二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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【ロックマンエグゼ】Last Operation
日時: 2012/03/14 18:22
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: k5KQofO8)
参照: http://www.capcom.co.jp/rockmanexe/

今更にもほどがありすぎます、『ロックマンエグゼ』の二次創作だったりします。
僭越ながら、書かせていただきます。
はじめまして、soraです。

Page:1



Re: 【ロックマンエグゼ】Last Operation ( No.1 )
日時: 2012/03/14 18:26
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: k5KQofO8)

 20XX年。
【PET(ペット)】と【ネットナビ】。
この二つの発明により全世界をつなぐインターネットは目覚しいまでの進歩を遂げ、情報社会はその全盛を迎えていた。
地球の裏側にいる人と、端末一つでコミュニケーションをとることのできる時代である。
 しかし一見便利になったように見えるその裏で、ネットワークを利用した犯罪も急増しつつあった。

 特に、その中でも最たるものは【WWW(ワールドスリー)】と名乗る集団による一連のネットテロ事件であろう。

 史上最大にして最悪のウイルス【ドリームウイルス】を利用した、軍事衛星ハッキング事件。
 インターネット上の全てを喰らい尽くす怪物にして、初期のインターネットそのものである【プロト】の解放。
 そして記録上で最も新しいのは、電脳世界の全てを崩壊させるほどの災厄、
【電脳獣グレイガ】と【電脳獣ファルザー】の復活。
 全ては【ネットワーク社会の滅亡】という目的の下に行われた。

 だがそれらの事件ははとある町に住む、一人の小学生と、一人の【ネットナビ】によって解決に導かれた。

 否、彼らの周りには多くの仲間達がいた。
彼らは絆の力で、自らに襲い来る困難と数多の激闘を乗り越え、見事に敵を打ち砕いたのである。
 そして【WWW】が解体されたことにより、世界には元通りの平和が戻った———

———かの、ように見えた。

 事実【WWW】が解体された影響を受けたのか、インターネットを利用した犯罪は減少の一途をたどっていた。
ただし、それはあくまで目に留まる『表』の世界の話である。
 この世界には、裏と表があり、それはインターネットに於いても例外ではなかった。
通称【ウラインターネット】。
 かつて【プロト】という化け物に対抗するための手段として作られたもうひとつのインターネット。
そこに、秩序などというものは存在しない。
 一般人には、その名を出すことさえタブーとされる違法地帯にして危険地帯。
よほどの者でなければ踏み入ろうとさえしない闇の世界。
 その、更に奥深く。
闇の先の闇に『彼』はいた。
かつて深い裏切りの傷をその胸に負い、電脳の修羅と化した独りの【ネットナビ】。
 『最強』の座を欲しいがままにし、君臨し続けてきた『彼』。
『彼』の目的は『現行社会の崩壊による、全人類の破滅』。



 その者の名は【フォルテ】という。



 少年達の戦いは、未だ終わってなどいなかった。
これは、文字通り時空を超えた、少年達の最後の戦いの物語。


Re: 【ロックマンエグゼ】Last Operation ( No.2 )
日時: 2012/03/13 16:31
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: k5KQofO8)

 光の刃が振るわれた。
横に薙ぐような一閃であった。光の刃は青白く、まるで緑色のロボットのような外見の人型の腕から直接生えていた。
【バトルチップ】《ソード》によるものである。
振るわれた刃は、二度三度と振るわれる。そのたびに白い軌跡が宙に流れた。
が、何度振り回しても、その刃は標的を捉えることは出来ずにいる。
標的は、青い人影であった。決して大柄でない、むしろ華奢とさえいえる体躯の少年。
 少年は剣戟のすべてをいとも容易く回避する。
動きが尋常ではない。あからさまに戦いに慣れている動きであった。
それも喧嘩や試合といった類ではなく、もっと実戦的な意味合いで。
 少年の顔立ちは端整であった。青い、近未来的なヘルメットの下から翡翠色の瞳が覗く。
少年は余裕の、不敵の笑みを浮かべていた。
緑色の近未来人の目が、焦燥と苛立ちに細くなる。
 そして、近未来人はこれでもかと言わんばかりに次の一手を放った。

