二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  ドラゴンクエスト—Original—漆黒の姫騎士
日時: 2013/12/06 22:23
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: V4iGFt6a)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=24342

  ——世界が美しい勇者を求めるならば。
      わたしは決して、主人公にはなれないから。



【 お知らせ 】
 Chess、もしくは漆千音です。
 (旧)二次小説(紙ほか)にて更新しておりました
『  ドラゴンクエスト—Original—  漆黒の姫騎士』
 …のリメイクver.であります。

 やっやこしい設定をばっさり切り捨てて話の展開をもう少しゆっくりに…するつもりです。((←ォィ

 もう一つの作品『  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ』と
かぶる名前が多々出てきますが、決して関係はありません。この名前が好きなんだと解釈願います。

 …珍しく真面目な文章書いていますが実際の性格はぶっ飛んでおります←

 ではでは、新小説共々、よろしくお願いします((*´ω`


【 ヒストリー 】
   2013
12/6 スレッド作成、更新開始

Page:1 2



Re:   ドラゴンクエスト—Original—漆黒の姫騎士 ( No.5 )
日時: 2013/12/14 22:46
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: RrZohNJD)

 山々を赤く染めながら太陽がその姿を失っていく頃合。
 実に十日ぶりの街は、マイレナの肩の荷を下ろさせる一方むず痒くする。
マイレナは生まれが村だ。しかも、他との交流のない、閉鎖された小さな土地であった。
人口も百人いたかどうか。ここは大して大きな街ではないが、それでも
生まれ故郷とは比べようのない人口差があるだろう。
マイレナは決して人付き合いの悪い性格ではないが(むしろリーシアの方が圧倒的に悪そうだが)、
環境に慣れ切っていないのもまた事実である。

 街へ入るしかじかの手続きを終えると、待ち構えたように門の横の低木の陰から小さな姿が飛び出してきた。
観光なら案内するよ、前払いと後払い、両方で。と愛想のよい笑顔を張り付けた少年は
十中八九家のない子供だ。大人顔負けの饒舌で自分を雇うことの利点を並べ立てるその様子は
なかなかしっかりしている。彼らの事情をリーシアに教えてもらったのはつい最近だ。
そんな彼らのことを考えると、自分も大して持っていないありあわせの小遣いを確認したくなるが、
その前にリーシアはぴしゃりとそれを阻んだ。一転、あからさまな不機嫌顔を見事に作り上げた少年に、
地図なら買い取ろうと呟く。これはいつものことだ。再び営業スマイルに戻った少年は、用意の良いことに、
襤褸布のようになったショートパンツのポケットから以外にも小綺麗な紙切れを押し付ける。
商売道具だからね、と胸を張る姿は、ある意味でマイレナより世間を知っていてませているかもしれない。
リーシアはざっと羊皮紙に目を通し、一度だけ顔をしかめた。空模様をもう一度確認し、
小さくため息を吐くと、安い宿屋の位置を尋ねる。少年はもったいぶったように笑った。
今度は遠慮なくため息を吐き、左手を軽く振る。ちゃり、と硬貨の擦れる音が響いた。
ついていきそうな雰囲気を見せた少年に地図を突きだすリーシアの表情はまだ無感情である。
うん、まだ大丈夫だ、とマイレナは内心冷や冷やしている。
 怒らせると冗談抜きで怖いからねこのお姉ちゃん。怒らせないでね。うん。
なんて、今からマイレナは少年の身を案じている。

 ようやく満足のいく情報が聞き出せたのだろう、リーシアは少し色を付けて賃金を少年に握らせた。
一瞬不満そうな顔を見せた少年に、リーシアの形のいい眉がすっと寄る。
 あ、マズイ。マイレナの中の警告灯が音を立てて鳴り始めたが、幸い少年にも伝わったらしい。
どうもねー、とあの愛想のいい笑顔でそそくさと去ってゆくところを見ると、
リーシアの無表情というのは初対面にも十分な効果を発揮する、という
初めて会って以来一度も揺らいだことのない考えが舞い戻ってきた。

