完結小説図書館
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*3*
朝、熱を計ってみると平熱だった。
おでこの熱さましを引っぺがすと勢いよく階段を下りていく。
「しっぷしっぷ!」
昨日、壁に打ちつけた手がかなり痛むので見てみたら、あざになっていた。叩くんじゃなかった…。まあ今更、後の祭りなのだが。
棚を開けたり閉めたりしていてようやく見つかった。
と、思ったらサイズが大きすぎる。小さいサイズのものは切らしていた。大きいの使うのはもったいないし、買ってくるしかない。
おじいさんからもらった眼鏡を抱えて、太陽が東にうっすら上り始めた空の下を駆け抜けた。コンビニに多分売っているだろう。
売ってなければ薬局に行けばいい。走りながら残金を確認する。
1500円ジャスト。買えるな。ついでに肉まんでも買おうかな。
ウィーン…。テテテテテテ〜、テテテテテ〜♪
「いらっしゃいませーん。」
自動ドアの開く音と、来客の時になる音と、店員の声がかぶさった。
吹きそうになるが、我慢した。
しっぷは奥の方の棚にあった。あざになっていない方の手で箱を取り、
ダルそうな店員の方へ向かう。
カウンターの上に置いてある蒸し機の中には、肉まんやあんまんが入っている。更に隣の保温気にはフランクフルトや「あげからクン!」と書かれた紙袋が所狭しと並んでいた。どれもおいしそう。
「これと、肉まんください。」
相変わらずダルそうな店員は「ああん?なんだよ」と言わんばかりの顔をこちらに向けて、レジの上のしっぷを乱暴につかんだ。
ピッ、という音がした後、
「少々お待ち下さい。」
と言って肉まんを取り出し、しっぷと一緒にレジ袋に入れた。
「お会計550円です。」
千円札を渡すと、これまたダルそうな顔をする。
しょうがない。小銭がないんだから。
お釣りを渡されると、レジ袋を持って足早に店を出た。
また、音がかぶさる。
側のベンチに座ってパッケージを開けるとささっとしっぷを張り付けた。じわじわと冷たくなってくる。
入れ替えるように肉まんを取りだした。白い湯気をあげている。
ちょっとかじってみる。
「あづあっ! !」
危なかった。もうちょっとで肉まん落とすとこだった。150円、無駄にしてたまるか。今度からは、湯気が出てるものは気をつけて食べよう。
少しさめてから食べる。これぐらいなら大丈夫。
肉まんを頬張りながら空を見上げる。さっきより太陽が出てきた。
そうだ、眼鏡かけてみよう。あのときみたいな事が起こるかも。
心臓が高鳴る。立ち上がって、レンズを覗き見る。
東の空を見ると、光が洪水になって押し寄せてきた。
自分の周りが光だけになる。眩しい。
目を開けていられないはずなのに、目は見開かれたまま瞼は動かない。
気がつくと、周りの風景は元に戻り、すっかり日が昇っていた。
その場にペタン、とへたり込んでしまった。
きれいな世界。想像を絶するような世界。だけど、
怖い。
急いで眼鏡をはずしてケースを入れると、全速力で家に帰った。