複雑・ファジー小説

幻想叙事詩レーヴファンタジア
日時: 2019/10/18 20:59
名前: ピノ
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1259

「幻想(ユメ)はいつか現実(カタチ)になる」

東京にある高校、「星生学園」に通うごく普通の男子高生「新名悠樹」。
平凡な毎日を過ごす彼は、ある日事件に巻き込まれ、力に目覚める。
学園での小さな事件は、次第に現実世界を取り巻く事件へと変貌していく事は、まだ誰も知る由もない。




はじめまして!
「幻想叙事詩レーヴファンタジア」をご覧いただきありがとうございます。
当小説は、ゲーム版幻想叙事詩レーヴファンタジアの制作がいまいち進まないんでとりあえず小説書くか!という感じで書いてますので、
更新頻度などはあまり期待なさらず。
内容は、異世界へ飛んで悪い奴をやっつけるというわかりやすい内容です。
が、この小説版ではゲーム版の流れとは違うものを書きたいので、
リク依頼板にてオリキャラを募集し、そのキャラたちとの関係を描いていきたいなとか思ってます。決して丸投げではございません。
ちなみに当作品は「ニチアサ」「爽やか」「幻想」「異世界異能者バトル」がイメージワードです。(バトルを描けるか不安ではありますが)
とりあえず、幻影異聞録♯FE、アンダーナイトインヴァース、女神異聞録デビルサバイバーを知ってる人がいましたら、だいたいあんな感じです。
では、どうぞよしなに。




【登場人物】 >>1
【専門用語】 >>2
【登場人物(オリキャラ)】 >>32


目次
序章  >>3-8
第一章 >>9-14
第二章 >>17-24
第三章 >>25-31
第四章 >>44-50
第五章 >>57-66
第六章 >>67-81
第七章 >>82-91
第八章 >>92-105
第九章 >>106-112

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Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.108 )
日時: 2019/10/14 21:49
名前: ピノ

 悠樹の背後にいた少年は、悠樹から彼の姿が見える場所までゆっくりと歩く。悠樹はその姿を見て驚き、口を開く。

「渚!?」
「ようやく答えにたどり着いたようだね。些か遅い気もするけど」

 渚は悠樹を見下ろしてほくそ笑む。その笑みは、以前見た人懐っこいモノとはかけ離れ、恐ろしく歪み、他人を心底バカにしているモノだ。悠樹は歪んだ笑顔を目の当たりにし、怯む。

「君は今回のパーティの主役だからね。この特等席でショーを楽しんでほしい」
「ショー……?」

 何が始まるというのか? 悠樹は怪訝そうな顔で渚を見た。
 ……ロクでもないモノには変わりはないはずだ。と悠樹は歯を食いしばるが、やはり身体は動いてくれない。
 渚は腕を正面に上げ、背後にいる数人に何かを命じている。本当に、一体何が始まるんだ……? 悠樹は答えを知りたいという反面、恐怖で胸が痛む。
 そんな彼を見て、渚はその場にしゃがみ、悠樹の顔をのぞき込んだ。やはり歪んだ笑顔で白い歯を見せながら、口を開いた。

「待っている間に良い事を教えてあげよう」
「良い事……?」
「ああ。君たちが会っていたユピテル……彼、あの後どうなったと思う?」

 今更何の話なのだろうか? その言葉の続きを聞きたくはないが、渚は容赦なく続ける。

「ぼくがこの手で殺したんだ。余計な事ばかりしゃべっていたからね……心臓を穿った後も友達の事を心配してたみたいでさ。自分が死ぬっていうのにおかしいったらないや」

 彼はとても楽しそうに声を上げて笑っていた。……なにがおかしいのか、悠樹には理解できない。だが分かったことはある。彼は他人の死に興味がないということが。何がどう彼をここまで変えてしまったかなどわかるはずもない。悠樹はそう考えながらも、彼に尋ねた。

