複雑・ファジー小説

宵と白黒 外伝〜自由と命令(完結)〜
日時: 2020/05/31 15:50
名前: ライター ◆sjk4CWI3ws

こちらは、ダーファ板で連載しております『宵と白黒』の外伝になります。
キャラクターたちの過去の話をしたり、現パロしたり学パロしたりします。

本編もよろしくお願いしますね。

全体の目次
         
■自由と命令 
──蓮の過去編です。
>>17

■雨が降っていてくれて良かった
──ヨモツカミさん主催のみんなでつくる短編集にて投稿したものです。
>>18

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Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜 ( No.14 )
日時: 2020/05/27 21:58
名前: ライター ◆sjk4CWI3ws

第二話

 溢れ落ちる赤を写して、がくがくと瞳孔が揺らぐ。

「あ、かい?」

 ふわり、と。無色が舞い落ちた。
 見えるのだ、色が。望んでいた? なのに、苦しくて仕方ない。何でだろう、と蓮は思う。

 それは、哀惜? くらくらする思考に苦しくなって、蓮は視線を落とした。左手の傷の血は、止まっていて。ちからを抜いたことで、右手に握られたカッターの刃先が床に着き、かすかに音を立てる。
 
「あ、赤い、あぁ!」

 目に入った刃先にも付着した赤色に、蓮の記憶が揺さぶられる。糸が、海が。赤色に、緑? 青? 橙?
 苦しい。頭がいたい。微かに、声? 糸、繋がる?

 無意識に刃が、す、と持ち上げられる。もっと。もっと、赤。

 ぴっ、と。

 蓮の左手の掌に、赤が走る。乾いた笑みすら零れ落ちる。
 ぴぃん。糸が。ぱしゃん。海が。静かに鳴る。
 手を伸ばす。視界に、赤が写りこむ。
 もっと、赤い。清冽な赤。
 すっ、ぴっ。

 手首に、赤。痛みが走る。滴る、血。

 ぱきん。ぴしり。かしゃん。ばき。ぴきぴき。

 手首への線は増えていく。なにも、変わらない。緑、橙、青、赤?

 その代わり、心が。
 罅が入って、割れて、砕けて。
 頭痛がして。

 書き換えられた記憶に、罅。けれど、何も。
 荒い息が吐かれる。
 
 がたん!


 不意にしたおとに、びくりと蓮の肩が跳ねあがる。後ろの方で、箱が倒れたのだ。
 するりと右手からカッターが滑り落ち、だらりと力が抜ける。左手の血が乾いて、剥がれおちていく。

「うぁ、ぁぁぁ────!」
 
 己のしていたことに、震えが駆け抜ける。
 ばん、と。立ち上がった蓮は、ドアを押し開けて、逃げ出した。でも何故か、カッターは手放さぬまま。

「あ!? 蓮? どした!?」

 帰ってきて、偶然ドアを開けかけていた楓樹の声がするのにも関わらず。蓮は走り出す。
 そこから遠ざかりたくて、苦しくて。



 蓮が走って走って踏み込んだのは、常闇街と呼ばれる殺し屋の街。
 

 

Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜 ( No.15 )
日時: 2020/05/30 10:28
名前: ライター ◆sjk4CWI3ws

終章 常闇

 恐怖に押されて走り続けていた蓮の目の前が、不意に暗くなった。ドンッ、という音が響き、身体が誰かにぶつかった感触。

「ッ……すいません!」

 此処が何処だか、蓮には分からない。
 けれど謝って顔をあげ、蓮は辺りを見渡す。随分と街並みが変わった気がするのだ。より暗さが強調されるかのような、色彩の少ない街。
 それでも蓮は、ひどく居心地の良い街だ、と思う。無駄な色がない、鮮やかでもない。記憶が揺さぶられることも無い。
 
 蓮がぶつかった相手は細身の男だった。
 男は少し蓮の言葉に驚いたような顔をしたが、ちらりと一瞥くれると何事も無かったかのように立ち去って行く。
 少し拍子抜けしながらも、蓮の
脳内に数瞬、思考がまたたいた。
 言葉は、通じているのだろうか。