「あの金額で不満顔をされちゃあな」

 そのことについて茶化すように指摘すると、リーシアからはそんな言葉が返ってきた。

「なかなかいい情報を持っていたから少し多めに払ってやったつもりだったんだが…
どうやらここはかなり金回りの良い街っぽいな」
「んー…私にはそーゆーの、よく分かんないんだけどね。
でもまぁ、確かにね、結構お金持ちっぽい人多いね」

 少年とリーシアが賃金対決(と、勝手にマイレナは名づけている)している間に暇人となるマイレナはいつも、
その間にその街や国の人間たちをざっと観察している、と言うのがいつの間にか定着したスタイルとなった。

 すれ違う人の大半が、辛うじて顔を出している太陽の眼を受けてきらりと反射する、
夕焼けよりもいっそう紅い透明の加工された石を身に着けている。
首、耳、腕、飾るところは人それぞれだが、色だけは皆一致している。

「ルビーかな」リーシアは言った。「おかしいな…アクアマリンじゃなかったのか」

 ルビーなのかぁ、と、リーシアの語尾を飾り付けている疑問符に大した違和感も覚えず納得したが、
よく見ているとその赤が妙に生々しいように思えて、マイレナは少し目を逸らした。
 切なそうに、腹の虫が足しを求めて主張を始めた。食料はほぼほぼ底を尽きているに等しい。
最近はまともな食事も摂っていなかったためだろうと、誰でも当たり前に想像のつくことを改めて考える。
久しぶりのちゃんとした飯にありつけると思うと、気分は成長期であるマイレナの思想は一瞬にして
赤い宝石からありもしない豪勢な食事への妄想へと切り替わったのであった。

Re:   ドラゴンクエスト—Original—漆黒の姫騎士 ( No.6 )
日時: 2013/12/15 23:10
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: nkm2s9o8)

「アクアマリン? ははっ、お嬢さん、流行には疎いのかい?」
「生憎ながら」

 安宿の食事が豪勢なわけがない。
 一瞬で作り上げた食事への妄想は一瞬で砕け散り、マイレナは出された質素なありあわせ野菜の塩炒めを
ちまちまと食べながらリーシアと街の住民の話を聞いていた。…何かキャベツの芯が硬い。

 どこにでもあるような、酒場を兼ねている宿屋らしく、数えるほどの中年の人間たちが
ぼそぼそと日常会話を交わしながら麦酒の盃に口付ける。繁盛しているわけではなさそうだが、
閑古鳥が鳴くほどではないらしい。申し訳程度のろうそくの火に虫でも入り込んだのか、小さく音を立てる。
降り始めた雨だけではなく、そんな音でさえ耳に飛び込んでくるほど静かで、
当然二人の会話はその場全員に筒抜けだった。周りからくちばしを挟んでくる。

「あんたら、旅人だろう。このご時世に娘っ子二人でとは、相当な目に遭ったんだろう」
「まぁ、そこそこに。…で、今はどうなんだ」

 干渉されたくないとばかりにリーシアは自分の身の上話になる前に話題を戻す。
貧相な暮らしの常連客達も、人の事情に係わることの面倒さと厄介さを知っているのだろう、
これ以上突っ込むことはなかった。背の低い宿屋の女将が出てきて、マイレナの二つ隣の席に
どっかり腰を下ろす。酒場の主人も兼ねているらしい。旦那はいないようだ。

「宝石なら、むしろあんたらくらいの方が詳しいもんだと思っていたけどねぇ」雑把な話し方も、
痩せた姿では何の貫録も見えず、むしろ浮き出た初老の雰囲気を却って醸し出している。
「アクアマリンなんて今じゃ安いもんさ。って言ったって、あたしらの手の出せる額じゃあないんだけどねぇ」
「あの赤いやつの所為か」
 マイレナは相変わらず黙って、常備食とほぼ変わらない食事を掻き集めている。…お茶が薄い。
「そうさ。うちのおっかあなんか、アクアマリンすら買えねえってのに、
あんな赤ぇもん欲しがりやがる。全く女ってぇのはわかんねぇや」
「あたしはそんなんじゃないよ」
「分かってんよ、おっかさんにゃもう遅ぇ!」
「そうだねぇ。あたしはもうこんな歳だしねぇ…今日の酒代、倍にしとこうか」
「おいおい、そりゃねぇよ!」