「君は……なぜアポロンに協力している?」
「ん? うーん……まあ、退屈しのぎかな」

 渚は肩をすくめながら答える。

「理由なんてないさ、ただの好奇心。「幻想世界と現実世界を繋げたらどうなるのか?」とか「他人が死に、ナイトメアだけの世界になったらどうなるか?」とか、「この世界の人間がどう足掻くか?」って考え始めたら試したくなっちゃってね。「あの人」の手引きがあったとはいえ、こんなうまく事が運ぶなんて思ってなかったけどさ」
「あの人……?」
「あれ、知らない……あ、そっか、記憶ないんだっけ」

 渚は「余計な事言っちゃった」とつぶやきながら口元を抑える。

「君は一体何者なんだ?」
「サトゥルヌスに聞いたよね、異世界人だよ。この世界とは違う場所から来たんだ。研究者をやっててね。人類滅亡の危機を救うために、色々研究をしていたんだけど、テロに巻き込まれてこっちに偶然来ちゃったわけ。それで、面白い事をやってるアポロンと協力することにしたって感じ。……ああ、若く見えるとかそういうのは大丈夫だよ、あっちの世界とこっちの世界では色々相違があるのは当たり前だし」

 渚はそう答えると、後ろに振り向く。準備が終わっているのか、数人の黒いローブに身を包んだ人物と、それらに取り囲まれている少女がいる。あれは、サトゥルヌスだ。体中に打撲のような傷と、痣が残っていて、見ていて痛々しく感じる。

「さて、サトゥルヌス。アポロンを裏切った罪として、君は今から死んでもらうからね」
「――なっ!?」

 悠樹は目を見開き、思わず声を上げてしまう。
 「ショー」が何の事か、ようやく理解した悠樹はやめさせようともがき、声の限り叫ぶが意味をなさない。
 サトゥルヌスは力なく「わかっています」と答えた。弱弱しく消え入りそうな声を出し、俯いている。

「最後に何か言いたいことあるかな?」

 渚は満面の笑みでサトゥルヌスに尋ねた。
 彼女は、悠樹の顔を見て涙を溜めた目で、声を震わせながら口を開いた。

「ユウキ様、時恵ちゃんを……お願いします――」

 そう言い終わるのを待たずに、渚は取り囲んでいる数人に合図を送る。
 悠樹は思わず「やめろ!」と怒声を上げるが、その声は届かなかった。彼らは手に槍を持ち、それを構えて振り上げる。

 渚の「やれ」という指示の後すぐに彼らは槍を真っ直ぐ、サトゥルヌスに振り下ろす。
 その瞬間はスローモーションのように恐ろしくゆっくりとした動きに見えた。だが、鋭い槍は止まらない。

