複雑・ファジー小説

才能売り〜Is it realy RIGHT choise?
日時: 2018/08/25 11:30
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

 あなたは今、満ち足りていない。あなたは今、心のどこかに「欠け」を持っている。
 そんな中で、もしも、もしも、その「欠け」をあなたの才能と引き換えに補うことができるのならば。
――あなたは「欠け」を補う代償として、一体何を差し出しますか?

 「才能屋」と呼ばれる店と、そこを訪れる人々の、「才能」をめぐる物語。

  ◆

Contents
 Case1 夢喪失ワーカホリック >>1-2
 Case2 「美しい」の裏に待つものは >>3-6(※若干のR要素あり)
 Case3 七夕綺譚――やさしきいのちのものがたり >>7-13
 Case4 あと一歩の勇気 >>14-16
 Case5 Perfect Virtue >>17-

 才能売り オーバーチュア >>

  ◆

*タイトルの字数制限によりあえてスペルミスします。
 本当は「Is it really RIGHT choise?」ですからね!

 更新は不定期です。ストック尽きたら一気に遅くなる……。
 というかCase5以降話が浮かばないので、Case5の更新終わったらペースが下がります。その前にまた一話書ければ別ですが。

*****

あてんしょん!

 私は中身のないコメントなんて要りませんよ?
 コメントは大歓迎です。ただし「小説面白かった」だけはやめてください。面白かったのならばどこがどう面白かったのかしっかり教えてください。でなければ迷惑です。全然嬉しくありません。
 あと、「Case」の途中のコメントはお控え願います。話の途中でコメントがあるって、読みにくくありませんか?

Page:1 2 3 4



Re: 才能売り ( No.15 )
日時: 2018/08/21 08:10
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

