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数学恋草物語 Chapter1
作者: 恋音飛鳥  (総ページ数: 7ページ)
関連タグ: 数学恋草物語 飴野夜恋 九石優也 恋愛 数学 理系ホイホイ 
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*1*

 「遅刻だ遅刻ーッ!」
朝寝坊には強くなったと思ったらこのありさまだ。
「恋、トースト…」
「いらない!行ってきます!」
 母の声も振り切って、私こと飴野夜恋は家を飛び出した。
 通学路では桜が舞っている。そんな光景に目も向けず、私は全速力で走っていた
「もうっ…今日に限って…」
先輩方の卒業式である今日に限って私を朝寝坊させるとは、運命もよほどのいたずら好きだ。
 今日は桜野住高校附属中学校第十期生の卒業式。もともと名門国立高校である桜野住高校だったが、附属中が出来てからはさらに実績を上げている。
 本来ならば成績劣等生の私がなぜこんな高倍率名門中学校に通っているのか。それは特待生制度によるものだ。様々な分野の有能な生徒を集めるという目的であるこの制度は、私達十一期生から導入されている。分野と言うものも実に様々だが、多いのは音楽、美術などの芸術系と体育系。だが、私の特待理由は学年200人の中で2人しかいない、極めて人数の少ない分野。
 「数学」。
 私は小さい頃から算数や数学が得意だった。出場した大会では必ず何かしらの賞を取っており、主催側で飴野夜恋の名前を知らない者はいないだろう、とも言われているらしい。数学界の新星、と雑誌にインタビュー記事が載ったこともある。もっとも、当時小学生だった私のインタビューなんて内容も薄く、雑誌の1ページにも満たなかったのだけれど。
 自慢ではないが、私がこの学校に入ることのできたのは数学のおかげ、ただそれだけだ。一般の試験なんて受けていたら確実に落ちた自信がある。何て言ったって、数学以外の科目の点数がすべて赤点の人間だから。
 そう思うと、私は数学がなければクズ人間な気がする。頭は悪いし、寝坊はするし、足は遅いし!
「ヤバい、8:20着席なのに、今8:15だ…」
走っているのに、結局は絶対遅刻確定。
 「キャァァ!?」
不意に強い風が桜の雨をより強くさせる。こんな風も春の風物詩なのかと思うのだけれど、それ以前に、
「だ、誰にも見られてないよね…?」
今の風でめくれたスカートの方が問題だ。
 私は、スカートの絶対領域と黄金比の関係を知ってから、スカート丈は常に絶対領域をキープしている。その分、丈が短いわけで、少しの風でも下着が見えてしまう確率が高い。
 周りを見渡すと、自分の後ろを歩く桜野住中の制服の男子を発見してしまった。しかも、とっても良く名前も顔も知っている。

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