 真っ直ぐ振り下ろされた槍は、サトゥルヌスの身体を貫く。
 彼女の頭はだらんと、力を無くした人形のように垂れ、生気のない瞳がゆっくりと閉じられた。

 彼女の身体から数本の槍を伝って赤黒いモノが広がる。渚はその光景を見て、また一層楽しそうに声を上げて笑っていた。

「やはりあっけないものだね、死というのは! だが、死というモノは儚く美しい。どんな存在も死ぬ瞬間は美しく輝けるものだよ。……それに」

 渚は悠樹の顔をのぞき込み、彼を煽るように口元を歪ませた。

「君のその顔! 初めて会った時の笑顔を絶望に歪ませてみたいと思っていたが……とても似合っているよ。素晴らしいよ悠樹くん!」

 何がそんなに楽しいのかはわからない。だが……悠樹の中ではとてつもない怒りと、どうしていいかわからない悲しみが渦巻いていた。こんな感情は初めてだ、本当に。


「さて、第二ラウンドいこっか」

 渚は悠樹の顔を存分に見終わった後、子供のようにはしゃいで両手を広げる。

「次はだれがいいかな? ……あ、あの詩織ちゃんって子がいいかもね」

 ――詩織!? 悠樹は詩織の名に反応し、顔を上げる。渚は悠樹の驚愕と恐怖と憤怒が混ざり合った表情に喜び、歯を見せて笑っていた。

「そっか、そうだよね。詩織ちゃんがいいよね♪」

 渚はそう言うと、準備を進めるよう指示を出す。ローブを着こんだ人物たちはそそくさと行動に移った。

「ふふふふっ、今度はどんな顔をしてくれるのかな〜? ぼく楽しみだよ」
「も、もう……」
「ん?」

 悠樹が何かを言おうとしているので、渚は耳を傾けて聞いてみる。
 非常に小さく、悠樹はつぶやくように口にした。

「もう、やめてくれ……」

 俯いているので顔は見えない。聞こえているかどうかもわからない。だが、彼の顔は安易に想像ができる。渚はやはり笑みを崩さず答えた。

「やめないよ、これは大事な事なんだ。仲間を一人ずつ殺された勇者は最後どういう行動をとるか? っていう実験♪ ずーーーっと気になってたんだよね」

 今の彼に何を言おうとも、意味はない。悠樹は、何を聞いても「暇つぶし」「退屈しのぎ」ぐらいしか答えは返ってこないだろう……と悟った。サトゥルヌスの死に心が押しつぶされそうだが、次は詩織。いつも寄り添ってくれて、どんな時も笑顔を振りまく彼女も、あんな風にあっさりと死んで、捨てられてしまうのだろうか? 腕が動けば、こんな重力なんて振りほどくというのに。
 悠樹は何もできず、ただ俯くのみであった。


 しかし――

「全く、お前程の者がこの体たらくか? 新名!」

 力強く低い声が響き渡った瞬間、彼らの目の前にあるステンドグラスが勢いよく、音を立てながら砕け散った。

Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.109 )
日時: 2019/10/15 20:30
名前: ピノ


 ステンドグラスをぶち破り何かがこちら側へと飛び込んでくる。一つ、いや三つ……それ以上だ。飛び込んできたモノは、人だ。それも見覚えのある……。
 飛び込んで着地し、すぐに地面を蹴って剣を構えて切り込んで、目の前にいたローブを着こんだ人物を一刀両断する。それは真っ二つとなり、黒い靄を発して消滅していく。それに乗じて、一緒に飛び込んできた者が次々に、自身の周辺にいた彼らを切り倒していく。

「これは予想外ですね、ミカイドウレイジ君、それにタニザキショウタ君、イチジマケイイチ君」

 アポロンは言葉とは裏腹にただ冷静に彼らの名を呼ぶ。
 慧一はアポロンを見据えると、フンっと鼻を鳴らし、奥の方を指さす。

「もろちん、俺達だけじゃあないぜ」

 慧一がそう言い終わらないうちに、悠樹にのしかかっていた重力がゆっくりとなくなっていき、身体が軽くなる。悠樹は背後に振り向くと、詩織、知優、風奏がいた。

「新名君、遅れてごめんなさい」

 知優がそういうと、詩織が悠樹に抱き着く。抱き着かれた悠樹は驚いて詩織を見るが、彼女は嬉しそうに笑っていた。目に涙を溜めて。

「ごめんね悠樹くん……ごめんね……」

 震える声でそう言いながら、悠樹をぎゅっと抱きしめて離さない。
 風奏はアポロンと渚を指さして、珍しく怒りを露わにして怒声を浴びせた。

「許さないんだから! どういう理由があったにせよ他人の心を弄んで踏みにじるその悪行! お天道様が許してもあたしは許さないわよ!」
「そうよ!」

 風奏の怒声に同意する声がその場に響き渡る。
 声のする方を見ると壁に穴が開いており、そこに時恵と陽介の姿があった。二人とも風奏と同じく激昂している。特に時恵は渚に向かって自身の持つ黒い短剣を力強く向けた。

