの屋根にレンガ造りの壁。そんな西洋館を模した我が校舎には、屋上へと続く階段の踊り場にひとつだけ、張り出し窓があった。しかも校舎が建てられたのは第二次世界対戦の直後なのだとか。
 そういった普通の学校とは違った面白いネタがあるからか、幽霊や七不思議などの噂は絶えず、肝試しなんかがよく行われていた。

 「そうは言ってもな、もうすぐで壊されちゃうんだから最後に一度くらい……な?」
 
 今私達が生活している校舎は、建てられてから64年もの歳月が流れ、いろんな所にガタがきていた。ドアはすんなり開かないし、木製の床は踏みしめる度にミシミシと軋むし、壁にはヒビが入っている。当然、近々建て替えるということが決まった。
 確かに、この校舎と過ごせる時間は残り僅かだ。最後に噂を確かめてみるのもいいかも知れない。でも、それでも。

 「もし本当に出てきたらどうすんの」
 「なんだお前、ついさっきまで嘘だって言ってたくせに」

 それは…だって、ねえ?そうでも言わなきゃ仁ノやめそうになかったじゃん。というか、私がお化けとかそういう類いのものを苦手だと知っていながら、どうしてそんな誘いを持ち出すんですかねえ。

 「大丈夫だよ千暉、俺がいる」
 
 そう言って仁ノはドヤ顔で胸を張って拳でトン、と叩いて見せた。
 どうしてそんなことを軽々しく言えるんだろう。お世辞にも体格はたくましいと言えないし、人より卓越してできることなんてほとんど何も無いのに。あるとすればちょっと顔がいいことくらい。でもお化けを退治するのには少しも役に立たない。なのにその謎の自信はどこから湧いているのだろう。

 「……うん」

 うんってなんだ、うんって。もっと「お前じゃ頼りになんねーよ」とかあっただろう自分。実際、全く頼りにならないっていうのに。どうして私は頷いてしまったんだろう。

 「じゃあ今日の午前2─」

 仁ノがいい終える前に、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。リーンゴーンと低く凛々しい音色が辺りを包み込む。私は急いで残ったあんパンを口の中に無理矢理詰め込みながら、屋上を出た。私と仁ノはクラスが違うから途中の廊下で別れる。別れ際、

 「今日の午前2時、張り出し窓集合な」

 仁ノはそう言って2年A組の教室に入っていった。

Re: ××× ( No.3 )
日時: 2018/10/10 19:08
名前: 鈴原螢

 一段、また一段と、床を軋ませながら階段を上る。毎日のようにのぼり慣れた階段のはずなのに、真夜中というだけでこんなにも違うものなのか。携帯の灯りで足下を照らしながら、ゆっくりと歩を進めていく。怖くない、と言ったら嘘になる。だから大丈夫、幽霊なんているわけがないと自分に言い聞かせるしかなかった。
 小さい頃に見た、貞子の真っ黒な長い髪の隙間から覗かせる恐ろしい顔が、今でもトラウマになっている。おかげで幽霊と聞くと無意識に貞子を連想するようになった。貞子が出てくる映画なんて小さい頃の私でも見たくなかったはずなのに、なんで見ちゃったんだっけ。あれ、確か仁ノが無理矢理私を映画館に引きづり込んだんじゃなかったっけ。

 あとどれくらいのぼればいいのだろう。かなりのぼった気がするが。足下しか見ずに、ずっと幽霊のことを考えていたから間違えたのかもしれない。携帯の灯りで前方を照らすと、屋上に入る扉の錆びたドアノブが見えた。ああ、やっぱり。踊り場はもうひとつ下だ。降りよう、私がそう思った瞬間、

 「カア、カア」
 「ひっ」

 突然聞こえたカラスの鳴き声に私は驚いて足を滑らせてしまった。体が後ろに倒れていく。このままいけば後頭部を階段の角に強く打ってしまうだろう。私は待ち受ける衝撃を想像してぐっと目を瞑る。ああ、やっぱりこんなとこ来なきゃよかった──

