複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.10 )

日時: 2018/04/04 16:33
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: https://www.youtube.com/watch?v=WHcFDJCjY3s

 時雨たちが休暇に入ってから3日。与えられた休暇は1週間。ぞのおよそ半分を消化したのはいいものの、出撃もないとなると特にやることがなさ過ぎて、ただひたすらに部屋でぼうっとしているだけで1日が終わってしまう、というサイクルで時雨は3日を自堕落に過ごしていた。外に出て鍛錬でもすればいいのだろうが、なぜかやる気が起きない。このままではいけないと思いつつも、すべてのことに手がつかない。時雨は己に与えられた休暇を持て余していた。

「やっほ」

 そんなときである。時雨の部屋の扉を開き、無遠慮にも入ってくるのは、彼の双子の姉である超子。ベッドの上に座り、ただぼうっとしている時雨をチラリと見やると、ふぅと息を吐く。

「あんたさあ、少しはぱーっと遊ぼうって気にはなれんのかね」
「…姉上、いらしてたのですか」
「え、反応遅…ってか、もーそんなんじゃだめでしょ!せっかく休暇なのにサー」
「やることがないんですよ…」
「そ・う・じゃ・な・く・て!」

がしっと超子は時雨の肩をつかむ。思いっきり強く。ぎりぎりと肩に超子の指が食い込み、時雨はあまりの痛さにぱしぱしと超子の腕をたたく。しかし超子はそんなことをお構いなしに話を続ける。

「リフレッシュしに、家に戻ってみたら?」


第2話
【Oshama Scramble!】


「え」
「だーかーら!そんなに疲れてるんなら、家に戻ってみたらッて!静かな場所だし、ゆっくりできるでしょ?」
「そ、そんな急に」
「もう連絡は入れてあるよ?」
「用意がいいですねずいぶんと」

じとりとした声で超子に言うも、超子は「ほめていいのよ!」と誇らしげに言うばかりで、時雨は何なんだとため息をつく。

「あとね、泥くんにもいってあるから」
「はっ!?」

超子から思いがけない一言が飛び出したせいか、時雨は思いっきりベッドから立ち上がる。どうどうと時雨を落ち着かせると、超子はまた口を開く。

「泥くんと時雨で、時雨の家でゆっくり休んできなよ。あすこはただでさえ山の中だから、猶更ゆっくりするならいい場所でしょ。おじさんたちには連絡入れてあるから」
「ずいぶんと…急展開ですね…」
「あんた前から頑張りすぎなのよ。この前だって急な出撃に自ら出てっちゃうんだから…まともな休みなんてあってもないようなものじゃないリーダーが休暇を1週間もくれたのが幸いだったけど、3日もそうしてんなら強硬手段に出るしかないじゃない」
「でもそれじゃあほかのみんなが」
「休めないって?まーったくあんたは!確かにあんたも大事な戦力よ。フォルテ抜きにしても、『陰陽術』が使えるのはかなり強い。よくわからないけど。フォルテッシモの操縦もフォルテッシモ自身も、ほかを寄せ付けない。いくつもの作戦のかなめであり続けたわ。で・も。ちゃんと休養もとらないで、ただ部屋でぼけっとしてるまんまで休暇を終わらせようって?ほかにやること見つかんないから?バッカねー、そんなんで休暇あがってもあんたまともに動けないわよ」
「それはどういう意味ですか姉上、僕だってちゃんと動けますよ。それだったらこの休暇も捨てて」
「ぼけっとしてたあんたがムキになるんじゃないッ」
「ァだっ」

 超子からつらつらと飛び出てくる言葉に少々腹に据えかねた時雨は、ぐっと顔を超子に近づけて反論するも、後頭部に回った彼女の手刀がゴスッと直撃する。いいところに当たったのか、時雨は思わずその部分を手でおさえてその場にうずくまる。そのまま放っておくがごとく、超子は時雨の目の前に荷物をつめたのであろうキャリーをずずいと差し出す。

「はいこれ荷物ね。転送ルームで泥くんと一緒にいってね」
「な…いつの間に」
「うん、昨日やっといた!」
「姉上ぇぇ…!」

 「やってやったぜ!」と誇らしげに、きらきらと輝く満面の笑みでそう言われてしまうと、もう時雨はただ恨めし気にうなるしかなく、しぶしぶそのキャリーを受け取る。早く行った行ったとせかされると、もう行くしかなく。時雨はとぼとぼ部屋を出て転送ルームへと向かっていった。それを笑顔で見送った超子は、時雨に向けていた笑顔を崩し、至極真面目な顔へと変わる。

「お姉ちゃんは心配だわ。あのままじゃきっと、いいえ、絶対に精神も壊れる…だからこそ。だからこそなのよ。ごめんね時雨。あんたはこうでもしないと、絶対に体も心も壊しかねないから。わかるのよ。あたしは───あんたのお姉ちゃんだもの」

いつもより強めの口調で、トーンでそうつぶやくと、彼女もまた主の消えた自室から去っていった。





「というわけでっ」

ぱんっと小気味いい音が鳴る。その場にいるのは超子と歌子、そして松永───松永(まつなが) 久舵(ひさかし)───、そして

「私たちもいるわ」
「エレちゃんたちもありがとねっ!」

 まるで精巧なドールを思わせる容姿をした少女───エレクシア=エレーヌ───を含め、4人はリーダー、狂示の部屋へと集まっていた。相変わらず未成年が目の前にいるのにも関わらず、リーダーとあろうその人物は、新たな煙草を取り出しそれにジッポで火をつけて、1つ吸う。すこし部屋は煙たくなるが、それを気にせず超子は話を続ける。

「時雨を強制的に帰省させて休ませる作戦大成功!だよ!」
「FUUUU!イカしてんぜ超子ォッ!姉特権ってやつだNA!」
「(それ作戦とは言えないんじゃ)」
「ハハッ、元気だなーお前ら。んまあ時雨を帰省させたのはよくやった。休暇やったとしてもどうせ部屋でぼけーっとしてるだけだろうと思ってたんでな。玖音は休みなのをいいことにサバゲ―やりにいったっつーのに」
「あの子はいつも無茶をするもの。エレーヌもそういっていたわ」
「とりあえず無理やり休ませた時雨の話は終わりにしといて。リーダー、何かない?」

 長くなりそうだと踏んだのか、超子はいったん話を切って狂示に別の話題を振る。彼はそのために来たんだろうがとせせら笑い、煙草の火を落とす。行儀悪く部屋に置かれた専用の机に腰掛け、足を組むとふむ、と頭の中の棚を引っ掻き回す。そうすること数分、なにかを見つけたようでああと声を出す。

「最近なんか栃木の日光で連中の研究施設を見っけたって話があったっけな。普段は見えねえように幻術かなんかで隠してるらしいが」
「どんな施設?」
「おう、その辺は調べといたから教えてやろう。どうせそこ破壊しろって発令出すつもりだったし。ちょうどいいやお前らに任せるわ」

 そういうとニヤリと笑いながら狂示はまだ残っていた煙草を灰皿に押し付け、つぶす。そしてゆっくりと話し始めた。

「栃木県日光市。そのあるポイントで連中の研究施設が発見された。発見日は今日から5日ほど前だ」

仮にそのポイントを『A』とする。そのポイントAで発見された研究施設は、普段は幻術のフォルテか何かしらを使って見えないように施しているらしい。その施設ではフォルトゥナの子供を連れ去って研究の実験台にするのはもちろんのこと、そのフォルトゥナの子供を慰み者にしたり、洗脳や薬剤を施し『ペット』として裏社会に販売したり、さらには人身売買オークションにかけたりしているとのことだ。極めつけは子供を使って『そういうこと』をさせる商売までも手を伸ばしているらしい。すでに被害にあっている子供は数えたらきりがない。中には『ペット』として買われたり、オークションで競り落とされていって消息が不明な子供もいる。こんなことを、今現在国家権力を握ってこの国を支配している組織がやっていることなど、人々は到底思えないだろう。否、思わない。

「そんなもんをほっとけるかっつったら、できるわけねえだろ。というか普通そうだ」
「やっぱり大人は嫌いだわ…私も、エレーヌも。丸ごと潰さなきゃね」

そう『彼女(エレクシア)』がそういうと、途端に右の金色の瞳だけが眼振を起こした。

「ええそうねエレクシア。わたしもよ。沸々と沸き上がっているの…とてもとても『痛い』ものが」
「お、エレーヌじゃねえか。どうだいやってみるか?」
「勿論よ。行きましょうエレクシア」

そして出てきた彼女、『エレーヌ』は狂示をひとつ、嫌悪感たっぷりに見上げると、そのまま部屋から出ようとする。それを超子はがしりと腕をつかんで止める。まだ話は終わっていない、というように。彼女(エレーヌ)は顔こそは変えないものの、足取りはどこかいやそうに戻ってくる。狂示はのんきにも、「ずいぶん嫌われてんなァ」とケラケラ笑う。

「あなたも大人だもの」
「ひっでえな。俺は今でこそ22だが、作った当時は未成年だぜ?」
「今は今よ」
「あーへいへい耳が痛いねェ」
「オイオォイ、リーダーはそんなに睨むもんじゃネェYO、フレンドルィイにいこうZE!」
「静かにしてくださる?」
「オレッチが静かでいられると思うかYO?FUU」
「そうね。あなたはそういう人だったわね…」
「で。話を戻すぞ」

 このままでは本筋が流れてしまうと思ったのか、狂示は机から降りて待ったのジェスチャーをして話を戻す。

「お前らに任務を与える。その施設をフォルテッシモで潰してこい。塵になるまで、徹底的につぶせ。いいな。おそらく中に連れ込まれた子供はもう手遅れだ。無理に救出して元に戻そうと思っても、それはゆであがったゆで卵を、もとの生卵に戻すくらいには不可能だ。いいな。『跡形もなく』残すな」


それは『死刑宣告』にも似た『任務』が、たった今下された。

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.11 )

日時: 2018/04/14 23:19
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: 酒飲んで書いたからすんごい短い

 超子たちが狂示から指令を受けていた同時刻。時雨は転送ルームで泥と合流して、時雨の実家である場所へと降り立っていた。時雨は久々に帰って来た実家を真正面から見て、ふう、とため息を一つ漏らす。泥はそんな時雨を見て、時雨、と彼の名を呼ぶ。

「大丈夫?もしかして、本当は帰りたくなかった?」
「まさか。ただ、姉上の強引さに呆れただけだ」
「ふうん」

ならいいんだけどさ。と泥はひとり、心の中でそっとつぶやく。泥は気づいていた。時雨がこの場所にきて家を見て、なぜため息をついたのか。なぜああ答えたにもかかわらず、物憂げな様子が解けないのか。本当は気づいていた。だけど、あえて『知らないふり』をして時雨に聞いた。どんな答えが返ってくるのか、どんな声で来るのか。泥は時雨のその様子が見たくて、あえて質問したのだ。時雨の返答と声は、予想通りだったが、まあ良しとする。何が、と聞かれると、きっと泥自身もわからないのだろう。

「いこっか」
「ああ」

泥が『いつもの笑顔』で促すと、時雨もまた、重々しく足を動かす。
───時雨がため息をついて、まるで帰ってきたくなかったというような態度をとった理由はただ一つ。

2人の目の前には、『ゆうに100は超える石造りの階段』が上へ上へとのびていたからであった。





 階段をのぼりはじめておよそ数十分。
ようやく上り終えた2人は、疲れのあまりに荷物によっかかるように崩れ落ちる。普段から体力仕事───と言えないかもしれないが───をしていたとしても、あまりの段数に気が遠くなるほどの階段を、休みなしで上り詰めたら、さすがに疲れるものは疲れる。足がこれ以上、動くのを拒否している。なぜ階段を飛ばして転送してくれなかったのか、正直半日かけて文句を言いたい気分だ。

「さすがに、これは」
「僕もこれには慣れないな」
「もう家の中入らなくていいんじゃないかな」
「そう思えてきたぞ」

肩で息を整えながら、時雨と泥は話をする。もう一歩も動けないようで、その場にとどまって目を閉じて眠りの落ちそうになる。だが

「誰かお客様かしら…?」

ひょっこりと現れた女性が時雨の家から出てきてなにかつぶやくなり、彼らの意識は清明なものとなる。動かない体の代わりに顔だけをそちらにあげると、時雨はあっ、と声を上げる。

「母上…」

つい口から出てきたその言葉に、出てきた女性ははっとして時雨たちを見る。そしてふっと微笑む。

「…あら、時雨ちゃん?それに今日は泥くんも一緒なのねえ」
「あ…倖(ゆき)さん、お久しぶりです…」

へらりと笑い、そういうと、倖と呼ばれたその女性───春夏冬 倖は、倒れこんでいた2人をひょいと抱え上げて、微笑みを崩さないまま家へと入っていった。今日のお昼はとびきり豪華にしなくちゃね、と嬉しそうに呟きながら。





 ところ変わってマグノリア本部。先ほどリーダーから破壊命令を下された4人は、作戦を練り上げるべく、大きなプロジェクタのある会議室へと集まっていた。プロジェクタの横には超子が立ち、ほかの3人は部屋の真ん中に設置された椅子に座って超子を見る。

「では。作戦会議を始めるよ」
「まず内容をまとめよっか」
「そうねん。それから始めましょ」

歌子がそういうと、超子はプロジェクタに、上から撮影された襲撃予定の場所、『ポイントA』地点を映しだす。一見何もないように見えるが、特殊な解析で発見したデータに変えると、途端に何もなかったはずの場所に、三角形で形つくられた何かが現れた。それにテキストが重ねられ、『グローリア栃木支部』と映し出される。

「今回襲撃するのは、ここ、栃木県日光市に在る、『グローリア栃木支部・フォルテ研究機関』。リーダーからもらったUSBに入ってた情報によると、ここでやっばいことしてるみたい」
「それはさっき、言ってたわ。もちろんエレーヌも聞いていたわ」
「そうねん。そいでリーダーはここに、フォルトゥナの子供たちがとらえられて、慰み者にしたり『そういうこと』に使ったり、人身売買オークションにかけてたりしてるって言ってたよね。あー反吐が出るわ」
「本当にね…」
「そこを、あたしらがフォルテッシモで奇襲をかけて、ぶっ潰す。やりたくはないけど、中にいる被害者の子たちもまとめてね」

 そう超子がいくらかトーンを落として言うと、ほかのメンバーもずうぅん、と空気が落ちる。だが松永だけは違った。

「オレッチも気分はBADだZE…だがな、無理してHELPしても、救われねえことだってあるかもしれねえんだ…だからこそオレッチたちがここでDESTROYしてやんねえとNA。HOPEがこの先にあるかどうかなんてわからねえかもしれねえから、オレッチはだからこそこのMISSIONを達成したいんだ…」

 どうしても言葉の節々や、最後の未来形な一言で台無しになってしまうのだが、言いたいことは確かに伝わったようで、超子は松永に賞賛の言葉を贈る。

「たまにはいいこと言うじゃん久チャン!」
「FUUUU!オレッチはやるときゃやるんだZE!」
「言葉遣いの意味はよくわからなかったけど…でも、言いたいことはわかるよ。被害にあった子たちの為にも、頑張らなきゃだよね」
「言いたいことはあるけれど、それが救いになるなら。私も、『わたし』もやるわ。…やれるかどうかは別だけど」

意外な人物の一言により、メンバーは本来の明るさを取り戻す。この明るさを取り戻したところで、会議を再開させる。

「では。まず襲撃方法なんだけど。周囲変換をするのはもちろんなんだけど。その後だね。データによると、この建物もんのすごい頑丈にしてあるみたいなんよ。あたしらの襲撃を予測してかしらね」
「わざわざ建物を見えなくしておいてさらに建物にも施しをするなんて…ずいぶんと大人は嫌なことをするのね」
「ほんとね。なのでここはまず、歌子ちゃんのフォルテで建物自体を弱体化させる。その間絶対、連中も仕掛けてくるはずだから、歌子ちゃんを囲うようにして、あたしらが守る」
「でもYO!それってYO!もし歌子が『別のどこからか襲撃』されたらどうすんだYO」

 その問いに、歌子はふっふっふっと不敵に笑う。何か策はあるのか、度肝を抜くような、何かすごい策が───


「なにもかんがえてませーん!!」


 その一言に全員が椅子から滑り落ちた。


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.12 )

日時: 2018/05/05 22:39
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「久しぶりねえ。時雨も泥くんも」

そう言って倖は、すっかり疲れで机に突っ伏している2人の目の前に、ほうじ茶を差し出す。泥は震え声ながらもありがとうございます、と礼を言い、時雨もやはり礼を言ってほうじ茶を一気に飲み干した。かなり喉がカラカラだったのだろう。

「今日はどうしたの?」
「姉上から帰省を命じられたのです」
「まあ、超子ちゃんが」
「僕も桐乃さんから一緒にいけって言われまして」
「泥くんも?超子ちゃんすごいわねえ」
「ほぼ強引でしたけど」

倖が超子に感心している傍ら、時雨はぼそっと本音を漏らす。幸いにもその声は倖には届いていなかったようで、そのまま次の話題へと移る。

「状況はどんな感じ?」
「はい。先日、グローリアとマグノリアのあいだで、フォルテ使用の戦闘がありました。向こうは一時的にあるポイントと繋がれる、ゲートのようなものを作り出して、そこから直接構成員を引きずり出していました。まあその場はナナシさんや善佳さんたちの助力もあってどうにかなりましたが……」
「まあナナシちゃん達が?すごいのねえ」
「他にも転送エラーでヰ吊戯がグローリア茨城支部に行った事くらいですか」
「大丈夫だったの?」
「持ち前の勢いでどうにかしたそうですよ」
「あらあ……凄いわぁ」

逞しいのね、と倖は笑う。その感想はどうなんですか、と時雨が言ってみるも、褒め言葉よ?と返される。ため息をついて、時雨はほうじ茶を飲み干した。

「とっても頑張ったのねえ。今日は豪勢にしましょ。そういえば何日間いるの?」
「3泊4日ですね」
「なら4日間ね!何が食べたいかしら?」
「えっじゃ、じゃあ回鍋肉を……」
「抜けがけはなしだぞ泥!母上、僕はだし巻き玉子がいいです」
「ふふ、はぁい。腕によりをかけて作ってあげますね」

途端に騒ぎ出した2人に、倖は優しげに笑みを浮かべて調理場へと向かっていった。





「何も考えてない……って?」
「その言葉の通りです!だからこれから助言をもらいに行こうと思って」

ところ変わって同時刻、マグノリア会議室。超子が防御壁に対する作戦に対し、何も考えていないと爆弾発言を放った直後。転げ落ちた3人の中の1人である歌子がそう聞くと、超子は自信満々に胸をそらしながら答える。どこからその根拠の無い自信が出てくるのか、小一時間ほど問い詰めてみたいものだが、今はそんなことをしている暇はない。歌子は超子にまた問いかける。

「助言って?」
「リーダーに聞いてもどーせ無反応だしさー。それならリーダーと繋がりがあって、それなりに話してくれそうな人に聞いてみようと思うの」
「それ、あの人?」
「そうそうあの人!」

ニッコリと屈託のない笑顔を浮かべ、超子はふふんと鼻を鳴らす。歌子とエレクシアは察しがついたようだが、肝心の松永はそれが誰なのか全くわかっていないようで、早く行こうZEとノリノリで言ってくる。だが相手が誰なのか分かっている2人は、心做しか『やめておいた方が』と言うような、嫌そうな顔を浮かべて超子を見る。しかし超子は行くって言ったら行くの、と聞かず、さっさと会議室を意気揚々として去っていった。

「個人的にものすごく行きたくないんだけど……」
「私もよ。正直行く気がないわ。部屋に戻っていいかしら」
「んーん、でも超子ちゃんの事だから会議室に戻ってくるんじゃないかな」
「待つしかないわね」
「どうしたんだYO早く行こうZE!超子追いかけねえとNA☆」
「……うん、止めはしないよ。止めは」
「後悔しないようにする事ね」
「?」

2人のため息が完全に理解できていない松永は、超子を追いかけて急いで会議室をあとにした。

「……あーあ、行っちゃった」
「何も知らないわ。何も」
「うん……」

その後ろ姿を、2人は哀れなものを見るかのような目で、見送ったのだった。





ついた先は『マグノリア医務室』。超子は後に松永がいることだけを確認すると、ニッコリと笑って医務室の扉をノックする。その瞬間である。扉の先から声が聞こえてきたのだ。超子はすかさず扉に耳を当てる。

