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君とあの時あの場所で〜3ヶ月の恋物語〜 
作者: 秋桜  (総ページ数: 23ページ)
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10~ 20~

*20*

湊谷はあの場所に来ていた。日比奈からの手紙を読むにはここが一番いいと思ったのだろう。

日比奈がここに来れなくなってからは湊谷も一度も来ていない。病院に行っていたから忙しくてこれないっていうのもあったけど、ここに来ると日比奈の死を認めてしまいそうな気がしたから――。

海岸には海風が吹いていた。海に太陽の光が反射してキラキラ光っていた。

湊谷はじっと海を見つめた。どれだけここにいても彼女は帰ってこない――。つらい現実を受け止められずにいた。

――日比奈・・・

湊谷は手に持ってた手紙を見た。湊谷は、日比奈らしい綺麗で丁寧な字で書かれた自分の名前を見ていると涙が溢れそうになった。

湊谷は涙を堪え、ゆっくりと封筒を開け2枚の便せんをとりだした。

『湊谷へ
もうなにから書いていいかわからないほど、書きたいことがたくさんあるよ。湊谷にはいろいろなことをもらったね。
初めて会った時は湊谷は私を見てかたまってたね。一目ぼれでもしたのかな?私は湊谷を見て、いままで忘れていた高校の事を思い出しちゃった。あんまり、思い出したくなかったんだよね。私の事を学校でなんて言われてるか分かんないし・・・。だから、もう湊谷とは会いたくない!って思った。でも、湊谷がこれからも会おうって言うし・・・だからとっさに嘘ついちゃったし・・・。あの日は病室で1人溜息ついてたもん。でも、湊谷と毎日話してるとすっごく楽しかった。私はこの島に住んでるけど、知らないことがたくさんあってそれをたくさん聞けて良かった。湊谷の友達の話も面白かった。ずっと、この時間が続けばいいと思っていた。でもね、体は私の気持ちを分かってくれなかった。湊谷にいつ話そうか、迷ってたんだ。そしたら、病院の廊下で神田源くんって人に会ったの。同い年ぐらいだったから名前を聞いたら、湊谷がいつも話してくれる友達だってすぐに分かった。源くんも私と湊谷の事を話したらすぐに理解してくれたんだよ。そして私が湊谷にどうやって病気の事とか余命の事とか言えばいいかな?って言ったら、俺がきっかけをつくってあげよっか?って源くんが言ってくれてね。本当にやってくれたんだ。源くんに、ありがとうって伝えてね。本当は自分で伝えたかったんだけど、連絡先とかも知らないから・・・。』

1枚目が終了した。湊谷の便せんを持つ手がかすかにふるえていた。そして、2枚目に入っていった。

『私が全部言っちゃた時は、もう湊谷に会えなくなるなって思たんだ。でも、湊谷は私を好きだと言ってくれたし、これからは会いに来るって言ってくれた。湊谷は、いつも私の想像を超えてきちゃうよね。すごくうれしいけど。私の人生は、湊谷に会って180°変ったよ。もう、私の人生には死ぬことしかないんだなぁって思ってたけど、湊谷がたくさん物語を足してくれた。もしかしたら、死ぬなんて嘘なんじゃないかって、この幸せはずっと続くんじゃないかって本当に思った時もあった。でも、そんな訳ないって現実に戻された。今日ね、明日が疚ですって医師に言われた。もう、ここにはいれないのかって湊谷と話せないんだって思った。今日が湊谷に会える最後の日なんだって。今から、私が湊谷に何を言うか分からない。最後に、どんな話したのかな。たぶん、明日死んじゃうことは言ってないよね。ごめんね。突然で。余命までまだまだあったのにね。私は、肝心なところで根性がないんだよね。本当にごめん。湊谷はどうだったか分からないけど、私は本当に湊谷と会えて幸せだった。悔いの残らない人生になった。ありがとう。こんな言葉じゃ伝えきれないけど、本当にありがとう。湊谷はこれからまだまだ人生あるんだから、幸せにね。ラーメン、頑張ってね。あっ唯一悔いの残ることは、湊谷のラーメンが食べれなかったことかな。だから、私じゃない誰か、他の大切な人に食べさせてあげてね。約束だよ。最後の約束。今までありがとう。

――大好き。

日比奈より』

便せんには湊谷の涙が落ちて、少しだけ滲んでしまったところがあった。湊谷は便せんを握り締めた。湊谷の体は震えていた。そして、静かに泣いていた。

「よしっ!」

湊谷は手紙を岩の上において、立ちあがった。

――スゥ

湊谷は息を吸い込んだ。

「――日比奈ぁぁー!!ありがとー!俺の方こそ本当に楽しかったぁー!日比奈と会えて俺の人生も変ったぁぁー!ありがとーーー!!!日比奈ー!大っ好きだぁぁぁぁ!!!!!!」

湊谷は海に向かって叫んだ。そして、思いっきり笑顔で笑った。
――ザァァ

そこに、海風が吹いた。

――ありがとう。

まるで、日比奈が隣にいて呟いたように聞こえた。湊谷にも聞こえたのか、湊谷は微笑んだ。

そして湊谷は手紙を丁寧にしまい、この場から去って行った。


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