二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 【オリキュア】メモリアルプリキュア!
- 日時: 2017/08/01 23:00
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
初めましてかこんにちは!愛です!
本日からはメモリアルプリキュアというオリキュア小説を書きたいと思っています。
基本テンションとノリに任せて書くのでグダグダすると思いますが、楽しんでいただけると幸いです。
それでは、よろしくお願いします。
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- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.72 )
- 日時: 2017/10/16 22:58
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
- 参照: 間違えて消去してしまったため再投稿
第12話「目指せ金賞!夢を奏でろピアノコンクール!」1
<瑞樹視点>
「うん?」
いつものように学校から帰り、学校から出た課題や復習を終えて、気晴らしにピアノでも弾こうとリビングに入った時だった。
ピアノコンクールの広告がテーブルに置いてあるのを見つけたのは。
「あれ、瑞樹。どうしたの?」
そしてソファに座り紅茶を飲んでいる兄貴。
私はその隣に座り、雑誌を指さした。
「兄貴。この広告は?」
「うん? あぁ。次やるピアノコンクールの広告さ。学校の意向で参加しろって」
そう言って紅茶を飲む兄貴。
「ふーん」と返事をしていると、兄貴はティーカップに紅茶を入れて、私の前に置いてくれた。
「はい」
「ん。サンキュ」
そう言いながら、私は広告を眺める。
へぇ……ジュニア部門に中学生部門と高校生部門があるのね。
自分でも無意識の内にじっくり見ていたためか、兄貴が優しく微笑みながら広告を覗き込んだ。
「熱心に見ているね。瑞樹も参加するかい?」
「はぁ? 何言ってんの」
ただ見ていただけなのになぜそんな話になる。
そもそも、ずっとピアノをサボっていて、最近ようやく趣味で弾いたり杏に教えたりする程度になったばかりだというのに。
しかし、兄貴は柔らかい笑みを浮かべたまま、私の持つ広告に視線を向けた。
「いや、瑞樹の広告を見る目があまりにも真剣だったからね。でもそうか……参加しないのか」
「うッ……」
少しだけ落ち込んだ様子の兄貴に、私は胸が締め付けられる。
しかし、数年ピアノに触れていなかった今の私は、恐らく初心者に毛が生えた程度の演奏しかできない。
そんな実力でコンクールに出たりしたら、不評を買うに決まっている。
試しにそう訴えて見ると、兄貴は「なんだ、そんなこと」と言って笑った。
「大丈夫だよ。プロアマ関係なく参加できるし、瑞樹ならきっと皆に負けない演奏が出来るさ」
「なんでそんな過大評価するかな」
「瑞樹を信じているからさ」
そう言って白い歯を見せる兄貴に、私はため息をついた。
しかし、ここまで言われて断るのもなんだか悪い。
それに、と少し考える。
兄貴とのイザコザが解決してから、私の中では、またプロのピアニストになってみたいという夢が沸々と湧き上がってきつつあるのだ。
本格的なレッスンをするほどではないが、今回のコンクールの結果次第では、レッスンなどを検討してみるのも良いかもしれない。
私はため息をついてから、微笑んだ。
「しょうがない。やってやんよ」
私の言葉に、兄貴は嬉しそうに笑った。
夜。私はベッドで仰向けになりながら、杏に電話する。
内容としては、杏のピアノレッスンがしばらくできないということ。
理由としてピアノコンクールに出ることを話すと、大層驚かれた。
