二次創作小説(新・総合)
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- HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ
- 日時: 2018/04/21 14:52
- 名前: モンブラン博士 (ID: zXm0/Iqr)
お久しぶりです!モンブラン博士です!
現在放送中のHUGっと!プリキュアのルールーが好きすぎて作品を投稿することにしました!タイトルが示す通り本作品はクライアス社のアルバイトである美少女
ルールーちゃんが主人公です!
基本的に1レス1話という投稿スタイルにします(文字数が多すぎた場合は2レスなど分けて投稿する場合があります)!
それでは本編スタートです!
- Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.1 )
- 日時: 2018/03/31 08:25
- 名前: モンブラン博士 (ID: zXm0/Iqr)
ここに足を運ぶのは何度目でしょうか。
小さくため息を吐きつつ、私は『係長』と書かれた部屋をノックして中に入ります。部屋では黄色い髪に褐色肌、軽薄さが漂う服装をした男性が机の上に足を乗せ組んで偉そうな態度で座っています。彼こそ、私――ルールーの上司にあたる人物であるチャラリートさんです。馴れ馴れしい物言いと口調から察するに上司として尊敬できる人物ではなく、どちらかと言えばあまり関わりたくない方ではありますが、私はアルバイトとしての役割を果たさなければなりません。
「上層部から報告書の催促です。迅速かつ速やかな提出をお願いします」
今日を含めて六日連続の催促です。つまるところ私はこの方の部屋に計三回も足を運んでいることになります。それでも全く報告書を提出する気を見せないチャラリートさんは上司として以前に人間として問題があるように思えて仕方がありません。
私が報告を終えますと彼は面倒臭そうな顔をして。
「ルールーちゃんには教えちゃおうかな~。実は報告書出さないのには理由があんの。あのね、見たことのないプリキュアが現れちゃって。それも2人!」
「捜索中のプリキュアではないと?」
「うん!」
二本指を突き出して頷く彼に、内心呆れてしまいました。
新しいプリキュアが現れたのなら会議の場か上司に報告するのが常でしょう。
先に報告しておいてくれたらクライアス社全体で対策を立てることができるのですが、まさかこの方はそのことにさえ気づいていないのではないでしょうか。
「より迅速かつ速やかな報告が必要です」
「え! だめだめ! ミライクリスタルホワイトの手がかりないし、何より新しいプリキュア倒してないのよ。オレちゃん怒られちゃうー!」
頭を抱えて取り乱す彼ですが、重大な情報と報告書の提出を怠り業務も失敗しているのですから怒られるのは当然だと思うのですが。
どうやら彼にとってはは会社全体の利益よりも自己保身の方が大切のようです。
「何か手はないかな」
懇願する彼に、部下として上司の彼の顔を立てるべく、データを解析して新しいプリキュアのいるところにミライクリスタルのヒントがある確率を伝えます。すると彼はニヤッと笑みを零して。
「さすがはルールーちゃん。持つべき者は可愛いバイト!」
彼の言う可愛いが私の「容姿」を指すのか、それとも「便利なバイト」という意味があるのかは測り兼ねますが、少なくとも新しいプリキュアを打倒した暁には今度こそ報告書を提出してくれそうです。
彼は椅子から立ち上がり、私に顔を近づけます。
次の瞬間、リップ音と頬に柔らかな感触を覚えました。
どうやら彼は私にキスをしたようです。
「今のはアイディアを出してくれたお礼ね」
それだけ言って瞬間移動でその場から彼は立ち去ってしまいました。
頬に触れると、まだ彼の唇の触れた熱が残っていました。
- Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.2 )
- 日時: 2018/03/31 20:03
- 名前: モンブラン博士 (ID: zXm0/Iqr)
お昼。
昨日から作業を始めたプリキュア達の戦闘データの分析が終了しました。
だいぶエネルギーを消耗してしまいましたので、支社を出たら何か高カロリーな食べ物でエネルギーを摂取しなければなりません。
「データの分析が完了しました」
「サンキューで~す。ルールーちゃん、残業メンゴね~」
全く誠意と感謝を感じない礼を口にしたチャラリートさんは、私の手から荒い手つきでUSBを奪い取り、勝ち誇ったような笑みを浮かべます。
「対策はバッチリ。ハプニングでもない限り、大勝利!」
「ハプニング?」
