複雑・ファジー小説

逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】
日時: 2019/04/03 16:38
名前: マルキ・ド・サド

どうも、いつもお世話になっております。マルキ・ド・サドです。
前々から創作を練っていたどうしても書きたかった新たな小説を書こうと思っています。
ローファンタジー小説『ジャンヌ・ダルクの晩餐』をご覧になって下さりありがとうございます!
皆様のご愛読により私の小説はとても大きな作品となりました。
この感謝を忘れずこれからも努力に励もうと思います(*^_^*)

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、誹謗中傷、不正な工作などは絶対にやめて下さい。

今回のテーマは妖怪が蔓延る暗黒時代を舞台として描かれる戦国ダークファンタジーであり残酷でグロテスクな表現が含まれています。この小説を読んで気分を害した場合はすぐにページを閉じる事をお勧めします。



【ストーリー】

 天正10年(1582年)。謀反を起こした明智光秀の軍が織田信長を襲撃、3万の兵が本能寺に攻めかかる。しかし、突如現れた妖怪の群れが明智軍に襲い掛かり兵達を惨殺、優勢だった軍勢は瞬く間に総崩れとなる。決死の抵抗も虚しく光秀は戦死、本能寺の変は失敗に終わるのだった・・・・・・

 その後、信長は妖怪を操り数々の戦を勝利を収めついに天下を統一、戦乱の世に終止符が打たれ人々は太平の訪れを期待する。しかし、冷酷な魔王の手により治められた大和ノ国は第二の暗黒時代が幕を開ける。そして、とある日の逢魔時の空に響き始めた謎の聲、人々はこの異変を妖怪の巣の叫び、地獄の唸り、神々の呪いであるという噂が流布されるのであった・・・・・・

 天正12年(1584年)。徳川家康の家臣にして『不知火』の一員である若武者『本多忠勝』は奈良の支部にて『柳生石舟斎』と共に武術の修行に明け暮れていた。ある日、そんな彼らの元に真田氏の武将『真田昌幸』が訪れる。妖怪が溢れた天下の事態を重く見た昌幸は不知火の復旧を訴え信長打倒を依頼する。要望を聞き入れ忠勝は日本各地へ出向き織田政権を陰から崩そうとするがその時は誰も知る由もなかった。妖怪に溢れた天下の闇の奥に更なる魔の手が潜んでいる事を・・・・・・


【主な登場人物】

 本多忠勝

 物語の主人公である若き武将。猛将に似合わず白い長髪でおっとりとした面持ちのため一見すると少女にも見えなくない。不知火の復旧、そして太平の世を取り戻すため妖怪を操る信長や七天狗を倒す旅に出る。桶狭間の合戦を戦い抜いた若き日に闇鵺の宝刀である『殉聖の太刀』に触れ呪縛の呪いにかかり手にした時点で当時の年齢が固定され成長が止まっている。髪が白く容姿が幼いのはそのため。


 柳生宗厳(石舟斎)

 柳生一族の長にして剣術『新陰流』の継承者。号は石舟斎。柳生家厳の子。新陰流第2世。妖の討伐の際に踏み入った妖魔の森で忠勝と出会い以後、弟子として彼を育て上げた。彼も不知火に所属する精鋭であり、真田昌幸の訴えにより勢力の復旧を決意、忠勝を日本各地に派遣する。


 織田信長

 第六天魔王と恐れられる尾張国の戦国大名。本能寺の包囲網を際には妖怪を使い明智光秀の軍勢を返り討ちにし、その後も幾度もの戦に勝利を収めついには天下人となる。妖怪による統治を始め人々を恐怖で支配、高等な妖の一族である七天狗を従え多くの配下を大和ノ国各地に配置させている。人ならざる者の力に魅了された彼は自身も魔の血を取り込み半人半魔と化した。


紅葉

信長の側近である妖。武器は妖刀。
両親が第六天魔王に祈った結果で生まれた絶世の美女の鬼女。
源経基に寵愛され一子を宿していたが戸隠山に流された挙句、最後に降魔の剣を手にした平維茂に首を斬られ掛けるなどと痛い仕打ちを受けた為に人間が苦手になった。
信長が第六天魔王と名乗った事で信長の行く末を見届けようと信長の側にいる。息子の経若丸には結構甘いところがある。


 七天狗

 信長に忠を尽くす高等な妖の一族。妖怪である自分達を迫害した人間達を憎悪している。日本各地で暗躍しているがその存在を知る者はなく目的すらも不明。全員が天狗の仮面を身に着けており烏、狼、山猫、猿、狐、狸、熊の計7人で構成されいる。


【不知火の一員】

鈴音

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は笛。
300年以上も大切に扱われた笛が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
人当たりの良い性格から小さい子供達からは慕われている。
争い事を激しく嫌悪するため自ら前線に赴くよりどちらかと言うとサポートに徹する為、戦闘能力はあまり高くない。


海李

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は太鼓。
300歳以上も大切に扱われた太鼓が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
面倒見の良い性格から子供達からは慕われている。
また、鈴音とは元の持ち主が同じで同時期に実体化した為、鈴音とは幼馴染でお互いに好意を寄せている


杉谷 千夜

不知火の一員である人間の忍び。武器は銃器、短刀、焙烙玉。
甲賀で織田信長の支配に異を唱える勢力の所属であり魔王信長を討ち取るべく日々、命懸けの戦いを繰り広げている。
実は甲賀出身ではなく戦で村を追われ生き倒れていた所を甲賀の忍者に保護され杉谷家に養子になる形でくノ一になった。
杉谷善住坊とは兄の様に慕っていたが信長の暗殺未遂で酷い方法で処刑された事により信長に対して恨みを持っている。


