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一万六千
作者: 全州明  (総ページ数: 10ページ)
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『僕が神に願うころ』  801452378  2015年


 屋根の上に大きな十字架のついた教会の前に、一人の少年が立っていた。
 少年が扉をノックすると、中からシスターと思われる女性が出てきた。
「この教会に何かご用ですか?」
「はい」
 少年は姿勢を正し、シスターの目を真っすぐ見て言った。
「どうしても、頼みたいことがあって」
「頼みたいこと、ですか?」
 シスターは首をかしげた。
「はい。この、手紙に書かれていることを、僕の代わりに、神様に頼んでくれませんか?」
 シスターにしてみれば、とくに参拝客でもない彼は、間違いなく招かれざる客である。
 しかし、相手がまだ幼いということもあり、彼女はあまりきっぱりと断れないでいた。
「・・・・仕方ありませんね。まぁ構いませんよ。お入りください」
 結局シスターは断り切れず、少年を中に入れることにした。
 しかし少年は、それを拒否し、あくまでシスターに願ってほしいと言った。
 僕ではだめなんです、と。そして、こう続けた。
「だって僕は、キリスト教徒じゃないから」
 その言葉を聞いて、シスターは納得した。
 彼は、ここがどういう場所なのか、良く知らないのだ、と。
「大丈夫ですよ」
「例えあなたが何教だったとしても、イエス様はきっと、聞き届けてくれますから」
「いいえ、あなたでないと、どうしてもダメなんです。だから・・・・お願いします」
 だがやはり、少年はどうしてもシスターに願ってほしいらしかった。
 そして彼女に、深々と頭を下げた。
「・・・・そうですか、まぁ、そこまで言うなら―――」
 シスターは彼の熱意に負け、結局彼の言う通りにすることにした。
「ありがとうございます」
 少年は、もう一度、深々と頭を下げた。
「それではイエス様に、祈りを捧げてきます。ここで待っていて下さい」
 そう言って、シスターは、扉を閉めた。
 そして、赤いじゅうたんに沿って歩き、中心部の、大きな十字架へと向かった。
 そして膝をつき、胸の前で十字を描いてから、少年に渡された紙を広げ、読み上げた。

「――神様、僕にチャンスをくれて、ありがとうございます。
 おかげで、たくさんの事を学び、たくさんの事を知り、たくさんの人に生れました。
 とてもいい経験になりました。
 でも、もう僕には、必要ありません。
 僕はもう、数えきれないくらい死にました。 
 僕はもう、数えきれないくらいの人を殺しました。
 僕はもう、十分すぎるくらい生き延びました。
 だから、僕にはもう、チャンスはいりません。
 もう僕に、次はいりません。
 だから、もし本当に、あなたが神様ならば、
 そんな僕からの、最初で最後の願いを、どうか、聞いてください。

 もしも願いが叶うなら、僕の願いが届くなら、どうか僕に、永遠の―――


『――――結末をください』

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