「例えば、新しいプリキュアがまた現れるとか? まさかね~」
この時私は敢えて何も答えを返さず黙って彼を見送りました。
通常、何か計画を実行に移す時は「~かもしれない」とあらゆる事態を想定して事前策を立てておかなくてはなりません。
彼は新しいプリキュアが現れるかもしれないという可能性を「まさか」の一言で一笑しましたが、私の計算では新しいプリキュアが誕生する確率は七割とかなり高い確率を導き出していました。二度あることは三度あるという諺があるように既に二度も新しいプリキュアが誕生してしまっている以上、三回目が起きても不思議なことではありません。
それを踏まえて考えた場合、プリキュアの仲間と思しき人物には十分に警戒し、万が一新しいプリキュアが誕生してしまった場合はすぐに撤退して更なるデータの改良を私に依頼する、リスクは高くとも四体のオシマイダ―を発注する、などの対策がとれます。
四体発注すれば数の上ではこちらが上回る訳ですから、プリキュアを倒せる確率も上昇するでしょう。
しかし、私の目から見てチャラリートさんは口では「対策はバッチリ」と言っていますが、その対策自体が本人が生み出したものではなく私の協力があってこそできたものでした。私のデータをあてにし過ぎていると想定外の事態に対応できないので、仮に新たなるプリキュアが誕生したならば彼は足元をすくわれまた敗北するでしょう。
最も三割の不確定要素があるので、確実にプリキュアが誕生すると言い切れないところが気にはなりますが。
どの道、彼は分析データを得たことで油断しているので忠告したところで耳を貸さないでしょうし、私としましても残業を当たり前と思っている上司に忠告する気はありません。
取りあえずやるべき仕事は全て片付きました。
今すべきことは速やかに帰宅し、エネルギーを補給することです。
帰宅途中、カレー屋さんを発見しましたので、そこでエネルギー補給をすることにしました。家に帰って作るよりも時間の短縮になりますし、帰るまでのッ時間を考慮すると最善の選択と言えるでしょう。
カレー屋さんなだけあって自販機にはグリーンカレーやチキンカレーなどの様々なカレーの名前が並んでいます。
ふと上を自販機の上を見てみますと「ウルトラカレー 30分で完食できたら無料!」の文字が。
通常4000円はする特盛のウルトラカレーが、30分以内に完食すれば無料なり、しかも賞品として1か月間有効のカレー無料券が貰えるという主旨の文章を読み、私は迷わずボタンを押してウルトラカレーの食券を買いました。
カウンターの席に腰かけ、食券はごま塩頭の男性店主に渡しますと彼はニヤニヤ笑って。
「嬢ちゃん。あんた本当にこのカレーを注文する気かい」
「はい」
「若ぇのに勇気があるじゃねぇか。完食できなかったら、代金払って貰うぜ?」
「完食できます」
「大した自信じゃねぇか。そのマッチ棒みてぇな細ぇ体で本当に完食できるのか、試させてもらおうじゃねぇか!」
店主は挑発的な笑みを浮かべて踵を返すと厨房へと足を進めていきます。
その途中、彼は私に背を向けたままでこのようなことを言いました。
「これだけは教えてやるぜ、嬢ちゃん。俺のウルトラカレーに挑戦した奴は100人いるが、完食できたのはたったの2人だけだ」
これまで完食できたのは2人。
100人挑戦して2名なのですから、確率は2%と言うことになります。
普通の感覚からすると非常に低い確率に思えますが、少なくとも成功確率0%ではないのですから挑戦する価値はあるわけです。
カレーが作られ運び込まれている間、水分補給をしていますと、自販機の上に額に入れられた巨大な写真が飾ってあります。
額の下に『ウルトラカレー歴代完食者』とタイトルが打っているところから、写真が過去にウルトラカレーを完食した人を称えて設置されたものであると推測できます。
ウルトラカレー初代完食者の名前は春日野うらら。
金髪のツインテールに白い肌が特徴的な小柄な美少女で、カレースプーンを持ち満面の笑みを浮かべているところからして、相当なカレー好きであると思われます。ちなみにタイトルの下に表示されている完食タイムは28分50秒。
二代目完食者は緑川なお。
ポニーテールに大きな黄色いリボンが特徴的な凛々しい顔立ちをした少女ですが、完食タイムが25分20秒と春日野うららを上回っているところからすると彼女は早食いかつ大食いの気があるようです。所謂痩せの大食いと言ったところでしょうか。
この二人、どことなくどこかで見たような気がするのですが、他人の空似と言うこともありますし、深く詮索するのは止めにしましょう。
その代わり彼女達のタイムを大幅に更新し、クライアス社の名をこのカレー屋さんに刻もうと思います。
それが巡り巡ってわが社の利益に繋がるかもしれませんから。