滓雅 美智子(おりが みちこ)

不知火の一員である人間の忍び。武器は妖刀。
信長に反旗を翻す反乱軍の一員で甲賀の勢力と同盟を結んでいる。
その為、千夜とは面識があり彼女の事を『千夜ちゃん』と呼んでいるが本人からはあまり受け入れられていない。
忍者ではあるが無用な争いは好まない平和主義者であらゆる物事をスマートに済ませたがる。


ファゼラル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の青年で、常に敬語で話す。敬語を使わないのはカード達くらい。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を非常に大切にしている。
鈴音達と仲が良く音(メロディ)のカードで伴奏を流して上げる事も。


ライゼル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の少女でファゼラルの双子の妹。常に敬語で話すファゼラルに対しライゼルはタメ口で話す。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を大切に思っている。兄ぐるみで鈴音達とも仲が良い。


ゼイル・フリード

不知火の一員である人間の騎士。武器は剣と斧。
よく女の子と間違われやすく女と間違われたり子供だと馬鹿にされるのが極度に嫌う。
英雄のジーク・フリードの子孫にあたり体格に合わずかなりの食欲の持ち主。


蒼月 蒼真(そうつき そうま)

不知火の一員である半人半獣。武器は刀。
父親は人間、母親は妖狐の間に生まれた青年。
不正や悪を嫌う為、信長の政権に嫌悪感を抱いている。
人間妖怪関係なく平等に接しているため子供達からも慕われている。


箕六 夕日(みろく ゆうひ)

不知火の一員である人間。武器は大鎌。
物語を書く事が大好きな文系の青年。端麗な容姿から女性に間違えられる事が悩み。
幼い頃に霧隠の山奥に迷い込み狼の守護霊を拾い家族のように親しくなった。
以後、頼れるパートナーとして常に行動を共にしている。


【用語】

 殉聖の太刀

 忠勝が使用する聖の力が秘められた太刀。かつて室町時代の大和ノ国に訪れた異国の聖女の剣を刀へと打ち直した物。斬った人間や妖怪の霊気を吸収する事で刃の強化、『神力覚醒』が可能。異国の聖女だけが完璧に扱うことができそれ以外の者が触れると呪縛の呪いを受ける。不知火の秘宝でもあり神器の1つとして崇められている。


 不知火

 忠勝が所属している義の名のもとに戦う兵団。日本各地に支部を持ち人々の太平を尊重し民の平穏、調和の安定を目的とする。室町時代に『異国の聖女』、『陸奥重盛(むつ しげもり)』により結成され足利将軍家の影の軍隊として活躍していた。主に妖怪討伐や国の平穏と調和の安定を保たせる事を生業としており1世紀以上も前から大和ノ国の民を守ってきた。室町幕府が滅んだ本作では主君を失い衰退の一途を辿っている。


 夜鴉

 不知火同様、表では知られない秘密の組織。太古から存在しており人と妖怪の調和を目的とする。人が立ち入らない群馬の山奥に拠点を構え結界で身を固めている。戦いを好まず社交的な存在だが妖怪を不当に扱う不知火や織田政権の事はよく思っていない。


 妖怪

 日本の民を恐怖に陥れている人ならざぬ者。原住する者と魔瘴石で生まれた者の2つのタイプが存在する。また、下等、中等、高等の階級があり骸武者や鰐河童、妖蟷螂などの下等妖怪は知能が低く本能のまま人を襲う。鬼や大百足の中等妖怪は強力な力を持ち言葉を話す事も可能。高等妖怪は姿形は人間に酷似しており超人的な頭脳と戦闘能力を備えている。


 大和ノ国

 物語の舞台である妖怪に支配された列島大陸。日本、妖都島、ジパングとも呼ばれる。戦が絶えない戦国の世だったが信長の天下を手中に納めた事によりかつての面影を失い、政は一層に腐敗した。八百万の神々が住む神秘的な国でもあり、不思議な魔力を持つ霊石や宝玉が大量に眠っている。


・・・・・・オリキャラの提供者・・・・・・

桜木 霊歌様
妖様
siyaruden様
シャドー様
挿し絵(少し修正しました)は道化ウサギ様からの提供です。皆様のご協力に心から感謝いたします。



以上です。それでは物語の幕を開けようと思います。

Page:1 2 3 4 5 6



Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.31 )
日時: 2019/03/12 20:51
名前: マルキ・ド・サド

 茶菓子の用意を済ませた忠勝は汗で濡れた戦服を洗濯場へと脱ぎ捨てた。下着一枚で階段を上り自分の部屋へ足を運ぶ。布で全身の汗を拭きとり棚にあった普段着へと着替える。身なりを整え隅にあった鏡を見た。

「うう・・・・・・これは酷い・・・・・・えっと、薬はどこか・・・・・・あった」

 映った自身の顔を見て宗忠は苦い顔をする。剣先の裏で叩かれた箇所は丸い小さな痣となり青く変色し始めていた。早速、ドロドロとした液体の薬を指ですくい怪我した部分に塗り込む。さっきまでとは違うヒリヒリとした痛感が伝わる。