  ◇

 川島さんのことが気になって、気が付いたら川島さんを見てる。結構重症だとは思うけれど止められないこの思い。テスト前なのに。うーん。
 そんなコンディションで学校のテストを受けた僕。結果はどうだったのだろう。数学は得意な方だからまだ自信があるけれど、世界史の暗記はあまり手をつけなかったから赤点取らなければ万々歳だ。古文、現代文は平均的かもしれないけれど、記述で落とし過ぎたかも知れない。もっと記号問題が欲しいと願うのは贅沢なのだろう。
 テストが終わってテスト明け、帰ってきた結果を見て僕は落胆した。数学以外みんな平均以下で、世界史は赤点だから追試だと? 勘弁してくれよぉ。
 これもすべて恋の病が悪いんだ、恋の病のせいなんだと僕は勝手に結論付ける。このままじゃまずいぞ、進学が危うくなるってばよ。
 だから、僕は才能屋とやらに行くことにしたんだ。あと一歩の勇気、あと一歩の勇気だって! それさえあれば僕は僕は僕はぁー!
 あげられる才能、それは何だろう。僕は壊滅的なテスト結果の残骸を眺める。世界史……二五点、現代文……四五点、古文……四〇点、でも数学だけは八〇点。数学だけが何故かいい。ならば数学って僕の才能じゃない? とか思いあがったことを考えてみるけれど、これって通用するのかな。でも僕にはこれしかないんだよなぁ。
 悩み悩み考えながらも、僕は気づけば戸賀谷行きの電車に乗っていた。案ずるより産むが易し、とりあえず行動してみようかなぁ。
やがて、「戸賀谷―、戸賀谷―」とアナウンスが入って僕は才能屋のある町に着く。プリントした地図を頼りに十分くらい歩くと、見えてきたのは木造りの店。
「才能屋 あなたにお好きな才能売ります! 支払いはあなたの才能で」
 本当かぁ? と思いつつも、僕はその店の扉を開けてみることにした。扉を押し開けると、チリンチリンと風鈴みたいな澄んだ音がして、同時に爽やかなハーブの香りがした。
「ようこそ、才能屋へ――ってまた高校生? いや別に僕は文句あるってわけじゃないんだけど、大人は来ないのかなぁ。あ、いや、こっちの話だよ」
 中にはいると、少し奥に木でできた大きなカウンターがあって、その向こうに優しそうな青年が座っていた。
 青年は、名乗る。
「やぁ、僕は外道坂灯、この店のあるじたる『悪魔』さ。君は何の用で来たのかな?」
 穏やかで明るい笑顔。その笑顔に、僕の悩みが自然に口から出てくる出てくる。
「えっと……勇気が、欲しいんです」
 僕は悩みを口にする。
「僕には好きな子がいて、その子に告白するためのあと一歩の勇気が欲しいんです。僕はどうしようもないヘタレで奥手な人間なので、その勇気が出せなくて……」
 才能屋さん――灯さんは、頷いた。
「君が望むのはあと一歩の勇気、と。じゃ、代わりに君は僕に何をくれるんだい?」
 それについてはさんざん考えたけれど。僕があげられるのは、一つしかないんだ。
 だって僕は平々凡々な高校生だよ? 特殊な才能なんて何一つ持ってはいないさ。――周囲の人よりほんの少し、数学ができるってことをのぞけば。行きの電車の中で色々と考えたんだ。
 だから僕は言った。
「数学の才能を」
「……へぇ?」
 軽く眉をあげた灯さんに、僕は弁解するように早口でまくし立てる。
「いや別に僕は平々凡々な普通の男子高校生で特殊技能や才能なんて何一つ持ってはいないんだけれどでも数学だけは人並み以上にできてだからそれを人並みの水準に戻せば僕の望む『あと一歩の勇気』の対価としてふさわしいかなとか思って僕は」
「わかったわかった。いいよ、その条件で引き受ける」
 灯さんは、優しく笑って僕の言葉を遮った。僕の顔がぱあっと明るくなる。
「本当ですか? ありがとうございます!」
「じゃ、近くに来てくれないかな。僕は大きな怪我を負ってうまく歩けないのさ。君から近寄ってくれると助かるなぁ。才能の交換には相手の額に触れている必要があるから、その距離まで近づいてね」
「はいっ!」
 僕は頷き、才能屋さんの招きに従って彼に近づく。「これくらい?」「もうちょっと」
 そんなやりとりを交わし、僕はちょうど良い位置まで近づいた。
「じゃ、始めるよ……。動かないで、そのまま」
 灯さんは、カウンターから伸ばした手を僕の額に当てた。何なのだろう、よくわからない、言葉ではうまく説明できないような妙な感覚が僕の中を吹き荒れる。僕は身体を固くして、しばらくの間それに耐えた。
 やがて、
「終わったよ」
 灯さんの声。
「明日、その子に告白してみなさい。きっとできるはずだよ。で、君のちゃちな才能はしっかりともらったからね? 時間が経たなければ僕のしたことが本当なのかはわからないだろうけれど……。とりあえず、告白してみるんだね?」
 僕は、頷いた。
 正直、あまり実感がないのだけれど。
「はい、ありがとうございました!」
 礼儀正しくお礼を言って、僕は店から立ち去った。

  ◇

Re: 才能売り ( No.16 )
日時: 2018/08/22 14:42
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

