複雑・ファジー小説

逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】
日時: 2019/03/12 20:40
名前: マルキ・ド・サド

どうも、いつもお世話になっております。マルキ・ド・サドです。
前々から創作を練っていたどうしても書きたかった新たな小説を書こうと思っています。
ローファンタジー小説『ジャンヌ・ダルクの晩餐』をご覧になって下さりありがとうございます!
皆様のご愛読により私の小説はとても大きな作品となりました。
この感謝を忘れずこれからも努力に励もうと思います(*^_^*)

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、誹謗中傷、不正な工作などは絶対にやめて下さい。

今回のテーマは妖怪が蔓延る暗黒時代を舞台として描かれる戦国ダークファンタジーであり残酷でグロテスクな表現が含まれています。この小説を読んで気分を害した場合はすぐにページを閉じる事をお勧めします。



【ストーリー】

 天正10年(1582年)。謀反を起こした明智光秀の軍が織田信長を襲撃、3万の兵が本能寺に攻めかかる。しかし、突如現れた妖怪の群れが明智軍に襲い掛かり兵達を惨殺、優勢だった軍勢は瞬く間に総崩れとなる。決死の抵抗も虚しく光秀は戦死、本能寺の変は失敗に終わるのだった・・・・・・

 その後、信長は妖怪を操り数々の戦を勝利を収めついに天下を統一、戦乱の世に終止符が打たれ人々は太平の訪れを期待する。しかし、冷酷な魔王の手により治められた大和ノ国は第二の暗黒時代が幕を開ける。そして、とある日の逢魔時の空に響き始めた謎の聲、人々はこの異変を妖怪の巣の叫び、地獄の唸り、神々の呪いであるという噂が流布されるのであった・・・・・・

 天正14年(1586年)。徳川家康の家臣にして『不知火』の一員である若武者『本多忠勝』は奈良の支部にて『柳生石舟斎』と共に武術の修行に明け暮れていた。ある日、そんな彼らの元に真田氏の武将『真田昌幸』が訪れる。妖怪が溢れた天下の事態を重く見た昌幸は不知火の復旧を訴え信長打倒を依頼する。要望を聞き入れ忠勝は日本各地へ出向き織田政権を陰から崩そうとするがその時は誰も知る由もなかった。妖怪に溢れた天下の闇の奥に更なる魔の手が潜んでいる事を・・・・・・


【主な登場人物】

 本多忠勝

 物語の主人公である若き武将。猛将に似合わず白い長髪でおっとりとした面持ちのため一見すると少女にも見えなくない。不知火の復旧、そして太平の世を取り戻すため妖怪を操る信長や七天狗を倒す旅に出る。桶狭間の合戦を戦い抜いた若き日に闇鵺の宝刀である『殉聖の太刀』に触れ呪縛の呪いにかかり手にした時点で当時の年齢が固定され成長が止まっている。髪が白く容姿が幼いのはそのため。


 柳生宗厳(石舟斎)

 柳生一族の長にして剣術『新陰流』の継承者。号は石舟斎。柳生家厳の子。新陰流第2世。妖の討伐の際に踏み入った妖魔の森で忠勝と出会い以後、弟子として彼を育て上げた。彼も不知火に所属する精鋭であり、真田昌幸の訴えにより勢力の復旧を決意、忠勝を日本各地に派遣する。


 織田信長

 第六天魔王と恐れられる尾張国の戦国大名。本能寺の包囲網を際には妖怪を使い明智光秀の軍勢を返り討ちにし、その後も幾度もの戦に勝利を収めついには天下人となる。妖怪による統治を始め人々を恐怖で支配、高等な妖の一族である七天狗を従え多くの配下を大和ノ国各地に配置させている。人ならざる者の力に魅了された彼は自身も魔の血を取り込み半人半魔と化した。


紅葉

信長の側近である妖。武器は妖刀。
両親が第六天魔王に祈った結果で生まれた絶世の美女の鬼女。
源経基に寵愛され一子を宿していたが戸隠山に流された挙句、最後に降魔の剣を手にした平維茂に首を斬られ掛けるなどと痛い仕打ちを受けた為に人間が苦手になった。
信長が第六天魔王と名乗った事で信長の行く末を見届けようと信長の側にいる。息子の経若丸には結構甘いところがある。


 七天狗

 信長に忠を尽くす高等な妖の一族。妖怪である自分達を迫害した人間達を憎悪している。日本各地で暗躍しているがその存在を知る者はなく目的すらも不明。全員が天狗の仮面を身に着けており烏、狼、山猫、猿、狐、狸、熊の計7人で構成されいる。


【不知火の一員】

鈴音

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は笛。
300年以上も大切に扱われた笛が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
人当たりの良い性格から小さい子供達からは慕われている。
争い事を激しく嫌悪するため自ら前線に赴くよりどちらかと言うとサポートに徹する為、戦闘能力はあまり高くない。


海李

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は太鼓。
300歳以上も大切に扱われた太鼓が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
面倒見の良い性格から子供達からは慕われている。
また、鈴音とは元の持ち主が同じで同時期に実体化した為、鈴音とは幼馴染でお互いに好意を寄せている


