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作者: 雪歌 (総ページ数: 8ページ)
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放課後になり、いつものように美香と駅で別れて、中学の頃から通っている塾に向かった。
通学路にちょうどあるし、ずっとそこに通っている。へたに別のところへ変わるよりも、付き合いの長い慣れた先生たちのほうが気が楽でもあった。決して有名でレベルが高い所ではなかったが、私は十分満足していた。
「こんにちわー」
扉を開けるとすぐに、教室の中心にある自由スペースのようなところが空いているかを確認する。自習室は別にあるが、先生も近くにたくさんいて質問するのに便利なのでそこでいつも自習していた。自習室のような、あまりにも静か過ぎる所が、私には合わないというのも理由の一つ。
「あ、空いてる」
「高見…自習は自習室でやれって何度も…」
思わず一人で呟いたのに言葉に反応したのは、数学の授業を担当してくれている高瀬先生だった。先生は、いつもみたいに呆れたような、微妙な顔で私に言った。すでにこのセリフは私への挨拶のようなものになっている。まあ確かにもっともなことである。しかし私は、気にせず素早く椅子に座り、机に突っ伏しながら返事をした。
「別に禁止されてないしいいでしょ」
それを聞くと彼は私の座っている長椅子の向かいに座った。ため息をつきながら。
「毎回ぬかりなく言うね、先生」
「おお、もう予想してたのか」
「いつまで持つかねぇ。このやり取りは」
「どっちが耐えられるか勝負だな」
「いや、私は何もしないから、面倒くさい思いをするのは先生だけだと思うけど」
そんなローテンションな会話をして、私が自習をし始めると、高瀬先生は違う塾生の所に質問を聞くなり雑談をするなりしに行く。私はいつも、ノートにガリガリ数字を書きながら、耳ではその様子ばかり、先生の声ばかりに集中してしまっていた。そしてそんな自分に気が付いて、必死で教科書の数字を見つめる。それでもやっぱりBGMは、男の人にしてはちょっと高めの先生の声である。