複雑・ファジー小説

【リレー企画】セイテンノカゲボウシ
日時: 2019/01/09 13:52
名前: マッシュりゅーむ  (fuaru0696@gmail.com

こんにちは!マッシュりゅーむです。(正確にはおまさの中の人の友達です)「アイツに友達がいたのか!?」という疑問はさておき。
今回の作品は、リレー形式で進めていきたいと思います。リレーは初めてなので、皆様にご協力いただいて面白い物語になればいいと思っています。
ではでは、楽しんでいってくれたら幸いです!


注意:以下に注意してください。
・コメント等は差し控えてください。



…以上ッ!!

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14



Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.63 )
日時: 2019/09/22 13:25
名前: marukun

とにかくいろいろとあり過ぎて頭の中で情報処理が追い付かない状態であるが、わかったことは        ―――――私は出しゃばり過ぎた。―――――
別に自分が何かする必要はなっかたのだ。でしゃばるからヘイズやみんなに迷惑をかけた。誰かを守りたいだとか、誰かを救いたいだとかは、それができる誰かに任せればよかったんだ。自分が、自己中心的な偽りの正義感に浸っていたから、こんな形になった。自分の問題に目を向けず、外ばかり気にしていた。だから自分の過ちに気付かなかった。何が正しかった?どうすればこんなことにはならなかった?どうすれば罪を償える?



答えはない 最善策はない 正解はない 正当性もない 価値もない 私は何者なのだろう



  被検体 佐藤 レナ   失踪  現在地不明


『なに?レナが失踪したじゃと!?』
ヘイズはこの知らせを受けその顔を驚愕に歪める。まさかレナが失踪するとは思わなかった。
「あぁ、部屋の窓が開いていた。影を使い、鍵をしておいたが強引に外されていた。もう少し強めにすればよかったかな」
少々とぼけ気味にファグが言う。そんなファグを見てヘイズが気付く。
『・・・ッ。すまない。本来ならばワシが犯すべき危険をお主にやらせてしまった。ありがとう、ファグ。』
しかし、彼はまたとぼけて言う。
「さぁ?なんのことやら。僕としては貴重な被検体(モルモット)がいなくなったことが悲しいよ。」
本心もあるだろうが、ファグは知らない振りをする。それはレナを逃がすことに加担するという意志表明であった。これが彼なりの優しさなのだろう。ヘイズは彼のその優しさに涙ぐむ。

さて、場面は変わりレナのもとへ。彼女は今何を思い、何をしているのか。

「はぁ…はぁ…はぁ…。」
自分は何を思い立ったのか、部屋の窓から飛び出していた。これでまたヘイズに迷惑をかけてしまうのだろうか。そんな思いと共に、森の中へ飛び込むように走りこんだ。
「・・・。これでよかったんだ、私は誰かの近くにいると迷惑をかけるから。」
あっちの世界で一人だった理由がわかった気がする。そんなことをわかるまでに時間がかかり過ぎだな。いつまで私は子供のままでいるのだろう。
「そろそろ大人になれよッ・・・。いつまで誰かに寄りかかってるんだよ私はぁ!!」
そんなレナの心の様子を表すかのようにぽつぽつと雨が降り始める。それは瞬く間に土砂降りの豪雨になる。膝をつき泣いた。自分の無力さに、考えの無さに悔しくて泣いた。そして――――――




                自分の中で何かが生まれた




Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.64 )
日時: 2019/09/29 09:24
名前: おまさ
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19989

「ーーーー、」

 目を開けると、木目の天井が見えた。
 数回目を瞬かせると、わずかばかりぼやけて見えていた視界がクリアになる。
 
 寝すぎたようなだるさを孕んだ体を起こそうとしたとき、不意に戸の開く音がした。反射的に上体を起こしーーー腹部の断裂するような痛みに再び寝台に後頭部から倒れこんだ。
「・・・、っつ・・・!!」
 涙目になりながら絶叫を無理くり噛み殺し、堪え、耐えた。