「よし、次はお湯を沸かさないと・・・・・・水も入ってないか・・・・・・」

 部屋を出て階段を下り今度は男専用の風呂場へ向かう。浴室は大きな桶がいくつも並んでいるが蓋を開けると中身がない。忠勝は残念そうに桶を覗きすぐさま外へ出ようとすると

「うわっ!びっくりした・・・・・・なんだ忠勝じゃないか。もう修行から帰って来たのか?」

 先に井戸がある裏口で海李と出くわした手には水がいっぱいに溜まった桶を手にしている。

「そうだけど、あれ?海李もお風呂を沸かそうとしていたの?」

 忠勝が首を傾げ尋ねる。

「まあな、山菜採りから体が汚れちまったからな。ここにいるって事はお前も入るんだろ?」

「うん、ちょうど僕も石舟斎様と自分の分を沸かそうとしてたんだ」

 すると海李は疲れを感じさせないやる気に満ちた口ぶりで

「だったら俺達で風呂を沸かさないか?一緒にやった方が早いだろう」

「えへへ、実は僕も同じ事考えてた。海李が手伝ってくれるなら心強いよ」

 2人はまず井戸まで行き桶に水を汲み交互に浴槽に流し込む。それを幾度も繰り返し時間が掛かる作業に再び汗が滲み出てきた。3人分の浴槽にやっと水が溜まると最後に釜に紙くずと薪を入るだけ詰め火をつける。燃え始めに竹の筒で空気を送り更に火力を高め水を湯へと温めた。

 仕事を終えた忠勝と海李は地べたに座り込み疲れ果てた声を上げた。気紛れに一室にあった窓の隙間に視線を向ける。明るかった外はいつの間にか夕暮れを過ぎようとしていた。夕方のうす暗くなった時分を逢魔時(おおまがとき)と言う。赤く染まった夕日は黒い雲に埋め尽くされ空は不気味に彩り始める。一時もしないうちに夜が訪れひとならざる妖が跋扈する世界へと移り変わるだろう。

「もうすぐ夜だね?」

「だな・・・・・・夜の山は本当に気味が悪い。こういう場所、昔から苦手だったんだよな〜」

 海李は所々が赤い暗雲の空を眺め顔をしかめる。

「じゃあ、僕はお風呂の準備ができたって石舟斎様に知らせて来るよ。海李は先に入ってて」

「おう、悪いな。1番風呂は俺がもらうぜ!」


 忠勝は浴槽の準備ができた事を知らせに向かい道場の廊下に石舟斎はいた。しかし、茶の椀や菓子入れが空になった後も彼はまだ昌幸と会話を続けていた。内容は上手く聞き取れなかったがその表情からは重苦しい深刻な雰囲気が漂う。

「あの、石舟斎様?」

 忠勝は恐縮しながらも2人の会話に割り込んだ。石舟斎は立ち尽くす弟子を見上げ軽く微笑を浮かべた。

「おお、忠勝か。どうした?」

「浴槽の準備が整いました。その事を知らせに・・・・・・」

「そうか、ご苦労だったな。だが、その前にちょっといいか?ちょうどお前に大事な用があった所だ。ここに座れ」

 忠勝は少々困惑しながらも素直に"はい"と返事し石舟斎の隣に正座の形で腰かけた。ひんやりとした涼しい風が吹き夜が刻一刻と迫る。3人はどこからか鈴虫が鳴く庭の景色を眺めた。

「そろそろだな・・・・・・」

 ふと、昌幸が不可解な台詞を口にし石舟斎と共に空を見上げた。忠勝は何も聞かず黙したまま2人の行動に合わせる。視界にはいつもと変わらない逢魔が時の空が広がっていた。消えかかった夕日を覆い隠す雲は黒く淀んでいる。それが一層不気味に色づき始め風の音が止んだ時だった。



『イタイヨ・・・・・・タスケテ・・・・・・クルシイ・・・・・・』



 どこからともなく聞こえた聲が空に響き渡った。誰が発しているのか不明だが正体はまだ幼い少女を思わせる。口調は静かで落ち着ているが今にも息が絶えそうに助けを求めている。聲はしばらく痛みを訴えるとやがて言葉を絶ち空に再び静寂が訪れた。

「止んだか・・・・・・本当に気味が悪い・・・・・・」

 寒気にかられた昌幸が体を縮こませ震えた声で言った。

「この時刻になるといつも誰かの聲がどこからか聞こえてきますよね?一体何が起きているのでしょう?」

 忠勝もこの奇怪な現象には慣れ切れない様子だった。

「さあな、信長が天下を治め大和ノ国を支配してから奇怪な事が起こり過ぎている。今の聲だってそうだ。配下の情報によれば国の各地でも聞こえているらしい。民の間では妖怪の巣からの叫びだの地獄の唸りだの神々の呪いだのと様々な噂が流布している。俺自身もこれから何かが起こりそうで不安でしょうがないのだ」

「確かに昌幸殿が仰る通りただ事でないのは確かです。信長が覇者になってからというもの、日ノ本は狂うように変わった。この異変もあの男が関与しているのかも知れませんな」

 冷静沈着に空を見上げる石舟斎に昌幸は真剣な顔で

「石舟斎、このままではこの国は最悪な結末を迎えてしまうだろう。これ以上、政が乱れる前に行動を起こさねばならぬ。何卒、不知火を復興させてくれまいか?天下の調和を守れるものはこの組織より他はあるまい」

 そう強く訴えるが、石舟斎は肯定しかけているものの落ち込んだ面持ちを作り

「室町の政権が滅ぼされ成員のほとんどが粛清された。そして、かつては名を轟かせていた天下人達の兵は最早、信長の手駒・・・・・・例え復興できたとしても不知火はかつてのような強大な勢力にはなりえますまい」

