複雑・ファジー小説

イストリアサーガ-暁の叙事詩-
日時: 2019/02/21 23:39
名前: 燐音
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1191

あらすじ
 互いに信ずる神を違えたがために十世の時を聖戦という名の殺戮で数多の血を流してきた、
 西の「イース連合同盟」、東の「トゥリア帝国」。
 その果てしない戦乱は続き、
 混乱、殺戮、憎悪、破壊が、人々の心を蝕んでゆくであった。
 この歴史の必然は、一人の少女と一人の青年を生み出す。

 二人の若者が後にこの聖戦の終止符を打ち、大陸に暁の光を照らすことを
 大陸の人々はまだ知る由もないことであろう・・・。



はじめまして、燐音(リンネ)と申します。
当小説は「ベルウィックサーガ」というゲームから強く影響を受けた作風となっております。
物語の舞台は「中世ファンタジー」で、二つの国の正義がぶつかり合う聖戦が題材です。
普通に架空の生き物(グリフォンやドラゴンなどの怪物)が存在し、
架空の種族(竜人、亜人など)も存在します。
基本的に男尊女卑が強めになっていますので、万人受けするものではございませんが、
頑張って執筆していこうと思っております。
作者の知識不足もございますが、どうぞ温かくご覧ください。

感想などや作者への意見などはURLのスレにてどうぞ






参考資料

登場人物 >>5>>67
専門用語 >>4


目次

第一節 盟約の戦場

断章 聖戦の叙事詩   >>1
序章 戦いの序曲    >>2-3
第一章 まっすぐな瞳で >>6-8
第二章 旅立ちの街   >>9-12
第三章 こころ燃やして >>13-19
第四章 脅威      >>20-26
第五章 死闘      >>27-35
第六章 誰が為に    >>36-37
第七章 その胸に安息を >>38-42
第八章 戦雲      >>43-54
第九章 開かれた扉   >>55-58
第十章 押し寄せる波  >>59-62
第十一章 覚悟     >>63-66


第二節 黄昏の竜騎士

幕間 幼竜       >>68
第一章 戦う理由    >>69-70

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Re: イストリアサーガ-暁の叙事詩- ( No.66 )
日時: 2019/02/20 20:40
名前: 燐音


 ざざーん、ざざーん、と足元から規則正しい波の音が聞こえる。
 シャラは一人、宿舎を抜け出し夜の街を彷徨い歩いた。
 ブリタニアの街を歩いていつの間にか王都の外れの修道院の近くにある……かつてソール王国兵救助の後にも訪れていた岬へやってきていた。やはり今日も人はいない。気が付いた時にはシャラは岬の突端に立ち尽くしていた。
 ざざーん、ざざーん。
 下を見れば目が眩むほどの高さがある。だが、少しも恐ろしいとは思わなかった。

「何故なのです……」

 誰もいない岬の突端で、シャラは力の限り叫んでいた。

「何故、父上が死ななければならないのッ!」

 答えは返ってこない。いや、返ってきてほしくなかった。誰かが父の死に理由をつけたとしても、とても納得できる自信がないからだ。それならば運命の残酷さを憎んでいられる方が、よほど気が楽だった。
 何故、モルドレッドはあのような愚かな選択をしたのだろう。東部戦線を支えていたのがソスランである事は、誰の目にも明らかだった。
 人気が集まりすぎたせいで再び叛乱を起こす危険性があると、それがソスランを流刑にする根拠だという。叛乱など起こるものか。そんなつもりがあるなら、誰が好きこのんであのような厳しい戦場で先頭に立って戦うものか。
 ソスランは、真にイース同盟諸国の平和のため、民のため、そのためだけに戦っていたのだ。恐らくは自らが引き起こした内紛で犠牲になった人々の命に報いるために。

「なぜ、どうして……どうしてそれが分からないんだっ!!」

 あれほど、痛々しいまでの真摯な償いの思いが、どうして通じないのだ。
 シャラはその場に座り込んで涙を流す。そういえば、エオスが前に言っていた気がする……

「戦争は大切なものを奪っていく」

 まさにその通りだ。戦争は、こんな「下らない殺戮」は、大切なものをどんどん奪っていく。部下も、ソスランも祖国も、父ですら……
 やり場のない怒りをどうする事も出来ず、シャラはただ泣きじゃくるしかなかった。こんなに胸が痛いのはあの時以来かもしれない。みっともなくたっていい、今はただ泣いていたかった。