「バトルチップ、《エリアスチール》!!」

 緑色の人型が、目にも留まらぬ速さで少年と距離を詰めた。
これで逃れられまい、とでも言いたげに、緑色の人型が白い刃を振られ。
 そして、やはり刃が少年に当たることはなかった。
少年は、更に後ろに距離をとっており、そして照準を合わせていた。
少年の右手は、蒼い銃口のかたちとなっていた。
緑の人型の瞳が見開かれる。
少年はそれを見据え、狙いを定める。
刃による渾身の一撃を外し、隙だらけの彼に銃声が叩き込まれるのは当然の道理であった。

「《ロックバスター》ッ!」

 サイレンサーを装着した銃が発砲されるような音を立て、同時に緑の人型は後方へ吹っ飛んだ。
緑の人型は仰向けにたたきつけられた。
 倒れた緑の人型の頭上には「You Lose...」という、
無傷で立っている青い少年の頭上には「You win!!」というテロップが表示された。
 つまり、試合が終わったという合図であった。

「……くっそ、また負けたぁ!」

 緑の人型はじたばたと暴れだす。
お前、強すぎんだよなどと賞賛じみた愚痴を青い少年にわめきながら、緑の人型は起き上がる。

「どういたしまして」

 青い少年は、苦笑しながら受け答えた。
銃口となっていた右腕は、一瞬幾つにも等分された正方形になった後に
普通の人間のそれと変わらぬ手の形を取り戻した。

「立てる?」
「ああ、なんとかな。だが、幾ら練習用ったって直撃はやっぱ効くぜ……」

 彼らは【ネットナビ】と呼ばれる存在である。
ネットナビとは、擬似人格プログラム。つまり文字通り『電脳世界の中の住人』なのだ。
自律行動するプログラム。
 彼らの存在が、今日のインターネット技術の発展に大きく貢献しているのは言うまでもないことであった。
今では、人間社会に絶対に欠かせない存在として、その地位を確立している。
 そして、まるでガラスを断面から覗いたようなこの無機質で透明感のある空間は【電脳世界】。

「お疲れ、【ロックマン】!」
「【熱斗くん】も、ナイスオペレーティング!」

 電脳世界の宙に浮かんだウインドウ。その中に映っている【熱斗くん】少年は青い少年を【ロックマン】と呼んだ。
ウインドウの中の少年は【光 熱斗(ひかり ねっと)】。
この青いネットナビ【ロックマン】の所有者にして、唯一無二の親友である。
 このところロックマンには、この熱斗という少年の顔つきが少し大人びたように思えた。
もっとも彼はついこの間中学校に進学したので、当然といえば当然なのかもしれないが。
ロックマンには、彼を取り巻いていた環境がそうさせたようにも思えるのだ。

「はい、そこまで。二人ともありがとう。見事な実演でした」

 【PET】の画面を覗き込んでいた熱斗は、女性の声に顔を上げる。
声の主は熱斗たちの担任、通称【まり子先生】であった。見事にカールした髪が特徴の、美人教師である。
優しい性格も相まって、生徒達からの人望と人気にも定評がある。

「このように【ネットナビ】同士を戦わせることを【ネットバトル】といいます。
 ネットバトルでは、ナビ自身が持っている武器や【バトルチップ】を使用して
 先に相手をノックアウトした方が勝ち、となります。
 ……というのは常識だから、もちろんみんな知ってるわよね?」

 つまり、今は授業中であった。
そして先程はネットバトルの実演をしていたのだ。
 一人の生徒が挙手する。

「でも、まり子先生。本来バトルチップってウイルス撃退のために使うものですよね?
 それをナビ相手に使って大丈夫なのでしょうか?」
「いい質問ね、最小院くん」

 まり子先生は生徒の質問を受け、にこりと笑う。

「今回の授業の要点は、まさにそこよ。
 『ネットナビに対する、バトルチップの使用について』」

 まり子先生は、教壇の液晶に何かを書き込む。
書き込まれた文字が、次々と彼女の背後のブラックボードに表示されていく。
 この教壇の液晶はタッチパネルに、ブラックボードは液晶になっているのだ。
性能こそ最新のものではあるが、見た目がどことなく見慣れているように思うのは
日本人の、伝統を重んじる習慣に起因するものだろうか。

