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*53*
本編に〜
「これが、核か?」
茨の向こうにあるのは棘だらけの黒い何か。
茨が絡まって、迂闊に触れないようになっている。
「茨を燃やすか…。」
「いや、その必要はねぇ。」
グレイはスゥ、と息を吸う。
「氷古龍の嵐豪!!!」
ズドォォンッと激しい音がした。
だが、茨が少し凍てついただけで、びくともしていない。
「だめだ、完璧に防御体勢になってやがる。」
「ここをくぐるしかないのかぁ…。」
すると、茨がグレイを絡めとった。
「!!!?んむっ!」
「グレイ!」
茨は棘の無い部分で、グレイの口をふさぐ。
次にナツまでも絡めた。
「っくそ!この茨っ!」
シュルシュルと茨が体に纏わりつく。
グレイは必死に抵抗するが、失敗に終わった。
「んぐぅ…!んむっんー!!」
「グレイ!くっそぉ、邪魔だああ!!」
ナツは茨を燃やす。
(あれ?何で燃やせるんだ?)
『ナツ…火竜の子。貴方に古龍の力を…渡します…。』
「アイシーガ!!?」
『お願いします…。私はここでくたばらない様、耐えてみます。』
「…おう!」
ナツは拳をにぎる。
そして、グレイに纏わりつく茨を次々と燃やした。
「ん…!………っぷはぁ!」
「これで、よし…。」
すると優しく、凍てつく様な声がした。
それは、ナツは聞き覚えがあるあの神の声。
【核を壊しに来たの?】
【頭首様もいるね。】
【そうだ。】
【面白いもの見せてあげる。】
【記憶。】
【彼らの、記憶。】
瞬間、ナツ達の視界は空になる。
下は、どこかの街の様だ。
「幻影か?」
グレイがぽそりと呟く。
すると、下で騒ぎが起き始めた。
「避難させろ!」
「こっちだ!行こう!」
そこに居たのは、幼い頃のエーガ、ギル。
そして、街の向こうにいるのは。
「デリオラ…だっけ。おい、グレイ、」
ナツはグレイを見る。
グレイの顔は青ざめていた。
「おい、グレイ―」
「この街…!」
グレイは奥を指差した。
黒い着物が、ゆれる。
指差した奥にいるのは―
「あれは、俺だ。」
「デリオラに挑んだ、俺だ…。」
今、目の前に映るのは。
グレイの最も苦しい過去の情景だった。
下で、子供の声がする。
「やだよ!せっかく楽園の塔からにげたんだ!ここで死にたくない!」
赤髪、エーガだろうか。泣きながら町の外に出た。
ギルは無口のまま走る。泣きながら、ただ走る。
その目は憎しみにぬれていた。
「あの黒の子供が、不幸をよんだ?」
憎しみを持つまま、ただ走った。
「や、だ………。」
ナツはグレイを抱きしめる。
グレイはカタカタと震えていた。
【この際、少年の記憶も見せようか。】
ルドのことだろうか。
また視界は一転する。
今度は古びた家だ。
どうやらここは、東洋のようだ。
「言う事を聞け!」
パシンと頬を叩く音。
下にいるのは、黒髪の少年。
「ルド…?」
ルドは哀しげに顔を歪ませ、外に飛び出した。
一緒に走っていく黒髪の少女。
恐らくグレイの母だろう。
「よしよし、子守唄歌ってあげようか?」
「いい…。」
「よしよし、よしよし…。」
少年は思ったのだろうか。
この頃から姉に歪んだ恋を抱いていたのだろうか。
また一転した。
ルドだ。18くらいの。
正装をして誰かと話している。
そして、その誰かに魔法をかけた。
グレイは目を見開く。
ルドが話していた少年は。
ルドが魔法をかけた少年は。
「レイガ…。」
ルドに記憶を消された哀れな少年。
年月がかかるにつれ、グレイと言う単語を思い出した哀れな少年。