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それから、しばらくして、彼女の足音は、いってしまった。
彼女の気配が消えると察したボクは、キョロキョロと、周りを見回すと、
誰もいない。
ほっと安堵の一息をつく。
…それにしても、彼女は、どうやってここに入って来たんだ?
ボクが、ここに来たとき、今日は休館日のはずで、
誰にも、入って来られないように、しっかり黒魔法をかけておいたはず…なんだけど…。
いつの間にか、魔術がとけたのか…それとも、まさか?
そんなことを考えながら、もとのいた場所に向かう。
ボクの本は、無事だった。
次は、こんなことがないように、気をつけなくっちゃ。
ふと、時計を見ると、
もう7時を過ぎている。
ボクも、早く帰らなきゃ…分厚くて、重たい本たちを手元に積んでいると、
さほど遠くない通路側の地面に、なにか切れ端のようなものが、転がっていた。
不思議に思って、近寄ってみると、さっきの少女がもっていた、
あのハンカチだった。
きっと、あの子の手を思いっきり叩いたときに、とんでしまって、
忘れ去られたのかもしれない。
届けるべきなんだろうか。
彼は、それを見つめた。
やわらかい桜色のハンカチ。
そんな、やさしくて、かわいらしい印象を、
見事にぶちこわすように、黒字で(たぶん…マ〇キーか、マ〇ネーム…)
なまえが書いてある。
手がかりが、なまえだけってもなあ…
と思いながらも、おかしくなって、クスクスと笑ってしまった。
だって、ボクと同じくらいの年齢なのに、
字がヘタだと、クラスのみんなから、笑われているボクなんかよりずっと…
「へなちょこ。」
……あれぇ? いつの間にか、なみだ、とまってるねぇ。
ボクは、ぼうぜんとして、アイツを見た。
彼の左手についている、ウサギのぬいぐるみは、だらーんとしていて、
いっこうに動かない。
そっか、なんだ。そんなことだったのか…。
ボクは、ウサギのぬいぐるみを、手から外した。
彼の左目に、キラキラと星が輝きはじめた。
その表情に、うつるのは、本当の自分。
窓を眺めると、夜空に
たくさんの星たちが、ひかり続けている。
ぼくは、ハンカチを拾い上げた。
ふわっとして、あったかい。
彼は、不敵に笑みをこぼすと、ゆっくりと広げた。
「やっと、きみの言うことがわかったよ。」
ニヤリと笑うと、ぬいぐるみの持った右腕を大きくふった。
図書館中の本たちが、一斉にもとのところへ、戻っていく。
それだけじゃない…図書館の中のみ、時間が巻き戻されはじめたのだった。
人の流れ、本の流れが逆流するなか、彼はつぶやいている。
「…ぼくは、魔界を支配する。いや、魔界だけじゃない、この世に存在するすべてのものを、ぼく自身であやつってみせるよ。
もちろん、きみもね。」
彼は、大事にハンカチをたたんで、ポケットにしまった。
ぼくは、きみを必ず
手にいれる。
たとえ、きみが、何者であろうとも、どこにいようとも、
どんな状況でも、
…きみが、ぼくをうけいれなくても。
ぜったいに、逃がしたりしないから。
「…じゃあ、また、あおうねぇ。
…………………………………………………………………………チョコちゃん。」
彼が、言い終わったとたん、すべてが、暗い闇に包まれた。
それは、おそらく、彼しか知らない。
それは、静かで、穏やかな、夏の夜だった。
the End)