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*21*
「や、やっと配り終えた……」
さすがの不動も全身疲労で倒れる寸前だった。
「おう戻ったか。これ少ないがとっとけよ。じゃ、明後日にまた頼むぜ」
「ま、マジか。ありがとよ」
オヤジが店の中に引っ込むと、代わりに少女が出てきた。
「ごめんごめん! 自己紹介もしてなかったよね。私は山口貴子(たかこ)。貴子って呼んでよね!」
「なあ、仕事内容くらい先に教えといてほしかったんだがよ。こんな重労働ってわかってたら、朝走りこんで来なかったぜ」
「ごめんね。あたしそそっかしいから。でも、本当に助かったわ。あ、というよりお互い助かったんだ! 良かったねお兄さん、バイト先見つかって!」
「ああ。ありがとな。俺は不動明王だ。それと、オヤジさんにも名前を伝えておいてくれ。お前とかおいとか言われるとイラッと来るんでな」
「わかった! じゃあ、また明後日ね。明王さん」
商店街を通って帰ろうとすると、たまたま京香の店が開いているのが見えた。
「あら、明王。もしかして私に会いに来てくれたのかな?」
「ま、そういうことにしといてやるよ」
「嬉しいこと言ってくれるね。ダメになった漢方薬あげるわ、食あたりに効くの」
「できればダメじゃねえやつをくれよ。それよりも試合の応援ありがとよ」
「いいって。あたしの気まぐれで行ったんだから」
「そうかよ。あ、それと仕事先が見つかったとこなんだよ。山口商店ってとこでな」
「ああ。あそこの。私もよく頼むわ。お米って買っても運ぶのが重いから、よく運んでもらうのよね」
「これで俺も人並みの生活に近づいたってわけだ」
その時、店に人が入ってきた。玄武だった。
「失礼します。この間頼んでおいたコンサートのチケットは……おや、不動さん。こんなところでヒーローに会えるとは思ってませんでしたよ」
「よせよヒーローなんて。柄にもねえ」
「玄武さん。これがチケットだよ」
「ありがとうございます。あ、応援もありがとうございました。さいきんでは商店街の人も応援に来てくれなくなって、けっこう寂しかったんですよ。まあ、ビクトリーズが50連敗もすればしょうがないですが。では、僕はこれで!」
玄武は笑顔で出て行った。
「コンサートのチケットなんてあつかってるのか」
「副業でね。プロサッカーチームのチケットでもとる?」
「金が無いからいらねえ」
「そういうと思ったよ。あ、そうだ。こんどの土曜にカシミールの手伝いに行ってあげてよ。奈津姫は大変なんだよ」
「俺がか? まあ料理は下手じゃねえケドよ。迷惑じゃねえか?」
「私が一緒に行って話をつけてあげるから安心して。それに、給料は出ないだろうけどカレー一杯くらいなら食べさせてあげるからさ」
「そりゃいい。じゃあな。また来るかもしれねえ」
「待ってるよ」