複雑・ファジー小説

【リレー企画】セイテンノカゲボウシ
日時: 2019/01/09 13:52
名前: マッシュりゅーむ  (fuaru0696@gmail.com

こんにちは!マッシュりゅーむです。(正確にはおまさの中の人の友達です)「アイツに友達がいたのか!?」という疑問はさておき。
今回の作品は、リレー形式で進めていきたいと思います。リレーは初めてなので、皆様にご協力いただいて面白い物語になればいいと思っています。
ではでは、楽しんでいってくれたら幸いです!


注意:以下に注意してください。
・コメント等は差し控えてください。



…以上ッ!!

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Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.67 )
日時: 2019/10/22 13:34
名前: おまさ

《イデアの淵》には、ある逸話が残されているという。

 遡る事約千年前。
 羊飼いの娘であるヘデス・メーメルは、ある星の宵に、天から福音を授かったといわれる。ちょうど彼女が齢五つの時だ。
 彼女は福音と共に二つのものを授かったと伝えられている。
 一つは絶大なる力。
 一つは天からの啓示であった。
 
 彼女は啓示に従い、幾千の〈カゲノマテ〉――漆黒の魔手を従え、大気中の全ての〈カゲ〉の奔流を視認しながら自身を始祖の〈カゲノミコ〉と名乗った。
 しかし、大衆は彼女に靡こうとはしなかった。それどころか、彼女を魔女と吹聴し、磔刑に処そうと試みるものすら現れる。

 故に、天に反旗を翻したその愚か者は、彼女自身によって裁かれることとなる。
 
 その愚か者の領地と羊、家の真上の天に彼女は那由多の魔手を伸ばし、民衆の前で天蓋を開けた。―――即ち、『表』からの光を天からの雷に見立て、見せしめに愚か者に浴びせたのである。
 無論、影と契約した影の民、その子孫である愚か者は消し炭になり、彼の領地も羊も無事では済まされなくなった。


 始祖の〈ミコ〉は、『表』の世界からの雷の片鱗を浴びたことにより、片目を失い隻眼となったが、幸いにもその愚か者は周りの羊飼いからの嫌悪の対象だったため彼を消した事は問題にならなかったし、むしろその事実は歓迎され、結果としてヘデス・メーメルは始祖の〈ミコ〉―――最も古の時代から存在する、初代『刻眼のミコ』の座に就いた。





このとき、彼女が天に開けた大穴こそが、後に《イデアの淵》と呼ばれることになる。


***
「―――。」
 《イデアの淵》という単語を聞いた時、そんな伝承を回想していたヘイズは、喉の治療を受けていた。
 治療の行程としては、まず腕のいい呪術師に、喉の呪いを診てもらい、それを分析・弱体化した後に、ゆっくりと治癒術で治す、というものだ。
 ヘイズは今、呪術師にお世話になっているのだが。
(・・・どうも落ち着かんな)
 目の前の、怪しい禿げ頭の爺をみてぼんやりと思う。
 身長はさほど高くなく、体のあちこちにはシミができ、脂肪というよりは骨が出た痩せた体。指にはじゃらじゃらと幾つもの指輪が擦れあって不協和音を奏で、黄ばんだ歯と歯の間は空洞か金歯が挟まっている。鼻眼鏡の下から覗くのは細くて怪しい、落ち窪んだ眼だ。
 まるで、この世の胡散臭さを十日間煮詰めたようなこの老人は、公国屈指の呪術師、ネモロズム・オスカーである。
「・・・・・、」
 ネモロズムは洟をすすり、何やらぶつぶつと呟きながらヘイズの白く華奢な喉を凝視する。ヘイズは少し、身の危険を感じた。

