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-pendant-
作者: aya ◆jn0pAfc8mM  (総ページ数: 11ページ)
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10~

*2*

雨。

君は何をする訳でもなく、木の下のベンチに座っている。

それはただ、見上げるばかりの巨木だった。

ペンキ塗り立ての遊具も、少し錆びているベンチも、古くて公園の名前が見えない看板も、

全部影で包んでしまいそうな。

葉の生い茂る枝も、君の肩も、髪も、雨に濡れている。

しかし、今君の体には、水が落ちる事はない。

この大木は、雨粒ひとつも通さなかった。


君はふと、公園の時計に目をやる。

自分の腕時計は、雨のせいで壊れていた。

防水の時計を持って来なかったのは失敗だったと思いながら、読み取った時刻は、

……午前1時。

丑三つ時と言うには早いが、ふらっと出歩くような時間ではない。

まして、まだ学生の君にとっては。

君は闇の中、なんとか見えた時計から視線を外し、自分の背負うリュックを下ろす。

そして、中身を確認。

使うあてもなく貯まったお小遣いが全額と、その他諸々。

それらが全部あるのを見て、君は安堵の溜め息をついた。


と。

ぴちゃぴちゃと、靴が水溜まりを踏んで歩いて来るような足音が聞こえる。

公園の端に灯る光が唯一の光源だが、影になってその人の顔はほとんど見えない。

君は、その人に声をかけられた。

「あれ、こんな時間に? 君どうしたの」

そこにいたのは、やはりふらっと散歩に出かけるとは思えない、君と同い年程の女性だった。

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