「よくもあの子を……御託を並べるつもりはないわ。あんたに「だっふんだ!」って言わせてやる!」
「あの、先輩……「ぎゃふん」です、「ぎゃふん」」
「ぎゃふん!」

 陽介の必死のフォローで時恵は顔を真っ赤にさせて思わず叫んでしまう。
 翔太はそれに呆れながらもアポロンと渚に向かって笑みを見せた。

「ま、うちのかわいい悠樹さんをいじめた分は殴らせてもらうな。あと、サトゥルヌスさんの分も、ね」

 渚は各々に武器を向けられ、「ふーん」と声を出す。焦りもせず笑いもしない。頷きながら「なるほどなるほど」と声を出した。

「これが「仲間たちとの絆」って奴? まあそれはいいや。どうやってあの牢獄から脱出したのか、あえて聞きたいんだけど、玲司君」

 名指しされた玲司は腕を組んで答える。

「お前たちのお仲間がカギを開けてくれたのだ。「サトゥルヌスの死を無駄にしないでくれ」とな……」
「なるほど。サトゥルヌスが死ぬまで指をくわえてみてたってわけ、薄情だね」
「……お前たちの用意した錠前が思ったより難解だったのが悪い。おかげで随分と足止めを喰らった」

 玲司は悔しそうに歯を食いしばる。……が、すぐに真顔になってアポロンと渚に指を差す。

「残念だが、ここらで舞台に幕を引こう。大根役者の三文芝居に付き合わされるのはもう終わりだ」

 玲司の言葉に、詩織も同意し、彼らに大声を上げた。

「そうだよ! サトゥルヌスさんを殺して、悠樹くんをこんな目に合わせて! 絶対に許さないんだから!!」

 アポロンはふうっと溜息をつくと、肩をすくめた。

「やれやれ、大根役者に三文芝居とはひどい言われようですね。ですが、まだ幕引きは早いですよ。あなた方の死による最高のフィナーレが残っていますからね」

 そう言いながら彼は右手に白い光を集め始める。光は形を成して、手に取ると天秤の絵が描かれた表紙の、分厚い本になった。そこからはとてつもない力を感じる。……これが彼の夢幻武装なのだろうか?
 渚もそれを見て、「戦うのは専門外なんだけどなぁ」と言いながら、手に黒い光を集め、それを手に取る。漆黒の剣をヒュンっとその場に振って空を切った。こちらはとても禍々しいモノだ。

 悠樹はそれを見て、詩織の肩を借りながら立ち上がる。左手には自身の剣。先ほどまで重力によって体が押さえられていたせいか、足の感覚が浮いてるような感じがする。だが、ここで立ち上がらなければ、もう立ち上がることは叶わないだろう。
 悠樹は剣を握り締めて剣先を力強く二人に向けた。詩織から手を離し、自分の両足で立つ。

「ここからが俺達の反撃だ。……もうこれ以上何も言うことはない。あなたたちを倒す。それだけだ!」

Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.110 )
日時: 2019/10/16 21:07
名前: ピノ


 悠樹の声に呼応し、一斉に皆が武器を手にアポロンと渚に攻撃を仕掛ける。
 時恵は自身の影に手を当てて、二人を拘束しようと影を伸ばし、風奏は悠樹の腕に花を咲かせた。花の力で悠樹の体力が少しずつ回復し、悠樹も剣をくるりと一回転した後、渚に向かって刺突した。
 だが、渚はそれを剣ではじき、悠樹は剣をはじき返され、仰け反る。その拍子に剣を手放して落としてしまう。

「悠樹くん!」

 背後にいた詩織と知優はそれぞれの武器で、渚の次の斬りこみを防ぐ。
 渚とアポロンの背後に時恵の影が迫るが、アポロンは既に本を開いて魔法を放ち、その部屋全体に光を照らす。光のせいで時恵の影は消えてしまい、時恵は「加宮!」と叫ぶ。

「いきます!」

 陽介は本を開き、光に向かって手をかざした。すると光を飲み込むように闇が侵食し、辺りは暗くなる。

「なるほど、ヨウスケ君の顕現の力で光を抑えましたか」

 アポロンは若干驚いたような声で頷く。
 玲司と翔太は闇に乗じてアポロンに斬りかかった。だが、アポロンは素早く本から光り輝く剣を引き抜いて二人の剣を受け止めながらも、打ち合う。輝く剣と翔太の燃え盛る剣、玲司の剣により、閃光が走るように剣閃が瞬いて闇を照らす。