杉谷 千夜

不知火の一員である人間の忍び。武器は銃器、短刀、焙烙玉。
甲賀で織田信長の支配に異を唱える勢力の所属であり魔王信長を討ち取るべく日々、命懸けの戦いを繰り広げている。
実は甲賀出身ではなく戦で村を追われ生き倒れていた所を甲賀の忍者に保護され杉谷家に養子になる形でくノ一になった。
杉谷善住坊とは兄の様に慕っていたが信長の暗殺未遂で酷い方法で処刑された事により信長に対して恨みを持っている。


滓雅 美智子(おりが みちこ)

不知火の一員である人間の忍び。武器は妖刀。
信長に反旗を翻す反乱軍の一員で甲賀の勢力と同盟を結んでいる。
その為、千夜とは面識があり彼女の事を『千夜ちゃん』と呼んでいるが本人からはあまり受け入れられていない。
忍者ではあるが無用な争いは好まない平和主義者であらゆる物事をスマートに済ませたがる。


ファゼラル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の青年で、常に敬語で話す。敬語を使わないのはカード達くらい。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を非常に大切にしている。
鈴音達と仲が良く音(メロディ)のカードで伴奏を流して上げる事も。


ライゼル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の少女でファゼラルの双子の妹。常に敬語で話すファゼラルに対しライゼルはタメ口で話す。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を大切に思っている。兄ぐるみで鈴音達とも仲が良い。


ゼイル・フリード

不知火の一員である人間の騎士。武器は剣と斧。
よく女の子と間違われやすく女と間違われたり子供だと馬鹿にされるのが極度に嫌う。
英雄のジーク・フリードの子孫にあたり体格に合わずかなりの食欲の持ち主。


蒼月 蒼真(そうつき そうま)

不知火の一員である半人半獣。武器は刀。
父親は人間、母親は妖狐の間に生まれた青年。
不正や悪を嫌う為、信長の政権に嫌悪感を抱いている。
人間妖怪関係なく平等に接しているため子供達からも慕われている。


箕六 夕日(みろく ゆうひ)

不知火の一員である人間。武器は大鎌。
物語を書く事が大好きな文系の青年。端麗な容姿から女性に間違えられる事が悩み。
幼い頃に霧隠の山奥に迷い込み狼の守護霊を拾い家族のように親しくなった。
以後、頼れるパートナーとして常に行動を共にしている。


【用語】

 殉聖の太刀

 忠勝が使用する聖の力が秘められた太刀。かつて室町時代の大和ノ国に訪れた異国の聖女の剣を刀へと打ち直した物。斬った人間や妖怪の霊気を吸収する事で刃の強化、『神力覚醒』が可能。異国の聖女だけが完璧に扱うことができそれ以外の者が触れると呪縛の呪いを受ける。不知火の秘宝でもあり神器の1つとして崇められている。


 不知火

 忠勝が所属している義の名のもとに戦う兵団。日本各地に支部を持ち人々の太平を尊重し民の平穏、調和の安定を目的とする。室町時代に『異国の聖女』、『陸奥重盛(むつ しげもり)』により結成され足利将軍家の影の軍隊として活躍していた。主に妖怪討伐や国の平穏と調和の安定を保たせる事を生業としており1世紀以上も前から大和ノ国の民を守ってきた。室町幕府が滅んだ本作では主君を失い衰退の一途を辿っている。


 夜鴉

 不知火同様、表では知られない秘密の組織。太古から存在しており人と妖怪の調和を目的とする。人が立ち入らない群馬の山奥に拠点を構え結界で身を固めている。戦いを好まず社交的な存在だが妖怪を不当に扱う不知火や織田政権の事はよく思っていない。


 妖怪

 日本の民を恐怖に陥れている人ならざぬ者。原住する者と魔瘴石で生まれた者の2つのタイプが存在する。また、下等、中等、高等の階級があり骸武者や鰐河童、妖蟷螂などの下等妖怪は知能が低く本能のまま人を襲う。鬼や大百足の中等妖怪は強力な力を持ち言葉を話す事も可能。高等妖怪は姿形は人間に酷似しており超人的な頭脳と戦闘能力を備えている。


 大和ノ国

 物語の舞台である妖怪に支配された列島大陸。日本、妖都島、ジパングとも呼ばれる。戦が絶えない戦国の世だったが信長の天下を手中に納めた事によりかつての面影を失い、政は一層に腐敗した。八百万の神々が住む神秘的な国でもあり、不思議な魔力を持つ霊石や宝玉が大量に存在する。


・・・・・・オリキャラの提供者・・・・・・

桜木 霊歌様
妖様
siyaruden様
シャドー様
挿し絵(少し修正しました)は道化ウサギ様からの提供です。皆様のご協力に心から感謝いたします。



以上です。それでは物語の幕を開けようと思います。

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Re: 逢魔時の聲 ( No.27 )
日時: 2019/02/03 20:32
名前: マルキ・ド・サド

「物の怪じゃああ!!」

 妖怪の大群は本能寺内部まで流れ込んでいた。為す術もなく魔物に狩られる武士達の苦痛の悲鳴が絶えず響く。妖怪達は人間の腕を引き千切り脳を抉り内臓を貪る。肉汁が溢れる生臭い血肉の味を堪能していた。