「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっっ!」

 シャラの瞳からとめどなく涙が溢れて止まらない。声が枯れそうだ。

 しばらく声を上げて泣いていると、力尽きて地面に寝転がった。きっと自分の顔は今、ひどい顔をしているんだろうなとふと考える。
 静かだった。
 自身の呼吸と波の音が聞こえる。ふと見ると、岬の突端のさらに先、水平線から少しだけ朝日が顔をのぞかせていた。
 何も変わらない。昨日までの朝と、今日の朝と、そして明日の朝もおそらくは。きっと太陽は同じように顔を出し、そして同じように沈んで行くのだろう。
 人の死もそれと同じだ。やがて、激しい怒りと悲しみと苦しみも、シャラの死と共に時間の海に押し流され忘れ去られるだろう。
 それは哀しかった。どうしようもなく哀しかった。
 だが、だとしてもここで立ち止まるわけにはいかないのだ。自分が何をしなければならないのか、その答えはもう出ていた。だから苦しくもあるのだが。
 ふと顔の傍に小さな花々が咲いていた。その内の黄色い花を一輪摘み取り、シャラは岬の突端に立った。

「父上、私は、それでも戦い続けます。私はやっと、自分の身が、自分の勝手な都合だけで動かしていい物ではないと……それが公爵家の人間の務めなのだと、気が付いたのです」

 エリエルを出るときにはわかっていなかった。もしエリエルに引きこもったまま今日という日を迎えていたら、きっと二度と立ち上がれなかっただろう。だがエリエルから旅立ったシャラは立ち上がることができた。
 いくつかの戦いを潜り抜けたおかげで悟ることができたのだ。それがわかっているからこそ苦しいのだとしても。

「王妹殿下に言われました。人々の為に戦う。それが貴き者の務めなのだと。我々は常に先頭に立ち、民達を害する者に立ち向かいこれにうち勝たねばならないと。最初は、よくわかっていませんでした。今でもわかっていないかもしれません」

 だがそうして思い浮かべるのは、仲間の顔だった。エリエル騎士団の仲間達。そしてシャラを頼りにし、信頼してくれて、また助けてくれる人々の顔だった。アルフレドの、リデルフの、自身を信じていると言ったニムエの、窮地には必ず駆けつけると言ってくれたイスラフィルの。
 その思いに応えたかった。だから、彼らを放って、裏切って、自分勝手に動くことはできないのだ。

「だから安心してお眠りください、父上。父上の分まで、私が戦います。人々を、エオスを守ります。だから、私達を、至らぬ私達を見守っていてください……」

 そうして長い祈りを終え、シャラは手にした一輪の花を暁の光に照らされる海へと投げ入れた。



 これより先、この大陸は激動の局面に突入する。
 やがて英雄と呼ばれる事になる一人の少女の物語は、今まさに、この瞬間から新たな始まりを迎えるのだった。
 そして、もう一人の青年も……。

Re: イストリアサーガ-暁の叙事詩- ( No.67 )
日時: 2019/02/20 21:08
名前: 燐音

第二節登場人物





名前:キドル・ティニーン
年齢:19歳
性格:寡黙で滅多に感情を表に出さず、冷たい印象。しかし、内に秘める情熱は誰にも負けない

「竜将」の異名を持つ小国ズメウ王国の竜騎士団団長。
その実力とカリスマにより、16歳で竜騎士団団長、そしてトゥリア帝国将軍へと上り詰める。
しかし、一部の部下や上官などからはよく思われておらず、「若造」と切り捨てられ、苦悩する。
部下思いであり、師匠であるジュウベエを尊敬している。

誕生日は「5の月の15日」



名前:ロロ・エウリュス
年齢:14歳
性格:自分の意思を持たず、終始無口で無表情。特定の人物にのみ本当の自分を見せている。

キドルと共に行動する無口で無表情な少女。
自分の意思を持たないが、キドルにだけ特別な思いを抱いている。
そしてキドルが苦しんでいるのを見て、自身の無力さに憎悪を覚えている。
キドルは異母兄である。

誕生日は「11の月の11日」



名前:プラチナ・アシェ
年齢:18歳
性格:冷静沈着で、頭脳明晰。普段は寡黙であり、クールな印象を受ける。

キドルの側近であり、ロロの護衛。
寡黙で冷静なため、クールな印象を受け、近寄りがたい。
しかし、内に情熱を秘め、お人好しな面もある。
キドルもロロも守りたいと強く思い、任務を淡々と遂行する。