 珍しい笑い声は、僅かに人々の頬を緩ませ、固い口を割ってゆく。
マイレナは更に食事をすすめる。…スープの味がない。

「あれは何ていう宝石なんだ?」
「あんだ、やっぱ嬢ちゃん、欲しいのかい? ありゃ相当張るってもんじゃねえぞ」
「手中に収めることに興味はない。ただ、気になっただけだ」
「ふぅん…珍しいこった。まぁ、知らねぇんだけどな」

 予想外の言葉に(リーシアはうすうす気づいていたようだ)、マイレナはゆっくり噛んでいた
芯の残る野菜を飲み込んだ。…喉に引っかかった。慌てて色のない紅茶を流し込む。

「どんだけか前に、いきなり流行り出してよぉ。金持ち連中がそりゃあ次々に欲しがったもんで。
特産品って言うだけあって一応、アクアマリンもまあそこそこには採れるからってな、
人気が無くなって一気に値段が下がっちまったのさ。で、代わりにあの赤いのが、
阿呆みたいな値段になっちまったってわけだ」

 よくある話だ、と最後に付け加えたとおり、確かに容易に想像のつく話ではあるとマイレナは思った。
…まだ何だか、喉に引っかかっている感じが抜けない。こっそりと喉と胸の間をどんどんと叩く。
幸い先程より店の中に会話が溢れているために、気付かれることはなさそうだ。
 リーシアは立ったまましばらく腕を組んで考え事をしていた。
勝手に盛り上がる中年たちの話を聞きわけているようだ。喉の詰まりを何とか流したマイレナも倣った。

 名称不明の赤い宝石がどこで手に入るのかは全く分かっていないらしい。
持っているのは、貴族並の金持ち連中はもちろん、庶民の中でも少々収入の良い家の人間も
ちらほらと入手しているとのことだ。決まって庶民たちは殆どが借金をしている。
と言うことは言われた通り恐ろしい値段なんだろうなぁ、とマイレナは機械的に野菜を噛みながら考える。
あまり出回っていないのかもしれない。宝石なんて何がいいんだろう。
石は石じゃないか——とまで考えて背筋をぞくりと震わせる。最後に見たあの毒々しい色が
彷彿として蘇った。…うん、やっぱり、何がいいのかわからない。

 リーシアがマイレナへ向き、小さく首を振った。気が済んだらしい。
ようやくかと、敢えて細々と進めていた食事を一気にかきこむと、ごちそうさまでした、と挨拶した。
言い値を払い、リーシアは情報料をそれぞれに渡すと、きしむ木製の階段を上って部屋へ向かった。

「あのお嬢ちゃん」会話の中心だった旅人が消え、再び静寂を取り戻しつつあった中で、
女将は誰に聴かせるわけでもなくぽそりと声をあげた。「なかなかの曲者だね」
「そうなのか? まぁ、女は皆そんなもんだろう」
「偏見だよ、差別ともいう。勝手に決めつけないどくれ。…でもねぇ」

 思うように伸びない小じわだらけの指と、黒ずんだ爪に目を落とし、ため息を吐く。
「きっと昔は相当高い身分だった子だよ。貴族の類さね。気品が違う。
…だってのに、お高いものに興味がないって言うのは間違いなさそうだ」

 多くの客と出会い、別れてきた女の見解はなかなか鋭いと考えられている。
皆、ほうほうそうなのかと、他人事のように耳を傾ける。

「何があってこんな安宿に泊まるようになったのかは知らないけどね…厭味の道楽でもなさそうだし。
でもやっぱり、曲者に変わりはないよ。何を起こしてくるやらねぇ…」

 溜め息を最後に、女は重い腰を上げた。

Re:   ドラゴンクエスト—Original—漆黒の姫騎士 ( No.7 )
日時: 2013/12/17 21:14
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: nkm2s9o8)

