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君の青春に××してる【完結】
作者: はるた ◆OCYCrZW7pg  (総ページ数: 17ページ)
関連タグ: 青春ラブコメ 
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10~

*8*

 4日目「君とライブに行ってみました」



 午前九時。私は大きな奇声を発していた。
落ちつこう、落ち着こう……。
 何度も唱え、私はベッドに放り投げた服どもをじーっとにらみつけた。クローゼットをガバっと開け、箪笥のものを全てひっくり返すように散らかす。
 今日は有馬君とのデートの日だ。一緒にライブに行こうと誘ってくれたのはいいのだが、出かけるということは私服を見られるということ。
 まぁ、昨日ダサい服を見られてしまったが……。それは気にせず、これから頑張ろう、うん。
と、ひとりでに納得して私は服が転がっているベッドにダイブ。


「何でうちにはこんなに服無いのぉ……!!」


 有馬君はどんな服が好きなのだろう。そんなことを考えながら、大きな鏡の前に立って服を体に合わせてみて、溜息をつく。どんな服を着たとしても所詮私だし、馬子にも衣裳っていうやつなのかもしれない。


 そんなうちに軽く三十分も時間がたち、私は時計を見るなり本日二度目の奇声を上げた。
 このままなら遅刻をしてしまう。
私は目をぎゅっと目をつむり、手さぐりに服を引き当てた。
何でもいい、早く着替えないと。そんなバカげた意識が心の中で占領されていた。







***







「……あ、こんにちは。沢渡さん」
「……っ!! ごめんね、待った? 有馬君」


 待ち合わせの時間ピッタリに待ち合わせ場所についた私は、いつから待っていたのか分からない有馬君を見つけ、すぐに駆け寄った。
涼しい顔の彼は、私が待たせてしまったという罪悪感に襲われているのを知らない。
 

「今日は昨日と服、違う感じだね」
「……えっ!?」


 有馬君に指摘されて、ハッとする。
目をつむり適当に合わせた服は、ピンクのキャミソールに黒いパンツ。薄めの小麦色のカーディガンを羽織っている。
 確かに昨日はパーカーで適当な格好だったけれど、そりゃデートの時くらい可愛くしたいと思うのは当然だよね。


「似合ってる。可愛い……」



 有馬君が小さく笑いながら、そう言うものだから私は顔を赤らめてしまう。似合ってると褒められたのは何時ぶりだろう。ドクンドクンと心拍数がおかしくなる。
 

「ありがとう」


 私も自然とつられて笑顔になった。
彼の歩幅は私に合わせてくれているのか、やけにゆっくりだった。







***




 初めてのライブだったのものだから、私はライブというのはこういうモノなんだなぁと吃驚しながら席に着いた。
 最初に出てきたのはきれいな女の人と男の人。印象は声が少し変な感じってこと。変というのは可笑しいか、そう、綺麗なのだ。透き通るように響く声。


「えっと、これ何のライブ?」
「あぁ、俺の好きなアニメのファンライブ。で、今司会しているのがこの作品の主役とヒロインの声優さん」
「……へぇ」


 声がきれいなのは声優さんだからなのか。……じゃなくて、どうしてアニメのライブに私はきているのだ?
 疑問を隠せずに私は隣の席でワクワクしているように見える有馬君を見つめる。そんな私の視線に気づかず、有馬君はステージに夢中。


 


 やっとピースがそろったのかもしれない。


 「俺のことすぐに好きじゃなくなる」

 その言葉が今脳裏に浮かぶ。
有馬君はきっと、いわゆる「オタク」という部類なんだろう。一緒に本屋に行ったとき、たくさんの本を買っていた中にそういう本も交じっていたし、彼女よりゲームを優先していたし、昨日だってバイトしていたのはきっと……。
 私は多分、なんとなくだが勘付いていたんだろう。それでも否定し続けたんだ、有馬君はオタクじゃないって。



「有馬君……」
「どうしたの?」
「えっと、ううん。なんでもない」



 私はどう言葉をかけていいのか分からなかった。有馬君のことは好きだ、例えオタクさんだったとしても、それは変わることは無いだろう。
 でも、今どうすればいいのか分からない。



 声優たちのトークが終わった後に、そのアニメのOPやEDを歌うシンガーが出てきて、爆音で演奏し始めた。
有馬君はそんな光景を見ながら小さく目を細めていた。
 その表情は、私が今までいつども見たことのない笑顔で、少しだけ悔しかった。教室でも見せない、私にも見せたことのない表情。
 
 ずるい……。

 有馬君の心を簡単に奪っていくアニメや漫画に嫉妬を覚えながら、私はボーっとライブを見ていた。















「終わったね、どうだった?」
「……えっ、あぁ。すごかったね」
「……ごめんね、あんまり興味ないジャンルだったよね」
「え、あぁ、そうじゃなくて」


 
 ライブが終わった後、有馬君は少し申し訳なさそうにそういった。別に楽しくなかったわけじゃない。どちらかと言えば、私もすごくワクワクした気持ちになってとても楽しかった。有馬君がライブに来たかったことも分かる。でも……



 有馬君をとられたみたいで悔しい。




 そんなこと言えるわけないのに。
私は無理矢理笑顔を作って、有馬君に相槌を打つ。ゆっくりと彼は表情を緩め、笑う。でも、さっきみたいな本当に笑った顔じゃない。私と同じ、作った笑顔。



「ううん、何でもないよ。有馬君、とっても楽しかった。一緒に行ってくれてありがとう!!」


 私は今度はきちんと心から笑えた気がする。
有馬君も嬉しそうにうなずき「じゃぁ、帰ろうか」と声をかけてくれた。「うん」と元気良くうなずいた私は、有馬君の隣に並んで夕方の通りを歩いた。
 人も多いが、そんな中で有馬君だけが光って見えた。キラキラしているとかいうそういう非現実的なことじゃなくて、ただどんなところにいても彼がどこにいるか分かると思ったのだ。理屈じゃない、きっと。
 初めての恋だったから、私はこの現象が何なのかまだよく分からない。


 そんな君の秘密を知った、不思議な日曜日。





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