「起きた途端に動こうとするなよ。まだ傷は完治してないんだ」
 安堵と苦笑い、優しさを含んだ頭上から降ってくる声に、きつく結んだ瞼をゆっくりと開いて。その人物を視界に写した。
 目の前で苦笑するのは、十代半ばの成長期真っ最中の少年だ。身長は自分よりも僅かに高い程度か。少し物寂しげな瞳を優しく和らげて笑う様には、見覚えがあった。
 ただ、違和感が拭いきれていないのは、目の前の少年が以前見たときよりも年齢を重ねていたためだろう。

「・・・エクュヲ・・・・?」
「うん、そうだよ。おれだよ、姉ちゃん」
 名を呼ぶと、弟は再会を喜ぶように唇を緩めた。少し照れ臭いのか、弟は自分の頬を掻く。

「久しぶり。・・・いやあ驚いたよ。たまたまオースンカッグに来ていたら、姉ちゃんが大きな怪我して倒れてるんだから」
 話を聞いていて今の状況が分かった。隻腕の異邦人に蹴られ、あのあと意識を失っていたのだ。何処かで倒れている自分を見つけ、弟が看てくれているのだろう。だから、起き上がったときに腹部が激しく痛んだのだ。
 本当に弟に感謝だ。頭が上がらない。
「・・・ありがと」
「気にしないで。・・・ああ、姉ちゃんのことは白髪の〈ミコ〉様に伝えてある。今は、治療の手続きってところかな」
 ユグルのことだろう。〈カゲノミコ〉で白い髪をもった人は彼女だけだ。

 弟は「ところで」と肩を揉んだ。
「何て言うか、早いよな。五年前、姉ちゃんが『陰月鎌のミコ』になってから、あんまり経ってないと思ったけど」
「ーーーーっ、」
 思い出すのは、忘れることのなかった五年前のあの日。〈ミコ〉に選ばれた姉を、呆然と見送った弟の顔。無意識に封じ込めていても、決して忘れることのできなかったあの真夏日を思い出す。
 あのとき、弟と一生の別れを告げ、二度と逢うことはないと、そう思っていたのに。

 五年前の自分を思い出し、唇を噛んだ。

 そんな姉の様子を見て、弟は苦笑いする。
「あのときは、姉ちゃんもおれもまだ幼かったから。そんなに気にしなくてもいいよ。・・・姉ちゃんの方こそ、辛かっただろうに」
 最年少記録である十二歳で〈ミコ〉に抜擢された姉を、当時十歳だった弟がどう思っていたのかは解らない。ただ、姉として情けないことをしてしまったと、弟に謝りたかった。

「ごめん、」
「姉ちゃん?」
「・・・ご、めん。お姉ちゃん、あのときエクュヲ、にあんなこと・・・っ・・・!」
 ぽろぽろと涙をこぼし、懺悔する。
 きっと、自分は今、情けない顔になっている。
「義父さんも、母さんも、私、に任せるって・・・そう、言って先に・・・」
 滂沱の如く涙をこぼす姉の顔は、弟の目にはどう写っているのだろう。

 ああ、思えば自分は、五年前と何も変わっていない。
 情けなくて。
 弱くて。
 それを自覚する度に弟の優しさに救われてきた。
 なのにこんな。


「・・・ちょっと安心した」
「え、?」
「いつもは三文字以上喋らないのに、おれや母さんたちにはそうじゃなくってさ。そういう姉ちゃんらしいところが変わってなくて。やっぱり姉ちゃんなんだなって」
 そんな姉を、しかし弟は気にしない。気付いていないだけかもしれないけれど。


 変わらなければ、いけないのに。弟に救われる自分を変えないといけないのに。

 弟は変わらないことに安堵を覚えている。

「私は、ぁ・・・!」
「ーーーー別にさ、姉ちゃん。無理に変わる必要なんて無いんじゃないかな」
「・・・でもっ」
「姉ちゃんがそうしたいなら、おれは何も言わない。ーーーけど、そうやって自分の悪いって思っているところだけじゃなくいいところまで変えちゃうのは、おれは嫌だな」
 言葉に詰まった。ーーーー弟にはどうやら、内心が見透かされていたらしい。