『ほな弥里チャン、今度はこのヤク打ち込んでみたろか』
『さいこ〜〜〜☆早く宜しく☆』
『今日もええ感じにぶっ飛んどるなぁ。ほな、遠慮なく……』

その時超子の行動は早かった。一瞬で扉を開き、中にいたと思われる2人組の男の方を、フォルテを使って中に浮かせ、だだっ広い医務室の遠くの方へとぶん投げる。
───フォルテ、『PSI(サイ)』。いわゆる超能力の総称で、彼女が扱えるのはサイコキネシス、パイロキネシス、テレポーテーション、レビテーション、クレヤボヤンスなど、種類は様々だ。体に浮かぶ紋様が、外へ露出していれば露出しているほど、フォルテの威力も高まり、また直前まで食べた食事のカロリーが高ければ高いほど、また威力が高まる。ただ、フォルテを使用したあとの消耗は激しく、かなりの空腹状態に陥る。そのため、常に高添加物、高カロリーの特別製の飴を食していなければならないという制限がついてくる。それでも強いものは強く、現在マグノリアの戦闘部隊では、トップに食い込むほどである。
そんなフォルテをそう易々と使っていいのかと言われると、間違っているのだろうが今は非常事態。速やかに処理せねばならなかった。

「弥里っち大丈夫!?」
「え?ヤクは?」
「いやそうじゃなくてなんか仕込まれなかった?」
「なぁんにも?」
「素かぁ」

弥里と呼んだその少女の受け答えに、超子はがっくりと肩を落とす。その様子を後から見ていた松永は、またテンションが上がって踊りながら中へと入る。

「FUUUU!流石だZE超子ォ!オレッチにできないことをォ平然とやってのけるゥ!」
「えっ、何このテンション高いアフロ?」
「最近入ってきた松永」

久舵、と言いかけたところで、弥里は既に松永に飛びついていた。目はやたらとキラキラしており、超子などもう眼中にすらなかった。

「ねー君所属どこぉ?何歳?フォルテ何ぃ?」
「FUUUUU!オレッチは松永でぃす!よろしくなのでぃす!今は戦闘部門だNA!オレッチの華々しい活躍みてくれYO!」
「きゃーっ!何この子チョーたのしー!」
「ええ……」

彼女の名は『三森(みもり) 弥里(みさと)』。マグノリアに存在する医療部に所属している研究者のひとりだ。普段はぶかぶかの白衣を着て、影で気味の悪い笑顔を浮かべたり、気味の悪い笑い声をあげたりしているが、それは仮初の姿。正体はマグノリア限定で、アイドル活動をしている『シェリー』だ。彼女の歌や踊りはマグノリアにくまなく伝わり、実際彼女のファンは相当な数がいる。だがそれを周りが知ることはないし、彼女から明かすことももうないであろう。
彼女は日々ここで新薬の作成に力を入れており、最近では『体が子どもの姿になる薬』も開発したとのこと。ただ使う用途がなくてお蔵入りになったらしいが。

「ちょっとまじやばいんだけど。写真一緒に撮ってよ松永くん」
「お安いごYOだZE!オレッチのHeartはseaのように広大だからな……」

その流れで弥里と松永の自撮り祭りが始まってしまった。まさかこうなるとは思いもしなかったようで、超子は2人を見てため息をつく。そして先程から、全く動かない男の元へと近づく。あの程度で気絶するはずがない。なぜならこいつは

「ヤク中やからな!」
「うお人の心読まないでよ!」
「あ、すんまへーん。当てずっぽうやったんやけども、正解しとったんやなあ」

がばっと飛び起きたその男に、超子は軽く後ずさりする。男はなんや酷いわあと言いつつも、形が崩れたメガネを直しながらかけなおす。
この男の名は『月見里(やまなし) 那生(なお)』。マグノリア医療部の長にして、マグノリアリーダーの葛狭 狂示の幼馴染である。過去経歴一切不明、偽名である確率は99%、フォルテも詳細不明と、何から何までが『よく分からない』人物である。ただ、手に負えないレベルのヤク中であることが明らかになっており、ついでに本人はよく遊んでる体を振りまいているが、実は全くの童貞であることも付け足しておく。そんな人間でも、医療部の長であるように腕は確かで、傷口も数分で塞いでしまう程である。ただ薬を首の方へ打ちたがるので、ほとんどのマグノリアのメンバーはこの医務室へ来ようとしない。何をされるか溜まったものではないからだ。

「そんで聞きたいことがあんだけど」
「そんなん知っとるわ。ポイントAにある施設の防御壁やろ」
「やっぱ知ってたんだ」
「そりゃ、ワイは狂示と幼馴染やで?」

知らんことはあらへんがなー、と那生は笑顔で言う。んまあ結論から言わしてもらうわ。那生はまず前置きをして語り始める。

「あの防御壁は壊せるで」
「どうやったら?」
「メカニック部門が開発したっちゅう『特殊防御壁破壊爆弾』や。それさえあれば余裕で壊せるで」
「確かなの?」
「試したことあるんやで。アレやないけどな。威力は絶大や」

あん時の爆発は死ぬかと思ったわあ、と背伸びをしながら言う。超子はその言葉を聞くと、ありがとね月見里先生、と呟いて小走りで医務室をあとにしようとした。が。

「ちょお待ちいな超子はん」
「えっ」

がっしりと那生に腕を掴まれる。そちらを見れば那生は悪い笑顔を浮かべて、超子をじっと見ていた。それはまるで『餌を見つけた』と言わんばかりの眼光。超子は身の危険をいち早く察した。だが、振りほどこうにも那生の力が強すぎる。

「あんさん……せっかくワイが情報あげたんやから、あんさんのフォルテの情報もくれへんか?ワイばかりあげても……な?」
「普通にお断りだわ何されるかたまったもんじゃないし。それにメカニック部門にもいかないと」
「まーまーすぐに終わるっちゅーねん。はい力抜いてー」
「させるかぁ!」

向けられた注射器がちらりと見えた瞬間、超子はフォルテを使って一瞬で那生の背後に回ったかと思うと、一気に足を振り上げて、彼の項の部分に向けて力を込めて降ろした。

「へぶぉ」

間抜けな声とともに地に落ちる那生。それ以降反応がなくなったのを確認して、超子は改めてため息をついた。そういえばすっかり忘れてた。この人は大抵ヤクを、誰彼構わず打ち込もうとするアホだったと。それでもヤクのひとつくらいはパクろうかな、と悪い思考が働いて、那生がコートに仕掛けておいた試験管1本を懐に忍び込ませた。

「さあてと。メカニック部門ね?」

超子は舌なめずりをして医務室をあとにした。
それでも松永と弥里の自撮り祭りは、まだまだ続きそうであった。

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.13 )

日時: 2018/05/15 21:37
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「おっじゃまっしまーっす!」

とてもとても大きな扉が、超子の顔を認識して少ししたあと、ゆっくりと、鈍い音を立てながら口を開く。ガチャンと鳴ると、中の様子が顕になり、超子は無遠慮に踏み込んでいく。
ここはマグノリア、メカニック部門。主にフォルテッシモの開発やメンテナンスを生業とする部門である。その為にメカニック部門が必要とする敷地はかなり広く、なれた人間でも案内のアプリやら何やらがなければ、高確率で迷子になる。それだけ広大『すぎる』のだ。
満面の笑みで入ってきた超子に、ある1人のメカニッカーが気づき、声をかける。ハネが強い長く白い髪をポニーテールにし、いかにもな丸メガネをかけた少女だった。超子も彼女に気づいたのか、やっほやっほー、と手をブンブン振る。

「超子ちゃーん!どうしたんすかわざわざこっちまで?話くれたらすぐにいったっすよ?」
「いやあ、実は耳寄りな情報をもらいましてえ」

てへへ、と超子は笑うが、対して少女はニヤリと笑ってメガネを光らせる。
メカニッカーの少女の名は『一条(いちじょう) 常磐(ときわ)』。マグノリアメカニック部門の今の事実的ナンバーワンである。というのもメカニック部門のトップとナンバーツーは現在本部を離れており、そのせいで本来ならば3番目なのだがほとんど権限を持たないはずの彼女が、この部門を取り仕切っている。なかなかに仕事は楽じゃないようで、仮眠室にたまに行くと、布団に入らずベッドに頭を突っ伏す形で寝落ちている彼女の姿を見る。それほどまでにトップの仕事はハードなのだろう。主にメカニック部門にいる問題児の扱いと、よくフォルテッシモがぶっ壊れるのでそれのメンテナンスで。その姿を見るたびに、申し訳ねえ申し訳ねえと超子は心の中で謝るのだが、一向に良くなる傾向はない。正直すまんかった……!とまた、超子は心の中で常磐に謝る。

「お話はかねがね。『特殊防御壁破壊爆弾』すね?」
「早くて助かりまっせぇ」
「ふっふっふ。でもあげるには条件があるっす」
「条件?」
「はいっす。後であの『バカ』に、『ちったあ外でろ』って言っといて下さいっす」

そういった彼女のメガネの奥の瞳は笑ってなどいなかった。口元は僅かに上を向いていたが、瞳は決して笑ってなどいなかった。むしろ『あのクソ野郎』という文字が見えたほどだ。彼女の言う『バカ』が誰のことか分かっていたのか、超子は満面の笑みでりょーかい、とだけ。案外簡単な条件で良かった、と胸を内心なで下ろす。

「そんじゃま、爆弾については超子ちゃんのフォルテッシモちゃんに付けるっすね」
「あいよー、そうしてもらえると助かるわっ」
「今回出撃するのはどの機体っす?」
「んーと、あたしの『マザー』と久チャンの『愛宕丸』、歌子ちゃんの『ディーヴァ』とエレちゃんたちの『アルテミス』ね。もしかしたら増えるかもしれないけど」
「じゃあメインはその4機すね。出撃はいつす?」
「お昼すぎかなあ。多分」
「ふむふむ。ならそれまでにチェック終わらせるっすねー」
「あ、そういやさ、あすこにあるの『愛宕丸』?」

常磐がメモ帳を取り出し、出撃機体と出撃時刻を確認しているところで、超子が真後ろでメンテナンスをしていたあるひとつのフォルテッシモを指さす。なかなかに細いフォルムをしているが、どうやら作りはしっかりとされているフォルテッシモだ。超子はそのフォルテッシモ、『愛宕丸』を見て感嘆を漏らす。

「いつ見ても個性的だよねえ」
「見た目はヒョロいっすけど、機動性は充分す。しかもあれキューちゃんが1から設計したんすよ。あっ、ヒョロいじゃなかった、『フョロイ』だったっすね。キューちゃん的には」
「へぇー……つか久ちゃんそここだわるよねえ。あたしもヒョロいって言ったら『フョロイだZE!』って直されたっけ」

ケタケタと2人は笑い合う。何故だろうか、銀色のアフロが輝かしい彼の話をすれば、自然と笑いが混み上がってくる。マグノリアとグローリアの戦闘は日々激しくなっていく一方、メンバーはその戦闘に疲弊し、みるみるうちに表情が消えていっている。だが最近入ってきた例の彼のせいで、何をするにしても脳内に彼が現れてひとしきり笑わせてくる、という現象がちらほら出てきている。これを狙っているのか、はたまたただの偶然なのか。

「ま。その話は置いといて。爆弾の件はこっちで仕込みしとくっすから。他になんかあるっすか?」
「そうねー……強いていえば」

超子はうぬぬ、と唸ったあとで、これだと言わんばかりに口を開いた。

「うちのマザーちゃんに愛宕丸の性能くっつけられない?」
「無茶言うなっす」





「遅いねえ、2人とも」
「そうね。退屈だわ」
「だねえ。やることないねえ」
「ただいまーっ!」
「えっ今?」

マグノリア会議室。医療部に心底行きたくないとして、この場所にとどまることを選んだ歌子とエレクシアは、暇を持て余していた。特にやることがないため、ただ単にぼうっとしてる事くらいしかない。あまりにも暇すぎて、数十分前に『微妙に使いどころがないフォルテをあげる』という、妙な遊びをしていたほどだ。しかしそれはもう飽きて、やはりぼうっと過ごすことになったのだが。
さてどうしたものかとなにか考えようとした矢先、医療部に出かけていた超子が戻ってきた。

「ふっふーん。特殊防御壁壊す道あったよー」
「ほんと?情報の出処は?」
「月見里センセだよ」
「え、信じていいのそれ」
「メカニック部門行って事実確認したからおーるおっけー」
「……メカニック部門?」

超子の口から出たその言葉を、エレクシアは疑問符をつけて復唱する。流石エレちゃんお目が高いっ!と超子はキラキラと顔を輝かせながら、先ほど手に入れた『特殊防御壁破壊爆弾』の話を2人に伝える。その話は2人の興味を引くのに容易いものだった。

「なるほど。つまりその爆弾を、あの場所にぶつけるわけね」
「破壊力凄まじいらしいからさー、爆発する時離れてた方がいいかもねっ」
「なら、その爆弾を最初にぶつければいいのだわ。それならやりやすくなる」
「そのへんは現場行かないとなー。爆弾が無駄になっちゃうかもしれないし」
「そうだねえ。で、そういえば松永くんは?」
「あっ」

ごめん忘れてた!と親指をぐっと立てながら言うと、歌子は乾いた笑いをし、エレクシアは心底どうでもいい、というような態度で超子を見るのだった。





マグノリア医療部。松永との自撮り写真に満足したのか、弥里はスッキリした顔で松永に礼を言う。当の松永は「いいってことYO」と、サムズアップして言う。

「そういや超子ちゃんもういないっぽい?」
「Oh!どうやらオレッチは置いてかれたみてーだNA……」
「超子はんならメカニック部門に行かれたで」
「あ、童貞!」
「童貞言わんといてや弥里チャン!」

いつの間にか目を覚ましていたらしい那生が、松永と弥里に近寄って話に加わる。だが弥里から発せられたそれは、那生を凹ませるには充分なものだったようで、那生は壁に頭を打ち付けて「ワイかて……ワイかて……」と、ブツブツ繰り返す。

「あ、そうだ松永くん」
「どうしたんだbaby?」
「これさ。もしもの時があったら使ってね」

弥里から差し出されたのは、日常生活などでよく見る、小さな薬のようなカプセルだった。松永はそれを潰さないように気をつけて受け取る。だがこれだけでは一体何なのかわからない。首をかしげて、松永は弥里に聞く。

「MOSIMO?」
「『大変なこと』になるよ……♪」

そういった弥里の口元は、何よりも鋭く、何よりも悪役らしく、三日月よりもつり上がっていた。まるで『大変なこと』になることを、待ち望んでいるかのように。
ただ松永はそれを気にしちゃいないのか、ありがとYO!と言う。そして彼は独特な歩き方で医療部を後にした。恐らくメカニック部門に行くのだろう。最もそのメカニック部門には、既に超子はいないのだが。


「気をつけてねー……」


弥里はニヤリと笑って見送ると、さーてお薬の時間だ〜と、妙な色をした液体が入った注射器を、自らの首元に射した。

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.14 )

日時: 2018/05/19 21:23
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「弥里チャン?何渡したん?」
「らにってぇ〜おくしゅりだぴゃ〜」
「あっ、ラリっとるわこの子」

ようやく立ち直った那生は、弥里に松永に対し何を渡したのかと問う。弥里はぶっ飛びながらも答えるが、まともな答えは帰ってこないだろうな、と那生は肩を落とす。それでも薬を渡したというので、その内容を聞く。

「ふぉるてでちゅくったおくしゅり〜☆たぁしかまひん?はひか?てひゃ☆」
「……麻疹?はしか?えげつないモン渡しおるなァ」

そこから飛び出した正体に、那生は後ずさりする。麻疹、またははしかは、ひとり感染すれば爆発的に流行する感染症だ。日本では既に無くなっているため、それに対する薬物は無いに等しい。あるとすれば予防策として、ワクチンが残っているくらいだろうか。つまり、一度それをばらまきひとりが感染し、街に出て行動したとなれば確実に『パンデミック』となる。しかしそれを一から作ることは出来るのだろうか、否、『三森 弥里』ならばできる。
───フォルテ、『感染(パンデミック)』。自らが源となり、様々な感染症を辺り一面にばらまくことが出来る。作り出したウイルスや細菌は弥里には効かず、あくまで『他人』に襲いかかる。その気になれば原因となるウイルスあるいは細菌を作り出し、カプセルなどの入れ物に封じ込め、それを爆発させることでばら撒くことも出来る。
その気になれば人類滅亡も、非現実的なことではない。彼女にかかればそれが現実のものとなる。それほどまでに恐ろしいフォルテなのだ。ただそれ故に、彼女は戦闘部ではなく、医療部へと回されてしまったわけなのだが、そこで那生の手によってヤクまみれに染まってしまった訳で。

「あひゃ☆ぴんくのぞうさん〜☆」
「しもた、仕込みすぎたわ……」

こんなふうに自らヤクをブレンドして、自ら打ち込んで、自らぶっ飛んでいる。こうなると那生ですら手をつけられない。ヤクが一通り抜けるまでは放置という形になる。

「……松永はん、えっらいやばいモンもろてしもたんやなあ」

エイメンってな、と、わざとらしく十字を切ると、さてお仕事に戻りまひょか、とだけ呟いてカルテの山へと突っ込んでいった。





「ホォームッカミンッ!」
「あ、やっと帰ってきた」

とりあえず松永の帰りを待とう。その結論に至ってから十数分した頃、ようやく松永が会議室へと戻ってきた。超子たちはやれやれ、というような態度で松永を出迎える。遅くなっちまったNAと松永が言うそばで、エレクシアはあるものに気づく。松永の手の中にあったカプセルを取り、これ何?と問うた。

「三森がGIVEしてくれたやつだNA。『大変なことになる』って言ってたZE」
「大変なこと?」

エレクシアは首を傾げる。こんなカプセルが、薬剤とも思えるカプセルが、何がどう大変なことになるのだろうか。はてなが耐えないエレクシアに、歌子は声をかける。

「エレクシアちゃん、それ見せて?」
「はい」

歌子はエレクシアからカプセルを受け取り、それをじっと見つめる。しばらくそうした後に、あっと超子が声を上げた。

「それ、弥里ちゃんのフォルテで作ったやつだったりして?」
「えっ……てことはこの中身はまさか」
「感染症の原因になるやつ!確かに大変なことになるわ!」

とんでもないもん貰ってきたわね。超子はそう言って松永を見る。しかし松永は何もわかっていないようだ、FUUUU!マジやべーじゃんYO!とひとりで盛り上がっている。

「これ今すぐ出た方が……」
「もとよりそのつもりだったよ。でもこれほんとに今すぐ出撃して、『処理』した方がいいわ。そんで辺り一面焼け野原にした方がいい。いくら空間切り離すとはいえ……」
「なら、早く行きましょう。フォルテッシモ出撃ポートに」
「キターッ!やっとオレッチの出番だNA!」

そう言って松永は会議室を飛び出して、出撃ポートへと行ってしまった。しょうがないなあ、足だけは早いんだから。超子はため息をついて残りの2人を自分の近くに寄せて、

「てれぽ!」

一瞬にして姿を消した。





「うぉっ!?早かったっすね!?フォルテッシモちゃんたちは既に移動済みっすから、今出ても大丈夫っす」
「うわーん常磐ちゃん仕事はっやい!ありがとー!」

移動した先はフォルテッシモでの出撃ポート。ここには出撃する為に移動してきたフォルテッシモが、出撃する数だけある。出撃する際には光学迷彩をかけ、一般人には見えなくても悟られぬよう、高高度で飛行をする。もちろん空間を切り離しはするが、出撃時点でそれをすると、マグノリア本部ごと切り離された空間に持っていかれてしまい、オペレートや戦闘どころではなくなるため、そうするしかない。もっとも、それはリーダーが言っている事なので、本当かどうかは定かではないが。
超子たちは早速自らのフォルテッシモに乗り、起動させる。ポッドの中にあったパイロットチェアに座ってコントロールポッドを閉じきり、モニタに手のひらをかざす。

『Welcome MASTER.Ready』

目の前に文字が浮かび上がり、コントロールポッドの周りは、外の様子を映し出す。特に異常は見られないようだ。

「ん。特に問題は無いみたいね。皆は?」

超子はところどころを確認して、ほかの出撃するメンバーに声をかける。目の前にモニタが次々と現れ、歌子、エレクシア、松永が映し出された。

『こっちも特にないよ。いつでも行ける』
『私も大丈夫。もちろんエレーヌも』
『FUUUUU!早く行こうぜ超子ォッ!』
「こらこら急かさないの。行動力があるのはいいけど、無闇矢鱈に突っ込んでいかないでね?」