 リーシアは腕立て伏せをしながら決して少ないわけではない手持ちの額を確認した。
マイレナはのんびりと全身を伸ばしている。寝起きの悪いマイレナにとって、
朝っぱらから腹筋背筋側筋(脇腹を上げる運動らしい)に腕立て伏せと、
一体どこの格闘家だと聞きたくなるようなリーシアの運動にはついていけるようなものではない。
寧ろこんな時間に起きられることに称賛の拍手を送ってほしい、と思うほど
根本的なところからついていっていなかった。…傍目には見えないが、もしかしてリーシアの服の下は
筋肉標本みたいになっているんじゃないか…なんて考えた時期もあったが、
全くもってそういうわけでもなかった。一体彼女の構造はどうなっているのだろう。

 昨夜の小雨から一転、初日の朝は晴れだった。

「どんなもん?」
「…まぁ、一つくらい購入しても支障はない、ってところだな」

 しれっとした顔でリーシアは起き上がり、小分けにして硬貨をしまい込んだ。
そう言ってはいるけど買うときは値切るんだろうな、んで売るときは吊り上げるんだろうな、
なんて考えは胸中から外には出さない。
流石十四の歳で既に旅人だっただけあって(実際、旅人になったのは更に二年前らしい)、
金銭的に生き残る方法を身に着けている。街で一番安い宿を選んだのもそのためだということは既に承知済み。

 そう、これは生き残るためだ。困らないためだ。後悔しないためだ。
…別にケチなんてちょっともちっとも思っていない。アリさんの半分の半分の半分ほども思っていない。
…口に出したらぶっ飛ばされるだろう、うん…。

 悶々とマイレナが、リーシアが読心術を持っていたら間違いなく沈められることを考えているうちに、
もちろんそんな能力のない彼女は立ち上がり、付着した埃を軽く払った。
    サファイア
 時は前蒼石(午前九時)。朝市の席を並べる商人たちの威勢の良い掛け声が筒抜けて聞こえてくる。
安いよ、と言うお決まりの言葉が最も飛び交っているが、想像した通りもともと金回りの良い街なのか、
いずれも言うほど安価と言うわけではなかった。
特に自給自足で暮らしてきたマイレナにとっては誰が買うかと言いたくなるほどの値段である。
この街の人間にとってなら安いのかと思うと、一体アクアマリンや謎の赤い物体はいくらなのだろう。
損だけはしないようになとリーシアは言った。あぁ、悪い笑顔だ。交渉中は全力で他人のふりを決め込もう。

 相変わらず薄味の朝食を済ませて、湿気の多い街の外へ足を進める。
道の端々に残る水たまりは太陽の光を反射する上、蒸し暑さの原因を創り上げている。
商売人は多くの人間とかかわりを持つ故に、情報量は一般の人間の比ではない。
客に紛れて、リーシアは目的の情報集めに入った。

「マレイヴァ? …あぁ、知ってるけど…そんな詳しいことは分かんないよ」
「あのでかい国か? …いや、行ったことはないよ。いつか行ってみたいとは思っていたけどねぇ…」

 なかなか思うような情報は得られない。この時のリーシアはいつも端正な顔をしかめている。

 リーシアの旅の目的は、北東の大陸、春風と木々に抱かれた、紛れもない世界一の大国である
マレイヴァ国の情報集めである。彼女自身に訊いた話であって、詳しいことはマイレナもあまり知らない。

 どうやらリーシアはそのマレイヴァの出身らしい。癖のない黒髪、フォイーユモルト・ブラウンの眸と、
一般と比べて少し尖ったように見える耳は、マレイヴァの人間の特徴の一つ。         スカイ・ブルー
時々、その黒髪が羨ましいと思う時はある。マイレナの髪と眸は、これまた一般から見れば珍しい蒼空の色だ。
纏う旅装も、青色系統でまとめている。もともと長身だということもあって、
マイレナへ注がれる視線は決して少なくない。隣を見れば、打って変わって黒色系統で身を固めた小柄な娘。
ある意味このでこぼこな二人が他からの視線を集めないなどと言うことは厳しい事がらかもしれない。

 ともかく、その黒い娘が故郷の情報を集める理由を、以前一度だけ聞いたことがある。
 今から五年前、マレイヴァは魔物からの襲撃に遭ったという。理由は不明。
一番有力な情報は、その国の姫君暗殺だと言われている。