「姉ちゃんは、姉ちゃんらしくいればいい。無理に、〈ミコ〉として仮面を付けてまで、姉ちゃんの優しいところを変える必要はないよ。ーーディレカートっていう、女の子でいればいいんじゃないかな」
「ーーー。」

 そんなこと、自分に赦されるのだろうか。自分の膝に視線を落とす。そこで、自分が白い寝衣に身を包んでいることに、今更ながらに気付いた。
 自分の服のサイズより僅かに大きい寝巻きの中で、内腿をそわそわと擦り合わせた。

「え、エクュヲ」
「?」
「・・・私に、この服を着せたのって」












 突如、弟が微笑んだまま硬直し、凍りついた。

 それから、目を逸らしながら半ばボソボソと口ごもるように、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん、おれです」
 途端、姉弟は顔を真っ赤にして押し黙ってしまう。

 着替えさせたのは弟。僅かに大きい男物の寝衣。ということは。
「新しい寝衣が手に入らなくて。ーーーーー本当にすみませんでした」

 今自分が着ているのはーーー弟の。




「ーーー、」
「痛い!?悪かったって!でも叩かなくても」
「・・・何でもない」

 許した訳じゃ、ないけれど。これくらいはせめて受けてもらわないと、気が収まらない。























「ーーー再会の感動を噛み締めているとこ、悪いけど」
「「・・・!?」」

 第三者の声が、二人きりの筈だった部屋に響き、姉弟は揃って羞恥に肩を跳ねさせた。恐る恐る、声のした方を向くと、そこに立っているのは『涙目のミコ』だった。
 白の簓を揺らし、彼女は立つ。
「ヘイズのとこの子が失踪した。ディレちゃんにはこのまま治療を受けてもらうけど、了解しておいて」












「ーーーーーーーー。うん」
 いつもと変わらない感じで、頷いた。


***

またなんかイチャイチャイチャイチャしてますよ爆発しろ!

どうも、今回もお読みいただきありがとうございます。
お気付きの方もいらっしゃると思いますが、閲覧数3000記念でセイカゲ番外編のスレを立てました。
良ければ本編と一緒にお楽しみ下さい!

上のリンクから行けます。
 

 

Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.65 )
日時: 2019/10/03 19:58
名前: マッシュりゅーむ

「はぁ、はぁ………」
 何分、何時間、何日、走り続けたのだろう。もう、それすらも覚えていない。
 ご飯もろくに食べていない。このままいけば、餓死しそうだ。
 
 でもそれでもいいのかもしれない。
 
 私はヘイズやみんなから逃げてしまった。
 
 もう、帰る場所などどこにもない。

 ―――私なんて、このまま死んでしまえばいいのに。

 そこまで考えて、はっとする。
 私は自分の知らないうちに、こんなにも心が弱くなってしまっていたみたいだ。
 これでもこの世界に来て、何度も死地を乗り越えてきて、強くなったはずなのに、と、ふと自嘲気味に笑ってしまう。
 
『……なぁ。レナは何がしたいん?』
 と、ふとこれまで沈黙を守っていたデュウが、話しかけてくる。
「……何がしたい…って?」
『レナは、「向こう」から来たんやろ?ここに来て、色々なことをして来たんやろ?でも………結局、何がしたかったんかなぁ、おもて』
 私は、返事をした私の声があまりにも頼りなく、弱弱しく、心細さがにじみ出しているのを聞いて驚き、次いでデュウの言葉に考えさせられた。

 私がこの『影の世界』でしたいこと。
 この世界に来てからの記憶を、思い返してみる。
 
 楽しいことがあった。辛いことがあった。悲しいことがあった。嬉しいことがあった。

 そして――いつも近くにいて、助けてくれる、ロリババァがいた。仲間がいた。
 そこで、ふと思い出すのは、自分が〈カゲボウシ〉に呑まれそうになった時、決心したこと。
 

――まだいける。
―――何度だって立てる。
まだ死ねない。
―――傷つかせたくない仲間がいる。
まだ――――――



「『ここからだ』、か」
 そうだった。私は皆と笑って過ごしたかったんだ。幸せになって欲しかったんだ。
 前の世界、私は家に引きこもってばかりで、仲間を知らなかった。ぬくもりを知らなかった。
 ここに来てから、初めて私は、心からの幸せを感じたんだ。