そう言うと通信は切れる。目の前に見えるのは外の風景だけ。ふう、と一つ息をついて、口元を引き締める。

「フォルテッシモ、『マザー』!」
「フォルテッシモ、『ディーヴァ』!」
「フォルテッシモ、『アルテミス』」
「フォルテッシモォッ!『愛宕丸』ゥッ!!」

「出撃する!!」

その瞬間、開かれた天板から4機のフォルテッシモが飛び立って行った。


「……行っちゃったっすね」
「え、今来たのに……」
「惜しかったっすねー、『御代』ちゃん」
「……常磐ちゃん、うちの『プテラノドン』、準備してある?」
「え?そりゃもちろん。要望があったっすから」
「なら」



「───私も、行くうぇい!」

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.15 )

日時: 2018/08/22 07:15
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「高度異常なし、障害物なし……って当たり前かあ。んー、風向きなしの天候は快晴、気温は19度?」

 超子はコクピット内で、今現在の周囲の状況を確認していた。周囲変換で空間を切り離してないため、こういった確認は非常に重要なものだ。最も、当たり前のことなのだが。

「今しがた飛んでる旅客機とかも、ないね。うん、このまま行っちゃっておっけーっしょ」
『でも途中埼玉通るから、暖かくしたほうがいいよね?』
「そね。ぐっと気温下がるし。みんなー、埼玉近づいたらあったかくする準備してー」

 それだけ言うと、超子は通信を切り、背後にあったブランケットを膝にかけ、備え付けてあったポットから、持ってきておいたスープのもとが入っいてるカップにお湯を注ぐ。気が早いかなあ、とおもいつつ、スープをスプーンでかき混ぜる。あっという間にわかめスープの完成だ。これで埼玉を通る準備は完璧。超子は上着に袖を通しながらわかめスープを一口。だが思ったより熱かったのか、「あっつぃ!」と声を荒げた。
 埼玉を通るだけなのに、こうまでする理由。それは埼玉の今の現状にあった。今現在の埼玉は、『氷の国』として存在している。もちろん都市機能は完全に動いていない。というのも十数年前、埼玉は『たった一夜』にして、全てが氷の中へと閉ざされた。その氷はただの氷でなく、『近づく者を容赦なく氷に閉じ込める』氷なのだ。たとえそれが遥か高い上空でも、氷漬けにはされないが、空気が一気に冷え込むほどである。それはまるで強力な冷凍庫の中に勢い良く入るくらいに。だからこそ、埼玉を通るとなると、それがたとえ夏でもこのレベルの対策をしなければならないのだ。そう、今いるこの空間が、『切り離されている』としても。
 なぜ埼玉がそんな氷の国になってしまったのかは、未だにわかっていない。調査をしようにも氷漬けにされるだけだし、またもしそれがフォルテだとして、そのフォルテが『生きている』とすれば、手も足も出ない。というのが現状で。なんせ近づくにも近づけない。これでは調べようにも調べられない。一体何が起きたのか、何が原因なのか、中はどうなっているのか。真相はすべて、氷の中である。

「うひー……寒いねー」
『気づかれないようにゆっくり移動してるのもあるからね、すっごく寒いね』
『この高度で飛んでいても、こうなのは嫌ね』

 一行はいよいよ埼玉へ入った。それが一発でわかるくらいに、周りの空気は一気に冷え込んだ。先程作ったばかりのわかめスープも、すぐに冷めてしまう。超子は冷めてしまったわかめスープを一気に飲み干すと、すぐに別のわかめスープの粉末をカップに入れ、お湯を注いでそれを一口。だが彼女はどうせすぐに冷めんだろうな、と、多少急いで飲み干した。もっと味わって飲みたかったのに。

「にしてもいつ通ってもすごいねえ、この冷気」
『ほんと。ここだけ日本じゃないみたい』
「それ埼玉の人聞いたら怒るよ〜。でも今の埼玉じゃそれ色々と当たってるかもね」
『というより、貴方達。何か気づかなくって』
「へ?」
『今いるフォルテッシモ、数えてご覧なさい』

 エレクシア───否、エレーヌだろうか。彼女たちがそう言えば、超子と歌子は訝しげに周りの状況をよく見やる。ひぃ、ふぅ、みぃ……自らを含めれば、今この場にはフォルテッシモは3機いる。そこで気づいた。

『……愛宕丸は?』
「はぐれちゃった…とか?」

 周囲には松永が乗っている愛宕丸の『あ』の文字すらない。一体どうしたのだろうか。何かしでかしたのだろうか、それとも先に行ったのか。いや、先に行ったとすればそれは見えているはずだし、もし敵に見つかって撃墜されたとすれば、必ず音が聞こえるはず。それに周囲転換からの空間は切り離されていない。どうしたのだろうか。
 これまずいんじゃ?と焦る超子たちに対し、エレクシア、またはエレーヌはふうと息を一つ吐露し、答えを出してやる。

『帰ったのよ。風邪引いたらしいわ』
「えっ」
『埼玉に入った直後にね。私たちにだけ通信が入ったわ』

 その時松永は聞くに耐えない声で

『Oh……どうやらオレッチは体調がBad……になっちまったみてえだ……ズビーッオレッチはズビーッ、先にゴーゥホーゥムクゥーウィックルィーさせれもらうJE……ブェェッキショエエエエ』
『……そう』

 と言ってすぐさま帰ったらしい。あまりにも鼻を啜る音と、くしゃみがひどすぎた為、呆れて何も言えなかったそうだ。なんで一緒に出撃したのか、わけがわからない、と彼女たちは言う。その経緯を聞いて、やはり超子と歌子もこれには苦笑すら出なかった。どちらかというと、ははは、と棒読みで出てきたくらい。たしかに寒いがそこまでなるほどなのか、2人は頭を抱えた。

『けどね。後方からフォルテッシモが1機来てるの』
「え?もしかしてグローリア?」
『超子ちゃんちがうよこれ。反応マグノリアのフォルテッシモだよ!』
「えぇ?誰ぇ?」
『私だうぇい!』

 その直後。やってきたフォルテッシモを確認したまさにその直後。超子のフォルテッシモであるマザーの背後に、やってきたフォルテッシモが立つ。思わず超子は距離を取って戦闘態勢を取るが、やってきたそのフォルテッシモを見てその態勢を解く。

「───御代(みよ)ちゃん!」
『ご名答ー!』

 御代と呼ばれたその機体、『プテラノドン』は、その名の竜を思い起こさせるような翼を広げて、ピースしてみせた。





「……那生」
「お?珍し。なんやワイに用なんか?流星(りゅうせい)はん」
「おいおい俺も忘れんなナオ」
「狂示ィ?なんやほんまにどないしたんや?」

 ところ変わりマグノリア医療部……ではなく、喫煙室。ちょうどヤクを炙ってさて吸うぞ、というタイミングで、那生の前に来客が2人ほど現れる。
 1人はマグノリアリーダーであるその人、葛狭狂示。そしてもう1人、全身を黒でまとめあげ、紺と黒が入り混じったやたら長い髪を適当に広げ、左目に眼帯をした男。その人の名を、『紅蓮流星(ぐれんりゅうせい)』。彼はこのマグノリアで、おそらく最年長の人物であり、現在指揮官をしている。昔はそれこそ前線で、狂示や那生と共に鬼のような強さを誇っていたが、あまりにも強すぎるために、狂示から「お前出ると新人育たねえから指揮官やっとけ」とのお達しをもらい、今に至る。強すぎるというのも、なかなか嫌な問題らしい。
 普段は自らの書斎か図書室で本を読みふけっていたり、趣味である創作活動をひきこもってやっているはずの彼が、なぜわざわざこんな場所に来たのだろうか。しかも隣にはタバコを現在進行形で吸っている三森弥里がいる。もしかしてそのことでお呼び出しを食らったのか?那生はそう考えるも、すぐにやめた。んなの今更やんけー、と。全く反省していないようだ。

「お前、今からフォルテッシモ乗れ」
「ハァ?」
「いやー。追加で調べてたんだけどよ、とんでもねーことが分かっちまった」
「なんやなんや、緊急事態(エマージェンシー)かいな?」
「それに近しいものではあるが、な」

 流星はまっすぐに那生を見据える。

「栃木のポイントAで、非常に危険な薬物が使われているのを確認した」
「ん?それまさか、超子はんたちが潰しに行くっちゅう、例の奴さんの研究施設やろか?」
「そーなんだよ。やっべーんだわ」
「なんやなんのヤクなんや?」
「ワクワクするな。それでだ。その薬物というのが、『ゾンビ』だ」
「……ひっじょーにくだらん質問するわ。そのゾンビっちゅうヤク、まさかネクロマンス的なもんとちゃうやろな」
「正解だ。この薬物は摂取した者が死んだあと、自我なき人形へ作り変えるものだ。その薬物が、例の栃木の研究施設のフォルトゥナの子どもたちに使われていることが判明した」
「しかもゾンビ摂取してゾンビになっちまった奴は、生者を食う。食われた生者もまたゾンビになる。まるでどっかの詐欺みてーなことになんな」
「うひーなんつーもん使いおるんや」
「でだ。貴様にはその薬物の回収と、研究施設の破壊、それと摂取したフォルトゥナの子どもたちの完全なる抹殺。それを任務として下す」

 流星は那生に多少声のトーンを強めて言い放つ。那生はあんさんいきゃええやろ、と反論してみるも、私が出てしまえば新人が育たない。ときっぱり言い切られる。なんやカッタイやっちゃなあ。那生は頭を掻きながらひとりつぶやく。

「童貞どーしたのー」
「えっ…あーお仕事入ったんやよ」
「まじかよー」

 がんばってぇ〜、と応援する気などもとから内容に、弥里は那生に手を振った。童貞言わんといてや弥里チャン!

「決まりだな。さっさと出撃ポートへいけ。連絡は通してある」
「へいへい。オペレーター室から、まともなオペレーターくっとええねんけどなあ」

 その言葉に、流星は『当たっているから何も言えないな』と、そこだけは心底那生に対して賛同した。他の行為は賛同しかねるが。

「さて……そろそろか」

時計を見た流星は、急ぐように喫煙室から出ていった。

「……いや、私も出るとするか」

 思い出したようにつぶやくと、流星は通信端末を取り出し、メカニック部門へと繋いだ。


「───私だ。やはり私も出る」


つづく

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.16 )

日時: 2018/08/22 07:17
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 翼を広げ、ピースをしてみせたその機体───プテラノドンは、くるくると3機の周りを回り始める。ひとしきり回って満足したのか、プテラノドン───搭乗者である朝山(あさやま) 御代(みよ)は、全員に向けて話し始める(といっても通信なのだが)。

『ほんとは一緒に行こうと思ってたんだけど、ちょっと遅れちゃったうぇい』
「他に誰か来るとかは?」
『聞いてないぽよ』

 御代はおちゃらけた様子で言う。その言葉に嘘偽りはなさそうで、超子たちはならいっか、とひとまず安心した。何に対してなのかは、本人たちにしかわからないのだろう。
 するとところで、と突然御代は話を変える。何か気になることでもあったのか、少し声のトーンを変えてほかの3人に話しかける。

『ねえねえ、松永くん急に戻ってきたけど、どうしたの?』
「それについては……まあ、後ほど?」
『ふーん?』
「というかそろそろ行こうか、近いし」

 超子がそう呼びかけると、皆は体勢をポイントAに向き直し、再び発進した。





 ところ変わってマグノリアの、フォルテッシモ出撃ブース。そこで一条常磐は普段通りに、フォルテッシモたちの整備を行っていた。トップふたり組が不在のこの状況、否が応でも自分が取り仕切ることとなる。そこにある程度のプレッシャーと不安を感じながらも、常磐は日々を生き抜いている。
 そんな時、整備が一段落ついてさて休もうかというところで、突如通信が入る。

「もぉーなんすかー、こっちは休もうとしてたんすけど」
『FUUUU悪ィNA!開けてくれYO』
「あれ?キューちゃん?戻ってきたんすか」

 何だ何だとゲートを開けば、なんだか寒そうな様子でフォルテッシモ、愛宕丸が入ってくる。道中で何かあったのだろうか。所定の位置にフォルテッシモが来ると、動きは止まり、ポッドからキューちゃんこと、松永久舵が降りてくる。どことなく顔色が悪そうだ。

「どうしたっすか?キューちゃん」
「Oh…それがYO、SAITAMA通る時に風邪を引いちまったのSA!ブエッキショエ」
「うわ汚っ!だったら医療部行ってくださいっす、愛宕丸ちゃんのメンテはしとくっすから!」

 休みのあとっすけど。言外にそう付け加えると、常磐は震える彼の足元ににワープパネルを敷いてやり、医療部へとそのまま飛ばしてやった。流石に朝から働き詰めなので、今から愛宕丸を一からメンテというのは無理がある。あの調子だとしばらく出撃もできそうにないから、しばらくの休憩の後ででいいだろう。そう思ってあくびをし、仮眠室へと向かおうとしていたときだった。突如としてある2人組がここへとやってくる。ため息をついて誰だ誰だとそちらへ目を向ければ、常磐はメガネの向こうの寝ぼけナマコをカッと開く。なんでいきなりここに来たんだ。

「入るぞ、一条常磐」
「いやあすまんなぁ〜、突然の出撃で……ワイらのフォルテッシモ、準備してはる?」
「え?あー……多分そこに」
「(にしても突然やな、流星はん。いきなり来たかと思っとったら、私も出る言い出すしのォ)」
「というより、連絡は入れておいたはずなんだが」
「んー……そうだっけ……あ、そうだったっすね。紅蓮指揮官とヤク中先生」
「月見里那生!いい加減覚えといてや〜」

 そう、マグノリアの指揮官、紅蓮流星その人と、マグノリア随一のヤク中でありマグノリア医療部の長、月見里那生である。連絡が入っていたことを忘れていたのか、常磐はそんなものあったっけ?と首を傾げたが、そういえば少し前に一方的な連絡が入って、急ピッチで整備してたんだっけ。と思い出した。その前にぼんやりと指し示した場所には、彼らのフォルテッシモが佇んでいた。いつでも行ける、というように。
 流星は視線だけそちらへよこすと、すぐに目を閉じたかと思えば、ゆっくりとその目を開く。意を決したのか、はたまた別の意志か、流星は身を翻し、自らのフォルテッシモ【アビス】に向かっていく。那生もそれに続くように、フォルテッシモ【テオドール】へと向かう。その姿を見て、すんげー嫌な予感がするっす、と常磐はつぶやくのだった。

 各々のフォルテッシモのコントロールポッドへ入り、それを閉めて起動させる。目の前に映し出される、『Hello World!』の文字。慣れた手つきで各システムを確認していく。正常に戦闘が行えるか、飛行が行えるか、その他諸々。かなりメンテナンスが行き届いているようだ。前に搭乗したときの不満点が、ほとんど解決されている。ただすべてを確認するには、実際に動かしたほうがいい。流星は那生に通信をつなぐ。

「そちらはどうだ」
『なんも変なとこはあらへんで。いつでも行ける』
「ならば今すぐに出るとしよう、確かめたいものもあるのでな」
『はいはい、仰せのとおりに。ワイははよ終わらせてゆっくり、寝たいもんですなァ』

 そこで通信は終わる。外にいる常磐に向け、ゲート開放を要求する。と、同時にもうゲートは開かれるようで、仕事が早くて助かるな、と思う。ただそれだけ。
 開かれた先には戦場が待っている。あの頃を思い出す、あの血肉踊る戦場が。口元をわからぬように上げると、

「フォルテッシモ【アビス】、出る」

 すぐに飛び出していった。





 栃木県日光市、ポイントA。そのちょうど真上に当たる場所で、超子たちは止まる。

「よーし、到着!まずは周囲転換しなきゃね」

 それを言うのが先か後か、超子のでは素早く動き、周囲をスキャンしまたたく間にデジタルデータへと変換していく。これで民間人に被害が行くことはなくなったし、自分たちの姿も民間人に見えなくなった。それを確認すると、合図とともに急降下していく。
 その先には日光の町並み。これだけ見れば何も不自然な点はないのだが、本来そこにあるはずのものがない。なるほど、確かに『見えなくしている』ようだ。周囲を転換していても効力が発揮されているとは。超子はぺろりと唇を舐める。すぐさま通信をつなぐ。

「歌子ちゃん、とりま『フォルテ』しくよろ」
『わかった、でも念の為に離れててね』
『うぇい』
『わかったわ』

 通信は終わり、超子とエレクシア、御代は歌子の忠告通り、彼女のそばから離れる。それを確認した歌子は、システムを弄り、コントロールポッドの中をまたたく間に変えていく。座っていた座席はなくなり、マイクが目の前に現れ、まるでカラオケルームかなにかへと変貌していく。フォルテッシモ【ディーヴァ】も同様に、周りに鍵盤のようなものが現れ、羽のようなオーラが広がる。その姿はまるで『歌姫』。あたりの音は何一つなく、邪魔するものもいない。すべての準備が整った。



 ────見えずとも 感じ取る
 ────その姿を 隠された姿を
 ────我らは問う お前の意味を
 ────我らは問う お前の存在を
 ────なんの為に そこに在るのか
 ────今一度問う お前の意義を
 ────お前の姿を 我らに示せ



 戦場に響くその歌声は、聞く者の全てを浄化する。歌声は辺りに、風に乗って全てへと行き渡り、浄化する。歌はやがて茨となり、『そこに在るべきもの』へと絡みつく。羽はゆらぎ音は融け、空には虹がかかり、美しき花びらが舞い降りる。
 茨はそこに在るべきものへ、次第に絡みつく強さを強め、何もないところからメキメキと音がなり、その場所にヒビが入る。ヒビの隙間から、無機質なそれは見える。



 ────開け 我らが道よ
 ────開け 我らが空よ
 ────そこに何かあるというなら
 ────我らはそれを壊してみせよう
 ────響け 我らが祈りよ
 ────穿け 我らが力よ



 それがトドメとなり、茨はついに『空間』を破ることに成功する。すると同時に本来あるはずの『無機質なそれ』が姿を表し、茨は光の粒となって、やがて消える。間違いない、アレこそが、今回の作戦で潰すことになる施設だ。やたらと大きいじゃないか。超子はニヤリと笑う。燃やしがいがありそうね、とも思う。
 だがその前に、例のものを投げなければならない。超子は歌子に下がるよう言い、他の2機に対しても、そのままでいるようにと伝える。フォルテを使い、消耗した歌子はやっとの思いでシステムを直し、巻き添えにならないように遠くへと離れる。それを確認した超子はどこからともなく例のもの───『特殊防御壁破壊爆弾』を取り出し、起動させる。カウントダウンが10から始まる。
 9 まだ、まだ待つ。8 まだまだ待つ。7 まだだめだ。 6 我慢しろ。 5 まだ抑えろ。 4 いよいよ。 3 あと少し。 
 そしてカウントが2になるか否か。その時に超子は思いっきり、それを施設へとめがけてぶん投げる。

「いっけえええええええッ!!」

 1。そのカウントで爆弾は施設へと直撃し、ゼロと同時に爆発する。
 その瞬間、あたりは爆発によって生まれた爆風に巻き込まれ、窓ガラスが吹き飛んだり、建物自体がふっとばされたりと、相応の被害を被った。しっかりと準備をしていた【マザー】も、他のフォルテッシモたちも、その影響をもろにくらい、後ろへとのけぞったり若干吹き飛ばされそうになる。ただメンテのおかげか準備のおかげか、そこまでの被害はなかったようだ。証拠に、皆のフォルテッシモは、パーツが溶けたりなどという事は起きなかった。むしろそれさえなかったのが『奇跡』というべきか。
 爆発を目の前で食らった施設は、その時点で貼られていたのであろう防御壁が、見事なまでに崩れていった。正確に描写するならば、『跡形もなく消え去っていた』とするべきか。兎にも角にも、施設は丸裸の状態となった。
 だが当然のことながら、それを受けて、それとも前々からいたのか、グローリアのフォルテッシモがすぐに現れる。すでに臨戦態勢は万全のようで、今すぐにでもこちらへ攻撃を仕掛けてくるようだ。否、もうしている。
 あるグローリアの量産型フォルテッシモが、フォルテを使用したがために消耗したディーヴァ、もとい歌子にたいして幾つものミサイルを放つ。それらをいち早く、御代は彼女の前に立ち、すべてをはらう。はらわれたミサイルは、あちこちに分散していきやがて何かにぶつかり、爆発する。御代はそれを見て眉をひそめた。予告なしに撃つな、そう思うが流石に予告して攻撃する敵などいないか、と肩を落とした。