「お兄さんも混ぜて頂戴なっと!」

 そこに鎌を振り回しながらアポロンを狙うように斬りこむ慧一。首元を狙うような一撃だったが、アポロンは空いている手に光を纏わせ、鎌の軌道を滑らせて狙いを逸らせる。慧一はそれを見て楽しそうに笑った。

「笑っている場合じゃないですよ先輩!」

 翔太がその笑顔を見て思わず叫ぶと、玲司はアポロンの不意を突いて急所を狙う。だが、アポロンは身体を反らせ、その不意打ちを凌いだ。それを見て玲司は舌打ちをする。

「避けるのは一丁前だな」
「お褒めいただき光栄、ですよ!」

 アポロンは玲司の顔に向かって剣を一突きさせる。一瞬判断が遅れたのか、玲司は一歩遅く避けるが、頬に傷を受ける。浅いのか、赤い線ができただけで済んだ。
 玲司は陽介の様子をちらりと見る。闇魔法を放ち、光魔法を抑え込んでいるようだが、限界が近づいているのか、肩で息をし始めている。

「谷崎、アレやるぞ」
「……えっ」

 玲司の突然の提案に翔太は素っ頓狂な声を出した。そして、「あ、ああ!」と大きな声を上げて、何かを思い出す。その瞬間を狙い、アポロンは陽介を狙う。

「おっと、そうはさせんよ!」
「ふふっ、過保護ですね」

 慧一が陽介の前に立ち塞がり、アポロンの剣を鎌で防ぐ。慧一の攻撃は大ぶりなため、アポロンも容易く避ける。武器を使うごとに、慧一の顔色が悪くなっていく。

「あなたの顕現は確か、他者の血を吸収するものでしたよね。ですが、吸う血がなければ自身の血をも吸われる……長期戦には向かないモノですね」
「おう、じゃあ血を吸わせてくれよ。俺、貧血で死んじゃうかも」

 慧一は二っと笑うと、アポロンもにこりと笑う。
 その背後では、玲司は空気中の水分を自身の顕現で凍り付かせ、見上げるほどの巨大な氷塊を作っていた。一瞬でひやりとした空気に、アポロンも、戦闘中であった渚も振り向く。
 翔太は炎を纏わせた剣を氷に振り下ろし、氷を熱しながら斬る。熱された氷は急激に溶け始め、白い蒸気となって部屋全体を包む。白い蒸気のせいで周りが見えにくくなるが、玲司は陽介に近づいて魔法を放つのをやめるように言う。

「いいんですか?」
「構わん、お前は隠れて休め」

 玲司にそう言われると、陽介は「ありがとうございます」と一言、近くにある長椅子の影に隠れた。

「目くらましのつもりかい?」

 渚がそういうと、額に指を当てる。すると、彼の目が緑色に光る。

「いや、そんなつもりはない」

 悠樹はそう言うと、渚の不意を突き、右脇腹に狙いを定めて剣を刺突させた。
 渚は不意を突かれて悠樹に押し倒される。馬乗りになった状態で脇腹に剣が深く刺さり、渚は思わず苦悶の表情になり、先ほどまでの余裕が消え失せる。

「なっ……!?」

 あまりの痛みに渚は叫び声をあげる。悠樹は深く、さらに深く剣を押し込んで彼が動けないように刺す。さらに大きな声で叫び、痛みを口で表現する渚。

「ここでじっとしててくれ」

 そんな彼に、悠樹はそう言うと立ち上がり、渚から一歩引いた。

Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.111 )
日時: 2019/10/18 00:31
名前: ピノ

 白い蒸気に包まれ、互いに姿が見えなくなる。アポロンは渚の悲鳴を聞いて彼が行動不能になったのを把握するが、煙幕のように濃い蒸気に周りを見回す。
 背後に気配がする。時恵の影が伸びてアポロンを捕らえようとしていた。だが、アポロンは本を開き、手をかざす。影は光に照らされると消えてしまう。だが――