「ッあの! 此処は、何処ですか?」

 その声に、男は足を止めて振り向いた。黒いコートの裾が、ふわりと揺れる。
 焦げ茶色の髪のしたから覗く黒の瞳が、蓮を射る様に見つめた。微かに冷気の様なものが、男から発せられる。
 けれど蓮は全く動じない。否、何も感じていない。

 緑の目が微かに見張られる。そして、男は蓮へ向けて呟くように言う。

「此処は殺し屋の街。常闇街だ。」

 低い声で、しかも秋津の言葉で男は端的に言った。蓮へ、彼は問い掛けを放つ。

「……お前、秋津の人間か? 服も綺麗だし、殺気に反応しなかった。黎明から来たお坊ちゃんなら帰りな。此処は宵闇と違ってな、餓鬼を取って食う様なことはしないから。」

 男のその言葉に、蓮は黙り込んだ。
 叔父に恩はあるし、あの生活は嫌いじゃ無い。けれど、明るすぎる。彩度も明度も色相も。何か頭が割れそうで仕方ない。苦しいのだ。
 ちくり、と左手に痛みが走る。乾いた血が、ぱりぱりと落ちていく。ごめんなさい叔父さん、母さん、と呟いて、蓮は決断した。

「貴方に、着いて行かせてもらえませんか。」

 蓮がしばらくの沈黙の末に出したその答えに、今度は男が黙り込んだ。左手に傷があることに気づいたのだ。
 そして、彼は顔を上げて言い放つ。

「……深くは、聞かないが。此処で生きられる様になるまで。それまで、お前を預かってやろう。……殺しの仕事も教えるから、仕事をしたら金を払え。お前が、依頼主だ。」

 殺し、と言う言葉に蓮は動揺した。けれど。けれど、赤い血が。

「分かり、ました。」

 それに頷いた男は、くるりと振り向くと歩き出す。
 着いてこいと言いそうな背中を追いかけて、蓮は常闇で生きることを決めた。



 その後、力を開花させて一人で生きることになった蓮は、その力から【人形使い】と言う二つ名で呼ばれるようになる。

 そして、ある依頼で紺色の髪の青年たちと出会うのだ。けれどそれは、また別の話。



自由と命令(完)

Re: 宵と白黒 外伝〜自由と命令(完結)〜 ( No.16 )
日時: 2020/05/31 09:46
名前: ライター ◆sjk4CWI3ws
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode=view&no=5662

Special thanks
読んでくれてた皆様方

このスレでは、今後また外伝的ストーリーを書き殴っていこうと思っています。
学パロであったり現パロであったり、今回のように過去編をやった
りするかもしれません。


今までお付き合いくださり、ありがとうございます。

上のリンクが本編になります。そちらもよろしくお願いします。

Re: 宵と白黒 外伝〜自由と命令(完結)〜 ( No.17 )
日時: 2020/05/31 09:48
名前: ライター ◆sjk4CWI3ws

────空を渡る風。

 夕焼けに飛ぶのは赤蜻蛉。
 靡く緑髪が、夕陽を吸って煌めく。



少しだけ、前の話をしようか。
どれくらい前か、かい。うん、そうだね……黒髪の殺し屋さんが、三人の旅人さんに会うより少しだけ前かな。
それじゃ、ちゃんと聞いててね……

────────────────

 世界観の説明
(先に宵と白黒を読むと分かり易いかと)
・無数の国が存在する世界。
・今回の舞台は主に『秋津国(あきつくに)』と『タリスク国』。
・真名 と呼ばれる物を皆が持っている。(本名とは異なるが、秋津では真名を最初から名乗る者が多い)
 これにより『力』を使うことが出来る。(なお自衛の為以外使用禁止の模様)

────────────────
(過去最高にご都合主義かも)
こんにちは、ライターです。

まだ完結してないのに書きたい衝動を抑えきれず……
ダーファ板の宵と白黒も読んでいただけると嬉しいです。
本編だと掘り下げられそうにないので、外伝的な感じかなと思います。 