「御代ちゃん、歌子ちゃん、大丈夫?」
『な、なんとか…御代ちゃんがやってくれたみたい』
『もーまんたいうぇい!それよりも早くこの雑魚たちなんとかしなきゃぽよ』
『貴方、まともに話せないのかしら』
「はいはいおしゃべりは後!まずは御代ちゃんの言うとおり───この雑魚集団を蹴散らそうか!」


 今このとき、命がけの戦闘が始まった。


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.17 )

日時: 2018/08/26 18:12
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 倖の手料理を思う存分堪能した時雨と泥。その後の片付けを手伝い、今は縁側でゆっくり、柔らかな日差しを浴びながら緑茶を飲んでいる。傍らには羊羹があり、それを少しずつつまみながら、ぼんやりのんびりと過ごしている。程よく広がる羊羹の甘み。

「いい天気だねえ」
「そうだな」

 特に続くことなく、そこで途切れる会話。だがそれでいい。マグノリアにいるときでは味わえない、静寂の一時。頬を撫でる優しき風は、心地よい音を立てて過ぎ去っていく。これでいい。こんなひとときが、何よりの癒やし、何よりの羽休め。たまには普段の使命を忘れ、平和な空間にいるのも良いものだ。

「平和だねえ」
「そうだな」

 2人は切り離された場所で、ゆっくりと心も体も癒やされていた。だからこそ、こんな言葉がつい口に出たのかもしれない。





 まずは超子が動く。補助の役割をしているのであろう杖を掲げ、精神を集中させる。杖の先には巨大な火球が出来上がり、それが限界までなると一気に爆発する。爆発した火球は小さい弾丸となり、グローリアのフォルテッシモに直撃していく。みるみるうちに食らったフォルテッシモは、火だるまとなり落ちていく。それでも減らせたのは、ほんの一部に過ぎない。
 それに続くように、御代のフォルテッシモ、【プテラノドン】が動く。手にしていた数多の特別性ナイフを、関節部位に向けて投擲する。ガシンガシンと見事に命中したナイフは、相手の動きを封じる仕事をしてくれたようで、狙われたフォルテッシモたちは動きが止まる。そこをエレクシアのフォルテッシモ、【アルテミス】がミサイルで撃墜する。着実に数を減らしていっている。その間歌子は超子のフォルテッシモ【マザー】の背後に隠れ、フォルテを使い疲弊していた体を休めていた。
 ────フォルテ『歌姫』。歌自体に力があり、その歌を歌うことにより、周囲に影響をもたらすフォルテ。本人の歌唱力が高ければ高いほど、その力は強大なものとなる。ただし歌の力が強まれば、次第に自らに降りかかる負荷も大きくなる。先程の歌はかなり強い力を持つ歌であるがために、体にかかる負荷は尋常なものではなかった。しばらくのクールタイムがなければ、その場から動くこともできないものである。
 だからこそ超子はさっさとこの場を切り抜けたかった。歌子のためにも、そして施設の中にいる手遅れの子どもたちのためにも。だが、数を減らしても減らしても、次々と増援はやってくる。かなり広い範囲で攻撃しているが、キリがない。しかもよくよく見れば、倒したはずのフォルテッシモは再生され、また浮上してくる。

「ねえこれやばくない?倒しても生き返って増えてって、やばくない?」
『待って、向こうの様子がおかしいわ』
「エレちゃん、それどこ?」
『あ、もしかしてあれうぇい?』

 エレクシアが何か感じ取り、それを御代が見つけ、示す。そこにはグローリアのフォルテッシモが2機。だが様子が確かにおかしい。片方のフォルテッシモは不自然な動きをしている。ふらふらと近くにいた別のフォルテッシモに近づいていく。何が起きるんだ?超子たちは気づかれないようゆっくり近づき、今か今かとそれを見る。途中攻撃を仕掛けられたが、一通り殴っておく。
 するとどうだろうか、不自然な動きをしていたフォルテッシモが、別のフォルテッシモに向かって、備え付けられていたのだろう『口』を大きく開け、食らいついた。バキ、メキ、といやな音が聞こえてくる。その口は非常に気味が悪く、まるでスプラッタホラー映画を見ているかのような光景が広がっていた。よく見れば食われているフォルテッシモからは、赤い液体が流れ出ていた。まるで血のようだ。
 ブチ、と繊維が切れる音がする。どうやら捕食しているフォルテッシモが、自らの餌を食べやすいように分割しているようだ。先程のは腕を千切ったのだろう。よく見れば千切れた腕から、肉片が飛び散っている。それも残すまいと、捕食する者はひたすらに食らう。
 いくらフォルテッシモといえど、あまりにもショッキングすぎるその光景に、超子は恐怖する。そしてエレクシアたちに見せるまいと、必死に3人、いや実質4人に下がれと言う。これは見ちゃいけない、見ちゃいけないものだ。ましてやエレクシア、エレーヌには酷(こく)すぎる。絶対に見せるな───そんな声が、超子の頭の中に響く。ええ、見せるもんですか。
 だが、そううまくは行かない。捕食者に自分たちが気づかれた。捕食者はこちらを見据えて、不自然に『にやり』と笑う。それがとてもとても不快なもので、超子は背筋を凍らせる。あんなもの、フォルテッシモじゃない。ただの『化物』だ。超子は捕食者に向き直り、4人に近づけさせまいとして、己の武器を構える。杖の先端が開き、火球が現れる。しかし超子は気づけなかった。守るべき4人の背後に、別の『捕食者(ばけもの)』が来たことに。それにいち早く気づいたのは、他ならぬ絶対に見ちゃいけない、エレクシアとエレーヌだった。

「────え」

 気づいたはいいものの方向転換が間に合わず、捕食者はアルテミスをしっかりと捕まえ、口を大きく開けて食らいつこうとする。だが、それは次に気づいた御代によって阻まれた。アルテミスから捕食者の手が剥がされる。

『エレエレちゃん!』
「大丈夫───何もないわ」

 エレクシアはすぐに返事をする。何だあの化物は。フォルテッシモの形をしているが、あれはフォルテッシモじゃない。もっと別の何かだ。もしかして超子は、これを見させないために、下がれと言っていたのだろうか。その結論に至ればそれとなく解せた。確かにスプラッターは趣味じゃない。その気遣いは正直ありがたい。だけど、目の前に現れた捕食者は、まだこちらを見据えている。そういえばあの機体、片方の腕が千切れているようだけど?

「それでも変わらないわね、潰してしまいましょう、エレーヌ。そうねエレクシア。潰してしまわなければ」

 一瞬だけエレーヌが表に出てきて口を開いたかと思えば、すぐにエレクシアへと戻る。エレクシアはアルテミスに武器を構えさせ、そのまま捕食者へと突撃していった。

「あ、私も行かなきゃ…!」

 それに続くように、御代もまたプテラノドンを捕食者へと突っ込ませるのだった。

 マザーは捕食者へむけて火球をそのまま放つ。だが捕食者は少し焦げた程度で、他はなんの傷もない。怯んだ様子すら見せていない。それどころかどうだろう、マザーへ向けて突撃をかましてくる。

「サイコキネシスッ!」

 超子はサイコキネシスを駆使し、度々捕食者の動きを止める。そしてそのまま遠方へ放る。だがそれをものともしない。構わずマザーへやってくる。超子は心底うんざりしていた。

「っとに、しつっこい!」

 捕食者はマザーを喰らおうとやってくる。何度も何度も。数を重ねるごとに、超子の体はフォルテの過剰使用で疲弊していく。冷や汗も流れ出てきた。目も少し霞んできた。腕は震え、足も冷たく、口の端からは血が流れ出る。口を全開にすれば、どばっと血が出てくるのだろう。そうはさせまいと、必死に口を閉じる。けどそのままだと気持ち悪くなるだけなので、半開きにして血液の流出を調整する。なんでこんなことができるかなんて、知らない。腹も食物を求めているようで、虫が鳴く。
 そうこうしているあいだに、捕食者以外にも増援がやってくる。グローリアの量産型フォルテッシモが。後ろには歌子がいる。彼女のためにも、ここを動かずに攻撃をしなければ。わらわらと無限に湧いて出てくるそいつらは、超子たちの周りを囲む。こちらを見て、せせら笑っているようだ。心底気味が悪い。

「こんなところで…お姉ちゃんは死なないし…歌子ちゃんも死なせない…絶対に時雨を笑顔で迎えに行くんだから…ケフッ」

 喋るたびに漏れでる血液は、口の中に嫌にこびりつき、気持ち悪い。よく見れば胸元は真っ赤っかだ。頭もなんだか冷えてきた。何も考えられなくなってきた。急激に体温も下がっていく。

「歌子ちゃん…は、寝てるのかな…疲れちゃったもんね…エレちゃんと御代ちゃんも……戦ってるんだ…」

 周囲を見れるモニターを見れば、アルテミスとプテラノドンが、別の捕食者と必死に戦っている様子が見える。だが及ばず、武器が手元から剥がされる。なすすべもなく、2機は捕食者に捕まってしまう。かなり力が強いようだ。

「(…ごめん、みんな……あたし……お姉ちゃんなのにね……お姉ちゃんなのに……ごめんね……)」

 これから来るであろう『死』にそなえ、超子は瞳を閉じた。気配でわかる、捕食者の影。ああ、口を開いてる。食べられちゃうんだ。
 そこで超子の意識は途切───



『───死ぬにはまだ早い、桐乃超子』



 れなかった。突如として捕食者の影が離れた気がした。ぼんやりする瞼を必死になってこじ開けてみれば、そこには

『お前たちは先に戻れ。ここは我々が引き受ける』
『そゆことや。脱出ワープ使ってはよ医療部で体治しぃや!』


 一筋の、『紫電』がそこにいた。


『いいか、早く戻れ。指揮官命令だ』
『医療部部長命令でもあるで〜、見たところ超子はんは、ICU行きかもしれんな〜。バイタルサインもおっそろしいほど下がっとるし』
 
 そう語りかけてくる2つの『おとな』は、いたずらをした子供を優しく諭すように、帰還命令を出してくる。エレクシアや御代を捕まえていた捕食者も、また別の『薬』が助けていたようで、自由に動き回れていた。ああ、助かったんだ。
 超子は石のように固まった体にむち打って、緊急の脱出ワープを展開、ディーヴァの腕を掴んで帰還した。残りの2機も次々と帰還した。

「……おい、那生」
『へーへー、わかっとるがな。全力で潰す、それだけや』
『遅れちまったNA!FUUUUU!』

 彗星のごとくやってきたフォルテッシモ【アビス】、そして【テオドール】に搭乗する───紅蓮流星と月見里那生は構える。そしてやるかと言うときに、別のフォルテッシモがやってきた。あの独特な『フョロイ』フォルムのフォルテッシモ、間違いない。

「松永。風邪はいいのか」
『すっかりだZE!オレッチ超☆健康体!』
『ハハッ大方弥里チャンのヤクやなぁ?ま。ええか。合法っぽかったし』

 一度は帰還したフォルテッシモ【愛宕丸】。そいつが戦場へ帰ってきたのだ。流星は誰にも、本人にもわからないような微笑を浮かべる。人は多いほうがいい。それでいい。流星はアビスに、二振りの刀を構えさせる。青く光るその刀には、稲妻が走る。テオドールも巨大なメスをグローリアに向け、愛宕丸は奇妙なポーズを取る。ファイティングポーズなのだろうか。いや、松永自身、カポエイラを習得していたというから、これはきっとカポエイラの構えなのだろう。
 流星は2機の様子を見て、口を開く。

「いいかお前たち。まずはこの雑魚どもを処理するぞ」
『りょーかいや!』
『オッッケェェーーーイ!!』

 それを聞き取るや否や、アビスはもう動いていた。まずは周りの雑魚どもの一掃。刀をひとつ振りかざせば、大半の雑魚は消滅し、またひとつもう片方の刀を振るえば、一瞬にして大群が消え失せる。刀には返り血一つもない。背後にいたテオドールは巨大なメスを大雑把に振り回し、傷がついたそこから隠し持っていたヤクを流し込む。するとどうだろう、みるみるうちにフォルテッシモが溶けていく。ジュウジュウと、嫌な音を立てて溶けていく。

『やっぱクロコダイル使ったヤクはええなあ。あっさり死におる』
「……那生」
『ご安心を、フォルテッシモにしか使えんように配合しとるから心配せんでええで』
「……今日は認めてやる」
『FUUUUUU!!オレッチも続くんだZE!!』

 そして飛び出していったのは愛宕丸。流線系のレッグが見事にブチ当たり、当たったフォルテッシモが遠くへ遠くへと飛んでいく。あれは確実に中身の人間は死んでいるだろう。内蔵もグッチャグチャになって。それだけではとどまらず、次へ次へと愛宕丸は足技を喰らわせる。まるで踊っているかのようだ。カポエイラ自体、踊るように見えるから、それはそれで間違っていないのだろうが。

『テメッチでFinnishだZE!』

 そうして残った捕食者の中の1つに、愛宕丸は見事に必殺の一撃を頭部に食らわせ、突き落とした。捕食者の頭部はきれいに吹っ飛び、ぷらんと愛宕丸の足にくっついていた。流石に頭部と胴体を切り離されたら、いくら復活して来たものも、できないだろう。

「(おそらくあの2つの機体、いや、片方は腕がちぎれていたから、1つか。ゾンビを打たれた搭乗者か。先程のはそのゾンビに食われたんだな)」

 ここに来る前、ゾンビに侵された機体があるらしいと連絡が入っていた。恐らく超子たちが見たのは、戦っていたのはそのゾンビに侵された搭乗者。その後ゾンビは捕食者となり、また新たな捕食者を生み出していたのだろう。いや実際そうなんだろうが。流星は目の前の捕食者と睨み合う。そして刀を構える。

「哀れだな。洗脳され、ゾンビに成り果ててまで、まだ動くというのか。私が、今ここで私が、お前を死なせてやろう。────一瞬で」


 次の瞬間、捕食者の頭と胴体は、一筋の紫電によって切り離された。





「っは!」

 超子の目がさめたその場所は医療部の天井。腕には点滴、頭には包帯、服は病院服をまとっていた。隣を見れば三森弥里がこちらをじっと見つめている。弥里と目があったとき、彼女はニンマリと笑って記録をつけ始めた。

「はい起きた〜。ここわかる?」
「え?マグノリアの医療部の…」
「せーいかい。うんうんフォルテのおかげもあるけど、ばっちりだねぇ〜ちなみに超子ちゃんが一番重症でしたぁ」
「あー……そっか、戻ってきたんだっけ」

 あのあと、脱出ワープを使って帰還したあとの記憶がない。多分かなりボロボロだったんだなあ、としみじみ思う。他の子はと聞くと、みんなまだ寝てるよ〜と呑気に答えてくれた。超子は胸をなでおろす。
 あの場で、あのタイミングで。指揮官たちが来てくれなかったら、多分、いや明らかに死んでいた。でも助かった。こうして命がある。生きている。超子は心底ほっとした。ああ、生きている。あたしは生きている。

「まーでも?フォルテかなり使ってたみたいだし?まだ寝てた方ががいいよ。ほれほれ」
「う、うん。おやす……」

 み、まで言い切れず、超子はすぐにまた眠り始めた。本当に疲れていたんだろう。すごい戦闘だったらしいし、まーしかたないか。弥里はそう思う。
 超子が起きる数時間前、任務に出ていた指揮官たちが戻ってきた。そのときに戦闘の様子を聞いた。雑魚どもを一掃したあと、施設を爆破しそのもの自体をなかったことにした、と。どういう意味かはわからなかったが、松永が元気そうだったのでいいか、弥里はそう思うことにした。
 その前に運ばれてきた超子たちはひどい状況で、すぐにでも治療が必要だったし、ほかの3人はとりあえず鎮痛剤と他メンバーのフォルテで治療した。そんで眠らせた。それでよかった。超子の治療には、少し手間取ったけど、目を覚ましたんだから良しとする。それでいいんだ。

「うん、うん。みんな治った、それでいいんです弥里ちゃん」

 弥里は満足げに頷いた。

「さてと!お仕事したし、タバコ吸ってこよ〜」

 白衣を脱ぎ捨て、弥里はパタパタと部屋を飛び出していった。だが、ピタリとその足が止まる。

「そういえば松っちゃんにあげた『おくすり』……どうしたんだろ?」


 まあいっか。気にしても仕方ないや。弥里はそう結論づけて、止めていた歩みを再開させた。



第2話【Oshama Scramble!】

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.18 )

日時: 2018/08/28 20:50
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 マグノリアには、ひときわクセの強い奴らがいる。毎日を面白おかしく彩り、生きていく。たとえそれがつまらぬものであろうと、何であろうと、面白おかしくしてしまう。日々のスパイスにしてしまう。退屈なんて言葉は存在しない。彼らにとって、退屈とは自由。何をしても構わない。それがスパイスになるのであれば、尚更。
 そんなクセの強い彼らは自らをこう名乗る。

『チームケイオス』ってね。


第3話
【fake town baby】


 栃木県日光市、ポイントAでの戦闘から一夜明け。戦闘に加わっていた朝山御代は、もうすっかり調子を取り戻していた。捕食者に捕まっていたとき、嫌に体中からメキメキと音がしていたが、もう治った。あれだけ苦しかった呼吸もこの通り。今すぐにでも出撃できる勢いだ。
 だが、病室に現れた存在を見て、何かを察する。

「入るぞ、朝山御代」
「げ……指揮官」
「と、オレも居るんだよなー」
「あれ?リーダー、ようやく引きこもり脱出うぇい?」

 よく見知った顔、指揮官である紅蓮流星は、御代を見るなりフルネームで呼んでくる。指揮官が来たということは何か言い渡されるのだろう。その先が読めてしまった御代は、うげえという顔をする。が、後ろからひょっこり出てきたマグノリアリーダー、狂示にその顔色を変える。めったに表に出てこないくせに、今日はどうしたんだろうか。
 狂示は引きこもりなんてしてねえよ、とおちゃらけ、ズカズカと入ってきて勝手にそばにあった椅子に座る。マイペースっていうか、なんというか。

「体調は大丈夫かー」
「うぇいバリバリ治ったうぇい」
「だ、そうだが」
「ふーむまあ時雨みてーに1週間休むなんてことはさせなくていーだろうな。超子は流石に病室から一歩も出んなとは、言っといたが…」

 どうなるかね、アレは。狂示は肩をすくめてそういう。超子に何があったというのか。それを押しとどめるように、流星は狂示の前に出て口を開く。

「朝山御代。お前に3日間の休養を言い渡す」
「……へっ?」

 突如言い渡されたその一言に、御代は口をあんぐりと開けた。何を突然言ってんだろうか、この人は。酒でも飲んだのかな。御代の今の顔を見て、狂示は笑い始めたが、それに構わず流星は淡々と告げる。当たり前だと言わんばかりに。

「フォルテを使ってはいなかったが、それでも相応の体力を要したはずだ。体力は無限にない。そしてお前個人としての代わりなどない。暫く安静にしていろ」
「うぇい……ナマコ指揮官」
「謹慎処分」
「ぷてー!」

 言い渡された内容に、ついつい冗談を挟んで返事をしてみるものの、間髪入れずに謹慎処分に格上げされる。御代は思わずおかしなポーズを取って仰け反るが、流星は顔色を変えずに「冗談だ」と返す。冗談に聞こえないところが恐ろしい。これ以上ふざけると本当に謹慎処分にされるかもしれない。そう思った御代は頷いて、おとなしく寝る体制に入った。流星の隣りに居たリーダーは、一連の光景をケラケラ笑いながら見ていたらしいが、用がなくなったのか、椅子から立ち上がり戻る準備をする。すでに流星は早々に部屋から去っていた。
 と、そこで狂示は何かを思い出したように、そうだとつぶやいてみせる。