『もう……ええか?』
「うん、ありがとう、デュウ。私、頑張れそう」
『…そか』
 そのことを思い出させてくれたデュウに感謝する。

「じゃあ、行こう」
 立ち止まってしまっていた足を振るい立たせる。――と、

「……ッ!」
「まさか…こんなところにいるとは」
 全身がざわめく。本能がこの気配を知っている。今一番会いたくない相手に会ってしまった。
「川本、江……ッ!」
「…まぁ、そんな敵意をむき出しにするな。今は戦う意思がない」
 目の前の川本江は、両手を上げ、戦わないアピールをする。しかし、警戒は解かない。これまでの経験が、解くことを許さない。

「はぁ、まあこれまでの所業を見れば当然、か」
 両手を上げながら肩をすくめる。それを見て煽りと受け取った私は、憤りを必死に押さえつけながら、口を開く。
「何で……こんな森の中に?何が目的?」
「その質問、そのままそっくり返すよ。全く、今日はついているんだかいないんだか」
 口を割ろうとしない目の前の男に、つい口を荒らしてしまいそうになる。

「だから――」
「――一つ、忠告しておこう」
 私の言葉を遮り、話しだす川本江。その瞬間、私は強い強風に見舞われる。
「――!?」
「『狐染』に気を付けろ。……あぁ、後もう一つ。」
 話を続ける。
「俺は、お前の敵じゃない。表向きは違くても、な」
「どの口がッ!!」

 しかし、強風がなくなったときにはもう目の前には、あの憎き男の姿はなかった。

         *        *        *

――同時刻
「あぁ〜〜、ようやく回復しやがりました〜。バーヘイトちゃんも?」
『うむ。完璧だ』
 デイズは自分の〈カゲボウシ〉と一緒に伸びをし、体をほぐし、次の目的地に行く準備をしていた。
 と、――

「――ッ!?」
 咄嗟に横に飛び、闇の斬撃を回避する。これは、任意的に放たれた〈カゲ〉だ。
 そして、放たれた先には――

「――誰でいやがりますか」
「ふむ。力を抜いて撃ったとはいえ、これを回避するとはね。流石〈カゲノミコ〉が苦戦した相手だ。サトウ・レナが逃走したと聞いて力を失った〈カゲボウシ〉を回復できるこの場所とふんで来てみたが……。想像以上の収穫だよ、いや全く」
 早口でベラベラ喋る謎の男。しかし、一番異質なのは彼の性格ではなく、影の多さだ。

――こいつは、ヤバい。
 デイズは、すぐに戦闘態勢を整える。そして、再度先程の質問を繰り返す。
「で、誰でいやがりますか」
「名乗るのは自分から……って、馬鹿に言っても仕方ないか」
 ………一言一言がムカつく男である。そして、その男は深々と礼をし、言う。

「アルブレヒト・ジゼル・クロイツベルク」
「……デイズ、でいやがります」



 次の瞬間――爆音が、轟いた。









 

Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.66 )
日時: 2019/10/09 20:59
名前: marukun