『ピアノコンクールなんて凄いじゃん! 頑張って!』
「ありがとう。ま、せいぜい笑われないように頑張る」
『瑞樹ちゃんなら大丈夫だよ〜』
杏の励ましに、私はもう一度「ありがとう」と返した。
明日の土曜日は家で早速コンクールに向けた練習を開始することを話すと、杏は、リコルンと応援に来てくれるという。
暇人だな〜と思ったが、日曜日には生意気モデルとお出かけの約束があるとか。
あの二人も相当仲良くなったものだ。
『ごめんね。日曜日も瑞樹ちゃんの所に行きたいんだけど』
「良いよ良いよ。生意気モデルはずっと杏の憧れの人だったんでしょ? 楽しんでおいで」
『ん……ありがとう』
「いえいえ」
それからしばらく他愛のない雑談をしてから、電話を切った。
久しぶりのピアノコンクールだ。緊張するなぁ……。
ベッドに倒れ込んで目を瞑った時、小さい頃に参加したピアノコンクールを思い出した。
そういえば、と少し考える。
あの頃、よくピアノの腕を競い合っていた相手がいた。
ピアノから離れてから一切関わらなくなっていたが、彼は元気にしているだろうか。
「ま、私には関係のない話か」
今回のピアノコンクールに参加するわけないし、気にするほどでも無いか。
私は携帯電話をベッド脇の棚に置き、兄貴が用意してくれた課題曲の楽譜を手に取り眺める。
少しでも良い結果を残せるように……頑張らなくちゃ。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.73 )
- 日時: 2017/10/16 23:00
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
- 参照: 間違えて消去してしまったため再投稿
第12話「目指せ金賞!夢を奏でろピアノコンクール!」2
<セフト視点>
キュアパーストのメモリアから彼女の弱点を探っていた俺は、ゆっくり瞼を開いた。
ピアノコンクール……か。
奴は確か、ピアノを弾くんだったか。しかし、紫音が原因で一時期ピアノから離れていたとか。
最近趣味の範疇ではあるが、またピアノを再開したようだが。
しかし、前回のキュアアデッソの場合は、邪魔するつもりが成長の糧になってしまった。
一つ、キュアパーストとキュアアデッソのメモリアを交換してからかうというのも考えたが、また成長の糧にしてしまう可能性もあるので却下。
……逆に、何もしない方が返って、今以上に奴等を成長させる可能性を減らせるか?
とはいえ、少なくともこの目で見ておきたい部分はある。
場合によっては邪魔したりして、邪魔する必要性があれば、すれば良いか。
そう結論付けて、俺はゆっくり立ち上がる。
すると、ちょうどこのメモリア保管庫に入って来たシッパーレと目が合う。
「……セフト……」
「おや……シッパーレさん」
そう言いつつ、彼女に近づく。
すると、青い鱗のような肌をした美女は、警戒した様子で後ずさる。
そんなに怯えなくても良いのに……。
「な、何よ?」
「いえ、別に? ただ、最近少しメモリアの集まりが悪いですね……」
そう言いながら、俺は彼女の隣に並び、そして……。
「このままでは、三幹部様のクビが、少し危ういかと思われまして」
「ッ……」
シッパーレは忌々しそうに舌打ちをして、俺の顔を見る。
試しに肩を竦めて見せると、彼女はそれ以上何も言わずに、踵を返し去っていく。
少し言い過ぎたか? まぁでも、これくらい言っておいた方が、少しはやる気に繋がるか。
「それじゃあ俺は、お友達の紫音君の所に、遊びに行かせてもらいますかね」
そう呟いて少し笑い、俺は歩き出した。
<瑞樹視点>
翌日から、兄貴に教えてもらいながら課題曲の練習が始まった。
コンクールの課題曲は二曲。その内、一曲は幸いにも私が好きな子犬のワルツに決まった。