「いとも簡単に諦めるなど柳生一族の長らしくないぞ?国の各地には信長に抵抗せんと集う者達も少なからずいる。その方らと手を組めば・・・・・・」

「その程度では信長の勢力に対抗はできませぬな。織田の兵力は今や200万を超える。そして奴には人ならざる妖の大軍までついていましょう。我らの兵力だけで戦えば犬死は確実ですな」

「じゃあどうすればよいのだ・・・・・・俺達はこのまま暗黒時代に飲まれ国が腐敗していく様を指をくわえて見ているしかないのか・・・・・・忠勝、お前はどう思う?」

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.32 )
日時: 2019/04/15 21:33
名前: マルキ・ド・サド

 昌幸は質問の矛先を忠勝に変える。突然に聞かれても、彼は落ち着いた態度で少しばかり間を開け、正座の姿勢を崩さず膝に置いた拳を開く。

「僕は・・・・・・何とも言えません。例え、徳川一の猛将と呼ばれても所詮は1人の人間です。できる事は少ない。昌幸殿の悔しい気持ちは胸の奥にまで伝わりますがやはり石舟斎様の言う通り勝ち目のない戦は避けるべきだと考えます」

「お前も石舟斎と同じ意見か・・・・・・なら、泰平が訪れる望みはあるまい。俺も潔く妖怪に喰われるとするか・・・・・・ここに足を運ぶだけ損だったわ」

 皮肉混じりの愚痴を零すと、昌幸は廊下を立ち置いていた刀を腰に差した。

「待たれよ。どこに行かれる気で?」

 石舟斎が彼を呼び止め、尋ねると

「どこって・・・・・・決まっておるだろう。遠出までして申し出た頼みも無駄だと分かった以上、ここにいる意味はあるまい。せがれ達が待つ故郷へと帰るのだ」

「そんなっ・・・・・・危険過ぎますぞ!夜の山は猛獣や物の怪が頻繁に徘徊する危険な時!外に出れば、何に襲われるか分かったものじゃない!」

「石舟斎様の言う通り!今日は帰郷を諦め、ここに泊っていって下さい!明日になったら僕がふもとまで護衛しますから!」

 2人は血相を変え、昌幸の前に立ち塞がった。そして、意地でも行かせまいと必死に説得するが、頑固な武将は考えを改める事なく

「気遣いは無用、お前らのような腰抜けの助けなど、あるだけ無駄じゃ」

 すっかりと機嫌を損ねた昌幸が、どかどかと隠れ家の門の方へ足を進めた時だった。頭上からぶわあっ!と風音がして、大きな影が空の間を通り過ぎる。あまりの速さに、その正体は目では捉えられなかった。

「・・・・・・おわっ!?」

 昌幸は腰を抜かし、地面に大きく転倒した。打ちつけた体を摩りながら"何なんじゃ・・・・・・!"と空を見上げると、影は隠れ家の上空を大きく旋回し、3人がいる庭へと降り立った。その正体は大きな折り鶴、まるで生きているかのように、翼を写実的に羽ばたかせる。上には忍びの格好をした1人の少女が乗っていた。

「あれ?『美智子』?どうしたの?」

 忠勝は忍びの名を口にして質問を重ねる。しかし、彼女はその問いを無視し、真っ先に石舟斎の前に立った。その表情は実に深刻な雰囲気を漂わせていた。

「石舟斎様、千夜ちゃ・・・・・・皆はいますか?」

「ああ、今頃は炊事の仕度をしている所だ。どうしたんだ?随分と焦っているようだが、何かあったのか?」

 美智子は話すのも嫌そうに重い口を開いた。

「大変な事態です。織田の軍勢が、ふもとの村を襲っているとの情報を式神が持ち帰って来ました。妖怪の姿も多数、確認されているそうです」

「な、何だと!?それは本当か!?」

 悪い知らせに衝撃を受ける石舟斎。忠勝も普段の平静さを失い、襲撃の詳細を聞き出す。

「敵の数はどれくらい!?」

「小勢力だけど、油断は禁物ね。あの村は非武装地帯で兵舎も砦もない。早く救援に行かなきゃ手遅れになる」

「ここのふもとが襲われたとすれば、ここにも奴らの魔の手が迫る危険があるな。忠勝、皆を集めろ!すぐに戦いの仕度をするよう知らせるんだ!美智子、お前は他の拠点に向かい急ぎ、出兵の用意を促してくれ!」

「承知ました!」 「御意」

 忠勝は屋敷の中を走り抜け、皆がいる部屋へと向かう。美智子も再び鶴の式神の背に乗り、他の拠点へと飛び去って行った。

「石舟斎、お前が戦うというのなら俺も喜んで手を貸そう。こう見えても真田家の頭領、剣の腕は立つ」

 昌幸も鞘から刀身を抜き血をたぎらせる。しかし、首を横に振った石舟斎は否定の意を示し

「昌幸殿、その張り切った勢いは心強い限りですが、あなたは山を下りずここで待ってては頂けないだろうか?」

「何故だ!?俺の助力は頼りないとでも言うのか!?」

「そうは言ってない。昌幸殿の剣の腕は俺も熟知しています。ですが、あなたの身にもしもの事があればご子息達や奥方が悲しむでしょう。客人を守るのも不知火の役目故、何卒お願い申し上げます」