「この、イラストが描かれたメモリーカード状の媒体を【バトルチップ】といいます。
 バトルチップは本来ウイルスバスティング用に開発されたものであり、
 【PET】に挿入……【スロットイン】することで効力を発揮します。
 たとえば先程の実演で使われた《ソード》というバトルチップは、
【オペレーティング】……自分が今戦わせているナビの腕に剣を発生させるバトルチップですね」

 ブラックボードには、先程の戦闘で、緑の人型が白刃を振り回す様子が再生されている。

「では、このバトルチップをネットナビに対して発動させても大丈夫なのかという質問でしたね。
 実は、バトルチップやナビの攻撃用プログラムには、
 『ネットナビ相手に対しては威力が低下する』という制限がかけられているのです。
 一般人がこのリミッターを解除できるのは、非常時のみとなります」

 最小院くんと呼ばれた小柄の少年は、ふむふむとうなずきながら講釈に耳を傾ける。
他にも、多くの生徒が授業を真面目に聞いていた。
 その中でも、赤い髪の少女が特に目立つ。
特に何か特別な行動をしているというわけではないが。
彼女は熱斗の隣の席であった。
【桜井メイル(さくらい めいる)】。彼女は熱斗の幼馴染でもあるのだ。

「へえ……私達って結構バトルチップ使う機会多かったけど、そんなこと聞くのは初耳だね」

 メイルは、左隣の席の熱斗に小声で話しかけた。
が、しかし反応は返ってこない。
もしかして、またこいつ……とでも言いたげに横目で熱斗の方を見る。
すると、彼女の予想通り熱斗は、

「まり子せんせーい、光君がまた寝ています」
「あらあら、じゃあ今日の宿題三倍ね」

 割といつもの光景であった。


Re: 【ロックマンエグゼ】Last Operation ( No.3 )
日時: 2012/03/14 06:28
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: k5KQofO8)

◆登場人物(1)◆

●光 熱斗(ひかり ねっと)●
主人公。
ツンツンの髪と青いバンダナが特徴の、活発で明るい性格の少年。
デンサン中学一年生。
彼のネットナビ【ロックマン】とは大の仲良しである。
ネットバトルが大の得意で、世界チャンピオンになった事もあるほど。
普段はぐうたらした性格だが、いざという時は類まれな行動力と
天才的なオペレーティング能力を発揮する。
身体能力はピカイチだが、学校の成績はいまいち。
かつて【WWW(ワールドスリー)】や【ゴスペル】、【ネビュラ】などネット犯罪組織の検挙に貢献した功績がある。
科学省長官の父親を持つ。好きな食べ物は母親がつくるカレーライス。
【ロックマン】のオペレーター。

●ロックマン.EXE●
光 熱斗の持ちナビ。
熱斗の父親である【光 祐一郎】が直々にプログラミングしたナビであり、その性能は未知数。
おせっかい焼きな性格であり、そのためか熱斗と口論になることもしばしば。
しかし、ネットバトルになると熱斗と息の合った抜群のコンビネーションを発揮する。
世界で一番最初の、『心を持ったネットナビ』。
かつて熱斗と一緒に、何度も世界の危機を救った。

●桜井 メイル(さくらい めいる)●
赤いショートカットヘアーが特徴的な、ハーフの少女。
明るく聡明な性格。
デンサン中学一年生。
熱斗の幼馴染であり、彼女もまたよく熱斗におせっかいを焼いている。
そして、同時にいつも危険に飛び込んでいく熱斗を心配している。
成績優秀な優等生で、ピアノが得意。
熱斗に密かに思いを寄せている……のかもしれない。
【ロール】のオペレーター。

●大園 まり子(おおぞの まりこ)●
熱斗達の担任の美人教師。
デンサン中学勤務。
明るい、しっかりした性格。
小学校の頃も熱斗やメイル達の担任を務めていた経歴がある。
授業中に寝ている生徒の宿題を三倍に増やす癖がある。
見事にカールした髪型が特徴。

●最小院 コクマロ(さいしょういん こくまろ)●
身長の小さい、熱斗たちのクラスメイト。
モブではあるが、分かる人には分かるキャラである。
メガネと髪型は、今後の彼の子孫にがっつり遺伝する。

Re: 【ロックマンエグゼ】Last Operation ( No.4 )
日時: 2012/03/14 18:04
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: k5KQofO8)

