複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.25 )

日時: 2018/11/28 23:27
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: https://m.youtube.com/watch?v=r9hn3NRGKrI

 神様という存在は果たしているのか。それを確かめるすべはない。神様はいつもどこにいるのだろう。傍らに、空に、目の前に。神様は存在しうるのだろうか。
 神様はどんな形をしているのだろう。人のような形なのか、それとももっと違うのか。神様に名前はあるのか。発音できるのか。そもそもの話、神様とは何なのだろうか。考えれば考えるほど止まらなくなる。神様とは?


───神様って、なんだっけ。



第4話
【Distorted†Happiness】



 チームケイオスの青森の騒動から数日後。今まで休暇を取らされていた時雨と泥はマグノリアに帰還し、また超子やエレクシアたち、歌子も前線へと復帰していた。リーダー命令により病室から飛び出していた御代は、改めて休暇を言い渡され、娯楽室にてその休暇を持て余していた。ちなみに当のリーダー狂示は、流星と那生に何かとあれやこれやと言われたものの、どこ吹く風。リーダー命令だからと聞き流した。
 時雨たちは自分たちが休んでいる間、マグノリアで起こったことについて事細かに説明を聞いた。その間、超子が重症を負ったことに対し、くらっと来ていたようだが、超子の元気な姿を見て調子をどうにか取り戻していた。その後説明が終わると、各自解散の運びとなる。各々が散り散りになると、時雨も背伸びをしてさて図書館にでも行こうか、とそれまでいた会議室を出る。
 そんなとき、不意に横から声をかけられた。そちらを見れば、赤く充血した目で時雨をじっと見つめる、陰気な影。

「……芳賀(はか)?どうした、お前が『アレ』に乗ってないなんて珍しいな」
「たまには外にでろって、どこぞの妹からドヤされてな」
「ああ、メカニックの」

 時雨が思い起こしたのは、例のメカニック部門の事実上トップに座す少女。名字こそ違うが、彼女はこの芳賀の実の妹だ。その妹───一条常磐から突然、「引きこもりの陰気な兄貴に告げるっすー、外に出て散歩でもしやがれっすー、さもねーと『この球体』ぶち壊すっすよー」と、脅し同然のお言葉をもらい、嫌々渋々ながらこうして外に出てきたらしい。芳賀はただでさえ猫背な体勢を、さらに丸めてため息をつく。

「引きこもりに外にでろとか、死刑宣告同然だろうが」
「そうは言うがな……お前また充血酷くなってるぞ」
「あー……いんだよ俺が充血してなかったらそれこそ一大事だろうが」
「そこまで充血してることが一大事だからな」

 呆れたように言ってやると、うるせえと顔をそらす。

「そういやこれからお前は?」
「図書館に行くつもりだが、どうした」
「いや、少し聞いてもいいか?」
「何だ急に」

 芳賀は1つ間を開けると、口を開く。


「────お前、神様って信じるか?」



「!」

 はっと気がつく。目の前には開かれた本。その本には、『神』という存在がどういうものなのか、記されていた。時雨は落ち着いてあたりを見回す。時雨以外の人々は皆、思い思いに本を手に取り席につき、読書にふける。ゆっくりと息を吐いた。
 ここは図書館。時雨はあの後図書館に来て、芳賀の言葉が忘れられずに、片っ端から神にまつわる本を探してひたすら読んでいた。その途中で急な睡魔がやってきて、抗えずに眠ってしまったらしい。幸いにも本にダメージはなく、時雨は胸をなでおろした。

「……神、か」

 ぼそりとつぶやいてみる。芳賀のあの言葉は、たしかにこちらを試していた。信じると答えても、信じないと答えても、きっと良からぬ空気になっていただろう。だからこそ、時雨ははぐらかした。そもそも目に見えない、感じ取れないものは信じる信じないの話ではない、と。芳賀はその答えを予想していなかったようで、多少面食らったような顔をしていたものの、すぐにもとに戻り、「だろうな」と意味有りげに返した。変なこと聞いて悪かった。それだけいうと、芳賀はくるりと踵を返して去っていった。その様子を少し変だと思いつつも、時雨はそれ以上追わなかった。

「神様がいたとしたら。どうなっていたんだろうな」

 時雨はそんなことを思う。この国には八百万の神々と呼ばれるほど、神が存在すると謳われてきた。だがそうでなくて、『概念的なもの』。人々が無意識に思う、『神』。それが本当に存在していたら、今頃どうなっていたのか。想像などつかないが、1つだけ言えることがある。

「まあ、今より環境は悪くなっていただろうな」

 そう確信する。時雨はふうと息をつき、開いていた本を閉じる。結局のところ神については、『人々が思えばいるし、思わなければいない』のだろう。そう結論づけていいのかわからないが、そういうことにしておく。さて自室にでも戻ろうかと、席から立ち上がり本たちを棚に戻し、図書館を後にする。

「そういえば芳賀、あの球体どうしたんだろうな」

 ふと、芳賀とあった時のことを思い起こす。芳賀はいつも、『黒い球体』の中へ閉じこもり、暮らしている。その中でネットやゲーム、マグノリアとしての活動をすべてしていた。当然その中の光源はすべて液晶から出る光のみで、芳賀は1日じゅうそれとにらめっこをしている。それが原因となり、芳賀の目の充血はひどいものになっていた。そしてろくすっぽ寝ていないので、目の下のくまも凄まじいものになっている。もちろん栄養補給もちゃんとしておらず、1日の食事はサプリと栄養食のみ。不健康まっしぐらだ。だから、芳賀の項にはチューブをつなぐ『接続部品』がはめ込まれていた。そこから必要な栄養分を取るために。
 先程の芳賀はその球体から出て行動していた。しばらくあの中から出ていると、見れたものではないくらいの状態になるのだが、果たして大丈夫なのか。いや、多分大丈夫なのだろう。証拠はないが。