「ひぎゃああ!!」

「ああああ!痛い!やめろぉ!!」

「お、俺の脚がっ・・・・・・!助けてくれぇ!!」

 唯一の逃げ場である門さえ立ち塞がれ隠れる場所もない。最早そこは弱肉強食を絵に描いた餌場だった。

「怯むなぁ!援軍が来るまで戦い抜けぇ!」

 凶暴な妖怪をものともせず正孝ただ1人が勇猛に抗う。襲ってきた骸武者の首をはね大蜘蛛を踏み潰した。妖百足が体に巻きついても力づくで硬い甲皮を胴体ごと引き千切り地面に叩きつける。

「くっ・・・・・・!流石のわしでも長くはもたん!第二陣の連中は何をしておる!?まだ来ぬのかっ!?」

 正孝が峠の方を振り向いた途端、今までの猛威を振るった動きは止まり顔は青ざめる。彼の目の前には巨大な妖怪が聳えていた。口では表現できない醜悪な顔に頭部に生えた2本の角、背丈は大人の3倍もの高さがあり全身の赤い肉体が筋肉で盛り上がっている。冷え固まった正孝を瞳孔や虹彩のない光る眼光で見下ろし唾液を垂れ流す。

「なっ・・・・・・鬼・・・・・・」

 そう呟いた直後、正孝は剛力の腕に捕まり全身を軽々と持ち上げられる。尖った歯を剥き出しにした大口が迫ろうとも抵抗はしなかった。恐怖に飲まれた武将は最期の運命に身を任せ頭を喰われた。


「はあはあ・・・・・・!」

 惨劇の間をすり抜け千夜は秀満を支えながら走る。どこまでも広がる血の祭り、その無限獄に囚われた感覚が正気をかき消し絶望を芽生えさせる。2人を追う妖怪達もすぐ後ろまで迫っていた。

「シャアアアア!!」

 毒霧が渦巻く瘴鬼が牙を突き立てて2人に飛び掛かる。獲物に選んだのは千夜だ。

「きゃあ!」

 千夜は死を覚悟し目蓋をぎゅっと閉ざした。しかし、何故か痛みは感じず血が飛び散る事もなかった。代わりに激しい烈火の音と共に誰かが断末魔を上げた。

「え・・・・・・?」

 千夜は何が起きたのかとおそるおそる目を開いた。瘴鬼は火に飲まれておりその身を燃やし尽くされ灰となる。

「狐火・・・・・・」

「千夜!大丈夫か!?」

 自分を呼ぶ叫びに振り返ると蒼真達が馬の足音を鳴らし駆けつけてきた。炎を帯びた左手に狐火を放ったのは彼だと知った。

「せいっ!」

 夕日も自分の身長よりも長い大鎌を振るう。大振りの斬撃は刀身は当たらずとも衝撃波を発し妖怪の群れを真っ二つに切り裂いた。

「間に合ったみたいですね。あなたが本能寺を抜け出していた事が幸運でした」

 と馬の上で彼は優しく微笑む。

「助かったけど礼は後よ!秀満殿が怪我を負ったの!運ぶのを手伝ってくれない!?」

「でしたら僕の馬に乗せて下さい。あなたは蒼真君と一緒に」

 千夜は夕日の手を借り秀満を馬の乗せ彼女自身も蒼真の後ろに跨った。死地から逃れるため彼らは直に全滅するであろう第一陣を残し峠の方へ後退する。

「助けに来たのはあんた達だけ?第二陣の部隊はどうしたの?」

 千夜の問いに蒼真は正面から目を逸らさず

「俺達の部隊は援軍として光秀様の元へ向かわせた。俺達も行くぞ?ファゼラルやライゼル、鈴音と海李が危ない」

「何だと!?妖は後ろからも来ていたの!?」

「明智軍は包囲されている俺達はまんまと信長の罠にはまったんだ。腹の虫が収まらないがこの戦、奴の勝ちだ」

「悔しがるのは後よ!まずは皆と合流しましょう!」

「飛ばすぞ!しっかり掴まってろ!」


 光秀率いる第三陣も総崩れとなっていた。八方を塞がれ抵抗も満足にできず僅かな時間で数百の兵が犠牲になる。厚い鎧で身を固める親衛隊も歯が立たずいとも容易く命を奪われていく。

「皆の者!武士の意地を見せつけよ!」

 中心で光秀が刀を振るい奮戦していた。牛鬼を斬り捨て百目蛇を蹴散らし猛将の活躍ぶりを見せる。その近くで鈴音と海李は苦戦を強いられていた。1人は戦闘を得意としない彼らだがかろうじて持ちこたえている状態だ。