誕生日は「2の月の10日」



名前:レイア・ウェヌス
年齢:36歳
性格:執着心と独占欲が非常に強く、気に入った人物に対して、歪んだ感情を持つ。というのは上辺だけで、本来はかなり穏やかな性格。

ラーフ公国出身の占星術師。
占いだけでなく、杖での治療ほか、剣も扱う。
キドルの部下であり、キドルに対しかなり歪んだ感情を抱いている。
ハイレクーンを嫌悪しており、皇帝に従うのを猛烈に拒絶している。
そのため、ハイレクーンを見る度にあからさまに嫌そうな顔をする。
自由過ぎる性格に、キドルも手を焼いている人物。
しかし、それは道化を演じているだけであって、本性は周囲をよく見る慈悲深い人柄。
ジュウベエと手を組んで、共にキドルを支えている。
かつて「星見の魔女」と呼ばれる人物であった。

誕生日は「3の月の17日」



名前:ジュウベエ・ヤギュウ(柳生十兵衛)
年齢:47歳
性格:落ち着いた面持ちで、常に不敵な笑みを絶やさない強者。

キドルの部下であり、キドルの師匠。
大人の余裕さを常に見せており、取り乱すことなくキドルや皆に助言をする。
帝国には憎悪を感じてはいないが、今のままではいけないと考えており、
キドルを切り札として修行をさせて、鍛え上げた。
ミズチ国出身で、「鬼武者」と呼ばれる、鬼の力を継ぐ由緒正しき家系である。

誕生日は「6の月の7日」




名前:ハイレクーン・マリオネット
年齢:39歳
性格:飄々としていて、敵には容赦ない冷酷さを持つ。喋り方が独特で、かなり相手を煽る話し方で、鼻につく。

キドルの部下であり、トゥリア教団四大司教の一人。
強力な幻術や神聖魔法、暗黒魔法、召喚術などを
いとも容易く操る、トリックスター。
常に笑顔を張り付けているが、やること為すことはかなり残酷。
何か裏があるようだが……

誕生日は「9の月の2日」




名前:ディエン・シンシン
年齢:18歳
性格:飄々としていて抜け目がない、世渡り上手な性格

キドルの部下である舞踏家。
身体が柔らかく、しなやかな動きで華麗に舞う。
飄々としていて、他者の心をつかむような言動のおかげか、敵が少ない。
キドルの事を心から信頼しているが、
ハッカ共和国を落とし、共和国の人間を虐げる帝国をひどく憎んでいる。
が、普段の様子からは読み取れない。

誕生日は「3の月の10日」



名前:ルー・アキフォート
年齢:16歳
性格:純真無垢で常にまっすぐ、諦めることを知らず常に前向き。

ライラ王国で王女の侍女を務めていた狩人の娘。
ライラ王国が陥落し王女が囚われてしまった際に、
「帝国に従うので、王女を解放してほしい」と願い出た。
そして、キドルの部下として帝国の兵士となる。
まっすぐな性格なので、自分が頑張れば王女を助けられると信じている。

誕生日は「9の月の15日」



名前:ヴェノン・キャッツアイ
年齢:21歳
性格:口は悪いが情に厚く、面倒見もいい。お宝に目がない。

古代の秘宝を追い求める自称「イケメントレジャーハンター」。
どさくさに紛れてテンペスト王国の遺跡を探索していて、その帰り道に帝国軍に捕まってしまった。
軍に協力するという名目で、成り行きで騎士団へと加入する。
妹である「シャノン・キャッツアイ」とは大の仲良しである。

誕生日は「6の月の29日」



名前:セイブル・グラトニー
年齢:不明
性格:無機質で何事にも興味を示さない。

キドルを信頼してる、トゥリア教団四大司教の一人。
暗黒魔法を得意としている神官で、ハイレクーンもその実力を認める。
しかし、上官の命令以外に興味を示さない。
感情を表に出さず、常に無表情でキドルに従う。
その姿を傍から見れば、不気味にも思える。

誕生日は「1の月の1日」


Re: イストリアサーガ-暁の叙事詩- ( No.68 )
日時: 2019/02/21 09:35
名前: 燐音
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1096.jpg