爆発による煙で視界が遮られる中、アルブレヒト・ジゼル・クロイツベルクは悠々と立つ。
「うーん、これはやり過ぎたかな。次は気を付けなければ、と言っても次はないがね」
と煙の中に隠れるものに言う。
その対象は言わずもがな。爆発で舞う煙の中を動くデイズはカチンとくる。
(こいつナメやがってッッ…!!)
思わず≪カゲノホコ≫を生成し、切りかかりそうになるが中断する。
『貴様も気付いたか。』
バーヘイトが語り掛ける。そう、アルブレヒト・ジゼル・クロイツベルクはこちらの居場所を完璧に把握している。それは動き回っている内に気付いた。
「へえ、もう気付いたのか。伊達に≪カゲノミコ≫が苦戦しただけはあるね。凄い凄い。」
わざとらしい拍手をデイズに送り、煽りまくるそいつはそう言いつつも、視線は外さない。
デイズはその煽りに我慢ができず、思わず切りかかってしまう。
「なめんなあぁぁぁッッですッッ!!!」
しかし、彼はこの時を待っていたといわんばかりに、その手に影をまとう。そして、デイズの見え見えの突撃を躱し、そのがら空きの胴体に貫手を入れる。
そのままデイズは吹き飛び、岩に激突する。
「ゴガァッ…!!」
咄嗟にカゲで防御したが完全ではなく、もろにダメージをもらい吐血する。
「わかりやすいね、君は。露骨に煽れば突っ込んでくる。バカで脳筋な、ザコの象徴だね」
「ぅるっせええぇぇぇデスッッッ!!!」
デイズは傷の再生もせず起き上がり、また突っ込む。
今度は両手に鞭のようにしならせた≪カゲノホコ≫を生成し、無茶苦茶な不規則の攻撃を繰り出す。
「バカは学習能力がないな。あたりもしない攻撃をして何になる?」
アルブレヒトはそういい、嵐のようなデイズの攻撃を難なくかいくぐり、無防備なその体に、今度は掌底を胸にねじ込む。
「アグゥッッ…」
そしてまたデイズが吹き飛ぶ。
だがまた立ち上がり、攻撃を繰り出す。



どれだけ繰り返しただろうか、この作業を。
デイズは幾ら吹き飛ばされようが立ち上がり、攻撃を繰り出す。
いい加減アルブレヒトも疲れてきた。
「なんなんだ?貴様は。やられては起き上がり、また攻撃する。機械なのか、貴様は。」
すると、物言わぬ人形の様になっていた外も中もボロボロのデイズが口を開く。
「ここで引くわけにはいかないのです…こんなところで負けるわけにはいかないの…です…」
正直アルブレヒトも驚きだった。ここまでデイズが耐えれるとは思っていなかった。逃げるか、すぐに死ぬかのどちらか。しかし、かれこれ一時間も戦っている。
「もういい、貴様と闘うのはやめだ。正直ここまで耐えれると思っていなかった、そこは褒めてやる。だが、次は殺す」
それだけ言うとアルブレヒトは優雅に去ってゆく。
「待て…です。まだ勝負は…ついていないの…です…」
しかし、デイズもデイズでとうに限界など過ぎていた。
ドサリとその場で力なくデイズは倒れる。
アルブレヒトの気配が完全に消えると岩陰から音もなくある人物が現れる。
「よく頑張ったな。これで君は強くなれる。あいつに勝てるほどの強者にね…。」
すると彼はデイズを抱き上げ、おもむろに手をかざしケガや損傷を治してゆく。
完全に治し終えるとその場にまた寝かせ、立ち去る。
 

          彼の名は「ツクヨミ」 またの名を 影の主

           事実上、最強の≪カゲボウシ≫である。

Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.67 )
日時: 2019/10/22 13:34
名前: おまさ

《イデアの淵》には、ある逸話が残されているという。

 遡る事約千年前。
 羊飼いの娘であるヘデス・メーメルは、ある星の宵に、天から福音を授かったといわれる。ちょうど彼女が齢五つの時だ。
 彼女は福音と共に二つのものを授かったと伝えられている。
 一つは絶大なる力。
 一つは天からの啓示であった。
 
 彼女は啓示に従い、幾千の〈カゲノマテ〉――漆黒の魔手を従え、大気中の全ての〈カゲ〉の奔流を視認しながら自身を始祖の〈カゲノミコ〉と名乗った。
 しかし、大衆は彼女に靡こうとはしなかった。それどころか、彼女を魔女と吹聴し、磔刑に処そうと試みるものすら現れる。

 故に、天に反旗を翻したその愚か者は、彼女自身によって裁かれることとなる。
 
 その愚か者の領地と羊、家の真上の天に彼女は那由多の魔手を伸ばし、民衆の前で天蓋を開けた。―――即ち、『表』からの光を天からの雷に見立て、見せしめに愚か者に浴びせたのである。
 無論、影と契約した影の民、その子孫である愚か者は消し炭になり、彼の領地も羊も無事では済まされなくなった。