 昌幸は悔しそうに歯を噛みしめるが、やがてやり切れない舌打ちをすると、抜刀したばかりの刀身を潔く鞘に収めた。

「ちっ!しかし、旧友の頼みじゃ。ここは大人しくその親切に応えてやろう」

「感謝します。昌幸殿の分まで武力を振るって参りましょう。しかし、信長は何故、ふもと、村を襲ったのか?あそこを滅ぼしたとて、得はしないはず・・・・・・」

「あくまでも俺の推測だが、お前ら不知火を誘き出す罠とも考えらるな。十分に気をつけろ」

 そこへ、忠勝が不知火の精鋭達を連れ、2人の方へ戻って来る。いつ戦が起きても対処できるよう、手回しのいい彼らは、既に武装の仕度を整えていた。誰1人笑っていない、緊張感のある面持ちで庭へ集うと、気が引き締まった姿勢を取り、石舟斎の前へと並ぶ。

「妖怪と戦えるなんて腕が鳴るな!忠勝、どちらが多く倒せるか勝負しようぜ?」

 興奮するゼイルに、蒼真が厳しい説教を説く。

「ゼイル、常に冷静な振る舞いを絶やすな。そんなで戦場に出向いたら10秒であの世行きだぞ。ファゼラル、ライゼル、万全な支度をしてきたんだろうな?」

「僕は大丈夫、いつでも戦えますよ」

「あたしも右に同じ。夕食を邪魔するなんて、いい度胸ね。迷惑な奴らには、苦しい最期をくれてやるわ」

 マーシャ兄妹が、巧妙に切ったタロットカードから数枚のカードを残し、懐に忍ばせた。特にライゼルは休息を阻害された事に、不機嫌な口調を尖らす。不満を募らせる精鋭達であったが石舟斎の咳払いで全員が静まり返る。弟子達が集まった事を確認し、深く息を吸い力のある声を吐き出した。

「お前達も聞いただろうが、美智子の偵察で、ふもとの集落が妖怪の群れに襲われている事が分かった!そこで今から討伐に向かう!」

「「「はっ!」」」

 忠勝を含む不知火の精鋭は勢いがこもった返事を合わせた。彼らは恐れた素振りなど少しも露にせず、戦意を燃やす。死さえも覚悟する勇ましい弟子達の姿に、石舟斎はこくりと頷き、愛刀を握りしめると

「よし!では、行くぞ!罪なき者達を救うんだ!」

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.33 )
日時: 2019/04/15 21:37
名前: マルキ・ド・サド

「助けてくれぇ!!」

 ふもとの村は、既に大半が攻め落とされ、この世の地獄絵図と化していた。建物と呼べる建物は焼き払われ、襲撃を知らせる櫓の鐘が延々と鳴り響く。無抵抗に逃げ惑うしかない村人達は、次々と命を落とし死体となる。背中を刀で斬られ惨殺される者、何発もの火矢を射られる者、命乞いを無視され首を刎ねられる者。容赦のない殺戮の嵐に、平穏だった村はその面影を失い、血と炎で赤く染まる。

「あんたぁぁ!!目を開けておくれよぅ!!あんっ・・・・・・がぼぁ!」

 農民の女が、亡骸の夫を抱き抱え泣きわめく。その絶望に情けをかけるように、鋭い槍が喉を貫いた。その後ろを、火だるまになった人間が踊りに似た動きで通り過ぎる。脚に銃弾を喰らい、母親が倒れ地面を転がる。腕から投げ出された娘が、駆けつけ手を引こうとするも、幼子の力ではどうにもならない。

「ぐすっ・・・・・・!お、お母ちゃぁぁん・・・・・・!」

「タエ・・・・・・!逃げなさっ・・・・・・はっ・・・・・・!」

「ふぅー・・・・・・!ふぅー・・・・・・!」

 逃げる術を奪われた親子の元に1人の武士が荒い息を漏らしながら近づいて来た。そいつは立ち止まり、修羅とも呼べる殺意の形相でこちらを見下ろすと刀を振り上げる。

「いやあああ!!」

 悲鳴と共に刀身が動く。しかし、血に飢えた白刃は肌身に当たらず、痛みがない。代わりに武士の苦し気な唸り声が耳に伝わる。不思議に思った母親はおそるおそる、かざした手を退ける。刀身は体から数センチほどの間を開け止まっていた。更に上を見上げると、武士の首に短刀が突き刺さっている事に気づく。そいつはやがて、うめきすら発せなくなり崩れるように倒れた。

「お母ちゃ・・・・・・うわああん!」

 泣きじゃくる子供が命拾いした母親を抱きしめる。

「大丈夫ですか?」

「え?あ、ひょっとしてあなたが・・・・・・ありがとうございます!」

 千夜が女の肩を支え、ゆっくりと起き上がらせる。

「礼には及びません。さあ、今のうちに早くここから逃げて下さい。奴らは私達が食い止めますので」

 逃げる親子を背に千夜は、殺したばかりの武士の喉笛から、掴んだ短刀を抜き取る。そこへ新手としてやって来た武士達が彼女を亡き者にしようと長い列を作った。それぞれの武器を向け、じりじりと距離を縮める。

「たかが、雑兵の分際で私を殺す気?数が多ければ、勝てるとでも?」

 千夜は戦くどころか、余裕に満ちた強気な笑みを浮かべ、戦いの姿勢を取る。


「北の門から逃げるんだ!そこなら安全だ!」

 石舟斎は叫び、村人達を安全な場所へと導く。集落の外へ我先にと逃げ出す群衆を掻き分け、不知火の成員達が次々と敵陣へと流れ込む。相見えた両軍の兵士は武器を手にぶつかり合い、合戦を開始する。