「ほらよ。待たせちまったな」
僅かに詫びた店主が私の前に置いたのは通常のカレー皿の五倍はあるかと思われる皿に並々と載せたカレーライスでした。
大量にかけられたカレールー、山盛りの白いご飯。白い山の頂上にはエビフライが6本、串カツが12本も刺さっており一目でいかに高カロリーなメニューなのかが判別できます。
「それじゃ、準備はいいか」
「はい」
「始めぃ!」
店主が大声で挑戦開始を叫びストップウォッチのスイッチを押したのを合図に私の食事という名のエネルギー補給が始まりました。
刹那、私もカレーのデータ分析を開始します。
このカレーで難問なのは串カツとエビフライ。どちらも脂っこく、大量に載せられているため途中で食べると胃もたれをして完食を阻む難敵となります。
ならば串カツとエビフライは真っ先に攻略するのが完食への最短ルートです。
私は残されたエネルギーを手首に回して、およそ常人には真似できない超高速の動きでカレーから串カツを引き抜き、口へと運んでいきます。
串カツ12本に続いてエビフライをフォークで刺して攻略します。
それらを5分でやり遂げた私はいよいよメインであるカレーライスの攻略を試みます。私の胃袋が高性能で食べたものを瞬時にエネルギーへと変換できるとはいえ、圧倒的なカレーライスの山脈の前ではどれほど通用するか予想はできません。制限時間はまだまだ余っているのでゆっくりと味わって完食するというのも一つの手と言えるのかもしれません。しかしながら私の目的はただ完食するだけではなく、先の二人の記録を更新した上で完食すること。
したがってただ完食するだけでは意味がないのです。
それに遅く食べると胃もたれが発生するケースも考えられるので、あまり賢明な判断ではないでしょう。やはりここは無心になって手を動かし口にカレーを運ぶことだけに集中しましょう。
金属のスプーンと皿の衝突が頻繁に起きるため、私の席では「カカカカカ……」という金属音が鳴りやまず、多くのギャラリーが私の周りに集まってきました。
ですが彼らに反応し動揺すれば敗北したも同然。
ここは何人集まってきたとしても動じない冷静な精神が試されます。
三分の二を食べたところで店主のタイマーを示していますと10分が経過していました。このままのペースを維持し続ければ20分以内に完食はできるでしょう。しかしそれでは後に他の人に先を越される可能性もありますので、細心の注意を払って可能な限り完食時間を早めるように努めましょう。
そして白米の一粒も残さず完食し、口を拭って私の挑戦は終わりました。
「ご馳走様でした」
手を合わせたところで店主がタイマーを止めました。記録は15分30秒。
「し、信じられねぇ。前の娘達にも驚かされたが今回の嬢ちゃんの記録は前代未聞だ。それも他の二人が味わいながら食べたのに対して、嬢ちゃんはまるで機械のように淡々と事務的に食べ終わりやがった……」
店主は暫く呆気に取られていましたが、やがてレジから無料券を出してきて。
「1か月分の無料券だ。良かったな」
「はい」
こうして店には私の写真と『三代目完食者 クライアス社 アルバイト ルールー』の名前が刻み込まれることになりました。
4000円ものカレーが無料で、しかも1か月間何回来ても無料とは食費が助かります。
立ち上がり、店を後にしようとする私に、周囲の人々が口を開きます。
「見ろよあの腹! あんなに食べたのに全然膨らんでいねぇ!」
「しかもあの短時間で平らげてケロリとしていやがる。どんな体の構造していやがるんだ!?」
「あのルールーって子は間違いなく将来の大食い女王だぜ」
人々が驚嘆の声をあげていますが、あまり気にする必要はないでしょう。
でもこれからはチャラリートさんに残業を申し付けられた際にはここで食事を摂ればいいのですから大いに助かりますね。
- Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.3 )
- 日時: 2018/04/04 16:01
- 名前: モンブラン博士 (ID: zXm0/Iqr)
組織運営において報告・連絡・相談は重要。怠った場合、罰せられるのは当然。
しかしながら会議室ではチャラリートさんが罰を恐れ、社長秘書であるリストルさんに抗議しています。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
どうしてオレちゃんが罰を……」
わけがわからないと言った顔で身振り手振りで罰の取り消しを訴えるチャラリートさん。
どうやら彼には何故自分が罰せられないといけないのか理由がわからないようです。
報告書の未提出4回。
ミライクリスタル奪取における作戦失敗4回。
データに無いプリキュアが出現したという情報の未報告。