 始祖の〈ミコ〉は、『表』の世界からの雷の片鱗を浴びたことにより、片目を失い隻眼となったが、幸いにもその愚か者は周りの羊飼いからの嫌悪の対象だったため彼を消した事は問題にならなかったし、むしろその事実は歓迎され、結果としてヘデス・メーメルは始祖の〈ミコ〉―――最も古の時代から存在する、初代『刻眼のミコ』の座に就いた。





このとき、彼女が天に開けた大穴こそが、後に《イデアの淵》と呼ばれることになる。


***
「―――。」
 《イデアの淵》という単語を聞いた時、そんな伝承を回想していたヘイズは、喉の治療を受けていた。
 治療の行程としては、まず腕のいい呪術師に、喉の呪いを診てもらい、それを分析・弱体化した後に、ゆっくりと治癒術で治す、というものだ。
 ヘイズは今、呪術師にお世話になっているのだが。
(・・・どうも落ち着かんな)
 目の前の、怪しい禿げ頭の爺をみてぼんやりと思う。
 身長はさほど高くなく、体のあちこちにはシミができ、脂肪というよりは骨が出た痩せた体。指にはじゃらじゃらと幾つもの指輪が擦れあって不協和音を奏で、黄ばんだ歯と歯の間は空洞か金歯が挟まっている。鼻眼鏡の下から覗くのは細くて怪しい、落ち窪んだ眼だ。
 まるで、この世の胡散臭さを十日間煮詰めたようなこの老人は、公国屈指の呪術師、ネモロズム・オスカーである。
「・・・・・、」
 ネモロズムは洟をすすり、何やらぶつぶつと呟きながらヘイズの白く華奢な喉を凝視する。ヘイズは少し、身の危険を感じた。

 ―――――本当に、これで良かったのだろうか。

レナが行方不明となり、それでも治療を強要されたヘイズは、本当なら今すぐにでも彼女のもとへ駆け付けたい。自分の喉なんて、もうこのままくれてやっても構わないと、本気で思っている。
傷は放っておけば症状が悪化するだけだから、治しておいた方がいいことはヘイズ自身も重々承知している。〈カゲノミコ〉として、大衆に仰がれる立場の者が、容易に「声を失っても構わない」と言ってはいけないことも分かっている。
それでも、心配は後を絶えない。

「―――。」
 薄暗い部屋に唯一、外からの光を届けてくれている小さな窓から、ヘイズは目だけで感慨深げに外の景色を眺めた。
 現在、四人いる〈カゲノミコ〉の内、『刻眼』と『陰月鎌』が負傷するという状況だ。公国議会はさぞかし“賑やか”なことだろう。
 何せ、最強と名高い〈ミコ〉が二人も倒れるなど、緊急事態だ。それでも、二人とも命に別状ないことが分かっているからまだよかった。・・・一方の方は、まだ目を覚ましていないが。
(・・・さて、問題は)
 そう、残り二名の〈ミコ〉である。『狐染』と『涙目』は無事なのだが、彼女らは今は一体何をしているのだろうか。