だから、私がコンクールまでに覚えなければならない曲は残りの一曲のみなのだが、その一曲がかなりの曲者だった。
ショパンの「革命」。
最初メロディを掴むために兄貴と共に聞いてみたら、かなり難しそうで呆然としたものだ。
兄貴はどうやら弾けるようで、お手本で目の前で弾いてもらったが、正直指の残像が何度か見えた。
ピアニストを目指していた全盛期の私ならいざ知らず、今の私に弾けるのだろうか。
……いや、弾けるか、じゃない。弾くんだ。
そんな覚悟と共に、私は早速弾き始めた。
しばらく弾いていると、途中で失敗して、不協和音が響いた。
「あっ……」
「おや」
私が声を漏らすと、兄貴はふと顔をあげ、私の元に近づいて来る。
そして、私が見ていた楽譜を持って、ジッとしばし見つめる。
「失敗したのはここか」
「毎回そこで失敗しちゃうんだよ……なんでかなぁ」
「まぁ、ここはかなり複雑だからね。まぁ、次行ってみれば良いよ」
兄貴の言葉に頷いた時、インターホンの音が鳴った。
一瞬立ち上がろうとしたが、すぐに兄貴が歩いて行ったので、私は座り直してピアノを弾き始める。
楽譜通りに、鍵盤を叩く。
重々しいメロディがリビングに響き、自然と体が揺れて……———。
「瑞樹ちゃん!」
その時名前を呼ばれ、醜い不協和音が響く。
咄嗟に見ると、そこには、リコルンを抱いてこちらに駆け寄って来る杏の姿があった。
さらに驚いたことに、その後ろから兄貴と一緒に芹谷さん? も歩いて来る。
「杏、来てくれたの?」
「うんっ! あ、そういえば、さっきそこで芹谷さんに会って……」
「風斗、で良いよ」
そう言って微笑むせr……風斗さん。
彼の言葉に、後ろから歩いてきていた兄貴がため息をついた。
「杏奈ちゃんは分かるけど、なんで風斗までここに?」
「ヘヘッ。紫音に会いたかったから、来ちゃった」
悪戯っぽく笑いながら言う風斗さんに、紫音は困ったような表情をした。
そんな二人のやり取りを見ていると、杏が私の隣に座った。
「ずっと弾いてたの? ピアノ」
「あー……まーね」
「だと思った。だから、ハイ、お土産」
そう言って、近所のドーナツ屋さんの箱を差し出して微笑む杏。
天使がいる。中々弾けないストレスが私の中からスーッと消えていくのが分かった。
箱を受け取り開けて見ると、入っているドーナツは四種類だった。
プレーン、チョコ、ストロベリーに抹茶。
私は抹茶を取り出し、早速一口食べた。
「うまッ!」
そう感想を漏らすと、杏がクスクスと笑った。
ぬいぐるみのフリをしているリコルンは何も反応は無いが、どことなく羨ましそうな目で私を見ている気がする。
兄貴と風斗さんは……っと、二人で話しているな。
二人がこちらに向いていないのを確認して、私はドーナツを少しだけ千切り、リコルンの口に入れてあげた。
ドーナツを食べたリコルンは嬉しそうな顔をした。
「美味しいリコ!」
感極まったからか、そんな声を出した。
私と杏で慌ててリコルンの口を塞ぎ、兄貴達に視線を向けた。
「瑞樹……今の声は……?」
聞かれてたー!
焦った私は、咄嗟にリコルンの体を両手で掴み、顔の高さまで持ち上げる。
「どっ……ドーナツ美味しいリコ〜」
裏声でそう言いつつ、リコルンの手を振る。
兄貴は「リコ……?」と首を傾げ、風斗さんは可笑しそうにクスクスと笑った。
「紫音の妹ちゃんって面白いね!」
どうやら受けたようだ。
ホッと息をついた時、風斗さんがスタスタとこちらに歩いてきて、顔を近づけて来た。
「……!?」
「だから、もっと君のこと知りたいな」
そう言って微笑む風斗さん。
そうですね、と返事をしようとした時、風斗さんの襟首を掴んで兄貴が引き離した。
「人の妹をたぶらかそうとするな」
「たぶらかすなんて人聞きの悪い。ただ、瑞樹ちゃんとも仲良くしたいだけだよ」
そう言ってクスクスと笑う風斗さんに、兄貴は呆れたようにため息をついた。
不思議そうな感じだけど、悪い人では無い、のかな?
