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作者: 姫凛 (総ページ数: 11ページ)
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零話 悪夢
誰もいない町
巨大台風がすぐそこまで来ている
人々はもう安全な場所に逃げ
新天地で新たな生活を始めている
だけど俺だけは――
「………はっ!!」
『ジリィィィィ ガチッ』
「……また、あの夢か」
今日も嫌な目覚めだ。
毎朝毎朝。俺は同じ夢を見続けている。それは…自分が死ぬ夢だ。
台風が来て静かに滅んで行くだけの街に一人残された俺は……いや、そんな事思い出したくもねぇ!!
乱暴に布団をはぎベッドから出る。顔を洗おう。そうすればこんな嫌な気持ちもどこかにいって晴れ晴れするだろう。
ガチャとドアを開けて自分の部屋を出る。すると俺が開けたと同時に隣の部屋のドアも開いた。
「………」
「………」
隣りの部屋から出て来たのは四つ年下の妹、天駆アオイだ。
アオイは俺とは違い、成績優秀な優等生でクラスの人気者。誰からも好かれ慕われて顔もそこそ良い美少女。俺に対する態度はアレだけどな。
「おはよう」
「…………」
前を通過するアオイに声をかけるが、まぁいつもの事だ。無視され俺は空気として扱われる。別に喧嘩をしているわけではない、ただ思春期とくゆうの…というやつだ。
仲の良い子供たちがいたとしてもその子供たちが大人になった時までかその友情が永遠に続くというわけじゃない。
純粋だった子供頃は仲良くても、大人になれば、そいつは自分にとってどんな利益をもたらすか、もたらさないか。それで友達になるかならないか決める。
無理に愛想笑いして相手に話合わせてへコへコするのが嫌なら、一人でいればいい。むしろ一人の方が、気が楽だ。自分の好きなようにやれるのだから。
だから俺はアオイと必要以上の会話をしない。アオイもその原理を知っているから俺と必要以上に関わらない、ただそれだけだ。
部屋を出て階段を下りリビングに行くと熱心に新聞を読んでいる美少女が独り。
「……最近は、自殺者のニュースが多いわね」
あの女の名は神月ヒメノ。スポーツ万能、頭脳明晰。容姿端麗、性格も良いと欠点の無い全てにおいて完璧の美少女で、何故か俺とアオイのいとこだ。
「おはよう」
「…………」
あーそうですかっ!!
こいつもアオイと同じで、俺の事を空気として見ている。
イラつく…。実の妹にそう見られるのは良い。だけど、赤の他人にそうゆう風に見られるのは腹が立つ。俺はその辺に転がっている石ころかっ。
「………いただきます」
こんな奴に怒っていても仕方ない。怒りを静め、俺用に用意された朝飯を食べる。…冷めてる。
まぁ居候の立場だったら冷めてる程度がちょうどいいよな。本当だったら、公園にいるホームレス達と縄張り戦争をしながら生きなくちゃならなかったんだから…それを考えると、飯が食えて帰る家があるだけでもありがたいと思わないとな。
あの女二人の態度はムカつくけどなっ!
「………キモッ」
「なっ!」
アオイとヒメノを睨みつけていたら、アオイが俺に聞こえるようにトゲトゲしく言ってきやがった。言い返してやろうかと思ったが
「あ、時間だ。アタシそろそろ学校行ってきますね」
「もうそんな時間?じゃあ、一緒に行きましょ、アオイ」
「はいっ」
登校時間になり、アオイとヒメノは出かけて行った。って俺ものんきに飯を食ってる場合じゃなかった。
カカカッと口に運んで
「ごちそうさまでしたっ!」
食器を流しに置き慌てて自分の部屋に戻り、制服に着替え忘れ物がないか確認した後、鞄を持って飛び出した。
遅刻常習犯だから、早く行かないとまた先生に怒られちまうっやばっ!
俺がダッシュで走って登校する姿は、何故か町の名物となっちまってて、
「おう、ハヤテって今日もギリギリかっ?」
「うるせぇー」
「ハヤテーー頑張れーー!!」
「うっさいー」
町内会のおっさん、おばさんが笑いながら声をかけてきやがる。あぁ、恥ずかしい…。
関係ない通行人にまで俺を見てクスクス笑ってやがる…くそうっ。
後もう少しっ!ここの角を曲がればっ
「はぁっおまっ!?」
「へっ?きゃぁぁ!?」
曲がり角には何故か小柄なアホ毛の女の子がいて…
ゴッチーンッ☆
俺達は盛大にぶつかってしまった。
遠くなっていく意識の中…
『キーン―コーンカーコーン』
学校のチャイムが鳴る音がが聞こえた。
あぁ…今日も遅刻確定だ。ちくしょう…。なんだったんだ…あの女。あの女のせいで……うっ。
完全に俺の意識はプッツンいった。