複雑・ファジー小説

逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】
日時: 2019/04/03 16:38
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

どうも、いつもお世話になっております。マルキ・ド・サドです。
前々から創作を練っていたどうしても書きたかった新たな小説を書こうと思っています。
ローファンタジー小説『ジャンヌ・ダルクの晩餐』をご覧になって下さりありがとうございます!
皆様のご愛読により私の小説はとても大きな作品となりました。
この感謝を忘れずこれからも努力に励もうと思います(*^_^*)

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、誹謗中傷、不正な工作などは絶対にやめて下さい。

今回のテーマは妖怪が蔓延る暗黒時代を舞台として描かれる戦国ダークファンタジーであり残酷でグロテスクな表現が含まれています。この小説を読んで気分を害した場合はすぐにページを閉じる事をお勧めします。



【ストーリー】

 天正10年(1582年)。謀反を起こした明智光秀の軍が織田信長を襲撃、3万の兵が本能寺に攻めかかる。しかし、突如現れた妖怪の群れが明智軍に襲い掛かり兵達を惨殺、優勢だった軍勢は瞬く間に総崩れとなる。決死の抵抗も虚しく光秀は戦死、本能寺の変は失敗に終わるのだった・・・・・・

 その後、信長は妖怪を操り数々の戦を勝利を収めついに天下を統一、戦乱の世に終止符が打たれ人々は太平の訪れを期待する。しかし、冷酷な魔王の手により治められた大和ノ国は第二の暗黒時代が幕を開ける。そして、とある日の逢魔時の空に響き始めた謎の聲、人々はこの異変を妖怪の巣の叫び、地獄の唸り、神々の呪いであるという噂が流布されるのであった・・・・・・

 天正12年(1584年)。徳川家康の家臣にして『不知火』の一員である若武者『本多忠勝』は奈良の支部にて『柳生石舟斎』と共に武術の修行に明け暮れていた。ある日、そんな彼らの元に真田氏の武将『真田昌幸』が訪れる。妖怪が溢れた天下の事態を重く見た昌幸は不知火の復旧を訴え信長打倒を依頼する。要望を聞き入れ忠勝は日本各地へ出向き織田政権を陰から崩そうとするがその時は誰も知る由もなかった。妖怪に溢れた天下の闇の奥に更なる魔の手が潜んでいる事を・・・・・・


【主な登場人物】

 本多忠勝

 物語の主人公である若き武将。猛将に似合わず白い長髪でおっとりとした面持ちのため一見すると少女にも見えなくない。不知火の復旧、そして太平の世を取り戻すため妖怪を操る信長や七天狗を倒す旅に出る。桶狭間の合戦を戦い抜いた若き日に闇鵺の宝刀である『殉聖の太刀』に触れ呪縛の呪いにかかり手にした時点で当時の年齢が固定され成長が止まっている。髪が白く容姿が幼いのはそのため。


 柳生宗厳(石舟斎)

 柳生一族の長にして剣術『新陰流』の継承者。号は石舟斎。柳生家厳の子。新陰流第2世。妖の討伐の際に踏み入った妖魔の森で忠勝と出会い以後、弟子として彼を育て上げた。彼も不知火に所属する精鋭であり、真田昌幸の訴えにより勢力の復旧を決意、忠勝を日本各地に派遣する。


 織田信長

 第六天魔王と恐れられる尾張国の戦国大名。本能寺の包囲網を際には妖怪を使い明智光秀の軍勢を返り討ちにし、その後も幾度もの戦に勝利を収めついには天下人となる。妖怪による統治を始め人々を恐怖で支配、高等な妖の一族である七天狗を従え多くの配下を大和ノ国各地に配置させている。人ならざる者の力に魅了された彼は自身も魔の血を取り込み半人半魔と化した。


紅葉

信長の側近である妖。武器は妖刀。
両親が第六天魔王に祈った結果で生まれた絶世の美女の鬼女。
源経基に寵愛され一子を宿していたが戸隠山に流された挙句、最後に降魔の剣を手にした平維茂に首を斬られ掛けるなどと痛い仕打ちを受けた為に人間が苦手になった。
信長が第六天魔王と名乗った事で信長の行く末を見届けようと信長の側にいる。息子の経若丸には結構甘いところがある。


 七天狗

 信長に忠を尽くす高等な妖の一族。妖怪である自分達を迫害した人間達を憎悪している。日本各地で暗躍しているがその存在を知る者はなく目的すらも不明。全員が天狗の仮面を身に着けており烏、狼、山猫、猿、狐、狸、熊の計7人で構成されいる。


【不知火の一員】

鈴音

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は笛。
300年以上も大切に扱われた笛が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
人当たりの良い性格から小さい子供達からは慕われている。
争い事を激しく嫌悪するため自ら前線に赴くよりどちらかと言うとサポートに徹する為、戦闘能力はあまり高くない。


海李

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は太鼓。
300歳以上も大切に扱われた太鼓が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
面倒見の良い性格から子供達からは慕われている。
また、鈴音とは元の持ち主が同じで同時期に実体化した為、鈴音とは幼馴染でお互いに好意を寄せている


杉谷 千夜

不知火の一員である人間の忍び。武器は銃器、短刀、焙烙玉。
甲賀で織田信長の支配に異を唱える勢力の所属であり魔王信長を討ち取るべく日々、命懸けの戦いを繰り広げている。
実は甲賀出身ではなく戦で村を追われ生き倒れていた所を甲賀の忍者に保護され杉谷家に養子になる形でくノ一になった。
杉谷善住坊とは兄の様に慕っていたが信長の暗殺未遂で酷い方法で処刑された事により信長に対して恨みを持っている。