「オウ喜べモーニングマウンテン。近いうちにまたなんかやっかもしんねーから。そんときゃ流星のヤローぶん殴ってでも認めさせてやらァ」
「……名前で呼べうぇい」

 ケケ、そんじゃな〜。そう最後に言い残すと、今度こそ部屋から去っていった。部屋に残された御代は、病床の上で天井を見る。シミひとつない、きれいな天井。

「誰かこないかな……超暇」

 ぽつりと呟いてみるが、それを拾うものは誰もいなかった。





 静かなくらいがちょうどいい。誰にも邪魔されず、誰からも見向きもされない。なんと素晴らしい空間なのだろう。この図書館という場所は。
 ここはマグノリアにある巨大な図書館。その一角に、とある少女は傍らに大量の分厚い本を積み重ね、その中の一冊を静かに読んでいた。メガネをかけ、長髪で、いかにも文学少女と言っても差し支えないほどの少女。名を、『英咲(えいさき)れお子』。れお子はここでの日々を何よりの楽しみにしていた。静寂なくらいがちょうどいい。本に囲まれて1日を過ごす。嗚呼なんと素晴らしき理想の日常。文学的な本を読み、心の癒し、知識の蓄えにする。これこそが人類が目指すべきものだろう。
 といいたいところなのだが、彼女が今読んでいるのは、大昔にやっていたという『特撮ヒーロー』をまとめたもの。よく見ると積み重ねられている本も、殆どが『ヒーロー』に関するものばかりである。だがそれでいい。読む本など偏っていい。それが自らの心を満たし、知識の蓄えになるのであれば。れお子はそう思っていた。

「れお子さん」

 ふいに声をかけられる。よく話す人物の声であったので、れお子は栞を挟んで本を閉じ、そちらの方へ顔を向ける。ああ、やっぱり貴方だった。

「……アスカさん。呼び捨てでいいのに」
「れお子さんだってさん付けじゃない。人のこと言えないと思うなー」

 アスカと呼ばれたその人───東野(とうの)アスカは、くすくすと小さく笑い、話を続ける。

「『会合』の時間。だよ?」
「え……あ、ああ。確かに。……それで?」
「もう!れお子さんも来るんだよ、ほら」

 アスカはそう言うと、れお子の手を引いて一緒に来るように言う。当のれお子はなんでそんなものに、などと言いたげな顔をするが、アスカがこの通りだ、拒んでも無意味だろう。もっと本を読んでいたかったのに。仕方ないかなあ。
 れお子は気だるげに立ち上がり、アスカとともにその会合とやらに行くことにしたのだった。





「モーニングマウンテンは?」
「暫く安静にしていろー、って指揮官に言われたってさ」
「へえ〜何やらかしたの?」
「さあ?指揮官に聞いても教えてくんなかった」

 結構な人数が集まり、わいのわいのと騒がしいここはマグノリアの大会議室。この前、フォルテッシモについての報告会をしたあの場所である。そこの丁度真ん中のスペースに円卓が置かれ、それを囲うようにある人物たちが座っていた。その中にはあの三森弥里もいた。最も、ヒロポンを手にしていて表情がいかにも危うげではあるが。
 円卓には空席は計4つあり、先程の会話を鑑みるに、これから席が埋まるのはそのうちの3つなのだろう。現に、空席になるひとつに、御代の写真が置かれた。端から見れば何かあったのかと問いただしたいものであるが。

「流石にそれは駄目だと思います」
「んー、じゃあ紙に『御代代理』って書いて椅子にはっつける?」
「その発想はどこから来るんですか…」

 やいのやいのと騒いでいると、扉が開けられアスカとれお子が入ってくる。2人が入ってくるのを見るなり、他のメンバーは2人の席を少し引いてやり、すぐに座れるようにした。礼を言いつつアスカとれお子は座る。これであと空席は1人となった。

「あとは指揮官だけかー。脱いでいい?」
「アウト」
「れお子即答すぎない?脱ぐけど」

 れお子にダメ出しをされたにもかかわらず、突然立ち上がって服を(全部とまではいかないが)脱ぐ者がいる。羽織っていたコートを投げ捨て、腰に巻き付けていたアクセサリーも投げ捨て、ついにはベルトにまで手をかけ始めたため、慌てて隣りに居たアスカが止める。流石にまずい。

「ヒナタさんそれはまずいって!男子いるし」
「えー」
「百合姉さんがスタンバってるし!」
「あっ、おとなしく服着てます」

 投げられた言葉にヒナタと呼ばれた彼女───保瀬(ほせ)ヒナタは一瞬で真顔になり、投げ捨てたはずのコートとアクセサリーを直し始める。その様子を見ていた百合姉さんこと、霧島百合(きりしまゆり)は、残念そうな顔をしてヒナタを見つめる。流石に百合姉さんが期待することはできないっす。言外にそう伝えるが、多分伝わってないんだろうなと肩を竦めた。諦めて席に座り直す。
 そうこうしているうちに扉が開き、流星がその場に入ってきた。いつもの服装は崩さずに、そのまま入ってくる。だからだろうか、部屋の中の空気が一瞬にしてピリッとしたものへと変わり果てる。流星は空いている席のうちの1つに座り、周りを見回す。欠席の御代以外が揃ったことを確認すると、流星はひと呼吸おいて口を開いた。

「全員揃っているな。念の為点呼をするが───朝山は安静、浅葱柚子(あさぎゆず)、英咲れお子、川上水木(かわかみみずき)、霧島百合、東野アスカ、藤山(ふじやま)まろん、保瀬ヒナタ、三森弥里、そして私。いない者は手を上げろ」
「指揮官ー、そのネタ古いです」

 全員の名前を読み上げ典型的なセリフをつぶやくが、即座に川上水木と言う名の少年に突っ込まれる。その隣にいた藤山まろんなる少女は、首を傾げてケタケタと笑った。意味がわかっているのか、わかってないのかは置いといて。流星は少し黙ったあと、1つ咳払いをして話を再開する。この者たちが集い、名乗る名はただひとつ。

「では。これより『チームケイオス』定例会合を執り行う。寝たら牙突をかますから、そのつもりで」


そう、ここに集まった者たちはすべて、クセの強い奴らが集うグループ『チームケイオス』の面々なのである。彼らはこれから、何を『しでかす』というのだろうか?


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.19 )

日時: 2018/10/05 12:50
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「流星は?」
「チームケイオスの会合やて」
「へえ」

 マグノリア喫煙所。いつもならいるはずの別の2人がいない今このとき、リーダーの狂示と医療部長那生は、各々にタバコを吸っていた。狂示のタバコは少しタールが強めのものらしい、とは那生が言っていたことだが、割とどうでもいい。狂示は口からぼわっと煙を吐き出すと、何か考えるように手を顎に当てる。

「チームケイオス、チームケイオスねえ。ネーミングセンスの欠片もねえな」
「それ言ったらアカン」
「つぅかよお、今思い出したんだけどよ」

 自分から出した話題の流れを切り、ふと狂示は言う。タバコはすでに3本目へと突入していた。

「今日でちょーど、3年になるんだな」
「へぁ?なんや?」
「ホレ、青森の───」

 そこまで言うと那生も同様に思い出したようで、間抜けた顔を苦々しいものへと変えた。

「大火災……『青森大火災』やな」

 その言葉が口から漏れ出た時、喫煙所は異様な空気に包まれた。





「さて、まずは朝山だが。つい昨日の戦闘により、3日間の安静を言い渡した故、しばらくは来ない。以上」
「なんで指揮官は無傷なんですか」
「私が秩序だからだ」
「あっはい」

 ところ変わりチームケイオス定例会合。まず流星が欠席の御代について話を終えると、多少の茶番はあったものの、すぐに別の話題へと変わる。それは奇しくも今現在喫煙所にて、那生と狂示が会話していた、あの青森大火災についてだった。

「今日で3年目になる。あの光景は今でも忘れられない」

 その一言に、チームケイオスのひとりであり、青森出身の水木は体を固くする。
 ────青森大火災。それは、3年前に起こった、大規模な火災。青森県のほぼすべてが全焼。死亡者は…生存者が当時100人にも満たなかったというから、数えるだけ徒労になるだろう。
 かつて青森県を突然、火災と呼ぶには巨大すぎる火の塊が喰らうように広がった事件。出火原因は不明。フォルテによるものとも、自然によるものとも。青森県を、火の塊が数日感に渡って焼いた。その火が青森県の外を出なかったことが、不幸中の幸い、いや、奇跡にも等しいだろう。なにせ本当に、青森県以外は焼かなかったのだから。
 その大火災で奇跡的に生存したのが、川上水木。そして別にいるもうひとり。特に水木はその故郷を焼いた火災が原因となり、フォルテが目覚めフォルトゥナとなったのだから、無意識に体を固くしてしまうのは当然のことである。そのせいで、彼は笑顔を捨てたのだから。

「未だ捜査は進んでいない。無理もないだろうな、何せ何もないに等しい状態だ」
「出火原因もですー?」
「ああ。あんな火災を引き起こせるものなど、常軌を逸脱している。それが例えフォルテであってもな」
「そりゃそうよなー、どんだけ強いフォルテなんだって話になるし」

 水木の隣にいた柚子がため息をついて、椅子にもたれかかる。
 確かに柚子の言うとおり、それが例えフォルテだとしても、土地まるごとをいっぺんに焼くフォルテなど聞いたことがない。ましてやあったとしても、使用者の身が持たないだろう。そうなる前に使用者は丸焼きにされている。ならば自然現象か?いいやそれも違う。もし自然現象ならば、そんな大規模なものはよほどのことがない限りない。人が意図的にやった放火だとしても。それはないだろう。
 だからこそ、水木は手を握りしめる。固く固く、握りしめる。故郷や家族、友も焼いたあの炎。水木は憎くて仕方がなかった。そしてそのときに目覚めた自らのフォルテも、彼は嫌いだった。すべてが焼かれたあとに目覚めたフォルテ。それは全てを焼かれるさまを見てきた水木にとって、絶望するにはひどく簡単なものだった。

「水木、舌を噛むなよ」
「……はい」

 柚子にそう声をかけられ、いつの間にか力を込めていた奥歯を緩める。たしかにこのままにしておけば、気が付かないうちに舌を噛んでいそうではあった。手の力も自然と緩める。

「それでだ。今回チームケイオスはその青森大火災の現場───青森県に出撃する」
「理由を聞いても?」
「3年目だというのと、こちらの独自の調査だな。それにチームケイオスは青森出身者が多い。それもある」
「そういや弥里ちゃんも青森出身者だよねー。なんか覚えてない?」
「んー、火災起きる前に上京してたからしーらない」
「それでだ。今回の出撃はフォルテッシモを使わず、生身での出撃となる。対策はしっかりしておけ。出撃予定は本日正午。いいな。それでは解散」

 早々とたたまれた会合。言いたいことだけを言って満足したのか、流星はさっさと席からたち、懐からタバコを取り出して部屋をあとにした。あれは2時間吸うつもりだろうな、と柚子は思う。
 流星を皮切りにして、チームケイオスの他の面々も次々と席を立つ。その中でも会合中ただずっと笑っていただけだった藤山まろんは、席を立ったあと何かを思わせるような素振りを水木に見せつけた後に部屋をあとにした。残念ながら当の本人である水木は、それに一切気づくことなく部屋をあとにしたのだが。

「今日で3年目、ねえ。そりゃ当時は大騒ぎだったよねー」
「青森がなくなった……だったっけ」
「そうそうれお子のそれ。ずーっとひっきりなしにテレビはそればっかり。ほんとに突然だったから仕方ないんだろうけどさ。今にして思えば、あれ報道に熱が入り過ぎてやばいと思うのよ、いやほんとに」

 そうやってヒナタとれお子、そして後ろからアスカが加わり、3人で青森大火災当時のことを思い出していた。あれだけ巨大な火災だったし、なによりもひとつの県がもろともなくなった、というのはありえないことであったわけで。実際の映像がテレビでひっきりなしに流れてようやく、人々は現実なのだと受け入れることができたのもあるのだろう。にしてもやり過ぎな部分があったのは否めないが。

「かろうじて生き残った人たちにさー、言っちゃ悪いけど『ねえどんな気持ち?ねえねえ今どんな気持ち?』ってやったらだめでしょ…しかも亡くなった人たちへ一言お願いします、じゃないよほんとさあ」
「水木は受けてなかった分、そのニュース見てしばらく手がつけられなかった」
「うん、すごかったよねえ。時雨くんでさえ近づけなかったし」

 何もかもをなくした水木にとって、そのような報道はただ彼の傷をえぐるだけ。彼の荒れ様を思い起こすのは容易いことだ。

「にしても急だねえ。今日もう出撃って早くない?」
「いつもの指揮官は3日くらい間を置いていた。たしかに早い」
「だよねー」

 そうしてしばらく歩いていると、向こうから人影が2つ、こちらへと歩いてくるのが見えた。それはこちらにはどうやら気づいてはいないようであったが、アスカはその2つの人影に対していつものように挨拶をする。

「あっ、こんにちは〜」
「こんにちは〜。ほらナナシちゃんもご挨拶〜!」
「……っす」

 ナナシと呼ばれた少女は、もう片方の少女に言われると、声は小さかったもののちゃんと挨拶らしき挨拶をする。れお子はその2人を見てすぐに口に出す。

「……この子達、『ななよし』?」
「ななよし?えーっと……ああ!ななよしかあこの子達!」
「な、ななよし?なにそれ?」

 ななよし。その言葉にはたと気づいてアスカは手を叩く。だがヒナタだけは何もわからなかった模様で、アスカは彼女に対し説明する。

「えっと、確か『ナナシと善佳』で、『ななよし』だよヒナタさん」
「ちょっとまってよくわかんない」
「……ナナシって子と、善佳って子がいっつもいるからついたあだ名が『ななよし』」
「あ、そういう意味?」

 ようやく解せたようで、ヒナタはアスカと同じように手を叩く。そしてななよしと呼ばれた2人組をまじまじと見つめる。

「仲良いんだねー」
「もっちろん!」
「どこがだ」
「でもななよし、この前謹慎処分出されたって聞いたけど」
「外に出なければいいんだよ〜今から娯楽室行くの」
「そうだったんだ、私達も行く?れお子さんヒナタさん」
「そんならアタシも行く!れお子?」
「本読みたいから、あとで」

 それだけれお子は伝えると、2人に挨拶をしたあと図書室へと向かっていった。一刻でも早く安息の地へ向かいたかったのだろうか。自然と足が早くなっていく。

「……」

 れお子はなぜだか、胸騒ぎが起こったのに知らないふりをするように、家とも呼べる図書室へと急いだ。





「………ねえ、青森のあの火災のこと。覚えてる?



─────『カナム』。」




続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.20 )

日時: 2018/10/07 22:34
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 旧青森県。あたりはまっさらで、ところどころ焼け焦げたあとが未だに残っている。さすがにやけた匂いはもう残ってはいなかったが、それらしき痕跡は痛々しいほどに残っている。目の前に、見せつけてくるように。
 その地に降り立つのはチームケイオスの面々。今回は2手に別れ、それぞれを見回る。視界を遮るものなど何もないからか、随分と見晴らしがよく、それなりに安心感はあった。とはいっても、足元の問題があるので油断はできないのだが。

「ここは最初に燃えたとされる場所だ。未だ人骨が発見されるな」

 2手に別れた中の、流星が率いるグループは、大火災における出火元だとされる場所に来ていた。その中には川上水木の顔もあったが、表情は固いままだった。流星は水木に向け、声をかける。

「川上水木。お前が『カナム』を見つけたのは、ここの近くだったんだな」
「はい。そうです。僕は逃げている途中で、この近くで『カナム』見つけました」

 ぐっと拳を握りしめる。その様子に流星は構うことなく、あたりを調べ始める。水木の隣りに居た柚子は、彼の背中をぽんと叩いてやり、血が出そうなほど力を込めていた拳を緩めさせる。そしてふっと笑いかけると、僕達も少し調べよっか、と水木を別の場所へと連れて行く。残った弥里は流星にくっつき、地中などから出てきたものに、興味本位で薬剤をふりかけていく。

「『カナム』ちゃんはまだ寝てる?」
「はい……今日も反応はないです」
「そっか。『カナム』ちゃん、まだ起きないか」
「そもそも起きているところを見たことがないです。気がついたらいたし、気がついたら寝ていました。それに長い間、親族をたらい回しにされてたみたいで…」

 そこまで言うと水木は黙る。柚子もそれ以上の詮索は無用だと判断したのか、改めて周りを調べ始める。
 ───『カナム』。それは水木が青森大火災の時に、命からがら救い出した少女のことである。本名、年齢、過去経歴は一切謎。水木でさえ、『カナム』という名前と、ずっと目を覚まさないということだけしか知らない。いつからかはわからないが、『カナム』は寝たまま目を覚まさない。それどころか、目を開けて起きたことすらないのだ。最もそれは水木が彼女を知ってからのことであるが。ともかく、彼女はずっと目を覚まさず眠り続けている。いつ目を覚ますのかはわからない。そもそも目を覚ますのかすらわからない。
 現在彼女はマグノリアの地下施設にて保護されている。彼女専用の機材───というかカプセル───で、眠り続けている。何にも邪魔されることなく、何の妨げも許すことなく。なお、彼女のことを知っているのはチームケイオスの面々と、医療部長の那生、そしてリーダーである狂示のみだ。他は存在すらも周知されていない。時雨でさえも。

「───3年間。長かった?」
「いえ。とても短いものです。まだ3年目なんだな、としか思えません。未だに引きずってます。『なんであの時、もっと前に発現していれば』って、ずっと思ってます。ほんと、なんでですかね。柚子さん」

 そういった水木の目はけっしてきれいなものではなかった。どす黒く淀んて、その先の暗闇は恐怖心を煽らせるほど。口元は固く真っ直ぐに結ばれ、ただ何かをもらいたげに、柚子の方へと向かれていた。柚子はそんな水木に引きつつも、笑顔を崩さない。崩さずに口を開く。

「────僕は、何でもわかる神様じゃないよ」

 それだけいうと、さあ調査を続けようか、と話題を切って顔を逸らした。彼の項には嫌な冷たい汗が流れる。
 ほしい答えが来なかったのか、その柚子を少しにらむと、水木は同じように調査に戻った。

「(わあすっごい不穏。水木くん、そんなんじゃ助けられるものも助けられないよ。逆にそんなんじゃすぐ殺しそう。君絶対意図せず殺すたち悪いタイプだよね)」

 ただひとり。弥里だけは水木を見てそう思った。





「そっちなんか見つかった?れお子さん」
「何もない」

 一方変わって別のグループ。こちらではれお子、アスカ、ヒナタ、百合、まろんがあたりの調査を行っていた。だが新しく見つかったものなどは見られず、どれだけ調べてみてもハズレばかり。そうかんたんには行かないようだ。あったとしても放置されている人骨くらいで。流石に黙祷は捧げたが、ちょっと危険な気がする。

「まさかここまで人骨が放置されてるとはね」
「予想外、だった」
「それほど大規模だったのよ、この火災は」
「実際水木くんもその火災にあって、消えない火傷痕をつけちゃったらしいし、ああそういえばフォルテも───」

 ヒナタが何かを言いかけたとき、場の空気はピタリと固まる。ヒナタもあっという顔をして、手に口元を当てる。この場に水木本人がいなかったことが幸いだった、というようなことをれお子が言うと、ごめんと一言ヒナタが謝る。

「この話は軽率に出しちゃいけなかったやつよね。ごめんほんと」
「まあまあ彼本人がいないから、まだ良いでしょう。尤も、良い話でないのは確かだわ」

 百合はそう言うと、空を見上げて目を細める。嫌に良い天気ね。そうつぶやいてみせた。

「だいかさい、だいかさい?あおもりあおもーりー、まろんわかんないわかんないっ」
「ああ、そうだね。『今の』まろんちゃんにその『記憶』は共有されてないかあ」
「まろんはまろん、あなただあれ?わたしだあれ?わたしまろん?まろんだあれ?まろまろまろーんけらけらけらりん」
「うーん、これ別の『人格(おもかげ)』にして来たほうが良かったんじゃ」

 ───フォルテ、『人格(おもかげ)』。藤山まろんのフォルテであり、藤山まろんを『藤山まろんたらしめている』そのもの。かんたんに言えば多重人格、というやつだろうか。人格、姿形、声をもろとも『全く別のもの』へと変えるフォルテ。ただこのフォルテは限度はなく、ころころとしょっちゅう人格(おもかげ)が変わってしまう。本人の意思があったとしても、なかったとしても。だから、そこにいる『藤山まろん』が果たして『藤山まろん』であるかどうかすら、確かめるすべはないのである。もしかしたらもとから、『藤山まろん』など『存在しなかった』のかもしれないのだから。
 だから彼または彼女に、青森大火災の記憶は『ひとつを除いて』存在しない。記憶は共有されないのだから。

「まあまろんちゃんのことはアタシが抑えるからいいとして。とりあえずアタシたちは周りを警戒して、調査を再開しましょう。グローリアがここに来ないとは限らないんだから」
「はーい」