「喰らえ!!」

 海李が太鼓を鳴らして落雷を落とし敵を一掃するが妖怪は怯まずぞろぞろと湧いて出てくる。

「ひっ・・・・・・!わ、私はどうすれば・・・・・・きゃ!」

「鈴音!」

 鈴音に振り下ろされた血濡れの刃を太鼓鉢で受け止め押し倒す。倒れた骸武者に馬乗りになり何度も鉢で叩きつけ腐り切った頭蓋骨を砕いた。

「海李くん危ない!」

 警告の叫びにはっとした海李は顔を上げる。大型の妖怪が束になってこちらに突っ込んでくるのが見えた。一体の化け物を殺すのに夢中でうかつにも油断していた。

「しまっ・・・・・・!」


「大地を揺るがし彼者の止めとなれ!アース!」

「我の思う者を撃ち抜け!ショット!」


 どこからか男女が叫んだ。同時に地面が盛り上がり妖怪達は宙に打ち上げられ光弾の餌食となった。鈴音は声がした方へ視線を向け相好を崩し

「ファゼラルくん!ライゼルさん!」

 タロットカードを片手に安堵の面持ちをしたマーシャ兄妹がいた。更に後方からはちょうど千夜と蒼真、夕日の姿も確認できた。

Re: 逢魔時の聲 ( No.28 )
日時: 2019/02/12 21:34
名前: マルキ・ド・サド

「危機一髪でしたね?怪我はありませんか?」

「あたし達が来たからにはもう安心だからね」

「よかった・・・・・・!皆さんも無事だったんですね!」

「ありがとう、危ないとこだった。だけどさ?本能寺を攻めるはずのお前らがどうしてここにいるんだ?」

「こちらは信長を追い詰めたんですが惜しくも妖怪の襲撃に遭い第一陣は壊滅しました。そして、あなた達がいる第三陣も襲われているとという知らせを耳にし助けに来たという訳です」

 ファゼラルが説明を丁寧に述べる。

「妖怪達に苦しめられていたのはそっちも一緒だったのか!?」

 海李が驚いてライゼルも実に不機嫌な口調で

「ホント嫌になっちゃうよね。信長を討ち損ねただけじゃなくこうもあっさりと戦況を覆された。流石は第六天魔王、こんな奇術を隠していたなんて」

「おいお前ら、気楽に立ち話してる場合じゃないだろ。今はこの状態をどう抜け出すかに専念しろ」

 蒼真が冷静に皆をまとめ緊張感を保たせる。そこへ総大将である光秀が馬を走らせて来た。

「蒼真殿!無事であったか!」

「俺は大丈夫です。光秀様こそ怪我はありませんか?」

「某の心配は無用じゃ。して、信長様の首は取って参ったのか?」

 その質問には千夜が頭を横に振り

「いえ、残念ながら信長は死んでいません。奴には妖の護衛がついていていかなる手段を用いても傷一つ負わせられませんでした。そこへ妖怪が現れ第一陣は壊滅、秀満殿も負傷し逃げなかった正孝殿は・・・・・・恐らく・・・・・・」

「さようか・・・・・・我が軍はそこまで甚大な被害を被っていたとは・・・・・・最早、勝ち目などないのであろう・・・・・・こうなっては仕方がない。此度は負けじゃ。されど、お主達の働きは大義であったぞ。かくなる上は・・・・・・!」

光秀は何かを決意し力強い声を周囲に張り上げた。

「者共聞けぃ!まだ戦える者は我に集い最後の抵抗を共にせん!どの道死ぬ定めなら大人しく犬死せず堂々と戦って死ね!」

「光秀様、何をなさるおつもりで!?」

「蒼真殿、某は残った部隊を率い包囲網に穴を空ける。お主は仲間を連れて逃げられよ。甥(秀満)の事、しかと頼みましたぞ」

「そ、そんな!危険過ぎます!光秀様もここで死ぬ必要はありません!一緒に逃げましょう!」

 鈴音が必死なって考えを改めるよう促すが

「某は主君を裏切り忠を捨てたただの反逆者、例え生き永らえても平穏な暮らしは送れますまい。ならいっそ、1人の武士として花のように散りゆくのみ」

「そんな事はありません!光秀様は泰平のために戦った誇り高き武将!こんな死に場所、あなたには相応しくない!」

千夜も同じ思いで訴えるが光秀は微笑んだだけで頷こうとはせず

「某は年老いた男、老兵は若き兵を守る義務がある。鈴音殿、千夜、お主ら不知火の精鋭こそこれから必要不可欠になる人材、この誤った世を正せるのはお主達だけじゃ」

「で、でも・・・・・・!」

「蒼真殿、最早一刻の猶予も残されておらぬ。手遅れになる前にこの頼みを聞いてもらえぬか?某からの最後の命令を・・・・・・!」

「・・・・・・承知しました。ファゼラル、ライゼル!鈴音と海李を馬に乗せろ!」

「分かった!さあ、あたしの後ろに乗って!早く!」

「嫌です!光秀様!どうか考え直して下さい!自分の命を大事にして!」

 嫌がる鈴音を海李が強引に引きずりライゼルが引っ張り上げる。

「よし、後はこの者達を逃がすだけじゃな・・・・・・全軍!突撃ぃ!!」

 明智勢は最後の猛攻に乗り出し妖怪の群れに打って出た。武士達は刀や槍を突き立て体当たりし前へ前へと押し返していく。戦闘の列が呆気なくやられてもその屍を踏み越え次の列が攻撃を仕掛ける。蒼真も夕日も加勢し共に奮戦する。

 1万を超す兵がたった数百の小勢に減った頃、包囲網に一瞬、隙間が空いた。その機を逃さず蒼真達は隙を突いて地獄の網から抜け出した。妖怪達は外に出た者達を追おうとはせずこれ以上獲物を逃がすまいと中に取り残された人間達を再び取り囲む。兵が次々と手にかけられる中、光秀が刀を掲げ叫んだ。

