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作者: 水沢麻莉衣 (総ページ数: 9ページ)
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*1*
僕と彼女はしばらく森を歩き、語った。
彼女はレイチェルといい、すぐそこのアデス王国の端にある、修道院の修道女である事を僕に教えてくれた。
「ルーフェス・・・さん・・・よね。あ、イアンさんの方がいいかしら。名前では馴れ馴れしいかしら?」
レイチェルは僕の顔色を窺う。
彼女は美しい。
「いや、ルーフェスでいいよ、レイチェルと僕は呼ばせていただこうか」
「・・・!ええ。ふふ。わたし、レイチェルでよかったわ。とってもついてる。貴方に名を呼ばれたのだから」
レイチェルは大げさだ。
僕なんかに名を呼ばれただけでここまで喜ぶなんて。
「・・・あら、もう時間だわ」
修道女は基本修道院から出ることはないのだが、カナリアのための発声練習のため、出ることがあるのだという。
「友人が待っているわ。それでは、ごめんあそばせ」
「ああ。また、会えるかい?」
レイチェルは振り返ると、にこりと優しく微笑んでいた。
そして、儚げな微笑みとともに、
「もちろんよ、また明日この場所で」
レイチェルはまたも美しい微笑みを僕にみせた。
レイチェルside
「はぁ・・・はぁ・・・、ごめんなさい、シーカリス。待ったでしょう?」
わたしは時間に間に合わず、シーカリスに頭を下げる。シーカリスはそんなことない、笑う。
彼女は心優しく、わたしの親友であった。
シーカリスは林檎を籠いっぱいに詰めていた。
また、その林檎を売るのだろう。
彼女の母親、ユイティルは働けないため、シーカリスが働くしかないのだ。
前まではわたしと同じ、修道女であった。
「マリアに怒られるのね、私達」
「やだわ。そんな時間?ごめんなさい、シーカリス・・・うっかりしていたわ」
「珍しいね、レイチェルがうっかりなんて」
「そう?」
「うん」
彼と会ったためか、少し浮かれていたのね。
駄目よ。
わたしは修道女。
男の人なんて・・・。そんな・・・。あまり興味もないし・・・。べつに、彼と会ったからなんてあまり何も差し支えないはずなのに。
この気持ちはなにかしら?