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*2*
五月。
「おはよう、お兄さん」
「……また来たんだ」
「うん」
先月とは打って変わり、激しくも優しくも無い雨の中。彼女は赤い傘を差し、汚れた桜の道の上に立っていた。
数日前に会ってから、毎朝彼女は僕と話す。背負っているランドセルを見るに、この道が通っている小学校への通学路だと思っていたが、夕方は全く見掛けない為、態々この道を通る理由が、何かあるのだろう。
それの理由が、僕だとは思わないけれど。
空を見上げるには、晴れより雲が有った方が見易い。雨粒に目を細めながら、僕は空を見ていた。
「雨だね」
彼女の声に、ふと横に目線を移すと、彼女も傘を少し後ろに傾け、空を見上げていた。
「お兄さん、かさは?」
僕の事ではなく、空を見たまま彼女は問う。
「使いたくないんだ」
濡れたくもないのだけれど。そして、本当は使えないのだけれど。
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