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もし明日地球が滅びるとすれば、俺は一体何をするだろう?
作者: 裕  (総ページ数: 10ページ)
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*2*

あいつは小さい頃、よく公園で遊んでいた。古くなって誰も立ち入らなくなった静かな公園。
ブランコに乗りながら鼻歌を歌ってた。メロディーを忘れると、同じ曲をまた最初から歌う。
日が沈む頃、滑り台の一番上の柵に腰かけ、眺めては泣いていた。声も出さずに泣いていた。
そんなあいつを公園に迎えに来るのはいつも、あいつの婆ちゃんだった。杖をついて、軽く震えているいかにも長老的な婆ちゃん。けど、ある日から、その婆ちゃんが迎えに来ることは無くなった。

「フーンフンフンフーンフン…えっと…。…フーンフーンフンフフン♪」
「…なあ。」
「ん…。君、誰?」
「…生。」
「生ちゃん…?」
「名前にちゃん付けするな!僕は男の子だぞ!?」
「ひひっ。」

そんなに悪い奴じゃないと思った。唯一つ気になったのは、感情を表に出さないことだった。
俺のことを「生ちゃん」って呼ぶのに理由は無いらしい。まあ、恐らく雰囲気的にとか呼びやすいからとかだろうが…。俺たちは、それから毎日のように遊んだ。

「あ、ねえ。今度、生ちゃんの家に遊びに行っても良い?」
「え…僕の?」
「うん!」
「良いけど…。」
「けど?」
「いや…何でもない。(…けど、伯父さんしかいないし…。)」

俺は親の存在が嫌いだった。そこらの親は、子供に指図する。子供は親に逆らえない。何のために親に服従しないといけないんだ。従うことが嫌いだったんだ。俺は親元を無断で離れ、今住んでいる伯父の家に来た。実家から伯父の家は電車で4時間も行ったところにある。伯父には口止めしている。一緒に暮らすのはご免だ。

「え…お母さんたち居ないの?」
「居なくはない。一緒に住んでないだけだ。それにまだ生きてる。…多分。」
「どうして一緒に住まないの?」
「…嫌いだから。」
「…どうして?」
「…。嫌いだから!」
「だから、どうし…」
「関係ないだろ!?…っ。」
「…そうだね、関係ないね。ごめんなさい。」
「…。っ。」

泣くと思ったんだ。その時の螢は泣き虫だったから、俺が大きい声出して泣くと思ったんだ。
すぐ怒るのは昔からの俺の悪いところ。その時の俺が何でイライラしていたのか分からない。ただ言葉が詰まって、どうしようもなくて、辿り着いたのが「それ」だった。

「謝ってんじゃ…ねえよ…バカ螢…。」
「ご、ごめんねっ。ごめんね、生ちゃん。」

逆に泣いたのは俺だった。友達とか、遊ぶ人とか、何もかもが初めてで頭の中がこんがらがって、やっと出てきたのが涙だった。止まらなくて、何も言えなくて、ただひたすら「ごめん」って言ってる螢が、俺の目を覆い隠している指の隙間から見えた。

「私もね、お母さんたち居ないの。」
「だから、俺の母さんたちは居る!」
「お婆ちゃんもこの前死んじゃった…。」
「(聞いてねぇ…。)」
「私一人なの。だから、生ちゃんが声掛けてくれたときは凄く嬉しかった。私、友達とか居ないから凄く嬉しかった!」
「はあ。」
「生ちゃんはね、私のたった一人の家族なんだよ?だから、生ちゃんが悲しい時は、私も悲しいの。」
「…。はぁ…。」
「え…!?」

理解不能。でも螢は俺のことを優しく抱きしめて、「大丈夫」って一言を一回だけ言って、また優しく頭を叩いた。

「…。(理解、出来なくて良いか。僕が…俺がこいつを守る。)」

決心したのは間違いじゃなかったようだ。
俺がこの家で一人になって、螢がこの時以上に家に遊びに来るようになったのは、それから3年後のこと。けど今は、このまま二人の過去を振り返っていたい気がする。…明日までに。

信じてはいねえけどな!!

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