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*10*
「……これって、私のこと?」
もう一度言葉を見つめても、やはり古代文字なのだから分からない。
「俺はこの文字読めないからなあ」
「そうよね……。他にはなにも書いてないみたいだし……」
ためいきを吐いて、フレドリカががっかりしたように呟いた。
それが、マッチした。
誰と?
「「調査のヒントは書いてない……」」
――サイモンと。
少し驚いて、フレドリカがサイモンを見やる。
「ふむ……言葉が合ったな。すごいことだ」
平然としている白衣の青年を見て、照れを隠すように「すごいことじゃないわよ!」とつっこんだ。
……照れてる? 照れてる〜♪
内心、俺がこの状況を楽しんでいることはいえない……よな。
「サイモン、大発見したぞ!」
不意にアーサーの叫び声が響いた。
四人が振り向くと、アーサーはまだカプセルの中に入っていたのが分かった。
……つか、早く出ろよ。
「なんだー」
棒読みのセリフを吐いたサイモンに、喜びながらアーサーがいった。
「ここ、すっげえやわらかくて気持ちいい!」
サイモンは呆れていた。
ラクーナも同様だ。
フレドリカは興味を周囲の壁に移している。
――が。
「あ、あーさー……」
「んっ? なんだよ、ツバサ?」
俺だけは――子供じみている。
「アーサー、俺も入りたい!」
――から、こういった。
「はははっ!」と陽気に笑いながら、アーサーが叫び返す。
「へっ、今は俺が入ってんだから、お前はあとにしろって!」
それを見て、フレドリカがじと目で俺たちを見つめる。
どこか軽蔑(けいべつ)するような目と感じたのは、俺とアーサーだけかもしれない。
「…………貴方たち、調査隊なのよね? ツバサも、調査に来たのよね?」
「……はあっ」
サイモンが完全に呆れてためいきを吐く。
「腕はいいのよ、腕は」
ラクーナがフレドリカになにかを付け足すようにささやいた。
「まあ、いいけど。――先に行きましょう、サイモン、ラクーナ」
「あ、ああ……」 「ええ……分かったわ」
………………。
…………ぽつん。
二人だけ残されて、二人だけで叫んだ。
「「失礼すぎるだろー!!」」
・ 遺跡―グラズヘイム― ? ・
――叫んでいた途中で、本当に三人はいってしまったらしい。
気づくと、俺とアーサーの二人だけしかいなかった。
「たくよ……どーしてだよ〜」
愚痴るアーサーを見やったあと、俺はどうしたものかと思いながら探索を続けていた。
「あ!」
すると、魔物が入ってきた場所に人が入れる穴が開いていた。
それを発見したので、俺たちは先へと進んでいった。
《フレドリカ》
「“バッグガード”!」
ラクーナが、後列の仲間を守る技、“バッグガード”をつかってくれた。後列は、私、サイモンと、比較的打たれ弱いクラスの人たちだったから効果はテキメン――かと、思いきや。
ガッ!
「きゃあっ!?」
――時の運、なんて言葉がある――‘気がする’を付け足すべきだろうか――。魔物は、前列にいたラクーナに攻撃を仕掛けたのだ。
サイモンを見やる。なんとなく、「前列に攻撃を仕掛けたか……」といいそうな顔をしている。
「前列に攻撃を仕掛けたか……」
いった。私の考えが当たった。わあ……私、エスパー?
――って、それよりもよ!
「へ、“ヘッドスナイプ”!」
内心恥ずかしい思いをしながら、私は“ヘッドスナイプ”をつかった。この技が効くのかは分からないが、攻撃技なので自分の中でよしとする。
「ラクーナ、大丈夫か」
「あはは……時の運って言葉もあるし、まあ、大丈夫よ」
「“アームスナイプ”! “レッグスナイプ”!」
二人の和気藹々(わきあいあい)な会話を耳に入れながら、私は魔物を倒していく。
「そうか」
「うんうん。平気平気! さっ、さっさと倒しちゃいましょ!」
「そうだな」
「…………」
……でも。
「和気藹々しすぎーっ!!」
遺跡中に、私の叫び声が響き渡った。
「ツバサたち、遅いわねぇ」
のんびりとした口調で、だがラクーナが心配するようにいった。
「うん……迷ってるのかな?」
「ツバサとアーサーなら大丈夫だろう」
すっくとサイモンが立つ。
「――それよりも、きみの記憶を取り戻さないと」
「冷酷ね」
「いや、心配しているさ。だが、ツバサたちなら大丈夫だ。ましてや、アーサーもいたらな」
「どうして?」
「それは――」
うわああああああああああ!!!
うぎゃあああああああああ!!!
「…………」 「ほらな?」
男性二人の叫び声が聞こえたところで、よく分かった。
二つの真実が。
「まず、一つ目の理由。それは、あいつらがタフだからだ」
「ええ」
「二つ目は……」
ダダダダダダッ!!
「サ〜イ〜モ〜ン〜!!」
「…………アーサーね」
私が呆れるようにためいきを吐いたそのとき、新しい叫び声が上がった。
アーサーとくるならば、勿論ツバサだ。
「た〜す〜け〜て〜!!」
「…………もうっ!」
「ご丁寧なガイドだこと」
「まったくだ」
なぜか魔物を数匹連れてきた二人組みを見て、「ふう」とサイモンがためいきを吐く。これが安堵なのか呆れなのかは分からなかった。
だけど……これだけは分かる。
「戦闘開始ね!」 「少しばかりやってやろう」 「もう一頑張りするか!」
――戦闘開始の合図だってことは!