  ◇

 翌朝。僕は教室で川島さんに出会った。その日のその時間はなぜか僕と川島さんの二人きりしか教室にいなかった。まるで神様が定めたみたいな運の良さ。
 川島さんの前に立つと、僕は緊張で何もできなくなる。緊張しすぎて喉が渇く。言葉がまるで出なくなってしまうんだ。それなのに。
 あと一歩の勇気。今、川島さんの前に出た僕は、ようやく告白の一言を言えるようになった気がした。
「……川島、さん」
 勇気を振り絞って声を掛けると、スマートフォンをいじっていた彼女は、「どうしたの?」と僕に声を掛ける。その明るい笑顔、向日葵みたいな明るい笑顔、それでいて鈴蘭の花みたいに無垢で穢れない綺麗な笑顔に、僕は恋したんだ。
 振られてもいい、振られてもいいさ。せめてこの気持ち、伝えられたなら。
 僕は大きく息を吸い込んで、川島さんに言った。
「あなたのことが好きです! お願いです、つきあってください!」
 ……言えた。
 これまで、言えなかった言葉が。
 「好きです」たった四文字の、簡単な言葉が。
 僕の持てなかった、あと一歩の勇気。才能屋さんの奇跡は本物だった。
 僕は期待を込めた目で川島さんを見た。川島さんは呆気にとられた顔をしていたが、やがて静かに首を振った。
「ごめんね、わたしには好きな人がいるの」
 ……振られた。
 それは覚悟していたことだけれど、やはり振られると、悲しい。
 それでも、僕の心はどこか晴れやかで、さわやかで。
 胸のつかえが取れたような気が、したんだ。
「……そうですか」
 僕は川島さんの答えに頷いた。川島さんは慌てて僕に言ってくれる。
「べ、別にあなたが嫌いだから振ったんじゃないからね! あなたのことも、嫌いじゃないの。でもわたしには、他に好きな人がいるんだ。ごめん、本当に、ごめん」
 そんな彼女に、僕は笑顔で首を振った。
「謝らなくていいよ。僕こそ、無理言ってごめん」
 そして僕は教室の、自分の席に着いた。僕の席と川島さんの席は遠い。僕も川島さんもお互いに気まずくそっぽを向いて、それぞれのことに熱中し始めた。
 そんな教室に、騒がしい男子が、一名。
「うん? 風間じゃーん! うっひょぉ、川島さんと二人きり? 告白したの? したの?」
 井上が目をきらきら輝かせて僕を見ていた。したよ、と僕は笑って返す。
「昨日、才能屋さんに行ってあと一歩の勇気をもらった。だから、できたんだ。結果は振られたけれど……どうしてだろう、何故かすがすがしい気分」
 これまでは、気持ちを知らないから、川島さんのことを手の届きそうな花かもしれないと思っていた。手の届きそうな花、でも手を伸ばしても届かないからじれったくなって焦って気持ちが穏やかじゃなくなる。でも今は、川島さんが手の届かない花、高嶺の花だとわかってしまった。いくら頑張っても川島さんの心は別の人の方を向いているから、僕には手が届かない。でも、それでも、川島さんを好きという気持ちは変わらない。手は届かないけれど、見ることはできるから。僕は川島さんへの恋心を抱いたまま、手の届かぬ花と知りながらも彼女をそっと愛するのだろう。それも恋だ、それも愛だ。そんな恋もある、そんな愛もある。
 告白して、告白できて、僕の心は吹っ切れた。だから今――こんなにも、すがすがしいんだ。
 そんな僕を見て、井上は嬉しそうに目を細めた。
「風間、良かったじゃーん。吹っ切れたんだ、これで生活安泰?」
「代わりに数学の才能を捨てたけれどね」
「え、マジ? マジですか!? じゃ、俺、もう勉強教えてもらえないじゃん!」
 がっかりする井上に、僕は明るい声で言った。
「でもこれでちょうどいいのかもしれないよ。何もかも人並み、全てを決めるのは努力! 心のつかえが取れた今、僕はなんだってできる気がする。数学の才能を失った? ならば努力で埋めればいいのさ。努力した人は何もしない天才を、往々にして上回るものなんだよ、井上」
 そう。ちょっとした才能を失ったからって、へこたれるようなことじゃない。ちょっとした才能の分は何倍もの努力で補えばいいんだ。
「だからこの結果は、僕は勇気をもらって、何も払っていないのと同じこと。払った分は取り戻せるもの。才能屋って素晴らしいね! 紹介してくれてありがとう!」
 変わった僕を見て驚いた顔をする井上。でも僕は楽しくてたまらなかったんだ。
 あと一歩の勇気、あと一歩の勇気! 出せたから、僕の目の前はほら、こんなに拓(ひら)けている。
「才能屋さん、ありがとう」
 僕は小さく呟いた。
 いつか、菓子折りとか持ってきてお礼に行こうかな、なんて僕は思った。