幕間 幼竜


 その竜人の子供は生まれて間もなく捨てられた。どこかに預けられたでもなく、捨てられたのだ。
 理由は単純、「その子は力が無く、望まれた子ではなかった。」からだ。
 しかし、その生まれたばかりの子供を拾った巨漢の男は、その赤子を不憫に思い、名を与えた。

「お前は「キドル」。「キドル・ティニーン」だ。立派に育てよ」

 男は生まれたばかりのキドルに対し、微笑みかける。キドルも心なしか笑っているようにも思えた。
 男は不器用ながらもキドルを育て、かわいがっていた。いつか立派な騎士となり、この大陸に光を照らすと、自分が死んだ後に立派に軍を率いてくれる……そう信じて。
 やがてキドルは成長し、男はキドルに剣を教えた。幼いキドルは自分の体ぐらいある剣を振り回すが、

「師匠、剣はなんか扱いにくい。槍がいいよ」
「むう……、俺も槍が使えないからなぁ」

 キドルの言葉に男は苦笑しながら頭をぼりぼりと掻く。男はキドルの何倍もの身長で、赤い髪を束ね、赤い瞳を持つ巨漢である。赤い服は巻き付けて黒い帯で縛り、とてもがっちりとした体格だった。変わったところと言えば、その男は左目に眼帯をしていることくらいか。
 この男は「ジュウベエ・ヤギュウ」と言い、トゥリア帝国の騎士だ。
 彼は今、ズメウ王国の辺境でキドルと共に暮らしている。山が連なり、飛竜も生息している場所だ。
 ズメウ王国では十五の齢になるまでに飛竜と心を通わし、パートナーにするという風習がある。ジュウベエはキドルを竜騎士にしたいと思い、幼い彼をズメウ王国まで連れて来たのだ。彼は竜人、きっと立派な竜騎士になれる……ジュウベエはそう考えていた。

「師匠、オレ……」
「ん?」

 キドルは槍を振り回しながらジュウベエを見る。その顔は幼い少年のものだが、騎士のように凛々しいものだった。

「オレ、絶対竜騎士になるよ。師匠にだって負けない!」
「……ほう、そうか」

 ジュウベエはキドルの言葉を聞いて思わず顔が綻びた。そしてしゃがみ、彼の頭に大きな手を置いて、彼の青く澄んだ真っ直ぐな瞳を見つめる。

「俺も期待している。お前が立派な竜騎士になって、大陸の皆を救ってくれるって信じているよ」

 その言葉はジュウベエにとって、本心でありキドルへの期待でもあった。重いものを背負わせてる。それはわかっている。だが、ジュウベエはこの終わりの見えない殺戮を終わらせたかった。だからキドルを竜騎士に育て、ジュウベエの果たせなかった事をやり遂げてほしい……そう思っていた。

「必ず、大陸に光を照らしてくれ、キドル」



 そして十年の時が過ぎた。
 キドルは十五になる。髪は薄い紫、白い角が二本あり、鋭く青い瞳を持つ少年へと成長した。
 そんなキドルにある驚くべき事実を目の当たりにした。

 キドルは帝国の皇帝の子供であったと言う事。そして3人の弟と妹がいると言う事。
 名はそれぞれ「ベリアル」、「ストラス」、「ロロマタル」という。そして現在、その三人は王位継承の内乱に巻き込まれていることを知った。
 王位継承第一位は最も王族の血の濃いストラス、次点でロロマタル、そして最後はベリアルである。
 ロロマタルは末子で女ではあるが「トゥリアの巫女」という立場もあり、彼女が次点なのだ。
 だが、その事実と同時にベリアルが次期皇帝の座を狙おうとしているという話を聞く。そして三人の王位継承をめぐって派閥争いが起こっているのだ。
 キドルは、この事を受けて騎士となることを決意した。なぜなら、腹違いではあっても彼らは肉親であったからだ。
 まだ会ったこともない弟や妹達……。彼らを守りたいと思った。
 その旨をジュウベエに伝えると、彼は深く頷いて腕を組む。

「お前のやりたい事をやりたいようにやればいい。俺はお前についていくだけだ」

 かかかっと大笑いするジュウベエ。いつもジュウベエはキドルのやり方に肯定的で、間違っている事はちゃんと指摘し、道を外さずに済んでいた。自分もジュウベエのような大らかな人に……立派な騎士になりたいと思っていた。騎士となり、守りたい者を全部守る。それがキドルの願いであり、決意であった。


