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親友だった男
作者: 白井ゆうみ (総ページ数: 4ページ)
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*紹介文/目次*
逢いたい。本当は、それだけのつもりだった。
校門の脇にもたれてあいつが出てくるのを待つ。
今日はこの高校の卒業式だ。俺は2年の途中までこの学校に通っていたが、親の仕事の都合でアメリカへ行ってしまった。そしてあいつに会うために昨日の飛行機で帰国したのだ。
あの頃の俺は、あいつのことが好きだった。友人として、ではなく恋愛感情で。
あいつも俺のことを気にしていたようだったけど、俺がそれに気づいたのは転校が決まってからのことだった。
だから俺たちは‘恋人’ではなくて‘親友’だった。
そして俺は「さよなら」だけを残してあいつの前から消えた。
アメリカに渡ってたくさんの知り合いができた。告白されたことも何度かはあったけど、あいつの顔が浮かんできて、結局は誰とも付き合わなかった。
だから俺は賭けをした。
卒業式の日、あいつに会いに行こう。
あいつが俺を覚えていたら、告白する。もし、憶えていなかったら…
その時はこの恋ごと、思い出なんて捨ててしまえばいい。
昨日飛行機の中で散々考えた告白。ちゃんと伝えられるだろうか。ポケットの中にあるのは、最後の日にあいつと撮った写真。肩を組んでいるあいつの顔が、少し泣きそうに歪んでいた。
いろいろと考えているうちに式は終わっていて、見覚えのある顔が校門を通っていた。でもそいつらは俺を訝しげに見ていっただけで、誰も話しかけてはこなかった。
ふと校舎のほうを見ると大勢の人に囲まれたあいつを見つけた。
あの頃よりだいぶ背が伸びて、顔立ちも大人っぽくなっていたけどすぐにわかった。
声をかけようとした。出来なかった。
「ちゃんと連絡とかしろよ。俺ら親友だろ」
あいつが、そう云ったから。…俺じゃない奴に。
親友…そうだよな。俺はもう、あいつの友人ですらないかもしれない。転校してからは一度も連絡もしてないし。ただ一方的に俺が想いを寄せていただけで、あいつは俺のことなんて忘れてしまったかもしれないのに。
そしてあいつは俺に気づくことなく、‘親友’と一緒に校門を出ていった。
「はは…バッカみてぇ」
何を勝手に期待していたのだ。あいつの親友は俺、あいつが好きなのは俺。心のどこかでそう思っていた自分を嗤う。そして悟った。この想いを、捨ててしまうことなんて出来るわけがない。
せめて最後にあいつの姿を記憶に焼き付けようと顔をあげた。
あいつが振り返った。目が合う。
「葉築っ!」
名前を呼ばれる。気が付けば俺は駆けだしていた。
*2*
もう一度、君に会いたい。
今日は卒業式。3年間共に過ごした仲間と、この場所に別れを告げる日。
高校の入学式の日――俺は唐突に恋に落ちた。
桜の下で笑ったあいつに、それはもうあっけないぐらい簡単に。
それからいろいろと話しかけたりして、俺達は親友になった。
ずっと傍にいて、くだらないことで笑って、お互いが一番だって信じて疑わなかった。それで十分だと思っていた。
だけどあいつは2年の秋にアメリカへ行ってしまった。
おれがあいつの転校のことを知ったのは、あいつがアメリカへ発つ3日前だった。
「黙っていてごめん。だけど敦紀には、最後までいつもみたいに笑っててほしかったから」
あいつは今にも泣きそうな顔をしてそう云った。だから俺はあいつに告白しなかった。
だってそうしたら、「いつも」通りになんて笑えないって、わかってたから。
「小林〜。もう行こうぜ」
呼ばれて、桜から視線を外す。
―この木とも、お別れだな――
まだ満開になっていない桜は、あの日あいつが見ていた木だ。
感傷的な想いを振り払うように俺は歩きだした。
「大学にかわいい子がいたら紹介しろよ!俺ら親友だろ?」
「お前こそちゃんと連絡とかしろよ。親友だろ?とかいって大抵返事こないし」
ふざけ合いながら校門を出る。
「…みたい――」
不意に聞こえた声に、俺は足を止めた。
知っている。覚えている。これは――あいつの声だ。
そんなはずはない、あいつはアメリカに行った。それっきり連絡もよこさなかったし、だから俺のことだってとっくに忘れているだろう。会いになんてくるはずはない。そう思った。
だけど俺は振り返った。
今しがた通り過ぎた校門の横に人が立っていた。目が合う。
――あいつだ。
「葉築!」
名前を呼ぶ。あいつは駆けだした。
今度こそ、この想いを伝えよう。