「忠勝、右は任せた!俺は左を!」

「分かった!」

 忠勝は走り、鞘から殉聖の太刀を掴み抜刀する。光を宿した刀身からは破魔の白炎が放たれ、織田勢を数人、まとめて灰にした。陣形を立て直す暇も与えず、敵の刀よりも早く腹を大きく裂く。ふいに背中を刺そうとした槍の穂をかわし、相手の腕を柄ごと斬り落とす。

「ひぁっ・・・・・・ぎゃあああ!」

 短くなった手のない両腕から血を流し、絶叫してる所をそのまま、蹴り上げる。掴みかかろうとした大柄の兵も、軽々と背負い、豪快に投げ倒しては胸に切っ先を突き刺す。

「やるな忠勝!」

 ゼイルも負けずと1人目を斬って後ろへ蹴り飛ばすと、2人目に体当たりを喰らわせる。重装で身を固めたはずの織田兵は鞠のように宙を舞い、燃えた納屋にぶち込まれ下敷きとなった。

「1人で攻めるな!取り囲め!」

 織田の兵達は集い、数で蹂躙しようと目論んだ。主に槍を手にした兵が、包囲網を築き逃げ場を封じる。そして、八方から一気に突撃を仕掛けるが、ゼイルにとっては無駄なあがきだった。彼は片手で剣を軽々と振り回す。ズシャシャシャ!と音を立て、刀身は鎧を砕き肉と骨をも滑らかに裂いて一周した。上半身が落ち、立ち尽くした無数の下半身から吹き上げた赤いしぶきを浴びる。

「ぬぅぅ・・・・・・!」

 瞬く間に死体の山を築いた殺陣を目の当たりにし、巻き添えを免れた1人は意思とは関係なく後退りをしていた。歯を噛みしめ、震えた手を無理に抑えると焦って大太刀を抜く。

「あんた、大太刀を使うのか?なら、俺の剣と勝負しないか?」

 織田兵は言われるがままに、大太刀を上段に構える。大人の身長ほどもある長くて太く、そして鋭い刀身。鍛え上げられた鋼の白刃が、火の明かりを反射する。

 ゼイルが先に走り、相手も地面の土を蹴った。両者の刃が強く交わり、甲高い音と赤い火花を散らす。刀身が受けた震動が柄を握る手に痛みとして手に伝わる。2人は鍔の競り合いには持ち込まず、一旦後ろへ飛び下がった。互いの刃が届かない範囲まで距離を置き、再び構えの姿勢を形成する。敵から視線を逸らさず、足を引きずり、時計回りに動く。

「死ねぇっ!!」

 織田兵は一気に蹴りをつけようと、一直線に迫り、頭上に振りかざした大太刀を叩きつけた。しかし・・・・・・

「大外れ」

 大太刀はゼイルではなく、何もない地面を浅く抉った。刃は見事に狙いを逸れ、彼は楽しそうに敵をからかう。刀身が当たる直前に体を回転させ、その一撃を間一髪かわしていたのだ。

「おのれ!小癪なぁっ!」

「おせーよ」

 相手を仕留め損なった想定外に、織田兵は不覚にも隙を作った。ゼイルの反撃を迎え撃とうにも、重い太刀を構える時間はない。やむを得ず武器を手前にかざし、攻撃を防ごうとするが・・・・・・宙を高く飛んで、しなやかに振り下ろした剣は盾とした大太刀をいとも簡単に折った。そのまま、兜を破って全身を切り抜ける。織田兵は脳天から縦に亀裂が入り、半分に切り分けられた。

「守りを固めたのは賢い判断だったが、残念だったな。俺の剣に切れない物なんてないんだよ」

 見るに堪えない亡骸を見下ろすゼイルは決まり文句を吐き捨て、次の新手に挑む。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.34 )
日時: 2019/05/12 18:47
名前: マルキ・ド・サド

 不知火の成員達は苦戦を強いられる。攻めてきた織田軍が小勢だったとしても、こちらの兵力はそれを更に下回っていたからだ。1人1人が必死の抵抗を見せるが、数で勝る敵勢力にはまるで敵わず、矢を射られ、体中を串刺しにされ、徐々に兵力を削られていく。

 夕日は大鎌を薙ぎ払い、敵の群れを蹴散らす。しかし、どんなに返り討ちにしても敵は勢いが衰える事を知らず、次々と武器の先端を突きつけて来る。マーシャ兄妹もありったけの攻撃魔法をぶつけるが、まるできりがなく、ほとんど効果がない。

「くっ・・・・・・僕の大鎌だけじゃ力不足だ・・・・・・!」

「ちくしょう!こっちが負けてるじゃねえか!このままじゃ全滅だぞ!」

 覆す術がない戦況に海李が深刻に叫んだ。最悪な事態に陥らぬよう、出過ぎた真似は避けていたが、正面からの襲撃に気を取られ不意打ちを許してしまう。油断していた海李は判断が追いつかず、反射的に腕を前に出し顔を覆った。しかし、敵は彼を仕留める事なく背中を切られ、血しぶきを噴き上げて横たわる。死体の裏には妖刀を斜めに斬り上げた蒼真の姿が。