滓雅 美智子(おりが みちこ)

不知火の一員である人間の忍び。武器は妖刀。
信長に反旗を翻す反乱軍の一員で甲賀の勢力と同盟を結んでいる。
その為、千夜とは面識があり彼女の事を『千夜ちゃん』と呼んでいるが本人からはあまり受け入れられていない。
忍者ではあるが無用な争いは好まない平和主義者であらゆる物事をスマートに済ませたがる。


ファゼラル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の青年で、常に敬語で話す。敬語を使わないのはカード達くらい。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を非常に大切にしている。
鈴音達と仲が良く音(メロディ)のカードで伴奏を流して上げる事も。


ライゼル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の少女でファゼラルの双子の妹。常に敬語で話すファゼラルに対しライゼルはタメ口で話す。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を大切に思っている。兄ぐるみで鈴音達とも仲が良い。


ゼイル・フリード

不知火の一員である人間の騎士。武器は剣と斧。
よく女の子と間違われやすく女と間違われたり子供だと馬鹿にされるのが極度に嫌う。
英雄のジーク・フリードの子孫にあたり体格に合わずかなりの食欲の持ち主。


蒼月 蒼真(そうつき そうま)

不知火の一員である半人半獣。武器は刀。
父親は人間、母親は妖狐の間に生まれた青年。
不正や悪を嫌う為、信長の政権に嫌悪感を抱いている。
人間妖怪関係なく平等に接しているため子供達からも慕われている。


箕六 夕日(みろく ゆうひ)

不知火の一員である人間。武器は大鎌。
物語を書く事が大好きな文系の青年。端麗な容姿から女性に間違えられる事が悩み。
幼い頃に霧隠の山奥に迷い込み狼の守護霊を拾い家族のように親しくなった。
以後、頼れるパートナーとして常に行動を共にしている。


【用語】

 殉聖の太刀

 忠勝が使用する聖の力が秘められた太刀。かつて室町時代の大和ノ国に訪れた異国の聖女の剣を刀へと打ち直した物。斬った人間や妖怪の霊気を吸収する事で刃の強化、『神力覚醒』が可能。異国の聖女だけが完璧に扱うことができそれ以外の者が触れると呪縛の呪いを受ける。不知火の秘宝でもあり神器の1つとして崇められている。


 不知火

 忠勝が所属している義の名のもとに戦う兵団。日本各地に支部を持ち人々の太平を尊重し民の平穏、調和の安定を目的とする。室町時代に『異国の聖女』、『陸奥重盛(むつ しげもり)』により結成され足利将軍家の影の軍隊として活躍していた。主に妖怪討伐や国の平穏と調和の安定を保たせる事を生業としており1世紀以上も前から大和ノ国の民を守ってきた。室町幕府が滅んだ本作では主君を失い衰退の一途を辿っている。


 夜鴉

 不知火同様、表では知られない秘密の組織。太古から存在しており人と妖怪の調和を目的とする。人が立ち入らない群馬の山奥に拠点を構え結界で身を固めている。戦いを好まず社交的な存在だが妖怪を不当に扱う不知火や織田政権の事はよく思っていない。


 妖怪

 日本の民を恐怖に陥れている人ならざぬ者。原住する者と魔瘴石で生まれた者の2つのタイプが存在する。また、下等、中等、高等の階級があり骸武者や鰐河童、妖蟷螂などの下等妖怪は知能が低く本能のまま人を襲う。鬼や大百足の中等妖怪は強力な力を持ち言葉を話す事も可能。高等妖怪は姿形は人間に酷似しており超人的な頭脳と戦闘能力を備えている。


 大和ノ国

 物語の舞台である妖怪に支配された列島大陸。日本、妖都島、ジパングとも呼ばれる。戦が絶えない戦国の世だったが信長の天下を手中に納めた事によりかつての面影を失い、政は一層に腐敗した。八百万の神々が住む神秘的な国でもあり、不思議な魔力を持つ霊石や宝玉が大量に眠っている。


・・・・・・オリキャラの提供者・・・・・・

桜木 霊歌様
妖様
siyaruden様
シャドー様
挿し絵(少し修正しました)は道化ウサギ様からの提供です。皆様のご協力に心から感謝いたします。



以上です。それでは物語の幕を開けようと思います。

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Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.50 )
日時: 2020/05/11 19:47
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「殺しちゃえ」

 紬の号令の一言に2体の鬼が凶暴な雄叫びを響かせ、襲いかかった。忠勝達も妖怪と相まみえ、奮闘を開始する。

 先手を打った鬼の金棒をゼイルが戦斧を使い、防ぎ止める。鋼鉄の塊で鍛えられた互いの武器が激しく衝突し、甲高い音と火花が散った。両者とも引けを取らず、互角の力でやり合う。

「力比べか?悪いな。生憎、今はそんな気分じゃねえんだよっ!」

 ゼイルは語尾を強く、戦斧を下に回転させた。重さを支える枷が外れた金棒は地面に落とされ、硬い岩にめり込む。その上に斧が重なり、攻める術を封じられる。

「今だ!!殺れっ!!」

 武装の脅威を取り除いた隙に蒼真はこん棒の上を駆け上がり、妖刀で斬りつける。しかし、刀身の深さは浅く、太い骨を裂く事は叶わなかった。敏速に迫った剛力の拳を直前に防御して一旦は攻めが届かぬ位置へと飛び下がる。

