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いつか潰えた彼らの未来
作者: 聖木澄子  (総ページ数: 4ページ)
関連タグ: TRPG 後日談 ソードワールド2.0 
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*2*

 魔法文明時代に栄えていた彼の国の名を、アルテオ王国。王国中で最も優れた魔術師・ネペトリを王に頂いた魔法国家であり、女王の庇護の下長い間繁栄を極めていた。
 ある時、アルテオ王国は魔神の襲撃を受ける。女王と国民は力を合わせて何とかこれを退けたが、次の襲撃があればまず間違いなく王国は滅ぶだろうと思われた。
 そして女王は決意した。国の中でも特に選りすぐりの魔術の使い手・剣に優れた戦士を十七人集め、彼らを“王国の守護者”――――“英雄・トリックスター”とすることを。
 アルテオ王国には主神より賜った宝石が十七あった。他の宝石よりも特に優れた魔力を秘めたそれらにトリックスターたちの生命を吹き込み、心臓とすることで彼らにより強い力を与えたのだ。
 チャンピオン、デュエリスト、グラディエイター、マジェスティー、ソウルマスター、セイレーン、プリースト、ダークロード、ウィザード、アサシン、ハンターロード、クリエイター、サイバーハンター、プリマドンナ、ディーバ、ギャンブラー、デューク。十七人の守護者達は本来の名を棄て、そう呼び讃えられた。
 彼らの存在はアルテオ王国の持つ全ての技術の粋を凝らした、人の形をした最高にして最強の魔法そのもの。ゆえにその能力は万一にも反旗を翻すことのないよう互いに互いを制するもので、然れど全員の力を合わせれば魔神を幾らでも屠れるほどの可能性を宿していた。
 ――――そして、魔法王ネペトリが率いる英雄・トリックスターたちと、異界より侵略せんと襲い来る魔神達の戦いがついに幕を開けた。
 彼らの剣の一振りは千の魔神を薙ぎ、彼らの杖の一振りは千の魔神を灼いた。彼らが張った防御の魔法は千の魔神が襲い来ようともびくともしなかったし、彼らが施した癒しの魔法は傷ついた千の人々をたちどころに治してみせた。
 しかしそれも、ある魔神が出現するまでだった。
 その魔神は、彼らが使うあらゆる魔法を吸収し、我が物としてしまった。それではあの魔神を打ち倒せない。その上他の魔神を根絶やしにしようとも斬っても灼いてもあとからあとから湧いてくる。
 ネペトリの守護もトリックスターたちの奮闘も虚しく、アルテオ王国は魔神たちに蹂躙された。
 だが彼らもただで殺されるわけにはいかなかった。ネペトリとトリックスターたちは僅かな生き残りを王国の外、誰にも見つからない場所に逃がし、最早廃墟となり火と血臭に嘗め尽くされたアルテオ王国にある魔法をかけた。
 全ての魔神を巻き込んで発動されたそれこそが、究極にして禁忌、暗黒へと全てを封じ込める忌むべき魔法。
 かくしてアルテオ王国を滅ぼした魔神たちは、王国を守らんとしてその命を賭した十八人の英雄によってその跡地に封じ込められ、常世より隔離された。
 そこに通じる扉の守護をある龍の一族に任せ、彼らは巡る生の輪廻に戻ることも出来ず、永久の闇の中で少しずつその魔神の命を刈り取っていった――――。

 いつか見た扉を潜り抜ける。その先は大広間――――穏やかな暖かい光に包まれ、最奥に玉座を抱く神殿の大広間だった。
 玉座に腰掛けるのは波打つ金髪を緩やかに下ろし、額にハルコンの冠を頂いた美しい女性――――魔法王・ネペトリ。
『わたくしたちトリックスターは、各々宝石に生命を宿した人ならざる守護者。……それでも愛を育み、今では世界中にその血族たちがいます。貴女のように』
 大広間の真ん中までくると、彼女は私の手を離しネペトリ様の隣に立った。間を置かずに、さらに十六人の人間が現れる。
『ここにいるのは、何れもが優れた魔術や剣の使い手。自らが生まれそして優しく育まれた王国を守るために、その命を宝石と魔法王に捧げた英雄たちです』
 好戦的な表情をした兎耳の少女、牛の角を生やし腰に剣を佩いた青年、狐の尾をゆらりと揺らして笑みを浮かべる女性、少年のような表情でこちらを見やる獅子の耳の青年、女優と思しき艶やかな佇まいの猫耳の女性、ステッキを持ち華やかな衣装を纏う狸尻尾の男性。
 そして、楚々とした挙措でネペトリ様の傍に控える羊角の女性に、彼女に寄り添うように現れた、龍の耳を持つ黒衣を纏った青年。
 十七人全員が、祖国のために各々剣や杖を手にとって、命を削ることすら厭わず魔法を編み続けた英雄たち。――――中心で穏やかに微笑む魔法王も、言わずもがな。
 心が、震えた。前にするだけで畏敬に心を打たれ、思わず跪いてしまいそうなほどの功績と力が、彼らにはあった。
 『彼らを超える』。それは、彼らの姿を夢の中でとはいえ直に見た今では、途轍もなく途方の無い道であることのように思えた。
 でも、だからこそ。
「……私、は」
 声が震える。あの時彼らが私に託したその意思、受け取らないで、どうしろという。

「必ず、超えてみせます。そして、貴方がたが守らんとしたこの地を、この世界を。――――人々を、守り通してみせます」

 この身に宿すのは永遠の時、そして魔法王より託された意思と英雄より受け継いだ魔道の法。
 それら全てを用いて、私は彼らを超えてみせる。彼らのしてきたことは決して無駄ではなかったと、後世に伝え、証明するために。
『忘れないで。私たちは常に、貴女と共に在る』
 ネペトリ様の声が優しく耳朶を打つ。
『愛する者のために杖を取れるなら。……君は、僕たちだって超えられる。絶対に』
 セイレーン様の隣に立つ、龍のトリックスターがそう告げる。ああ、彼こそが彼女が愛した人であり、もう一人の私の先祖なのだと、直感的に分かった。
『誇りを抱いて、誰かを愛する気持ちを決して忘れないで。わたくしに出来たのだから、貴女に出来ないことなどありませんよ』
 私と瓜二つの彼女は、そう告げて悪戯っぽく微笑んだ。その瞬間、徐々に自分の姿が透けていっていることに気付いた。
「セイレーン、様……っ!」
『――――そろそろ時間ですね。お戻りなさい。行って、自分の成すべきことを成しなさい。
 魔神が貴女の手によって滅ぼされた今、時が巡れば何れ再び会い見えるでしょう。それまで、元気で』
 全ての人々の微笑みを受けて。私の意識は、水面に浮かんでいくように目覚めていった。

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