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空〜虹の輪〜
作者: 裕  (総ページ数: 21ページ)
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10~ 20~

*3*

2、捻挫

空「テーマ?」
颯「そう。クラスで一つ考えて欲しいんだ。ウチの体育祭は7月の初め。他の学校より遅いから、この時期に決めるんだ。」
空「7月。ああ、結構有名でした。」
颯「そうか。で、期限なんだけど今月の…24日までに。出来る?」
空「はい。大丈夫です。」
颯「…。変わったな。」
空「私…ですか?」
颯「うん。中学では凄く人見知りだったのに、今じゃ学級委員長やって。」
空「これは、胡ちゃんが…」
颯「凄いと思う。」
空「…。ありがとうございます…。」
颯「今日もバイトでしょ?良いよ。上がって。」
空「え、委員会は…。」
颯「大丈夫。気をつけて帰りなよ。」
空「あ、はい…。」
颯「じゃ。」

國木田高等学校、生徒会長の世狛颯門先輩。中学からの先輩でよくしてもらっている。スポーツ万能の先輩は、サッカー部で部長としても活躍している。学校中の女子生徒からは人気がある。

空「(いつもお世話になってます…。)」
誠「誰に頭下げてんだ?」
空「うわああ!?」
誠「あれは…生徒会の世狛か。」
空「麻鹿戸先生…。」
誠「何だ?」
空「驚かせないで下さい!」
誠「驚かせるつもりは無かったがな。」
空「はぁ…。」
誠「もう終わったのか?」
空「帰って良いって言われました。」
誠「内容は?」
空「体育祭のテーマを各クラス一つ出して欲しいって。」
誠「そうか。頼んだ。」
空「頼んだ…っ。先生らしい仕事くらいしろ!」
誠「っ…。そう怒るなよ、花。」
空「花って呼ばないでください!」
誠「可愛いじゃん?花。」
空「全く、何で麻鹿戸先生が教師になったんだか…。」
誠「ほら、早くいかなくて良いのか?」
空「誰かさんが引き止めるから。」
誠「引き止めてはいない。」
空「さようなら。」
誠「さようなら。」

誠ちゃんの相手は疲れる。誠ちゃんの期待する反応をしないといけない時もあれば、素で反応して笑われる時もわる。誠ちゃんは元々獣医を目指していた。のに、何故か教育学部の大学に行って教師になった不思議な人。
教室に荷物を取りに戻ると、窓が開いていた。夏風混じりの春風が吹いていた。そのすぐ隣の机で気持ちよさそうに寝ているのは佳長君だった。

空「(まだ居たんだ…。部活、入ってないのかな?私も入ってないからどうってことないか。)…。」
火「…。」
〔バサァ…〕
空「っ…。(びっくりしたぁ…。本、本っ。)」

佳長君は起きる気配すらない。
彼の寝顔は普段の様子からは見当もつかないくらい穏やかだった。

空「…気持ちよさそう。」
火「気持ちいいけど?」
空「え…。あ、起きてたんだ…。」
火「何か用?」
空「え。あ、ううん。委員会終わったから荷物取りに来ただけ。」
火「ふうん。」
空「佳長君も早く帰んなよ?また明日ね。」
火「…。本返してくんない?」
空「あ、ごめん。はい。じゃあね。」
火「…。」

佳長君の声は、低すぎず高すぎない。声フェチの人の用語で言うなら、「イケボ」。落ち着くトーンだった。
案外、良い人なのかも…。


空「いらっしいませー!」
 「味噌一つ。」
空「はーい。」

バイト先は学校からも家からも若干遠いラーメン屋。人入りの数は多くもなく少なくもない。普通のお店。私を雇ってくれたのは、心優しい圭乃ラーメンのお爺ちゃんとお婆ちゃん。

寿「空羽ちゃん、今日はもう上がって良いよ。」
空「あ、はい。このお皿洗ってからにします。」
た「良いよ。遅くなると心配もするでしょう?今日は私がやっておく。それよりも、はい。今月分のお給料。」
空「…あ、ありがとうございます!」
寿「何、お礼を言うのはこっちさ。こんな時間まで働いてくれる人少ないからの。ご苦労様。」
空「お疲れ様です。また明日よろしくお願いします。」
寿「はいよ。」

空「やった!3万円!今月は少しお高い…!それよりも…ふぁ〜あ。今日の睡眠時間は、…3時間がいい所か。寝不足だぁ。景兄ぃ、もう帰ってるかな。」
 「あぶねっ…。」
空「え…っ!」
〔がしゃ…ん〕
空「…れ?(痛くない…。)」
火「って…。」
空「あ、ごめんなさい!擦りむきましたか?」
火「あぁ、平気。」
 「何だ、失敗か?珍しい。」
火「ばーか。下に人がいたんだよ。」
空「…君、もしかして佳長君…?」
火「怪我ねぇか?いいんちょー。」
空「え、うん。」
火「そか。」
空「…て、こんな時間に何で?」
火「別に。」
 「行くぞ、火杏。」
火「おう!またな、いいんちょー。」
空「え、ちょっと待っ…痛っ…。(うそ、捻った?)」

スケボーに乗っていた佳長君は、無邪気だった。でも、少し心配…。

空「あー…、行っちゃった…。…。家まで歩けるかな。んしょ。…うん、大丈夫!…いてて。」

痛みのせいか、ただ時間が掛かりすぎているせいか、歩きなれている夜道が急に怖くなった。まるで悪魔でも出てきそうな感じで…。

空「…家に着くだろうか?」
火「いた。」
空「…佳長君。」
火「足、捻ったろ?」
空「え。…あ、平気!大丈夫!」
火「送る。家どっち?」
空「大丈夫だって!いいよ!」
火「俺のせいでいいんちょーが怪我したんだ。送るから。…来い。」
空「…何?」
火「っ…。」
空「へっ…わっ!」
火「どっち?」
空「え…っと、このまま真っ直ぐ行って、突き当りを左。二つ目の交差点を右。そこから24軒目の家。」
火「…遠っ。」
空「だから良いって!降ろして…。」
火「家近いから送る。」
空「近い?」
火「隣。行くぞ。」
空「嘘、隣だったんだ。」
火「…。バイト?」
空「あ、うん。お父さんと景兄ぃと弟と4人暮らしなんだけど、お父さん仕事ないから私が働いてるの。」
火「ふうん。」

スケボーに乗った佳長君は、空を飛んでるように軽やかで、いつもじゃ到底考えられない姿で…。まるで…

火「…何?」
空「…悪魔。」
火「悪魔?」
空「え…あ。いや、黒い服着てるし、空飛んでるみたいで…。」
火「ぶっ…ははっ。何だよそれ。」
空「(笑った…。)…佳長君は何でこれに乗ってるの?」
火「スケボー?…かっけーって思ったから。」
空「…単純。」
火「よく言われる。でも楽しいし、嫌なこととか忘れられる。だから好き。」
空「…面白そう。」
火「その足治ったら乗せてやる。」
空「本当!?」
火「ぅわっ…っと。急に動くな、あぶねえ。…治ったらな。」
空「やった…。」
火「はい。ここで良いんだろ?」
空「うん。ありがとう。」
火「じゃあな。」
空「うん。気をつけて。」
火「…。」

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