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*57*
「…この茨。」
グレイがポツリと呟く。
「なんだか、冷てぇ。」
「当たり前だろ。」
氷塊にあるんだから、とナツは言った。
グレイはそういう冷たさじゃないと首を振る。
「心、で出来た茨みたいだ。」
「…心?」
ナツがグレイの言葉を繰り返す。
正直、有り得なかった。
「あいつらの、悲しみで出来たみたいな…。」
「悲しみ、か…。」
「なぁ、ナツ。」
グレイがナツに向き直る。
その目は、何かを覚悟した目だった。
「俺がここから先、一人で行く。」
「は!?」
「お前はこいつ等を助けてやってくれ。核の防御を弱められる筈だ。」
グレイはそう言うと、奥へ走り出す。
その背中を唖然と見ながら、ナツはため息をついた。
「…しゃーねー、な。」
ナツは自分を襲う茨で、一番太いのを掴む。
「助ける…か…。」
『いや!』
「!」
いきなり頭に流れ込んだ、少女の声。
そして、視界も一瞬暗くなり、すぐに何かの映像が出た。
確か、それは。
(楽園の、塔!!?)
ナツに関わらず、声と映像が流れ込む。
『嫌だあ!誰かー!!』
『うるせぇ!黙りやがれ!!』
鞭の音だ。
パシン、と音が響き渡る。
『いたあああああい!!』
叩かれたのは―ギルだ。
『早く働きやがれっ!』
『やめて!』
赤毛の少女が止めた。
エーガだ。
『お前、殴られたいのか?』
『…それで、貴方の気が晴れるならね。』
『なら、遠慮なくやらせてもらうぜ!』
ナツは歯を食いしばる。
茨を強く掴んだ。
『逃げるの?』
『うん!!』
ひゅんひゅんと変わる映像。
それがスローに見えた。
『逃げれたよ!』
『帰ろう?イスバンに…。』
まただ、また変わった。
次は、ルドについていく少女二人。
『助けてくれるのね。』
『ああ。』
『ありがとう。』
『じゃあ、僕の仲間になろうよ。』
こうして仲間となった、という事だろうか。
グレイを恨むのは、今までの事がグレイのせいと思っているから。
「ふざけるなああ!!」
ナツは茨を握る。
茨はどんどん黒くなった。
「辛かっただろうな!ずっと、ずっと!だがなぁ、お前等がやっている事は!」
『………………っ。』
「ただの茶番だ!生きてるんだよ!皆!命があるから、仲間がいたから!!」
『!』
「自分を、独りとか、思ってんじゃねえええ!!」
『…そ、だね…。』
『ありがと、う…。』
『……ありがとう。』
声は消えていく。
同時に、茨はすべて、美しく綺麗な花になった。
―氷塊・核―
「…いくぞ。」
グレイは最後の古龍の力を腕にこめた。
この一撃が終わったら、グレイは滅龍魔導士ではなくなる。
それでも、構いやしないのだ。
「氷古龍の、 狂奏宴!!!!」
大きな魔力が、核に降り注ぐ。
パキィン、と音を立てて、核は壊れた。
「やっぱり、グレイは氷蓬莱の…古龍だったんだ…。」
レヴィは笑顔でいった。
瞬間、氷塊は崩れ、ルド達は無事だった。
三話・終