 姫君の名はアズリーア・ヴェルシーナ・マレイヴァ。

 国により、アズリーアが母方の旧姓で、名前がヴェルシーナらしい。
もちろん、マレイヴァは王族にのみ与えられる苗字だ。
 リーシアは相当良い家の出だったのか、あるいは偶然だったのか(持ち前のケチ…節約精神から、
恐らく後者だろうとマイレナは思っている)、姫君のことは知っているらしい。
が、さしもの彼女も、姫君が暗殺されるような理由は皆目見当もつかないらしい。
王族の事情なんて知るか、とそっけなく言っていた。だからこその情報集めである。
ともかく襲撃により、マレイヴァの地は一夜にして廃屋化し、復興者と旅人の両方に分かれたらしい。
肝心の姫君は行方知れず。父王は既に他界していたらしく、代わってマレイヴァを治めていた母君も、
兄、つまり王子も行方が分かっていない。確かに謎だらけの襲撃である。

 リーシアはおそらく、マレイヴァを襲撃した魔物と、行方をくらませた
女王様たちを探しているんだろうなぁ、とマイレナは思った。人探しという点は同じだ。
自分も、リーシアにただついているように見えながら、
密かにどこかへ消えた村人たちを探しているともいえるから。

Re:   ドラゴンクエスト—Original—漆黒の姫騎士 ( No.8 )
日時: 2013/12/21 00:04
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: nkm2s9o8)

 リーシアが祖国の情報を集めている間、マイレナは気になっていた宝石類の話を聞いていた。
リーシアと違い人懐っこさを兼ね備えているマイレナは、適当に選んで話しかけた庶民のおばさんに
お茶までごちそうになっていながら話を聞いていた。

「あの赤い宝石かい? あらあらやっぱりあんたも欲しいのかい!
そりゃあそうよねぇなんたって最新流行第一位だもんねぇ!」
「んー? いやぁ、欲しいわけじゃないんだけどね。私旅人だし」
「あら。そうなの? えぇ、まだ若いじゃないの。よっぽど大変な目に遭ったんだねぇ…ほれ、おすそ分け」
「えええ!!? あのイヤちょっといいんですかこんなに」
「いいのいいの。それより旅の話とか聞かせとくれな」

 いつの間にか周りには興味津々と顔を近づけてくる人々。
ここは俗に言う喫茶店—酒場とはまたちょっと違うなとマイレナは思った—、
昼間の人間たちの憩いの場だから無理もない。
とはいえ、旅の話…流石にリーシアの旅事情を簡単に口にするわけにはいかないだろうと考えるが、
少しは役に立てるだろうか、なんて考えも出てきたところでマイレナはふと思いとどまる。
 あれ、話を聞きに来たのってこっちじゃなかったっけ。

 簡単な、大して面白くもない旅の過程を簡単に話したが、意外にもそれは好評だった。
やはり外の世界を知らぬ人々には良い刺激であるらしい。昨日の酒場でもあったように、
気を良くした人間とは饒舌になりやすいもので、マイレナは気になっていた宝石について
実に面白い情報を良く手に入れた。ついでに幾日か分の食料になる者も手に入れた。
会話力とは持って損のないものである。

「あの赤い宝石はねぇ、闇市で売られているって話だよ」
「闇市を知らないのかい。まぁ、珍種が揃っているところらしいな。
関わり合いになりたかないからよく知らんが」
「多分、すっごい値段だと思う。でも手に入れなきゃ…この辺探したら見つかんないかなぁ」
「最近じゃその辺の人でも持っているもんねぇ」

 マイレナは決して頭が悪いわけではない。
話を聞いているうちに脳裏をかすめた違和感は、最終的に確信へと変わっていった。
話を進めている人々の中で特に、うっとりと頬を染める若い娘たちの眼は、
羨望や物欲以上の何かを秘めているように見える。
 それは、赤い石への歪な執着心。


「ここを出たら次は南西の街へ行こう。アインテルス、って言うらしい」
「ん、わかった。何、何かいい情報でもあったの?」
「いや…何日か後に祭りがあるらしい。人は集まりやすいだろうから」