「失礼致します。ヘイズ様、オスカー殿」
 そんなことを考えていると、一人の男が部屋に入ってきた。長身で、しなやかに鍛え上げられた肉体。日に焼けた肌。几帳面で真面目そうな顔つき。黒いスーツは、その筋肉質な体躯と相成ってみるものに威圧感をもたらしている。
 彼は、ヘイズの部下、ガーランドである。
「オスカー殿、治療の具合は」
「ん。今は術式の解析が終わったとこじゃい。なぁに、あとほんの一時間ばかしってとこじゃ、いひゃひゃひゃ!」
 ほとんど抜け落ちた歯をカチカチ言わせ、唾を飛ばして笑う様に、ヘイズは失礼とは思いながらも生理的嫌悪を感じた。
 ガーランドは、眉一つ動かさない完璧な直立の姿勢で「分かりました」と言った。
「オスカー殿。・・・失礼ですが、少し外してもらっても?」
「ん」
 そう言うとネモロズムは「よっこいしょ」と腰を持ち上げ、少し危なっかしく歩いて行って部屋を出て行った。その様子を目線で追っていたガーランドは、ネモロズムが座っていた椅子に腰かけた。
「ヘイズ様。現在の状況を報告させて頂きます。・・・喉を負傷中との事なので、あなた様には筆談を」
 ヘイズに小さな羊皮紙の束と、カラスの羽ペンを渡す。ガーランドは、乾いた唇を舌で湿らせた。
「現在、ディレカート様が目を覚まされたと。情報が入りました。とはいえ、大きく負傷したため治療と療養、リハビリに大きく時間が掛かるそうです」
 ヘイズは筆を走らせる。
『分かった。して、ユグルとファグは今、何を』
「はい。ユグル様は現在、オースンカッグにて重傷者の手当てに尽力なされております。怪我人の数が非常に多く、他の術師も投入して治療に当たらせていますが、ユグル様はしばらくは動けないかと。・・・それで」
 珍しく口ごもるガーランドにヘイズは思わず数回瞬く。普段ならばこのような姿は見せないのに。
 二秒ほど沈黙した後、覚悟を決めたかのようにガーランドが口を開いた。
「ファグ、様ですが。現在、所在不明です。捜索も既に手配してはいますが・・・我々のミスです」
『儂が、治療が終わり次第ファグを探そう』
「ですが!・・・ヘイズ様には申し上げにくいかと存じますが・・・ヘイズ様には喉の治療が終わった後、浸食を受けた腕を治してもらわなければなりません」
『儂の事はいい。今は動ける〈ミコ〉――ファグを探さねば』
「恐れ多いですが申し上げます。・・・この一件で、民衆は混乱しております!そのようなときに、民を導くのが役目の〈ミコ〉様が負傷した身を押して駆け付けたのだと民に知られれば、保たれた平衡は崩れ落ちる。公国議会の力が疑われます!そうなれば国は乱れ、更なる災いに対応することも難しくなるでしょう。・・・どうかヘイズ様、ご理解頂きたく」
(―――っ)
 ヘイズは内心で歯噛みした。
 ガーランドの言う通りだ。「負傷した〈ミコ〉を前線に出さなければならないほど、議会に余裕がないのか」と無垢な民に悟られれば、公国議会に対して不信感が高まる。そうなれば、議会に背くものも現れ、五百年以上保たれていた平穏がーーーーー始祖の〈ミコ〉が今日まで積み重ねてきたものを、無為に失うこととなる。

 それを避け、秩序を維持することが、今代の、そして〈ミコ〉を名乗る全ての者の責務であり、矜持であり、役割ではなかったか。
 己の力が足りないことを実感しつつ、しかし、今はそんな感情に寄り添っているのもどうやら状況が許さない。
『・・・分かった。儂は今回は動かないことにする。すまんの、ガーランド』
「いえ、ヘイズ様」
『ファグの事は承知した。アルブレヒトは?』
「それが・・・『幻暈』様の所在、というよりかは行動が、我々には何も」
『伝わっていない、と』
「はい・・・。クロイツベルク家は、代々、我々公国議会に中立の姿勢を保ってきましたから。最近はその姿勢が強く出ていて、いわば一つの独立機関のような態度を保っています」
(国一つを滅ぼすことのできる、独立機関というところじゃな・・・)
 だからこそ、なのだろう。それほどの力を持ったクロイツベルク家には、さしもの議会も強硬な姿勢をとれないというのが現状だ。故に、ガーランドのような“たかだか”上級士官には情報の開示が許されていないのだ。
 それこそ、元帥レベルのーーーーーーーーーー国の軍隊を動かせる力を持ったものでなければ、彼の家系は見向きもしない。

『大方の事情は察した。ユグルに、儂の部下の内の六人を付けておいてほしい。治癒術の使える六人じゃ。下がっても良いぞガーランド』
「は、必ずや。御身を黒く染めましても」
 
 そう言うと、忠実な従者は影に紛れて音もなく部屋から立ち去る。その音を意識の淵に止めながら、ヘイズは再び窓の外を眺めた。

(―――――何をしておるのじゃ、ファグ)

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


E-Mail


URL


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大7000文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。