そう思っていると、風斗さんは私の方を見て、フッと微笑んだ。
「そういえば、瑞樹ちゃんはピアノコンクールに出るんだって?」
「あ、ハイ。今もその練習中で」
「へぇ〜。練習は順調?」
「うーん……微妙ですかねぇ……同じ場所でいつも失敗しちゃって」
「へぇ」
感心したように言う風斗さんに、私は少し目を伏せた。
なんか、杏や兄貴ならまだしも、出会ったばかりの風斗さんに愚痴るのはなんか違ったかな〜。
「……は……ないか……」
その時、風斗さんが何か呟くのが聴こえた。
顔を上げると、風斗さんとちょうど目が合った。
彼は不思議そうな感じで笑い、首を傾げた。
「あの……今、何か言いましたか?」
「え?」
なんとなく聞いてみると、聞き返された。
……空耳、かな?
ていうか、少し休憩が長すぎるか。
私はドーナツの残りを箱に戻し、ピアノに向き直り、また練習を再開した。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.74 )
- 日時: 2017/10/22 21:17
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
- 参照: 間違えて消去してしまったため再投稿
第12話「目指せ金賞!夢を奏でろピアノコンクール!」3
それからひたすら弾きまくって、なんとか一通りつっかえずに弾けるようになった。
楽譜もなんとか覚え、コンクールで一応は弾けるようになった。
しかし、やはりその程度の技量ではコンクールに出る他の参加者に失礼になるかもしれないので、一通り弾けるようになった後はひたすら練習を重ねた。
ある程度のレベルに達した頃、ついにピアノコンクールの日になった。
「それじゃあ、僕達は観客席で見ているからね」
会場の前まで一緒に歩いてきてくれた兄貴は、そう言って微笑む。
「瑞樹ちゃんならきっと金賞取れるよ! 頑張って!」
そう言って拳を作る杏に、私は「ありがとう」と返す。
彼女に抱かれているリコルンも、目で応援してくれていた。
「頑張ってね。応援してるよ」
風斗さんはそう言って微笑む。
私はそれに頷いてから、参加者用の出入り口まで歩いて行く。
それから、衣装に着替える更衣室に案内されたので、早速着替えを始める。
水色のシンプルなドレスに着替えて、更衣室を出て歩いていた時だった。
「……瑞樹?」
名前を呼ばれ、私は振り向いた。
そして息を呑む。
紺色の髪に、赤茶色の目。
最後に会った時より大分背も伸びて、顔も端整になっている気がする。
彼は私の顔を見て、僅かに目を丸くした。
「やっぱり瑞樹だ……あ、俺のこと覚えてる?」
「……越前 音哉(えちぜん おとや)」
「へぇ、覚えていてくれたんだ。嬉しいな」
そう言って音哉……オトッペは、嬉しそうに笑った。
オトッペだ……私のピアノ全盛期に、よく同年代でのライバルとして名前を連ねられていた少年。
演奏が上手い上に顔も整っているので、女子からかなり人気がある。
「え、なんで、アンタがここに……」
「なんで、っていうか……俺は普段から、近所でやるコンクールには参加するようにしているんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
私がそう返すと、オトッペはなぜか照れ臭そうに目を逸らした。
不思議に思っていると、「それより」とカノッペは口を開く。
「お前はなんでここにいるんだよ?」
「……ん? 何? 私がここにいたらダメな理由でもあんの?」
「はぁ!? そんなこと言ってねぇだろ!?」
そう言ってオトッペは呆れたようにため息をつき、口を開く。
「お前、ピアノ辞めたんだろ?」
「……」
「何、ピアノ、再開すんの?」
「……さぁね」
「はぁ?」
聞き返してくるオトッペに、私は少し視線を彷徨わせる。
別に、ピアノを本格的に再開するわけではない。
あくまで今回は自分の実力をしっかりと把握して、それに応じてこれからの進路を決めるだけだ。