 たかだか数十分程度の睡眠の代償が宿題三倍という名の地獄であることは、
光熱斗という少年にとって理不尽でしかなかった。
 食欲、性欲、そして睡眠欲。これらは『三大欲求』と呼ばれ、人間に限らず全ての生物に存在する。
そして、その三大欲求に抗うことは決して不可能である。
食べないと死んでしまう。性欲がなければ子孫を残せない。眠らなくても死んでしまう。
 つまり、三大欲求を受け入れ、それに素直になることは生命維持に必須な条件といえるのだ。
それにも関わらず、なけなしの休養を罪とし、挙句罰を与えるという仕打ちである。
 以前とある男に「悪とは何か」を問われたことがあるが、今の光熱斗には
あのドリルヘアー女教師こそが悪の権化に見えて仕方がなかった。
 とまあ、長々と綴った上で、しかし確実に言えることは、ぶっちゃけ自業自得である。
 ネットナビの所有者のことを【オペレーター】と呼ぶ。
ロックマンというナビのオペレーターである光熱斗は今、頭を抱えていた。
人はあまりにも膨大な量の作業を前にしたとき、絶望することがある。
今がまさにそれであった。
学ランはベッドの上に投げ捨てられ、今の彼はTシャツに制服のズボン、
それから彼のトレードマークである青いバンダナという風体である。
未来を担う若者の、希望に満ち溢れたその瞳はいまや死んでいた。

「……こんなの、終わるわけないだろー!」

 ついに、叫んだ。傍から見れば不審者まっしぐらだが、幸いにも今のこの部屋に彼以外は誰もいない。
いや、正確にはもう一人いた。
ただしその少年の姿は見えない。
それも当然である。なにしろ彼は、画面の中にいるのだから。

「何言ってるの、熱斗くん。泣き言言ってる暇があったら手を動かさないと、間に合わないよ!」

 少年の声は、奇異なかたちの青い携帯端末からであった。
この携帯端末は【PET(ペット)】と呼ばれる。
正式名称は『パーソナル・ターミナル』。通話やメール機能、インターネットへの接続や電子機器への接続。
そのほかにも数多くの機能を持ち、プログラムのインストールしだいで無限の汎用性を持つ。
現代社会で生活するに当たって、絶対に欠かせない必需品。
 そして、中でもPETには最大の特徴があった。
それは一台につき一人のネットナビがインストールされているという点だ。
 このPETにインストールされているのは、言うまでもない、このロックマンである。

「うぐー……時間を操ったり出来れば、遊びにも行けるのになあ……」
「前にそんなナビもいた気がするね」
「嘘、マジで!? それ、いつの話だロックマン!?」

 熱斗の椅子ががたりと音を立てた。
サボるために向ける熱意があるなら、勉強に向ければいいのにとロックマンは多少思わなくもない。

「もうずっと前の話だよ。熱斗くんが小学校五年生のときに、ロールちゃんを誘拐しようとしたやつがいたじゃない」
「あー……あいつかあ」

 【クロックマン】。
以前、ロックマンと同じネットナビである【ロール】を誘拐しようとしたナビである。
 その正体は、なんと二百年も先の未来で開発されたネットナビ。
時空をも超え、時間を操ることの出来る強敵。
彼の目的は、『未来や過去の全ての美しいネットナビをコレクションすること』であった。
しかし、その目論見は光熱斗と【ある少年】によって阻止されたのであった。

「やっぱアイツ、デリートしなきゃ良かったかなあ?」
「何変なこと言ってるの、熱斗くん……?」
「じょ、冗談だよ、ロックマン! 落ち着け!」

 画面越しの強烈な殺意を感じ取った熱斗はあわてた。
一瞬本気でそう考えたとか、口が裂けても言えない。
ロールというネットナビが絡んだときに限り冷静でいられなくなることを、
果たしてロックマン自身は自覚しているのだろうか。
熱斗は、今それを言うのは火に油を注ぐようなものだと思い、やめておいた。

「でも、時間を操れたら面白そうだよな」
「どうせ変なことに使うつもりなんでしょ、熱斗くん」
「違うって! 単純にさ、未来の世界を見て回ったりとか面白そうじゃん」
「未来の世界、かあ」

