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MH4~Re:クエスト~完結済
作者: 鈴木鈴  (総ページ数: 8ページ)
関連タグ: MH4 チートなし ハーレムなし 短め 
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*2*




 ギルドから支給されたアイテムをボックスから取り出す。なにはなくともホットドリンクを一気に飲み干す!

「あっつい! もう一杯!!」

 もう一本飲み干し、やっと一息つける。胃がジリジリと焼けるように熱い。おえ、吐きそう。クシャナのほうを見ると、彼女は自前で持ってきたホットドリンクを飲んでいるところだった。

「すまない、きちんと伝えていなかったこちらのミスだな。申し訳ない」
「まぁ、しっかり目を通さなかったあたしのミスだよ」

 たとえクシャナが世間知らずだろうが、クエストを受けた以上一人前のハンターとして組んでいる。それはあたしも同じこと。忘れ物をクシャナのせいにするなどは愚の骨頂だ。幸い支給ボックスにあったし。
 そのボックスから携帯食料と松明、そして地図を仲良く二等分して出発する。
 と、その前に、

「つめたいいいい」
「なんで刀を研ぐんだ? まだ切れ味は落ちていないだろ……。道具の手入れは、普段からちゃんとしておいたほうがいい」
「へーへー。悪かったね」

 にしても、地形は置いておいてもこの双剣は失敗だった。冷たすぎる。持っているだけで、体温が奪われていくようだ。

「お、遅いな……」
「悪かったね」

 そう、あたしは研ぐ速度が致命的に遅い。世には的確に研ぐセンスを持っているハンターもいるというのに、しかも双剣なので本当に遅い。だが、こればかりは時間を割いてもらわなければならない。

「あ、そうだコレを渡すのを忘れていた」
「うん?」
「ギルドに伝わる秘薬だ。マンドラゴラも使うし、調合も限られた者しか作れないという、まぁ眉唾だがな。危険を感じたら飲んでみるといい。うん、たぶん飲むんだと思う」

 怖いよ。

 あたしたちがベースキャンプから出発して半日、ポポ狩りを手伝って上げたハンターはすでにバルバレに無事帰れただろうその頃だ。あたしたちは寒さに凍えながら落とし穴を掘っていた。
 さすが雪山、雪がふかふかだったので、人が立っても顔が見られないくらいの穴、簡単に掘れた。しかも暖かい……。もうこのままでいいかも。

「こんなものか? ティン、そろそろ出ようか」
「そうだねー。支給されたシビレ罠もあるし、案外余裕かもねー」

 シビレ罠に使う雷光虫は、ジンオウガと影響しあうので、あまり使いたくはないのだが、すこし動きを封じるくらいはできる。その「すこし」で捕獲できるかは微妙なところではあるが、まぁなんとかなるだろう。

「トラップツールはあるが、ネットは現地調達だな。ネルスキュラの巣でもあればいいが」

 じょ、冗談じゃない! ネルスキュラなど二度と見たくない二度とだ!
 あのせいでバルバレを離れようと思ったこともあるくらいなのに!
 苦虫は絶対に食べたくないが、それを食べてしまったような顔でいると、クシャナが心配そうに覗き込んできた。なんだ、いい子じゃないか。だから右手にくっついている虫に携帯食料を分け与えないでください……。
 落とし穴を隠し終え、あたしたち自身も岩陰へ身を隠す。あたしはクシャナの左側を陣取った。

「さみぃ……」
「そうだな、この寒さ……。悠長に構えていていいのか?」
「いいんだよ。ジンオウガがどこにいるのかわかっていれば出向けるけどさ」

 あたしは地図を広げた。
 二人がいるエリアは雪山の中腹。ジンオウガの生態系を考えれば、それほど雪山の深くには行かないはずだ。

「このエリアは範囲こそ広いけど、その分ほとんどのモンスターの通り道になってるからね。寒さに弱いジンオウガが、雪山の夜に活動するとは思えない。ってことは、餌を探すのは日中。つまりこの時間帯はすごく都合がいいってわけ。足跡もあったしね」

 クシャナは目からウロコとばかりに頷いている。なんだ、やっぱりいい子じゃないか。

「ティンはすごいな。年も、私とせいぜい変わらないだろうに……」
「まだ十代だからねー。筋力とテクニックがない分、知力でカバーですよ」

 へへんと胸を張っていた――二時間後。
あたしとクシャナの間には、妙な空気が流れていた。

 二時間だ。あたしとクシャナは、こんな寒空どころか雪山で、二時間も寒さに凍えている。足元に転がるホットドリンクのビンが、いま、一本増えた。使用済みの砥石も、一つ増えた。

「さて……ティン」
「うん……いや、あれだね。動けないほど弱っているのかもね」
「そうだなティン。罠を張った以上、ここから離れるのは得策じゃないよな。でも、でもな」

 二時間前の、あの尊敬に満ちた眼差しはなく、クシャナは立ち上がった。

「エリア内にジンオウガ現れたら教えてくれ。私は私で探してみよう」
「うぐぐ……了解しました」

 こちらを一瞥し、クシャナは雪山の奥へ消えていった。まぁ、悪かった。
 やはり慣れた天空山で戦うのが一番だったかな。いや、せめてあと一人いれば捜索もしやすかったのに。だいたいジンオウガを倒すのに二人でってのがおかしい! 凍えて欲望が剥がれたのか、自分たちがいかに無謀かと思えてきた。
 そして、ジンオウガ相手に単身で移動しているクシャナが心配になる。かといって、いまここを無人にするわけにはいかないし。
 悩んでいると、カシャカシャと鎧を鳴らしながらクシャナが坂を下ってきた。ふよふよ彼女と並走するように、虫が飛んでいるのは無視しよう。百歩譲ってだ。


 だが、ドズズンドズズンと彼女を追いかける、黒いジンオウガの姿は、まったく無視できなかった。




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