「捕まえたわよ」

 アポロンが影に気を取られている隙に、アポロンの背後の影に潜んで姿を現す時恵。

「なるほど、あなたの顕現はとても厄介ですね」
「お褒めいただきどーも」

 時恵はそう言い終わると同時に足を振り上げて一回転。アポロンの顎を蹴る。彼は仰け反り、時恵を睨むが、その姿はもうなかった。だが、背後から息遣いが聞こえる。気づいた瞬間に右肩を斬られる。浅いが、その傷から血がしたたり落ちる。そして今度は左肩を狙われる。まるで猫のように素早い動きに、アポロンは苛立ちを見せていた。

「鬱陶しいですね……!」

 余裕がなくなり、声を荒げるが、時恵の姿はない。先ほどより蒸気が薄れているのか、周りの状況も把握できるようになってきていた。
 だが、それを待っていたかのように、力の高まりを感じる。風奏と陽介だ。風奏は弓を引いて矢に力を込め、陽介は手に黒く禍々しい光を集めている。アポロンはそれに気づき、二人が強力な一撃を放つと同時にその場を飛び跳ね、上の方へと逃げる。
 それを待ち構えていたのは、詩織と知優だった。二人は詩織の召喚したグリフォンに乗りこんで、アポロンに素早く近づきグリフォンから飛び降りて武器を振る。

「すごいですね、ここまでやるとは……!」

 アポロンはそう一言こぼすと、本を開くと二人の背後に白い魔法陣が浮かび上がった。そこから光の槍が現れ、詩織と知優に狙いを定める。彼は拳を握り締めると、槍は知優と詩織に向かって放たれ、二人を襲った。槍が二人に命中すると、地上に叩きつけるように落ちる。

「まだだ!」

 その間に慧一が武器で翔太を持ち上げて、翔太を弾丸のように投げる。翔太は「うおおおおっ」と喉が張り裂けんばかりの声を上げて、アポロンに武器を振り上げて斬りかかった。爆炎を纏った剣が彼に襲い掛かる。アポロンはそれを、光の剣で受け止めた。

「もう十分でしょう、よく頑張りましたよ、あなた方は。もう諦めたらどうです?」
「ラスボスっていうのは、決まって同じこと言うよな。「お前たちはよく頑張った」「もう十分だろう」「もう諦めろ」ってさ」

 翔太はアポロンの胸ぐらをつかむと、地上に向かってアポロンと共に頭から落ちる。風を切りながら落ちるそれはまるで一陣の風ももろともしない、大砲の弾だ。

「だが、諦めない。諦めたらそこで試合終了だしな!」

 翔太がそう叫ぶと共に地上にアポロンを叩きつける。と、同時に翔太も頭から落ちた。
 二人は地面に叩きつけられると、土煙が舞う。白い蒸気も彼らがそうしている間にすっかり晴れていた。翔太とアポロンが落ちた場所にはクレーターができあがっており、二人は頭から落ちたというのに、まだ立ち上がる力があった。
 だがアポロンの方は直ぐに膝をついて、俯せになって倒れる。立ち上がろうにも、足に力が入らないようだ。
 対し翔太はよろりと膝をついて立ち上がろうとする。そして、口の中をもごもごと動かし、何かを吐き出す。奥歯のようだ。薄い赤色に塗れたその歯は、地面に落ちると軽く跳ねて瓦礫の中に落ちる。

「あーあ、永久歯だ。これ責任問題? 遠藤家訴えたらいい?」

 翔太は焦点の合わない目でアポロンを見下ろすと、玲司がその場に近づいて翔太に肩を貸す。

「知優に訴えても仕方ないだろう。朝陽家に話を通してやる」

 玲司がそう言い終わらないうちに、翔太はがくんと糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。「ぐがー」という声が聞こえるので、寝ているのだろう。玲司はそのままアポロンを見た。