  ◇

「彼は正しい選択をした。驚いたね、自分の分をしっかりわきまえている、純粋そうな少年だったねぇ」
 少年が去った後の才能屋で、外道坂灯はそう呟いた。
「他のみんなも彼みたいに無欲でいれば、悲しいどんでん返しは起こらないのに、ね」
 良いことをしたなぁと灯は嬉しそうに一人ごちる。
「あと一歩の勇気、かぁ。……そんなの、わざわざ僕に頼まなくたって、自分の中に眠っているだろう?」

〈Case4 あと一歩の勇気 完〉

Re: 才能売り ( No.17 )
日時: 2018/08/25 11:29
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

〈Case5 Perfect virtue(完善)〉――貝原新太郎

 私は間違っていたんだ、私は間違っていたのさ! おお、神よ、もしもそんな存在がいるのならば、この罪深き私に贖罪の機会を与えてほしい。私は深く悔い改めた、私は改心した、したいと思った!
 でも心の底に潜む悪意が、私を完全な善人にはさせてくれないんだ。
 ああ、誰か教えてくれないか?
 私はどうしたら、完全な善人になれるのだろう?

  ◇

「殺人犯、貝原新太郎が今日、刑期の満了を迎えて釈放されました」
 そんなニュース、町中の電気店に置いてあるテレビから流れるニュースを他人事のように聞きながらも私は歩く。
 貝原新太郎、それが私の名前だ。
 私は殺人犯である。私はあの日、確かに人を殺した。私は人を殺したんだ、私は人を殺してしまったんだ!
 それは突発的な衝動だった。どうしても気に食わない同僚を、私はある日、怒りを爆発させて椅子の背で殴った、それだけだった。それだけなのに、同僚は打ち所が悪くて死んでしまった。それでわたしは殺人の現行犯で逮捕、即刑務所行きとなった。私は殺す気なんてなかったのに、殺してしまったんだ!
 そして刑務所で私は気づいた。私は本当はとっても悪い奴なんだと。私は私の中に潜む悪意のあまりの濃密さに戦慄した。私はこれまで自分の中のそれにあえて目を向けずに普通の人間の振りして生きてきたけれど、とんでもない。罪を犯して囚われてみれば、私の中の「それ」は時に激情に、時に衝動になって私の中に現れた。私は「それ」をうまく制御できずに、私は刑務所のさらに奥の部屋に入れられた。
 それでも私は「それ」をようやくなんとかすることができて釈放、経過観察となったわけだが……私は私が恐ろしい。私は、「表」の私は今も、「裏」の私を認めることができずにいる。「表」の私と「裏」の私。二人の「私」がせめぎ合って、私は今にも気が狂いそうだった。
 だから私は思ったんだ。本当の善人になることができるのならば、「裏」の私は消えてなくなってくれるんじゃないかって。まぁそんなのは夢物語、わかっているさ。でも、私は善人になりたかった。善人になっても私の犯した罪が消えることはないが、それでも、これ以上悪事を為さないことが、死んだ同僚への償いになると私は思った。そうしなければならないと思った。
 けれど「裏」の私がいる以上、私はいつでも悪事を再び為すことができる状況にある。それだけは嫌だ、絶対に嫌だ。だが私は私の心を、百パーセント絶対に確実にコントロールできるという自信がない。情けない話だが、自信がないのだ。だから私は私が怖い。
 ああ、誰か教えてくれないか?
 私は、私は。
――一体どうすれば、この地獄から抜けられるというのだ?
 他力本願も甚だしいと、わかってはいるが、な。

Re: 才能売り ( No.18 )
日時: 2018/08/27 09:40
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.