 ―――――本当に、これで良かったのだろうか。

レナが行方不明となり、それでも治療を強要されたヘイズは、本当なら今すぐにでも彼女のもとへ駆け付けたい。自分の喉なんて、もうこのままくれてやっても構わないと、本気で思っている。
傷は放っておけば症状が悪化するだけだから、治しておいた方がいいことはヘイズ自身も重々承知している。〈カゲノミコ〉として、大衆に仰がれる立場の者が、容易に「声を失っても構わない」と言ってはいけないことも分かっている。
それでも、心配は後を絶えない。

「―――。」
 薄暗い部屋に唯一、外からの光を届けてくれている小さな窓から、ヘイズは目だけで感慨深げに外の景色を眺めた。
 現在、四人いる〈カゲノミコ〉の内、『刻眼』と『陰月鎌』が負傷するという状況だ。公国議会はさぞかし“賑やか”なことだろう。
 何せ、最強と名高い〈ミコ〉が二人も倒れるなど、緊急事態だ。それでも、二人とも命に別状ないことが分かっているからまだよかった。・・・一方の方は、まだ目を覚ましていないが。
(・・・さて、問題は)
 そう、残り二名の〈ミコ〉である。『狐染』と『涙目』は無事なのだが、彼女らは今は一体何をしているのだろうか。

「失礼致します。ヘイズ様、オスカー殿」
 そんなことを考えていると、一人の男が部屋に入ってきた。長身で、しなやかに鍛え上げられた肉体。日に焼けた肌。几帳面で真面目そうな顔つき。黒いスーツは、その筋肉質な体躯と相成ってみるものに威圧感をもたらしている。
 彼は、ヘイズの部下、ガーランドである。
「オスカー殿、治療の具合は」
「ん。今は術式の解析が終わったとこじゃい。なぁに、あとほんの一時間ばかしってとこじゃ、いひゃひゃひゃ!」
 ほとんど抜け落ちた歯をカチカチ言わせ、唾を飛ばして笑う様に、ヘイズは失礼とは思いながらも生理的嫌悪を感じた。
 ガーランドは、眉一つ動かさない完璧な直立の姿勢で「分かりました」と言った。
「オスカー殿。・・・失礼ですが、少し外してもらっても?」
「ん」
 そう言うとネモロズムは「よっこいしょ」と腰を持ち上げ、少し危なっかしく歩いて行って部屋を出て行った。その様子を目線で追っていたガーランドは、ネモロズムが座っていた椅子に腰かけた。
「ヘイズ様。現在の状況を報告させて頂きます。・・・喉を負傷中との事なので、あなた様には筆談を」
 ヘイズに小さな羊皮紙の束と、カラスの羽ペンを渡す。ガーランドは、乾いた唇を舌で湿らせた。
「現在、ディレカート様が目を覚まされたと。情報が入りました。とはいえ、大きく負傷したため治療と療養、リハビリに大きく時間が掛かるそうです」
 ヘイズは筆を走らせる。
『分かった。して、ユグルとファグは今、何を』
「はい。ユグル様は現在、オースンカッグにて重傷者の手当てに尽力なされております。怪我人の数が非常に多く、他の術師も投入して治療に当たらせていますが、ユグル様はしばらくは動けないかと。・・・それで」
 珍しく口ごもるガーランドにヘイズは思わず数回瞬く。普段ならばこのような姿は見せないのに。
 二秒ほど沈黙した後、覚悟を決めたかのようにガーランドが口を開いた。
「ファグ、様ですが。現在、所在不明です。捜索も既に手配してはいますが・・・我々のミスです」
『儂が、治療が終わり次第ファグを探そう』
「ですが!・・・ヘイズ様には申し上げにくいかと存じますが・・・ヘイズ様には喉の治療が終わった後、浸食を受けた腕を治してもらわなければなりません」
『儂の事はいい。今は動ける〈ミコ〉――ファグを探さねば』
「恐れ多いですが申し上げます。・・・この一件で、民衆は混乱しております!そのようなときに、民を導くのが役目の〈ミコ〉様が負傷した身を押して駆け付けたのだと民に知られれば、保たれた平衡は崩れ落ちる。公国議会の力が疑われます!そうなれば国は乱れ、更なる災いに対応することも難しくなるでしょう。・・・どうかヘイズ様、ご理解頂きたく」
(―――っ)
 ヘイズは内心で歯噛みした。
 ガーランドの言う通りだ。「負傷した〈ミコ〉を前線に出さなければならないほど、議会に余裕がないのか」と無垢な民に悟られれば、公国議会に対して不信感が高まる。そうなれば、議会に背くものも現れ、五百年以上保たれていた平穏がーーーーー始祖の〈ミコ〉が今日まで積み重ねてきたものを、無為に失うこととなる。

