<< 小説一覧に戻る
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*紹介文/目次*
1.プロローグ
ふわりと身体が浮く。
降り続ける雨はこんなにも冷たいのに、
私を軽々と持ち上げた人は
こんなにも…
温かい。
だ…れ…?
目が覚めると、見知らぬ天井が見える。
右には大きな窓があり、
少し大きく感じるこの部屋は、洋館造りなのだろうか。
「目が覚めましたか?」
ドアが開いた。
そこにいたのは、
少しくせっぽい茶髪で、
眼鏡をかけていて、
細い目をして、
どこかで会ったことがある気がする男の人。
「私…どうしてここに?」
「何となく外を見ていたら、足取りもしっかりしない、傘もささずに 外を歩いている君の姿が見えてね。
どうしたのかとそのまま見ていたら、急に倒れてしまったんだよ。」
「そう、なの…?」
ああ、そうか。
埼玉から、タクシー捕まえて、ここに来たんだった。
でも、
その前はどうしてたっけ?
「君、名前は?」
男の人が訊いてくる。
名前?
何だっけ。
「…。」
私が無言でいると、男の人はメモ帳と万年筆を取り出した。
どこから来たのか。
どうして怪我をしているのか。
ボールペンの使い方は分かるか。
色々な事を訊いてくる。
やっぱり、
記憶喪失ってヤツになっちゃった??
「あ、失礼。僕はこの家に住んでいる、沖矢昴(おきや すばる)
という者です。よろしく。」
「はい、あの…ごめんなさい!迷惑かけちゃって…」
「君が謝ることはないさ。」
昴、と名乗った人は手に持っていたお茶を渡してきた。
痛たた…
頭も打ったんだ…。
はぁ、とため息をついて窓のほうを向く。
「…?!」
でも、ガラスに映ったその姿に、とんでもない違和感をおぼえた。
白い肌
黒くて長い髪
日本人離れしたエメラルドグリーンの瞳
そして何より…
小学一年生位の 小さな身体
「あれ…?」
おかしい。
私、こんなに小さかった?
「どうかしましたか?」
昴さんが不思議そうな顔で訊いてくる。
「ううん、何でも無いよ。…昴さん。」
「そうか」
記憶が戻らないまま、数日が過ぎたけど、怪我は治ったみたい。
―えぇ…人を守るというのは、苦手じゃないんでね。
あの子が全てを思い出したら、あなた方の管轄になりますが…。
はい…、了解。
隣の部屋から、キーボード音とともに昴さんの声が聞こえてくる。
人を、マモル…?
あなた方の、カンカツ…?
あなたは一体、何者?
何だか怪しげな電話だったけど、
この人は…
たぶん、
大丈夫だと思う。