「おおっ!ありがとな!危うく大往生するとこだったぜ!」

「礼はいい。とにかく、気を抜くな。ただせさえ自軍が不利なんだ。お前に死んでもらっては困る」

「蒼真!こっちに来て援護して!本当にやばい!」

 ライゼルが手を振り、助けを求める。彼女達の陣形は、特に甚大な被害を被っていた。足元には味方の戦死者が転がり、並列にも大きな穴が開くほど壊滅的に兵の数はすり減って戦える生存者は僅かしか残っていない。共闘していたファゼラルも食い止めきれず、手も足も出ない状態だ。

「これ以上、持ち堪えるのは難しい!蒼真さん!何か策は・・・・・・がっ!?」

 その時、胸の奥深くまで激痛が走り、ファゼラルは顔をぎゅっとしかめさせた。何が起きたのかとゆっくりと前へ向き直ると、棒を握り殺意の形相でこちらを睨む敵が視界に映る。震えが止まらない手を前に寄せると、血がべっとりと付着していた。

「あ・・・・・・ああ・・・・・・」

 槍を抜かれ、ファゼラルは口と傷口から体液を排出し、ふらふらと退く。感覚が消えた脚が崩れ、彼は仰向けに倒れた。

「ファゼラルッ!!」

 兄の負傷にライゼルは真っ青になり叫んだ。とっさに駆けつけた夕日がファゼラルを引きずり、前線から遠ざける。不知火の兵達は彼らを守ろうと立ち塞がり犠牲を伴う。

「ファゼラルッ!しっかりして!」

「嘘だろ!どこをやられた!?」

「ううっ、ぐぐっ・・・・・・!」

 胴体を刺され、ファゼラルは苦しそうにうめき声を吐き出す。ライゼルと海李が寄り添い、血を止めようと胸を押さえるが、抉られた傷は深く止血は不可能に等しい。

「あ、ああ・・・・・・」

 鈴音は目に涙を浮かべ、仲間に降りかかった悲惨な光景を見下ろしていた。呆然と立ち尽くしていた彼女に海李が振り返り

「何ぼさっとしてるんだ鈴音!そんな所で泣いてないで、早く石舟斎様にこいつが酷い怪我をしたって伝えて来るんだ!」

「で、でも・・・・・・!」

「俺達は前線を離れられない!戦える俺達が戦を放棄したら不知火は一時ともたない!」

 と報告へ向かうよう促すが

「いや、鈴音くんはここに留まるべきです」

 夕日が否定を述べ、すぐさま理由を話した。

「前線に怪我人を放置させるなど、殺してくれと言っているようなものです。ファゼラルくんは胸を槍で突かれた。血が溢れてる事から傷は深く、早く処置を施さないと大変な事になる。悪く言うわけではありませんが、鈴音さんの力では石舟斎様の所へ運ぶにはかなりの時間が掛かる」

「じゃあ、どうすればいいんだよ!?」

 最適な方法が思い浮かばず、海李が困惑する。

「僕がファゼラルさんを安全な場所へ連れて行きます。皆さんは味方に加勢し織田の軍勢を。大丈夫、すぐ戻って来ますので」

 夕日は自信ありげに言って、絶命に近づきつつあるファゼラルを背負う。心配になってこちらを見送る仲間達に1度だけ頷くと、正面を向き戦場から離脱した。

「鈴音、お前の笛の妖力で自軍の力を強化するんだ。夕日が戦場を離れて、かなりの戦力を失った。今はお前が1番の頼りだ」

「・・・・・・分かった!私の能力が皆の役に立つのなら・・・・・・!」

 鈴音は持っていた笛を両手で支えると、唄口に息を吹きかけ指穴に乗せた指を器用に動かす。殺し合いの音が絶えない戦場を宥めるように、美しい音色が集落一帯に響き渡る。その美しい奏は醜い怒号や断末魔を掻き消し、殺意を塗りつぶした。音色は不知火達の武器や鎧を包み、強化の光を宿すと、味方の恐れを取り除き、戦意を植えつける。

「そう来なくっちゃな!ここから一気に押し返すぜ!」

「ライゼル、俺達は織田の連中を食い止める!お前は鈴音を下がらせろ!傍にいて、こいつを護衛するんだ!」

「了解!最前列は任せるよ!あなた達まで怪我を負ったら承知しないから!」

 2人は宿った闘争心を燃やし、再び敵陣へと飛び込んだ。蒼真は狐火を放ち、敵を焼き払う。火だるまになった織田の兵を差し置き、歯向かう者は全て斬り捨てた。首を刎ねた胴体を叩きつけ、正面から来る敵をなぎ倒す。海李も両脇から迫った攻撃を低い姿勢でひらりとかわし、見事に同士討ちを演じさせる。頭上に降る薙刀を太鼓鉢で弾き、刀身を折って落とすと、刃のない柄部を持つ兵の頭を殴打し頭蓋骨を兜ごと砕く。

 まるで赤子の手をひねるように敵勢を蹂躙していく2人。しかし、彼は順調に押し返しつつも、妙な違和感を感じていた。

(何かかがおかしい・・・・・・これだけの魔法や妖術で蹴散らしても、恐れをなさず攻めかかって来るとは。いくら小規模な部隊とは言え、特殊な鍛錬を積んだ不知火の兵達がこんなにも容易く打ち負かされるも変だ。そもそも何故、奴らは顔を覆い隠している?・・・・・・まさかっ!)

