完結小説図書館
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*2*
そして秋。
学校の廊下には、色んな大学の説明会やら、実験教室やら、体験入学やらの募集ポスターが張り出されていた。
そろそろ進路のことを考えないとマズイかな、と思った。予想が当たり、進路希望調査なんてものが来た。一週間後に調査用紙を配るから考えとけ、と言われた。
ちなみに昨年は…と、担任が昨年の希望調査の結果を配った。半分以上の生徒が東大、と書いていた。これは大概の生徒が行きたい大学が思い浮かばず、取りあえず安くて済む公立の、知っている大学名を書いた結果だ。なぁんだ、けっこうみんな希望とか決まってないんだな、と謎の安心感を与えてくれる調査結果だった。
ふと、突然、嫌な気分になった。
こんなんでいいのか。こんな、何となく、また中学の時みたいに過ごしてしまっていいのだろうか。
いいんじゃね? そう考えてしまう自分が心のどこかに居て、また嫌な気分になった。
ええい、我慢できねぇ。
そう思い立って、スマホの電源を点けた。適当に遠くの大学を思い浮かべた。あ、K大でいいや。K大。関西だしここからじゃ相当遠い。ちょうどいいや。
学科?もう適当に理学部でいいや。どうせなら好きな学科にしよう。
大学名と学科名をGoogleの検索画面に入れて、enterをタッチ。適当に検索結果のトップにでた項目をタッチした。
なんとタイミングのいい話だろう。それはK大のある学科が高校生向けに開く、実験教室のお知らせだった。定員は60名ほどで、しかもネットから応募できるという。私は意味の分からない高揚感に押されて、そのまますぐに応募した。普段ならこんな意味の分からないムチャなことはしない。
まぁでも60名だし。けっこう応募してる人居るみたいだし。実験教室への参加切符は万が一にも私に来ないだろう。
絶対行くはずの無い関西の大学の実験教室に応募して、その日、私はなぜか満足した気分になった。
そしてそれから数週間後。
見慣れないメールアドレスからメールが一通来ていた。迷惑メールかと思ってそのまま捨てようかと思った。
が、それはいつだかに応募した、あの実験教室からのメールだった。
マジかよ、嘘だろwwwと思ってメールを開くと、嘘みたいな話だが、おめでとうございますあなたは定員60名の中に入りました、当教室へのご参加お待ちしております、といった内容だった。目の前がクラクラした。
しかし行くところは関西だ。遠すぎる。一体どうやっていくのだろう。新幹線で行くのだろうか。
調べてみると、新幹線と電車を駆使するルートで往復二万円強だった。今度こそ本当に目の前がクラクラした。
けれど恐ろしいことに、そのことを母親に話すと、普段なら絶対にお金なんかくれやしないのに、諭吉さんを三人、どーんとくれた。お土産を買って来い、という条件付きだったが、これでともかく絶対にK大まで行くこととなった。
成り行きとは恐ろしいものである。