完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*1*
私は、初対面が苦手です。
――――― CHANCE OF RAIN ―――――
よく喋る人だ、とよく言われる。そりゃ違うのだ。知ってる人だから慣れてる人だからよく喋る。初めて顔を合わせる人となんか絶対ムリ。
そんな私が、どうしてこんな企画に参加したのか正直自分自身でもよく分からない。
これは大学の企画だ。それも高校生を対象にした実験教室。各地から集まってくる知らない人たちと、嫌でも喋らなきゃいけない。
ふと、この企画に応募した頃の自分自身を思い返してみた。
あの時はどうしたわけかヤケにむしゃくしゃしていたのだ。その理由は分かってるようで、分かっていない気がする。
高校に入ってからは何もかもが、何となく、ただ単に、普通に、何の変哲もなく、過ぎて行った。
昔から刺激に飢えていた。けれどここは平和な国。だから、することも無いので人より勉強してみた。特に理由はない。ただ何となく、勉強は頑張っていた。
小学校、中学校と地元の普通の公立校に進んだ。
中学では部活をやってみた。普通に頑張れた。
友人関係も波風立てずに平和にやっていた。普通に楽しかった。
勉強の方はいつも学年一位だった。普通に嬉しかった。
どうやら私は普通に過ごすことが得意らしい。いじめとか事件とかは自分の周りで常にあったが、恐ろしいくらいに関係してこなかった。
中学三年になってようやく、色々と嫌なことが起こった。今までうまく行き過ぎていたせいか、けっこう病んだ。
けれども、そんなことはよくある十五歳の悩みのうちだろう。何かの有名な歌の歌詞にもあった気がする。
結局、友人に助けられて病み期は終わった。友人曰く、恩返しだそうだ。何の恩返しだか覚えがないが、まぁありがたいことこの上ない。
そして中学を卒業した。
普通の卒業式だった。普段から目立っていた女の子たちが大泣きしていた。私には彼女たちが理解できなかった。
ただ、卒業祝いにもらった紅白まんじゅうが物凄く美味だったことは覚えている。卒業式の帰り道、少し悪ぶって、中学では禁止されていた歩き食いを友達と二人で決行した。もちろん紅白まんじゅうの歩き食いだ。今になれば本当にアホなことをやったんだなと思う。
そんなこんなで高校生になった。高校には同じ中学の人は居なかった。
たまに会う中学の同級生たちは化粧をしたり、スカートをほぼ衣服の意味が無いくらいに短くしたりして高校生デビュー、とか言っていた。けっこうみんな可愛くなっていたので女って怖いな、とかぼんやりと思ったりした。
「凛はさ、JKしないの?」
ある日、地元の駅でたまたまあった中学の時の同級生、美月がそう質問した。
「いや…特にそういうのは計画してないけど。何で?」
すると美月は不満そうに口をとがらせた。「何で?って。だって三年間しかないんだよ、JKできるのは。」
「はぁ。JKねぇ。」美月の超ミニスカートを見ながら、パンツ見えてるぞ、と私は心の中で呟いた。
「そうだ、凛、気付いた?私髪染めたんだよ〜」美月は長い髪をほら見て、と揺らした。やけにいい匂いがした。
そして美月はクラスの男の子の話を始めた。知らない男子の話をされてもよく分からん。
美月は一通り喋りまくると、ふと、何かを思い出したように黙った。
「どうしたの?」すると、美月が首を傾けて私の顔を見た。
「凛ってさ、男子に興味あんの?」
「あるよ。無いわけ無いじゃん。」
「本当?だって凛がデレてるトコ見たこと無い。」
「そうか?けっこう恋バナとか加わるの好きだけど。本当だよ。」
「ふーん、そっかぁ。」
美月はそれで納得したらしく、また男子の話を始めた。どうやら美月の通う学校にはトモヤ君という何でもできる超絶イケメンがいるらしい。そしてこいつは入学早々そのトモヤ君と付き合っているらしい。日本の将来が不安になってきた。
トモヤ君の話を聞くこと二十分。分かれ道の十字路に辿り着いた。ここで私は東の道へ、美月は西の道へと分かれる。
「じゃあね、凛と喋ってるとやっぱ楽しい!」そう、彼女は最後に言って去って行った。
いや、アンタがずっと喋ってただけだろ(笑)
そういう感じで、高校一年の夏は過ぎた。
こんなまとめ方でいいのかと思えるくらい、そういう感じで過ぎて行った。