 ロックマンの脳裏には、かつて共闘した【ある少年】が浮かんだ。
クロックマン同様、彼も未来からの来訪者であり、そして———【もうひとりのロックマン】。
彼にも会いにいけるだろうか、とも考えた。

「それにさ、過去を見て回ったり」
「それなら、【パストビジョン】を使えばいいんじゃない?」
「でもさ、パストビジョンじゃ保存した過去しか見れないじゃないか。
 おじいちゃんと話したいことだってたくさんあるし」

 過去に干渉するということは、非常に危険な行為であるらしい。
かつてこの時代に来訪した【ある少年】もそのようなことを言っていた。
 本来してはいけないことであっても、踏み出してしまう好奇心。
この熱斗という少年は、とりわけその傾向が強かった。
それは危うくもあるし、同時にそれが、結果的に世界を救ってきたのも事実である。
 咎めるべきなのか見守るべきなのか、ロックマンにはいまいち図りかねていた。

「……確かに、面白そうかもね」
「だろ?」
「うん。昔のことって、知識としては知っていても実際に見るなんて出来ないもんね」
「おう。それに【スバル】にも会いに行けるかもしれないしな!」

 どうやら、この少年も同じことを考えていたらしい。
しかし、彼が時間を超えることが出来たのは、彼らの世界のテクノロジーによるものだ。
 つまり、今の世界にいる自分達には出来ない。
時空を超えるなど、不可能なことなのだ。
 だったらせめて、その夢を語ろう。
どうせ叶わないことなのだから、せめて想像を膨らませて楽しむくらいは許されるはずだ。
熱斗くんもがんばったのだし、少しくらいは休憩させてあげよう。
ロックマンは、そう思ったので、この話に乗ることにした。




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 【ウラインターネット】と呼ばれる場所がある。
かつて【プロト】と呼ばれる、インターネット史上最悪の怪物にして
『初期型のインターネットそのもの』である存在の対抗策として造られた、
『もうひとつのインターネット』。
 表のインターネットの法律が通用しないその場所は、
【プロト】が消失し役目を失った現在では、闇がはびこり悪が闊歩する文字通りの裏社会に成り果てていた。
 そして【プロト】への最終兵器として用意されたウラインターネットは
さらに幾つかの脅威を所有していた。
 ひとつは、ウラインターネットを管理するために存在する【シークレットエリア】。
 もうひとつは、強い闇を持つウラインターネットの中でも更に深い闇【ブラックアース】。
 そして、ネットナビの墓場【グレイブヤード】。
グレイブヤードは、ネットナビが破損・デリートされた際に残った【残留データ】が集まる場所である。
 否、集まるように設定されていたのだ。
【プロト】が復活した際、残留データを使用してプロトを迎え撃つために。
【プロト】は、電脳世界の全てを喰らい尽くす怪物である。
それを利用し、膨大すぎるほどの量のデータを食べさせ、【プロト】をパンクさせるために。
 だから世界中の全ての残留データは、このグレイブヤードに集約されるようになっていた。
 無論、以前二人の『ロックマン』に倒されたこのナビの残留データも。
 【クロックマン】。
二百年前の未来から訪れた、時空を操るネットナビ。
体のあちこちが、時計を意匠したデザインのナビである。
しかし、その姿にかつての活気は見えない。
まるで亡霊のようであった。
当然である。なぜなら、このクロックマンは残留データであるのだから。
ロックマンとの戦いにより、彼の感情というデータは消去されてしまった。
今のクロックマンは、たとえるならば、
優秀な機能を山ほどインストールしたにもかかわらず、バッテリーの存在しないパソコンである。
時空を超える能力だけが運よく残されても、なんの意味も為さなかった。
 いや、もしかしたら運は最悪だったのかもしれない。

 電脳世界の最果て、グレイブヤード。
今、グレイブヤードを彷徨うクロックマンの背後に現れた人影は
紛れもなく【フォルテ】と呼ばれ恐れられた、最強のネットナビの姿であったからだ。
 フォルテはクロックマンへと手を伸ばす。
背後からクロックマンの頭部を掴んだフォルテは、あるプログラムの名を言い放ち、それを起動させた。

「———【ゲット・アビリティ・プログラム】」




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