「流石に一筋縄ではいかないようだな。向こうも簡単に命を明け渡してはくれないらしい」

「諦めるな!もう一度攻めるぞ!」

 もう1匹の鬼は豪傑さえも掲げるには至難であろう大太刀を軽々と振り回す。闇雲な斬撃を完全には避け切れず、二刀の妖刀で弾こうとするが、大差ある威力に圧倒されてしまい、美智子は地べたを転がった。上手く受け身の姿勢を取るが、足を崩し倒れ込む。とっさに正面を向き直った時、刀身がカッと開いた目に迫った。回避するには遅過ぎる劣勢に追い込まれ、その表情は固まる。

 しかし、大太刀の思惑は彼女の額に当たる直前に狂った。夕日が瞬時に大鎌で刀身の狙いを強引にずらしたのだ。彼は美智子の肩を掴み、後ろへ引き下がると対峙の間に立ちはだかる。

「怪我はありませんか?」

「え、ええ・・・・・・問題ないわ。助かった」

「無暗にかかっては命取りになります。ここは知恵を絞り、策を講じて攻めましょう」

 数え切れぬ戦いの日々で鍛錬を積んだ精鋭達も超常的な妖怪相手に苦戦を強いられる。人ならざる物の怪の相手はとっくの昔に慣れていた。しかし、予想以上に並外れた異質な力はその経験さえも無意味に等しくしてしまうほど、遥かに圧倒的だったのだ。

 忠勝は幾度となく太刀を振るうも、その全てが掠りもしなかった。紬は身体を逸らして難なく敵の攻撃を繰り返し、かわしていく。息の乱れもない愉し気な面持ち、忠勝はすっかりと遊ばれ、妖のペースに乗せられていた。

「・・・・・・きゃっ!な〜んちゃって。惜しかったわね?」

「くっ・・・・・・!」

 一振りも当てられない苛立ちに忠勝は顔を強張らせる。手練れの技が通用しない現状に焦りが芽生えていた。

 忠勝はもう何度目か数え切れない太刀を振りまくる。すると、ついに刀身は左斜めに紬を捉え、肩から腰を両断したかに思えた。だが、斬った手応えはなく、紬は血を流すどころか、痛がる素振りすらない。傷を負ったその姿は溶けるように歪んで消えた。

「・・・・・・っ!?」

「影よ!」

 千夜が叫び、仕留めた者が分身である事を告げた。

「外れ〜」

 真横から声がし、紬は忠勝の隣に回っていた。反撃させる暇を与えず、かざした手に妖力を宿して撃ち出す。放たれた魔弾が胸に捻じり込み忠勝は吹き飛んだ。地面を転がり押し寄せる仲間の直撃を跳ねて免れ、千夜は手にした2丁の短筒を発砲する。弾は破裂し、火と風が混ぜ合わさった属性の霊力が逃げ場を遮り、紬を巻き込む。千夜の攻撃は標的を捉え、傷を負わせた・・・・・・が、肝心の肉体には痛手を被らなかった。

「面白い術を使うのね?刀を振るう事しか能がない白髪のお侍さんよりは遊び甲斐がありそうだわ」

 紬は火と風の包囲網を容易に消し去ると害を成した千夜を見て、ちょっとばかりの関心を示した。いつの間にか、ドロドロしい光が帯びた妖刀を右手が握っている。

「私のやり方に手加減はない。あなたが楽しめるかは保証できないわよ?」

「ふ〜ん、じゃあそろそろ・・・・・・こっちも本気出しちゃおうかな!」

 紬は穏やかだった形相を鬼の面へと一変させ、加減を捨てる。千夜は次々と繰り出される卓越した太刀筋の先を読み、防いでいく。しかし、攻めの連続が止まらないせいで反撃の機会が回らない。


 鈴音は激しい先陣を掻い潜り、ライゼルの元へ走り寄った。胴体を腕に抱き抱え、安否を確認する。

「ライゼルさん!しっかり!」

「う、が・・・・・・げっ・・・・・・ご・・・・・・」

 全身に受けた打撃が致命的だったのだろう。意識はあるものの、落命まであと寸前の容態だった。何かを伝えようとしているが、吹き出す血が声を妨げ、聞き取りが難しい。

「無理に喋らないで下さい!大丈夫、必ず助けます!」

「ぐああ!!」

 鬼がゼイルを殴り倒し、うつ伏せの背中に拳を叩きつけた。折れた骨がメキメキと砕け、反った体が痙攣をおこす。凄まじい痛感に意識をやられ、泡を吹いて失神してしまう。

「ゼイルッ!くそっ!」

 目の前の惨劇に蒼真は無意識に叫んだ。命の危機に瀕した仲間を助けようと、ゼイルを捻じ伏せる腕に妖刀を喰らわせるが、やはり肉は硬く厚い皮の表面を損壊させただけだった。渾身の一撃も空しく、蒼真も頭を掴まれ、顔面から地面に叩きつけられる。

「がっ・・・・・・ああ・・・・・・」

 鬼は追い打ちをかける事なく、暴力に飢えた唸りを鳴らしながら代わりに戦い慣れていない鈴音を標的にする。主戦力を失った彼女自身も鬼の矛先がこちらに移った事に気づく。しかし、逃げようにも人を引きずって運ぶのは小柄な少女の体では荷が重すぎるのだ。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.51 )
日時: 2020/06/16 20:10
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 鬼は10秒も経たないうちに鈴音とライゼルに追いつく。追い詰められ、身を縮めて腕を顔の前にかざす2人を叩き潰そうとした。掲げた棍棒を振り下ろそうとしたが