これだけ会社に不利益をもたらす要因が揃っているのですから、罰せられないと考える方がおかしいのですが、彼はそこまで考えが及ばないようです。
「ルールー、お前がチクッたのか……」
「組織運営において報告・連絡・相談は重要。罰せられるのは当然」
横目で私の顔を見る彼の瞳には明らかな怨みの色がありました。
普段は「ちゃん」付けで私の名を呼ぶのですが、呼び捨てになり苦々しい表情になっている辺り、上層部であるリストルさんの叱責とこれから受けるであろう罰に対し、相当に精神をすり減らしていることは明白です。
「こんな失敗、よく隠し続けられたわね。ぶっとびー」
爪の手入れをしながら発したパップルさんの一言にチャラリートさんのメンタルはゴリゴリと削られていきます。
課長であるパップルさんは係長であるチャラリートさんの直属の上司のため、精神面での攻撃力はある意味でリストルさんより上かもしれません。
あくまで憶測ではありますが、彼の精神のライフは残りわずかと言ったところでしょうか。
ですが窮鼠猫を噛むとはよく言ったもので、追い詰められた彼は最後の反撃を繰り出しました。
「とっておきの作戦があるんです! オレちゃんに最後のチャンスをください!」
今にも泣き出しそうな表情をしながら大声で懇願する彼の姿を見た私は、このシーンを映画会社に売り込めば彼は脇役としてデビューできるのではないかと思いました。それほどまでに彼の懇願は名演でした。
するとその演技に感動したのかは不明ですが、上空から神の声の如く、クライアス社の最高経営責任者である社長――通称ボス――の声が会議室全体に響き渡りました。
「チャラリート、その言葉を信じてやろう」
社長の言葉の中には最後のチャンスという意味が込められています。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
普段は滅多に使用しない敬語を使い、頭を地面にこすりつけるほどの深い土下座をする彼はひたすらに哀れで人間追い詰められたら恥も外聞もかなぐり捨てて、ここまでできるものなのだなと少々感心してしまいました。
だからと言って私が残業までして完了したデータ分析を水の泡にした彼の行いを許す訳にはいきませんが。
チャラリートさんは社長から最後のチャンスを与えられたところで本日の会議は終了。各々元の仕事場へ戻ることとなりました。
私は特に仕事を言いつけられることもありませんでしたので、本来なら直帰しても良かったのですが、とっておきの作戦なるものの内容が気になるので、チャラリートさんに気づかれないよう、こっそりと彼のあとをつけることにしました。
抜き足差し足忍び足で細心の注意を払って彼を追いかけますと、彼は自室へと入っていきました。
これから中で作戦をまとめるつもりなのでしょうか。
彼が不意に部屋から出てきてはあとをつけてきたことがバレてしまいますので少し部屋への接近を待ちましたが、彼が出てくる気配はありません。
念の為に彼が部屋から出る確率を計算してみたところ3%という数字が導き出されました。
これなら部屋に接近して扉の隙間から様子を伺っても安心ですね。
木の影から一歩足を踏み出した刹那。
「もしもし」
全くの不意に肩を軽く叩かれる感触と低音ボイスが耳に入ってきましたので、流石の私もゾクッとした何とも言い難い寒気を感じました。
これまで全く聞いた事の無い声なので少なくともクライアス社の人間ではないことは確かです。それでは一体、誰なのでしょう。
急激な体温の低下と両手の震え――これが所謂恐怖というものなのでしょうか――を実感しつつ、ゆっくりと背後を振り返ります。
するとそこに立っていたのは――
- Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.4 )
- 日時: 2018/04/10 16:20
- 名前: モンブラン博士 (ID: zXm0/Iqr)
私の背後にいたのは、一人の男性でした。
年齢は中年ほどで、黒い帽子に黒スーツという黒づくめの恰好をしています。
身長は私とあまり変わりませんので、どちらかというと小柄な部類に入るのでしょうが、そのお腹は100キロ近くあるのではないかと思われるほどよく肥えています。色白の肌に福耳、垂れた虚ろな目をしており大きな口には白い歯を剥き出しにした笑みを浮かべています。
外見からしてクライアス社の社員でないことは確かで、どこか営業担当の雰囲気が漂うこの男性は一体何者なのでしょうか。
疑問を抱いていますと男性は「ホーッホッホッホ……」と高らかに笑って、私に一枚の名刺を差し出しました。
「私、こういう者です」
「『ココロのスキマお埋めします。喪黒福造(もぐろふくぞう)?』」