 そして、彼は騎士となり功績をあげ続け、いつしか「竜将」と呼ばれるまでの竜騎士となる。立場は奴隷ではあるが、彼は王族に自身の能力を認めさせた。全ては弟妹のために。
 その時には既にキドルは十六の齢となっていた。

Re: イストリアサーガ-暁の叙事詩- ( No.69 )
日時: 2019/02/22 00:17
名前: 燐音

第一章 戦う理由


 その少年「プラチナ・アージェント・フラム」は「フラム王国」の第二王子であった。
 兄「シルヴァ」、父「ゴルド」、妹「ミカ」を、祖国を愛していた。
 父は「祖国を共に守ろう」とプラチナに言い聞かせ、兄は「立派な剣士となれ」とプラチナに剣を教え、妹は「兄上や皆と共にこの地に生まれたことを誇りに思う」とプラチナを尊ぶ。
 彼は大精霊の加護を受けたこの地を、民を、祖国を守ると心に誓っていた。純真な思いで。
 しかし、その思いはどす黒い悪意の前に儚く散る事となる。

 フラム王国は帝国の強襲により陥落し、ゴルド王とシルヴァ王子はプラチナの目の前で死罪に処されたのだ。
 プラチナは腕を拘束され、身動きがとれぬまま目の前で父と兄が首を落とされるのを見ていた。処刑人は高らかにその首を掲げ嘲笑う。
 プラチナは猛獣の咆哮のような雄叫びを上げ、怒りで目が血走っていた。

「殺してやるッ! 貴様ら全員殺してやる!」

 無駄だとわかっていても、口から憎悪が漏れる。憎しみで感情が支配されていく。きっと体が自由に動けば、目の前にいる帝国兵を皆殺しにしているかもしれない。怒りでどうにかなってしまいそうだ。
 こいつらの臓物を引きずりだしてやりたい。頭を砕いてやりたい。嘲笑うあの口を斬り落としてやりたい。
 だが体が動かない。悔しい、憎い。今すぐ奴らの喉元を食いちぎってやりたいのに……!!
 そして奴らはプラチナの方へと曲刀を向ける。父と兄の首を斬りおとし、父と兄の血がこびり付いたその剣で、プラチナの首を斬り落とそうというのだろう。
 死の恐怖は不思議となかった。だが、気がかりがあるとすれば、城から逃がした妹は無事だろうか……。そんな風に怒りで身体を震わせながら頭では冷静に妹の心配をしていた。
 帝国兵の曲刀が白く閃き、プラチナの首に触れる。

 最後に一度でもいい、妹に会いたかった。
 プラチナはそう観念した。体が動かない以上、憎しみを抱いても何もできないのだ。

 だが、その瞬間何者かがそれを止める。薄い紫の短髪、長い耳、紺色の服の男がプラチナの前に立つ。

「この男は俺が引き取る」

 男はそう静かに言い放つと、帝国兵達は動揺していた。それはプラチナも同じだ。突然現れて、突然そんな事を言われてもどうすればいいのかわからない。だが男はプラチナの手に縛られていた縄を解いて、プラチナの手を引いた。

「この男はまだ利用価値がある。殺すには惜しい」

 男はそう言い残してプラチナを連れ、その部屋を去った。


「ま、待て! 待ってくれ!」

 プラチナは長い廊下に差し掛かったところでそう叫んで、男の手を振りほどく。
 廊下の右手は大きな街が見え、その向こう側には海が広がっており、水平線と青い空が見える、こんな時でなければずっと眺めていたいくらいの景色だった。
 プラチナは問う。

「何故俺を助けてくれた! あんたは一体何者なんだ!?」

 男は腕を組んでプラチナを見下ろす。その顔は呆れ顔だ、ため息までついている。

「まずは「ありがとう」だろう、師匠がこの場にいたら拳骨を喰らってたな」
「なっ……!? そ、そうじゃなくて、質問に答えろ!」

 男のあまりにも軽い態度に、プラチナは怒りすら覚える。よく見れば真っ直ぐで澄んだ青い瞳をしている。その視線は優しさを感じさせた。
 男は頭を掻き、あからさまな大きなため息をつく。

「俺は「キドル・ティニーン」。「竜将ティニーン」の話は聞いたことはないか? それが俺だ。で、お前を助けたのは、俺の今後の計画にお前の力が必要だったからだ」

 プラチナは驚いた。フラム王国を落としたのは「竜将ティニーン」であったからだ。そして目の前にいる、兄より若く自分より年上の男が、最近帝国で名を上げ十六と言う齢で将軍となった男……。
 信じられないが、先ほどずかずかと帝国兵の間に割って入ってプラチナを連れ出す事が証明している。
 そしてこの男は何と言った?
 「今後の計画にお前の力が必要だった」と言っていた。自身を利用するために連れ出したというのか!?