「ぐおぉっ・・・・・・!?」

 異変が生じた鬼の裏面に眩い閃光が走った。直後に落雷の如く轟音が響き渡り、硬い巨体は小刻みに震え硬直する。全身に電流が充満していた。

「海李くん!」

 救われた嬉しさに鈴音は破顔した。巨体が痺れ、跪く鬼の背後に雷撃を放ったばかりの海李がにっかりと笑んでいる。

「いつも言ってるだろ!?俺がいるからには、お前に指一本触れさせないってな!今の内にライゼルを連れて逃げろ!」

 麻痺が薄れ、体勢を元に戻した鬼はまんまと不意を突いた海李を睨んだ。機嫌を損ねた妖怪はついには憤怒し、猛烈な雄叫びで怨讐を布告する。

「俺とやる気か!?面白れぇ!かかって来いよ!」

 闘争心で威圧を打ち消し、好戦的な挑発をする。金棒よりも短く脆い小鉢を構え、迎え撃とうとした矢先

「ここは僕がっ・・・・・・!」

 ファゼラルが海李を足止め、彼の前に立った。額から血を流し、片方の目蓋を閉ざしたながらもタロットカードの1枚を取って魔力を増築させる。

「妹を襲った恨みだ!喰らいなさいっ!」

 呪文を唱え、溜まった魔力を解き放った。カードは灼熱の炎を生み、瞬く間に鬼の姿を包み隠す。

「があああああ!!」

 鉄をも溶かす烈火に、燃え盛る鬼は為す術もなく、踊り狂うように藻掻いた。金棒が手から落ちた好機を逃さず、蒼真は鬼も肩に飛び乗る。角を掴み、根元から引っこ抜くと、尖った先端を眼球に突き刺す。

 片目を潰された鬼は別の激痛ににより、再び断末魔のような悲鳴を上げた。血涙が零れる顔を覆い、屈んだ途端、矢の如し一閃が過る。切れ目が入った腹部はパックリと割れ、体内に収まっていた数々の臓器が漏れて出た。最早、呻くしかできない鬼の後ろに赤黒い体液を垂らした剣を持ち、斬った構えを取るゼイルがいたのだ。致命傷を負った事などものともせず、健全な横顔を振り返らせて

「さっきのは痛かったんだぜ?これは骨を折ってくれたお礼だ」

「ぐぇ・・・・・・ごぼっ・・・・・・!」

 喉に込み上げた血を吐き散らし、鬼は倒れた。地べたに横たわった巨体が重い音を立て、小石の破片や砂埃が舞う。

「おいおい!俺が殺りたかったのによ!」

 獲物を横取りされ、膨れる海李に対してゼイルが意地悪な笑みで

「へへっ!早いもん勝ちだぜ!」

 と武功を我が物のように誇るが、呆れた蒼真が横やりをいれる。

「お前だけの手柄だと思うな。皆が一丸になれたからこそ、成し遂げられたんだ。さて、1匹は片付けたな。あとは・・・・・・」


「おおおおぉぉぉ!!」

 鬼は大太刀をがむしゃらに振るい、美智子と夕日を狙う。2人は乱撃を凌ぎ、連携を組みながら互角に張り合っていた。夕日は大鎌で大柄の刀を防ぎ、押して弾き返す。鬼は力負けしのけ反るが、しつこく反撃を続ける。

 面倒を嫌う鬼は手っ取り早く、獲物を狩ろうと威力のこもった一撃をぶつけようとした。しかし、加減のない斬撃は命中寸前に低い体勢を取られた事で刀身は夕日を頭上を擦れ、的は外れる。同時に体を回転させ、無防備な格好に大鎌を当てられてしまう。三日月の刀身は鬼の脚に刺さって骨をも砕き、先端が貫通した。

「ぐおっ!!」

 脚をやられ、鬼は痛みに堪える。足位置をずらし、鎌を無理に引き抜いて血しぶきを飛ばすと大太刀を上段の形に構え、長い刀身を背中まで沿って振り上げた。事態を重く見た夕日は退こうとしたが遅く、致死力を秘めた斬撃を許してしまう。刀身が叩きつけられ、地面が割れて舞い上がった砂埃が霧のように立ち込める。鬼は太刀を握る手に手応えを感じた・・・・・・しかし

「ぐぎゅっ!?」

 砂埃が晴れた時、奇妙な光景に鬼は呆気に取られた。確かに太刀を当てた・・・・・・だがそこにいたのは・・・・・・

「ぐっ・・・・・・痛っ・・・・・・!」

 大太刀は夕日を真っ二つにするとどころか、見事に防ぎ止められていた。彼の姿はあろう事か、二刀で刃に刃を重ねる美智子と入れ替わっていたのだ。彼女は重圧に耐えながら、口の端を上に引きつる。

 鬼はその笑みの意味を悟り、夕日を探したが、既に横側へと回り込まれていた後。焦って撃退しようとするも間に合わず、大鎌で斬られ、脇腹を深く抉られた。

「ぎぃああああ!!」

 鬼は悲鳴を上げるも、命を懸けた戦いに容赦などない。美智子は曲げた脚を伸ばし、高く飛び上がると妖怪の頭部に迫り、折り紙の太刀で喉を貫き止めを刺す。

「がっ・・・・・・ごぇっ・・・・・・げぇぇ・・・・・・」

 鬼は舌を垂らし、枯れた唸りを死に際の言葉にして息絶えた。2匹目の命が散り、鬼は全滅する。


「ほらほらぁ〜、この程度なの?つまんないな〜」

 千夜は単身で紬と一騎打ちの死闘を繰り広げる。次から次へと降り止まない太刀筋の雨を受け流していくも、疲れが気力を蝕み刃が掠る回数が1つまた1つと浅い傷が刻まれていく。勇猛に抗い続けていた千夜だが次第に余裕が薄れ、劣勢に追い詰められつつあった。

(・・・・・・っ!何て素早い剣技なの・・・・・・このままじゃ、やられる・・・・・・!)

