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親友だった男
作者: 白井ゆうみ  (総ページ数: 4ページ)
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*2*

 もう一度、君に会いたい。
 
 今日は卒業式。3年間共に過ごした仲間と、この場所に別れを告げる日。

 高校の入学式の日――俺は唐突に恋に落ちた。
 桜の下で笑ったあいつに、それはもうあっけないぐらい簡単に。

 それからいろいろと話しかけたりして、俺達は親友になった。
 ずっと傍にいて、くだらないことで笑って、お互いが一番だって信じて疑わなかった。それで十分だと思っていた。

 だけどあいつは2年の秋にアメリカへ行ってしまった。
 おれがあいつの転校のことを知ったのは、あいつがアメリカへ発つ3日前だった。

「黙っていてごめん。だけど敦紀には、最後までいつもみたいに笑っててほしかったから」
 あいつは今にも泣きそうな顔をしてそう云った。だから俺はあいつに告白しなかった。
 だってそうしたら、「いつも」通りになんて笑えないって、わかってたから。

 「小林〜。もう行こうぜ」
 呼ばれて、桜から視線を外す。
―この木とも、お別れだな――
 まだ満開になっていない桜は、あの日あいつが見ていた木だ。
 感傷的な想いを振り払うように俺は歩きだした。

「大学にかわいい子がいたら紹介しろよ!俺ら親友だろ?」
「お前こそちゃんと連絡とかしろよ。親友だろ?とかいって大抵返事こないし」
 ふざけ合いながら校門を出る。

「…みたい――」
 不意に聞こえた声に、俺は足を止めた。
 知っている。覚えている。これは――あいつの声だ。
 そんなはずはない、あいつはアメリカに行った。それっきり連絡もよこさなかったし、だから俺のことだってとっくに忘れているだろう。会いになんてくるはずはない。そう思った。
 だけど俺は振り返った。

 今しがた通り過ぎた校門の横に人が立っていた。目が合う。
――あいつだ。
「葉築!」
 名前を呼ぶ。あいつは駆けだした。

 今度こそ、この想いを伝えよう。

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