 その一言で各々また調査し始めた。何が見つかるとかは、次の瞬間の自分たちにしかわからない。





『なんで…なんでいま!』

 少年は絶望した。力が目覚めたのは何もかも手遅れになったあとだった。

『今になってこんなのがでるなんて……』

 少年は折れた。その力は手遅れになった自分をあざ笑っているかのようだった。

『こんなの……こんなの……こんなのぉ!!』

 少年は自らの手の周りに現れた『水球』を、自らの手で破壊した。


水球は少年の頭を濡らしただけだった。



続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.21 )

日時: 2018/11/28 20:37
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「そういや」
「どないしたん狂示」

 マグノリア医療室。たまたま遊びに来ていた狂示と那生は、互いに菓子をつまみながら昔話やらなんやらに花を咲かせていた。その中で唐突に、狂示は何かを思い出したようで、ぼそりと零す。那生はもう何個目かもわからない菓子に手を出し、狂示に声をかける。狂示は食べかけの菓子を一口で頬張りいくらか咀嚼し飲み込むと、茶を飲んで話を始める。

「いや、チームケイオスのメンバー。『2人』たんねーなと思ってな」
「2人ィ?誰と誰や?」
「ホレ。あの『魔法使いと弟子』」
「んんー……あぁ、せやな。どこいっとるんやろか」

 狂示と那生はまた思い出話を始める。それはマグノリアが今のような形になる前。そして今の形になってから。マグノリアにふらりと戻ってくる、『流れの魔法使いとその弟子』の話。
 チームケイオスで流星と同じくらいの歴で、特定の場所に居着かない。ふらりとやってきては窮地を救い、あるとき突然姿を消す魔法使い。そしてその魔法使いのそばを離れず、魔法とは似ても似つかないフォルテを使う、20に満たぬ弟子。

「今度はいつ戻ってくることやら」
「案外近かったりしてなぁ」

 狂示と那生はにやりと互いに笑うと、ひとつだけ残った菓子に同時に手を伸ばした。





 雲行きがだんだんと怪しくなってきた、燃え尽きた青森県にて。チームケイオスの面々は変わらず、周辺の調査を進めては居たが、特にこれといった発見はなく。すべてが徒労に終わりそうであった。現に、流星は顔にこそ出さぬものの、目は諦めが混じっている。他のメンバーも、もうめんどくさくなってきた、というのが本音だろう。絶対に声には出さないが。
 そのほんの数分後、別行動をしていたヒナタ達が、疲れた顔をして流星達のもとへ戻ってきた。

「しきかーん、こっちにはもう何もなかったですよー」
「保瀬ヒナタ。そちらは終わったのか」
「ええ、ええ。なーんにもなかったです。というかこの調査やって意味あります?こんだけ燃え尽きて何もないのに」
「『何もない』のを『確かめる』。それも立派な調査だ」

 流星はしれっとそう言うが、ヒナタは訝しげな顔をしてあたりを見回す。
 本当に何もない。建物と呼べるものは、殆どが燃え尽きてしまい、視界の邪魔となるものはないと言っていいほどだ。やはり調べても何も出てこなさそうだ。強いて言えば、雨が振りそうだなあとか、グローリア来たりしてなあ、とか。

「(わざわざ青森大火災の日に、水木くんのトラウマえぐるようなことしなくてもいいと思うんだけど)」

 ヒナタはちらりと水木を見る。当の水木は癒えない傷に塩を塗りこまれたかのように、顔には疲労と別の何か───例えるなら絶望───の色が、複雑に混ざり合っている。手は止まってどこでもない虚空を見つめ続けているだけ。隣の柚子はそもそも作業に飽きているため、全く別のことをしていた。とは言っても体育座りで寝ているだけなのだが。

「(水木くん大丈夫かな、隣の柚子はスルーしておくとして)」

 ヒナタは水木に近づき、声をかける。

「水木くん疲れた?」
「……あ、いえ。ちょっと考え事を」
「そっか」

 それ以降会話は続かなかった。それ以上踏み込むのは良しとしなかったのか、タネが見つからなかったのか。ヒナタと水木は互いに虚空を見つめる。やることがないから。飽きたから。
 その様子を弥里はじっと見ていた。面白そうとか、そういう理由ではなく、単に気になって。弥里はじっと2人を見続ける。ちょっかいを出してやろう、少し話しかけてみよう。そんなことは思うはずもなく、弥里はしばらくしたあとに注射器を懐から取り出し、そーっと水木の方へと近づいていく。音もなく、そーっとそーっと。───だが。

「やんないけどねー」
「えっ?」

 ぼそっと言ったあと、水木が咄嗟に振り向いたため、弥里は手にしていた注射器をすぐさま懐へとしまった。そしてニッコリ笑うと、水木の肩をがしりとつかむ。

「もうすぐ帰る時間だから、帰ったらヒロポン打とうね」
「嫌ですよ!?」

 ケラケラケラと弥里は笑うと、水木の方から手を外してもとの場所へと戻っていく。残された水木は何がしたかったんだとこぼしつつ、その場にまた座り込んで、何をするわけでもなく暇を持て余していた。
 弥里の方はというと、一瞬真顔になったかと思うと、すぐさまニッコリとした笑顔に戻り、流星の隣へと戻る。

「(なんだ、元気よく返事できるならまだいい方じゃん)」

 ヒロポンは打たなくていいかな?なんてことを思いながら、やることもないのであたりをぐるりと見回す。いやほんとに何もないなあ、まさか故郷がここまで燃えるとは思わなかった。なんて他人事なことを思う。

「きれいに燃え尽きたなー」
「…ああ、お前も青森出身だったな」
「えーまー。尤も大火災起こる前に上京してたんで、どうでも良かったんですけど」
「懐かしいな、あの頃のお前は見るに耐えない姿だった」
「ちょっともー懐かしすぎるからやめてくださいってば〜!」

 流星の背中をバシバシと遠慮なく叩く弥里。その顔には明らかに、『掘り起こすのやめろ』と書いてあった。顔こそ笑顔ではあったが、それが逆に恐ろしい。周りは青ざめた顔でそちらを見ている。

「背中が痒くなるからやめろ」
「はぁい。んでそろそろ帰る時間じゃないです〜?雨も振りそうですしぃ」
「……そうだな。特にこれといった発見もなかったしな。これではただ来て荒らしただけになってしまったが」
「ほんと何しにきたんですかね」

 全員の顔には披露の文字が浮かんでいる。結果は何もなかった、得られたものはそれだけだった。これ以上ここにいても無駄だろう。

「さて、帰るとするか。本部に通信……?」

 流星が帰還しようとして、インカムをつけて通信をつけようとした。が、流星はあとに続くであろう言葉を発さなかった。何かあったのだろうか。

「指揮官?早く帰りましょ?」
「……おかしい。繋がらん」
「へっ?」
「何度も通信をかけてはいるんだが……応答がない。完全に繋がってない」

 そして次の瞬間、れお子が何かに気づき、大声を上げた。

「全員伏せろッ!!」

 刹那、鼓膜に響くのは爆発音。爆風がチームケイオスを襲い、音は衝撃波となってやってくる。辛うじてヒナタが体の一部を『盾』に変化させ、ある程度の被害は防げた。煙は濃く、各々は口元と鼻を手で覆い、誤ってその煙を吸わないようにする。
 ようやく煙が晴れてきた頃、ヒナタは変化を解除し、その爆発音がした方向へ顔を向ける。

「ッ、皆戦闘準備!」

 そこには、『グローリア』の紋章である『槍と剣』が描かれている旗が立っていた。周りには、それらしき人物が数人ほど。そしてこちらへ向けて、銃口のようなものを向けている。明らかにこちらに明確な敵意を持っていることが伺える。その背後には、フォルテッシモの姿も何機か確認された。確実に、こちらがマグノリアであることを分かっている。もしわかっていなければ、無闇矢鱈に武器は構えないし、そもそもフォルテッシモなど持ってこない。
 チームケイオスの面々は、一同にそれぞれの武器を構える。あるものは銃、あるものは刀、あるものは鞭、あるものは注射器。

「通信が繋がらないのは奴らのせいですかね、指揮官」
「十中八九そうだろう。『周囲転換』もなされているからな」
「もっと警戒しておくべきだったわね。いくら燃え尽きた青森県とはいえ、ここにグローリアが来ないという保証はないわけだから…」

 そう言って百合は憂鬱だわ、とため息をつきながら鞭を振るう。その瞳にはかすかな怒りが生まれている。

「───チームケイオス、緊急事態。グローリア襲撃アリ。これより我々は迎撃を行う。総員、戦闘を開始する」



『我々は、混沌であり狂気である』






「───お師匠。何やらめんどくさそうなことになってるけど」
「そんなにめんどくさそうかな?まあ、だけどまだだめだよ」
「何がですか?」


「───奇跡は、突然くるものさ」


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.22 )

日時: 2018/11/28 20:38
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「んえ?」

 マグノリア医療部。そこで暇を持て余し、ベッドの上をゴロゴロとしていた御代は、突然開けられた部屋の扉へ目を向ける。そこに立っているのは、見間違えようがなく、リーダーの狂示であった。狂示はニヤニヤと何やら楽しげに、御代のもとへやってくる。うわ何だ気持ち悪い、何考えてんだ。
 狂示はクックックと笑いながら、御代に話しかける。

「喜べモーニングマウンテン。お前今から絶対安静撤回」
「はぁ?」
「なんでだと思う?」
「知らねーしわかるわけねーうぇい」
「だよなー!」

 どっと大きく笑うと、狂示は親指をぐっと立ててみせる。なんの意味があるんだそのポーズは、と思ってみるが、口に出すのはやめておく。絶対面倒くさいことになるから。御代は訝しげな目で狂示の次の言葉を待つ。

「青森でチームケイオスが戦闘に入った。グローリアの連中が嗅ぎつけたみてぇだ。つーわけでお前開放。早く行ってさっさと抑えてこい」
「いきなりうぇいね?」
「数は多けりゃいいだろ。ほれ行ってこい。どーせ暇してたんだろ?」

 さもねーと流星にお前が病室から脱走したってチクんぞ〜と、随分と楽しげに狂示は言う。どうしてこんなにも楽しそうに言うのだろうか。単に面白いのか、別の理由があるのか、そもそも頭がおかしいのか。考えれば選択肢はごまんとあるのだろうが、面倒くさくなってやめた。これ以上考えても無駄なだけだ。
 御代は背伸びをして体をほぐす。たった1日だけだが動かしていなかったためか、バキバキと音がなる。確かに暇はしていた。やることがないし、娯楽室に行こうにも、絶対安静を言渡されているために行きづらかった。だからベッドの上でゴロゴロするしかなかったのだが、正直飽きた。ならばこの狂示のこの誘い、乗らないわけには行かない。とにかく体を動かしたかった。

「よしっ、行ってくるうぇい!」

 ベッドから飛び降りると、御代は一目散に部屋から飛び出し、出撃室へと向かっていった。
 その後ろ姿を狂示は元気でいいねえと見送ると、懐からタバコの箱を取り出し、1本取って火をつけると、途端に顔つきを変える。

「……さてと。俺は『調べ物』をしとくか」

 タバコの煙は、ゆらりゆらりと不審に揺れる。





 先に仕掛けるはヒナタ。まずは腰に下げていたガンホルターからハンドガンを出して構え、誰に当てるでもなくひとつ弾丸を放つ。弾丸は狙ったとおりに、誰にも当たらず一定の距離まで行くとゆるゆると地に落ちる。それに続くように百合と柚子が動く。相対するグローリアの構成員も、彼らに向かってやってくる。百合と柚子、構成員数人がチリッと近づくと、百合の鞭、柚子の『指鉄砲』が相手側より早く動いた。

「───『君を、撃ちます。』」

 柚子の透明な声が響き渡ると、銃を撃つ真似事のように、指で作った鉄砲を上に上げる。するとその指鉄砲の先にいた構成員の1人の丁度胸のあたりが、見事に派手な音を立てて穴を開けた。『何も貫いていないにもかかわらず』。構成員は糸が切れたように地に伏せた。
 フォルテ、『ガン・ショット』。手を鉄砲のような形に作り、対象者にむけて『君を、撃ちます。』と言いながら銃を撃つ真似をすると、その相手を確実に撃ち抜けるというもの。弾丸も何も残らない、『何かと』便利なフォルテだ。
 柚子が相手を撃ち抜いた次の瞬間、横から百合の鞭が向かってきた残りの構成員を縛り上げる。そしてそのまま空中へ高く放りなげたと思えば、後ろから水木が手をそちらへ掲げ、念を込める。すると構成員はたちまち、どこからともなく現れた水球によって閉じ込められる。
 フォルテ、『水沫(みなわ)』。水場のない場所でも、水球を作り出せるフォルテ。その水球を大きく作れば、人をその中へ閉じ込めることもできる。勿論その中に閉じ込められた人間は、呼吸もできずに時間がくれば溺死、または窒息死する。そしてその水球をはじけさせ、大規模な火事を消すことだってできる。だから、だから。水木はこのフォルテが嫌いだった。何よりも嫌いだった。

「……あの時、これが発現してさえいれば」

 故郷は焼かれずに済んだのかもしれないのに。





 時は遡ること3年前。青森大火災。当時の水木は、眠り続ける『カナム』をやっとの思いで救出し、とにかく火のない安全な場所へと避難を急いでいた。その間、何度も何度も見た。人々が火に呑まれ、焼かれてもがき苦しんでいくさまを。その中には友人もいた、親戚もいた。そして、自らの親もいた。水木の両親は彼を逃し、言った。『お前だけでも生きろ』と。その直後に両親は火のるつぼとなった、かつての家に呑まれていった。最後に聞こえたのは、絶叫だった。

『────カナム、だけでも』

 彼はひたすらに逃れた。火の魔が及ばない、遠い遠い場所へと逃れた。カナムも連れて逃れた。水木は必死に逃れた。ただただ生きるために。死なないために。
 しばらくしないうちに火の手はもう来ない場所まで来たようだった。遠くに見えるは焼かれゆくかつての故郷。その場所に、友人も、両親もいる。手を付けられないほどに火の手が広まっている。水木は茫洋と故郷を見つめることしかできなかった。
 そんなときだった。

『え───』

 自らの手から、小さな水球が生まれていた。尽きることはなく、ポコポコと。それは水球どうしてくっつき、次第に大きくなっていく。やがてあれだけ小さかった水球たちは、ひとをひとり包み込めるくらいの大きさにまで膨らんでいた。そしてはじけた。はじけたそれは確かに『水』だった。間違えることなく、水木を水浸しにしたのだから。
 水木は己の手をまた見る。コポコポと再び水球が生まれる。水球どうしがくっつき、大きくなる。
 その意味を『全て理解した瞬間』、彼は絶望し、絶叫を上げる。


『ッあああああああああああああああ──────!!』


 その叫びはどこまでもこだましたが、彼を包み込むものは、憎らしく膨れ上がった水球しかなかった。





「……」

 ギリ、と奥歯を噛みしめる水木。自然と握り拳に力が入る。形相も怒りへと変わっていく。生み出される水球も数をだんだんと増やしていく。許さない。何を?過去の自分自身を。『フォルテが発現した過去の自分自身を』。あの日から彼は笑うことをやめた。夢を追うこともやめた。甘えることも、休むこともやめた。これも全て、許せないから。許さないから。

「許さない……」

 ついこぼれてしまうその一言に、水球はますます数を増やしていく。目障りなくらいに膨れ上がった水球も増えていく。すでに閉じ込めた構成員は、足をジタバタとさせ、もがき苦しんでいる。せいぜい苦しめばいい。せいぜい苦しんで死ねばいい。お前たちも許さない。水木は強く強く思う。

「死ね────ッ!」

 水球を空高く浮かばせ、更に高い場所でそれを弾けさせると、構成員を地に落とした。その瞬間、飛び散る脳漿。もはや人の形を保っていない。見るにたえないものがあたりに飛び散っている。

「水木くぅん、ちょっとやり過ぎだよ〜後処理大変じゃ〜ん?」
「……弥里さん」
「でもお、グッジョブ〜!後でご褒美にヒロポンあげるよ」
「お断りします」
「えぇ〜」

 それを後ろから見ていた弥里が水木に近づき、声をかける。水木は面倒なのに声をかけられた、と思いつつもしっかりと受け答えをする。もちろんヒロポンはきっちり断らせてもらった。そんなのは勘弁願いたい。たとえ死んだとしてもだ。

「それじゃあしばらく休んだら?ちょっと顔色悪いよ、怖い」
「はっきりいいますねえ…まあ、流石に言葉通り、休ませてもらいます」

 水木は一気にドシャっとその場に座り込む。彼のフォルテは維持をするのに、かなりの集中力と精神力、そして体力を必要とする。あれだけのことをやったのだ、水木の体は疲労がずっしりと乗っかっていた。
 それの前に出るように、弥里はやたらと大きい注射器を構える。中身はなにやら不健康そうな色をした薬品か何かが入っている。十中八九、というより確実に人体には有害なものが詰まっているだろう。

「今度は弥里ちゃんの出番っ、お薬の時間ですよぅ?」

 そう言いつつ、弥里は別の注射器を取り出し、自らの首にそれを打ち込んだ。





「お、来たみたい」
「びゃーっと登場うぇいっ!」
「ストップあさみよ。何かまだ出ちゃだめだってさ」
「へ?だめうぇい?」
「うん。お師匠がまだって。何のことか知らないけど」
「な、なんでっ?」 


「だって私は流れの魔法使い。姿を現すなら、それはもう奇跡。奇跡は突然くるものだからね」


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.23 )

日時: 2018/11/28 20:40
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 水木が数人を倒したことにより、チームケイオスは一気に連中との距離を詰める。詰めている最中にやってくる攻撃の数々は見事に、百合の鞭さばきで弾き返した。フォルテを使ったことにより、疲弊した水木は弥里の背によって守られる。水木を狙い、やってくる連中の攻撃も、弥里が防ぎ切る。少々危なっかしいところはあったものの、おかげで水木は無傷だ。弥里が渡したミネラルウォーターを少しずつのみ、消耗した体を癒やす。
 彼のフォルテは水を使う。フォルテを長い時間使ったり、また短時間でかなりの力を使うと、体中から水分が抜け落ちて行く。単にフォルテを使ったことによる体力的、精神的疲労もくるが、彼の場合はそれもあるため、休むときにはミネラルウォーターが欠かせない。多少なりとも、疲労回復はしてくれる。何かと楽な身体だな。水木は思う。
 距離を詰めたらやることは一つ。グローリアの連中を徹底的に叩き潰すだけ。否、距離を詰めなくともそうだと決まっている。残りの連中の1人に、まずヒナタが手をナイフに変えて切りかかる。動きを読まれていたのか、すぐにかわされてしまうが、それでもナイフの切っ先には血がついていた。かすり傷程度は負わせられたようである。
 ───フォルテ『銃刃変化』(じゅうじんへんげ)。体の一部を銃やナイフといった武器に変えることができるというもの。ただしそれには制限があり、『一度自らの目で見たことがあるもの、及び触れたことがあるもの』にしか、変化させることはできない。もしそうでなければ、あやふやな変化となってしまい、とてもじゃないが武器とは呼べるものではなくなってしまう。
 だからだろうか。ヒナタは服のそこかしこに武器を隠し持っている。種類は問わない。ただ『変化できる武器』であれば、かたっぱしから用意しているようだ。

「後ろに引いたって無駄だかんねっ!」

 すぐにヒナタはナイフから銃へと手を変化させ、一発鉛玉を撃つ。急所には当たらなかったが、ちょうど右肩のあたりに食らわすことはできたので良しとする。体に当てるより肩に当てる方が難しいと聞いた。あくまで聞いただけだが。だが相手もやられっぱなしではない。すぐにその傷はある1人の手によって塞がれてしまう。気がつけば水木が倒した───正確には『殺した』だが───奴らが、その1人の手によって回復していき、完全復活してしまう。どうやらかなり強い回復の力を持つフォルトゥナらしい。先程から傷を追わせた者に対し、ずっと回復をし続けている。その傷は完全に塞がれ、むしろ傷を負う前より良くなっていると言っていいほど。ならばそいつから倒すだけ。いち早く動いたのはれお子だった。
 れお子は仁王立ちになると、一気にポーズを決める。そして高らかに叫んだ。


「『英雄顕現(ヒーロー・ネクスト)』!!」


 その瞬間眩い爆発とともに、れお子の周りを虹色の光が包み込む。まるで特撮や子供向けの変身ヒーローのアニメを見ているかのような気分になる。
 れお子の服は地味なものから、ところどころに可愛らしい装飾のついた少し派手目なものへと変わっていく。髪の毛もいつものロングストレートから、サイドテールへと様変わりし、メイクもされていく。そして最後に手を叩けば、その手に手袋がはめられ、虹色の光が晴れる。
 そこに現れたれお子はもはや、いうなれば───そう、女児が一度は夢見たであろう『プリティでキュアキュア』な戦士。