 そっか、と頷く。いろんな街々を巡ってきたが、なかなかリーシアの得たがっている情報は
手に入らないようだ。旅の荷物を揃えがてら、二人は別の市場へと足を運ぶ。
昼の日差しは段々と強さを増し、蒸発し始めた残り雨がさらに体感温度を上げてゆく。
景観を眺めながら、マイレナは先ほど得た石についての話をした。
リーシアは明らかに興味のなさそうな表情をしているが、しっかりと話を聞いてはくれる。
そんなことでも、マイレナには嬉しいことだ。ぶっきらぼうだが、何だかんだ彼女はなかなかに優しい。
言うと殴られるが照れ隠しだろう。多分。…多分。

 もともとここは流行を追う傾向にある街であり、別に流行っているのは石だけではないこと。
単に、最も流行っているのが赤い石であるというだけだという。
石の流行初めはごく最近であること、闇市の噂、庶民にも徐々に手に渡り始めていること、
そして何より、覚えた違和感。

 赤い石は異様な人気を誇っている。が、それを手中に収めたがっている人は決して、
共通して『欲しい』という言葉を口にはしていなかった。

「…欲しくもないものを手に入れたがっているのか?」
「んー、なんていうかね。欲しい…っていうより、…なんて言うのかなぁ。置いていかれたくない、って感じ?」

 リーシアは初めて興味を示したようにずっと半眼だった片目を開いた。
あ、珍しいな…と思ったのも束の間、すぐに視線を前に戻し、
再び半眼—ただし、呆れた、という言葉を出されなくてもありありと読み取れるような—に戻る。
はっ、と短く小馬鹿にしたような、吐息にも聞こえるような笑声を上げたのみだった。

「成程。流行、ね…言われてみれば、皆似たような格好しているな」

 大通りに抜けると、それが嫌でもわかるようになる。特に若者は皆似たり寄ったりの姿だ。
無理に染めたような髪色、異様に多い露出をしているというのに、首には薄布を巻いている。
見えるか見えないか程の大きさの赤い石はやはり思い思いの位置にこぢんまりと飾られているが、
不思議なことに全身を包む何よりも存在感が溢れていた。
 この街は金回りが良いだけではなく、発展も著しいらしく、どこかから発信されている
映像の流れる大型の四角い置物が至る所で見られた(テレビだ、と街の人間は言っていたが、
マイレナはしばらく置物の中に人間がいるものだと勘違いしていた)。
小さな映像の中の世界で、それほど変わらない姿の女性が、あからさまに作り上げた
ハイ・テンションで次々と決められた言葉を紡ぎ出している。
 こんにちは、元気? 今日も今月の最新流行を紹介するよ。乗り遅れたあなたは笑いもの!
みんなで最先端をめざしていこう。なんて言ったってやっぱり、
今月の最も注目すべき品はこの魅惑の赤い宝石…
 この街の人間には、これ以上ないありがたい情報源なのかもしれない。
だが、あくまで二人は旅人であり、異文化の人間。機関銃のように並べ立てられる紹介の言葉は、
的外れで陳腐な呪文のように聞こえてならなかった。

Re:   ドラゴンクエスト—Original—漆黒の姫騎士 ( No.9 )
日時: 2013/12/24 22:00
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: nkm2s9o8)

 大通りを奥へ進むにつれ、そびえたつ建物は豪華さを次第に増して言った。上品ないでたちの人間が目立つ。
はたして中身まで上品かどうかは分からないが、と口に出すのをやめたのはリーシアだけではない。
服に着られているようなぎこちない姿。馬車につながれた不自由な馬。
至る所から流れ出るオフ・ビートのジャズ調の音楽は、まるで着飾るべきところを間違えた
人間たちの象徴だった。決して二人は自分と異なるものを消極的に感じるような性格ではない。
文化は文化だ。だが、二人をそれらの悲観論に到達させるほどの異様さが醸し出されていた。

「貴族階級の区域かな」リーシアは首を慣らした。一瞬喧嘩でもする気かと焦ったが、
単に凝りを解消したかっただけらしい。
そもそも彼女が面倒事を自分から起こすはずがないことを思い出し、マイレナはそっと胸を撫で下ろす。