「あくまで、今回は自分の実力試しというか……そんな感じ」
「……もし今回の結果が良かったら、どうすんの?」
「結果によっては、またピアノを本格的に始めるのも悪くないかなって」
「ふーん……」
なぜか納得しない様子のオトッペ。
しかし、それ以上は言及せずに、二人で歩いて会場に向かう。
漂う沈黙に、私は耐えられずに、口を開いた。
「オトッペ」
「んあ?」
「絶対アンタなんかに負けないからね」
少し強気な感じでそう言って見せると、オトッペは顔をしかめながら「そっくりそのまま返すよ」と言った。
全盛期以来のやり取りがなんだか可笑しくて、私とオトッペは、同時に吹き出した。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.75 )
- 日時: 2017/10/21 21:27
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
第12話「目指せ金賞!夢を奏でろピアノコンクール!」4
いよいよコンクールが始まった。
私の刻一刻と迫って来る出番に、私は胃がキュッと縮まるような思いをした。
しかし、その時にオトッペがクッキーを一枚くれたので、それで少しだけ気を紛らすことが出来た。
他の人の演奏中は、自分の出番にさえ間に合えば観客席から演奏を見ていても良いそうだ。
赤の他人の演奏はあまり聴く気にはなれなかったが、どうせすることもなかったので、後ろでのんびり聴いていた。
「瑞樹ちゃん?」
ちょうど人の演奏が終わった時、小さい声で名前を呼ばれた。
見ると、そこにはリコルンを抱いた杏がいた。
「杏。どうしてここに?」
「さっきまでトイレ行っててさ。演奏と演奏の合間じゃないと入れてもらえないんだよ」
「へぇ……」
「瑞樹ちゃんこそ、なんでここに?」
杏の質問に答えようと、口を開いた時だった。
『次は、エントリーナンバー8。越前音哉君です』
その放送に、私はハッとステージに視線を向けた。
すると、ちょうどそこには、観客に向かってお辞儀をしているオトッペの姿があった。
彼はピアノの前の椅子に座ると、椅子の高さを少し調節して、早速弾き始めた。
一曲目は仔犬のワルツだった。
軽やかで明るい感じのメロディが、ホールの中に響く。
……あぁ、どうしよう。
私は口元を手で押さえ、一歩後ずさった。
この演奏……すごく良い……。
語彙力の無い私には、残念ながらそれしか言えることが無かった。
いや、本当に……すごく綺麗な演奏だ……。
奏でられるメロディはとても綺麗で、とても美しくて……私は呼吸をすることも忘れ、その演奏に聴き入った。
二曲目の革命も、すごく良かった。
盛大な拍手が巻き起こるのを聞きながら、私は茫然とした。
……負けた。
すでに、負けた。
そう感じた。
そりゃそうだ。
数年間ピアノを嫌い、最近になってまた好きになったような私と、何年もピアノを愛し続けたオトッペが、同じ土俵で競えるわけがないのだ。
そんなこと、分かっていたハズだ。
でも……———もしかしたら、なんて、希望を持ったんだ。
もしかしたら、私も、良いレベルまで行けるんじゃないかって。
でも、実際は違った。
見せつけられた。格差というものを。
「瑞樹ちゃん……」
その時、私の強張った手に、誰かが触れるのを感じた。
小さな手は、そのまま私の手をなぞるように動き、細い指が私の指を絡め取り、キュッと握るのが分かった。
顔を上げると、そこでは、杏が微笑んでいた。
「杏……」
「大丈夫だよ。瑞樹ちゃん、すごく頑張っていたじゃない」
「でも……」
「……瑞樹ちゃんは、ピアノを弾くのが好きなんだよね?」
杏の問いに、私は一度たじろいだ。
しかし、脳内には、すでに、その解答は定まっていた。
迷う時間なんて、0だった。
「……うん」
「だったら、それで良いんじゃないかな? 好きなことを全力でやるのが、一番だよ」
ね? と微笑む杏に、釣られて私も笑った。