「おい、まだやるのか? まだ隠し玉を持ってるんじゃあないだろうな?」
「……いえ、本を奪われてしまいました」

 アポロンは弱弱しく指を差す。その先は、アポロンの本を手に持っている悠樹だった。悠樹は本を渚をはりつけている自身の剣に当てて、顕現の力を打ち消している最中だった。
 玲司はそれを横目にアポロンに尋ねる。

「「祭壇」を破壊する。どうすれば止まる?」
「あの……」

 アポロンが震える指で奥の方を指さす。パイプオルガンだ。

「あれをユウキ君の剣で斬れば、あなた方の勝利です。悔しいですが、僕達はもう動けない」

 アポロンはそう笑う。言葉通り彼は満身創痍であり、本当に動けないようだ。せめて上半身は起こそうとはしているようだ。あまり意味をなしてはいないが。悠樹はそれを聞くと、渚から剣を抜く。彼は出血量は大したことはないが顕現の力が打ち消され、気を失っている。悠樹は奥にあるパイプオルガンへと近づいた。

「これを斬れば、本当に全てが終わるんだな?」
「この期に及んで嘘など……。敗北者は勝者に従うのみ、それが我らの暗黙のルールですから」

 アポロンはそう諦めたように呟く。語尾が消え入りそうだが、まだ口を開く力は残っていそうだ。アポロンが言うには、パイプオルガンはただの柱であり、この部屋自体が祭壇となっている。らしい。柱が壊れれば支えている物は崩れ去るしかない。悠樹は頷くと、剣を握る力を強める。

「これで――!」

 悠樹はそう口にすると、両手で剣を握り締めて振り上げ、思い切り振り下ろした。
 バキッという音と共にパイプオルガンにひびが入り、音を立てて崩れ去る。と、同時に、崩れたそれから眩い光が放たれ、光の柱が天井高く上り立つ。
 その場にいる全員が、その光を消えるまで見届けていた。


 しばらくして光の柱は消え去り、悠樹は振り返って皆の方を見ると、アポロンが「ぐ、があっ」と小さく悲鳴を上げた。アポロンの上に誰かが立っている。

「良き戦いであったぞ、人の子らよ」

 殺気。その人物はとてつもない威圧感と殺気を放っている。小柄な身長、シスターのような黒い服を纏う……女性だ。銀髪をなびかせる彼女は満足げに笑っている。その場にいる全員が彼女の姿を捉え、彼女の正体に気づいて驚愕の表情で見据えていた。

「だが、真の戦いはこれから。「我が問いに答えよ」、ニイナユウキ」

 悠樹の名を呼ぶその人物の事を、悠樹は知っている。そう、最近は姿を現さなかったが……惚けたような行動をとり、その場の空気も何のそののマイペースぶりだったその人の名は――

「……雪乃!?」

Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.112 )
日時: 2019/10/18 20:59
名前: ピノ


 悠樹は彼女の名を呼ぶ。
 雪乃はアポロンの頭を右足で踏みにじり、此方を見ていた。その顔は雪乃のものではなく、瞳は右目は深紅に、左目は紫色に染まっている。殺気を放つそれは……一体何者なのだろうか?

「「雪乃」……それは今私が器にしている者の名だ」

 彼女はそれだけ言うと、腕を掲げる。が、その手に一本の矢が刺さる。風奏の放った矢だ。彼女は唇を噛みながらガタガタと震えながらも、弓を引いたのだ。
 だが、玲司は風奏に向かって叫んだ。

「よせ、逃げろ木下!」

 だが雪乃は風奏の方へ向くと、「脆弱な」と一言口にし、掲げた腕を振り下ろした。
 雪乃の腕に刺さっていた矢は、腕から離れ、まるで弾丸のように飛び、風奏の胸に深く刺さった。一瞬、何が起こったかわからず、風奏はくぐもった声を上げてその場に倒れる。