 苦しい戦況に露骨に顔をしかめる。

「きゃっ・・・・・・!?」

 途端に千夜は奇声を上げると足を滑らせ、派手に体勢を崩してしまう。連撃から身を守る事だけに気を取られていた。そこをまんまと突かれ、紬は足に足を絡ませて彼女を横転させたのだ。下劣な外法に足元をすくわれた千夜は皮肉な薄笑いでこちらを見下ろす紬を睨んだ。

「ばいば〜い」

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.52 )
日時: 2020/07/02 20:00
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 紬は命への別れを先に済ませ、妖刀で追い打ちをかけようとした・・・・・・が、何者かが前を遮った。刀身は千夜には達せず、斬撃を封じられる。

「い、生きてたの!?このくたばりぞこないがぁ・・・・・・!」

 忠勝が間一髪、仲間を庇い、競り合いに持ち込んだ。望みが断たれて紬は不愉快な面持ちを作り、ギッと唇を強く噛みしめる。前に伸ばした手に妖力を込め、再び魔弾を撃ち込もうとしたが

「・・・・・・ぎゃあ!?」

 そうはさせないと言ったつもりで起こったように、どこからともなく飛んで来た色とりどりの折り鶴の群れに飲み込まれる。その正体は美智子の降神忍法奥義である『千羽嵐穿舞』により召喚した式神だった。知恵の回る戦術も空しく、またしても妨害を被ってしまう。

 折り鶴の尖った嘴は紬の全身の左半分に命中し、1つは片目に深く突き立っていた。眼球の失明に紬は乱心、狂い果てて闇雲に妖刀を振り回すが関節が破裂して、その腕さえも胴体から千切れた。痛がり、絶叫する少女姿の妖怪。忠勝は巧妙な剣捌きで残った片腕と両脚をも切断する。体の自由を奪い身動きを封じると、すぐには殺めず、頸動脈に刀身を当てた。

「あ・・・・・・ああ・・・・・・あ・・・・・・」

 紬は達磨にされ、輪切りの傷口から流れ出た血が足元に溜まって真っ赤な池を溜めた。

「形勢逆転ね」

 千夜は横たわったまま、煙の吹いた銃口を向けながら言った。不利だった立場を覆した事を勝ち誇る。そこへ鬼を撃破した蒼真達が忠勝と千夜の元へ集う。

「凄いぞ!よくやったな!信長の配下である七天狗の1人を倒したんだぞ!」

 勝ち戦にゼイルが胸を躍らせ、歓喜にはしゃいだ。

「危うい状況でしたが、難を乗り越えられましたね。皆さんの戦いぶりは龍を捻じ伏せる猛虎の如くでした」

 夕日も犠牲のない戦火を名誉に仲間の活躍を敬う。海李も得意になって

「仲間を支え合う陣形は弱くねえ。俺達、不知火に敗北はあり得ねぇんだよ。さてと・・・・・・」

「い、いや・・・・・・お願い、殺さないで・・・・・・」

 紬は冷酷だった面影を捨て、女々しく命乞いをする。忠勝達は無慈悲な眼光で無力に至った妖怪を見下ろした。殺戮を楽しんでいた狂喜の人格はなく、そこにいるのは最早、深手を負って泣いているだけの幼い少女だった。

「この期に及んで何を言い出したか。千夜ちゃんにあんな事しておいて、許してほしいなんてどの口が言えるの?」

 美智子が無情な台詞を吐き捨て、千夜が更に苦言を付け足す。

「最初に忠告したはずよ?狩ろうとするなら、狩られる覚悟もあるはずだって・・・・・・」

「ぐすっ・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・」

 紬は泣きじゃくり、兄弟姉妹に届くはずもない助けを求める。その場面に精鋭達は微かに良心の呵責に苛まれた。

「高等妖怪も手足をもがれ、力を奪われたらただの人間みたいだな。くそっ、殺すのがだんだんと可哀想になってきたぜ・・・・・・」

 情はゼイルにも移り、敵である錯覚が薄れていく。その思いは夕日も同じだった。

「戦いに身を投じる度、憎しみを通り越して哀れを感じる事が幾度もありました。勝とうが負けようが、残る物は切なさと後悔だけ・・・・・・」

「ねえ?この子、本当に殺すの?両手両足がなくて、もう悪い事だってできないんだよ?許してあげようよ」

 痛みに縛られた胸に手を触れて鈴音は許しを請う。しかし、忠勝はその訴えを無視して首筋に当てた刀の柄を握る力を強めた。

「だめだ。一度牙を剥いた敵は殺さなきゃ」

 忠勝は厳しく言い放って、紬に解釈の斬撃を加える。裂かれた頸動脈から血が激しく噴き出した。刃は声帯まで達し、紬は子供らしからぬ醜い呻きを上げ絶命する。死体が横たわり、肉体は二度と動く事はなかった。