「んー、何か浮いているよねぇ、私ら」
「旅人なんてそんなもんさ。…マイ、足元」

 おっと、とマイレナは足を退ける。まだ掃除されていない、馬糞を含めたごみを避け、さらに歩を進める。
 マイ、なんて略して呼ばれるのも慣れたなぁと、突然ふと思った。本名も嫌いじゃないが、
彼女の考えたその短くてさっぱりした響きも気に入っている。それになにより、親しみがあるのが良い。

「…意外と人通りも多いものだな」
「だねぇ」

 リーシアはフードを改めて目深にかぶった。街へ入ると、彼女はいつも
人目を気にするように自分の顔を隠す。果たしてそれが何を意味するのかは分からない。
寧ろ顔を出していた方が、昔のリーシアを知っている人に会えるんじゃないかとマイレナは思う。

 ——記憶障害って知っているか。以前、リーシアは言っていた。
抜け落ちているんだよ。多分…六、七歳以前、かな。まるでお茶の誘いをするようなあっさりとした口調で、
彼女自身のとんでもない過去を暴露されたときはその名の通り目玉が落ちるかと思った。
覚えていない、のではない。記憶が、ないのだ。まるで物語の主人公みたいだろ、と
リーシアが自嘲気味に笑っていたのを覚えている。マイレナは嗤えなかった。
時折彼女は額をおさえて蹲る。見て、聞いているこちらまでぞっとするような低音で呻きながら。
平原にはびこる魔物と一戦交え、負傷するときでさえ滅多に声を上げないというのに、だ。
それが閉じ込められた過去が表に出たがっている印だと知ったのはつい最近——二回前のことだ。
 一体彼女には何があったんだろう? 六歳以前なんて、普通に生活していたって
当時のことを覚えているかどうか、なんて曖昧な記憶のもとで生きている頃だというのに。
 消え去った記憶には何か、とんでもないものが隠されているに違いないとマイレナは勝手に思っている。
そうじゃなきゃ、こんなに彼女が苦しむ理由がない。
 十二の歳で一人旅をしているというところから既に常識外れだというのに、
これ以上どんな秘密が隠されているのか——
 けれど、マイレナは決してそれを探らない。決して自分から訊ねない。
触れられたくないことに触れる危うさを知る人間は、無暗に人に干渉することの怖さを知っているのだ。

 ——本当に?



 加減を間違えたようなシナモンの香りが充満する。
せっかく良い匂いなのにもったいない、とマイレナは思った。
あまりにも濃く甘い匂いは、却って気分を損ねさせる。

 煉瓦通りの半ばあたり。外観、垂れ下がる観葉植物の蔓が優美さを演出することに失敗し、
逆に不気味さを醸し出すこととなってしまっている、さして大きくない宝石店の中だった。
 品ぞろえは非常に悪かった。赤の宝石は当然見当たらず、アクアマリンですら数えるまでもなく、二つ。
あとは見覚えのない、価値のあやふやな石が幾つか。
そろいもそろってマイレナの想像できる『高い値段』を軽くまたぐぼったくりの値段である。眩暈がしてきた。

 リーシアは値段を目にした途端に「やめだ」と言った。
あまりにも率直すぎる発言にマイレナは慌てて店主を見る。
思った通り、不機嫌さを隠すこともなく表に出している。
見かけだけでも優雅に飾っている所為で、その表情は非情にミスマッチだった。

「貧乏な方々にお売りするモノもございません、お引き取りを」

 あくまで物腰は柔らかく、発言は刺々しく、店主はなりそこないの笑顔でそう言った。
こんなことでリーシアは怒らない。機嫌も損ねない。無駄な反論もしない。ただ、軽く店主を一瞥し、
くすりと笑ってからすぐに立ち去ったのみ。——却って相手を激昂させる手段であることに
気付いているのか否か。マイレナは肩をすくめつつ、一礼して立ち去った。
まさかそののちに何事もなかったように、そう言えばこのアクアマリンどこで採れるんだ、と
訊きに戻ってくるとはさすがのこの店主も思わなかっただろう。
 …時々思うのだが、リーシアはある意味マイレナより天然な時があるのかもしれない。
…決して口には出さないが。











         漆千音))この時点で伏線がかなり出ているっていう←


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