「ふうちゃん!」

 陽介は叫び、髪を逆立てて声にならないような音を口から発しながら、自信の持てる最大の力を放つ。すべてを飲み込む勢いで闇が広がり、雪乃を襲う。だが、彼女はニィっと笑って陽介に向かって手をかざした。
 雪乃を襲うはずだった闇は陽介へ向かい、陽介を襲う。闇に呑まれ、陽介は悲鳴を上げた。

「無駄だ、所詮私の力を借りているだけの汝らに、私は倒せん」

 雪乃は武器を構えている慧一に向かってそういう。
 慧一も攻撃をしようとしていたが、二人が早々にやられてしまったため、動こうにも動けなかった。
 雪乃は悠樹の目の前までゆっくり歩み寄り、悠樹の瞳を見据える。自身の考えを全て見透かされるような……そんな瞳だ。

「……あなたは一体……?」
「汝の問いに答えるつもりはない。言ったはずだ。「我が問いに答えよ」と」

 悠樹の質問には答えず、彼女は真っ直ぐ悠樹を見る。そして口を開く。


「では問おう。……「我が名を答えよ」」

 雪乃はそう言うと、悠樹は「えっ?」と声を漏らす。
 そして悠樹は考える。
 視線を玲司にやると、玲司は「お前が問われている、答えろ」と訴えかけるように視線を返してくる。

「答えられないか?」

 雪乃はせせら笑うように尋ねる。

「ならば答えられるようにしよう」

 悠樹の答えを待たずに雪乃は腕を掲げ、思いきり振り下ろした。
 その瞬間、悠樹以外の皆は地にひれ伏すようにその場に倒れる。悠樹は驚いて「何を!?」と叫ぶが、雪乃は涼しい顔で笑う。

「早くしなければ、大切な仲間が潰れてしまうぞ?」
「くぅ……!」

 突然の展開についていけない……悠樹はそう考えるが、早くしなければ皆が……! 悠樹は考えた。
 そういえば、この質問は初めてじゃない気がする。何度もこの問いに答えたような、そんな気がする。……それに、ここに来る前に皆で話したような。「クトゥルフ神話」に登場する神々の話。そしてその中でも有名なのが、無貌の神の名――


「「ナイアーラトテップ」」

 悠樹はそうつぶやくと、雪乃は満足げに笑っていた。どうやら正解のようだ。

「では、次の問いだ。……「人は完全となりうるか」」

 雪乃はそう尋ねると、悠樹は困ったように顔をしかめる。
 どういう意図なんだこの問いは? 完全とは、一体どういう事なのだろうか……? 悠樹は考える。その質問の意図を……だが、考えても答えは出ない。
 しばらく無言になり、悠樹は答える。


「……人は不完全だ」
「それはなぜだ?」
「……わからない」

 悠樹は悔しそうに俯いて答える。意図がよくわからず、答えようにもその答えが正しいのか。という思いが渦巻いてうまく答えられない。
 その瞬間、雪乃は豹変したように無表情になり、悠樹を睨む。その表情は、「失望」であった。

「「また」答えられないのか……こんなものだろうと思っていたが」



 玲司もその瞬間、顔を伏せる。「もう、何度目になるだろうか……」
 雪乃の手には光の剣が現れ、その剣を握り締めた瞬間――

「もう一度だ。……もう一度私に「人間の可能性」を見せてみろ、ニイナユウキ!」

 悠樹の胸に光の剣を深々と突き刺した。悠樹は目を見開いて背後から落ちて、仰向けに倒れる。
 雪乃はそれを見届けると、そのまましゃがみこみ、地面に手を当てる。
 雪乃の手から黒い光が発せられ、その光は瞬時にすべてを飲み込み、目の前全てが闇に染まっていく。
 だが、玲司はその中に赤い光が瞬いているのが、目に入った。
 闇の中で、雪乃の声が響き渡る。




「ミカイドウレイジ、また汝らの負けだ。だが、まだ足りない。……もっとだ。もっと私を楽しませろ」






 この物語は、輝きを忘れない少年少女たちが織り成す、煌めきと幻想の叙事詩(サーガ)。
 幻想(ユメ)はいつか現実(カタチ)になる。


to be continued...

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