  ◇

 私が戸賀谷の町を訪れたのは、何となくだった。私は社会人(仮)として働くようになったがどうにも仕事に身が入らず、どこかに行きたい気がして電車に乗ったら気が付いたら戸賀谷に着いていた。戸賀谷。聞いたことはあるが思い出せない。確か何かの都市伝説の舞台だったとか聞いたが……。
 私はふらふらと、電車を降りて戸賀谷の町を歩きだす。閑静な住宅街、舗装された道路脇に植えられた街路樹が町の穏やかな雰囲気を醸し出している。そこには都会のようなギスギスした空気などあらず、過ごしやすい風が吹いていた。いい町だな、と私は思った。でも、いい町だからこそ、私みたいな出来損ない、不完全人間なんていてはならないんだ。私はきっと、この町に住んだらまた何か起こしてしまう。この町の平和を壊してみたい、という破壊衝動がきっと起きる。私はそれをよく自覚している。
 私がそんな複雑な思いを抱きながらも閑静な街をさまよっている時、
 不思議な建物を、発見した。
 木で出来た、穏やかな印象を与える二階建ての家。その入り口には不思議な看板。そこには、
「才能屋 あなたにお好きな才能売ります! 支払いはあなたの才能で」
 なんて馬鹿げた言葉が書かれている。
 私はそれを見て、ようやく戸賀谷の町をどこで聞いたのか思い出した。都市伝説。ある日、女子高校生たちが同じ電車に乗っていて、偶然漏れ聞こえた会話。才能屋。対価。奇跡。悪魔。
「……ここが、その」
 私は感慨深げにその建物を見上げた。木でできた店は優しく穏やかで、来る者に警戒心を与えない。
 私は何となく、入ってみようかと思った。それでどうにかなるとは思わないけれど、今の私はかなり投げやりな気持ちだった。どうにでもなれ、と私は店の扉を開けた。都市伝説だって? 奇跡だって? もしもそんなの本当に実在するのならば、私がこの目で見てみようじゃないか。
 チリンチリン。扉を開けると鳴り出した涼やかな音色。その音を追いかけるように、優しげな青年の声が私を迎えた。
「ようこそ、才能屋へ。僕は自称『悪魔』の、外道坂灯という者さ。ここの店主をやっているよ。はてさて、あなたはどんな御用でここに来たのか、気になるねぇ」
 穏やかに微笑んだ青年。彼は入り口から少し先に行ったところにある木製のカウンターの奥に、座っているようだった。
 私はそんな彼に、困ったような口調で言った。
「それが、わからないのだ。ただ何となくその辺りをさ迷っていたら、偶然ここの前に来てしまった、それだけだ」
「へぇ?」
 外道坂さんの声が、面白いものを見つけたかのように高くなる。
「でも、あなたは何か悩んでいるようだね。僕でよければ話を聞くけど? 僕はあなたとは何のつながりもないし、つまりそれを話してもあなたに不利益になることはないし、一切他言はしないと誓うよ。信用できない? ならば帰ってくれても構わないんだよ。お客さんはあなたじゃなくても僕としては別にいいし、単なる一人のお客さんがその先どうなろうと、僕は知ったこっちゃないんだから」
 その言い方は、店を経営する者としてはあるまじき発言だろう。しかし外道坂さんには関係ないのかもしれない。だって彼はお金を扱わないのだ。彼が扱うのは才能だ、お金じゃないからそんなことが言えるのだろう。
 私は彼の勧めに従って、話してみることにした。このままだと埒が明かないのはわかりきっている。もしも彼が私の今の状況をなんとかできるのならば、他力本願だが何とかしてもらいたかった。帰るなんて言語道断、これをチャンスとして、私はこれまでのことを語り始めた。
 うまく説明できたのかはわからない。特に自分の感情についての説明は不十分だったのかもしれない。それでも外道坂さんはわかってくれたみたいで、私が時間を掛けて説明を終えると、大きくうなずいた。
「……なるほど、あなたの事情は理解したよ」
 欲しいもの、あるじゃないかと外道坂さんは笑う。