「……たまには娯楽室にでもいくか」

 このまま自室に戻ってもやることがない。なら、気分転換にちょうどいい場所に行ってみよう。時雨はついさっきまで考えていたことを隅に置き、娯楽室へと歩をすすめることにした。





「神様ぁ?」
「そ。芳賀くんが言ってたのを聞いちゃいました」

 所変わって医療部。那生が不在の今、ここにいるのは超子と弥里のみ。患者は全て個室へと閉じ込めた。その中で弥里は、たまたま通りがかったときに聞いた、芳賀の話を超子へと話していた。当の超子は医療部に薬を取りに来ていただけなのだが、その話を聞いていくうちに興味を持ち、勝手にお茶を作って飲んで、弥里のその話に聴き入っていた。

「神様を信じるか、ねえ。随分難しい質問されたわねー、時雨」
「神様とかキメれば普通に見えるのに」
「うん、弥里ちゃん多分その神様は神様と違う」

 にしても、神様か。超子は湯呑みに残っていたお茶を飲み干して、思考の海へ飛び込む。そういえば真面目に考えたこと、なかったなあ。つか考えることもないか。
 芳賀がそんな質問をするなんて珍しいな、と思いつつ、仕方ないのかな、とすら思う。というのも、芳賀の家族環境はかなり複雑で、所謂『そういうもの』が絡んできているせいで、芳賀はあのような性格になったと、言伝で聞いた。でもそれにしたって、なんて今そんなことになっているのだろうか。何かあったのかな。

「超子ちゃんは信じる?」
「へ?」
「神様がいるかって」
「あたし?え、えーと……うーん」

 弥里の質問で海から脱出した超子は、突然のことに戸惑いを隠せない。いきなり聞かれても困るものは困る。しかし弥里は興味深そうに超子の顔を覗き込む。
 ひたすら考えた後、なんとか超子は答えを絞り出した。

「あたしは……いる時といない時があるって思う」
「どういうこと?」
「人間の都合のいいときにいて、悪いときにはいないんだよ。って思う」
「へえ〜」
「で、なんで?」
「んーん、聞いてみたかっただけ」

 弥里は手にしていたいちご牛乳のパックについていたストローを、ずぞぞぞと吸い、飲み干す。その後ぐしゃっとパックを潰してゴミ箱にシュートすると、いつも那生が座っている椅子に深く腰掛ける。

「童貞遅いねー」
「流石に先生っていっとこ?でもほんとに遅いねえ」
「なーにやってんだろ」

 2人は特に意味もなく、那生の帰りを待つことにした。





 マグノリア、リーダー室。その場には狂示と那生、そして流星と吟子と百合が神妙な顔をしてひとつの資料に目を通していた。

「……『メシアの揺り籠』」
「昔からあったカルト宗教団体だが、最近また目立った活動をしだしたらしい。メシアにより、この世は新たなる舞台になる……ってのが売り文句だな」
「この宗教団体、グローリアと繋がってるんだったよね?」
「ああ。グローリアの一部の連中は、この信者だからな」

 メシアの揺り籠とは、地上に降り立つ唯一神とされる、『メシア』を崇め奉る宗教団体である。ただたんにメシアを崇めているだけならばいいものの、自らメシアのために生命を絶てば、メシアに認められて次なる使徒になれるだの、メシアを認めぬものに存在価値などないとして、虐殺をしたりだの、碌でもない行動ばかりが目立っている。そのメシアの揺り籠、一時期は活動を急にぱったりと潜めたものの、ここ最近また表に出てきて活動し始めたらしい。グローリアと繋がっている組織でもあるため、マグノリアに被害が行かないとは限らない。その対応をどうするか、ということで、今回彼らは狂示に集められた。

「たしかに対応策は考えなきゃいけないだろうけど……そうはいってもどうやるんだい?目の前の相手が信者だという証拠があるわけでもないだろう」
「そこなんだよな。奴ら、擬態がうまいから」
「……ん?そういや、このメシアの揺り籠って、芳賀はんの親が信者とちゃうかったか?」
「今日集めたのはそれもあんだよ……芳賀を連れ戻しに来るかもしれねえし」

 そこまで言うと狂示は椅子に深くもたれかかる。そう、厄介なことに芳賀の両親が、そのメシアの揺り籠の熱心な信者なのだ。団体の活動が表立ってきた今、いつ芳賀を狙ってくるのか正直ヒヤヒヤしているのだ。なんせ、こう言っちゃ悪いが芳賀はまともに動けない。主に体力と精神的な意味で。

「動こうって意志が本人にありゃなあ」
「これは、相当難しい課題になりそうだな」
「そうねえ。こればっかりはねえ」

 普段は頼れる大人たちも、珍しく1つのことで延々と頭を悩ませるのであった。





「で、なんで娯楽室でやる遊びが『かごめかごめ』なんです、歌子さん?」
「くじ引きで決めたんだよ〜」


続く

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