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作者: ヒナ (総ページ数: 8ページ)
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*6*
〜5〜 霊は嫌い。妖怪はもっと嫌い。
「で、さっき校庭にいたのは何なんだ?」
出された湯気の立つ緑茶を眺めながら訪ねる。
―――女子って普通紅茶じゃね?
などと思いながら…
「紅茶は嫌いなの。緑茶はもっと嫌い」
自分のコップを眺めながらボソッとつぶやく。
―――じゃあなんで緑茶あるんだよっ!?
「初ねぇのおじいちゃんが買い貯めしてたからだよ!」
唐突に横からそんな声がする。
振り返るとそこにはさっきの少女がいた。
「え?どっから入ってきたんだ?」
確かにドアは鍵がかかっていた。はずだ。
「ナイショだよ!」
ニコッと元気な笑顔で笑うとどっから出したのか醤油煎餅を一口かじった。
「全く。人の前でそれを使うなと何度言ったら……いたのか?」
急に不審そうな顔で少女を見つめる御影さん。
何がいたのかと聞こうと思ったらドアを開け、飛び出して行ってしまった。
そのあとに少女が続く。
「え、ちょ。えぇぇぇぇ!?」
何となく後を追いかける。
2人はすでに外に出たらしく、玄関が豪快に開かれている。
開いたドアをしっかり締めながら二人の後を追いかける。
一本道なため二人の背中が見える。
すでにくたくたになりがらやっと二人に追いつく。
そして、目の前の光景に絶句することになる。
それはそれは巨大な、貞子がいたのだ。
「ソータン、危ないよ。こっち」
そういってさっきの少女は笑顔を絶やさず手を握り電柱の陰へと身を隠させる。
「え、ちょっ……!?」
目の前を毛糸の塊のようなものが鞭のように振り下りてきた。
「……凌誇!あれは私が食い止める。陽瀬を呼んで来い!」
そう叫び右手を前に突き出す。
途端に彼女の周りが輝き見えなくなってしまった。
いつの間にかさっきの少女は家の屋根の上を伝いどこかへと言ってしまった。
一面の輝きが消えると、校庭で見た少女の姿となった御影さんが長弓を放っていた。
「……っ!」
それはやはり無数の矢となって貞子へと向かって飛ぶ。
でもその速さが尋常じゃない。
目が追いつかない、いや目じゃ捉えられない速さだ。
「……颯太、逃げて。私の家にいて。あそこは安全だから」
そう言い残し、民家の柵越しに屋根へと上り数十メートル先の貞子へ走って行ってしまった。
「に、逃げろって……ひぃ!」
貞子から伸びた長い髪の毛が目の前の地面を鞭打った。
先ほどの毛糸の塊みたいなのはどうやら髪の毛のようだ。
「逃げさせていただきます!!!!」
叫びながら、元来た道を戻る。
我ながら軟弱だなと実感する。がそんなこと言っていられない。
少し涙目になりながら逃げる。
そんな俺の横をもう一度髪の毛が鞭打つ。
ゾワリと背中に寒気が襲う。
走っている俺の脚を髪の毛が巻き付き引っ張り上げられてしまった。
「うわあああああああああぁぁぁぁ!!!!!」
そのまま髪の毛は収縮し貞子への距離を縮める。
髪の毛の隙間から見えた目がこちらをギロリと睨む。
「っ!?颯太っ」
やばい。あいつが颯太を吸収したら…
「おい、馬鹿!無駄足を取るなっ!」
そんな声とともに銀色に光る何かが飛んでくる。
何かは俺の脚に巻きつく髪にささりそれを破裂させる。
ブシャッという音と共に破裂した髪の毛は液体のようになりまた髪の毛へと戻った。
「うわあああああああああぁぁぁ!!!!」
脚が離されたため落下した俺の体。
情けない叫び声を響かせながら地面との距離を縮める。
「煩い、黙れ。馬鹿」
そう言って抱きとめられる。
―――女子に助けられる俺って……
「情けないな」
ピシャリと頬に平手打ちを食らった感じの痛みを覚え目を開くと
そこには見慣れた人が居た。
いつも俺を馬鹿と呼ぶ幼馴染。
「ひ、陽瀬?」
静かに俺に目を落とすと何語かわからない言葉をつぶやく。
その途端あたりに紫の雲が立ち込めていく。
地域一帯を包んだかと思うとそこは異世界に変わっていた。
「陽瀬。よかった間に合ったな」
静かな声、御影さんの声がすぐ近くから届く。
陽瀬は俺を横に卸すと「あぁ、遅くなった」とつぶやいた。
俺は横に卸された?
「え、落ちるっ!?ってあれ?落ちて無い…」
俺の脚は透明な地面に立つようになっていて、落ちる気配は全くない。
「ここは何でもアリな御都合主義な結界の中だ」
陽瀬は冷静な顔を崩すことなく言う。
でも言っていることは全く冷静でいられる内容ではない。
「け、結界?俺が浮いてるのも結界の中だからか?」
何度も同じことを言わせるなという雰囲気を醸し出され押し黙る。
「颯太。このことは誰にも言わないで」
怯えるようにでも力強く言ったのは悲しそうな顔をした御影さんだった
「そうね、馬鹿。誰にも言っちゃだめよ?」
睨むように、反論を言わせないように陽瀬は言った。
「い、言いません」
俯きながら、震える子犬のように小さな声でつぶやいた。
それを聞くと二人ははぁと同時にため息をついた。
「「それじゃ、行きますか」」
声をまた揃えて二人を叫び。
透明な地面を蹴る。その途端風のように貞子へと飛んで行ってしまった
「霊は嫌い、でも妖怪はもっと嫌い」
独り言のようにつぶやく初。
「そうね。でも紅茶はおいしいのよ!」
2人の美少女と1体の妖怪の戦いが始まった。