「ふざけるなっ! なぜ王国を落とした仇に利用されなければならない!」

 キドルはうーんと声を出して腕を組んで悩んでいた。

「お前こそ、自分の立場がわかっているのか?」
「俺の……っ!?」
「そうだ。今のお前は「帝国の奴隷」という立場だ。生かすも殺すもトゥリア帝国次第。あのまま放置してたらお前は首を斬り落とされて死んでいたぞ」

 キドルはそういうと、プラチナの頭に手を置く。

「まあお前が死にたければ俺はお前をさっきの場所に返すだけだ。だが俺について来れば、いつでも仇討ちができるし俺もお前の力を使えて一石二鳥。お互い利害の一致をしてるじゃないか」

 キドルはわっはっはと大笑いをする。
 この男……どこまでが本心なんだ……!?
 プラチナは目の前の男の意図が読めず、困惑していた。だが気づいた。この男についていかなければ、恐らく殺されるだけだ。牙を向ける暇もなく。

「……せいぜい月夜ばかりと思うなよ」
「お、その返事は肯定と受け取るぞ」

 読めない……この男は一体何を考えている……?
 プラチナはキドルの態度に困惑していた。そんなプラチナに対し、キドルは何かを閃いたように指を鳴らす。

「そうだ、お前、俺の副官にならないか? 人手が足りなくてな」
「…………は?」

 今何と?俺の副官にならないか、だと?

「ふ」
「ん?」
「ふざけるな貴様っ!!」

 プラチナは声を張り上げてキドルを指さし怒りを露わにする。
 この男はどこまで……

「貴様はっ、貴様はどこまで俺を馬鹿にすれば気が済むんだ!」
「え、いやいや」

 キドルは手を振って否定する。かなり困惑している表情であった。

「俺の副官になれば俺の首を狙いやすいぞ、いつか隙を見せるかもしれないし」
「そういう問題じゃ――」
「憎むべき敵の副官になるなんて正気の沙汰じゃない、そうか?」

 プラチナは口をつぐむ。言いたい事を先に言われてしまった。キドルは肩をすくめる。

「案外名案だと思うがな、副官になれば俺の隙をいつだって狙えるし、待遇だって一般の兵士よりいい。何より、俺はお前のその態度が気に入ってるからな」

 キドルはプラチナに対し指をさす。
 プラチナは何と答えれば良いかわからず、視線を地面に向ける。

「まあ答えはしばらく保留にするとして、これから俺の戦い方を見て判断すればいいさ。今日は部屋を用意するからそこで寝るといい。明日からはキリキリ働いてもらうぞ」

 キドルはそういってプラチナの頭に手を置く。「意外に小さいんだなお前」と笑いながら。

Re: イストリアサーガ-暁の叙事詩- ( No.70 )
日時: 2019/02/21 23:39
名前: 燐音


「あぁ、まずいまずいまずいまずいっ! まずすぎて意味わかんないわ!」

 彼女は頭を抱えて牢獄の中で一人足をじたばたとさせていた。
 彼女はラーフ公国で宮廷魔術師兼占星術師として「星見の魔女」の異名を持つ「リアリース・エ・シュテルン・ベルス」。帝国軍に囚われ、その事を嘆いて居ても立っても居られない状況であった。

「どうしようどうしよう、このままじゃ一生帝国の奴隷コースだわ! あぁぁぁ、「ネミッサ」師匠、不甲斐ない弟子ですみませんすみません! あぁ帝国に一生を捧げるか、真名バレして人間に戻るなんてどっちにしたって人生詰んじゃってるわ! もういっそのことこの場で殺して……死なないんだわ。あぁぁぁ……」

