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*33*
・ 双子の最後の言葉 ・
「――!? 大変!」
俺は、思わず本当に嘔吐してしまいそうになった。
血だらけの人が二人、双子らしき少女が倒れていたのだ。
ラクーナが駆け寄り、俺たちを見て悲しそうに首を振る――くそっ。助けられないってことか!?
「……もう、死んでしまいそう。応急処置をしても、だめだと思う。けど、話せる時間はある」
「そうか……」
黙って双子の顔を見る。
目を開けようとしている。
容姿を見てみると、右の子も左の子も、藍色に近い青のセミロングに、黄色の瞳だった。
――ん?
そういえば、カイに似ている。あの、漆黒フードをかぶっていたパラディンに。
……妹なのだろうか。
「どうしたの。貴方たちは……二人だけでここに?」
「ちがう……リディアとも、アイザックとも一緒だった……」
右の子がかすかながらにいった。
左の子が口を開く。
「だけど……雪色と水色に分かれた狼に……みんな、やられて……」
左の子が涙目になりながらいった。
「妹の……エルサも……瀕死、状態で……」
「お姉ちゃんも……なの……」
右の子はエルサというのか。
「……でも、まだ、残ってる……」
エルサが口を開き、そして二人ともなにかを知らせようとしていった。
「「……リーダー……が……ディオン……が――」」
はたりと、おちた。
ラクーナだけでなく、サイモンも涙目になっているような気がする。
もちろん、俺も涙目だ。
人が目の前で――死んでしまったのだから。
まぶたがおち、永遠の眠りについた双子は安らかな笑顔をうかべていた。
人って、死ぬときはみんなこうなのか……?
――ディオン、か。
そのディオンという人が、双子やリディアという人らがやられた狼のところに。
「……助けよう。そのディオンっていう人を」
もう、死なせないために――助けなきゃ。
「執政院に報告しましょう――あれ?」
ラクーナが指を近くのくさむらのほうに向けた。
なんだろうと見てみると、なんとそこにはルーシィがいたではないか。
――あのバードの少女が、なんで。
「エルサーッ! イルアナーッ! どこ、どこにいるのー?」
――エル、サ? 今、ルーシィは、エルサと。
「おい、それって……この子たち、じゃ」
ルーシィが涙目になり、涙をこぼす。
「そんな……」といっている様子からみて――多分、この双子は。
「嘘……ようやく見つけたのに……カイになんていおう……」
――やっぱり、カイの妹たち、か。
「……あ、ツバサさんたち……?」
「どうして俺の名前を?」
ルーシィが涙を流しながらいった。
「……カイから聞いたの。金髪の女の子が貴方の名前をいってたって」
ぐすん、と鼻をすする。
金髪の女の子とは、フレドリカのことだろう。
「……エルサ……立派な‘ゾディアック’だったのに……。イルアナも……立派な、メディッ……」
まぶたを閉じ、なにかを忘れるように頭をふるふると振る。この出来事が信じられないのだろう。
「……どうして――どうして……」
「‘雪色と水色に分かれた狼’にやられたそうだ」
ルーシィがサイモンの言葉を聞いて首を上げる。
「え!? まさか、スノードリフトに挑みに行ったの!?」
――スノードリフト?
「なんだ、それって?」
「迷宮の層の終わりごとに、ボスクラスの……とても強いクラスのF.O.Eがいるだけど、この翠緑ノ樹海は、スノードリフトがそうらしくて。雪の毛と水色の毛が鮮やかできれいなんだけど、強い話で……。今まで何人もやられてきたらしいの」
……それにエルサたちはやられた、のか。
「……ああ、どうしよう……? カイがまた、暴走しちゃうよ……」
俺たちの視線に気づき、バードの少女は「あ……」と呟く。
「……ごめんね、取り乱しちゃって。うん、大丈夫。大丈夫だ。なんとかならないけどなんとかなるさ! ――じゃ、またね、ツバサさんたち!」
ルーシィが駆け出していく。
「空元気(からげんき)だな……」
サイモンが悲しそうに呟く。
――俺たちは、今は少女に同情するしかなかった。
……ただ、執政院に報告はできる。
「行こう、執政院に」
みんなが黙ってうなずいた。
・ ハピネススター ・
――そのギルドは、‘ハピネススター’というらしい。
ソードマンのディオン、
パラディンのリディア、
アルケミストのアイザック、
そして、カイの妹たちであるゾディアックのエルサ、メディックのイルアナの――五人で編成されていたという。
そのギルドは、‘俺たちよりもはるかに強く、一階層を突破できるかも’といわれていたギルド――との情報が見つかった。
執政院の窓口人であるオレルスが、悲しそうに「そうだったのだな……」といった。
シリカ商店に立ち寄ると、シリカが「じゃあ買い物に一生来てくれないんだね……」と。
サクヤは「あのパーティはいいパーティだったのだけど」と、よくあることのようにいっていた。
……そう。よくあることだ。
少なくとも、百例は発生していた。‘人の死’が。
ここエトリアでは、そんな出来事は普通のこととなっている。だが、やはり死は辛い。
悲しむそぶりは、消えやしない。
「……残念、だったわね。エルサたち、スノードリフトを倒せなくて……」
フレドリカが悲しそうにいった。
まだ涙目になっている彼女に、俺はそっと肩に手を置く。「ありがとう」とフレドリカ。嬉しいが、それよりも悲しみが先行してしまう。
「……俺、ちょっとカフェテリアに戻ってるよ……」
「……じゃ」とアーサー。
いつも元気でタフで少し馬鹿なところがあるそんな少年も、今回ばかりは元気ではいられないだろう。
なにしろ、人の死を自分の目でみてしまったのだ。声のトーンが下がったりするのも無理はない。
「…………ポケ……ビィ……父上――」
少年が、体を震わせながら自分にとって不可解な単語をいい、直後ハッとして顔を上げる。
「なにいってんだ?」と自問、そして「まあいいか」と自答して、さっきの言葉を忘れるかのように駆け足でカフェテリアへと走っていく。
――父上、って。アーサーならば父さんとか親父だよなあ。
サイモンをなんとなく見る。サイモンがなにやら考え込んでいた。
なんだろうとも思ったが、今は、スノードリフトについて話し合わないといけない。
「アーサー……記憶が……? ――失礼、僕もカフェテリアに行ってくるよ」
――どうして、サイモンまで?
「とりあえず、私たちだけで話し合いましょ。執政院からミッションを受けたんだし」
――そうだ。スノードリフト討伐のミッションを受けたんだ。
俺たちは、再び酒場に向かう。
――ハピネススターの仇を討つために――。