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MH4~Re:クエスト~完結済
作者: 鈴木鈴  (総ページ数: 8ページ)
関連タグ: MH4 チートなし ハーレムなし 短め 
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*4*




「それより、そっちこそ一人で大丈夫? 三人が動けなかったら……」
「わからない。だが、そうだな。動けない場合は捨てていく」
「しかたないよねー。じゃ、ルート考えといて。裏道あるのかな」

 クシャナは地図を見ながら唸り始めた。あたしは四つ目の砥石に手を出して研ぎ始める。まさかジンオウガ相手にここまで必要だとは。やっぱりあと二人はほしかったな。

「ところで、なんでそんなに研ぐんだ?」
「ん? あぁ、まぁそのうちわかるよ」





 そうか、と彼女は呟き地図を見せる。脱出ルートの確認だ。クシャナは左回りでベースキャンプを目指し、あたしは東へジンオウガをひきつける。
 言うは易いが行うはなんちゃらだが、いまはやるしかない。
 新人三人の命と、あたしたちの命を背負って、あたしたちは洞窟を出た。


 クシャナとともに、ジンオウガのエリアに立つ。雪山の斜面、段差も多い。不利な地形だとは思わないが、易々と逃げられそうにはない。中腹に落とし穴が設置してあるが、この寒さだ、ネットが痛み出していても不思議じゃない。

「あとはまかせた。追い込まれたらサインを出してくれ、必ず駆けつける」
「了解。あんたも気をつけて。やつの縄張りとはいえ、大型がいないとも限らないしね」

 クシャナとあたしはよーいドンで駆け出す。
 この白銀の世界、黒い巨体は吹雪いていても目立つ。
 閃光玉を握り締め、投擲する。ジンオウガの目の前で炸裂した閃光玉を確認するまでもなく、クシャナのほうを見る。
 彼女は山頂を登りきっていた。逃げ足は速いものだと認識させてもらう。

 さて、と。
 あたしは双剣を構えた。あの前足の堅さ、通常のジンオウガではありえない。いつもだったら鬼神乱舞か、体重を利用した空中攻撃でなければ、あの前足を切り崩すのは不可能だろう。
 頭部が有効部位になるのだろうが、武器が双剣では、後ろ足に攻撃するのがベターだな。
 いつもだったら――ね。

 ノシノシと歩いているジンオウガの前足に、抜刀しながら刺突する。まるでバターのように、ジンオウガの黒い爪を切り取った。

「グオオオオオオオ!!」

 痛みはあるのだろうか。それほど甘い研ぎ方はしていないと思っていたが、あたしもまだまだだな。
 この雪山にきて使用した砥石は17個。それだけあれば、あたしは古龍の堅さにも対応できるまでに、切れ味を高めることができる。とりあえず、その凶器のような爪は、全て破壊しよう。クエストを一度リタイアするとしても、次来るまでに伸びない程度には、切らせてもらう。

「その堅い篭手、邪魔なんだよ!!」

 堅殻とでも呼ぶべきか、なんと堅い腕なのだろう。さきほどはその堅殻に邪魔されたが、今度はそうはいかない。舞うように剣を振るえば、そのぶん腕を削ってくれる。
 だが、この腕の堅さは本当に尋常じゃない。すでに切れ味が落ちそうだ。
 そしてジンオウガ自身、相当な強さだ。あたしの一撃など、まるで気にしていないかのように行われる攻撃は、その一撃一撃が必殺の攻撃だ。堅い前足で行われる攻撃はもちろん危険だが、それ以上に危険なのが、前足より硬かったあの尻尾だ。

『部位はなるべく傷つけず』

 爪を破壊している自分が言うのもあれだが、尻尾まで斬ってしまったら、クエスト失敗にもなりえる。一番ぶった斬りたいのに!!
 範囲が広すぎて、ステップでの回避じゃ間に合わない。掠っただけで皮膚が裂け、飛び散った血が雪に染み込む。
 尻尾を無視し続けた結果、その勝負は双剣の圧勝だった。ほとんどの爪を切り取られ、前足をズタボロにすることを成功する。
 
 それがジンオウガの逆鱗に触れたようだ。ジリジリと背中に、黒い光が集まっていく。
 これはイカンなと、全身が訴える。毛が逆立ち、逃げ出したい気持ちになる。――と、背中から、二つの、光の玉が現れた。色は黒い。恐怖を覚える色だった。

 あの黒い玉の正体を考察したいところだが、余裕はなかった。思いつくのは、原種の周りにいる雷光虫。それは強い発光現象と、周囲に破壊をもたらす、ジンオウガの攻撃手段の一つでもある。あれがジンオウガの新種だとしても、それが大きな違いに繋がるとは思えなかった。
 ならば、と、あたしは黒いジンオウガの周囲を浮遊する、黒いボールを警戒するように走り出した。
 向こうが雷光虫ならこっちは光蟲だ。ポシェットから閃光玉を取り出し、投げようとした瞬間、あたしは吹き飛んだ。
 その勢いと飛距離は凄まじく、ジンオウガは閃光玉の効果範囲外にいる。そして、腹部に激しい痛み。

「ゲホっ! なに!?」

 腹を守っていた鎧は半壊しており、なにか蟲の死骸がくっついていることが確認できた。それがなにかはわからなかったが――もう一つの黒い玉が動き出した。
 歯を食いしばり、その場から離れる。あたしがいた場所を黒い玉が飛んできて、小さな爆発を起こした。まさか、あの黒い玉は自立してあたしを狙ったというのか。

「グオオオオオオオオオ!!!」

 ジンオウガが駆け出している。
 慌てて納刀し、ヤツの進行方向から逃げ出した。
 これが失策だったと気づいたのは、黒い前足に左足が折られたとき。
 あぁ、これはダメなんだろうな――
ジンオウガの前足には、外側に大きな爪が伸びているのだが、あたしの左足が、それに引っかかってしまったのだ。
 左足が折れるどころか、その勢いを殺せず吹き飛ばされ、文字通り崖っ縁にまで立たされた。

 あぁ、これは、ダメだよ――

 視界を覆うジンオウガの巨体が、あたしの身体を吹き飛ばした。




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