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*22*
五月。
その日は快晴だった。今日もカレーを食べにカシミールへ行くと、今日は休みのようだった。
不動が引き返そうとしたとき店の裏手からカンタと奈津姫が出てきた。
「あ、不動さん。せっかくのゴールデンウィークなのでこれからピクニックに行くんですよ。あなたもどうです? カンタが喜ぶので」
「ピクニックねえ。悪いけど俺は毎日がピクニックみたいなもんなんでな、家族水入らずで楽しんでくれよ」
「えーおっちゃんがいたほうがきっと楽しいでやんす! 来てくれでやんす」
不動は困って頭をかいたが、まあ昼飯が食べれるならいいかとついていくことにした。
竜巻町にはすぐ近くに山がある。裏山の眺めの良いところで、三人はレジャーシートを広げ座る。
お弁当を食べながら、三人は取り留めのない話をした。
「それにしてもおっちゃん、この前は凄かったでやんす! ビクトリーズ50連敗を止めた伝説のヒーローでやんす! この調子でイリュージョンも倒すでやんす!!」
「カンタったらこの間からこればかりなんですよ。おめでとうございます不動さん」
「ああ。俺にかかれば楽勝だよ、楽勝」
「さすがおっちゃんでやんす!!」
カンタの言葉を最後に、しばらく沈黙が流れた。不動と奈津姫はもう弁当を食べ終えていた。
二人が話題も無いので景色を眺めていると、ふと奈津姫が言った。
「たまにはこうしてゆっくりするのもいいものですね」
「……そうだな」
不動の口元には笑みがあった。目の前には、いつも日々をすごしている商店街や、家である川が小さくうつり一望できた。「ま、悪くはねえかもな」と不動は言う。
「ごちそうさまでやんす! こうしてると、なんだかお父さんが戻ってきたみたいでやんす!」
カンタが弁当を置いて言った。
「馬鹿なこと言わないでカンタ。あなたのお父さんは天国にいるのよ?」
奈津姫の声には苛立ちがこめられているように不動は感じた。なにか気まずかったが、不動はこういう時は黙った。
「なんでやんすか! それじゃあもうお父さんには会えないってこことでやんすか! ちょっと『お父さんが戻ってきたみたい』って言うのの、何が馬鹿なんでやんすか……」
奈津姫とカンタの二人がそれぞれ何を考えているのかは不動は知る由もないが、不動が「帰ろうぜ」と言ったきり三人は一言も会話せず山を降り帰った。