「あなたが欲しいのは完全なる善意、逆にあなたが要らないと思っているのは自分の中に潜む悪意だ。違うかい?」

 ……言われてみて、私はその通りだと気付いた。
 そうだ、それなら交換条件になる。しかしそんなに自分に都合の良い交換、ありなのだろうか?
 そう、外道坂さんに訊こうとしたら、不意に、
「…………ッ」
 外道坂さんが青い顔をして、苦しそうに顔をゆがめていた。その手は胸を押さえている。
「まずい……こんな……ところ、で……!」
 心配げな私の表情に気付き、外道坂さんは苦しげな顔のままで私に言った。
「僕は、ね……昔から……身体、が、おかしい、のさ」
 それだけ言うのが精いっぱいだったらしい。外道坂さんは何も言わない。
 とんだアクシデントである。どうすれば良いのかと私が視線をさまよわせていると、店の奥から声がした。
「灯、どうしたッ!」
 緊迫した調子で放たれたのは低い大人の男の声。
 店の奥から漆黒の男が現れてきて、外道坂さんをその大きな腕に抱いた。その時男の目がカウンターの前で所在なさげに突っ立っている私を捉え、男は外道坂さんをそっと床に横たえると私に近づいた。
 男は私のことをその鋭い目で一瞥すると、言う。
「客か。仕方ない、俺がやる。俺もまた才能屋の一員だ、望む才能と代わりに払うものを言え。俺が交換の作業をやる。早く!」
 その気迫に押され、私は外道坂さんに言われた通りのことを言った。漆黒の男は頷いて、私の額に手を当てた。
「動くな」
 鋭い声。奇妙な感覚が私の中を吹き荒れる。私の中で「裏」の私が、悪の私が消えていくのを感じた。そして私は私の懊悩(おうのう)から解放されたのを感じた。私は、善人。私は善い人。過去に犯した罪は消えないけれど、私の心は生まれ変わった!
「終わった。もう用はない、さっさと帰れ」
 男のぶっきらぼうな物言いにも、私は怒らず臆せず、意気揚々として家に帰る。
「ありがとうございました!」
 お礼の言葉も、忘れずに添えて。
 私は善人、私は善い人!
 これで私は残りの一生を、ずっと償いに充(あ)てることができるだろう。
 まずは才能屋さんに救急車を……呼んだ方がいいのかな? 余計な御節介だろうか?
 とりあえず、善いことをしよう。私は善人なのだから。

  ◇

「……灯」
 虚は灯の細い身体を抱えあげて、その顔を覗き込んだ。虚の心配そうな表情に、灯は苦しみに喘ぎながらもそれでも笑った。
「大丈夫さ……僕は、死なない。苦しいだけさ……? 虚が、そう、してくれたんじゃないか」
 そんな灯に、虚は申し訳なさそうな顔をする。
「俺の力が、不完全で済まない。もしも俺が完全だったら……」
「何言ってるの、さ……。虚がいなきゃ……僕、死ん、で、たよ……?」
 それにしても、今日は意地悪しちゃったなぁと、灯はおかしそうに笑った。その呼吸は少し楽になり、その顔も穏やかだ。落ち着いてきたらしい。
「虚……代行、ありが、とう。とりあえず……末路を見てみようじゃ、ないか。善人になるだっ……て? 笑わせるよ。そういっ、た……人間は、真っ先、に、食い物にされるって……のが、世の定めなんじゃ、ない、かなぁ」
 灯は道を示しただけで、それに従ったのは客の選択。でも、道を示したのは灯なのだ。
「今回、僕は最高の悪魔になるよ」
 灯はおかしそうに笑うのだった。それこそ悪魔のような表情で。それでも――無邪気に。
 そんな灯に虚は言う。
「とりあえず無理しすぎるな。一応、俺も『交換』はできるのだぞ? たまには俺に代われ」
「傲岸不遜、傍若無人、ぶっきらぼうで接客態度最悪の虚に任せられるかい」
「…………」
 それを言われると反論できない虚であった。

Re: 才能売り〜Is it realy RIGHT choise? ( No.19 )
日時: 2018/08/30 08:43
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