「"命の鼓動を止めるまで敵には決して容赦するな。情けを捨てる事が生き残る唯一の鉄則だ"。石舟斎様に嫌というほど教わったはずだよ?」

 惨劇に背筋が凍りつく鈴音に視線を留めたまま、忠勝は詩に代わって教訓を述べると、刀身を腕の関節に挟んでべっとりと付着した血の油を拭い取る。

「忠勝が正しいわ。不知火はいつだって、そうしてきた。殺せないなら組織にいる価値なんてない」

 千夜も思想を揃え、慈悲という甘さを殺す。だが、せめてもの情けとして紬の額を撫で下ろし、光のない細目を閉ざした。

 召喚士が没した事で処刑台の封印は消滅した。人質を焼き払うはずだった炎は衰え、拘束が解けると豊久本人が落下する。岩の平面にぶつからないようゼイルが急ぎ真下に走り、その身を抱く。

「生きてるか?」
 
ファゼラルが重要な点について尋ねると

「ああ、一応は息してるぜ。危なかったな。あと少し遅かったら、丸焼きになるところだった」

「よかった。これで家久様の願望を叶えられたな。不知火復旧の手始めもな。負傷者の様子はどうだ?」

「ライゼルくんですか?非常に危ない状態です。ゼイルくんの方も心配なのですが、霊石で治癒しましょうか?」

 夕日が心配を隠せず気遣うが

「はっ!戦士にとって怪我なんて常だ。この程度の傷、飯食って寝りゃすぐ治る。霊石はライゼルに使ってくれ」

 蒼真はその頑強さに呆れ、仲間達に指示を下す。

「後で傷が悪化しても痛い痛いと嘆くなよ?とにかく、ここでの任務は終わった。忠勝、お前は豊久様を担いでくれないか?皆、急いでこの鉱山を出るぞ。絶対に彼を死なせるわけにはいかん」

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.53 )
日時: 2020/07/02 20:03
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 ・・・・・・七天狗の1人を討ち果たし、無事に豊久を救い出した不知火一行は菱刈鉱山を抜け、急ぎ内城へと帰還する。再び城下へ降り立った頃、薩摩の民は泰平の兆しに歓喜し、彼らを救世の礎と崇めたという。妖魔による支配の解放と不知火の活躍ぶりは、後に九州全土に瞬く間に広がってゆくのだった・・・・・・



 薩摩国 内城


「面を上げい!」

 忠勝達は城の居間にて家久と再び対面した。またも無礼なきよう振る舞い、当主の訪れを出迎える。鬼島津の目は、虎をも逸らしてしまうほど鋭い。しかし、その表情は兎のように微かに緩やかだった。

「倅をよく救い出してくれた。お主達には感謝の言葉も見つからぬ。更に妖魔の討伐まで果たしてしまうとは・・・・・・島津の鬼にも引けを取らぬ見事な働きぶりよ。誠に大義であった」

「はっ!勿体なきお言葉!我々、不知火がお役目を遂げられたのは家久様のご協力があっからこそ。それこそが誠の大義であられます」

 謝意に謝意を返し、蒼真は真剣さを露に深く頭を下げた。その横に並んでいた忠勝達も同じ動作を行う。

「これほど歓喜に舞い上がったのは初めてじゃ。これ以上の吉報は僅かとなった某の人生の先にて、ないやも知れぬな」

 家久の機嫌のよさは誰が判断しても、明らかだった。猛将らしからぬ意外な一面に鈴音と海李は物珍しそうにその様子を眺める。

「あの・・・・・・、豊久様の容態は如何でございましょうか?お体がかなり弱っていました故、大事に至っていなければよいのですが・・・・・・」

 忠勝の心配を家久は豪快に笑った。折り畳んだ扇子で膝を叩きながら

「倅の事なら心配いらん。彼奴なら今頃、たらふく飯を食って寛いでおるわ。情けをかけられては鬼の子も面目が立たぬぞ」

 その言葉に不知火一行も安堵したのか、堅苦しい緊張を緩めた。夕日が愉快に薄笑いし、千夜と美智子も互いに微笑みを見せ合う。

「共に歓喜に浸っていたい所ではございますが、我々には時間も猶予もありませぬ。差し出がましい行いは武士の誉れに反する行為なのは承知の上・・・・・・しかしながら・・・・・・」

「おおっ!そうであったな」

 家久は義理堅い人格なだけに、蒼真の望みを言われずとも察していた。

「お主らが信長の重臣である妖を屠ったお陰で九州の地は泰平の世を取り戻しつつある。城下でも久方ぶりに民が祭りを開き、騒いでおったわ。約束通り、お主達にはこれに見合った恩恵を与えなければなるまい。不知火には喜んで助力を尽くそうぞ。組織復旧に必要な物をいくつかくれてやろう」