 それを避け、秩序を維持することが、今代の、そして〈ミコ〉を名乗る全ての者の責務であり、矜持であり、役割ではなかったか。
 己の力が足りないことを実感しつつ、しかし、今はそんな感情に寄り添っているのもどうやら状況が許さない。
『・・・分かった。儂は今回は動かないことにする。すまんの、ガーランド』
「いえ、ヘイズ様」
『ファグの事は承知した。アルブレヒトは?』
「それが・・・『幻暈』様の所在、というよりかは行動が、我々には何も」
『伝わっていない、と』
「はい・・・。クロイツベルク家は、代々、我々公国議会に中立の姿勢を保ってきましたから。最近はその姿勢が強く出ていて、いわば一つの独立機関のような態度を保っています」
(国一つを滅ぼすことのできる、独立機関というところじゃな・・・)
 だからこそ、なのだろう。それほどの力を持ったクロイツベルク家には、さしもの議会も強硬な姿勢をとれないというのが現状だ。故に、ガーランドのような“たかだか”上級士官には情報の開示が許されていないのだ。
 それこそ、元帥レベルのーーーーーーーーーー国の軍隊を動かせる力を持ったものでなければ、彼の家系は見向きもしない。

『大方の事情は察した。ユグルに、儂の部下の内の六人を付けておいてほしい。治癒術の使える六人じゃ。下がっても良いぞガーランド』
「は、必ずや。御身を黒く染めましても」
 
 そう言うと、忠実な従者は影に紛れて音もなく部屋から立ち去る。その音を意識の淵に止めながら、ヘイズは再び窓の外を眺めた。

(―――――何をしておるのじゃ、ファグ)

Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.68 )
日時: 2019/10/23 20:24
名前: マッシュりゅーむ

 そう、目を細めながら思う。彼女はいつも肝心な時にいない。自由だ。自由すぎるのだ。
 はぁ、と、小さな溜息を一つ吐き、しかし、〈ミコ〉としての最大限の仕事はしているので、うまく責められない事に苦笑する。
 
 ふと、意識がレナのことに戻る。彼女は無事、逃げているのだろうか。最悪なパターンは、アルブレヒトに鉢合わせしてしまうことだ。レナでは手も足も……いや、意識を向ける前に反応できずにやられてしまうだろう。しかも、その可能性は高い、とヘイズは推測、否、確信している。
 
 なぜならレナが向かったのは、十中八九《イデアの淵》だからだ。
 レナは最初に戦力となるフォスキアを回復しに行くだろう。〈カゲボウシ〉がそこで回復できることは、きっとあの〈チミ〉に教えてもらっているから。
 そして、そのことをアルブレヒトも思っているに違いない。

 ヘイズは目を閉じ、ネモロズムがまた鼻水をすすりながら部屋に入ってくるまで、ひたすら祈っていた。

「無事でいてくれ……レナ…ッ」


・・・

『―――と、思っているはずやよ』
「……やけに具体的だね」
 だといいんだけど、と、レナは自分の中にいるはずのデュウに笑いかける。
 先程、あの川本江と鉢合わせし、そのあとまた少し歩き、高ぶった気持ちを冷やしていた。
 まぁ、ある意味逆にヒヤッとしたが……。殺されなくてよかったと本気で思う。ほんと、元も子もないから。
 
