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MH4~Re:クエスト~完結済
作者: 鈴木鈴  (総ページ数: 8ページ)
関連タグ: MH4 チートなし ハーレムなし 短め 
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*5*


「ティン!!!!」

 私が駆けつけた時、ティンの小柄な身体が空を舞っていた。なんと、ゆっくり落ちていくのだろう。
 彼女の身体は、そのまま崖下へ落ちていく。あの下はどうなっているのか、どこかに引っかかっているのではないか、死んだのか、どこから回ればいいのか、私は思考しながら駆けていく。
 ジンオウガに威嚇されながら、それでも確認せずにはいられなかった。崖ではなく、ただの段差だという可能性だって――

「あ」

 崖だった。遥か下方に広がる海は、白い氷になっていた。岩に匹敵する堅さだろう。あと少しでも来るのが早ければ。
 私は、おそらく忍耐力がないのだろう。物分りがいいとは言われても、ここで何かを我慢するような性格ではなかった。
 操虫棍を握り締める手に、力がこもる。


「グオオオオオオオ!!」
「うおおおおおおお!!」

 振り下ろされるジンオウガの前足を、思い切り棍で殴りつける。スウェーされるカタチになり、私のすぐそばにジンオウガの足が降ってきた。
 知性のないジンオウガには、なぜそうなったのか理解できないのだろう、二度、三度と振り下ろされたが、同じ容量で回避する。
 ミシミシと操虫棍が音を立てているが、いまはそれを気にする必要はない。
 ただ、倒すことを考えよう。

 私の行動は迅速だった。

「グロムウィル!!」

 背後に控えていたグロムウィルは、私の声に反応して飛んでいく。ジンオウガは虫など気にしていないようだが、それは大きな間違いだ。速さに特化したグロムウィルは、ジンオウガの顔に襲いかかる。威力はさほどだろうが、目を封じられたジンオウガは慌てて体制を崩す。

 棍を利用して飛び跳ね、思い切り振り下ろす。やつは硬い。この棍に付けられた刃では、その甲殻に弾かれることになるだろう。だが、体重を全てかけた一撃なら!

「グウウウオオオオオオオ!!」

 ジンオウガの背中を傷つけ、そのまま後方へ飛び退く。
 その私に合わせるように、グロムウィルが帰ってきた。その口には、ジンオウガの表皮とグロムウィルの唾液と合わせることでできる、赤エキスがくわえられていた。
 それを操虫棍に塗りたくる。
 軽い。いまなら何連撃でも入れてやろう。
 棍を踵で蹴り上げ、遠心力で振り下ろす。下ろした瞬間、今度は自分の体重を前に送り、もう一度振り下ろした。追撃は尻尾によって遮られたが、その代わりの攻撃は、グロムウィルが行う。
 空高く舞い上がったグロムウィルは、そのままヤツの背中の表皮を削り、エキスを生成する。色は黄色。
 距離をとり、グロムウィルの口からエキスを受け取った。それを鎧に塗る。

「強いな……」

 連撃を与えたことで、冷静にもなる。一人で勝てる相手じゃないだろう。それに、あの黒い玉も気になる。ここに駆けつける前に、位置を確認するため双眼鏡を使ったが、あれがティンを追いつめる様を見せつけられた。雷光虫を操るジンオウガの亜種――虫を操るのだろうが、なんの虫かは理解の範疇を超えている。
 だとしても一度見てしまえば、避けきれないスピードではなかった。
 せめてジンオウガをこの場から立ち去ってもらわなければ、ティンの救助にも迎えない。だから、震える足に鞭打ってでも、立ち向かわなければいけないんだ。

「おおおおおお!!!」

 雪山を駆け上がる。
 相対速度で、一瞬で間を詰める。これだけ近ければ、あの黒い玉も易々とは追ってこないだろう。さきほどと同じように、二回振り下ろし、攻撃動作の前に、その場を離れる。離れた瞬間に、黒い玉が右肩を擦ったが、それを気にする余裕はない。
 棍を利用してもう一度空へ飛び、もう一つの黒い玉を避ける。そして、空中でグロムウィルが新たにくわえてきた、白いエキスを受け取った。
 鎧に塗ろうとしたが、それは邪魔される。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 一際長い咆哮、そしてジンオウガは、黒い雷を身体に纏わせる――それでも私は向かい合う。
 金色の鎧は、青白い発光を伴っている。ありがとうグロムウィル。倒そうグロムウィル。
 もう私は吠えない。喉がカラカラだ。いまなら海水だって飲み干せそうだ。






「ぶはっ!! げほげほげほ!!」

 ようやっと、あたしは海面に顔を出せた。
海水なんて飲むモンじゃない! 喉がジリジリと焼き付くようだ。そして気持ちが悪い! 
 左腕と左足が折れている。さっき海水を吐いた拍子に血も吐いていた。内蔵も傷ついているだろう、薬草じゃどうしようもないな。
 氷山に腕を乗せ、ユラユラと海を漂う。あ、死ぬかも。
 朦朧とする中、どうにか氷山に身体を乗せる。ホットドリンクを飲んで、せめて暖かい気持ちで死にたいなと思ったとき、ポシェットから、見慣れないビンが転がり落ちた。

「なに……ゴホッ……これ」

 あ、思い出した。
 なにこれ、飲むの? 塗るの?



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