「お主らと共に戦えた事、黄泉に行っても決して忘れぬ!天下泰平の使命、お主達に託しましたぞ!」

 その言葉を最後に鬼に捕まり馬から引きずり降ろされた。鎧を剥がされ胸を抉られ臓器の1つ1つを千切られる。死ぬ間際まで彼は苦痛に音を上げる事はなかった。

「光秀様ああ!!」

「泣くな鈴音!早く行くぞ!光秀様の死を無駄にしてはいけない!」

 蒼真達は馬を走らせ振り返らずに戦場から離脱した。京の都の外れを行き夜の林道を走り抜ける。耳を塞いでも聞こえてしまう地獄の悲鳴もやがて聞こえなくなった。それは自分達を逃がし生かしてくれた人間達が全て息絶えたのだとその場にいた全員が悟っていた。

「これからどうします?ひとまず森に潜んで休息し朝が来るのを待ちますか?」

 夕日が隣を走る蒼真に問いかけた。

「だめだ。いくら危機を脱したとはいえここは危険だ。妖怪達が追って来ないとも限らないし総大将が狙われたとなれば信長の本隊だって血相を変えて集まって来るはずだ。まずは京を去り奈良へ向かおう。隠れ家に戻ってこの事を『石舟斎』様に報告するんだ。そして、『あいつ』にも・・・・・・」

「あいつ・・・・・・そうですね。『殉聖の太刀』を扱う彼は僕達にとって最後の切り札ですから。それはそうと、信長が死を免れた事でこの国は一層乱れ始めるでしょう。さっきも言いましたが本当の地獄はこれからです」

「そうだな。ここからが本当の戦いだ。そして俺達はその悪夢を終わらせられる唯一の希望なのだろう。かなりの重荷だが俺達がやるしかない・・・・・・」

「できますよ。例え死にかけても生きていれば好機は必ず巡って来ますから。僕はそれに賭けます」

 不知火の精鋭達は走る速さ緩めず森の中へと姿を消した。

Re: 逢魔時の聲 ( No.29 )
日時: 2019/02/20 20:23
名前: マルキ・ド・サド

 6年後・・・・・・ 

 天正16年(1588年) 霧隠の山奥


 そこは緑の草や木々が生い茂る深い森の中だった。白い霧が風と共に吹きそこにある自然の全てを包み込む。空も雲行きが怪しく黒い暗雲が立ち込め今にでも激しい雨が降りそうだ。遠くでカラスに似た鳥の鳴き声が聞こえる。

 茂みの中から一匹の野兎がひょっこりと顔を出し鼻をひくひくと動かし霧で見えない世界を見渡した。兎は草の塊から這い出し近くにあった草花を食べ始める。しかし、どうしたのか花をかじるのをやめ反射的に顔を上げた。冷たい風にさらされながらじっとして動かない。何かの気配に気づいたらしい・・・・・・が何も聞こえない。

 その時だった。

 バサアッ!と勢いよく草を掻き分ける音がいきなり鳴り響いた。何かが茂みの中から飛び出して来たのだ。兎はあまりの驚愕に跳ね上がると茂みの中へ逃げ込んだ。現れたの10代を直に終える年頃の少年だった。風になびく髪の色は白く優しい顔立ちをしていた。上は白で下が黒の剣道着姿、銀色に輝く長い刀身の太刀を両手に握りしめる。

「はあはあ・・・・・・!」

 少年は何度も息を吐き顔の汗を地面に垂らす。何かと戦っているのかそれとも逃げているのかは分からない。武器を落とさぬようしっかりと手に力を入れ警戒を緩めなかった。何もないと確信すると急いで獣道を走り抜ける。

 ある程度走ると少年は木の裏に滑り込むように隠れた。目を大きく見開いて息を殺し何かを探していた。やがて落ち着きを取り戻し汗が冷え始める。ここには何もないと確信したのか影から出て先を行く。再び後ろを気にしながら必死に走りながら茂みをいくつも飛び越えて先ほどと同じように隠れた。また、緊張で息が荒くなる。

「大丈夫・・・・・・呼吸を整えて、落ち着くんだ。僕ならできる・・・・・・!」

 少年が小さく声に出して自分に言い聞かせた。彼は"はあーっ"と大きく息を吐き刀を握り直す。油断を許さぬままそっと木から顔を覗かせまた草原に出て霧の風を浴びた。

「・・・・・・!」

 その瞬間、少年は何かの音に気がついた。とっさの反応で背後を素早く振り向くと遠くない木々の間で動く何かを捉えた。目に映ったのは影だけだったが誰かがいる事は確実だった。少年は目を鋭くして動きがあった方を睨み刀を構え刃先を正面に向ける。

「はあ・・・・・・はあ・・・・・・」

 緊張が高まり息がだんだんと乱れてきた。それを無理に抑えつけ今の状況に集中し頬を伝る汗を気にせず一歩、また一歩と足を前に近づける。すると今度は後ろで同じ音がした。さっきよりも近い。少年はビクッと体を硬直させ殺気を感じた。振り向くと同時に刀を横に振るう。

 しかしそのひと振りはいとも簡単に受け止められてしまった。少年の目の前にいたのは体格のいい男だった。自分より背の低い子供を殺意の形相で見下ろしている。そして同じく刀を手にしていた。

「くっ・・・・・・!」

 少年は苦戦を声で表し相打ちになった刀を遠ざけ自身も後ろへ飛び下がった。態勢を立て直すとすぐに突撃し先制を仕掛ける。

「せいっ!」

 男の勢いのある力強い声を上げ容赦ない攻撃を仕掛ける。少年は斬撃をかわし同時に背後へ回り込む。そして太刀を振り上げ無防備な背中を斬ろうとしたが

「・・・・・・げふっ!?」

 急に脇腹に硬い衝撃が走った。男は目にも止まらぬ速さで左の肘を打ち込んでいたのだ。少年は何が起きたのかすぐには理解できなかった。ただ、痛みに耐えられず怯んだままフラフラと情けなく下がり背を木に打ち付ける。