それから、杏の手に私の指を絡め、ギュッと握る。
一瞬、杏は驚いたように目を丸くしたが、すぐに目を細め、握り返してくれた。
「ありがとう、杏。……落ち着いた」
「そっか。良かった」
そう言ってはにかむ杏。
杏のおかげか、先程圧倒されたオトッペの演奏は、もう怖くなかった。
確かに、オトッペの演奏はすごく上手。
でも、そんなこと当然だ。
オトッペはオトッペ。私は、私。それで良いじゃないか。
それから、杏と分かれてステージ裏に行くと、ちょうどオトッペと出くわした。
私はすぐに腰に手を当て、キッとオトッペに視線を向けた。
彼はそんな私を見て、少し笑った。
「何してんだよ。お前」
「……アンタの演奏、すごい良かった」
正直に褒めると、彼は目を丸くした。
私はすぐに彼の前まで歩み寄り、胸を強く人差し指で押した。
少しよろめいて、彼は一歩後ずさると、私をポカンとした表情で見た。
私はそれにフンッと息を吐いた。
「でも、だからって負けないから。今は無理でも、いつかは絶対アンタを越えて、世界一のピアニストになるんだから」
そう言いながら、私は自分の頭上を指さした。
オトッペはしばらく驚いたような表情で私を見ていたが、やがて、「プハッ」と笑った。
「瑞樹は相変わらず面白いなぁ」
「なっ……私は本気なんだからね!?」
「分かってる。だから面白いんだよ」
その意味を吟味しようとしている間に、ツカツカとオトッペは私の方まで歩いてきた。
私の横を通り過ぎ、その際に肩に手を置いて……。
「……待ってるぜ」
そう言った。
……余裕ぶりやがって〜!
私は振り向き、すぐに声を張り上げた。
「そうやって余裕でいられるのも今の内なんだからな〜!?」
そう叫ぶと、オトッペは「ハイハイ」と言いながら軽く手を振った。
それからステージ脇に行くと、ちょうど私の前の出番の子が子犬のワルツを弾き始めた頃だった。
彼女の演奏も中々上手で、私はつい聴き入った。
やっぱりレベル高いなぁ……でも、もう覚悟は決めた。
私は私なりに、楽しく精一杯演奏してやるんだ!
そう決意すると同時に演奏が終わり、巻き起こる拍手喝采に少女はペコペコと頭を下げていた。
『次は、エントリーナンバー12。前原瑞樹さんです』
そのアナウンスと共に、私はステージに出て、観客にお辞儀をした。
ピアノの前に座り、椅子の高さを調節する。
一度指をパキパキと鳴らしてから、私は、鍵盤に指を乗せ、弾き始めた。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.76 )
- 日時: 2017/10/22 22:55
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
第12話「目指せ金賞!夢を奏でろピアノコンクール!」5
<音哉視点>
瑞樹が奏でる音色を客席から聴きながら、俺は言葉を失った。
相変わらず……綺麗な演奏だ。
それこそ、俺と一緒に競い合っていた時期に比べれば、やはり劣る部分はある。
しかし、それを差し引いても、彼女の演奏は素晴らしいものだった。
観客は皆、彼女に演奏に魅入られていた。
「へぇ……中々のメモリアを持っているじゃない」
そんな声が聴こえ、俺は慌てて振り向く。
見ると、そこには、一人の女がいた。
観客席が暗くて顔はよく見えないが、なんだか嫌な予感がする。
つい数歩後ずさると、女は暗闇の中でも分かるくらいの笑みを浮かべた。
「それじゃあ、そのメモリア、渡してもらおうか」
その言葉と同時に手を掲げられ、俺の意識は薄れていった。
−−−
<瑞樹視点>
それは、あまりに唐突だった。
演奏を終え、挨拶をした時、観客席の後ろの方に一瞬、光り輝く時計の針が見えたのだ。
あれは、ロブメモワールが出て来た時の……。
動揺をひた隠し、私はお辞儀をして舞台を後にすると、すぐにドレスのまま駆けた。
観客席の方に、後ろのドアから入ると、そこには倒れ伏すオトッペの姿があった。
よりによって、今日の被害者はオトッペか……!