  ◇

 私は善人、私は善い人。
 以降の私は無事に社会復帰もできて、サラリーマンとして人生をやり直すことになった。もちろん、過去の犯罪歴は消えないが、私は生まれ変わった、私は確かに生まれ変わった、私は生まれ変われたのだ。
――ありがとう、才能屋さん。
 もう感謝の言葉以外出てこない。
 あの後私は最高に良い気分のままで家に帰った。外道坂さんのことが少し気にかかったけれど、あの黒い男ならば何とかできるだろう、私はそう思って深く関わらないようにした。赤の他人が介入し過ぎても嫌がられるだけだろうし。それにあの男には、何でもできる絶対的な神様みたいなそんな威圧感や、彼ならば大丈夫だ、と確信させる安心感があった。外道坂さんと深いかかわりのある人物のようだけれど、一体何者なのだろう? 疑問は尽きないが置いておく。謎めいているのがあの店の魅力の一つでもあるのだろう。
 私は生まれ変わった。ボランティア募集を見つけるたびに積極的に応募し、電車やバスでは自分がどんなに疲れていても最初から席に座らず、困っている人を見つけては積極的に助けになろうとした。感謝してくれる人もいるし無視する人や迷惑がる人もいる。それでも私は楽しかった。誰かの役に立てることが、本当に楽しかったのだ。そして私は知っている、これが偽善などではないと。これは私の心からの善意なのである。善って素晴らしい!
 お金を貸してと言われれば貸したし、それ以外のものだって貸したしあげた。そして自分からは基本ものを借りずもらわず、誰かにあげることのみを念頭に置いた。すると誰もが嬉しそうな顔をしてくれるのだ。だから私は皆が嫌がる仕事だって積極的に引き受けて、くたくたになって泥のように眠った。疲れたけれど、それは「今日も善いことをした」という達成感や満足感と混ざり合って、気持ちの良い疲れだった。またこんな毎日を送りたいなと私は毎日思っている。
 そんなある日、私のもとに一人の友人が駆け込んできた。
「お金を貸してほしいんだ」
 単刀直入に彼は言った。私はもちろん、と答えた。実際、今の蓄えはそこまで無かったが、銀行からお金を借りて彼に渡せば大丈夫だろう。私は私が借金をすることについては、善行を積むためだから何とも思ってはいない。
 友人――村田建司は、言った。
「ありがとう! 恩に着るよ! じゃ、ざっと一千万円くらい、貸してくれるかな? 新しいビジネス始めたんだ、それが成功したら絶対に返すからさ! この通りだ、お願いだよ、おれたち親友だよな?」
 建司は土下座みたいなポーズをする。それに「親友だよな?」の言葉。
 そんなことされて、言われて、この私が断れるわけがないだろう。
 私は頷いて、建司の手を握って言った。
「わかった、一千万、何とか工面して用意するよ。他でもない親友の頼みだ、善人の私が無碍(むげ)にすることなんてできないさ。いつまでに用意すればいい? 君の口座に振り込めばいいのか?」
 私の言葉を聞いて、建司は目を輝かせた。
「やったぁ、マジ!? じゃあさ、一カ月後におれの口座に振り込んでよ! 条件かなりきついかもしれないけれど、さっさと用意しないとビジネスチャンスを逃しちゃうんだ!」
 確かに、きつい。でも、他でもない親友の頼みならば。
 私は頷いた。
「大丈夫だ、絶対に用意してみせるよ」
「神様仏様新太郎様ぁ……」
 本当にうれしそうな親友を見ると、私もうれしくなってくる。
 こうして私は、さらなる善行を積む一歩を踏み出した。