 因みに今は木陰で休憩している(と言っても森の中だから木陰もクソもないが)。さっきのデュ
ウとの会話は、その時にされたものだ。

『よし、そろそろ行くで』
「……ねぇ」
『うん?』

 デュウの言葉に腰を上げる。それと同時に、気になっていたことも聞こうと、声をかける。
「さっきデュウの言ってた《イデアの淵》――」
『うん』
   ・・・
「――もどきには、近づいてるの?」

 そう、この逃亡という名の行動に移る際、デュウに〈カゲボウシ〉の傷が癒える唯一の場、《イデアの淵》という所について教えてもらい、じゃあそこに行こうという話をした。フォスキアを、回復させるために。
 しかし、この森に入って落ち着いて、少ししてからもう一度聞くと、デュウは、『いや、これから向かうのは、《イデアの淵もどき》や』と宣うではないか。
 何やら昔、たまたま森の奥で見つけたリラックスポイントに3年間通って、何故かストレスやらつけられた傷やらが治ることに不思議に思っていたら、そこは天から光が辛うじて届いている、『ミニイデアの淵』だったらしい。
 
 いや、3年たってようやく気付いたんかい、と、思いはしたが口にしなかった。

『モチロン!この調子でいけば、あと2日で着きそうやよ』
「な、長い……」
 さすがは森の奥というだけあって、生半可な覚悟じゃ着きそうにもない。そう思いもう一度、レナは気持ちを入れ替えた。

『あぁ、それと』
 再び歩き始めようとした時に、デュウから声がかかる。
『その場所、なんか遺跡みたいでな、一回入ったら何度でもはいれるんやけど……』
「…え、なんかあるの?」

 そうレナが聞くと、間を開け、デュウは言葉を綴った。


『な〜んか、入るための条件、「試練」みたいのがあるんよねぇ………』



        
 

Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.69 )
日時: 2019/10/27 18:19
名前: marukun

「試練?」
オウム返しであほみたいに聞き返す。
『そ、三つの試練を乗り越えたその先にあるっちゅうワケよ』
へー、なにそれ。ゼ○ダの伝説?ト○イフォース的なあれが手に入るのかな…。知恵と力と勇気だっけ?
そんなことを思いつつ薄暗い不気味な森の中を歩く。ん?不気味…?
そう思いかけた瞬間、うなじの辺りがピリッとした感覚と背中に針を何本も刺された感覚…否、殺気のこもった視線と命の危険を感じ取った第六感の働きだ。それらを感じた。
耳を澄ませば森の音は風だけで、動物の音は消えていた。
かなりの手練れ、それだけは確かだった。心の中でデュウに語り掛ける。
(デュウ、これってさ…)
怪しまれないよう、変わらずそのまま歩き続けるが長くは続けられない。
『わかっとる、不意打ち対策は任しとき』
頼もしい言葉だ。私一人ならどうしようもなかった。私の体質とデュウに感謝感謝です、はい。
しかし、相手がどちら様なのかわからないこの状況では下手に仕掛けられない。相手の出方を待つのみ。
しかし、一向に仕掛けてこない。まるでなにかを待っているかのように。



 世界は自分の思うままに事が進むことはない。それが自然の摂理だ。誰しもが理解していること。
 しかし、自分の命が危険にさらされる時、あなたはそれを納得できるか?理不尽だと思わないか?
 すべての者は「否」。そう答えるだろう。しかし、それを拒否する力はあるか?知恵はあるか?
           
          自分のために全てを犠牲にする覚悟はあるか?
          