「りゃああっっ!」

 男が止まらずこっちに向かってくる。相手に反撃する隙を与えず横に構えていた刀を斜め上に斬り上げた。少年は紙一重で何とかその一撃をかわした。代わりに体を受け止めた背後の木が見事に一刀両断、結構な太さのある幹は滑らかに切り裂かれ地面にずれ落ちる。葉をつけた上半身は倒れ大きな音を鳴らした。隠れていた鳥達が一斉に飛び立つ。

 少年は男から逃げるように離れ間を開けると再び武器を構える。脇腹に喰らった一撃が仇となり思うように動けない。奥底からくる苦痛で視界が霞む。

「来い」

 男が堂々と短く言い放つ。あれだけ激しい戦いぶりを見せても相手は息の乱れすらなかった。余裕の表情で軽く口をにやつかせる。

「・・・・・・」

 少年は歯を食いしばり緊張と痛みに耐える。全身が震え体力も気力も限界に近い状態だったが最後の力を振り絞る。また走って相手に斬りかかり必死に抗った。

「うおおっ!」

「せぃやっ!!」

 2人の刃が三度交わり甲高い金属音が響いた。火花も散らしながら力強い一撃一撃が互いの手に伝わる。両者共、攻め、守りを末永く繰り返した。決着のつかない激しい斬り合いの末、やがて唾競り合いとなる。少年は負けまいと全身に力を入れ刀を押し付ける。

「甘いっ!!」

 男は突如、刀身を傾けた。あっさりと刀を離し身体を横にずらす。少年は相手の戦法にはまり不覚にも前に倒れ込むようにバランスを崩した。

「・・・・・・しまった!」

 その声と蹴り倒されるのが同時だった。持っていた刀も落としてしまい激しく地面に倒れ込む。空から真剣が頭に向けて落ちてくるのが見えた。

「うわあああっ!!」

 目を大きく開き少年は恐怖に叫んだ。額に刀身が当たる。

Re: 逢魔時の聲 ( No.30 )
日時: 2019/03/12 09:46
名前: マルキ・ド・サド
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1105.jpg

 しかし、刃は皮膚や骨にはめり込まず真上に跳ね返った。額の奥まで殴られた痛みと衝撃が走る。刃ではなく切先の裏で叩かれたのだ。

「いてて・・・・・・」

 落命を免れた少年はゆっくりと体を起こし悔しそうに視線を上に向けた。

「どうだ?剣の腕はまだまだ俺の方が上だな」

 勝負に勝った男は人が変わったように表情を緩めて言った。負けた相手を見下ろしたまま刀を鞘に納める。

「『忠勝』、お前の腕はなかなかいいが、いささか力に頼り過ぎだ。気を楽して戦え。もっと技を重視するんだ」

 忠勝と呼ばれた少年は素直に"はい・・・・・・"と力なく答え立ち上がる。落とした刀を拾い鞘にしまうと深くお辞儀をする。

「石舟斎様の助言、参考にいたします。いつか僕もあなたのよう強くなりたい」

「ふっ、このまま稽古を続けていればなれるさ。そろそろ帰ろう。霧がさっきよりも濃くなってきた」

 石舟斎の言う通りさっきよりも森は白く包まれていた。穏やかだった風も荒くなり木々の間から吹き込んでくる。

「そうですね・・・・・・帰り道が分からなくなりそうです」

 忠勝もまだじんじんと痛みが残った額を押さえ左右を交互に見た。

「気をつけた方がいい。妖怪はこういう時に姿を現すからな。行くぞ?」

 2人は決着が着いた草原の広場を後にする。

「妖怪と言えば石舟斎様は鬼を見た事はありますか?」

 忠勝は普段の通りの口調で聞いた。

「ああ、目にした事があるし戦った事もある」

「本当ですか!?」

 まだ若い少年の驚きが森の中に木霊する。隣を歩く男は頷いたついでにその思い出話を語り始めた。

「これは数年前の話だ。俺は妖怪討伐の依頼を受けここではないある森へと足を踏み入れた。そこに鬼はいた。かなりの怪力の持ち主で大太刀を片手で軽々と振り回せるほどだった。戦意は奴の方が上手、反撃する隙も与えられず俺は劣勢に追い込まれていったよ」

「それでその後はどうなったので!?」

 忠勝は早く先が聞きたいと続きを促す。

「ろくに抵抗も出来ずに無残に殺されるのかと覚悟したが転機が訪れたんだ。鬼の振り下ろした太刀が運よく木にめり込み抜けなくなった。今思えばあれは天の助けだったな。俺はその好機を逃さず渾身の一撃をお見舞いしたんだ。鬼は腕を失いこの世の物とは思えない悲痛の叫びを上げた。そのまま止めを刺そうとしたが奴も大人しく殺されまいと必死の抗いを見せ続けた。俺を突き飛ばして森の奥へと逃げたが追う事はなかった。手負いの獣ほど危険なものはなかったからな」