  ◇

 現金一千万。それは本当に大金だ。
 私はまず家財道具を売り払い、お金を得た。その次は先祖代々住んでいた家を売り払い、駅から徒歩二十分、スペースは四畳でトイレは和式、風呂なしの格安アパートに引っ越した。家を売ったのは結構なお金になったが、一千万にはまだ足りない。私は友人のために毎日八時間労働を七日間やって休日なしで働こうとしたが、働き方改革とかなんとかで、流石にそれは叶わなかった。けれども私はルールの許す限り、働けるだけ働いた。空いた日にはボランティアや慈善事業に励むことにした。私は昔から滅多なことでは病気などしなかったので、こんなスケジュールでもずっと続けることができた。それでもそれでも一千万にはまだ足りなかった。
 期日まで二週間を切った頃、私は近くの銀行でお金を借りた。借りたお金を建司の口座に振り込んだ。まだ足りなかった。私は別の銀行でお金を借りて振り込んだ。それでもまだ足りなかった。私はさらにまた別の銀行、別の銀行と繰り返してサラリーマン金融にまで手を出して、私の借金は膨れ上がった。そこまでしたらようやく、一千万を得ることができた。それは言われた期日の一日前。疲労困憊しながらも私は建司の口座に最後のお金を振り込んで、棒のようになった足で家に帰って泥のように眠った。
 翌日から借金取りが来た。サラリーマン金融が良くなかったらしい。建司のことにかかりっきりになっていた私の借金は、気が付いたら一千万を超えていた。払えるわけのない金額。膨れに膨れ上がった利息が借金が、私を押し潰した。
 さらにその次の日、建司から電話があった。うまくいったかと不安になる私の耳に、耳障りな甲高い笑い声が響いた。それは建司の声だったけれど、建司の声だとは思えなかった。その声はそれだけ悪意に満ちていた。
 声は、言うのだ。
「ハァッハッハッハッハァ! 聞こえてるかシンタローッ! この馬鹿でクソ真面目な愚か者―ッ! ムラタケンジが教えてやるよ! お前は騙されたんだよハイそうです俺様が騙しましたのさーッ! ってかオマエ馬鹿だよな、本当に馬鹿! 頭のネジ大丈夫ですかーッ? いくら親友だからって、あんなに陳腐な言葉に引っ掛かって真面目に一千万送ってくれるんだからさァ、俺様嬉しすぎて涙が出るよ出ちゃったよ! おかげで世界一周旅行を超スイートコースで楽しめるよォ! 俺様に貢いでくれてマジでサンキューな!」
 教えてやろうかァ、と声は言う。
「ビジネスの話なんて存在しない! あの話は全て嘘ですハッタリですブラフです偽りでぇーすッ! 俺様はさぁ、シンタローが善人になったってハナシ聞いたから確かめてみようと思ってお涙頂戴な演技モドキをやってみたんだけれど、まさか本当に引っ掛かるとは思ってなかったよ! 教えてやろう、シンタロー! この世の中はなァ、善人よりも、悪人にとって生きやすくなってるんだよ! ナニナニ何ですかその善人っぷりはァ!? 犯した殺人の罪滅ぼしのつもりですかそうなんですかうわスゲェ聖人君子ィ! そこに痺れる憧れるゥーッ! ま、要はオマエは騙された、嵌められたってわけ。借金地獄の居心地はどうだい? アッハッハッハッハ!」
 じゃあ、最後はそこでもがき苦しんでな、と一方的に声は言って、通信が切れた。
 私は固まったまま、動くことができなかった。
 嘘、ハッタリ、ブラフ、偽り。
 信じたのに。
 信じて、本気になって一千万稼いだのに。
 建司は悪意の塊だった。私の捨てた、捨て去った、悪意の塊だった!
 それでも私は建司を憎むことができなかった。怒りや憎しみが、心の中には浮かばなかった。こんな状況にあったら、普通浮かんでも当然なのに。「それでも、海外旅行出来たならよかったじゃないか」と私の心はそう満足げに呟くのだ。
 私は愕然とした。私は善人、善人ならば、怒ったり憎んだりしてはいけないのか? 善人だから!
 あの日あのとき才能屋で、私が捨て去ったのは悪意、代わりに得たのは完全なる善意。私は善人になることができた。その日々は確かに充実していた。
 けれど私が捨て去ったものの中には、確実に私にとって大切なものもあったのではないか? そんな疑問が頭をもたげた。
 才能屋さんのあの無邪気な笑顔と、建司の哄笑が重なって聞こえた。才能屋さんは何と自称していたか? そう――『悪魔』だ。
 もしも私がまだ悪人のままだったのならば、こんな事件は起きなかったのだろうか? だとしたら才能屋は、才能屋は――!
 そこまで考えたら、私の思考にストップが入った。私は善人、私は善人!
 善人は誰かを憎んではならない!
 そんな思考が強制的に私の頭の中に割り込んで……私の中の、疑問は、消えた。
 私の小さな声、は……消……え……た……。

  ◇

Page:1 2 3 4



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


E-Mail


URL


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大7000文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。