私はその場に膝をつき、オトッペを抱き起こした。
安らかな顔で眠るオトッペ。
観客席が暗く、皆ステージでの演奏に見入っているため、気付かないのだろう。
私はひとまずオトッペを寝かせ、ラブメモリーウォッチを懐から取り出し、手首に巻く。
華やかなドレスにカラフルな腕輪……似合わない。
「瑞樹ちゃん?」
早速オトッペの記憶世界に飛ぼうとしていた時、杏が観客席に上って来る。
まぁ、コンクールのドレスのままだし、目立っていたのかもしれない。
杏は倒れているオトッペを見て、目を丸くした。
「杏。行くよ」
「……うん」
状況を理解した杏は、すぐにラブメモリーウォッチを付けた手を掲げる。
オトッペの胸元に穴が出来ると、すぐに私達は中に入った。
異空間を通って抜け出た場所は……昔、私が通っていたピアノ教室だった。
「ここは……」
そう呟いた時、二台並ぶピアノに、それぞれ同い年くらいの男の子と女の子が座るのが見えた。
よく見るとそれは……幼い頃のオトッペと私だった。
二人は顔を見合わせると、ニコッと微笑み合った。
やがて鍵盤に指を乗せ、弾こうとしたところで……世界が止まる。
モノクロになった世界。止まる針。現れるワスレール。
私達はすぐにラブメモリーウォッチを構え、叫んだ。
「「プリキュア! メモリアルコンバージョンッ!」」
「今を輝く、一つの光! キュアアデッソ!」
「過去を束ねる、一つの夢! キュアパースト!」
「「取り戻せ! 愛のメモリー!」」
「「メモリアルプリキュア!」」
名乗りを終え、すぐにワスレールに攻撃を入れようと動き出す。
しかし、ワスレールは暴れ、私達の体を吹き飛ばした。
「カハッ!」
壁を突き破り、私はピアノ教室の外にある植え込みに体を埋めた。
すぐにアデッソが私とワスレールの間に入り、アデッソソードを出そうとする。
しかし、それより前にワスレールに飛ばされ、私と同じように壁をぶち破って植え込みに体をぶち込む。
小さい葉っぱだらけになりながら、アデッソは飛び出す。
「あのワスレール……強い!」
そう言ってピンクの針をラブメモリーウォッチに嵌めようとするアデッソ。
しかし、それより先にワスレールが歩いて来る。
アデッソがアデッソソードを出すことが出来れば戦況は変わるかもしれない。
しかし、このワスレールの異常な強さの前に、成す術が無い。
「何、この強さ……!」
「……ワスレールは、詰まっているメモリアが濃いほど、強くなるリコ……」
リコルンの言葉に、私は目を見開く。
メモリアは、その記憶への依存度が高いほど、多くなるハズだ。
つまり……あぁ、なんだ、そんなことか……。
「ハハッ……オトッペ、可愛いところあるじゃん……」
そう呟きながら、私は震える膝を奮い立たせて、立ち上がる。
なるほど、そういうことね……オトッペにとって、私とピアノを弾いていた時代は、すごく楽しかったか。
……私もだよ。
私も、オトッペと一緒にピアノを弾くのは楽しかった。
共に笑い、共に競い合い、共に切磋琢磨し合ったあの時期は、すごく楽しかった。
なんで、忘れていたのかな……。
今思えば、ピアニストになりたいっていう夢があったのに。
オトッペと競い合うのも、すごく楽しかったのに。
それなのに、大人達からの重圧如きに押し負けて……私ってば、すごい弱虫だ。
「思い出させてくれてありがとう……オトッペ」
そう呟きながら、私は顔を上げた。
目の前にいるワスレール。
ありがとう。お前のおかげで、思い出せたよ。
私は、やっぱり、ピアニストになりたい。
オトッペとまた……競い合いたい!
「私は夢を……叶えたいッ!」
そう叫んだ瞬間、胸元が強く光り輝いた。
数瞬後、空色の針が出てくる。
同時に、ラブメモリーウォッチの時計の文字盤を覆うガラス板が縁ごと開き、針がある部分が剥き出しになる。
私はすぐに空色の針を掴み、時計の短針に重ねるようにはめ込んだ。
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