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ナイトメア・サバイバル
作者: Kuruha ◆qDCEemq7BQ  (総ページ数: 34ページ)
関連タグ:  学園 殺人 
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10~ 20~ 30~

*20*

Episode19 『戦闘 -First fighT-』
 9月12日(水)12:50/秋笠 藍


「あたしを殺してくれないかな?」

「な、なに言ってんだよ……お前」

「これはあたしの本心だよ。だって、誰かを殺さなきゃ、生き残れないんでしょ? だったらあたしを殺していいよ。あたしは藍くんに殺されに来たんだから」

 さも同然というように、言音ちゃんは言った。

 言音ちゃんは俺に近づくと、カッターの刀身を俺の首筋に添えた。少しでも動けば、刃に触れてしまいそうだ。

「いい? 藍くん。あたしは今から藍くんを殺すよ。だから、藍くんは自分を守るためにあたしを殺して? これは正当防衛なんだから、責任を感じる必要も、優しくする必要もないよ」

 言音ちゃんの表情は優しげで、その瞳は吸い込まれそうなほどに綺麗だった。

 しばらく、二人して固まってしまう。永遠にも似た沈黙が約15秒。

「――どうしたの? 殺しちゃうよ? ねぇ、早く、……殺してよ」

 だんだんと、言音ちゃんの顔は泣き笑いのような切ないものへと変化していく。

「無理だよ。能動的に殺す気はないし、それにお前、俺のこと殺す気はないんだろ? だったら――」

 殺せない。

 そんなんじゃ、俺は動けない。

「ずるいなぁ、もう……。やっぱり藍くん、優しすぎるよ」

 カッターの刃は仕舞われ、命の危険はなくなった。しかし、言音ちゃんは俺から離れない。

「あたしの事は言音でいいよ。もう“ちゃん”なんて嫌でしょ? 今はあきらめるけど、いつかは絶対殺してねっ。藍くん」

 そういって、言音ちゃ……言音は俺の腕に抱きついた。




 9月12日(水)13:15/藤貴 杁夜


 すっかり血で赤く染まった廊下で出会ったのは、さっき購買前の階段で見たあの女子生徒だった。緑のリボンから察するに、二年生なのだろう。

 特に逃げる様子もなく、お互いがお互いの方向に向かって歩いている。僕はもちろん、あの娘もやっぱり攻撃的なタイプらしい。

 本当は、戦うっていうのは好きじゃないんだけどなぁ。一方的な方が好みだ。しかし、こんな状況ではそうも言ってられない。

 間合いは充分。彼女は短機関銃、僕はナイフをそれぞれ構えた。

 彼女がにやりと笑ったのを合図に、僕は一気に走り出した。もっと距離を縮めないと、僕の方が不利だ。いくら短機関銃が近接戦闘に特化しているとはいえ、飛び道具な時点でナイフほどの距離は必要ないのだから。

 次々に、銃弾が僕を狙って飛んでくる。彼女は余裕の笑みを浮かべながら、照準を僕の動く先に当てていく。




「く……っ!」

 日ごろの運動不足を呪いたくなる。今までで一番“戦闘”と呼べる殺し合いに、僕はすでに疲れを感じていた。

「まだまだぁっ!!」

 いっそ楽しげでさえある彼女は、僕とは違ってあまり動かない。疲れなんて、なさそうだ。……このままじゃやばい。僕が動けなくなるまで追い回されて、いずれ撃たれるだけだ。

 全力を出せるのはこれがラストチャンスだ。一気に終わらせてやろう。

 僕は踵を返すと、別方向から彼女の背に回りこんだ。その背中に、慣れないながらも回し蹴りを食らわせる。

「っ!?」

 短機関銃を落とし、床に倒れる彼女。立ち上がるまでのその隙に、僕はぜいぜいと息を吐き、呼吸を整える。

 しかし、彼女はいつまで経っても立ち上がらない。それどころか、ぶつぶつと何かを言っているようだ。
耳を澄まして、それを聞いてみる。

「……さい。ごめんなさい……。許してください、助けてください。叩かないで殴らないで蹴らないで……。痛いのは嫌……。グズでごめんなさい、ノロマでごめんなさい、役立たずで、出来損ないで、何も出来ないバカでごめんなさい、お父さん……」

 お父さん?

 さっきまでの勝気な表情とは裏腹に、彼女は真っ青な顔で床に転がって頭を抱えて、うわ言のようにただそれだけを繰り返していた。

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