 「………………」

 しかしいつまでもたっても痛いという感覚は襲ってこない。その代わりに太ももの裏と背中辺りに確かな生温かい感触を感じた。おそるおそる目を開けると、目の前には顔が。それも翠の瞳に高い鼻、薄い唇、白い肌という、整った綺麗な顔だ。

 「………………?」

 どういうことだ。私は階段で足を滑らせたっていうのに、痛くないどころか美しい顔まである。全く状況が理解できない。仁ノ以外に来ている人が居たのか、それとも、まさか、これが噂の幽霊なんじゃ。

 「大丈夫?」
 「ひっ」

 しゃ、喋った。いや、人間だから当たり前なんだけど。
 すると幽霊(仮)はゆっくりと丁寧に私を床に降ろして立たせた。そこで初めて自分がお姫様抱っこというものをされていたのだと気づいた。

 「君、階段から転び落ちそうになってたんだよ?」
 「え、あ、えっと、その」

 改めて考えるとお姫様抱っこってなんか恥ずかしい。それも見ず知らずの赤の他人にされるだなんて。私は羞恥心にさいなまれてまともな返事が出来ないでいた。
 そして初めて自分の視界に幽霊(仮)の全身像が映る。我が校の制服、黒を基調とした生地に白のラインが入ったセーラー服を着て上履きを履いている。肩まで無防備に伸ばされた金髪、私とあまり変わらない背丈。はっきりわかる、美少女だ。
 ん?待てよ、同じ制服ってことはこの学校の生徒?学年によって色違いのリボンは青……つまり3年生か。この子、本当に幽霊なのかな。金髪に翠の瞳でここまでの美少女っぷりなら学校で噂になるはずだが、聞いたことがない。じゃあ卒業生?いや、卒業生がどうしてまだ母校にいるんだよ。うーん、ますますわからなくなってきた。
 とりあえず怪我をしていないだけましだと思おう。

 「ねえ、さっきからぼーっとしてるけど、大丈夫?」
 「え、あ、はい、大丈夫です。助けてくれて有り難うございました」

 私はそう言って深く頭を下げる。この後どうすればいいんだろう。仁ノを待たないといけないのか。全く、あいつ何してるんだ。午前2時はもうとっくのとうに過ぎてるぞ。私をこんなところに一人で待たせるだなんて、来たら説教してやる。

 「ねえ、どうして君こんなところにいるの?」
 「えっと、その、噂を確かめに……」

 そんな馬鹿なことするんじゃない、今ならそう怒られても文句は言えない。遊び半分で来て危うく大怪我しそうになったんだから。目の前の幽霊(仮)はなんて言うだろう。大声で怒鳴り付けるかも知れない。先生に言いつけるかもしれない。ああ、私の人生詰んだ。せめて絶対に仁ノは道連れにしてやる。とにかく今は誠心誠意を見せて謝らなきゃ。

 「ごめんなさい!もう二度とこんなことにしないから」
 「ぷっ、あははははははっ!」
 「……………??」

 急に幽霊(仮)は腹を抱えて大声で爆笑し始めた。静かな校舎に笑い声が響き渡る。なんだこの人。さっきの会話のどこに笑える要素があった?笑いのツボは人それぞれといえど、さすがにおかしいだろう。私何か変なことしたかな。
 幽霊(仮)は決して短くはない間笑い続け、やっと収まった頃には、目にはうっすらと涙が浮かんでいたし、笑いすぎて息が苦しそうだった。幽霊(仮)は笑顔のまま、涙を拭いながら話す。

 「あー面白い!こんなに笑ったの久しぶりだよ」
 「は、はあ……」
 「そうか、そうか、幽霊か。あははははっ、そんな風に呼ばれてたんだ、僕」
 「………へっ?じゃあ…」
 
 幽霊(仮)はにっこりと口を三日月形に歪ませ、微笑んだ。張り出し窓から吹く夜風が金髪をさらさらと揺らす。月光に照らされた踊り場で、幽霊(仮)は青いリボンを一撫でして言う。

 「残念だけど、僕は幽霊じゃないよ。幽霊の正体は僕だけどね」

   

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