「この私が成敗するッ!ハァッ!」

 その言葉とともに、れお子の強烈な蹴りが、回復薬のグローリアの人間の顔面にキレイに入る。蹴りを入れられたその者は、もろに食らったためか遠くへと吹き飛んだ。れお子は攻撃の手を緩めず、今度は強烈な拳を、近くにいた別のグローリアの人間のちょうど腹のあたりに叩き込む。叩き込まれたことによって相手の体制が崩れたので、そのまま後ろに回り、かかとを項のあたりに落とす。そのままその者は地に伏せ、動かなくなった。
 ───フォルテ『英雄顕現(ヒーロー・ネクスト)』。自身の思い描いた英雄像に変身するというもの。思い描いた英雄像が強く、そして固いものであればあるほど、その英雄に転身したときの力は計り知れないほど強くなる。逆に、英雄像が定まらず、転身するたびに姿が変わると、人より頭抜けて強い程度にしかならない。強い英雄像を描くには、確固たる心の思い、そして心の強さが必要になっていく。
 だがいまのれお子は、自身の思い描く英雄像は定まっておらず、自分自身にとっての『ヒーロー』が、まだはっきりと掴めていない状況にある。だからなのか。今彼女は『女児にとってのヒーロー』に変身しているが、本当に追い求めているのは『仮面のヒーロー』であり、変身しているものからは程遠い。だけどこのヒーローも好きだ、なりたい。そのあやふやさが、時として刃となる。
 それがいつ来るのかはわからない。けど今は、こうしてやってきたグローリアの連中を叩き潰すだけ。それ以外に戦う理由はない。たとえどんなヒーローになったとしても、その力をふるうのみ。
 その隣ではアスカが蘇ったグローリアの人間の1人に対し、攻撃を仕掛ける。ヒナタから借りたナイフを投擲し、更には懐に隠していた針も投擲する。大してダメージにはならなかったものの、そのものをよろけさせるには十分なものだった。いっきに距離を詰め、アスカは口元をゆっくりと上げて、目を細める。笑顔のように見えるが、その目は全く笑っちゃいなかった。

「ねえ、貴方。『どうして生きてるの?』」

 ゾッと言うような音が聞こえる気がする。アスカの口から紡がれた言葉は、たしかに相手の心に入り込む。そこからじわじわと、言葉は心を侵食する。アスカは変わらない笑顔で、問いかける。

「ねえ、『教えて?』」

 甘く、それでいて気味の悪い言葉は、じとじとと心を蝕む。入り込まれた場所から、腐って融けていくみたいだ。気がつけばその者は目尻に涙をため、口から唾液が垂れ流しになる。足はガクガク震え、まるで生まれたての子鹿のようだった。漏れでる声は、もはや言葉としての機能を為してはいない。喃語をひっきりなしに出していく。その間もアスカの『それ』は続いていく。教えて?教えて?と問うているだけなのに、相手はどんどん壊れていく。目はあらぬ方向を向き、ぷらんと手は垂れ下がり、しまいにはどしゃりと地に落ちる。それを見て、アスカはにっこりと微笑み

「おばかさん」

とだけ吐きすてた。
 何が起きたのかわからないこのフォルテ───『Tell me?』は、彼女が『知りたい』と思った相手にのみ効果を発揮する。彼女が『知りたい』と思った人間に、『知りたいこと』をただ『教えて』と乞う。ただそれだけのフォルテだが、実はその人物を内側からどんどん壊していく恐ろしいものだ。ただ教えてほしいと言い続けるだけ。『たったそれだけ』で、相手は心を蝕まれ、それはやがて表立って出てくる。先程のように。彼女は相手がどんな状況になろうが、ただ教えてと乞う。問い続ける。本当にそれだけ。

「えげつないなあ、アスカちゃん」
「それは貴方もでしょ、柚子くん」
「あはは。それほどじゃあ」
「でも本当にえげつないのは」
「……うん、彼女だよねえ」

 アスカと後からやってきた柚子は互いにある一方を見る。その視線の先には水木を庇いながら戦い続ける弥里の姿。なのだが、何やら様子がおかしい。よくよく見れば、妙な液体が入った注射器を、自らの首に差し込んで注入している。一瞬だけ見せられないような恍惚の表情をしたかと思えばすぐに治り、その同じ液体が入った注射器を、グローリアの連中の首元にどんどん刺していく。刺されて注入された者達は、所謂『ラリ』った状態になり、ひとしきり奇声を上げたあとに、血を吹き出して地に落ちる。その様子を見て、弥里はケタケタと笑いながら人間だったものを、つんつんとつつく。もちろん、指ではなく注射器の針で。後ろから見ていた水木の顔は、青ざめるとか、恐怖とか言ったものではなく、『ドン引き』の表情であった。

「まあ、ああなるよね」
「そりゃね」

 アスカと柚子はため息をついて、背後から襲ってくるグローリアの人間の攻撃を軽くのし、踏みつけたあとに戻ろっか、と一言つぶやいてもとの場所へ行こうとする。

「……ふ、ふふふ。バカめ、バカどもが。本当にバカどもが。我々とこんなふうに遊んでいる暇があるのなら、さっさと殺していればいいものをッ!」

 突然、柚子が踏みつけた場所から、そんな悪あがきのような声が聞こえたと思ったら、地面が揺れ動き始めた。あまりにも突然のことだったので、アスカと柚子はバランスを崩し、尻餅をついてしまう。周りもそんな状況だったようで、何が起きたんだという顔がほとんど。そんな中ひときわ大きく音がなる場所があった。そこに顔をバッと向けると、視界いっぱいに広がったのは、瓦礫の山々が自ら動いて形となっていく様。それらはやがてしっかりとした輪郭をとり、はっきりと形になる。
 それはまるで『フォルテッシモ』。瓦礫で作られたフォルテッシモだ。ただ普段見ているものより、かなり大きなサイズのものだ。
 そういえば奴ら、こちらを襲うにしてはなんだか力加減をされているようだった。なんどやっても回復してくる、なんどやっても殺そうという気が見えない。長期戦に持ち込むつもりかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

「……はじめからこれ狙いか」

 流星はぽつりとつぶやく。だが、それに返すものはいなかった。すでにグローリアはその場から消え去っていた。十中八九グローリアの支部や本部へと帰ったのだろう。この『瓦礫フォルテッシモ』を残して。殺しの汚名を自らかぶらず、そこら辺のもので適当に作った何かによって、殺させる。それがいい策なのか汚いのかはさておいて。少しは頭が回るようだ。

「指揮官、どうします?」
「相手するにしても、このデカさは…」
「───大きさでとやかく言っていたら、何もならないだろうが。立ちふさがる敵は叩き潰すだけ。たったそれだけだ。いいな、チームケイオス」
「無茶苦茶言いますね!」

 まあでも仕方ないかなあ。最初に指示を求めたヒナタは、肩をがっくり落としてデカブツを見やる。この大きさ、たしかに叩き潰すだけならいいんだろうけど。周りに行く被害が尋常じゃなさそうだ。周りというのは建物や環境のことではなく、自分自身の周り。すなわちチームケイオスのメンバーたちのこと。もしこいつを倒せたとしても、瓦礫はガラガラと崩れ去り、我々を押しつぶして形を消していくだろう。そうなったら終わりだ。何がって人生が。

「やるしかないんですよねー」
「嫌なら帰ればいい」
「帰りませんよう」

 各々は自らの武器を構える。見据えるは、目の前の瓦礫で作り上げられたフォルテッシモもどきのみ。流星は刀を構え、ひとつながく息を吐き、少しの間を持って突っ込もうとした。
 その時である。



「────おっと、私達も参加いいかな?」



 突如として響く声。流星はピタリと動きを止め、ほかのメンバーたちも構えを少し解いてそちらを見る。そして視界に写った姿を見て、流星は目をカッと開く。

「やあ、久しぶりだね。『流星くん』」
「せんせ……指揮官。相変わらずすごい髪の毛ですね」

 流星はゆっくりと名前を紡ぐ。

「……竹澤吟子(たけざわぎんこ)、胡代翡翠(こしろひすい)?」
「ははは。フルネームじゃなくていいのに。変わらないなあ」


 あの時と変わらぬ姿で、『魔法使いと弟子』がやってきた。


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.24 )

日時: 2018/11/29 22:14
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「久方振り……だな」
「そんなに固くならなくていいじゃない。お互いマグノリア古参メンバーなんだし」

 ケラケラと笑って答える魔法使いこと、竹澤吟子。杖を軽く振り回し、作り上げられた巨大物体から落ちてくる瓦礫たちを弾く。その巨大物体───瓦礫フォルテッシモを見上げ、ひゅう、と口笛を鳴らす。

「いやあ壮観だね。よく作り上げたねえ、奴さん」
「お師匠、これもフォルテ?」
「十中八九そうだろうね弟子くん。でなきゃ作れないよこんなの。自分の重みで崩れてるはずさあ」

 弟子くんと呼ばれた、吟子の傍らにいた胡代翡翠は、皮付きのみかんを頬張りながら同じように瓦礫フォルテッシモを見る。その後ろからアスカが、皮付きのみかんまるごと食べると美味しいよね、と翡翠に歩み寄る。その翡翠はもぐもぐと食べながら、バッグから皮つきのみかんを取り出してアスカの口の中へと突っ込む。
 そびえる瓦礫フォルテッシモはとにかく巨大だった。だが足元は不安定で、いつそれごと倒れてきてしまうかと、ヒヤヒヤしてしまうほど。否、もうすぐ倒れてしまうだろうと、断言できるほどだ。流星はひたすらに頭を回転させる。どうやって被害を最小限に食い止めるか、どうやってこいつを倒すか。いくら周囲転換で空間が切り離されているとはいえ、もし仮にこいつを正攻法で倒したとしたら、大量に瓦礫は崩れ落ち、こちらへくる被害は甚大なものとなるだろう。
 突然の救援で、吟子と翡翠が来たとはいえ、吟子のフォルテではこいつの崩壊を食い止めるには限界があるし、翡翠に至っては戦闘向きでもなければ、サポート向きでもない。強いて言うならば手にしている巨大なフォークで何かを刺すことくらい。今の状態では全く戦うということは考えられない。どうする、どうするか。

「指揮官、正直にここは壊しちゃいましょう」

 不意に、背後から声がかかる。そちらを見ればそこに立っていたのは、他の誰でもない───

「……藤山まろん、何を考えている?」
「私達の名前はそうでしょうけど、『あたし』としての名前は『藤田浪漫(ふじたろまん)』ですよ。前にも言った気がしますけどー?」

 先程までの空気とは打って変わって、どこか知的な雰囲気を漂わせる彼女───藤山まろんの中の、『藤田浪漫』は、口角を少しだけ上げて、瓦礫フォルテッシモを指差す。

「だってあれ、壊す以外に何かあります?ないでしょ。そんでもって壊す方法が何か安全なのあるかって言ったら、それもないでしょ?フォルテでどうにか被害が行かないように〜なんて言ったってですよ、体力持たないでしょあんな大きさじゃあ───。だったら真正面からぶっ壊す。単純明快、これのどこに迷う選択肢があるんです」

 まろん、否浪漫は、多少の身振り手振りをつけながら、まるで物語を語るかのように言葉をつらねた。その笑顔の本心は読めず、まるで『こう言ったけど責任は取らないよ』とでも言いたげである。流星はその浪漫に眉をひそめはするが、それで終わる。

「とりあえず頭からブッ壊しましょうよ。それならまだ」
「……ああ、そうだな。チームケイオス、戦闘準備。対象は瓦礫巨大物体。破壊方法は───」

 ひと呼吸おいて、流星は言う。


「真正面から、やる」





「───青森でぇ?」
「せやで〜、ほいこれ」

 一方、マグノリア本部のリーダー室。突然ノックもなしにやってきた那生に、狂示はしかめっ面をうかべるものの、彼から報告された事項に、思わず間抜けな声を出して復唱してしまう。青森大火災後の調査に行ったものの、やけに帰りが遅かったので流星に連絡を取ろうかと思っていたところでのこの報告。まさか、焼け野原の青森でグローリアとの戦闘があるとは。狂示は思わず大きなため息をつく。おいおい勘弁してくれよ。と。

「んーとな、まずグローリアがきたやろ。そんでもって周囲転換してー、ドタバタ戦闘でー、んで今は向こうさん、瓦礫で作ったでっかいフォルテッシモ作って逃げおったみたいや。チームケイオスはそれの処理に取り掛かり中言うところやんなぁ」
「はァー……奴ら面倒なのに巻きこまれたもんだな」

 ため息をついて椅子に深く座り込む狂示。流星も行っているとはいえ、随分と大変そうだなあ、などと他人事のように思う。まあでもあいつのことだ。さくっと終わらせるだろう。特に心配することといえば、青森大火災が起きたこの日に、燃え尽きた生まれ故郷に調査しに行った水木のメンタルか。それとヒナタが必要以上に脱いでいないか、とか。
 ふと、狂示は『魔法使いと弟子』のことを思い出す。そして那生に、そうだそうだと言いながら話をふる。

「お吟と翡翠は今どこにいんだ?」
「へ?ワイにもわからんわァ?どないしたん」
「うーむ…」

 神妙な顔になって考えこむ。那生はその様子の幼馴染をどこか不審に思いつつも、何かあったのかと聞いてみる。

「……オレの思いこみなら、いいんだけどな」
「?」

 ───面白半分でその現場にいねえだろうな。
 乾いた笑いを浮かべながら思ってしまったそれは、今現在まさにそれが起こっているとは知る由もなかった。

「あ、そういや病室から御代はん消えとったんやけど、狂示ィ……?」
「おっとぉオレァ今急に耳が悪くなったみてえだ、けぇれけぇれ」





「とっどっけえええええッ!」

 ヒナタの腕はフォルテによって大砲へと変わり、狙いを定め、瓦礫フォルテッシモの頭を撃ち抜く。ものの見事に頭部は弾けたものの、瓦礫は重力に従って落ちてくることなく、空中に漂う。そしてまたたく間に逆再生するかのように、もとに戻っていた。

「うえ、回復機能付きぃ?」
「これもフォルテのようだねえ。かけられてるフォルテは、様子を見るに『維持』系、『再生』系、『人形作成』系かな?他にもありそうだけど、というか瓦礫フォルテッシモっていうより、まんまゴーレムみたいだ」
「木っ端微塵にやればいんじゃね?アヒャヒャ」
「弥里ちゃん簡単に言うよねえ!」
「だがそれでいい。木っ端微塵に、跡形も残さず粉砕する。それだけだ」

 言うやいなや、流星はまっすぐに瓦礫フォルテッシモ───ゴーレムといったほうが正しいだろうそれに飛んでいく。両手の中にある青く輝き、電流を迸らせる刀たちをゴーレムへ突きつける。触れるか触れないかのところで、電流はゴーレムへと襲いかかり、体を作っていた瓦礫たちはそれを避けるように重力に従い落ちていく。だがすぐにその瓦礫たちは『吸われるように』もとの位置へ戻り、修復されていく。

「指揮官、引いて!」

 直後流星の背後から、れお子の声が響く。その声に従い、流星はゴーレムを蹴って更に上へと避ける。瞬間れお子は強烈な蹴りをゴーレムへとぶつける。派手な音を立てて体を作り上げている瓦礫たちは、いとも簡単に崩れ去って行く。

「────!」

 その時、その場にいたチームケイオスの面々はある物を目にする。それは落ちていく瓦礫の隙間から見えたが、すぐにまた瓦礫に覆われ見えなくなっていく。流星とれお子は体勢を立て直し、ゴーレムを仰ぎ見る。若干動きは鈍くなったかと思ったが、気のせいだったようだ。

「今の、ひし形の水晶は……」

 それを見た百合は無意識に口を開く。その疑問に答えたのは柚子だった。

「───『コア』ってヤツ?」
「おおかたそのとおりなんだろうね。お師匠」
「そうだね弟子くん。さっきの、あれを中心として瓦礫が来たから」
「あれが中心としたら、そのコアを叩けばいいってこと?」
「───恐らくは、そうだろう」

 各々はゴーレムのコアらしきものがあるであろう場所を睨む。ゴーレムはそれを気にせず、己の拳を握りしめ、腕をゆっくりと大きく振り上げる。

「来るぞ、お吟」
「わかってる」

 ゴーレムの拳がまっすぐに彼らのもとへと降りてくる。それよりも早く流星は吟子に声をかけ、彼女もまた手にする杖を振り上げる。瞬間、どこからともなく水が現れ、その水は彼らを覆う『壁』となる。それによりゴーレムの拳は派手な音を立てて弾かれる。役目を終えた水壁は音もなく消えていく。
 ───フォルテ『ソーサラー』。その名の通り魔法使い。様々な『奇跡』の力を借りて、自らや状況に影響を与える。吟子はこのフォルテをとても気に入っていた。魔法使い、なんて浪漫があることだろうか。昔口癖のように言っていたな、と流星は思い出す。その時の吟子の掴みづらさといったら。今もそんなに変わらないが。
 吟子はすかさず直接ゴーレムの足へと杖を軽く振り、どこからともなく吹いてきた風の刃でその足を切り刻む。切り刻まれた足はぐしゃっと崩れ、ゴーレムはバランスを崩す。すぐに再生しようと瓦礫は集まってくるが、それを阻止しようと、ヒナタが間髪入れずに腕を大砲に変え、渾身の一撃を放つ。
 その隙に柚子と水木が飛び、崩れた足とは反対にある腕を狙い、攻撃を仕掛ける。柚子が指鉄砲を作り肩の部分を撃って、水木は水球を作って一部を包み、水圧を強めて腕を破壊する。ガラガラと腕は落ちていく。
 そして流星と百合、れお子、弥里はゴーレムの胴体へ突っ込んでいく。流星は己の刀で瓦礫を切り刻み、百合は鞭でゴーレムの頭部を締め付けてそのまま潰し、れお子は強烈なキックを胴体へと再び食らわせ、トドメとばかりに弥里は手にしていた巨大な注射器をゴーレムへと打ち込み、怪しげな色をした薬品を注入する。
 戦闘向きではないフォルテを持つアスカ、まろん、翡翠はそれをただ見守るだけ。瓦礫からは吟子やヒナタが全て弾き返していたため、被害は特になかった。だがそれでいい。被害がないのが一番いい。
 弥里が注入した薬品が効いたのか、それとも蓄積されてきたダメージが爆発したのか、ゴーレムの胴体は一気にあたりに飛び散っていく。そして顕になる、ひし形水晶───そう、『コア』。流星は眼帯を外し、その『眼』でコアを睨む。瓦礫を踏み台にし、刀を構え、コアへと真っ直ぐに飛んでいこうとしたその時。


「ふっふっふ……あーっはっはっはっは!!うぇい!!」


 突如高らかに響く笑い声。それは空からやってきたらしい。流星ははっとそちらを見上げる。空に浮かぶは1つの影。その影は空中で仁王立ちをして、コアを見据える。そしてにやりと笑う。


「真打ちは、最後に登場───だうぇい!」


 刹那、その影は脚をコアへと真っ直ぐに。まるでそう、その構えはまさに『ライダーキック』そのもの。バキン、とガラスが割れたような音を立てて、コアの全体へヒビが入っていく。最後には一気に弾けて広くとびちって、何もなくなった。コアを消失したことにより、瓦礫もまたたく間に重力に従い崩れていく。

「………な、なんで」
「ふふふ、朝山御代!華麗に参上っ!」

 瓦礫が完全に崩れ落ち、あたりにはチームケイオスしかいなくなったとき、目の前にやってきた真打ちこと、『朝山御代』に注目が集められていた。その当の本人は本人が思う『かっこいいポーズ』を披露している。
 一時(いっとき)の静寂の後、柚子が口を開く。

「御代、どうしてここに?」
「チームケイオスが出撃してるのに、私が来ない理由がないうぇい。本当はお吟さんたちと一緒に来るはずだったんだぷてよ?」
「私が止めたんだ。『真打ちは最後に来るものだよ』ってね」

 くすりと笑う吟子。その隣では翡翠が懐からどら焼きを取り出して、食べ始めている。そのどら焼きを隣からアスカがこっそり取ろうとするのだが、翡翠の行動は早く、アスカの手をぺちりと叩いてみせた。だがそんな説明で流星が納得するわけもなく。