         陽陰誕生書紀 第1章 「陽陰世界創造」より


「こんな場所があったなんて知らなかったな…。全てが集う世界図書館か、いい収穫だ。こんな辺鄙なとこまで来たかいがあったよ。」
片手にランプを持ち、もう片方の手で廃れた門のすぐ隣にある石碑の汚れを落とす。ファグがなぜこんなところにいるのか、さぞかし不思議だろう。だって公国議会は大変なことになっているのに探し物とはいい御身分ですね、だ。
しかし、これはファグの欲を満たすものではない。(5,6割は私欲)
謎の究明だ。すべてはそのため。自分たちの権能について。ヘイズの『刻眼』やディレカートの『陰月鎌』等についてだ。この力達は何の意味があるのか。どんな目的で≪ツクヨミ≫は生み出したのか。
ファグは腰を抑えながら立ち上がり、門の向こう側へと足を踏み入れる。その瞬間世界が歪んだ、そう錯覚するほどの眩暈が襲う。
「グッ…」
突然の眩暈に倒れそうになるがギリギリのところで堪える。
「な、なんだいまのは…」
すると、突然声が聞こえた。ロり声が。
『よく来たな、涙目の。さぁ、約束を果たす時が来たぞ!3000年前の約束が!』
直接頭の中に聞こえるような感覚がする。が、混乱してよくわからない。
「……………え?」
その場を沈黙が支配する。
『…………(´・ω・`)?』
「…えーっと、勘違いしてないかな?3000年前なんて何も知らないんだケド・・・・・」
相手がどれほどの実力なのかわからない以上、穏便に出たほうがいい。というか、少なくとも3000年生きているなんて化け物レベルだ。
『う、うええええぇぇぇぇぇん!!』
急に泣き始めた。

Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.70 )
日時: 2019/11/09 15:52
名前: おまさ

 どこか、圧迫感を感じる部屋だ。
 石煉瓦で構成された四面の壁。堅牢さは言うまでもないが、それにしても執務室としては殺風景に過ぎる。責務に追われる日には五時間は籠る事になる部屋だ、白磁の花瓶の一つくらいあってもいいのだろうが。
 一つしかない窓から差し込む月の儚い光に頬を照らされながら、執務室の巨大なデスクとその椅子に収まる人影はぼんやりと思う。

「ーーー失礼します」
 影からすっ、ともう一つの人影が現れる。
 驚きはしない。最初から気配には感付いていたし、仮に気付いていなくともこの程度で喫驚するなど、統帥権を持つ元帥を名乗るこの男にはあり得ない。

 男の傍に足音なく歩み寄る影法師はデスクの三歩前で歩みを止める。ちょうど、月光がその者の頬を掠める位置。
 怜悧かつ整った顔。小柄で華奢な体躯。珍しい蘇芳の髪を短髪にし、緇衣に四肢を纏いしその少女は生真面目な様子で淡々と、忍び込んでいた公国の状況を報告する。
 その観測内容を、男は苦々しく噛み締めた。
「ーーーーかの、影の王が動いたか」
 それは、字面以上に楽観を許さない緊迫した状況だ。敵対する公国との力の均衡が、間違いなく崩れる。
 あの気紛れな影の王が、直接公国君主に与するあの異邦人に厚意を以て力を貸すと言うのなら、たとえ「傍観者」を配下に収める誇り高き我が軍勢でさえも粉砕されるだろう。
 ーーーその上公国は、既に「調停者」すらも掌握しているという噂もある。状況は芳しくない。
 
 今から戦力増強を行うのは得策ではない。明日攻めて来るやも分からぬ敵を前に、リスクを取るのは避けたい。男は、堅実主義だった。
 和平という手もある。しかし、議席の老人たちがそれを承諾するとは到底想像がつかない。
 それに、と男は心のなかで呟いた。
「・・・『狐染』との同盟にも支障を来す、か」
 そもそも、かの〈ミコ〉との極秘裏における同盟も、両国が敵対状態かつ戦力的な拮抗に依存する形で保ってきた。それすら無為に転覆させるのは避けたい事態だった。

 軍の強化は期待できない。そもそもが弥縫策である以上瓦解は免れない。

 いっそ、弱者に成り果て拙い可能性にすがる方がいいだろうかと、ふと脳裏をある考えが掠めた。

「報告、ご苦労だった。ミシュナ」
「いえ、責務を全うしたのみです。ーーーヒュドラ元帥」
 男は、この緊迫した状況に場違いとは判っていながら苦笑した。折角可憐な少女なのだから、真率さばかりでなく愛想の一つくらいあっても良いのではないか。