「私はココロの寂しい方をお助けするボランティアをしています。
お代は一切頂きませんのでご安心ください。もっとも、会社の為を思って純粋に働いているあなたには、私とは無縁だとは思いますがね」
試しに私は自分のココロのスキマがどれぐらいあるのか計算してみますと、彼の言う通り、0%でした。確かに縁がないのかもしれません。
ですが縁がないと言うのならどうして彼は私に声をかけたというのでしょう。
すると彼はまたも「ホーッホッホッホッホ」と笑って。
「私としたことが大切なことを忘れていました。
実は私はこのあさばぶ支社の係長、チャラリートさんに会いに来たのですが、あまりに広い場所ですので迷ってしまいまして……」
「彼のいる所に辿り着けなくなったと?」
「そうです。それで、もしよろしければ彼の居場所を教えていただけないでしょうか」
「了解しました。ついて来てください」
「ありがとうございます」
彼は私の歩く後ろからついてきます。
もっとも、案内すると言っても今の道をひたすら真っ直ぐに歩けば係長室に到着するので、案内と表現できるほどのものではないのですが。
歩きながら、彼は後ろから私に話しかけてきました。
「そういえばまだあなたのお名前を聞いていませんでしたね。
よろしければ教えていただけますか」
「ルールーです」
「ルールーさんですか。良い名前ですね」
「ありがとうございます」
「あなたは服の着こなしといい口調といい、お若いのに随分としっかりしていらっしゃる。あなたのような方が係長になったら、この会社はますます発展していくでしょうな」
喪黒さんの一言に私は顔の周辺の体温の上昇を感知しました。
これが褒められて恥ずかしいということなのでしょうか。
そんなことを考えていますとアッという間に係長室に辿り着きました。
「お客様が来ております」
扉を叩いてドアを開け、喪黒さんを中に入れると私は静かに扉を閉めます。
普通ならここでその場を離れるのですが、今回はチャラリートさんがどのようなプリキュア打倒の策を考えているのか探る目的で来たのもありますし、彼と喪黒さんがどのような会話をするのか気になっていましたのでこの場にとどまり、わずかにある扉の隙間を利用し、視力と聴力を30倍に調節して中の様子を伺ってみることにしました。
するとチャラリートさんが喪黒さんに土下座をしている光景が見えました。
「喪黒さん、お願いです! オレちゃんにもう一度だけ助けてください!
オレちゃん大ピンチ! 社長に『とっておきの作戦がある』と言った手前、それが実は何も考えていないってことがバレたら、オレちゃんオシマイダ―!」
口調から察するに先ほどのチャラリートさんの発言は口からの出まかせで、喪黒さんから良いアイディアを授けてもらおうという考えだったようです。
どこまでも他人頼りの彼に小さくため息を吐きつつ、喪黒さんの返事を待ちます。喪黒さんは笑顔のままで暫く黙っていましたが、やがて口を開きました。
「わかりました。今度だけですよ」
「ありがとうございます!」
「ただし、ひとつだけ条件があります」
「条件?」
「それは、あなたがプリキュアを倒し任務を成功した暁には、支払われる成功報酬を全てルールーさんに渡すことです」
「ええっ!? 何であんな奴に――」
「チャラリートさん」
彼の名を呼ぶ喪黒さんは顔こそ笑顔のままですが、その声にはド迫力がありました。
「あなたの部下であるルールーさんは、これまであなたを全力で支え、一生懸命働いてきました。そろそろ、彼女に相応の見返りを与えてやってくださいな」
「な、何のことです喪黒さん。オレちゃん一体なんのことだか……」
「とぼけても無駄です。私は知っているのです。
ルールーさんの報告書の催促を何度も無視し続けたことも。
ミライクリスタルの居場所を分析させたことも。
無理やり残業を押し付けプリキュア達の戦闘データを分析させたことも!」
「うっ……」
冷や汗をかき怯むチャラリートさんに喪黒さんは更に言葉を続けます。
「ルールーさんは若いのに文句ひとつ言わず、上司のあなたの顔を立て、あなたの指示を忠実にこなしてきました。
あなたは彼女のような素敵な部下に恵まれて幸運です。それにも関わらず、自分は動かず彼女に文句ばかり言うのは虫が良すぎるのではありませんか」
「あいつはただのバイト! バイトがこき使われるのは当然のことじゃん!」
「条件を受け入れられないのでしたら、私は帰ることにします」
踵を返してバイバイと手を振り扉に向かって歩き始める喪黒さんに、チャラリートさんは顔を真っ青にして。
「待ってくれ! アンタに帰られたらオレちゃん終わっちゃう!
条件を! 条件を飲むから作戦を教えてくれえ!」
「それでいいのです」
そう返す喪黒さんの顔はいつも以上に得体の知れない笑みが浮かんでいました。