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.35 )
日時: 2019/05/24 21:11
名前: マルキ・ド・サド

「くっ・・・・・・!」

 千夜は相手よりも短刀を斬り上げ、痛手を負わせた。腕をやられ、武器を落として蹲る織田兵の首に後ろから刃で貫く。突き出された槍を片手で掴んで引っ張り、力に釣られ前に寄せられた兵の首を抱き、骨をへし折った。次に来た斬撃を受け止めた瞬間、後ろからも新手が来る。とっさに短刀から片手を離し、短筒を正面の反対に向け、引き金を引く。轟音と共に放たれた霊弾を喰らい、織田兵は地面を転がり、ぐったりと動かなくなった。残ったもう1人も、一瞬の力のみで刀の峰を顔面に当て、視界を奪うと短刀を喉に捻じ込み、蹴って刀身を粗暴に抜く。

 千夜は自分を殺そうとする者は容赦の欠片もなく討ち取った。熟練の忍として腕が立つだけに厄介な状況の中でも、微かな傷も負わず敗北を譲らない。しかし、どんなに事が足りても彼女は1人、向こうの数は数十人を越える。背水の陣とも言える不利な状況に彼女の緊張は膨らんでいく。

「うぅぅぅ・・・・・・!」

 織田兵の1人が飢えた獣の息を漏らし、前に出る。しかし、そいつは刀を構えず何を思ったのか身に付けていた顔の鎧を取り、向き直った。曝け出された素顔に、千夜は無意識に一歩引き下がってしまう。織田兵の顔は人間の面影がない醜悪な物だった。紫色の肌はただれ、目は赤く瞳孔が蛇のように細く鋭い。異常に長い舌からは唾液がぽたぽたと滴り落ちる。他の兵達も続いて次々と顔当てを外し、妖魔の面持ちで1人の忍びに威圧を与えた。

「こいつら、人間じゃない・・・・・・」


 千夜は大して驚いた素振りはせず、冷静に言い放った。妖の兵達は凶暴な眼差しで、じりじりと間合いを詰めて来る。

「妖怪の血肉を喰らったのか・・・・・・最早、ただの人とは呼べないわ」

 千夜は短刀を顔の手前に寄せ、立つ位置を保つ。八方を気にしながら、向こうがどのような手段で攻めて来るか、いくつものパターンを予想する。

 少しでも気を許したら、落命は免れない。無暗に動いた方が負けだ。緊張と燃え盛る炎の熱で体中が汗で塗れていく。その時、さほど遠くない場所に遠くはない場所にあった櫓が音を立てて崩れ去る。千夜はそれ気を取られ、敵はその一瞬の隙を見逃さなかった。

「があああああ!!」

 敵が尖った歯を剥き出し、凶暴に吠え立てた。正面から妖魔兵が刀を振り上げ、かなりの速さで迫り来る。迂闊な失敗を犯した千夜はとっさに抵抗しようとした。しかし・・・・・・

「うぐっ・・・・・・!?」

 何故かは知らないが、腿に耐え難い激痛が走りその脚は止まる。力が抜け、姿勢を保てず跪くと同時に短刀を落としてしまう。獲物を殺めんとするその獣の怒号は銃声で掻き消された。妖魔兵は血を吐いて倒れ、銃口から煙が伸びぼる短筒を手にした千夜が。

「はあはあ・・・・・・!」

 弱った呼吸を繰り返し、痛みの原因を探ると腿に胡桃くらいの傷穴があり、血がどくどくと体内へ溢れ出ている。狙撃された事を知り、奴らの後ろに建つ長屋の屋根に視線を送ると、案の定、火縄銃を構える狙撃兵がいた。千夜はその場から動けず、痛みと出血で意識が徐々に薄れていく。こうしてる間にも妖魔兵達は、彼女を手にかけようと抜かりない陣形を築き上げる。

「いけない・・・・・・こんな所で死ぬわけには・・・・・・!」

 辛い感覚に耐え起き上がろうとするが、やはり脚に力が入らない。今の彼女には集団を退けるどころか、気力を保つ余裕すら、ないに等しかった。

「死にたくない・・・・・・死にたくない・・・・・・死にたくない・・・・・・死にたくない・・・・・・!」

 強がりも空しく、戦える術を奪われた不安はやがて絶望に変わっていった。兎が狼の群れの中へと放り投げられる・・・・・・そんな感覚が精神を強く蝕む。自分は孤独に死ぬ。ろくに物事を考えられない癖に、それだけがはっきり頭に浮かんだ。

 妖魔兵達は一斉に1人の忍に魔の手を伸ばす。恐怖に戦いた目には命を取ろうとする人ならざる武士、そしてそいつが向ける刀身が映る。それは自身の頭上へと振り下ろされようとしていた。

「皆・・・・・・ごめん・・・・・・」

 千夜は届くはずもない詫びた一言を述べ、目蓋を閉ざす。鋭い刃が次々と体の至る所に突き刺さり、血しぶきが飛び散った。その生温かい赤い雨が千夜の全身を濡らして染め上げる。しかし・・・・・・そのはずなのに少しの痛みもないのだ。死というのはこんなにも呆気なく、楽に命が果てるのか?不思議に思いながら、そっと目を開く。

 すると、目の前に自分を守るように誰かが立ち尽くしていた。そのまわりには、ばらばらになった妖魔兵達の死体。切り裂かれたのは千夜ではなく、奴らの方だ。

「美智子・・・・・・?」

 身に覚えのある背中に、千夜は名前を呟く。美智子は何も答えず、妖魔兵が陣取る方向を睨んでは、奴らに憎悪を抱き

「お前ら・・・・・・千夜ちゃんを傷つけたな・・・・・・!」

 怒りに満ちた鋭い言葉を発した。

Page:1 2 3 4 5 6



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


E-Mail


URL


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大7000文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。