 報酬の話題にファゼラルとライゼルも色よい返答を心待ちにする。

「・・・・・・して、何を頂けるのでしょうか?」

 蒼真が与えてもらう物について具体的に尋ねると

「何でもじゃ。兵、物資、食料、資源など、領土の一部分を送ろうぞ。遠慮はいらぬ。この日ノ本の天下のために役立てるがよい」

 期待を遥かに上回る予想以上の褒美だった。与えられた報いに忠勝達は会心を通り越し、驚嘆した。

「お、恐れ多い限りでございます!まさか、これほどの助力をして頂けるとは・・・・・・!」

 蒼真は恐縮のあまり声を震わせ、床に額を擦りつける。約束を守り、小さな恩に大きな恩を返す慈悲深さ。人の大きさに敵わず、歪みのない島津の義を改めて心神に刻んだ。

「焦るでない。それとこれは恥を忍んでの事なのだが・・・・・・実は某のもう1つの頼みを・・・・・・聞いてもらえぬか?」

「これだけの恩恵を与えられておきながら、断りを入れるなど・・・・・・それこそ武士の恥晒しというもの・・・・・・!何なりとお申し付け下さい・・・・・・!」

 家久はその揺るぎない忠誠心に感服しながら

「左様か。なら言葉に甘え、我儘(わがまま)を聞いてもらうとしよう。脅威の灯が1つ消えたとはいえ、九州の民草は不満を募らせている者も多くいる。中には苦境に耐えきれず、自ら命を絶とうとする者も少なくはないのだ。しばらくの間、島津の不知火の本拠地へと住まわせてやってくれぬか?妖の脅威が及ばぬ場所にて安住させてやってほしい。それと我が倅、豊久を預かってほしいのじゃ」

「・・・・・・え?豊久様をですか?」

 忠勝は目を丸くする。唐突な内容に次に喋る思考が追いつかなかった。

「豊久がここにおれば、いずれ信長は島津の裏切りに感づく。そうなってしまえば、魔王は九州の地を攻め滅ぼしに軍勢を差し向けるであろう。お主らが危険を冒してまで成し遂げた大義も無意味なものとなってしまう」

「なるほど、あくまでも豊久様は鉱山の激戦に巻き込まれ、死した事にしたいのですね?」

 夕日の推測は相変わらず図星を突き

「ご名答。奴らはまだ、鉱山での出来事を察しておらぬ。ましてや、不知火の仕業などと夢にも思わぬはずじゃ。このまま倅の死を偽り、下手人が分からず終いにしておけば某に疑いの目は向けられず、九州の地も無事を保てる。頼まれてくれるか?」

「家久様はそれでよろしいんですか?近畿へ連れて行けば、豊久様とは当分、お会いできなくなりますよ?」

 忠勝はやはり心配になって気遣うが、家久は考えを曲げる気など毛頭なく

「倅の事は愛しいが、独り立ちせんとする覚悟を持ってこそ、武士というものよ。もし、願い出るようであれば、彼奴も不知火の新参者として鍛え上げてはもらえぬか?まだ鎧の着こなしも怪しい未熟者ではあるが、そこそこ武術の腕は立つ。そっちに居座っても迷惑にはならぬはずじゃ」

「謹んでお受けいたします。豊久様の事につきましては、我々にお任せ下され」

 蒼真は迷う事なく肯定し、豊久の保護を約束する。

「頼りにしておるぞ。お主らが見事、世の暗雲を晴らしてくれる事を祈っておる。そうと決まれば余計な会談は無用じゃ。早速、近畿行きの船の準備に取り掛からねばなるまい。しかし、今宵の天気は荒れ、嵐が起こるやも知れぬ。波が荒れ狂う南方の海域を渡るには危険、毛利の海域を渡っていく方が最善であろう」

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.54 )
日時: 2020/07/24 20:38
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 不知火の一行は豊後国(現在の大分県)にて船を得て、近畿に向けて出港した。家久の予想は的中し、毛利の海域に嵐が吹き荒れる。海での災害は勢いを増すばかりで嵐の暴風が吹き荒れ船体を粗暴に揺らす。月の照らしもない暗闇と荒波の激しい水しぶきが視界を遮り、ここにあるのは黒い色と水だけだった。その中を何万という大船が列を成して通過する。

「家久様の言う通り、嵐になったね」

 雨に打たれ、びしょ濡れになる事をお構いなしに忠勝は船の甲板にて、蒼真と共に前方に広がる景色を眺めていた。

「この海域は信長の属領である毛利勢力が見張っている・・・・・・が、これだけの悪天候じゃ迂闊に船は出せないだろう。こっちを襲えるほどの敵はいないはずだ」

 蒼真も降りかかる雫を拭い、左右の状況に気を配る。両脇には同じ形をした島津の戦艦が何列も並んでいた。

「こんなにも戦力を与えられるなんて・・・・・・なんだか、天下を取った気分だよ」

「ああ・・・・・・兵士の数だけでも10万を超えている。正直、ここまで早く不知火復興が大幅に成し遂げられるなんて想定していなかった。これが夢なら覚めないでほしいところだ」

「後は船に乗っている皆を僕達の支部へ無事に送り届けるだけだね。家久様の恩を無駄ににしてはいけない」

「この嵐を荒らしを乗り越えられる事を祈るばかりだ」


「うぇぇ・・・・・・気持ち悪ぃ・・・・・・おぇ・・・・・・」

 ふいに活力のない声が船外へ漏れる。2人は向きを返し、扉に寄りかかるゼイルを見た。いつもなら健全で色のいい肌は酷く青ざめている。

「ちょっと!ゼイル、大丈夫!?」

 彼は更に吐き気を悪化させ

「船は異常に揺れるから嫌いなんだよ・・・・・・馬なら、問題ねぇんだけどな・・・・・・うっ、うぇ・・・・・・」

「そういうわけにもいかないだろ。陸に着くまで我慢しろ」

 蒼真に同情はなく、厳しい言葉を投げかけるとついでに1つ尋ねる。

「船内に待機している他の者達は大丈夫なのか?」

「鈴音も海李も俺と同じだ・・・・・・ファゼラルとライゼルも寝床に伏せてやがる・・・・・・千夜と美智子は平気みたいだ・・・・・・忍びっていうのは、どんな環境においても平然としてるよな・・・・・・」