「朝山御代。3日間の絶対安静を言い渡したはずだ。命令違反と捉えるぞ」
「えーでもぉー。リーダーから『行ってこい』って言われたぷて。リーダーに文句言ってほしいうぇいよ」

 リーダー様々うぇい。そうつぶやいてくるくると回りだす。流星は眼帯を直し、深いため息をつくと、咳払いを一つ。

「……チームケイオス、任務終了。これより本部に帰還する」

 片手を上に上げると、指を鳴らす。その瞬間、チームケイオスの面々は消え去っていた。
 残されたものは何もない。





「おけーり」

 帰った先にはリーダーである狂示が待ち構えていた。隣には複雑な顔をした那生も。恐らく御代の事だろう。
 流星はのんきな顔をして出迎えた狂示に、これまた大きなため息をついて文句という名の抗議をしようとする。が、狂示はそれを手で制して、流星を押しのけて一緒についてきた吟子と翡翠に対して話しかける。

「よう。久しぶりだなァ魔法使い?」
「そっちも変わってなさそうだね。リーダー」
「まーおかげさまでな。(つーかオレの予感的中してたんかよ…)」

 狂示は内心乾いた笑いを浮かべる。まさか本当にいたとは。絶対面白半分で戦闘に加わっただろこいつら。その部分が当たっているのかはさておいて、隣の翡翠へと顔を向ける。だが翡翠は狂示に目を合わせることもなく、疲れていたのか眠いのか、さっさとその場を離れてどこかへといってしまった。嫌われたかね。そう思わず口に出すが、吟子はそれをすぐに否定した。眠いだけさ、と。

「さてとチームケイオス。まずはおつかれさん。しっかり体休めてこいよ。報告は流星たちから聞くからよ」

 狂示がそう言うやいなや、流星と吟子、百合を除いたメンバーは、わっと散り散りになった。残ったのはマグノリアでも、成人している数少ないメンバーだけ。

「さてと流星。お吟に百合。あっちであったことを事細かに教えてもらおうか?」
「その前に御代のことについて聞かせてもらおうか」
「ワイもそれ聞こう思てたんや。手伝ってくれへん?」
「ああ。任せろ」
「だぁらそこはもう話しただろうがうるせえな。さっさと報告しろや」
「まあまあここは私がやるよ。───あれは10年前のことで」
「お吟は今は黙っててくれややこしくなる。百合」
「お断りするわ」

 この日、マグノリア最古参メンバーである数少ない成人組は、らしくもなく子供のような戯れをしたとか、してないとか。





 ────チームケイオス。それは、毎日を面白おかしく生きてしまう、クセが強すぎるフォルトゥナたち。趣味も嗜好も何もかもが違うフォルトゥナたちが集まった、『よくわからない団体』。
 彼らは描き、書きしるす。その時であった『日々のスパイス』を。彼らは語る。毎日の生活で起こった、『小さい軌跡』を。



 ────毎日は、スパイスとほんの少しの『混沌』で満ちあふれている。



第3話【fake town baby】終

 

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.25 )

日時: 2018/11/28 23:27
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: https://m.youtube.com/watch?v=r9hn3NRGKrI

 神様という存在は果たしているのか。それを確かめるすべはない。神様はいつもどこにいるのだろう。傍らに、空に、目の前に。神様は存在しうるのだろうか。
 神様はどんな形をしているのだろう。人のような形なのか、それとももっと違うのか。神様に名前はあるのか。発音できるのか。そもそもの話、神様とは何なのだろうか。考えれば考えるほど止まらなくなる。神様とは?


───神様って、なんだっけ。



第4話
【Distorted†Happiness】



 チームケイオスの青森の騒動から数日後。今まで休暇を取らされていた時雨と泥はマグノリアに帰還し、また超子やエレクシアたち、歌子も前線へと復帰していた。リーダー命令により病室から飛び出していた御代は、改めて休暇を言い渡され、娯楽室にてその休暇を持て余していた。ちなみに当のリーダー狂示は、流星と那生に何かとあれやこれやと言われたものの、どこ吹く風。リーダー命令だからと聞き流した。
 時雨たちは自分たちが休んでいる間、マグノリアで起こったことについて事細かに説明を聞いた。その間、超子が重症を負ったことに対し、くらっと来ていたようだが、超子の元気な姿を見て調子をどうにか取り戻していた。その後説明が終わると、各自解散の運びとなる。各々が散り散りになると、時雨も背伸びをしてさて図書館にでも行こうか、とそれまでいた会議室を出る。
 そんなとき、不意に横から声をかけられた。そちらを見れば、赤く充血した目で時雨をじっと見つめる、陰気な影。

「……芳賀(はか)?どうした、お前が『アレ』に乗ってないなんて珍しいな」
「たまには外にでろって、どこぞの妹からドヤされてな」
「ああ、メカニックの」

 時雨が思い起こしたのは、例のメカニック部門の事実上トップに座す少女。名字こそ違うが、彼女はこの芳賀の実の妹だ。その妹───一条常磐から突然、「引きこもりの陰気な兄貴に告げるっすー、外に出て散歩でもしやがれっすー、さもねーと『この球体』ぶち壊すっすよー」と、脅し同然のお言葉をもらい、嫌々渋々ながらこうして外に出てきたらしい。芳賀はただでさえ猫背な体勢を、さらに丸めてため息をつく。

「引きこもりに外にでろとか、死刑宣告同然だろうが」
「そうは言うがな……お前また充血酷くなってるぞ」
「あー……いんだよ俺が充血してなかったらそれこそ一大事だろうが」
「そこまで充血してることが一大事だからな」

 呆れたように言ってやると、うるせえと顔をそらす。

「そういやこれからお前は?」
「図書館に行くつもりだが、どうした」
「いや、少し聞いてもいいか?」
「何だ急に」

 芳賀は1つ間を開けると、口を開く。


「────お前、神様って信じるか?」



「!」

 はっと気がつく。目の前には開かれた本。その本には、『神』という存在がどういうものなのか、記されていた。時雨は落ち着いてあたりを見回す。時雨以外の人々は皆、思い思いに本を手に取り席につき、読書にふける。ゆっくりと息を吐いた。
 ここは図書館。時雨はあの後図書館に来て、芳賀の言葉が忘れられずに、片っ端から神にまつわる本を探してひたすら読んでいた。その途中で急な睡魔がやってきて、抗えずに眠ってしまったらしい。幸いにも本にダメージはなく、時雨は胸をなでおろした。

「……神、か」

 ぼそりとつぶやいてみる。芳賀のあの言葉は、たしかにこちらを試していた。信じると答えても、信じないと答えても、きっと良からぬ空気になっていただろう。だからこそ、時雨ははぐらかした。そもそも目に見えない、感じ取れないものは信じる信じないの話ではない、と。芳賀はその答えを予想していなかったようで、多少面食らったような顔をしていたものの、すぐにもとに戻り、「だろうな」と意味有りげに返した。変なこと聞いて悪かった。それだけいうと、芳賀はくるりと踵を返して去っていった。その様子を少し変だと思いつつも、時雨はそれ以上追わなかった。

「神様がいたとしたら。どうなっていたんだろうな」

 時雨はそんなことを思う。この国には八百万の神々と呼ばれるほど、神が存在すると謳われてきた。だがそうでなくて、『概念的なもの』。人々が無意識に思う、『神』。それが本当に存在していたら、今頃どうなっていたのか。想像などつかないが、1つだけ言えることがある。

「まあ、今より環境は悪くなっていただろうな」

 そう確信する。時雨はふうと息をつき、開いていた本を閉じる。結局のところ神については、『人々が思えばいるし、思わなければいない』のだろう。そう結論づけていいのかわからないが、そういうことにしておく。さて自室にでも戻ろうかと、席から立ち上がり本たちを棚に戻し、図書館を後にする。

「そういえば芳賀、あの球体どうしたんだろうな」

 ふと、芳賀とあった時のことを思い起こす。芳賀はいつも、『黒い球体』の中へ閉じこもり、暮らしている。その中でネットやゲーム、マグノリアとしての活動をすべてしていた。当然その中の光源はすべて液晶から出る光のみで、芳賀は1日じゅうそれとにらめっこをしている。それが原因となり、芳賀の目の充血はひどいものになっていた。そしてろくすっぽ寝ていないので、目の下のくまも凄まじいものになっている。もちろん栄養補給もちゃんとしておらず、1日の食事はサプリと栄養食のみ。不健康まっしぐらだ。だから、芳賀の項にはチューブをつなぐ『接続部品』がはめ込まれていた。そこから必要な栄養分を取るために。
 先程の芳賀はその球体から出て行動していた。しばらくあの中から出ていると、見れたものではないくらいの状態になるのだが、果たして大丈夫なのか。いや、多分大丈夫なのだろう。証拠はないが。

「……たまには娯楽室にでもいくか」

 このまま自室に戻ってもやることがない。なら、気分転換にちょうどいい場所に行ってみよう。時雨はついさっきまで考えていたことを隅に置き、娯楽室へと歩をすすめることにした。





「神様ぁ?」
「そ。芳賀くんが言ってたのを聞いちゃいました」

 所変わって医療部。那生が不在の今、ここにいるのは超子と弥里のみ。患者は全て個室へと閉じ込めた。その中で弥里は、たまたま通りがかったときに聞いた、芳賀の話を超子へと話していた。当の超子は医療部に薬を取りに来ていただけなのだが、その話を聞いていくうちに興味を持ち、勝手にお茶を作って飲んで、弥里のその話に聴き入っていた。

「神様を信じるか、ねえ。随分難しい質問されたわねー、時雨」
「神様とかキメれば普通に見えるのに」
「うん、弥里ちゃん多分その神様は神様と違う」

 にしても、神様か。超子は湯呑みに残っていたお茶を飲み干して、思考の海へ飛び込む。そういえば真面目に考えたこと、なかったなあ。つか考えることもないか。
 芳賀がそんな質問をするなんて珍しいな、と思いつつ、仕方ないのかな、とすら思う。というのも、芳賀の家族環境はかなり複雑で、所謂『そういうもの』が絡んできているせいで、芳賀はあのような性格になったと、言伝で聞いた。でもそれにしたって、なんて今そんなことになっているのだろうか。何かあったのかな。

「超子ちゃんは信じる?」
「へ?」
「神様がいるかって」
「あたし?え、えーと……うーん」

 弥里の質問で海から脱出した超子は、突然のことに戸惑いを隠せない。いきなり聞かれても困るものは困る。しかし弥里は興味深そうに超子の顔を覗き込む。
 ひたすら考えた後、なんとか超子は答えを絞り出した。

「あたしは……いる時といない時があるって思う」
「どういうこと?」
「人間の都合のいいときにいて、悪いときにはいないんだよ。って思う」
「へえ〜」
「で、なんで?」
「んーん、聞いてみたかっただけ」

 弥里は手にしていたいちご牛乳のパックについていたストローを、ずぞぞぞと吸い、飲み干す。その後ぐしゃっとパックを潰してゴミ箱にシュートすると、いつも那生が座っている椅子に深く腰掛ける。

「童貞遅いねー」
「流石に先生っていっとこ?でもほんとに遅いねえ」
「なーにやってんだろ」

 2人は特に意味もなく、那生の帰りを待つことにした。





 マグノリア、リーダー室。その場には狂示と那生、そして流星と吟子と百合が神妙な顔をしてひとつの資料に目を通していた。

「……『メシアの揺り籠』」
「昔からあったカルト宗教団体だが、最近また目立った活動をしだしたらしい。メシアにより、この世は新たなる舞台になる……ってのが売り文句だな」
「この宗教団体、グローリアと繋がってるんだったよね?」
「ああ。グローリアの一部の連中は、この信者だからな」

 メシアの揺り籠とは、地上に降り立つ唯一神とされる、『メシア』を崇め奉る宗教団体である。ただたんにメシアを崇めているだけならばいいものの、自らメシアのために生命を絶てば、メシアに認められて次なる使徒になれるだの、メシアを認めぬものに存在価値などないとして、虐殺をしたりだの、碌でもない行動ばかりが目立っている。そのメシアの揺り籠、一時期は活動を急にぱったりと潜めたものの、ここ最近また表に出てきて活動し始めたらしい。グローリアと繋がっている組織でもあるため、マグノリアに被害が行かないとは限らない。その対応をどうするか、ということで、今回彼らは狂示に集められた。

「たしかに対応策は考えなきゃいけないだろうけど……そうはいってもどうやるんだい?目の前の相手が信者だという証拠があるわけでもないだろう」
「そこなんだよな。奴ら、擬態がうまいから」
「……ん?そういや、このメシアの揺り籠って、芳賀はんの親が信者とちゃうかったか?」
「今日集めたのはそれもあんだよ……芳賀を連れ戻しに来るかもしれねえし」

 そこまで言うと狂示は椅子に深くもたれかかる。そう、厄介なことに芳賀の両親が、そのメシアの揺り籠の熱心な信者なのだ。団体の活動が表立ってきた今、いつ芳賀を狙ってくるのか正直ヒヤヒヤしているのだ。なんせ、こう言っちゃ悪いが芳賀はまともに動けない。主に体力と精神的な意味で。

「動こうって意志が本人にありゃなあ」
「これは、相当難しい課題になりそうだな」
「そうねえ。こればっかりはねえ」

 普段は頼れる大人たちも、珍しく1つのことで延々と頭を悩ませるのであった。





「で、なんで娯楽室でやる遊びが『かごめかごめ』なんです、歌子さん?」
「くじ引きで決めたんだよ〜」


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.26 )

日時: 2019/02/05 22:35
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

『メシア様にお祈りすれば、救われる』
『メシア様を信じなさい』

 幼い頃から植え付けられた、その言葉。それは重荷になって、彼にずぅんとのしかかる。それは一種の呪い。信じる者は救われる、信じなければ天罰。毎日毎日、反吐が出るくらいに聞かされてきた。
 だから彼は逃避した。そして居場所を求めた。そうしていく中で見つけた、自分だけの居場所。それが、『ネット』と『ゲーム』だった。

「……」

 彼、電堂芳賀(でんどうはか)は今、自らが作り出した黒い球体───『アニマ』の中で、何もすることなくただぼんやりとモニターを見つめていた。片手にはスナック菓子のようにサプリメントをつまみ、それをひょいひょいと口の中に放る。ボリボリと咀嚼したのちに飲み込むと、大きなため息をつく。目の前のモニターに流れる、意味のない世間のニュースをただぼんやり見つめる。考えることもなく、思うこともなく。
 この黒い球体『アニマ』は、彼自身の手で生み出された、『家』に近しいものである。アニマの中には1つの座り心地の良いゲーミングチェアと、目の前に設置されたゲーミングキーボード。あたり一面に配置された生活雑貨や、極めつけはすぐ手の届く場所に大量のエナジードリンクが入った冷蔵庫。食事は携帯食料とサプリメントで事足りる。それで彼は満足していた。明かりはモニターの僅かな光でいい。
 ボリボリとサプリメントを咀嚼し、冷蔵庫から引っ張り出したエナジードリンクのプルタブを開けて、一気に飲み干す。目の前のモニターに流れるニュースは変わらない。そろそろゲームにログインしようかと、キーボードを操作してコントローラーを握りしめたちょうどその時だった。

『───では、次は巷で話題を呼んでいるメシアの揺り籠についてです』

 彼の動作をすべて止めさせるニュースが流れてきた。思わずコントローラーを投げ捨て、そのモニターにかじりつくように前のめりになる。

『近頃活発に活動をしているメシアの揺り籠。救済と安らぎを求め、この組織に入信する方も増えています。そのメシアの揺り籠に、番組は独占インタビューを試みましたが、残念ながら叶いませんでした』
「……」
『それでは次の───』
「チッ」

 薄い内容ですぐに次のものへと変わっていったそれに舌打ちをすると、芳賀はすぐにコントローラーを握りしめて、ゲームのログイン画面へと切り替える。期待はしてなかったが、あすこまで薄いとかえって腹が立つ。見なければよかった。
 とここでふと彼に一つの疑問。なぜ自分は期待もしていなかったのに、先程のニュースにかじりついたのだろうと。別に何も期待していないのならば、見ることもないだろうに。さっさとゲームにログインしていればいいのに。
 芳賀は苛立たしげにゲームへダイブした。





 かごめかごめ
 かごの中の鳥は
 いついつ出やる
 夜明けの晩に
 鶴と亀が滑った
 後ろの正面だあれ

 鈴のような声が部屋に響く。中心にいるは顔を隠した泥。その周りを囲んでぐるぐる回る、娯楽室に集まったメンバーたち。そしてそれを見守るのは、時雨と歌子。かごめかごめをやろうと言い出したときは、正気なのかとは思ったが、本人たちが楽しげなので特に何も言わず、かと言ってそれに混ざらずにこうして見つめていた。ちなみに歌子はそんな時雨を見ていたかったので、あえてかごめかごめに参加せずに隣にいる。

「よくよく歌詞を深読みすると、怖いですね」
「そう?」
「あくまで個人的な感想ですけどね」
「あー、もしかして『鳥籠の中に閉じ込められた子供』みたいな」
「そういうヤツです」

 歌子のその例えに、時雨はある1人の友の姿を思い起こす。ひきこもりで、陰気で、よほどのことがない限りまともな食事を取らない、ヘビーゲーマーでネット廃人の彼。言うまでもなく芳賀のことだが、彼の過去、というより家庭環境がまさしく、『籠の中の鳥』と言うにふさわしいものだったのだ。そのことに関しては、深いところまで彼の口から聞いている。どんな扱いを受けたのか、どんな生活だったのか、どんな親だったのか、どうやってここに逃げることができたのか。そして彼の親がそうなってしまった理由も。

 ───なあお前、神様って信じるか?
 
 芳賀から言われたその言葉は、今でも時雨の胸中を燻る。結局のところ神様とは何なのだろうか。人々にとっての精神安定剤のようなものなのか、ヤツの言う『神様』とやらは。そりゃあまあ、神話の中に登場する神様は信じてはいるが、『人々が作り上げた幻想の神様』とやらは、信じるかと言われたら否定するだろう。それこそ新興宗教で崇められている神様など、いるはずがないのに。もしそういう伝承があるのかと言われたらないのだろうが。

「おーいしーぐーれー、お前もやろうぜー」
「ヰ吊戯(いつるぎ)、僕はここでいい」

 不意に、それまでかごめかごめをやっていた遊喜───ヰ吊戯のことだが───に誘われた時雨は、思考の海から救われる。が、特にやろうという気はなかったので、誘いを断った。それ以前にそのかごめかごめに、少し恐怖心を抱いてしまった、というのもあるが。
 1人を多数で囲み、後ろにいる人間を当てる。当てたら交代、当てられなかったらやり直し。不正解が続けばずっとそのまま。『たったそれだけのこと』なのに、なんとも思っていなかったはずなのに、時雨はどうしても怖くなってしまった。今このとき、怖くなってしまったのだ。ぞくりと背筋に嫌なものが伝う。
 それを知ってか知らずか、歌子は時雨の様子を見て、いつの間にか震えていた彼の手を取り、声をかけた。

「……時雨くん。別のとこいこっか?」

 その言葉のあと、歌子はすっくと立ち上がり、時雨もそれに続くようにして娯楽室をあとにする。
 2人が去ったあとも、娯楽室ではあの歌が響いていた。


 かごめかごめ
 かごの中の鳥は
 いついつ出やる
 夜明けの晩に
 鶴と亀が滑った
 後ろの正面だあれ





 無機質な道を当てもなく歩いていく時雨と歌子。その手は握られたままで、時雨がフラ付けば歌子もフラつき、逆に歌子がフラ付けば時雨がそれを支える。端から見れば───

「あ、夫婦がいる」

 まさしくその言葉の通りであった。

「何を言ってるんだ泥」
「言ってみたかったんだ」
「言ってみたいほどの言葉か?」

 時雨たちは声が聞こえた背後に顔を向ける。彼らの顔がそちらへ向くと同時に、ふっと柔らかい笑みを浮かべて張本人───月紫泥は近づいていく。

「どこいくの?」
「歌子さん?」
「考えてなかった」
「……図書室にでも行きます?」
「あ、私ちょうどあの本読みたかったんだ」
「なになに?」
「『美味しい鶏肉の作り方』」
「素材からですか……?」

 2人と1人は結局、無難な場所選んでそこへと向かうことにした。途中で時雨だけ、ふりだしに戻ってるな、と心の中で思ったが、わいわいと楽しく話し込んでいる友人たちを見て、あえて何も言わないことにした。





「……俺は」

 モニターの光に当てられた少年はつぶやく。その声は震えていて、何かにおびえているようで。


「────神様の生贄じゃない」


続く

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