「石舟斎様にそんな過去が・・・・・・」

 話を聞き妖怪の恐ろしさを改めて実感する。忠勝は体が震え冬のような寒気を感じた。


「やっと帰って来れたな」

 男が十数分ぶりに口を開いた。山道をしばらく歩いてようやく何かが見えてきた。高い囲いの中心に閉ざされた大きな門、その上に建物の屋根が出ていた。

「汗を洗い流してゆっくり休みましょう。僕が湯を沸かしますので」

「その前に額に薬を濡れ。結構な力で叩いたからな。まだ痛むだろ?」

 忠勝が重い扉を開き2人は中に入る。敷地内は結構な広さだった。建物は屋敷となっており大勢が訓練できそうな道場と繋がっている。手入れが施され庭には松の木の真下に池があり鯉が自由に泳いでいる。手前はいくつかの野菜が植えられた畑となっていた。

「おお!やっと帰って来たか!石舟斎・・・・・・そして忠勝!」

 門の開く音に引き付けられ1人の少年が出迎える。彼は帰って来たばかりの2人に手を振り駆け寄って来た。稽古の最中だったのか右手に太い木刀を握りしめている。着ていた剣道着は汗で濡れていた。

「お前も鍛錬に明け暮れていたのかゼイル。お前には感心させられる」

 石舟斎と呼ばれた男は"ふっ"と笑みを浮かべる。

「俺は仲間を守るためにもっともっと強くなりたいんだ!そっちこそまた森で忠勝と修行してたのか?」

「ああ、腕はまだまだ未熟だが近いうちに立派な剣客になれるだろう」

「ただいま、ゼイル」

「お帰り。さてはお前、また負けたんだろ?たまには俺と手合わせしようぜ?俺がとことん鍛えてやるからさ」

 ゼイルは頼れる笑顔を作りにっとはにかんだ。服の袖で額を拭うと修行の続きをするため再び道場の方へ去って行く。すると彼は後ろを振り返り

「そういえば客人が来ていたぞ?石舟斎、あんたに大事な用があるそうだ」

「・・・・・・客人?こんな所にわざわざ誰が訪れたんだ?」

 石舟斎が目を丸くし建物に視線を向けると彼に手招きする人間の姿が見えた。

「今帰ったのか御二方。来てもいなかったから勝手に寛がせてもらっていたところだ」

 道場の戸のない廊下に座っている男が2人の帰りを待っていた。年は30代くらいで、背が高く眼差しも鋭く立派な口の上と下に生やした髭が猛者の雰囲気を漂わせる。彼も刀を所持しておりそれを床に置いていた。

「久しぶりだな柳生宗厳。いや、今は石舟斎と呼ぶべきか・・・・・・」

 男は宗忠の隣にいた男に話しかける。

「これはこれは、『真田昌幸(真田幸村の父)』殿。よくお越し下さった」

 石舟斎は恐れ多そうに頭を下げた。

「いらっしゃいませ」

 忠勝も明るい態度で石舟斎と同じ素振りをする。

「久しぶりだな忠勝、少し見ない間に随分と成長したな?元気にしていたか?」

「はい、お陰様で。大変な毎日ですが何事もなく元気に過ごしておりました」

 それを聞いて昌幸は愉快に笑った。

「はっはっは!そうか!相変わらず礼儀正のなった子だ!石舟斎よ、いい男子を弟子にしたものだな!」

 石舟斎もつられて笑い差していた刀を忠勝に預けると上機嫌な客人の隣に座る。

「ただいまお茶を持ってきますのでしばしお待ち下さい」

 忠勝は急ぎ客をもてなす準備に取り掛かる。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.31 )
日時: 2019/03/12 20:51
名前: マルキ・ド・サド

 茶菓子の用意を済ませた忠勝は汗で濡れた戦服を洗濯場へと脱ぎ捨てた。下着一枚で階段を上り自分の部屋へ足を運ぶ。布で全身の汗を拭きとり棚にあった普段着へと着替える。身なりを整え隅にあった鏡を見た。

「うう・・・・・・これは酷い・・・・・・えっと、薬はどこか・・・・・・あった」

 映った自身の顔を見て宗忠は苦い顔をする。剣先の裏で叩かれた箇所は丸い小さな痣となり青く変色し始めていた。早速、ドロドロとした液体の薬を指ですくい怪我した部分に塗り込む。さっきまでとは違うヒリヒリとした痛感が伝わる。

「よし、次はお湯を沸かさないと・・・・・・水も入ってないか・・・・・・」

 部屋を出て階段を下り今度は男専用の風呂場へ向かう。浴室は大きな桶がいくつも並んでいるが蓋を開けると中身がない。忠勝は残念そうに桶を覗きすぐさま外へ出ようとすると

「うわっ!びっくりした・・・・・・なんだ忠勝じゃないか。もう修行から帰って来たのか?」

 先に井戸がある裏口で海李と出くわした手には水がいっぱいに溜まった桶を手にしている。

「そうだけど、あれ?海李もお風呂を沸かそうとしていたの?」

 忠勝が首を傾げ尋ねる。

「まあな、山菜採りから体が汚れちまったからな。ここにいるって事はお前も入るんだろ?」

「うん、ちょうど僕も石舟斎様と自分の分を沸かそうとしてたんだ」

 すると海李は疲れを感じさせないやる気に満ちた口ぶりで

「だったら俺達で風呂を沸かさないか?一緒にやった方が早いだろう」

「えへへ、実は僕も同じ事考えてた。海李が手伝ってくれるなら心強いよ」

 2人はまず井戸まで行き桶に水を汲み交互に浴槽に流し込む。それを幾度も繰り返し時間が掛かる作業に再び汗が滲み出てきた。3人分の浴槽にやっと水が溜まると最後に釜に紙くずと薪を入るだけ詰め火をつける。燃え始めに竹の筒で空気を送り更に火力を高め水を湯へと温めた。