 リアリースはその場にへたり込んで額を地面に押し付ける。傍から見ればその行動は奇怪であったが、彼女からすればそれどころではなかった。
 リアリースは20歳の時に不治の病に侵され、死にたくないと強く願い、生きたいという執念で魔女となった人物であり、その後の16年は自分勝手に病気も死傷も恐れず自由気ままに生きていた。
 だが、「星見の魔女」である事と宮廷魔術師である事、星を見ることで未来を視ることができると言う事で、まんまと「ハイレクーン・マリオネット」の罠にはまって、現在に至る。
 昨日まで普通の日常を過ごしていたのにこのあり様……しかも魔女だから死ぬこともできないのだ。だが人間に戻れば病に蝕まれ死ぬ。生きていてもこれから先は生き地獄。

「私の人生、もうおしまいよおぉぉぉ〜……!!」

 リアリースはその場で涙を流して、年甲斐もなく大泣きしていた。

「おーい、聞こえてるか?」
「帝国軍にあんなことやこんな……はっ!?」

 リアリースは目の前に誰かがいることに気づく。鉄格子の前には、赤髪の巨漢がしゃがみ込んでこちらを見ていた。リアリースは我に返る。そして顔を真っ赤にさせながら正座する。
 そして男に、半目で尋ねた。

「どこから見てた?」
「「あぁ、まずいまずいまずいまずいっ! まずすぎて意味わかんないわ!」の部分から」

 リアリースは顔を手で覆ってその場に倒れ込んだ。恥ずかしくて立ち上がれない。
 男はその様子を見て頭を掻きながらため息をつく。

「そんな恥ずかしい事か? 生きたいってのは皆思ってることじゃないか」
「そうね、そうなんだけど……」

 リアリースは手で顔を覆ったまま声を出す。声がこもって聞こえてくるので少し聞きとりづらい。
 そしてリアリースはスカートに付着した埃をはらいながら立ち上がり、男を見下ろす。そして腕を組んだ。

「で、何の用? 魔女様がこれからどん底に落ちる様を見にきた訳?」
「いや、その逆だよ」

 男はそう答えると立ち上がる。リアリースが見上げるほどの巨体に、リアリースは「でかいわね」と一言こぼす。

「逆?」
「おう、お前の力を発揮できる素晴らしい職場を紹介したくってな」
「白か黒かでいうと?」
「グレーだな」

 リアリースの質問に淡々と答える男は、腰に手を当て大笑いする。

「勝手にそんなことしちゃっていいの?」
「俺の上官命令だから、大丈夫だと思うぞ」

 リアリースはそれを聞いて「え〜」と声を出して肩を落とす。上官がどういう立場かもわからないし、上官が魔女の力を欲しがっていると言う事は、一生奴隷コースから何も覆ってない事にもなる。

「でもこれから先、私は奴隷人生コースなんでしょう? 断るってのはダメ?」
「ダメな事はないぞ、多分後悔すると思うがな」

 妙に含みのある言い方だ。

「というか、私を出したらその上官さんも貴方も立場が危うくならないかしら」
「そんなに不安なら魔女の名前を捨てて、新しい人生を歩んだらいいと思うぞ」
「は!?」

 魔女名を捨てる!? この男は何を言っているのだ。

「魔女名を捨てたら魔女は人間に戻るのよ!?」
「いやいや、そうじゃなくってだなぁ」

 男は説明した。
 魔女名とは別に偽名を名乗って、上官の兵士になると言う事だ。
 魔女名を使わないことで魔女が死ぬなんてことはないし、正体も隠せる。と男は言いたいのだろう。

「ねえ、上官さんは私に何をさせたいの?」
「大いなる計画のために、力を貸してほしいんだよ」
「大いなる計画?」

 男は肩をすくめて首を振る。

「今ここで言う事はできん。だが、協力してくれるならお前に名前を与えてやるぞ」
「随分上から目線ね」

 上から目線はともかく、この男についていけば確実に生き延びることができると思う。「大いなる計画」とやらも気になるし、デメリットだらけの奴隷より何倍もマシかもしれない。うん、ここは大人しく従うかな。そう考えたリアリースは大きく頷いた。

「いいわ、乗ってあげる」
「そうこなくっちゃな」
「ところで、貴方、名前は?」

 男は「おう」と返事をしてから自身の名を名乗る。

「俺は「ジュウベエ・ヤギュウ」。とりあえずトゥリア帝国所属の騎士だ」
「ふーん、覚えておくわ。で、私の新しい名前は?」

 ジュウベエはその問いに答えた。


「「レイア・ウェヌス」だ。いい名だろう?」
「いいセンスね」

 「レイア」はそう答えて笑みを浮かべた。

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