「夕日の容態は?」

「夕日・・・・・・?あいつが酔った所なんて見た事ねえよ・・・・・・頼む、あんまり喋らせないでくれ・・・・・・胃が捩れる・・・・・・」

 不快感にゼイルは耐えられず、扉に寄り添う形で座り込んでしまう。

「出発してから、もうずいぶん経つよね?近畿にはいつ到着するんだろ?」

 忠勝の問いに蒼真は"さあ"を語頭にして

「何しろ、この天気だからな。早くても到着は5日か・・・・・・ゼイル、そんなに酷ければ千夜が症状を緩和できる漢方薬を持っているかも知れん」

「うぇぇ・・・・・・苦い薬なんて、飲みたくねえよ・・・・・・んなもんに頼るくらいなら、吐いた方がマシだ・・・・・・げぇっ・・・・・・」

 3人が会話を断ち切ってから、幾らかの時間が経過する。黒い色に支配された景色は変わらず、無限の海原を渡っているような・・・・・・そんな、怪奇的な錯覚を起こさせるのだ。水と寒さの世界に 飽きれが芽生え始める。

「ねえ?蒼・・・・・・」

 退屈に耐えかねた忠勝が、再び蒼真と言葉のやり取りを交わそうとした。ふいに、何かが頭上近くでドン!と木の板を強く踏んだ。 3人は大して驚かず、沈着な反応で音がした方へ横顔を向ける。

「忠勝殿!」

 嵐の響きにも勝る活気のある声。上甲板から突っ走る勢いで階段を下り、1人の若武者がやって来る。彼は数十メートル先も把握できない闇を短く眺め、忠勝達に迫った。

「豊久様。どうなさいました?」

 忠勝も若武者の名を呼び、何用かと尋ねる。

「某、帆の上にて東方を眺めておったが、形ある物は1つたりとも探せなんだ!お主に聞くが、近畿への海路はこの方向で合っておられるのか!?」

「御心配には及びませぬ。まだ陸は見えませぬが、伊達に海原を彷徨うてはおりませぬ故。あらゆる厄介事が起きようと我ら不知火がいる限り、如何なる手段を用いても豊久様を支部のある大和国(現在の奈良県)へお送りします。どうか、御安心を」

 蒼真は確信を主張し、豊久の不安を和らげる。

「ねえ。蒼真・・・・・・」

 隣にいる忠勝が蒼真を呼ぶ。普段と声の音程が異なる事に妙に感じ、遠くを指差す彼を見た。

「なんだ・・・・・・?ようやく、陸が見えたのか・・・・・・?」

 ゼイルは吐き気を堪えながら、微笑に笑みを浮かべた。  しかし、その期待は即答にて背かれる事となる。

「いや、違う・・・・・・あれはなんだ?」

 さっきまでの蒼真の平常心が消失する。闇の中に微かな光の点が見えた。しかし、それは火の灯のようなものではなく、ドロドロと妖々しいものだ。同じく外にいる乗組員達も、その存在を視野に入れ始めたのか、ザワザワと不穏な空気が漂い始める。

「どうした・・・・・・?一体、何が起こってやがる・・・・・・?」

 ゼイルが露骨に顔をしかめる。

「まさか・・・・・・」

 忠勝が何かを言おうとした矢先


「大海坊主じゃあああ!!」


 帆の櫓にいた見張りが怒鳴って、下の者達に知らせた。異常事態を知らせる半鐘が鳴り響き、警鐘は他の戦艦へと瞬く間に連鎖する。

「よ、妖怪だと・・・・・・!?」

 豊久が島津の武将らしからぬ弱腰な反応を示す。

「このしくじれぬ任務の最中に邪魔が入るとは・・・・・・厄介な事態になったものだ!」

 蒼真は大股で階段を上がり、上甲板に向かうと見張りに状況を聞きに叫んだ。

「妖の数は!?他に何が確認できる!?」

「妖の数は1匹!!あれは・・・・・・どうやら、西洋の物らしき船団を襲っている模様!!」

 すぐに返事は来た。

「西洋の船だと・・・・・・!?」

 蒼真はすぐさま忠勝の元に引き返し、状況を知らせる。

「外国の船が襲われてるの!?だったら、早く助けなきゃ!」

「忠勝、お前は中にいる皆を連れて来てくれ!あんなのと、まともに戦えるのは俺達だけだ!」

「待って!こっちには何万隻もの戦艦があるんだよ!?搭載された兵器で戦えば・・・・・・!」

 忠勝は船での対抗を提案するが、即座に否定される。

「海坊主に砲弾や火矢は効かん!地理を活かしても、あっちが圧倒的に有利だ!あんなものに接近を許してしまえば、艦隊は甚大な被害を被る!事が手遅れになる前に手を打たねば!」

「そ、某も戦おう!鬼島津の刀裁き、妖にも味わわせてやろうぞ!」

 豊久も無理に強がり奮起するが

「助力の申し出は有難いですが、豊久様は待機を!並みの人間が敵う相手ではございませぬ!」

「よっしゃ・・・・・・!これで少しは楽になれそうだ・・・・・・!」

 ゼイルにとって都合のいい展開が不謹慎な歓喜を誘う。

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