 仕事を終えた忠勝と海李は地べたに座り込み疲れ果てた声を上げた。気紛れに一室にあった窓の隙間に視線を向ける。明るかった外はいつの間にか夕暮れを過ぎようとしていた。夕方のうす暗くなった時分を逢魔時(おおまがとき)と言う。赤く染まった夕日は黒い雲に埋め尽くされ空は不気味に彩り始める。一時もしないうちに夜が訪れひとならざる妖が跋扈する世界へと移り変わるだろう。

「もうすぐ夜だね?」

「だな・・・・・・夜の山は本当に気味が悪い。こういう場所、昔から苦手だったんだよな〜」

 海李は所々が赤い暗雲の空を眺め顔をしかめる。

「じゃあ、僕はお風呂の準備ができたって石舟斎様に知らせて来るよ。海李は先に入ってて」

「おう、悪いな。1番風呂は俺がもらうぜ!」


 忠勝は浴槽の準備ができた事を知らせに向かい道場の廊下に石舟斎はいた。しかし、茶の椀や菓子入れが空になった後も彼はまだ昌幸と会話を続けていた。内容は上手く聞き取れなかったがその表情からは重苦しい深刻な雰囲気が漂う。

「あの、石舟斎様?」

 忠勝は恐縮しながらも2人の会話に割り込んだ。石舟斎は立ち尽くす弟子を見上げ軽く微笑を浮かべた。

「おお、忠勝か。どうした?」

「浴槽の準備が整いました。その事を知らせに・・・・・・」

「そうか、ご苦労だったな。だが、その前にちょっといいか?ちょうどお前に大事な用があった所だ。ここに座れ」

 忠勝は少々困惑しながらも素直に"はい"と返事し石舟斎の隣に正座の形で腰かけた。ひんやりとした涼しい風が吹き夜が刻一刻と迫る。3人はどこからか鈴虫が鳴く庭の景色を眺めた。

「そろそろだな・・・・・・」

 ふと、昌幸が不可解な台詞を口にし石舟斎と共に空を見上げた。忠勝は何も聞かず黙したまま2人の行動に合わせる。視界にはいつもと変わらない逢魔が時の空が広がっていた。消えかかった夕日を覆い隠す雲は黒く淀んでいる。それが一層不気味に色づき始め風の音が止んだ時だった。



『イタイヨ・・・・・・タスケテ・・・・・・クルシイ・・・・・・』



 どこからともなく聞こえた聲が空に響き渡った。誰が発しているのか不明だが正体はまだ幼い少女を思わせる。口調は静かで落ち着ているが今にも息が絶えそうに助けを求めている。聲はしばらく痛みを訴えるとやがて言葉を絶ち空に再び静寂が訪れた。

「止んだか・・・・・・本当に気味が悪い・・・・・・」

 寒気にかられた昌幸が体を縮こませ震えた声で言った。

「この時刻になるといつも誰かの聲がどこからか聞こえてきますよね?一体何が起きているのでしょう?」

 忠勝もこの奇怪な現象には慣れ切れない様子だった。

「さあな、信長が天下を治め大和ノ国を支配してから奇怪な事が起こり過ぎている。今の聲だってそうだ。配下の情報によれば国の各地でも聞こえているらしい。民の間では妖怪の巣からの叫びだの地獄の唸りだの神々の呪いだのと様々な噂が流布している。俺自身もこれから何かが起こりそうで不安でしょうがないのだ」

「確かに昌幸殿が仰る通りただ事でないのは確かです。信長が覇者になってからというもの、日ノ本は狂うように変わった。この異変もあの男が関与しているのかも知れませんな」

 冷静沈着に空を見上げる石舟斎に昌幸は真剣な顔で

「石舟斎、このままではこの国は最悪な結末を迎えてしまうだろう。これ以上、政が乱れる前に行動を起こさねばならぬ。何卒、不知火を復興させてくれまいか?天下の調和を守れるものはこの組織より他はあるまい」

 そう強く訴えるが、石舟斎は肯定しかけているものの落ち込んだ面持ちを作り

「室町の政権が滅ぼされ成員のほとんどが粛清された。そして、かつては名を轟かせていた天下人達の兵は最早、信長の手駒・・・・・・例え復興できたとしても不知火はかつてのような強大な勢力にはなりえますまい」

「いとも簡単に諦めるなど柳生一族の長らしくないぞ?国の各地には信長に抵抗せんと集う者達も少なからずいる。その方らと手を組めば・・・・・・」

「その程度では信長の勢力に対抗はできませぬな。織田の兵力は今や200万を超える。そして奴には人ならざる妖の大軍までついていましょう。我らの兵力だけで戦えば犬死は確実ですな」

「じゃあどうすればよいのだ・・・・・・俺達はこのまま暗黒時代に飲まれ国が腐敗していく様を指をくわえて見ているしかないのか・・・・・・忠勝、お前はどう思う?」

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