────────────────
目次  全テ >>1-15

序章  夕焼ケハ橙ニ染マリテ
    金茶色 >>1

第一章 目ノ痛クナル程青キ空
>>2-5
第一話 群青色 >>2
第二話 留紺色 >>3
第三話 縹色  >>4
第四話 天色  >>5

第二章 赤ニ写リシ世界ハ
>>6-8
第一話 紅緋色 >>6
第二話 茜色  >>7
第三話 銀朱色 >>8

第三章 再ビ、夕暮レノ元ニテ
    金茶色 >>9

幕間  遥カ昔、秋津原ニテ
        >>10

第四章
>>11-12
第一話     >>11
第二話     >>12

第五章 色ハ、ソノ瞳ニ映ルカ?
>>13-14
第一話     >>13
第二話     >>14

終章
        >>15
────────────────
登場人物
井上 蓮 いのうえ れん
 母親を亡くしている。黒髪黒目の十歳。

清和 華鈴 せいわ かりん
 命風神社の宮司候補のうちの一人。自由を望む気性が強く、男口調で話すこともある。

風間 楓樹 かざま ふうき
 ビジネスマン。蓮の育て親。本人曰く昔は放蕩息子だった。

清和 華恋 せいわ かれん
 華鈴の妹。命風神社の宮司候補のうちの一人。

Re: 宵と白黒 外伝〜自由と命令(完結)〜 ( No.18 )
日時: 2020/05/31 15:50
名前: 心 ◆sjk4CWI3ws

【雨が降っていてくれて良かった】

 これは、黒髪の少年が色を失うよりも前の話。

 
 雨は先程から降りしきり続けている。いつもは人通りの多い鳥居前町も、出歩いている者なんてほとんどいない。

 いや、此処に例外が一人。パシャパシャと水を蹴散らす音を立てて、緑髪の少女は走っていた。
 命風神社の宮司候補である、清和華鈴である。

 雨は良い、と華鈴は思う。泣いているのかいないのか、傘をささなければ自分ですら分からない。
 
 父親にひどく叱られて。いつもは意図が分かっているから耐えられる華恋の言葉にすら耐えられなくて。
 また、飛び出して来てしまった。
 そしてまた、逃げてしまう。
 ───蓮の、家へ。



 雨は良い、と蓮は思う。ほんの少し歩く速度を緩めて、蓮は顔を上げる。雨雲の塊が、もう少しで真上にきそうな気がして、蓮は再び速度を上げた。

 歩きながら、蓮は思う。
 雨が降っている時の音が好きだ。人工的な音がなくて静かだと思うけれど、喧騒とも取れる音。

「楓樹叔父さんに頼まれたものは、っと……」

 そんなことを呟きながら、蓮は傘を左手に持ち替える。ポケットに突っ込んである紙を手に取って、パラリと開いた。
 魚屋の隣の曲がり角で立ち止まって、ぼんやりと紙を眺めていた時。不意に、誰かの足音が響いた。


 華鈴は魚屋の角を曲がろうとした時微かに動揺した。泣いている所を見られたら、きっと格好悪い。
 少し目元に触れてから、少女は問いかけた。

「蓮?」

 自分の周りに広がっていた静寂が破られたのを感じて、蓮がフッと顔を上げた。

「華鈴さん…? ちょっと、傘どうしたんですか!?」

 たったっ、と走りよって傘を共有すると、華鈴の目元がほんの少し赤いことに蓮は気付いた。

「華鈴さん? 泣いて、」

 その時不意に、雨が車軸を流すような大雨へ変化した。
 軒先を叩く音が、傘を叩く音がいきなり大きくなる。
 驚いて肩を跳ね上げながら、蓮は華鈴をもう一度見た。

 傘と前髪の影になって見えない目にハッとして、今度は蓮が俯いた。
 このまま続けて言っていたら、華鈴はきっと傷ついていたかもしれない、と。

 華鈴もまた、傘の中で再び鼻の奥がつぅんとしてくるのを堪えていた。傘の下だと、雨の雫が当たらないから誤魔化せない、と思って。
 不意に大きくなった雨音で、蓮が何と言おうとしたのかは聞こえなかった。


 桶の水を全てひっくり返し終わったかのように、弱まった雨がしとしとと降りおちる。
 二人で一つの傘をさして、大通りへ出れば、遥か向こうに見える山の稜線で、雲が切れていた。
 そこから強く射し込む西陽は、天使の階段のように鮮烈で。

 そして二人は、互いに何も傷付かぬまま同じことを思うのだ。
────雨が降っていてくれて良かった。

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