 ともかく。
 独断、というわけにもいくまい。何故ならこの計画は、この国に莫大な経済的負担を掛ける可能性が高いからだ。仮に脳漿を下水に垂れ流しているような国会の無能どもにも、表向きは提案という形を取っておこう。
 方針は定まった。ここからは迅速な行動が必要になる。男は息を吐きながら立ち上がる。こちらを見上げる少女と目が合った。
 しなやかに、鍛え上げられた筋肉質の身体。天井の高さに迫る身長。目前の華奢な少女と正反対の体格のこの男の赤い瞳の奥には、何かが映っている。
 其が何なのかは誰にも解らないけれど。

 祖国である、我らがキュビム共和国に福音を。三人の『エインヘリヤルの鍵』のうちの最強の一角、西の地の果てに眠りし「簒奪者」の封印を解き、我らの希望に。

 その希望を盾に、準備をしよう。







 
 
 

 影の王ーーーかの最強と名高い〈カゲボウシ〉を、玉座から引き摺り降ろす、準備を。

Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.71 )
日時: 2019/12/02 19:31
名前: マッシュりゅーむ

「……はッ!!…うぐ」
 意識が覚醒する。そして、目を覚まして勢いよく起き上がり、その反動で体に痛みが走ってまた寝転ぶ。しかも何か気持ち悪い。最悪の気分だ。頭痛もする。
 そんな感じでうんうん唸っていると、己の中にいる〈カゲボウシ〉が話しかけてきた。
『デイズ…っ!大丈夫か!?』
「……バーヘイトちゃん?」
 普段は比較的静かなバーヘイトがこんなに慌てているのは珍しい、と、ずきずき痛む頭で思う。そういえば何で自分は眠っていたんだ………?
『良かった…。心配したぞ』
「……すまねーです。あの、これは一体どーゆう状況で?」
 自分で思い出せそうだったが、今余計なことを考えるとこの頭痛がひどくなりそうで怖かった。
 改めて、――今度は痛みを感じないようにゆっくりと――起き上がりながらそう問うと、バーヘイトは覚えていないか、と溜息を吐き、先程起こった出来事を語ってくれた。

 アルブレヒトとの激闘、そして倒れ伏したときに現れたあの、謎の『男』。
 そこまで語られ、そしてふと見渡した瓦礫まみれの酷い周りの風景を見て、一気に、鮮明に、明細に思い出した。

「そう……。俺ちゃんは、あいつに負けて……」
 あのすました顔。あの顔を思い出すだけで腹立たしくなり、それと比例するように頭痛がひどくなり、体が熱くなる。
 体が、熱く……?いや、違う。これは―――

『デイズ』
 何か自分の体の奥に感じるものがあり、それを見極めようとしているとバーヘイトが話しかけてきた。
「なんでいやがります?」
『いや、な。先程話した最後の「男」が、デイズの体に何かしたようだ。最初はただの治療かと思っていたが、これは。それと、あの「男」は』
「!?」
 言いかけた時、デイズの体の奥にある何かが、爆発した。
『デイズ!?』

「ぁぁ……あああああああああああああああああああぁぁぁっぁぁっぁぁああぁ―――!!?」

 胸の奥が苦しい。息が、続かない。頭が割れそうだ。痛い。苦しい。
 目を見開きながら、必死に痛みに耐えようとする。しかし、常時叫んでいないと、精神がおかしくなる、これまで感じたことのない痛み。

 そして、意識がまた薄れ、〈カゲボウシ〉の自分を呼ぶ声が徐々に遠ざかっていく中、デイズの中の〈カゲ〉の奔流が―――まるで、川が合流して大きな流れになるように、段々と、その量を増やしていった。

 

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